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京都地方裁判所 昭和60年(ワ)2109号 判決

原告

中畑貞子

原告

平野淑子

原告

田村嘉子

原告

竹内コメ

右四名訴訟代理人弁護士

久米弘子

吉田容子

被告

京洛通商株式会社

右代表者代表取締役

青木直己

被告

青木直己

主文

一  被告らは、原告らに対し、連帯して左記金員及び各金員に対し、被告青木直己については昭和六〇年一〇月一〇日から、被告京洛通商株式会社については同月一九日から、それぞれ支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

1  原告中畑貞子に対し金四四九万六〇〇〇円

2  同平野淑子に対し金二〇三万四〇〇〇円

3  同田村嘉子に対し金五五三万六八〇〇円

4  同竹内コメに対し金三二〇万円

二  訴訟費用は被告らの負担とする。

三  この判決は、仮に執行することができる。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

主文同旨

二  請求の趣旨に対する答弁(被告ら)

1  原告らの請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  当事者

(一) 被告京洛通商株式会社(以下「被告会社」という。)は、昭和五三年に設立され、不動産売買等を業とする資本金一〇〇万円の会社である。その商法は、無差別に電話等で勧誘した客を温泉等の無料旅行に招待し、長時間にわたつて執拗かつ巧妙に北海道の原野の購入を勧誘し、契約締結に至らせるというものである。

(二) 被告青木直己は、被告会社の代表取締役であり、被告会社の実質的経営者でもある。

2  被告会社の行為

(一) 原告らは、いずれも昭和五七年から昭和五八年にかけて、被告会社の無料旅行に招待され、時には一〇時間以上にわたつて執拗かつ巧妙に被告会社所有の北海道の原野の購入を勧誘された。その際、被告会社従業員は、「銀行に金を預けたのでは、利率が低いし税金もかかる。しかし、北海道の土地に投資すればどんな銀行預金よりも有利な利子をつけるし、税金もかからない。必要ならばいつでも高額の利息をつけて買戻します。」と言明し、原告らはいずれもこれを完全に信じて、即日ないし数日後に被告会社との間で別紙一覧表のとおり各数回にわたつて土地売買契約を締結し、売買代金名下に別紙一覧表記載の金員を支払つた(以下、これを「本件売買」という。)。

(二) その後被告会社の商法に疑問を抱いた原告らは、再三にわたり各購入土地の買戻しを要求する旨の意思表示をし被告会社はその度に原告らに買戻代金の支払を約したが、一向にこれを履行していない。

(三) また、原告中畑は被告会社の依頼により、左記金員を被告会社に貸渡した(以下、これを「本件貸付」という。)。

(1) 昭和五八年六月二八日 金五〇万円 返済期限一年(仲原フミ子名義)

(2) 昭和六〇年二月一日 金一三〇万円 返済期限同年三月二日

被告会社は右各期限を徒過しても返還しないため、原告中畑が再三催告した結果、ようやく、昭和六〇年六月四日右(2)の一三〇万円の内金五〇万円のみが返還された。しかし、右(2)の残金及び(1)の金員合計一三〇万円については、いずれも返還されていない。

3  不法行為責任

(一) 被告会社の商法自体の欺瞞性

(1) 被告会社の商法は、顧客に、被告会社所有の北海道の土地が極めて良い立地条件の下にあつて将来値上りが確実であり転売目的でこの土地を購入することがいかに安全・確実・有利な投資であるかということを縷縷述べたうえ、さらに一年ないし三年以内に転売出来なかつたら同社が顧客の購入価格に一三パーセントないし四〇パーセントもの高利息をつけて買戻す旨言明して顧客を安心させ、契約締結に至らせるものである。従つて、ここでは、被告会社所有の将来の値上りが確実である極めて有望な土地が実在すること、及び被告会社の経営状態が極めて良好であることが前提となつている。しかし、そのような事実は全くない。

