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京都地方裁判所 昭和61年(特わ)109号 判決

本籍

京都市伏見区向島清水町一一番地

住居

同区向島清水町二一七番地

無職

笠原こと笠原正継

昭和二〇年九月二〇日生

右の者に対する相続税法違反、所得税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官山根英嗣出席の上審理をし、次のとおり判決する。

主文

被告人を懲役二年六月及び罰金一億円に処する。

未決勾留日数中一四〇日を右懲役刑に算入する。

右罰金を完納することができないときは、金一五万円を一日に換算した期間(端数は一日に換算する)、被告人を労役場に留置する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は

第一  川邊賢造らと共謀の上、京都府相楽郡山城町大字上狛小字南荒堀二六番地の一に居住する右川邊がその所有する同府城陽市大字奈島小字池ノ首一四番地二五ほか一三筆の山林を昭和五八年四月二一日及び同年一一月四日の二回にわたり、合計三億九九三三万二六四七円で売却したことに関する所得税を免れようと企て、右川邊の実際の昭和五八年分分離課税の長期譲渡所得金額は三億四九七一万六五三六円、総合課税の総所得(農業所得、不動産所得、給与所得)金額は六〇一万円でこれに対する源泉徴収税額を除いた所得税額は一億一八六四万五九〇〇円であるにもかかわらず、被告人が会長をしている全国同和対策促進協議会中央本部に右川邊が売却に要した費用として永代管理料一億円を支払ったと仮装するなどした上、昭和五九年三月一三日、同府宇治市大久保町井ノ尻六〇番地の三所在の所轄宇治税務署において、同署長に対し、右川邊の昭和五八年分分離課税の長期譲渡所得金額は二三三六万六〇七八円、総合課税の総所得金額は六〇一万円でこれに対する源泉徴収税額を除いた所得税額は四七一万一一〇〇円(ただし、計算誤りにより四七一万一〇四〇円と記載)である旨の内容虚偽の所得税の確定申告書を提出し、そのまま納期限までに右の正規の所得税額一億一八六四万五九〇〇円との差額一億一三九三万四八〇〇円を納付せず、もって不正の行為により同額の税を免れ

第二  桝茂光らと共謀の上、京都市上京区上立売通堀川西入芝薬師町六二五番地に居住しマス歯科医院を経営する右桝の所得税を免れようと企て、右桝の実際の昭和五八年分の総所得金額は七八六九万四六五八円でこれに対する源泉徴収税額を除いた所得税額は三八八八万四四〇〇円であるにもかかわらず、前記全国同和対策促進協議会中央本部に右桝が必要経費として地域対策費三〇〇〇万円を支払ったと仮装するなどした上、昭和五九年三月一四日、同市上京区一条通西洞院東入元真如堂町三五八番地所在の所轄上京税務署において、同署長に対し、右桝の昭和五八年分の総所得金額は一六九六万五五八八円でこれに対する源泉徴収税額を除いた所得税額は四一万八〇〇〇円である旨の内容虚偽の所得税の確定申告書を提出し、そのまま納期限までに右の正規の所得税額三八八八万四四〇〇円との差額三八四六万六四〇〇円を納付せず、もって不正の行為により同額の税を免れ

