大判例

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京都地方裁判所 昭和26年(ワ)1155号 判決

原告 福原達朗

被告 永田政芳

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は「被告は原告に対し別紙目録〈省略〉記載の物件を明渡せ」との判決を求め、その請求の原因として、別紙目録記載の物件(以下本件物件と言う)は原告が訴外永田タネから賃借した建物の一部であつて原告は昭和二十年十二月頃から右建物においてすき焼その他の飲食業を営んでいたが、昭和二十二年七月政令により料理飲食業が禁止されたため昭和二十四年一月右建物のうち本件物件を右営業禁止期間中に限り無償で被告に貸与した。ところが右政令に基く料理飲食業の禁止は昭和二十四年六月三十日解除となつて前記期限が到来した。もし仮りに右使用貸借契約が期限の定めのないものであつたとしても、右契約においては使用収益の目的が定められていないから原告は本訴において右契約解除の意思表示をした。よつて原告は被告に対し本件物件の明渡を求めるため本訴請求に及んだ次第である、と述べた。〈立証省略〉

被告訴訟代理人は主文第一項と同旨の判決を求め、答弁として、原告主張の事実中、本件物件が原告において訴外永田タネから賃借した建物の一部であることは認めるがその余の事実は否認する。被告は原告から本件物件を借受けたことはない。即ち原告は昭和二十年十二月訴外永田タネから前記建物を賃借すると共に被告及び訴外竜田俊、同伊藤末次郎、同森田保蔵の四名と組合を組織し右組合において常盤会館なる名称ですき焼その他の飲食業等を経営していたのであるが、右の内牛肉の販売は牛肉部において組合の一般会計と分離して特別会計で行うこととし、前記竜田俊がその部長被告がその副部長として経営していたところ右牛肉部は昭和二十三年末の決算で約二十万円の欠損を生じていることが判明したため、前記五名が協議の上組合は牛肉部を廃止し、被告が右損失を引受け且昭和二十四年一月一日から被告個人でこれを行うこととし、爾後被告は本件物件において牛肉販売業を営んでいる。従つて本件物件は被告が前記組合から無償で且期限の定めなく借受けたものであつて原告から借受けたものではない。しかも原告は前記永田タネに対し賃料を支払わないので原告と右永田タネ間の賃貸借契約は昭和二十六年七月八日解除によつて終了し、右永田タネから原告に対する建物明渡請求訴訟は京都地方裁判所昭和二十六年(ワ)第二三九号事件として同裁判所に係属中であつて原告は本件物件について何らの権限をも有しないからこれに対して賃借権を有することを前提とする原告の請求は失当である、と述べた。〈立証省略〉

理由

本件物件が原告において訴外永田タネから賃借した建物の一部であることは当事者間に争がない。

原告は被告に対し右物件を無償で貸与したと主張するところ、被告はこれを否認し、原、被告及び訴外伊藤末次郎同森田保蔵、同竜田俊等によつて結成された組合からこれを借りたものであると主張するので先づこの点について検討しよう。