(ア) 被告会社が顧客に販売した広大な土地のうち、被告会社が所有していたものは極く一部にすぎず、大部分は第三者の土地を無断で売却するかあるいはせいぜい被告会社が手付金を支払つた程度(しかも残代金はほとんど支払われていない)の土地であり、なかには同一物件を二重に販売したこともある。そのため、被告会社から顧客に対し所有権移転登記がなされていない土地が未だに多数存在している。

また、被告会社が所有していたとされる一部の土地についても、いずれも極めて価値の低い原野であり、一年ないし三年のうちに土地価格が高騰すべき要素は全くなかつた。被告会社は、不動産売買の常道である現地見分すら顧客にさせずに、二束三文の土地を高額で売りつけている。

(イ) 被告会社は顧客に対し、販売した土地はすべて被告会社が責任をもつて必ず高額で転売すること、もし転売出来なかつたら少なくとも年一三パーセントの割合の金員を購入代金に上乗せした代金で買戻すことを確約している。しかし、被告会社は土地を顧客に売り付けた後、転売先を全く探しておらず、全く売り放しであつた。また、客から土地購入代金名下に詐取する金員が被告会社の唯一の収入であつたが、これは従業員の給料、旅行(販売会)費用、事務所賃料その他の営業経費等にほとんど費消されて常時赤字の状態であり、そのため土地の購入代金も払えず、昭和五七年二月頃からは給料の遅配が始まり、同年六月頃にはサラ金からの借入れも始まつていた。さらに同年秋には、京都銀行で不渡りを出して取引停止になつている。また、昭和五七年頃、被告会社の前代表者の土地買収の失敗により三〜四億円が費消され、被告会社は大きな損失を被つた。このような状態では、年一三パーセントもの高利で買戻すことはおよそ不可能であり、このことを被告青木を初め被告会社従業員達は熟知していた。

(ウ) 被告会社は、営業部員に基本給の外、売上金の一〇パーセントもの異常に高額の歩合給や褒賞金を支払い、役員には右のほかさらに高額の役員報酬を支払い、さらに各従業員、役員の売上金の使い込み、流用は日常茶飯であり、顧客からの売買代金の多くを徒らにこれらに費消していた。即ち、客から詐取した金員を山分けすることに終始していたのである。

(二) 原告等に対する勧誘行為の違法性

(1) 右のような被告会社の詐欺商法は、原告らに対する勧誘行為の中に端的に表れている。即ち、被告会社は、

(ア) 原告中畑に対し、「被告会社は北海道に広大な土地を所有しているが、そのうち六メートル道路があつて新幹線が通る一等地を分譲する。ここは良い土地なので絶対高く売れる。万一、三年(別紙一覧表(1)の土地)又は一年(同(2)、(3)の土地)以内に売れなかつたら、購入価格に三九パーセント(同(1)の土地)又は二〇パーセント((2)、(3)の土地)の『利息』をつけて買戻す。」

(イ) また原告平野に対し、「この土地は被告会社の所有であり、新幹線や青函トンネルが開通するし、現在造成済で近い将来開発予定の工業地であるから、確実に値上りする。三年待つて売れなかつたら、四〇パーセントの利息をつけて買戻す。」

(ウ) また原告田村に対し、「この辺は新幹線が通るし開けゆく土地で工場用地として高く売れる。万一売れないときは一年当り少なくとも一三パーセントの利息を付けて買戻す、期限内にも自由に解約(買戻し)に応じる。」

といずれも繰り返し言明し、その旨誤信した各原告をして契約締結に至らせている。しかし、被告会社のこの説明が虚偽であることは前述のとおり明らかである。原告らが買わされた土地はいずれも全く売れるあてのない無価値の土地であり、なかには第三者の土地や未だ未分筆で特定すらできないものも多数含まれている。

(2) 原告竹内に至つては、自己が土地を購入するという意識すらなく、被告会社に金を預けたら一年後には四〇パーセントもの利息がついて返つてくるものと信じていた。これは、被告会社が一年後には必ず四〇パーセントを「利息」として上乗せして出捐金を返すと繰り返し言明し強調したからであり、被告会社の意図を端的にくみとつたものともいうべきである。

