大判例

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京都地方裁判所 昭和61年(行ウ)19号 判決

原告(右両事件)

大同建設株式会社

右代表者代表取締役

小森保彦

右訴訟代理人弁護士

佐賀義人

右同

石川良一

被告(第一九号事件)

京都市開発審査会

右代表者会長

貝原栄

被告(第二二号事件)

京都市建築審査会

右代表者会長

藤原元典

右被告ら訴訟代理人弁護士

納富義光

訴訟参加人1(右両事件)

前田武彦

訴訟参加人2(右同)

山田達雄

訴訟参加人3(右同)

細川種一

訴訟参加人4(右同)

豊岡澄

訴訟参加人5(第一九号事件)

北村佳久

訴訟参加人6(右同)

尾中利輔

訴訟参加人7(右同)

古町尊治

訴訟参加人8(右同)

高桑清太郎

訴訟参加人9(右同)

安田孝之

訴訟参加人10(右同)

九嶋豊造

訴訟参加人11(右同)

奥村秀雄

訴訟参加人12(右同)

吉川和宏

訴訟参加人13(右同)

中本一英

訴訟参加人14(右同)

広田夏夫

訴訟参加人15(右同)

青山博

訴訟参加人16(右同)

松井敏泰

訴訟参加人17(右同)

加地博

訴訟参加人18(右同)

井上清

訴訟参加人19(右同)

井上泰介

訴訟参加人20(右同)

山崎義二

訴訟参加人21(右同)

杉村要

右訴訟参加人二一名訴訟代理人弁護士

飯田昭

村井豊明

湖海信成

中島晃

小川達雄

安保嘉博

主文

一  被告京都市開発審査会が、原告の京都市右京区嵯峨朝日町二―三の土地上の建築計画につき都市計画法二九条の開発許可は不要である旨の京都市長の昭和六〇年一〇月一七日付証明書交付処分を取消した、昭和六一年一〇月三日付裁決は、これを取消す。

二  被告京都市建築審査会が、原告の前項の建築計画につき京都市建築主事が昭和六〇年一一月二九日付確認番号第八五右〇八七六号でした建築基準法六条の適合確認処分を取消した、昭和六一年一〇月九日付裁決は、これを取消す。

三  訴訟費用は被告らの負担とし、訴訟参加によつて生じた訴訟費用は訴訟参加人らの負担とする。

事実

(原告の求める判決)

一  被告京都市開発審査会が、京都市右京区嵯峨朝日町二―三の土地上の原告の建築計画につき都市計画法二九条の開発許可は不要である旨の京都市長の昭和六〇年一〇月一七日付証明書発行処分を取消した、同六一年一〇月三日付裁決は、これを取消す。

二  被告京都市建築審査会が、前項の原告の建築計画につき、京都市建築主事が昭和六〇年一一月二九日付確認番号第八五右〇八七六号でした建築基準法六条の適合確認処分を取消した、同六一年一〇月九日付裁決は、これを取消す。

三  訴訟費用は被告らの負担とする。

(被告ら及び訴訟参加人らの求める判決)

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

(原告の請求原因)

第一  事実関係

一  原告は、市街化区域内である京都市右京区嵯峨朝日町二―三の土地上に、敷地面積七六四六・九四平方メートル、鉄筋コンクリート造り地下一階地上七階建て、一六九戸(店舗二戸を含む)の共同住宅(以下、本件マンションという)の建築を計画した。その建物、敷地などの関係は、別紙の被告開発審査会の裁決別紙図面に記載のとおりである。

二  京都市長は、昭和六〇年七月二四日、原告に対し、右建築計画について土地の形質、区画の変更がないとして、都市計画法二九条の許可は不要である旨の証明書を交付した。

三  原告は右証明書を添付して、建築確認の申請をし、建築主事よりその確認を得た。

四  原告は近隣住民との交渉ののち、本件マンションの設計変更を行なつた。

五  京都市長は、昭和六〇年一〇月一七日、原告に対し、右四の設計変更後の建築計画について土地の形質、区画の変更がないとして、都市計画法二九条の許可は不要である旨の証明書(以下、本件開発許可不要証明書という。)を交付した。

六  原告は、昭和六〇年一〇月二五日、右証明書を添付して、右設計変更後の建築計画につき建築確認の申請をし、京都市建築主事は同年一一月二九日、確認番号第八五右〇八七六号で、この建築計画が法規に適合している旨の確認(以下、本件建築確認という。)をした。

七  訴訟参加人二一名ほか二九四名の者は、同年一一月六日、右二の開発許可不要証明書につき、同年一二月一二日に本件開発許可不要証明書につき、被告開発審査会に審査請求をした。

