大判例

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京都地方裁判所 昭和32年(わ)680号 判決

被告人 奥田佐一郎

大五・五・一〇生 景品買

三宅芳一

明四〇・三・二八生 景品買

杉原文雄

昭六・三・一三生 土工

主文

被告人三宅芳一を懲役四月に、被告人杉原文雄を罰金八、〇〇〇円に処する。

被告人三宅芳一に対して本裁判確定の日から二年間右刑の執行を猶予する。

被告人杉原文雄が右罰金を完納しないときは金二〇〇円を一日に換算した期間同被告人を労役場に留置する。訴訟費用中、証人姜分順、同陳洪烈(但し第六回、第一〇回及び第二〇回公判期日の分)、同崔永玉(但し第六回、第九回及び第二〇回公判期日の分)、同金子京泰、同村井孝子(但し第九回及び第二一回公判期日の分)、同林田功、同中江春次、同木村健三、同横道三郎、同灰方義蔵に支給した分は被告人三宅芳一の単独負担、証人崔[王景]必、同朴敬順、同崔永換、同大島ヨシエ、同西村哲男(但し第六回及び第一〇回公判期日の分)に支給した分は被告人三宅芳一、同杉原文雄の連帯負担とする。

被告人奥田佐一郎は無罪。

理由

(罪となるべき事実)

被告人三宅芳一は、買子拾数人を使用してパチンコ店の景品買を営んでいるもの、被告人杉原文雄は、同被告人と眤懇の間柄にあるものであるが、かねて被告人三宅がその得意先である高山正一こと崔永五の経営にかかる「ニューキヨート」パチンコ店の支配人鳥山哲こと姜声大から、同被告人の納入する景品代金の値下げをしつように要求されたことがあつたのみならず、その後右景品代金中一部不払を生ずる等のことがあつたので、右は姜声大等が被告人三宅の同店における景品買を止めさせようとして嫌やがらせをしているものと推断し、同人等に含むところがあり、一時被告人三宅の方で同店での景品買を停止したところ、これに対抗して同人等の側で直接顧客から景品買をするに至つたので、これを聞知して憤慨し

第一、被告人三宅芳一、同杉原文雄は、外数名と共謀の上、昭和三二年二月四日午後四時頃京都市北区小山上総町五四番地所在「ニユーキヨート」パチンコ店東隣りにある前記崔永五経営のお好み焼屋「白菊」の店舗内に故なく侵入し、同店調理人北川一郎(当二一年)に対し、「誰に覧まれて景品を買つたのか、今度景品を買つたら叩きのめすぞ」等と口々に怒号し、同人の所持していた札束をひつたくつて投げつけ、同人のネクタイを引張る等の暴行を加え、更に「人に言つたら承知せんぞ」等と申し向け、数人共同して暴行脅迫をし

第二、被告人三宅芳一は、外数名と共謀の上、同日午後八時頃同市上京区千本中立売下る亀屋町五五番地「ニューキヨート」パチンコ店内の管理人大原年男こと陳洪烈(当二六年)の居宅内に故なく侵入し、同人及び同人の妻崔永玉(当二三年)に対し、「よう買うたな承知せん、表に出よ、人の一人や二人殺す位なんともない」等と口々に怒号し、更に数人で右陳洪烈の上衣の衿やズボンを掴み、同人を居宅から引きずり出そうとする等、数人共同して暴行脅迫をし

第三、被告人三宅芳一、同杉原文雄は、外数名と共謀の上、同日午後八時過頃同市北区小山上総町五四番地所在の「ニューキヨート」パチンコ店東裏隣りに居住する崔永五の実父崔[王景]必方居宅内に故なく侵入し、「鳥山出て来い」と怒号しながら、同家台所において食事中の鳥山こと姜声大(当三〇年)が持つていた茶碗を叩き落し、同人の胸倉を取り頭髪を引張り、これを制止しようとした右崔[王景]必(当五九年)及び同人の妻朴敬順(当五四年)に対し夫々その足等を蹴上げる等数人共同して暴行を加え、右暴行により崔[王景]必に対し治療二週間を要する左下腿、両大腿部打撲傷、朴敬順に対し治療約二週間を要する右下腿、胸部打撲傷を負わせ

