大判例

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京都地方裁判所 昭和42年(ワ)166号 判決

原告

山中修三

代理人

猪野愈

川村フク子

被告

北原喜久

代理人

表権七

被告

二宮征男

主文

一、被告等は原告に対し各自金五五万一九八八円及び之に対する昭和四一年三月二九日より、完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

二、原告のその余の請求を棄却する。

三、訴訟費用は被告等の負担とする。

四、この判決は第一項に限り、仮に執行することができる。

事実

第一、当事者の求める裁判

一、請求の趣旨

1被告等は連帯して原告に対し、金一七〇万四八八〇円及び之に対する昭和四一年三月二九日以降支払い済まで年五分の割合による金員を支払え。

2訴訟費用は被告等の負担とする。

との判決ならびに仮執行の宣言を求める。

二、請求の趣旨に対する答弁

(被告北原)

1原告の請求を棄却する。

2訴訟費用は原告の負担とする。

との判決並びに仮に原告の請求が認容された場合には仮執行免脱宣言を求める。

(被告二宮)

1原告の請求を棄却する。

2訴訟費用は原告の負担とする。

第二、当事者の主張

一、請求原因

1(事故の発生)

原告は次の交通事故の発生により傷害及び物損を受けた。

(イ)発生時 昭和四一年三月二八日午後一一時五〇分頃

(ロ)発生地 京都市下京区五条通壬生川西入付近路上

(ハ)加害車 普通乗用車(京五ぬ四四〇五号)

運転者 被告 二宮征男

(ニ)被害者 原告 山中修三(自動車運転中)

(ホ)態様 被告二宮が前記自動車を運転東進中、信号待ちのため停止中の原告の自動車に追突

(ヘ)受けた傷害の内容

左下腿擦過傷、右足背打撲傷、後頭部打撲傷、頸椎損傷(むちうち症)の後遺症である頭痛及び左半身軽度麻痺

(ト)受けた物損の内容

自動車後部破損

2(責任原因)

(イ) 被告二宮の過失

前記自動車を酒気を帯びて運転し五条通を東進中、前方注視をおこたり、折からの赤信号のため交差点横断歩道の手前で停止していた原告車を直前になつて初めて発見し、ハンドルをきつたが間にあわず追突した。

(ロ)被告北原の地位

(a)被告北原は旅館業を営むものであり、被告二宮はその使用人として雇われていたものであるが、本件事故は二宮が北原の右業務の執行として前記自動車を運転中惹起したものであるから、民法七一五条一項の責任がある。

(b)北原は加害車を所有し、自己のために運行の用に供していたものであるから、自動車損害賠償保障法(以下自賠法と略称す。)第三条の責任がある。

3(損害)

本件事故により生じた原告の損害は次のとおり合計金二一三万六八八〇円である。

(イ)治療関係費

(a)通院治療費 八万〇五三五円

(b)通院交通費 一万八三九五円

(c)コルセット代 三三五〇円

(d)診断書料 六〇〇円

(e)マッサージ代 六〇〇〇円

(ロ)得べかりし利益(休業による損失)

(a)株式会社ギオンモータース欠勤(自三月二八日至六月五日)

一五万円

(b)アルバイト富士観光(一〇ケ月)

二一万円

(c)アルバイト神田表具店(六ケ月)六万円

(ハ)物損

原告車の修理費 一〇万八〇〇〇円

(ニ)慰藉料 一五〇万円

4(損益相殺)

右損害のうち、被告より自動車修理費及慰藉料の内金として一三万二〇〇〇円、東京海上火災より仮渡金として三〇万円それぞれ支払をうけている。

5(結論)

よつて原告は被告に対し右損害のうち残金一七〇万四八八〇円及びこれに対する不法行為の日の翌日から完済に至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二、請求原因に対する認否

(被告北原)

1 第一項中(イ)乃至(ホ)は認め、その余は否認する。

2 第二項中被告北原が加害車の所有者である点のみ認め、その余は否認する。

3 第三項はすべて争う。

(被告二宮)

1 第一項中(イ)乃至(ホ)は認め、その余は不知。

2 第二項(イ)は否認する。

3 第三項は争う。

三、抗弁及び主張

(被告両名に共通して)

1 (過失相殺)