八  訴訟参加人二一名は、別紙の被告開発審査会の裁決別紙図面に示すとおりの位置に居住する者であり、その余の審査請求人は本件マンション予定地の近隣に居住する者である。

九  被告開発審査会は、昭和六一年一〇月三日、右七の審査請求につき、1 訴訟参加人二一名以外の者の審査請求を却下し、2 右二の開発許可不要証明書に対する審査請求を却下し、3 訴訟参加人二一名の審査請求に基づき本件開発許可不要証明書を取り消す旨の裁決(この裁決のうち3の部分を本件開発許可不要証明書取消裁決という。)をした。この裁決の理由は別紙のとおりである。

一〇  第二二号事件訴訟参加人四名は、昭和六〇年一一月六日に本件建築確認につき、被告建築審査会に審査請求をした。

一一  被告建築審査会は、昭和六一年一〇月九日、右一〇の審査請求に基づき、本件建築確認を取り消す旨の裁決(以下、本件建築確認取消裁決という。)をした。この裁決の理由は別紙のとおりである。

第二  本件開発許可不要証明書取消裁決の違法性

一  被告開発審査会の審査権限

都市計画法は不服審査機関として開発審査会を設け、同法五〇条一項はその審査権限事項を規定し、その中には同法二九条の規定に基づく処分を含めている。

しかし、本件開発許可不要証明書は、後記二に記載するとおり、同法二九条に関係のない書面であつて、「同法二九条の規定に基づく処分」には該当しない。

したがつて、被告開発審査会は本件開発許可不要証明書についての審査請求を判断する権限を有しない。

二  本件開発許可不要証明書の処分性

1 右証明書は、建築基準法施行規則一条七項、都市計画法施行規則六〇条の都市計画法二九条の規定に適合していることを証する書面ではない。

都市計画法二九条は「市街化区域又は市街化調整区域内において開発行為をしようとする者は、……都道府県知事の許可を受けなければならない。ただし、次に掲げる開発行為についてはこの限りではない。」と規定している。これは許可を申請しようとする者が開発行為を行うことを前提とした規定である。このことからすると、同条に適合するとは、開発行為を行うについて許可を得た場合、或は開発行為に該当するものの同法但書により許可を受けなくともよい場合の何れかを意味することになる。従つて、同条に適合していることを証する書面とは右何れかの場合に該当する事を示す書面ということになる。そうすると、そもそも開発行為を行わない場合は同条の適用を受けるものではない。この意味で非開発行為を行おうとする場合に、このことを証する書面は、同法の関知しないところと言わざるを得ない。同時に、この様な書面は建築基準法施行規則一条七項の関わるところのものでもない。このようにみてくると、開発行為不存在によることからそもそも許可不要であることを証明してもらうための証明書の発行交付については、成文法上の明文上規定がないこととなる。

このことは被告らも認めており、従つて、右証明書については都市計画法施行規則六〇条、建築基準法施行規則一条七項を類推適用するという。その理由として、開発許可証明書並びに開発行為が都市計画法二九条但書各号に当り開発許可が不要である旨の証明書の発行交付がいずれも知事(市長)の権限であるから、その趣旨を類推して、開発行為不存在による許可不要証明書の発行交付も亦知事(市長)の権限である、というのである。しかし、「権限」とは、公共団体の機関の行為が法律上公共団体の行為として効力を生ずる範囲を指称するものであるが、開発行為が存在しないとの判断を表示したにすぎない本件の如き証明は何ら法律上の効力を発生させるものでなく、権限とは関わりのないものである。

本件の如き証明書は、知事(市長)の権限、義務に基づき発行交付されるのではなく、建築主事の建築確認審査の作業を円滑迅速に行われるための行政上の手法として発行交付されているものである。本件証明書の発行交付が知事(市長)の権限行為だとする見解は誤りである(被告開発審査会の裁決書にも引用された仙台地裁判決)。

都市計画法二九条は開発行為が生ずる場合の規定である。従つて同法施行規則六〇条や建築基準法施行規則一条七項にいう都市計画法二九条に適合することの証明書面というのも、開発行為を前提としたもので、開発許可の証明書又は同条但し書の除外事由に当たり開発許可が不要である旨の証明書と言わねばならない。そもそも開発行為不存在の故に開発許可不要との証明書の如きは、右条項の予定外、枠外ということになる。このことは別の観点からも言える。敷地面積一〇〇〇平方メートル未満の土地でも、分譲などの場合、開発行為がまま生ずる。それにも拘らず、都市計画法二九条、同法施行令一九条により、開発許可は不要とされる。一方、建築基準法施行規則一条七項は一〇〇〇平方メートル以上の敷地について都市計画法二九条に適合していることの証明書面の添付を要するとしており、一〇〇〇平方メートル未満なら仮に開発行為があつても同書面の添付を要しないとしている。これに徴すれば、そもそも開発行為の存しない場合には、より一層に、同書面の添付を求める実質的必要性は否定されて然るべきである。

