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京都地方裁判所 昭和32年(行)24号 判決

原告 奥村寅吉

被告 東山税務署長

訴訟代理人 藤井俊彦 外三名

主文

原告の租税債務不存在確認の訴を却下する。

原告その余の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は、「原告の昭和二四年度所得税二〇〇、八二〇円の租税債務の存在しないことを確認する。被告が昭和三二年二月一日原告名義京都下局九四七四番電話加入権に対してなした差押処分を取消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、毛の請求の原因として、被告は原告に対する昭和二四年度所得税二〇〇、八二〇円を徴収するため昭和三二年二月一三日原告名義京都下局九四七四番電話加入権に対し差押処分をした。そこで原告はこれを不服として同年三月四日被告に対し再調査の請求をしたが同年六月三日付で棄却されたので、同月二八日訴外大阪国税局長に対し審査の請求をしたが同年一〇月三〇日付で棄却された。

しかしながら右所得税については昭和二四年に納税告知がなされたのみで、その後今日に至るまで何ら督促手続がなされていないので、右所得税債務は既に五年間の時効期間の経過とともに消減した。仮に然らずとするも右所得税につき被告は昭和二八年一〇月一八日滞納処分の執行停止処分をしたから、右所得税債務は右執行停止処分のあつた日から三箇年を経過したときにおいて消滅した。よつて右所得税債務不存在の確認と右違法の差押処分の取消を求めるため本訴に及んだと述べ、

被告の坑弁に対し、被告主張の時効中断に関する事実はすべて争う。被告は差押のため捜索したと主張するが捜索は差押の前提行為であつて差押自体ではない。又本件所得税債務については原告に資力がないため原被告間で種々折衝がなされ昭和二五年頃訴外株式会社奥村寅商店から金五〇、〇〇〇円を代納し解決済であつた点よりしても右捜索は徴収を目的とするものではなかつたのである。執行停止の取消処分のあつたことも争うと述べ、

被告指定代理人は、主文同旨の判決を求め、答弁として、本訴請求中所得税債務不存在確認を求める部分は租税債務者である納税義務者と租税債権者である国との間の法律関係として民事訴訟の例により本来国を被告とすべきものであるから不適法として卸下を免れない。爾余の請求については原告主張の請求原因事実中被告が原告に対する昭和二四年度分所得税金二〇〇、八二〇円及びこれに対する法律の規定による利子税額並びに延滞加算税額徴収のため原告主張の日に同主張の電話加入権の差押をしたこと、原告がこれを不服としてその主張のとおり再調査及び審査の各請求をしたがいずれも棄却されたこと、被告が原告主張の日に同主張の滞納処分の執行停止処分をしたことは、いずれも認めるが、その余はすべて争うと述べ、

坑弁として、本件所得税債権の消滅時効は以下の事由により中断し未だ完成していない。すなわち本件所得税につき被告は原告に対し次のとおり各国税徴収法所定の督促を普通郵便で発送し、それぞれその頃原告に到達したので、右各督促による時効中断事由は各指定期限まで継続した。

(納期区分)(督促状発送年月日)    (指定期限)

第一期  昭和二四年 九月 二日 昭和二四年 九月一〇日

第二期  同 二四年一二月 八日 同 二四年一二月一五日

第三期  同 二五年 二月一八日 同 二五年 二月二五日

随時分  同 二五年 三月二三日 同 二五年 三月三〇日

次いで昭和二八年九月二六日被告は原告方住居において滞納処分を執行すべく差押財産を捜索したが差押えるべき物がないため執行不能となつたが、収税官吏が差押財産を捜索したときは既に差押手続は開始せられたものというべく、たとえ差押物件がないため執行不能に終つたとしても差押手続の開始せられた以上時効中断の効力を生ずるものと解すべく、右差押手続の開始により、その時まで進行していた時効は中断された。尚原告主張の滞納処分執行停止処分については三箇年以内の昭和三一年一〇月五日その取消処分がなされたから原告の本件税金納付義務は消滅していないと述べ、右坑弁に対する原告の主張を否認し、原告の昭和二四年度所得税については昭和二五年中二回にわたり金一〇、〇〇〇円と金五〇、〇〇〇円計金六〇、〇〇〇円が納入されており、原告主張の訴外株式会社奥村寅商店代納の金五〇、〇〇〇円とは右の金五〇、〇〇〇円の納入を指すものと思われるが、これは昭和二四年度所得税のうちの一部分を納付したものであつて、右一部納付によつて爾余の本件所得税が全部解決したものではないと述べ、