第三  松井宏次、司法書士大西勝則及び全国同和対策促進協議会京都府連合会本部事務局長黒宮功らと共謀の上、松井利一が昭和五九年四月九日死亡したことにより、いずれも国内に居住する同人の実子松井宏次、同友田史江、同小泉敏恵、右松井宏次の子で右松井利一の養子松井宏一郎、同松井啓二郎及び同松井利治外一名において右松井利一の財産を相続したことに関し、右松井宏次において同人の相続財産にかかる相続税については納税義務者として、右友田史江、小泉敏恵、松井宏一郎、松井啓二郎及び松井利治の各相続財産にかかる相続税については各納税義務者の代理人としてその各相続税の申告をするにあたり、これを免れようと企て、実際の相続財産の課税価格の総額が一八億二〇二五万三〇〇〇円でこれに対する相続税額の総額は八億〇六〇四万四〇〇〇円であり、うち右松井宏次の相続財産の課税価格が三億五四八一万七〇〇〇円でこれに対する相続税額は一億九三八三万二五〇〇円であり、右友田史江の相続財産の課税価格が一億一三六九万九〇〇〇円でこれに対する相続税額は六一六二万九〇〇〇円であり、右小泉敏恵の相続財産の課税価格が一億一三六九万九〇〇〇円でこれに対する相続税額は六一六二万九〇〇〇円であり、右松井宏一郎の相続財産の課税価格が三億二四三七万一〇〇〇円でこれに対する相続税額は一億七六七八万四二〇〇円であり、右松井啓二郎の相続財産の課税価格が二億八八九六万九〇〇〇円でこれに対する相続税額は一億五七八三万七九〇〇円であり、右松井利治の相続財産の課税価格が二億八一六四万円でこれに対する相続税額は一億五三八〇万一八〇〇円であるにもかかわらず、被相続人の右松井利一が被告人が会長をしている前記全国同和対策促進協議会京都府連合会本部に一一億三二〇〇万円の債務を負担しており、右松井宏次においてそのうち三億〇二〇〇万円を、右友田史江においてそのうち五五〇〇万円を、右小泉敏恵においてそのうち五五〇〇万円を、右松井宏一郎においてそのうち二億六六〇〇万円を、右松井啓二郎においてそのうち二億三〇〇〇万円を、右松井利治においてそのうち二億二四〇〇万円をそれぞれ承継したと仮装するなどした上、同年一一月一〇日被告人、京都市伏見区鑓屋町所在の所轄伏見税務署において、同署長に対し、相続財産の課税価格の総額が七億〇五五九万四〇〇〇円でこれに対する相続税額の総額は一億五〇二二万七九〇〇円であり、右松井宏次の相続財産の課税価格が六〇三〇万四〇〇〇円でこれに対する相続税額は二四九七万七六〇〇円であり、右友田史江の相続財産の課税価格が五八六九万九〇〇〇円でこれに対する相続税額は二四三九万〇八〇〇円であり、右小泉敏恵の相続財産の課税価格が五八六九万九〇〇〇円でこれに対する相続税額は二四三九万〇八〇〇円であり、右松井宏一郎の相続財産の課税価格が六一五五万四〇〇〇円でこれに対する相続税額は二五七〇万九二〇〇円であり、右松井啓二郎の相続財産の課税価格が六二一五万二〇〇〇円でこれに対する相続税額は二五六四万九二〇〇円であり、右松井利治の相続財産の課税価格が六〇八二万三〇〇〇円でこれに対する相続税額は二五〇〇万一五〇〇円である旨の内容虚偽の相続税の申告書を提出し、右松井宏次の右相続にかかる正規の相続税額一億九三八三万二五〇〇円との差額一億六八八五万九〇〇〇円を、右友田史江の右相続にかかる正規の相続税額六一六二万九〇〇〇円との差額三七二三万八二〇〇円を、右小泉敏恵の右相続にかかる正規の相続税額六一六二万九〇〇〇円との差額三七二三万八二〇〇円を、右松井宏一郎の右相続にかかる正規の相続税額一億七六七八万四二〇〇円との差額一億五一〇七万五〇〇〇円を、右松井啓二郎の右相続にかかる正規の相続税額一億五七八三万七九〇〇円との差額一億三二一八万八七〇〇円を、右松井利治の右相続にかかる正規の相続税額一億五三八〇万一八〇〇円との差額一億二八八〇万〇三〇〇円をそれぞれ納付せず、もって不正の行為により右松井宏次、友田史江、小泉敏恵、松井宏一郎、松井啓二郎及び松井利治に対する右各同額の税を免れ

第四  前記桝茂光らと共謀の上、右桝の所得税を免れようと企て、右桝の昭和五九年分の総所得金額は四四一三万一一七〇円でこれに対する源泉徴収税額を除いた所得税額は一四〇四万三四〇〇円であるにもかかわらず、前記全国同和対策促進協議会京都府連合会本部に右桝が必要経費として地域対策費二〇〇〇万円を支払ったと仮装するなどした上、昭和六〇年三月一一日、前記所轄上京税務署において、同署長に対し、右桝の昭和五九年分の総所得金額は一三一二万〇七三三円で還付を受ける源泉所得税額が二五九万〇八八七円である旨の内容虚偽の所得税の確定申告書を提出し、そのまま納期限を徒過し、もって不正の行為により右の正規の所得税額一四〇四万三四〇〇円との差額一六六三万四二〇〇円(一〇〇円未満切り捨て)を免れ