2 前述した如く、右証明書の証明にかかる内容は、都市計画法二九条但書記載の除外事由に当たる結果開発許可が不要だとする証明ではなく、そもそも開発行為が存在せず従つて開発許可申請も開発許可も不必要であるという市長の見解、判断の表示である。いわば開発行為不存在証明なのである。かかる証明ないし証明書の交付は、国民に対し具体的権利義務を発生させるものではないし、国民の権利義務に直接関係しその法律上の利益を左右するものでもない。「処分」に当たらないことは自明である。

これに対し、参加人らは「本件開発許可不要証明書の発行は、開発行為に該当しないと言う開発許可権者の判断を公的に証明する行為であつて、これにより、原告に対し、開発許可を受けなくてもよい、即ち開発許可基準を充足するための負担増を一切免れさせると言う法的効果を発生させるものである。」と主張している。然しながら、かかる主張は誤りである。というのは、本件証明書は元々開発行為に該当しないものにつき開発行為に該当しないと表明したに過ぎなく、開発に伴う負担は元々負つていないものである。従つて、これを免れると言うことも有り得ない。

被告開発審査会は、開発行為不存在による許可不要の証明は行政法上の確認行為で有り準法律的行政行為であると論じ、これを以つて右証明書発行交付行為について「処分性」を認める一根拠としている。行政法上の確認行為という主張は、成文法上の根拠もない点からしても首肯し難く、特段の法律上の効力を発生させない行為であるから準法律行為的行政行為論にも賛同しかねるのであるが、同被告の右主張に対しては、最高裁昭和四三・四・一八判決は、行政庁の行為であつても、性質上法的効果を有しないものであり「処分」性を有しない旨を判示しているのである。この理は本件についても全く同様である。むしろ、成文法の根拠を有する判定の場合に比すれば、成文法の根拠を欠く本件証明ないし証明書の発行交付の如きは「処分」性の点において更に稀薄であり、開発行為が存在せずそれに当たらないという知事(市長)の意見、判断にすぎないものと解される。本件証明書の内容が鑑定的性質を有するにとどまる以上、右最高裁判決の趣旨に従い「処分性」を否定せざるを得ず、準法律行為的行政行為などと論ずる余地もない。

三  訴訟参加人らの審査請求適格

1 行政事件訴訟法九条が処分取り消しの訴の原告適格について「当該処分の取り消しを求めるにつき法律上の利益を有する者」に限つているのに対し、行政不服審査法四条では「行政庁の処分に不服がある者」に審査請求などの不服申立適格を認めていることは、被告らのいうとおりである。そこで、行政事件としての取消訴訟の原告適格と行政不服申立適格との間に差異があるかが問題になるが、これについては周知のジュース表示事件についての最高裁判決(昭和五三・三・一四)は「公正取引委員会の処分について不服があるものとは、一般の行政処分についての不服申立の場合と同様に、当該処分について不服申立をする法律上の利益がある者、すなわち、当該処分により自己の権利若しくは法律上保護された利益を侵害され又は必然的に侵害されるおそれのある者をいう、と解すべきである。」と判示している。「一般の行政処分についての不服申立の場合」とは行政不服審査法による不服申立を指称していることは疑う余地もないから、最高裁は右判示によつて右法律による不服申立においても、行政不服審査法による不服申立においても、その不服申立適格についてはひとしく、いわゆる「法的利益救済説」によることを明らかにしているのである。

2 参加人らは、本件証明書の発行交付並びに本件マンションの建築によつてその生活利益を侵害されると主張している。日照、採光、通風、交通、プライバシー、上下水道などに生活上の被害を生ずるという。

先ず、基本的にみて、仮に付近住民にそのような生活利益の侵害を生ずるとしても、それは本件マンションが構築され、それに多数人が居住することによつてはじめて発生するものである。知事(市長)が本件マンション建築にあたり開発行為が不存在であり開発許可の対象たり得ないと判断してその旨の証明書を発行交付したからといつて、それにより直ちに参加人らや被告らのいうような生活利益の侵害が発生するものではない。既に述べたとおり、本件証明書は建築主事の建築確認審査の作業を円滑迅速に行わせるための行政上の一手法として発行交付されるものであり、いわば行政機関相互間の連絡文書に相当する。周辺住民の権利義務、法的利益に何ら関係するものではない。