(3) 被告会社は総ての顧客に対し、一年ないし三年後に一三パーセントないし一四パーセントの「利息」をつけて金を返すと言つており、あたかも安全有利な預貯金と同様の契約であるかのような錯覚を与えていた。被告会社のこの約束が、他の顧客についても契約締結を決意するための重要な要素であつたことは、明らかであり、これが被告らの詐欺商法の重要な構成要素であつたことは疑いない。そしてこれが到底守られるべきはずのない約束であつたことは、前述のとおりである。

(三) 以上のとおり、被告会社の原告らに対する勧誘並びに契約締結、金員受領に至る一連の行為が、会社ぐるみの組織的な詐欺であつたことは明らかである。

(四) 次に、原告中畑の被告会社に対する貸付は二回行なわれたが、いずれも被告会社から被告会社の旅行主催費用として貸して欲しいと頼まれたものである。このうち一回目の貸付については、妹(仲原文子)名義で貸せば二人共北海道旅行に招待すると言われ、原告が出捐し、右仲原名義で貸付けたものである。昭和五八年六月頃は前述のとおり既に被告会社の資金は涸渇している状態で、一年後に返済する見込みなど到底なく、被告会社はこれを熟知しながら原告から借受けたものであるから、これが詐欺による不法行為となることは明らかである。また、二回目の貸付が行なわれた昭和六〇年二月頃は、被告会社の資金涸渇は一層顕著であつたから一か月後に返済する見込みが全くないことは疑う余地がない。

(五) 被告会社の責任

(1) 被告会社の商法自体の違法性、原告らに対する勧誘行為の違法性等については、前述のとおりである。この違法行為は、被告会社が組織をあげて遂行した詐欺行為であつて、本来個々の役員、従業員の行為として区々にみるべきものではない。被告会社の行為自体民法七〇九条の不法行為に該当し、同条の責任を負うとみるのが、最も実態に即している。

(2) また、被告青木は、原告らが被害にあつた時期並びにそれ以降、一貫して被告会社の取締役の地位にあつた。にも拘らず、被告青木は率先して違法な勧誘行為を続け、原告らに損害を与えた。そして、被告会社には被告青木を含めて常時複数の従業員がいたが、同人らはいずれも、顧客に損害を与えることを十分承知のうえ、違法な勧誘行為を行つており、原告らの被害もその過程において生じている。従つて、被告会社は、民法四四条一項又は民法七一五条一項により、原告らの損害を賠償する責任がある。

(六) 被告青木の責任

(1) 被告青木は、昭和五四年八月二五日に被告会社の取締役に就任し、以来昭和六一年一月頃逮捕されるまでの期間一貫して取締役の地位にあつて、被告会社の土地の仕入状況や営業並びに経理状態を熟知していた。

(2) それにも拘らず、被告青木は自ら営業の中心として、販売会(旅行)に必ず参加し、原告らに対し、バスの中や旅館内における販売会の際、様々な詐言を弄して、無価値な原野の購入方を勧め、また、原告中畑からの金員借入れについても、被告青木が直接同原告に架電して借入れ申込みをするなどして原告らに多大の損害を与えた。よつて民法七〇九条の責任を負う。

(3) また、被告青木は民法七一九条一項の責任を免れない。即ち、原告中畑、同平野、同田村に対する原野購入の勧誘を担当したのは訴外万木伸介、同朝倉将夫であるが、被告青木は販売旅行の統括者として、バスの中や旅館内における販売会の冒頭に詳細かつ巧妙に虚偽の事実を申し向けて原告らを勧誘し、さらに万木、朝倉らが、これを引きついで同様の勧誘を続け原告らを契約締結に至らせたものである。従つて、被告青木は右万木、朝倉と共同の不法行為により、原告中畑、同平野、同田村に損害を与えたことに帰着する。なお、原告竹内については、被告青木自ら担当をして原野購入を勧誘しており、同被告が民法七〇九条の責任を負うことは明らかである。

(4) 次に、訴外万木が原告田村に売却した土地は、本件で問題となつている他の土地と同様、全く無価値なものであり、万木は、この土地を購入することにより原告田村がその購入代金相当額の損害を被るということを十分認識していた。