仮に本件事故につき被告二宮に過失があるとしても、原告にも次のような過失があり、賠償額算定にあたつてこれを斟酌すべきである。即ち、原告車は横断歩道を越え交差点内に入つてから赤信号の為急停車し、しかもその際ストップランプを点灯しなかつたということが、二宮をして原告車がそのまま横断進行するものと誤信せしめたのであり、そのため原告車の発見が遅れた理由であり、原告にも事故発生について過失がある外、更に原告が停止中にブレーキペダルをふんでいなかつたため、追突により24.7メートルもとばされ、その為に原告の頸部が後方へ過屈折及び反動による前方過伸展を起し、むちうち症の症状が重くなつたという傷害の程度についての過失もある。

(被告北原)

2 (請求原因第二項(ロ)の(b)に対して)

本件事故は、被告二宮が勤務時間外に、被告北原及び北原方支配人に無断で、私用の為に加害車を運転中惹起したものであるから使用者としての責任はなく又占有を奪われている間の事故について被告北原に運行の支配はなく従つて運行供用者たる地位を失つていたから、自賠法第三条の責任もない。

3 (請求原因第三項(ハ)に対して)

仮に本件事故にもとづく原告車の修理費が主張どおりのものであつたとしても、原告と被告二宮との間に右修理費について金四万円の損害賠償で解決する旨の示談が成立した。

四、抗弁及び主張に対する認否

すべて否認する。

第三、証拠〈省略〉

理由

一、(事故の発生と原告の受傷並原告車の損傷)

(イ)  請求原因第一項の(イ)ないし(ホ)の事実は当事者間に争いがない。

(ロ)  〈証拠〉によれば、原告は本件事故発生当時左下腿擦過傷、右足背打撲傷、後頭部打撲傷、鞭打ち症の各傷害を被つたこと、〈証拠〉によれば事故の翌日より同年一〇月二八日迄一〇八回通院加療し、同年六月以降は就労可能となつたが、自動車の運転は翌年頃から始めたこと、現在は通常の勤務(主として事務的な仕事)には堪えられることが認められる。

(ハ)〈証拠〉によれば、本件追突事故の発生により原告車の左後部が「中損」程度の破損を被つた事実が認められる。

二、(責任原因)

(イ)  (被告二宮の過失)

〈証拠〉によれば、事故現場は片側四車線の平坦、直線の完全舗装道路であるが、当時は夜間而も降雨中の事とて見透しは良好ではなかつた。被告二宮は、加害車を運転して本件事故現場である信号機の設置してある五条壬生川交差点に時速約五〇キロメートルの速度でさしかかつたが、このような場合、前方の信号及び前車の有無をよく確め信号の変化と前車の動向につき充分注視して何時にても停車し前車との衝突の危険を避ける注意義務があるのにこれを怠たり、同乗者と話しながら、漫然前記速度で進行した過失により、折からの赤信号により進路前方に停車中の原告運転の乗用車を前方約七メートルに至つて発見し、あわててハンドルを切つたが及ばず、同車後部に自車を衝突させたことが認められ、右認定をくつがえすに足りる証拠はない。右認定に反する被告二宮の供述部分は措信しない。依つて被告二宮に民法第七〇九条の責任のあることは明かである。

(ロ)  (被告北原の責任)

被告二宮本人と被告北原喜久の供述とを綜合すると、同人は本件事故当時、被告北原経営の旅館「青竜」に雑役のアルバイトとして勤務していたが、本件事故は勤務時間終了後に、二宮が同僚である谷口をその友人宅まで送る為に他の住込店員の小林及び島根を同乗させ、フロントに置いてあつた車のキーを持出して運転し、右谷口を送り届けての帰途に発生したものであつたこと。旅館「青竜」には八木という正規の運転手が居り、二宮の仕事は御膳運びとか蒲団敷き等がその主な内容であつたことが認められる。右認定に反する〈証拠〉は措信しない。右認定した事実によると、本件加害車の運転は被告二宮の職務の範囲ではなく、又本件事故が被告北原の旅館事業の執行中のものとは言えないから被告北原に使用者としての責任を負わせることは出来ない。

