大判例

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京都地方裁判所 昭和43年(わ)41号 判決

被告人 川野雅巳

昭二〇・一二・二生 会社員

主文

被告人を罰金壱万五千円に処する。

右罰金を完納することができないときは、金壱千円を壱日に換算した期間被告人を労役場に留置する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、立命館大学法学部の学生として通学していたものであるが、

第一  昭和四二年六月二三日、京都府学連の代表者立崎好道主催のもとに、「ベトナム反戦、砂川基地拡張阻止」を標榜して、京都市上京区河原町通広小路西入る立命館大学正門前から、同区河原町通広小路交差点を経て、河原町通を南進し、さらに河原町通四条交差点を左折して四条通を東進し、同市東山区円山町地内の円山公園に至る道路上で行われた集団示威行進に、京都府学連傘下の各大学の学生ら約二〇〇名とともに参加したところ、右集団示威行進に対し、京都府公安委員会が与えた許可には、交通秩序の維持に関する事項として、「道路上でジグザグ行進、うず巻き行進、またはことさらなおそ足行進や停滞もしくはことさら隊列の幅をひろげて行進するなど、一般の交通秩序を乱すような行為をしないこと」等の条件が付されていたにもかかわらず、同日午後四時五三分ころ、同市上京区河原町通広小路下る付近から同区河原町通丸太町一筋上る交差点付近までの約五〇〇メートルの区間において、前記学生ら約二〇〇名が、右許可条件に違反して、隊列の幅をことさらひろげていわゆるフランス式デモを行なつた際、氏名不詳の学生ら数名と共謀のうえ、隊列先頭部列外付近において、こもごも右デモ隊先頭列員に背を向け両手を左右に拡げたまま進行し、笛を吹いて合図をするなどして、約二分間にわたり、ことさら同デモ隊の隊列の幅を道路いつぱいにひろげる行進を行わせてこれを誘導し、もつて、京都府公安委員会が付した前記許可条件に違反して行われた集団示威行進を指導し、

第二  同四三年一月一九日、立命館大学一部文学部自治会の代表者岡昭男主催のもとに、「エンタープライズ号寄港阻止」を標榜して、前記第一と同様の経路で行われた集団示威行進に、立命館大学一部文学部自治会所属の学生ら約一二〇名とともに参加したところ、右集団示威行進に対し、京都府公安委員会が与えた許可には、前記第一と同様の条件が付されていたにもかかわらず、

(一)  同日午後四時一九分ころ、前記河原町通広小路交差点において、右約一二〇名の学生らが、右許可条件に違反してジグザグ行進を行つた際、氏名不詳の学生ら数名と共謀のうえ、こもごも、右デモ隊の先頭部列外においてデモ隊に対面し、デモ隊先頭列員が横に構え持つた青竹を両手で握つて引張り、後退するなどして、約一分間にわたり右ジグザグ行進を誘導し、

(二)  同日午後四時二五分ころ、同市上京区河原町通荒神口交差点下る付近から同区河原町通丸太町二筋上る交差点付近までの約二五〇メートルの区間において、右約一二〇名の学生らが、前記許可条件に違反して、デモ隊の隊列の幅をことさらひろげていわゆるフランス式デモを行つた際、隊列先頭部列外において、デモ隊に対面し、両手を上にあげ、笛を吹きながら右両手を左右にひろげるなどして右フランス式デモ開始の合図を行い、さらに行進中、隊列先頭部列外において走りながら笛を吹くなどして、約一分間にわたり、ことさら同デモ隊の隊列の幅を道路いつぱいにひろげる行進を行わせてこれを誘導し、

もつて、京都府公安委員会が付した前記許可条件に違反して行われた集団示威行進を指導し

たものである。

(証拠の標目)(略)

(法令の適用)

被告人の判示第一、第二の各所為は、いずれも昭和二九年京都市条例第一〇号集会、集団行進及び集団示威運動に関する条例第九条第二項、第六条第一項但書、刑法第六〇条に該当するので、各所定刑中罰金刑を選択し、以上は同法第四五条前段の併合罪なので、同法第四八条第二項により、各罰金の合算額の範囲内で被告人を罰金一万五、〇〇〇円に処し、右の罰金を完納することができないときは同法第一八条により金一、〇〇〇円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置し、訴訟費用は刑事訴訟法第一八一条第一項但書を適用して全部被告人に負担させない。