第五  山田宏、山田裕信及び前記黒宮功らと共謀の上、山田吉之助が昭和六〇年二月二六日死亡したことにより、いずれも国内に居住する同人の養子山田裕信外六名において右山田吉之助の財産を相続したことに関し、その各相続税の申告をするにあたり、右山田裕信の相続財産にかかる相続税を免れようと企て、実際の相続財産の課税価格の総額が五億三二八六万六〇〇〇円で、これに対する相続税額の総額は一億九六六一万一六〇〇円であり、うち右山田裕信の相続財産の課税価格が三億八六一九万八〇〇〇円でこれに対する相続税額は一億四二九七万二四〇〇円であるにもかかわらず、被相続人の右山田吉之助が全国同和対策促進協議会に三億一〇〇〇万円の債務を負担しており、右山田裕信において同債務を全額承継したと仮装するなどした上、同年八月二〇日、前記所轄伏見税務署において、同署長に対し、相続財産の課税価格の総額が二億二三七六万七〇〇〇円でこれに対する相続税額の総額は五〇五〇万五八〇〇円であり、うち右山田裕信の相続財産の課税価格が七七〇六万三〇〇〇円でこれに対する相続税額は一七四九万六五〇〇円である旨の内容虚偽の相続税の申告書を提出し、そのまま納期限までに右山田裕信の右相続にかかる正規の相続税額一億四二九七万二四〇〇円との差額一億二五四七万五九〇〇円を納付せず、もって不正の行為により同額の税を免れ

第六  星野治郎及び前記大西勝則らと共謀の上、星野孟が昭和六〇年四月一一日死亡したことにより、いずれも国内に居住する同人の実子星野治郎外三名において右星野孟の財産を相続したことに関し、その各相続税の申告をするにあたり、右星野治郎の相続財産にかかる相続税を免れようと企て、実際の相続財産の課税価格の総額が一一億一七二一万六〇〇〇円でこれに対する相続税額の総額は三億一二九九万六七〇〇円であり、うち右星野治郎の相続財産の課税価格が四億六五〇五万五〇〇〇円でこれに対する相続税額は二億四七二四万九五〇〇円であるにもかかわらず、被相続人の右星野孟が前記全国同和対策促進協議会に七億円の債務を負担しており、右星野治郎においてそのうち三億六三〇〇万円を承継したと仮装するなどした上、同年一〇月二二日、前記所轄伏見税務署において、同署長に対し、相続財産の課税価格の税額が三億八〇二五万二〇〇〇円でこれに対する相続税額の総額が七〇〇七万七三〇〇円であり、うち右星野治郎の相続財産の課税価格が一億二九四七万七〇〇〇円でこれに対する相続税額は四七〇六万八三〇〇円である旨の内容虚偽の相続税の申告書を提出し、右星野治郎の右相続にかかる正規の相続税額二億四七二四万九五〇〇円との差額二億〇〇一八万一二〇〇円を納付せず、もって不正の行為により同額の税を免れ

たものである。

(証拠の標目)

判示事実全部について

一  被告人の当公判廷における供述

判示第一の事実について

記録中の証拠等関係カード(検察官請求分)に記載の番号83ないし106の各証拠

判示第二及び第四の各事実について

一  被告人の検察官に対する供述調書(昭和六一年六月二日付)

一  桝茂光及び桝美智子の検察官に対する各供述調書謄本

一  桝茂光(五通)、桝美智子(一五通)、桝和生(二通)、桝敬子、桝充弘、原田知子、寄田久美子(二通)、中田久弘(昭和六一年五月三〇日付)、岩和田惟明、青木滋朗(二通)及び薬師寺喜代美に対する大蔵事務官の各質問てん末書謄本

一  大蔵事務官作成の各査察官調査書(但し、大蔵事務官足立実次作成の昭和六一年八月二〇日付及び同岡本慎太郎作成の同年九月一日付の二通を除く)謄本

一  大蔵事務官作成の「脱税額計算書説明資料」と題する書面謄本

判示第二の事実について

一  玉置昭作(二通)及び池上陽(三通)に対する大蔵事務官の各質問てん末書謄本

一  大蔵事務官作成の脱税額計算書(昭和六一年九月一七日付-桝茂光の昭和五八年分に関するもの)謄本

一  大蔵事務官謄本作成の所得税確定申告書(桝茂光の昭和五八年分の所得税の申告に関するもの)謄本

一  大蔵事務官足立実次作成の査察官調査書(昭和六一年八月―二〇日付)謄本

判示第三の事実について

一  被告人の検察官に対する各供述調書(昭和六一年一月二五日付、同月二九日付、同月三一日付、同年二月一二日付-二通)