従つて同人は、民法七〇九条の責任を負うところ、被告青木は同人を選任・監督すべき義務を怠つたことが明らかであるから、民法七一五条二項の責任を負う。

(5) 被告青木は、被告会社の取締役として他の従業員らの選任並びに職務遂行が適正に行われるよう、指導、監督する義務があつたのに、右(1)ないし(4)で明らかなようにその義務の履行を怠り、その結果、被告会社従業員らは原告らに多大の損害を与えた。よつて、被告青木は民法七一五条二項の責任を負う。

(6) 被告青木が商法二六六条の三に基づく責任を負うことは、同被告が取締役の地位にあつたこと、並びに右のような同被告の職務執行態様からして明らかである。

4  契約責任

(一) 本件売買について

(1) 被告会社は、本件各土地を売却する際、それぞれ次の条件でその土地を買戻すことを約した。

(ア) 原告中畑に対し、「三年以内に転売できなかつたら購入代金に三九パーセントを上乗せし(別紙一覧表(1)の土地)、一年以内に転売出来なかつたら同じく二〇パーセントを上乗せ(同(2)、(3)の土地)した金額で買戻す。」

(イ) 同平野に対し、「三年以内に転売できなければ同じく四〇パーセントを上乗せし(同(4)の土地)、または一年以内に転売できなければ同じく四〇パーセント上乗せ(同(5)の土地)した金額で買戻す。」

(ウ) 同田村に対し、「三年以内に転売出来なければ一年当り購入代金に一三パーセントを上乗せした金額で(同(6)の土地)、または一年以内に転売出来なければ一年当り購入代金に二〇パーセントを上乗せした金額で(同(7)、(9)ないし(11)の土地)、五か月以内に転売出来なければ一年当り購入代金に一三パーセントを上乗せした金額で(同(8)の土地)、それぞれ買戻す。」

(エ) 同竹内に対し、「一年たつたら出捐金に四〇パーセントの利息を上乗せして返す(同(12)、(13)の土地)。」

(2) しかるに、いずれもその期限が到来したにも拘らず、被告会社はこれを懈怠し、原告らの度重なる催告にも拘らず、一向に買戻し約束も返還約束も履行しない。

(3) よつて原告らは被告会社に対し、右契約に基づく金員(原告中畑について金三一九万六〇〇〇円、同平野について金二〇三万四〇〇〇円、同田村について金五〇九万九八〇〇円、同竹内について金三二〇万円)の支払いを求める。

(二) 原告中畑の本件貸付について

(1) 原告中畑は、被告会社に対し、左記金員を貸渡した。

(ア) 昭和五八年六月二八日 金五〇万円 弁済期 一年後

(イ) 昭和六〇年二月一日 金一三〇万円 弁済期 同年三月二日

(2) 被告会社は、昭和六〇年六月、右借入金のうち五〇万円のみを原告中畑に返還した。

(3) よつて原告中畑は被告会社に対し、消費貸借契約に基づき、右貸付金残金一三〇万円の支払を求める。

(三) 原告田村に対する補償契約

(1) 被告会社は、昭和五八年七月頃、原告田村に対し、被告会社の従業員であつた訴外万木伸介が原告に売却した土地(別紙一覧表(11)の土地)を被告会社が他に売却したために原告が被つた損害(出捐金四三万七〇〇〇円)について被告会社が補償することを約した。しかるに未だ何の補償もされていない。

(2) よつて原告田村は、被告会社に対し、右補償契約に基づき金四三万七〇〇〇円の支払を求める。

(四) なお、右(一)ないし(三)の契約締結時並びにそれ以降ひき続き被告青木は被告会社の取締役であつた。よつて原告らは、商法二六六条の三に基づき、被告青木に対し被告会社と連帯してそれぞれ右同額の金員を支払うことを求める。