(弁護人の主張に対する判断)

(一)  弁護人は、集団示威運動は思想の表現としてのみならず参政権の行使の意味をも有するものであつて、民主主義社会にとつて不可欠のものであり、憲法第二一条に規定する表現の自由の保障を最大限に享受すべきものであるところ、昭和二九年京都市条例第一〇号集会、集団行進及び集団示威運動に関する条例(以下単に京都市条例という)は、同条例第二条および第四条において公安委員会の事前の許可を要するとして集団示威運動に対して事前規制を加え、第八条において警職法に規定する以上の即時強制権を警察官に与えているのであつて、同じ憲法上の権利として保障を受け、その表現形式として同様の内容をもつ争議行為と比較しても、集団示威運動を不合理に制限するものであるから、憲法第二一条に違反すると主張する。

案ずるに、京都市条例を含むいわゆる公安条例における集団行進および集団示威運動(以下単に集団示威行進という)を規制の対象とする諸規定が憲法第二一条の規定に違反するか否かについては、夙に議論の存するところであり、京都地方裁判所においても、京都市条例違反被告事件について、累次にわたる判決で、これらの諸規定が憲法第二一条の規定に違反する旨判示しているのである。(昭和四二年二月二三日言渡、下級裁判所刑事裁判例集第九巻第二号等参照)

しかるに、最高裁判所は、同四四年一二月二四日の大法廷判決で、「このような内容をもつ公安に関する条例(京都市公安条例)が憲法第二一条の規定に違反するものでないことは、これとほとんど同じ内容をもつ昭和二五年東京都条例第四四号集会、集団行進及び集団示威運動に関する条例についてした当裁判所の大法廷判決(昭和三五年七月二〇日言渡)の明らかにするところであり、これを変更する必要は認められない」旨判示し、ここに合憲と明認するに至つたのである。

おもうに、集団示威行進は、前記京都地方裁判所の判決が詳述しているように、それが表現の自由の一形態として、思想等の自由な交換を不可欠の要素とする民主制社会機構のもとでは、憲法上保障された基本的人権の構造体系の中でも、優れて重要な地位を占めるものとして、尊重されなければならないと解すべきであるから、集団示威行進を規制するにしても、それは必要かつ最少限度にとどまるべきは多く異論のないところである。(最高裁判所大法廷昭和三五年七月二〇日判決参照)したがつて、このような趣旨に鑑みると、集団示威行進を規制するのに許可制を採用している京都市条例については、その規定に徴してうかがいうるように、たとえ、許可を本則とし不許可をできるだけ制限しようとしていると解せられるにしても、公安委員会の裁量にまかされている許可基準が、抽象的でかつ不明確とのそしりを免れえないことや、右裁量の恣意的な危険性に対する有効適切な救済措置が講じられていないことや、同条例が許可制と届出制(京都市条例第三条参照)を別異の概念としてとり入れ、許可制をもつて実質的に届出制と変らないものとは解し難いこと等に照らして考察すると、その合憲性を肯定するうえにおいても、基本的人権の真義に立ちかえり、さらに深く思索をかさね、慎重に検討を要すべき諸点のあることを、全く否定し去るわけにはいかないものと信ずるのである、今や最高裁判所は、前記のように、昭和四四年一二月二四日の大法廷判決において、京都市条例の集団示威行進を規制の対象とする諸規定が合憲であると判示したのであるから、将来これと異なる判断をしなければならない特段の事情が新たに発生したと認められない限り、現行の裁判制度における基本的構造と法的安定性の確保の見地から、右大法廷判決を判例として尊重し、その趣旨に従うべきものと考える。

