大判例

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京都地方裁判所 昭和32年(そ)2号 決定

主文

請求人山田治男に刑事補償法に基く補償金四八、四六七円を交付する。

理由

第一、請求の理由

本件刑事補償請求代理人の請求理由の要旨は、請求人山田治男は同人に対する傷害致死被告事件につき京都地方裁判所において昭和三一年一二月二七日無罪の裁判を受けたが同人は右事件につき昭和三〇年四月一一日逮捕され、同年一二月二三日迄引続き二五七日間抑留勾禁されたから、その間一日四〇〇円の割合による刑事補償として合計一〇二、八〇〇円を請求すると言うのである。

第二、当裁判所の判断

一、請求人山田治男に対する暴力行為等処罰に関する法律違反、傷害致死、窃盗被告事件記録(当庁昭和三〇年(わ)六〇三号)を調査すると次の事実を認めることが出来る。即ち請求人は昭和三〇年四月一一日西陣警察署員により請求人が「他三名と共謀して昭和三〇年四月一〇日午後一〇時三〇分頃京都市上京区七本松通仁和寺街道西入路上に於て木下治に対し些細なことから因縁を吹きかけ手拳等で殴打暴行を加えた上、鋭利な刃物で腰部臀部等を数ヶ所突刺し以て殺害した」殺人事件の被疑者として緊急逮捕せられ同日より西陣警察署に抑留され、それに基き同月一三日請求人が「他三名と共謀して昭和三〇年四月一〇日午後一〇時三〇分頃京都市上京区七本松通仁和寺街道下東入四番町貸席ふるさと前路上において木下治に対し些細なことから因縁を吹きかけ手拳等をもつて殴打暴行を加え更に逃げようとする同人を追跡し仁和寺街道七本松西入付近において鋭利な刃物で同人の臀部二ヶ所を突刺し、臀部刺創腸管刺創などの傷害を与え、因つて同人をして同日午後一一時四五分頃京都第二日赤病院で死亡するに至らしめた」傷害致死事件の被疑者として勾留せられ、引続き西陣警察署に勾禁され同月二八日観護措置決定を受けて京都少年鑑別所に勾禁せられ、同年五月二五日刑事処分相当として検察官に送致せられて京都拘置所に移され、同年六月三日京都地方裁判所に、請求人が(一)「一他三名と共謀の上昭和三〇年四月一〇日午後一〇時三〇分頃京都市上京区七本松通仁和寺街道下る東入四番町貸席ふるさと前路上に於て木下治他三名と衝突したことから喧嘩となり夫々手拳等を以て同人等を殴打して暴行を加え」た暴力行為等処罰に関する法律違反の罪(二)「更に逃げようとする同人等を追跡し仁和寺街道七本松西入付近に於て鋭利な刃物を以て同人の臀部二ヶ所を刺し臀部刺創、腸管刺創等の傷害を与え因つて同人をして同日午後一一時四五分頃、同市上京区京都第二日赤病院において死亡するに至らしめた」傷害致死罪及び(三)窃盗罪以上三個の併合罪の嫌疑により、起訴せられ、その審理中同年一二月二三日保釈を許され釈放せられた。その後翌昭和三一年一二月二七日判決裁判所は審理の結果前記(一)及び(三)の罪につき有罪の判決を言渡し、(二)の罪については犯罪の証明がないが有罪と認めた(一)の罪と単純一罪の関係にあると認め主文で無罪の言渡しをせずに理由中その旨判示し、右判決は昭和三二年一月一一日確定した。

二、まず(二)の傷害致死の罪について刑事補償法第一条に言う無罪の裁判があつたかどうかの点につき判断するに、旧刑事補償法(昭和六年法律第六〇号)は刑事補償の要件として同法一条に刑事訴訟法による通常手続又は再審若くは非常上告の手続に於て無罪の言渡を受けた者が未決勾留を受けた場合にその者に対し勾留による補償をなす旨規定していたのに対し、日本国憲法第四〇条は何人も抑留又は勾禁された後無罪の裁判を受けたときは法律の定めるところにより国にその補償を求めることが出来ると規定し、これを受けて現行刑事補償法(昭和二五年法律第一号)第一条には刑事訴訟法による通常手続又は再審若しくは非常上告の手続において無罪の裁判を受けた者が同法少年法又は経済調査庁法によつて未決の抑留又は拘禁を受けた場合には、その者は国に対して抑留又は拘禁による補償を請求することが出来る旨規定しているのに徴し、その無罪の裁判と言うのは旧法の無罪の言渡よりも広く裁判所が主文において無罪の言渡をする場合の外本件のように主文において無罪の言渡をしないが、判決の理由中において無罪である旨の判断を示す場合をも含むものと解しなければならない。それ故請求人は傷害致死の点については刑事補償法第一条の無罪の裁判があつたものとして刑事補償を請求することができる。

三、次に本件において請求人は傷害致死について無罪の裁判をうけたが他の部分、即ち暴力行為等処罰に関する法律違反の罪及び窃盗罪については有罪の裁判を受けているから裁判所は同法第三条第二号により補償の一部又は全部をしないことが出来るのであるので、この点について審案するに、請求人に対する逮捕後鑑別終了迄の拘束は、傷害致死の事実を除外しても、同人の経歴等よりみて、保護処分の前提としての調査のためにも必要がなかつたとは言えないから、右期間については後示の一日の補償額の三分の二を支給し、検察官送致後の拘束は、実質的に専ら傷害致死被疑事実の捜査及び審理のためにのみされていたものと認められるので全額の補償をするのが相当である。その他同法第二条第一項、第五条に掲げる除外事由は存在しない。

四、補償金額については同法第四条第一項第二項により請求人が抑留勾禁中少年であつて逮捕当時未だ生業についていなかつた事実その他諸般の事情を考慮して、拘束一日につき二〇〇円の割合で補償するのを相当と認め、前記昭和三〇年四月一一日以降検察官送致決定の日の前日である同年五月二四日迄の期間については一日二〇〇円の三分の二の割合による五、八六七円(円未満四捨五入)を、同月二五日以降同年一二月二三日迄の期間については一日二〇〇円の割合による四二、六〇〇円を、合計四八、四六七円を支給することとする。

(裁判長裁判官 小田春雄 裁判官 藤原啓一郎 尾中俊彦)

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