5  よつて、被告会社については不法行為による損害賠償請求権ないし契約責任による返還請求権に基づき、被告青木については不法行為ないし商法二六六条の三による損害賠償請求権に基づき、被告らに対し、原告中畑は金四四九万六〇〇〇円、同平野は金二〇三万四〇〇〇円、同田村は金五五三万六八〇〇円、同竹内は金三二〇万円及び右各金員に対する訴状送達の日の翌日(被告青木については昭和六〇年一〇月一〇日、被告会社については同月一九日)から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を、連帯して支払うことを求める。

二  請求原因に対する認否(被告ら)

1(一)  請求原因1(一)の事実のうち、被告会社が無料招待旅行を実施したことは認め、長時間かつ執拗な商談交渉を行つたことは否認する。

(二)  同1(二)の事実は認める。

2(一)  同2(一)の事実のうち、一〇時間以上にもわたる交渉を行つたこと、土地価額の上昇は、銀行金利よりも有利であると説明したこと、利息を付けて買戻す旨言明したことは否認する。

(二)  同2(二)の事実は争う。

(三)  同2(三)の事実のうち、被告会社が、昭和五八年六月二八日、金五〇万円を受領したこと、(2)の事実及び被告会社が五〇万円を返済したことは認め、その余は争う。

3  同3及び4の各事実は争う。但し、同4(二)の事実のうち、被告会社が、昭和五八年六月二八日、金五〇万円を受領したこと、(1)(イ)の事実及び(2)の事実は認める。

第三  証拠関係〈省略〉

理由

一被告会社の営業活動について

被告青木が、被告会社の代表取締役であり、被告会社の実質的経営者でもあること、被告会社が、無料招待旅行を実施していたことは当事者間に争いがないところ、右事実と、〈証拠〉を総合すれば次の事実を認めることができ、これを覆すに足りる証拠はない。

1  被告会社は、訴外株式会社三総京都支店の支店長であつた鞆平八郎(以下、「鞆」という。)が、昭和五三年八月設立した資本金一〇〇万円の株式会社である。その営業目的は、不動産の売買、賃貸、交換、管理並びにこれらの仲介、代理業務等であつたが、実際は、その設立当初から、北海道の原野や山林を投資という形で売買すること以外の営業活動は何もしていなかつた。被告会社の代表取締役は、設立当初から鞆であつたが、同人は、昭和五七年二月ころからはあまり出社しなくなり、結局昭和五九年五月三〇日、代表取締役を辞任し、それ以後は、被告青木がその職に就任した。

2  被告会社には、自己資金はほとんどなく、資金を出してくれるスポンサーの資金などで北海道の原野などを購入し、それを月二回の販売会などで、他への高値での転売ないし高利息を付けての被告会社の買戻しを条件に、購入価格の五倍から七倍位の値段で顧客に売りつけるというものであつた。そして、その収益の一部をスポンサーに渡し、残りを被告会社で取得していたが、多額の経費等のため、次第に土地購入資金が続かなくなり、手付金のみ支払つて土地を購入し、残代金を完済しないままその土地を転売したり、売買契約のみして代金を払わないのに、所有権移転登記を受けたことを奇貨としてそれを顧客に転売するようになり、その一方で、売買代金を払わないため結局顧客が、その土地の所有権を取得できなくなる事態が生じ、なかには土地を二重に販売したこともあつた。それに伴い、昭和五七年初めころには、顧客に土地の所有権移転登記ができない例が出始め、昭和六〇年には、売つた土地の総てに権利証がついていない。そして、その頃には、被告会社で入手して販売する土地もなくなつてしまい、同年七月には、資金も続かず旅行会はできなくなつて、事実上、営業活動は不可能となつた。

3  被告会社が、北海道の土地を販売するため催した販売会の模様は次のとおりである。

(一)  まず、被告会社の従業員が、電話帳で無作為に電話をかけ、アンケート調査と称していくつかの質問をし、相手方の資産とか、意向を探つたうえで、土地を購入する可能性の高い顧客を、無料温泉旅行の抽選に当選したと称して一泊旅行へ誘い、バスで温泉地へ招待する。