然し乍ら本件加害車が被告北原の所有であることについては争いなく、前記認定の事実より見れば被告二宮は、谷口をその友人宅へ送つた後は右旅館へ帰宅する意図であつたのであるから、本件加害車に対する被告北原の運行の支配を離脱していた間の出来事とは認められないから、この点に関する被告の主張は理由がない。従つて被告北原には自賠法第三条による運行供用者としての責任は免れない。

三、(過失相殺の抗弁について)

抗弁第一項について判断する。

(イ)  まず衝突地点について見るに〈証拠〉によれば、本件事故現場に原告車がさしかかる前に信号は赤になつていたので横断歩道の手前で停車したことが認められ、前記甲第五号証の実況見分調書は、横断歩道を超えた地点を衝突地点として記載しているが検尺の記載に矛盾があり信用出来ない。

(ロ)  次に、右停止の際に原告車のストップランプが点灯していたか否かについて判断するに、配線関係に故障のない限り、ヘッドランプが点いて居ればテールランプも点いているのが通常であり、原告本人の供述によれば原告車は、事故一〇日前に配線関係につき整備を終えたところであること、停止地点で前車が無かつたということであるから、ヘッドランプを減光又消灯する必要はなかつたこと等よりして少くともテールの赤ランプは点いていたことが窺われる。被告二宮は前記二の(イ)に認定した通り信号も良く見ていなかつたのであるから、前車のストップランプ(テールランプの赤色の光が増すだけのもの)の点灯(即ブレーキペダルを踏んでいたかどうか)の有無は本件事故と因果関係はない。又原告がブレーキペダルを踏んでいなかつたことが原告の症状を重くしたとの点については、何等立証が無いので認め難い。依つて被告の過失相殺に関する抗弁は何れも採用しない。

四、(損害)

(イ)  治療関係費

(a)通院治療費

〈証拠〉によれば四条大宮病院の治療費は七万九四〇〇円を要したことが認められる。又〈証拠〉によれば、原告は昭和四一年六月一三日と同年七月九日の二回にわたつて関西労災病院に通つたが、うち診療をうけたのは六月一三日のみであつて、七月九日は診断書受領の為通院したことが認められ、六月一三日の診療費は三、八三五円を要したことが認められる。以上を合計すると八万三二三五円となるが、原告主張の八万〇五三五円を限度として認める。

(b)通院交通費  〈証拠〉によれば、少くとも一万八三九五円を要したことが認められる。

(c)コルセット代  〈証拠〉によれば三三五〇円を要したことが認められる。

(d)診断書料  原告が診断書受領の為に関西労災病院へ通院したのは四一年七月九日であることは既に認定したが、この事実と〈証拠〉とを総合すると、同病院の診断書料は三〇〇円と認められ、他に診断書料を認めるに足りる証拠はない。

(e)マッサージ代 〈証拠〉及び弁論の全趣旨より少くとも六〇〇〇円を要したことが認められる。

以上治療関係費の合計は、一〇万八五八〇円になる。

(ロ)  得べかりし利益

〈証拠〉によれば原告は本件事故直後には四条大宮病院で加療約三週間の傷害と診断されたが、〈証拠〉を総合すれば、その後前記頸椎損傷にともなう頭痛・左半身軽度麻痺等の症状は依然として残り、四、五月はほぼ毎日通院加療をうける状態であり、六月九日には更に頸椎固定用カラーを装置するにいたつたこと六月以降症状は次第に快方にむかつたが、天候不順の際の頭痛、又肩こり、左腕の握力減退はつづき、六月いつぱいはほぼ毎日、その後七、八、九の三ケ月間もひんぱんに右病院に通院したことが認められる。

ところで原告は当時株式会社ギオンモータースで自動車を使う販売外交及び車の整備関係の業務にたずさわつていたが、その他、右勤務先以外の二ケ所で自動車運転を内容とするアルバイトにたずさわつていたことが認めらるれが、前記一の(ロ)に認定したように自動車の運転は昭和四二年の初めよい少しずつ始めたものであるから休業による損害としては

(1)  ギオンモータースの関係では、〈証拠〉によると原告主張通り欠勤期間は四一年三月二九日より同年六月五日迄二ケ月と八日間であり、事故発生前三ケ月の平均月収は四万六七六〇円であるからこの間の休業による損害は一〇万五九八八円となる。右認定に反する〈証拠〉は措信しない。