成立に争のない甲第十八号証、乙第六乃至第八号証、同第九号証の一、二を綜合すると原告は昭和二十年十二月より本件物件を含む京都市上京区千本通元誓願寺上る南辻町同松屋町所在の建物を訴外永田タネからその養子である被告を通じて賃借し、同月初頃から被告及び訴外伊藤末次郎と共同で右建物において「常盤会館」なる名称ですき焼その他の飲食業を営みその後同月末頃訴外森田保蔵が昭和二十一年一月頃訴外竜田俊がそれぞれ右共同経営に参加したこと右共同経営においては前記すき焼等の飲食業の外に牛肉販売部を設け、右竜田がその責任者として前記建物の近隣で牛肉の販売を行つていたが、昭和二十二年七月政令により料理飲食業が禁止され前記すき焼その他の飲食業の継続が不能となつて他に収益の途を開拓する必要があり、又当時近隣に他の牛肉販売店が新設されて売行が悪くなつたため本件物件において従前より規模を大きくして牛肉販売を行うこととし被告と前記竜田が主としてこれに当つていたこと、ところが昭和二十三年末の決算において右牛肉部には約二十万円の赤字が生じていることが判明したため原、被告及び前記訴外人三名が協議の上被告において右損失を引受け且昭和二十四年一月一日から被告個人で本件物件において右牛肉販売を行うことになつたこと、その後被告及び前記訴外人等は漸次右共同経営から手を引き現に原告は前記建物中本件物件以外の部分においてすき焼その他の飲食業を営み被告は本件物件において牛肉販売業を営んでいることがいずれも認められる。しかしながら原告が右共同経営に対し前記建物の賃借権を出資又は譲渡したものと認めるに足る証拠なく、又成立に争のない甲第一乃至第四号証、同第六乃至第八号証と前顕乙第七号証とから考えると右共同経営は民法上の組合ではなくむしろ原告を営業者とする匿名組合の性質を有するものと解するを相当とすべく本件物件を含む前示建物の賃借権者は依然として原告個人であるものと考えられるから右事実と前記認定の事実とを併せ考えると被告は原告から右本件物件を無償で借受けたものと解するのが相当である。

ところで原告は被告に対し本件物件を前記営業禁止期間中を限つて貸与したと主張し、前記認定の事実からすれば本件物件において被告及び前記竜田が牛肉販売を行うようになつたのは料理飲食業が禁止せられたことが、その理由の一となつていたものと考えられるが、だからと言つて右牛肉販売部を前示共同経営からはづし被告が調人で本件物件において牛肉販売を営むようになつた際、その貸借期間を右営業禁止期間中に限る旨の明示又は黙示の合意がなされたものと認めるに足る証拠はないから、右使用貸借契約には期限の定めがなかつたものと解せざるを得ない。

しかして原告は更に右使用貸借契約には使用収益の目的が定められていない旨主張するけれども、前記認定の事実に徴すれば被告は牛肉販売業を営むことを目的として本件物件を借受けたものであること極めて明白である。

して見ると被告が現に本件物件において牛肉販売業を継続していること前記のとおりであるから右契約に定められた使用収益の目的が終了したとは言えず又使用収益をなすに足るべき期間を経過したものと認めることも困難であつて原告は被告に対しその返還を請求し得べきものではない。

尤も使用貸借において期間の定めがなく、しかも定められた使用収益の目的が長期間継続すべき性質のものである時は借主が現に右目的に従い使用収益を継続している限り民法第五百九十七条によつても貸主はいつまでも返還の請求をなし得ないこととなつて著しく不公平な結果を招来するから当事者双方の事情を考慮した上貸主側に解約権を認めるべき場合があるものと解するを相当とする。しかしながら原告と前記永田タネ間の賃貸借契約は有効に解除され原告は右永田タネに対しその賃借建物全部を返還すべきものと考えられること当裁判所が被告主張の昭和二十六年(ワ)第二三九号事件を審理した結果明かなところである。ただ原告は右の結果本件物件に対する賃借権を有しないこととなつても右永田タネにこれを返還する必要上、被告からその返還を求める必要があり又被告の抗争にも拘らず使用貸借の終了に基き返還を請求することは何ら差支えないものと謂うべきであるけれども、特に本件においては前顕乙第七号証によれば被告は前記永田タネの養子として前記建物の使用に関する一切の権限を委ねられていた関係上、右建物を原告に賃貸するに当つてもその舅に当る前記伊藤末次郎と共に右永田タネの代理人としてその交渉から契約締結に至るまでのすべての行為をしたことが認められ、右事実と本件弁論の全趣旨とを綜合すると右建物が永田タネに返還されれば、事実上被告が右建物を使用する関係にあることが推認せられるから右のような事情から考えると原告には被告から本件物件の返還を受ける必要があるものとは認められない。

よつて原告の本訴請求はこれを失当として棄却すべく、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八十九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 岡垣久晃 鈴木辰行 大西勝也)

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