(二)  その旅行で宿泊地へ向かうバスの中、被告青木は、被告会社の説明や、被告会社がこれから販売しようとする北海道南部地域の土地が目覚しい開発を遂げているので利殖に最適であることを説明し、それに関連したビデオなどを見せたりして、予め顧客らのそれについての関心を惹いておく。

(三)  そして、宿泊先においては、会議室に顧客全員を集めて販売会を催し、まず、被告青木が、「北海道は年々開発され、被告会社が北海道南部地区に所有している物件は、大手の企業の工場誘致等で、地価の値上りが期待できる。今、被告会社の土地を買つておけば必ず儲かる。被告会社が、大企業等の買手を探し、まとめて有利な条件で転売する。三年持つてもらえれば、他へ責任をもつて買値の四〇パーセント以上の値で転売してあげる。それが出来ない場合でも被告会社が四〇パーセントの利息を付けて顧客が被告会社から購入した土地を買戻す。」等と説明したあと被告会社の各営業員が、それぞれ担当の顧客らに同様の説明をして巧妙に勧誘し、結局顧客をして、その旨誤信させたうえ、被告会社の土地の売買契約を締結せしめるというものである。なお、被告会社が約束した買戻し期間は、三年が中心であつたが、後には一年などの短期間のものも生じてきた。

4  ところで、被告会社が販売した土地は、いずれも極めて価値の低い原野などであり、大企業の進出等は到底望めなく、三年以内に土地の価格が高騰する要素もなかつた。被告会社としては、大企業が進出することを確認していないし、土地を転売する先を探す活動も全くしていなかつた。

5  被告会社の収益は、顧客に売却した土地の代金のみであり、これといつた資産や預貯金はない。一方、支出としては、従業員に対する高額の給料(基本給の外、土地売上金の一〇パーセントの歩合給や褒賞金)や役員報酬、無料招待旅行の費用、被告会社の一般的な維持管理費、サラ金等からの借財の金利(サラ金からは、昭和五七年六月頃から借入れが始まつている。)、鞆社長が扱つた京都市山科区の土地売買に伴う多額の損失及び経費、並びに一部の顧客の要求に応じて約定に従い支払つた土地買戻し代金や高利率の利息金等があり、これらのため、常に支出が収益を上回る赤字の状態であり、昭和五六年一一月には銀行取引停止処分を受け、昭和五七年二月頃からは、給料の遅配が始まり、被告会社としては、新たな土地購入資金はおろか従前購入した土地の未払代金の資金にすら事欠く有様であり、販売会によつて得た収益も、従業員の歩合給、サラ金への返済、その他の経費ですぐなくなつてしまい、後に残らない状態であつた。特に、昭和五九年七月頃からは、サラ金の金利やヤクザを入れた顧客の土地を買戻すための資金捻出のため、全くの自転車操業となり、給料はもとより、事務所の家賃などの必要経費も払えない状態となつてしまい、同年一〇月には、右家賃の支払も遅れるようになるなど、多額の負債のため、被告会社の経営を続行することは不可能な状態となつたが、土地の販売会は、なんとか昭和六〇年七月まで続いた。

6  被告青木は、昭和五三年六月、前記株式会社三総京都支店に入社し、被告会社設立とともに同社に移り、昭和五四年八月には、被告会社の取締役に就任した。被告青木は、その職制上、営業部長からのちに専務(遅くとも昭和五七年五月には就任している。)となり、昭和五九年五月三〇日からは、前記のとおり代表取締役に就任した。ところで、被告青木は、前記のような北海道の土地の仕入交渉やその代金の支払等については、営業部長当時からこれを一手に扱つており、また、前記販売会の企画運営も、被告青木が、他の被告会社の幹部とともに、中心となつて行つてきたものであり、被告青木は、被告会社の経営状態も熟知していた。そして、被告青木としては、顧客に対し、高値で売却した土地を、被告会社が将来更に高値で他に転売することはできないし、高利率の利息金を付して買戻すこともできないことを認識しながら、目先の利益の必要に迫られ、敢えて販売会を主宰し、他の被告会社従業員らを指導し、同人らとともに顧客らに土地を販売し、また販売会で契約締結に至らなかつた顧客に対しては、引き続き売り込みをはかり契約が成立するように営業活動をすることを指導し、その一方で土地を購入した顧客には、更に土地の買い増しを求めるなどの営業活動を中心となつて行つていた。