(2)  富士観光株式会社関係では、〈証拠〉により同社所有のマイクロバスの整備管理及運転の代務として月二万一〇〇〇円の支給を受けて居り、〈証拠〉によれば、事故後は全然罷めて居るのであるから右月収一〇ケ月分二一万円の請求は妥当である。

(3)  神田表具店関係では、〈証拠〉によれば、原告は昭和四〇年一〇月一日頃より、日祭日、夜間のうち右神田方の便宜に応じて表具運送のアルバイトをし、右アルバイトは恒常的なものであつて月に一〇〇〇〇円の給料を得ていたが、本件事故発生によりそれが不可能となつたこと、原告の作業内容は表具運送の為の運転手であつて前記後遺症により同年九月までの六ケ月間は右作業もしくはこれと同程度の内容をもつ作業につくことは困難であつたと認められるから、原告主張どおり六ケ月間にわたつてもし本件事故がなければ得たであろう六万円と同額の損害を被つたものと認められる。

以上得べかりし利益の合計は三七万五九八八円となる。

(ハ)  車の修理費

(a)〈証拠〉によれば、一〇万八〇〇〇円を要したことが認められる。

(b)ところで右修理費について示談が成立したとする抗弁について判断する。

〈証拠〉によれば、「青竜」の代表者から破損した加害車を買いかえるにあたつて購入先として原告方株式会社ギオンモータースを選ぶという話があり、もしそれが実現すれば新車一台につき七、八万円のマージンがあるので、実際の修理費からそれをひいた残額である四、五万円を被告側が負担すればよいという話はあつたが、結局新車購入が実現しなかつたために、この話合いは成立しなかつた事実が認められる。右認定に反する〈証拠〉は措信しない。従つてこの点に関する被告の抗弁は採用できない。ところで前記認定のとおり被告北原には自賠法第三条による運行供用者としての責任のみしか認められないので右物損部分の賠償責任は無く、被告二宮のみの負担となる。

(ニ)  慰藉料

原告が本件事故により合計約一〇八日間にわたり通院し、その治療による苦痛を味わつたこと、後遺症の為自動車運転を内容とするアルバイト先を失つた外、本業である自動車使用がかかせない外交、販売の仕事に支障をきたし、営業成績も低下したこと、現在は事務的な仕事のみで、車の運転、整備についてはやつていないことは既に認定したとおりである。その他諸般の事情を勤案して慰藉料として五〇万円が相当であると認められる。

五、(損益相殺)

原告は被告二宮に対し九八万三九八八円被告北原に対し八七万五九八八円の損害賠償請求権を有するところ、原告は自動車損害賠償責任保険より仮渡金として三〇万円、被告両名より自動車修理費及慰藉料の内金として一三万二〇〇〇円をそれぞれ受領したことを自陳し、被告等は弁論の全趣旨により、これを援用したものとみるべきであるので、三〇万円については慰藉料に、一三万二〇〇〇円については自動車修理費及び慰藉料にそれぞれ充当することとする。これらを控除すると、損害賠償請求権の残額は、いずれも五五万一九八八円となる。

六、(結論)

よつて被告等は各自金五五万一九八八円および之に対し不法行為の日の翌日であること記録上明白な昭和四一年三月二九日より、完済に至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の各支払義務があるから原告の請求は右の限度で認容し、その余の請求を棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条、九三条を、仮執行の宣言につき同法一九六条をそれぞれ適用し、なお仮執行免脱の宣言の申立についてはその必要がないものと認め、これを却下することとし、主文のとおり判決する。(山田常雄)

判決

原告

山中修三

被告

北原喜久

二宮征男

右当事者間の頭書事件について、さきに当裁判所が昭和四六年九月二二日言渡した判決中一部脱漏部分があつたのでその追加として左の通り判決する。

主文

被告等は各自原告に対し金一〇万八五八〇円及之に対する昭和四一年三月二九日以降完済迄年五分の割合による金員を支払え。

訴訟費用は被告等の負担とする。

この判決は仮に執行する事が出来る。

理由

さきに言渡した判決理由中第四項(イ)治療関係費即ち原告の要した治療費につき金一〇万八五八〇円と認定したところ右金員が損害合計額より脱漏していたのでこゝに右金員の支払を命ずるためこれを追加し、民事訴訟法第一九五条、第一九条を適用して主文の通り判決する。

(山田常雄)

山田常雄

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