ただ当裁判所としては、公安委員会の権限濫用による危険性が絶無でないことを憂慮するのであるが、この点については、前記大法廷判決が、その基準とされた最高裁判所昭和三五年七月二〇日の大法廷判決中に、とくに、「その運用如何によつては憲法第二一条の保障する表現の自由の保障を侵す危険を絶対に包蔵しないとはいえない。条例の運用にあたる公安委員会が権限を濫用し、公共の安寧の保持を口実にして、平穏で秩序ある集団行動まで抑圧することのないよう極力戒心すべきこともちろんである」と説示された趣意とその効果に多くの期待と信頼をおきながら、京都市条例における集団示威行進を規制の対象とする諸規定は、前記判例の趣旨に従い憲法第二一条の規定に違反しないものと判断する。

弁護人の主張はこれを排斥する。

(二)  弁護人は、公安委員会による本件各許可は、京都府公安委員会会議運営規則(昭和三〇年六月一四日京都府公安委員会規則第一二号)第一〇条に基づき、一人の公安委員により、あるいはいわゆる「持廻り審議」なる形式によつてなされたものであるが、右は同条の要件を充足しない違法な手続によるものであるから、右許可はいずれも無効であると主張する。

案ずるに、右運営規則第一〇条は、「緊急事態その他臨時緊急の必要があると認める場合において、会議を招集することができず、または会議を招集してもこれを開くことができないと認めるときは、京都市内に現在する委員は第二条の規定にかかわらず、委員会の権限を行うことができる」旨規定している。

そこで、まずその緊急性について考察するに、京都市条例第四条によれば、集団示威行進の主催者は、これを行う日時の七二時間前までに、その許可申請書を、開催地を管轄する警察署を経由して公安委員会に提出しなければならず、同第六条第二項によれば、公安委員会は原則として集団示威行進を行う日時の二四時間前までに、主催者または連絡責任者に許可状を交付しなければならないこととなつている。ところで、右運営規則第四条によると、京都府公安委員会は、定例会議を毎週一回定例日時に開くものとされているところ、判示第一の主催者は、昭和四二年六月二三日(金曜日)に行う集団示威行進についてその許可申請書を同月二一日(水曜日)に提出し、判示第二の主催者は、同四三年一月一九日(金曜日)に行う集団示威行進についてその許可申請書を同月一三日(土曜日)に提出したことが明らかであり、当時右定例会議は毎週木曜日に開かれていたことが認められるから、判示第一の場合は勿論、判示第二の場合でも、前記の規定の趣旨ならびに処理手続等に照らし、かつ、後記のように、年間多数の許可申請書を受理しこれを処理していた実情に鑑みると、右の各許可申請を次期定例会議に付議するいとまのなかつたことが推測される。したがつて、右の各許可申請については、その行動日時との関係からみて、まさに臨時緊急に処理する必要のある場合にあたるものということができる。

つぎに、京都府公安委員会が右各許可申請を付議するにつき、臨時会議を招集することができない場合であつたか否かについて考察するに、公安委員は一般に非常勤であり(地方自治法第一八〇条の五第五項)、本件当時同公安委員会を構成していた五名の公安委員についてみても、医師二名、会社々長二名、弁護士一名であつて、それぞれ定職を有し、多忙な日々を過していたことが推測されるのであつて、しかも、そのころの同公安委員会に対する集団示威行進許可申請書の提出は、年間約一、〇〇〇件もの多数に及んでいた実情に照らせば、本件各許可申請書提出の日時から、それぞれ所定の手続を経て、許可状を主催者に交付しなければならないものとされている当該行動日時の二四時間前までの僅かな期間内(判示第二については五日の期間内に日曜日と祝祭日が各一日介在している)に、同公安委員会が臨時会議を招集して定足数の公安委員の出席を求め、これを審議することは実際上極めて困難な状況にあつたものというべく、右はまさに臨時会議を招集することができない場合にあたるものと認めるのが相当である。

されば、本件各許可申請についてした審議は、その方式において右運営規則第一〇条の要件を充足し、なんら違法のかどは認められないから、本件各許可はもとより有効なものといわなければならない。

