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京都地方裁判所 昭和59年(ワ)66号 判決

原告

布施桂一

右訴訟代理人弁護士

稲村五男

加藤英範

村山晃

被告

協栄住販株式会社

右代表者代表取締役

長谷川正夫

右訴訟代理人弁護士

林成凱

主文

一  被告は原告に対し、金四〇〇万円及びこれに対する昭和五二年七月二三日から支払ずみまで年六分の割合による金員を支払え。

二  訴訟費用は、被告の負担とする。

三  この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

主文同旨

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

3  仮執行免脱宣言

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  被告は、不動産売買等を目的とする株式会社である。

2  被告は、原告に対し、昭和五二年七月九日、京都府亀岡市田野町柿花梶林三六番三の宅地299.90平方メートル(以下「三六番三の土地」という。)を、代金四〇〇万円で売り渡し、原告は、同年七月二二日までに、被告に右代金四〇〇万円を支払つた。

3  (債務不履行)

しかるに、被告が原告に売却した三六番三の宅地とされた土地は、京都府亀岡市田野町柿花梶林三五番二、同三五番二九及び同三五番三〇の各宅地(以下「三五番二、三五番二九及び三五番三〇の各土地」という。)に該当し、三六番三の土地は存在せず、仮に存在するとしても、三六番三の土地の一部は、三五番二、三五番二九及び三五番三〇の各土地と重複している。

従つて、被告は、原告に対し、右のように存在しないかあるいは他の土地と重複する土地を売却したものであり、履行不能ないし不完全履行に該当する。

4  (瑕疵担保)

また、原告は、三六番三の土地が前記のとおり他の地番の土地と重複していることから、右土地の利用につき、三五番二九の所有者である訴外川端祐四郎(以下「訴外川端」という。)から抗議を受け、これを自由に利用できないでいる。右のような土地重複の事実は、買主である原告において通常の注意を払つても発見できない事実にあたり、被告が原告に売却した三六番三の土地には隠れたる瑕疵が存在する。

5  原告は、被告に対し、昭和五九年一月一八日、本訴状により右売買契約を解除する旨の意思表示をし、右意思表示は、同月二〇日、被告に到達した。

よつて、原告は、被告に対し、右売買契約解除に基づき、支払ずみの売買代金四〇〇万円及びこれに対する支払日の翌日である昭和五二年七月二三日から支払ずみまで商事法定利率の年六分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1、2の事実は認める。

2  請求原因3、4の事実は否認する。

三  抗弁

1  請求原因3(債務不履行)の事実に対する抗弁

仮に請求原因3の事実があつたとしても、被告は、原告に対し、三六番三の土地を売却するに際し、現地において、右土地の元の所有者である訴外国元健太郎の説明を受けて土地の範囲を確認し、さらに、右土地についての不動産登記簿、公図及び地積測量図を調査して、被告が原告に対して売却しようとする右土地の形状が右公図上の地形及び右地積測量図上の地形にほぼ一致すること、右地積測量図による求積が右土地の登記簿上の面積と一致することをそれぞれ確認した。従つて、被告には責に帰すべき事由はない。

2  請求原因4(瑕疵担保)の事実に対する抗弁

仮に請求原因4の事実があつたとしても、原告は、昭和五二年一〇月頃、三六番三の土地と三五番二、三五番二九及び三五番三〇の土地との重複を知つたものであり、一年の除斥期間が経過している。

四  抗弁に対する認否

1  抗弁1の事実は争う。

2  抗弁2の事実は否認する。

原告は、昭和五八年三月一四日、北野昇土地家屋調査士から三六番三の土地が他の地番の土地と重複していることを知らされ、その事実を知つたものである。

第三  証拠〈省略〉

理由

一請求原因1、2の事実は当事者間に争いがない。

二そこで、まず、請求原因4の瑕疵担保責任の有無について検討する。

〈証拠〉及び弁論の全趣旨によれば、つぎの事実が認められる。

1  原告は、新聞広告で三六番三の土地が売りに出されているのを知り、昭和五二年七月九日に同土地を被告から買い受けたこと、右土地売買に際し、原告は、被告の担当者中森寿久に現地へ案内され、北側が石垣で段差となつて水路と里道に接し、南側が約三メートル幅の道路に接する東西の幅約二〇メートルの長方形型の土地が三六番三の土地である旨指示説明を受けたこと、原告は、右指示を受けた土地が、売買契約書(乙第一号証)に添付された公図の写し様の図面に記載の三六番三の土地の形状にほぼ一致したこと(但し、法務局備え付けの公図写し(乙第六号証の二)では、三六番三の土地の南側はかなり湾曲して記載されているのに、右契約書添付の図面では、その部分がほぼ直線状に記載されている。)と、現地で大まかな測量をしたところ、公簿面積の二九九平方メートルにほぼ見合う面積が得られたことから、同土地が三六番三の土地であると信じたこと。