二本件売買(別紙一覧表(11)の売買を除く)について

〈証拠〉によれば、原告らは、いずれも前記一3で認定したような販売会において、又は原告らの自宅に被告会社の従業員がやつてきて、前記一3と同様の説明を当時専務であつた被告青木ないし被告会社の従業員から聞いたこと、その際、被告会社が約束した買戻し期間は、三年又は一年(なかには五か月という短期間のものもあつた。)であり、被告会社が買戻す際付加する利息の利率は、三年間で三九パーセント又は四〇パーセントであつたり、一年間で二〇パーセントとか四〇パーセントとかであつたりしてばらつきがあるが、いずれにせよ短期間のわりには高利率であつたこと、原告らは、被告会社がその説明どおり履行してくれるものと誤信したうえ、別紙一覧表記載の各売買契約(但し、同表(11)の売買契約を除く)を締結し、その頃各売買代金を被告会社に支払つたことが認められ、これを覆すに足りる証拠はない。

三右売買についての被告らの責任

1(一)  右認定事実によれば、被告青木は、遅くとも昭和五七年二月頃以降、他の被告会社幹部らと共謀のうえ、真実は被告会社が顧客らに売却する北海道南部地区の土地が、大した価値はなく、将来も急激な値上りが到底望めず、そのため、同土地を他へ高値で転売したり、高利率の利息を付して被告会社が買戻すことはできないことを知りながら、被告青木自身又は被告会社従業員を通じて、これがあるように告げて顧客らを欺き、その旨誤信させたうえ、顧客らから右売買代金名下に代金相当額を詐取していたと認めることができる。

(二)  そして、原告らは、被告青木又は被告会社従業員らにより、いずれも右と同様の方法により欺かれ、その旨誤信したうえ、別紙一覧表記載の売買契約(同表(11)の売買契約を除く)を締結させられ、結局売買代金名下に代金相当額を詐取されたというべきであるから、被告青木は、民法七〇九条、七一九条に基づく損害賠償として、右売買代金相当額を賠償する責任がある。

2  ところで、右被告青木らの行為は、被告会社の営業活動としてなされたことは、前記認定事実により明らかであるから、被告会社も民法七一五条一項に基づき、被告青木と連帯して同額の損害賠償をする義務がある。

四別紙一覧表(11)の売買について

1  〈証拠〉によれば、原告田村は、昭和五八年三月二八日頃、被告会社の従業員であつた万木伸介から、どうしてもお金が必要なので、同人が被告会社から買つた土地を買つてくれ、その土地は、同人が三か月位で買戻すから、と頼まれ、それを信用して、同人と売買契約を結び、売買代金等として、同人に四三万七〇〇〇円を交付したこと、その後万木が死亡したため、原告田村は、同年七月頃、被告青木と交渉すると、被告会社は、既に、右土地を他の顧客に販売してしまつたことが判明し、そのため、同原告が購入した分は、被告会社から買つた形にし、被告会社が他の土地と同様に同原告から買戻し、同原告が出捐した金員は返還する旨被告会社との間で合意ができたこと、しかし、右金員は、結局返還されなかつたことが認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

2  被告会社の責任

右認定事実によれば、被告会社は、昭和五八年七月頃、原告田村との間で、同原告が万木から購入した土地を、被告会社から購入した形にして、他の土地と同様に買戻し、同原告が出捐した金員を返還することを合意したということができ、従つて、同原告が出捐した四三万七〇〇〇円については、被告会社は返還する義務がある。