弁護人の主張はこれを排斥する。

(三)  弁護人は、被告人の本件各所為は可罰的違法性がないと主張する。

案ずるに、集団示威行進は、前述のとおり、表現の自由の一形態として憲法上保障された基本的人権の構造体系の中でも、優れて重要な地位を占めるものとして尊重されなければならないのであるから、これを規制するにしても、それは必要最少限度にとどまるべきものと解せられ、また、京都市条例は、道路交通法の目的としている単なる交通秩序の維持ではなく、集団行動のもつ危険性から公衆の生命、身体、自由および財産を保護することをもつて立法の目的とされ(同条例第一条)、したがつて、両者における保護法益の差違から、同条例第九条第二項による許可条件違反の罪の法定刑が、道路交通法における交通秩序に関する同種の違反行為による罪のそれに比して重く定められているものと推測され(道路交通法第一一九条第一項第一三号、第七七条第三、四項参照)、そこにその合理的根拠がみいだされる。されば、これらの諸点を総合して考察すると、同条例第九条第二項の規定の趣旨は、同条例第六条第一項但書による許可条件に違反して行なわれた集団示威行進を指導した場合に、それが、およそ公共の安全に対して抽象的に危険を及ぼすおそれがある行為としての評価を免れ難いとはいうものの、右の行為のすべてに刑罰をもつて臨もうとするにあるものというべきではなく、その集団示威行進の規模、態様ならびに公衆に与えた影響等の具体的事実を総合的に観察し、かつ、いわゆるデモの内包する本質に鑑みて、その違法性が極めて軽微で社会通念上容認された相当性の評価に耐えうるものとみられる場合には、右の指導者の行為は可罰的違法性がないものと解すべきは、これを肯定するにやぶさかでない。

これを本件についてみるに、(証拠略)を総合して認められるように、判示第一および第二の各許可条件違反のデモは、いずれも京都市内でも有数の幹線道路である河原町通の路上で行なわれたものであつて、判示第一の場合は、約二〇〇名の学生らが、午後四時五三分ころから約二分間にわたり、約五〇〇メートルの区間において右許可条件違反のフランス式デモをしたものであり、第二の場合は、約一二〇名の学生らが、まず午後四時一九分ころ、河原町通広小路交差点において、約一分間ジグザグ行進をし、ついで午後四時二五分ころから約一分間にわたり、約二五〇メートルの区間においてフランス式デモをしたものである。そして、右のフランス式デモは、いずれも車道ほぼ一杯にひろがつて行なわれたもので、しかもかなりの速度の駆足を伴つていたことが認められるから、これらのデモの規模、態様等からすれば、本件条件違反のデモは、いずれも決して穏やかなものの部類に属するものとは認め難く、これに前記道路状況をも合わせ考えれば、被告人らの前記デモ隊員が車道一杯にひろがつて駆けながら気勢をあげ、そのために通行人や通行車輛等と接触、衝突するなど思いがけない事故の発生することも予想されるような異常な状態にあつたことが推認される。したがつて、このようなデモを誘導した被告人の本件各行為は、その誘導行為自体の態様をも斟酌すると、実質的違法性を具備し、可罰的評価を免れることはできない。

弁護人の主張はこれを排斥する。

(四)  なお、弁護人は、京都市条例(昭和二九年七月一日施行)はその第二条等で集団行動の許可を管掌する機関として「公安委員会」と規定しているが、京都市においては、昭和三〇年六月三〇日まで旧警察法に基づく京都市公安委員会が存在していたから、右条例にいう「公安委員会」とは右京都市公安委員会を指すものというべきところ、同公安委員会は右六月三〇日をもつて廃止されたのであるから、右条例に規定する許可管掌機関は消滅したものというべく、許可の主体が消滅した以上、許可条件違反につき罰則を定めている同条例第九条も失効した旨主張する。

しかしながら、京都市条例第二条等にいう「公安委員会」とは、単に管轄の公安委員会という意味に解すべきであるから、昭和三〇年七月一日以降は、警察法(昭和二九年法律第一六二号)に基づいて京都市もその管轄に属することとなつた京都府公安委員会が右条例にいう「公安委員会」に該当するものというべきである。

弁護人の主張はこれを排斥する。

よつて、主文のとおり判決する。

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