2  ところが、原告が、右土地購入後、昭和五三年三月頃から野菜作りを始めたところ、同年六月頃、訴外川端から同土地上に使用禁止の看板をたてられ、その後も何度か同じ看板をたてられたことから、原告は、昭和五五年一月には、同訴外人に直接会つて事情を聞いたところ、原告が三六番三の土地として被告から買い受けた土地の大部分について、同訴外人が大日開発株式会社から買い受けて所有する三五番二九の土地である旨強く主張されたこと。

3  一方、原告は、訴外川端から抗議を受けた直後頃から、北野昇土地家屋調査士に対し三六番三の土地についての調査を依頼していたところ、昭和五八年三月一四日、書面(甲第一三号証)により、同地番の土地の上に他人の土地が乗り掛かつていることが発見された旨報告を受けたこと。

4  北野土地家屋調査士の調査によれば、三六番三の土地は、昭和四六年四月二六日分筆登記されているが、その際作成され法務局に提出された同土地の地積測量図(乙第六号証の三)と、昭和四七年六月二三日に分筆登記されその際法務局に提出された三五番二、三五番二九及び三五番三〇の土地の地積測量図(乙第六号証の七)とは、図面上、大部分において重なり合う蓋然性が高く、法務局備え付けの三六番三の土地の公図にも、遅くとも昭和五八年末頃以降は「三五―二、三五―二九、三五―三〇の土地と重複?」との付箋が貼られていること。

5  原告は、大工を職業としており、三六番三の土地を当分は野菜作り用の畑として、将来は機材置場として利用する目的で購入したが、前記事情から、現在右土地を全く利用できないでいること。

以上の事実が認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。(なお、〈証拠〉によれば、京都地方法務局亀岡出張所は被告代理人からの照会に対し三六番三の土地が他の土地と重複するか否かは判断できない旨回答している事実が認められるが、右事実は重複する蓋然性が高いと認めた右認定判断と抵触するものではない。)

ところで、民法五七〇条にいう売買の目的物の「瑕疵」とは、単に自然的、物理的な欠陥に止まらず、法律的な支障により、契約上目的とされた使用が得られない場合をも含むものと解せられるが、これを本件についてみた場合、購入した土地が、他人の所有する土地と部分的に重なり合う疑いが生じ、それが単に隣地所有者の主観的な言い掛りとは言えず、公図ないしは法務局に提出された地積測量図からも相当の蓋然性をもつて疑われる前記認定の事情からすれば、本件の原、被告間における三六番三の土地の取引については、購入した土地の所有権につき将来訴訟等の手段により法的解決をみる以外ないという意味において法律的な支障があるというべきで、売買の目的物に「瑕疵」が存在すると解して十分であると思料される。

つぎに、民法五七〇条の「隠れたる」瑕疵の存否を、本件についてみるに、一般人である原告にとつて、土地購入に際し、他人の所有する土地との土地の重複の有無ないしはその蓋然性の有無を公図等によつて調査することまで求めることは、酷に過ぎると言うべきで、前記認定のとおり、現地において売主である被告の担当者から指示説明を受け、これを信じて土地を買い受けた原告には、前記法律上の「瑕疵」の存否について善意、無過失を認めて差し支えなく、「隠れたる」瑕疵があつたものと認定できる。

三つぎに、抗弁2の事実について判断する。

被告は、昭和五二年一〇月頃原告は前記土地重複の事実を知つたとして、その時点から一年の除斥期間が開始する旨主張するが、土地の重複の蓋然性は極めて専門的な判断に属する事柄であつて、前記認定事実からすれば、単に他の地番の土地所有者から土地利用につき抗議を受けた時点ではなく、北野土地家屋調査士から書面により報告を受けた昭和五八年三月一四日から右除斥期間が進行するものと解され、本訴提起がそれから一年を経過しない昭和五九年一月一八日であることは当裁判所に顕著な事実であるから、被告の右主張は理由がない。

四請求原因5の原告の被告に対する売買契約解除の意思表示と被告への到達の事実は、本件記録上顕かである。

五以上の次第からして、原告の瑕疵担保による土地売買契約解除に基づく代金返還請求は理由があり、原告の被告に対する本訴請求は、債務不履行の点に立ち入るまでもなく、正当としてこれを認容することができ、訴訟費用の負担について民事訴訟法八九条を、仮執行宣言を付すことについて同法一九六条を(仮執行免脱宣言の申立については、その必要がないものと認め、これを却下する。)それぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官佐藤武彦)

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