3  被告青木の責任

(一) 前記一で認定した事実によれば、被告会社においては、昭和五七年二月頃から代表取締役の鞆が、あまり出社しなくなり、被告青木が、その頃から専務取締役として被告会社の業務全般を掌握して販売会などの営業活動を指導監督してきたこと、ところで、その営業活動は、北海道のほとんど価値のない原野などを、将来有望な土地と詐つて、高利率の利息を付して買戻すことなどを条件として、顧客に高値で売却する詐欺的な土地売買であり、約定どおり高額の利息を付して買戻すことなどは到底不可能であることはもとより、その売買を成立させるため多額の人件費、経費を必要とし、その面からも被告会社の経営が早晩破綻することは明らかであつたこと、しかし、被告青木は、右のことを熟知しながら、目先の利益追求のため、右土地売買を是正ないし中止しようとせず、却つて積極的にこれを推進し、その結果、被告会社は多額の負債により経営が破綻して支払不能となつてしまつたことが認められるから、被告青木は、悪意ないし重過失により、その取締役としての任務を著しく懈怠したものといえる。

(二)  そして、原告田村が、前記のとおり、昭和五八年七月頃、被告会社との間で、同原告が万木に交付した金員を被告会社から返してもらう合意をしていながら、その金員の返還を受けられず、同額の損害を受けたのは、被告青木の右任務懈怠行為により被告会社の経営が破綻したためと認められるから、被告青木は、商法二六六条の三により、原告田村が、出捐した四三万七〇〇〇円を、被告会社と連帯して賠償する義務がある。

五本件貸付について

1(一)  被告会社が、昭和五八年六月二八日、原告中畑から五〇万円を受領したこと、被告会社が、昭和六〇年二月一日、一三〇万円を原告中畑から、返済期限同年三月二日の約定で借り受けたこと、同年六月四日、右一三〇万円の内金五〇万円が返済されたことは当事者間に争いがない。

(二)  そして、原告中畑本人尋問の結果によれば、同原告が、昭和五八年六月に被告会社に交付した五〇万円は、被告会社に、一年後に返済してもらう約定で貸付けたものであることが認められる。

2  右によれば、被告会社は、原告中畑から合計一八〇万円を借受け、現在一三〇万円の残債務があることが認められるから、同額の金員を返還する義務がある。

3  被告青木の責任

(一)  原告中畑本人尋問の結果によれば、本件貸付金のうち、五〇万円については、被告会社の従業員から、北海道へ旅行に連れて行くので、金を都合してくれたら、妹と二人招待するといわれ貸付けたこと、次の一三〇万円の貸付においては、初め被告青木から北海道の雪まつりに旅行に行くのに被告会社に金がないので貸してほしい旨電話で依頼され、その後被告会社の従業員にも頼まれ結局貸付けたこと、その後再三返済の請求をしたが、結局五〇万円返還されたのみであることが認められ、これを覆すに足りる証拠はない。

(二)  ところで、右の貸付の当時、被告青木は、被告会社の専務取締役ないし代表取締役として、同社の業務全般を掌握していながら、悪意ないし重過失により取締役としての任務を著しく懈怠し、詐欺的な北海道の土地売買を積極的に継続して、これを是正ないし中止せず、その結果被告会社の経営を破綻させたことは前記認定のとおりであり、それにより、右土地販売のための旅行の費用のため本件貸付を行つた原告中畑は、被告会社から本件貸付金一八〇万円のうち、一三〇万円の返済を受けられず、同額の損害を被つたというべきだから、被告青木は、商法二六六条の三により、原告中畑に対し、右一三〇万円を被告会社と連帯して賠償する義務がある。

六結論

以上によれば、被告らに対し、連帯して、(1)原告中畑においては、金四四九万六〇〇〇円の損害賠償金ないし貸金、(2)原告平野においては、金二〇三万四〇〇〇円の損害賠償金、(3)原告田村においては、金五五三万六八〇〇円の損害賠償金ないし損害補償金、(4)原告竹内においては、金三二〇万円の損害賠償金、並びに(5)右各金員に対する訴状送達の日の翌日(被告青木については昭和六〇年一〇月一〇日、被告会社については同月一九日であることは記録上明らかである。)から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の各支払を求める原告らの請求はいずれも理由があるから、これを認容し、訴訟費用の負担につき、民事訴訟法八九条、九三条を、仮執行の宣言につき、同法一九六条一項を、それぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官彦坂孝孔)

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