立証〈省略〉

理由

先ず本件のうち租税債務の不存在確認を求める部分の適否について判断するに、右租税債務不存在確認の訴は公法上の権利関係に関するいわゆる当事者訴訟に外ならないから、その相手方は権利の帰属主体である国であつて、権利帰属主体でない被告は当事者としての適格を欠くものといわなければならないから右訴は不適法として却下すべきものである。

そこで次に本訴中電話加入権差押処分の取消を求める部分の請求の当否について判断する。

被告が昭和三二年二月一三日原告の昭和二四年度所得税二〇〇、八二〇円の滞納処分として原告名義の京都下局九四七四番電話加入権に対し差押処分をしたこと、右所得税については先に昭和二八年一〇月一八日滞納処分の執行停止処分がなされていたこと、原告主張の各日時に同主張の再調査請求及び審査請求並びに右各請求に対する各棄却決定のそれぞれなされたことは、いずれも当事者間に争がない。

そこで先ず本件租税債務が時効により消滅したか否かについて考えてみるに、原告の記名押印部分以外の部分については成立に争がなく、原告の記名押印部分については証人中村精一郎の証言により真正に成立したものと認められる乙第一号証、成立に争のない乙第二乃至第四号証に証人中村精一郎、高橋光一の各証言を綜合すると、原告の昭和二四年度所得税第一期分五九、一〇〇円、第二期分五八、〇〇〇円、第三期分五八、〇〇〇円、随時分(加算税八、六〇〇円、追徴税五〇、〇〇〇円を含む)二五八、六〇〇円合計四三三、七〇〇円について当初告知された各指定納期日までに納付がなかつたので被告は第一期分につき昭和二四年九月二日、指定期限を同月一〇日として、第二期分につき同年一二月八日、指定期限を同月一五日として、第三期分につき昭和二五年二月一八日、指定期限を同月二五日として、随時分につき同年三月二三日、指定期限を同月三〇日として、それぞれ原告に対し肩書住所に宛て普通郵便で督促状を発送したこと、その後原告において右第一期分に対し六〇、〇〇〇円納付し過納の九〇〇円は第二期分に繰入れられ第二期分は五七、一〇〇円となり、右第二期分と第三期分五八、〇〇〇円と加算税五、一六〇円減額により二五三、四四〇円となつた随時分の合計三六八、五四〇円に対し、一六七、七二〇円の誤謬訂正減額があつたため本件所得税二〇〇、八二〇円となつたが、右本件所得税はその納付のないまま昭和二八年度まで繰越されていたこと及び昭和二八年九月二六日東山税務署徴収係大蔵事務官中村精一郎において原告肩書住居に赴き原告及び応接に出た養子奥村寿貞に対し右本件所得税の納付を促したがこれに応じないため、滞納処分として原告所有の財産を差押えるべく適当な差押財産の有無を質問すると共に一応屋内を見廻したが目星しい差押物件が存在しなかつたので捜索調書を作成して引揚げたことを認めることができ、前示各督促状は反証なき限り各発送の頃原告に到達したものと推定しなければならない。原告本人の供述中叙上の認定に反する部分は措僧し難く、外に右認定を覆えすに足る証拠はない。

しかして叙上認定の事実によると被告は五年の時効完成前である昭和二八年九月二六日本件租税の滞納処分として原告の財産に対し差押に着手したものと認めるのが相当であるから、たとえ差押うべき物件がなく執行不能に終つたとしてもこれにより時効中断の効力を生じたものと解すべく右認定に反する原告の見解は採用し難い。そうすると本件電話加入権差押当時本件租税債務がまだ時効によつて消滅していなかつたこと明白であるから原告の第一次の主張は理由がない。

そこで次に本件租税納付義務が前示滞納処分執行停止後三箇年を経過したときにおいて消滅したとなす原告の主張について考えてみるに滞納処分執行停止中の租税債権がその取消処分のない限り執行停止により三箇年間の経過によつて消滅することは国税徴収法第一二条第五項によつて明らかであるけれども、公文書であることについて争がなく真正に成立したもめと認められる乙第五、六号証に証人竹内丈夫、宮地幸雄の各証言を綜合すると被告は右執行停止処分のあつた後三箇年以内である昭和三一年一〇月五日原告に執行停止の事由が存しなくなつたものと認め右執行停止の取消処分をなしその頃その旨原告に通知したことを認めることができ原告本人の供述中右の如き通知を受けたことはないとなす部分は措信し難いから右原告の主張も亦理由がないものといわなければならない。よつて本件租税債務が消滅したことを理由として本件電話加入権差押処分の取消を求める原告の本訴請求は失当としてこれを棄却すべきものとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 岡垣久晃 嘉根博正 平田孝)

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