たものである。

(証拠の標目)(略)

(法令の適用)

被告人三宅芳一の判示第一、第二の所為中、住居侵入の点は各刑法第一三〇条第六〇条罰金等臨時措置法第二条第三条第一項第一号に、数人共同して暴行脅迫をした点は各暴力行為等処罰に関する法律第一条第一項刑法第二〇八条第二二二条第一項第六〇条罰金等臨時措置法第二条第三条第一項第二号に、判示第三の所為中、住居侵入の点は刑法第一三〇条第六〇条罰金等臨時措置法第二条第三条第一項第一号に、数人共同して暴行した点は暴力行為等処罰に関する法律第一条第一項刑法第二〇八条第六〇条罰金等臨時措置法第二条第三条第一項第二号に、傷害の点は刑法第二〇四条第六〇条罰金等臨時措置法第二条第三条第一項第一号に当り、右判示第二の暴力行為等処罰に関する法律違反の所為、同第三の暴力行為等処罰に関する法律違反及び傷害の所為はいずれも一個の行為で数個の罪名に触れ、判示第一乃至第三の各住居侵入の所為と暴力行為等処罰に関する法律違反又は傷害の所為とは夫々順次手段結果の関係にあるから、刑法第五四条第一項前段後段第一〇条を適用し、結局判示第一については犯情において重いと認める暴力行為等処罰に関する法律違反の罪、判示第二については犯情において重いと認める陳洪烈に対する暴力行為等処罰に関する法律違反の罪、判示第三については犯情において重いと認める崔[王景]必に対する傷害の罪の各刑に従い、いずれも所定刑中懲役刑を選択し、以上は刑法第四五条前段の併合罪であるから、同法第四七条本文第一〇条により最も重い傷害罪の刑に法定の加重をし、その刑期の範囲内において同被告人を懲役四月に処し、被告人杉原文雄の判示第一の所為中、住居侵入の点は刑法第一三〇条第六〇条罰金等臨時措置法第二条第三条第一項第一号に、数人共同して暴行脅迫した点は暴力行為等処罰に関する法律第一条第一項刑法第二〇八条第二二二条第一項第六〇条罰金等臨時措置法第二条第三条第一項第二号に、判示第三の所為中、住居侵入の点は刑法第一三〇条第六〇条罰金等臨時措置法第二条第三条第一項第一号に、数人共同して暴行した点は暴力行為等処罰に関する法律第一条第一項刑法第二〇八条第六〇条罰金等臨時措置法第二条第三条第一項第二号に、傷害の点は刑法第二〇四条第六〇条罰金等臨時措置法第二条第三条第一項第一号に当り、右判示第三の暴力行為等処罰に関する法律違反及び傷害の所為は一個の行為で数個の罪名に触れ、判示第一及び第三の各住居侵入の所為と暴力行為等処罰に関する法律違反又は傷害の所為とは夫々順次手段結果の関係にあるから、刑法第五四条第一項前段後段第一〇条を適用し、結局判示第一については犯情において重いと認める暴力行為等処罰に関する法律違反の罪、判示第三については犯情において重いと認める崔[王景]必に対する傷害の罪の各刑に従い、いずれも所定刑中罰金刑を選択し、以上は刑法第四五条前段の併合罪であるから、同法第四八条第二項により各罪の罰金額を合算した金額の範囲内において同被告人を罰金八、〇〇〇円に処し、