一  分離前の相被告人黒宮功の当公判廷における供述

一  証人安東謙の当公判廷における供述

一  松井宏次(八通-各謄本)、黒宮功(昭和六一年一月二五日付、同年二月一日付、同月四日付、同月五日付、同月六日付)、稲石文男(同年一月二四日付-謄本)、大西勝則(同日付、同月二八日付、同年二月五日付-各謄本)、大西弘一(謄本)、松井マサ(二通-各謄本)、友田史江(謄本)、小泉敏恵(謄本)、藤本昇(二通-各謄本)及び松井啓子(二通-各謄本)の検察官に対する各供述調書

一  大蔵事務官作成の脱税額計算書(昭和六一年二月五日付)謄本

一  大蔵事務官作成の証明書(昭和六一年二月五日付-松井宏次らの相続税の申告に関するもの)謄本

判示第四の事実について

一  中田久弘に対する大蔵事務官の各質問てん末書(昭和六一年六月一三日付、同年八月二〇日付)謄本

一  大蔵事務官作成の脱税額計算書(昭和六一年九月一七日付-桝茂光の昭和五九年分に関するもの)謄本

一  大蔵事務官謄本作成の所得税確定申告書(桝茂光の昭和五九年分の所得税の申告に関するもの)謄本

判示第五の事実について

前記証拠等関係カードに記載の番号57ないし79、81、82の各証拠

判示第六の事実について

前記証拠等関係カードに記載の番号107ないし114、116ないし124、126、128、129の各証拠

(法令の適用)

罰条

判示第一、第二、第四の各所為 いずれも刑法六五条一項、六〇条、所得税法二三八条一項

判示第三の所為 各納税義務者ごとに刑法六五条一項、六〇条、相続税法六八条一項(友田史江、小泉敏恵、松井宏一郎、松井啓二郎、松井利治の税を免れた点についてさらに同法七一条一項)

判示第五、第六の各所為 いずれも刑法六五条一項、六〇条、相続税法六八条一項

観念的競合の処理 刑法五四条一項前段、一〇条(判示第三の各罪は一罪として犯情の最も重い松井宏次の税に関する脱税の罪の刑で処断)

刑種の選択 いずれも懲役と罰金の併料刑

罰金の多額 所得税法二三八条二項(判示第一、第二、第四の各罪について)相続税法六八条二項(判示第三、第五、第六の各罪について)

併合罪の処理 刑法四五条前段

懲役刑について 刑法四七条本文、一〇条(犯情の最も重い判示第三の罪の刑に法定の加重)

罰金刑について 刑法四八条二項(各罪所定の金額を合算)

宣告刑 懲役二年六月及び罰金一億円

未決勾留日数の算入 刑法二一条(一四〇日を右懲役刑に)

労役場留置 刑法一八条(右罰金の金一五万円を一日に換算した期間-端数は一日に換算する)

(量刑の事情)

本件は、被告人が全国同和対策促進協議会中央本部会長あるいは同協議会京都府連合会本部会長として所得税や相続税の脱税請負い、六件総額一一億円余の脱税をしたという事案であって、本件が納税の公平を侵し、誠実な納税者の納税意欲を害した程度は極めて著しく、しかも被告人は脱税請負グループの中心人物として脱税の報酬として合計約二億六〇〇〇万円もの不当に利得をしているので、その刑責はまことに重大であり、また本件の中には同種手口による脱税請負事犯が摘発され始めた後に犯されたものもあるので、その点での犯情は特に悪いといわざるをえない。

してみると、本件は同和団体に対する税務当局の弱い姿勢に誘発されたという面があること、脱税額の中には被告人の行った不正行為以外の納税義務者本人の不正行為等による分も一部含まれていること、被告人は事実をすべて認め反省していること、不当な利得の一部を納税義務者本人に返還していること、これまで罰金以外に前科はないことなど被告人に有利な事情を充分考慮に入れても、主文の刑はやむをえないところである。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判官 森岡安廣)

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