尚被告人三宅芳一に対しては犯情その他諸般の状況に鑑み刑の執行を猶予するのを相当と認め、刑法第二五条第一項を適用して本裁判確定の日から二年間右刑の執行を猶予し被告人杉原文雄が右罰金を完納しないときは同法第一八条により金二〇〇円を一日に換算した期間同被告人を労役場に留置し、訴訟費用は、刑事訴訟法第一八一条第一項本文第一八二条に従い主文第四項掲記のとおり被告人両名に負担させるべきものである。

(被告人奥田に対する無罪理由)

本件公訴事実中、被告人奥田佐一郎が被告人三宅芳一等と共謀の上、これと共同して判示第一乃至第三の犯行に及んだという点は、被告人奥田において検挙以来終始否認するところであり、証人姜声大、同崔永五、同北川一郎同川井洋子、同陳洪烈、同崔永玉等は、いずれも当公判廷において尋問を受け、夫々右各犯行当時その各現場に被告人奥田が居たかどうか記憶がない旨又は被告人奥田は居なかつたように思う旨供述している。もつとも右証人等の検察官に対する各供述調書によると、いずれも犯行当時被告人奥田も現場に来ていた旨述べ、右公判廷における供述と相違しているけれども、右各証人等が当公廷において、被告人三宅、同杉原については同人等が夫々犯行現場に来ていたこと及びその行動のかなり具体的に亘る事実を供述しているのに反し、被告人奥田についてのみこれを否定する供述をしているところからみると、右証人等が被告人等の面前において、被告人奥田のみを怖れて真実を供述し得なかつたものとは到底考えられないし、又右証人等がいずれも殆んど同様の供述をしている所から考えると、単に日時の経過により記憶を失つたものとも断じ得ないのである。むしろ捜査官の取調の際には、右証人等の内一部の者が、従来被告人奥田がパチンコの景品買に関係があり、平素被告人三宅と行動を共にしていたところから、犯行当時被告人三宅を含む数名の中に被告人奥田も居たものと錯覚して供述し、他の証人等も取調官に迎合し、これに同調して、明確な記憶がないのにこれと同様の供述をするに至つたものと考えられるふしがあり、陳洪烈、崔永玉に対する裁判官の証人尋問調書を見ても、被告人奥田が居たというだけで、その点の供述に具体性がないところから、その各供述が必ずしも明確な記憶に基いたものではないことが判るのであつて、その真実性に疑いを容れる余地が多分にあり、これらの証拠により未だ被告人奥田が右各犯行に加わつたものと断定するに足らないのである。尚証人西村哲男、同中江春次は当公廷において、本件犯行前後に被告人奥田が被告人三宅等と共に犯行現場附近にいた旨供述しているけれども、その供述自体必ずしも明確なものではなく、且つ同証人等の被告人奥田に対する従前の認識程度等からみて、右各供述も亦根拠極めて薄弱であつて容易に措信し得ないのである。却つて証人崔永五の当公廷における供述等によると、判示第三の犯行直後これに引続いて被告人三宅が二、三名の者と共に事件の話合をつけるため、「ニユーキヨート」の経営者である崔永五方に行き、同人と話合い一応円満解決して別れた事実が認められるのであつて、本来被告人奥田は被告人三宅の景品買の会計を担当し、責任者たる地位にもあつたのであるから、若し被告人奥田が右各犯行に加わつていたものとすれば、当然三宅と行を共にし、話合のため崔永五方に赴いている筈であるのに、右話合の際三宅と同行した者の中に被告人奥田が居なかつたことは右証人の供述等により明かであるところから考えると、むしろ被告人奥田が右犯行に加わつていなかつたことを推認することができるのである。その他本件の証拠を仔細に検討してみても、被告人奥田が本件犯行に加わつたものとは到底認められないし、又別に被告人三宅等と右犯行を共謀したという証拠も見当らない。結局同被告人については犯罪の証明がないことに帰するから、刑事訴訟法第三三六条に従い無罪の言渡をすべきものである。

よつて主文のとおり判決する。

(裁判官 井上清一郎)

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