被告らは、本件証明書の発行交付が直接に付近住民の利益にかかわるものでないとしても、右証明書の交付が建築主事をして、開発許可証明書など建築基準法施行規則一条七項が本来要求している書面の添付がないまま、本件マンションについて建築確認をさせる結果になり、ひいては前記の各種生活被害が発生することになる、と主張する如くである。しかし、このようなめぐりめぐつての生活侵害までをも考慮して、本件証明書発行交付についての不服申立適格を認めるのは行き過ぎと言うべきである。

3 さらに、もし本件証明書が発行交付されず、開発不許可とされた場合は、周辺住民の従前から享受した生活利益が維持され、本件証明書の発行交付の結果参加人ら主張のごとく若干の生活利益の侵害が生ずるとしても、その生活利益なるものは都市計画法上の開発不許可処分等によつて維持される附随的、反射的な利益にすぎず、法律上の権利や法律上保護された利益にはあたらない。

開発行為の許可、不許可など、開発行為を規制する都市計画法の目的とするところは、「都市の健全な発展と秩序ある整備を図り、もつて国土の均衡ある発展と公共の福祉の増進に寄与すること」(同法一条)であり、都市計画の基本理念は「健康で文化的な都市生活及び機能的な都市活動を確保すべきこと並びにこのためには適正な制限のもとに土地の合理的な利用が図らるべきこと」(同法二条)とされている。

国土の狭隘なわが国においては、都市における土地の高度利用、機能的活用の要請は極めて大であり、健康で文化的な市民生活の維持に配慮しつつ機能的な都市活動、土地の合理的高度利用が特に図られねばならない。かかる観点からすれば、都市計画法は全体としての都市住民の利益乃至国民全体の利益に奉仕するものであつて、個々の住民に具体的権利を付与したりその利益を個別に保護する趣旨のものではない。開発不許可などによつて維持される周辺住民の利益なるものは、都市計画法上の制限によつて付与され保護される法律上の利益に当たらず、公益的な規制がなされることによつて間接に保護されている附随的、反射的な利益にすぎないのである。

他方、本件マンションの建築による侵害についてみてみるも、参加人らの主張する各利益の侵害はやはり、以下に述べる如く、法的に保護された、或は法的な保護に値する利益の侵害とは言えない。

日照については本件マンションの東側、西側の参加人らについては冬至の時点でさえ約半日は日照を得られるもので、又北側の参加人らについても日照が全く閉ざされるものではない。この日照の点については本件マンションの建築につき建築基準法五〇条の二による日影規制を遵守しているものである。

通風についても、本件マンションと参加人らとの間には少なくとも約三・六メートル以上の間隔を有しており何れも通風障害は生じるものではない。

プライバシーについては、参加人らは本件マンションに面する窓は一日中カーテンを閉めなければならないと主張している。然し、本件マンションは上階になる程隣地境界より離れる形状(セットバックさせる方法)で建てるものであり、又参加人らに面する部分はベランダになつており、各階のベランダ上部の高さは床面より約一・二メートルとなつており、人の平均的な背丈から見て、常に参加人らの日常行動が全て見えるものではない(むろん、敢えて覗こうとする場合は別である)。

以上より、参加人らは本件マンションが建てられる前のグランド状態で受けた十分過ぎる日照・通風等から比較して、これを変化させるものを全て侵害と主張していることが窺い知れる。然し、本件マンションを建築した時点での前記変化では何れも法的にみた場合、それらを全て侵害と考えられるものではなく、少なくとも受忍限度の範囲内の変化、侵害であると言わざるを得ない。

結局、本件証明書の発行交付によつて周辺住民に従前の生活利益を害されることがあるとしても、その利益は法律上保護された利益に当たらない以上、参加人らについて行政不服審査法上の不服申立適格を否定せざるを得ない。

付言すれば、そもそも参加人らの権利侵害云々の主張は本件各処分と因果関係はない。というのは仮に開発に該当するとしても、マンションが建てられなくなるものではなく、又本件土地の中央に公園を設け、その周囲にマンションを建てれば参加人らが主張すると同様の侵害は起こり得るからである。

4 被告らは、不服申立適格に関し、最高裁判決のいう「法的利益救済説」を採らず、いわゆる「利益救済説」の見解によるものと思われる。

法律上保護された利益ではなく事実上の利益であつても、救済に値する利益侵害がある以上はこれを救済するという見解であるが、これに対しては基準が不明確であり、事実上民衆訴訟を認めるおそれもあるという批判のあるところであつて左袒し得ない。

被告らはその裁決書において、不服申立適格を広く解し、その理由として行政不服審査法一条の「国民に対し広く行政庁に対する不服申立のみちを開く」という立法趣旨を掲げている。かかる立法の趣旨をそもそも被告らは誤解しているのだが(不服対象の問題と不服申立適格の問題とを混同している)仮に右のとおりであるとしても、救済すべき国民の利益を特段の基準もなくして拡大することは、ひいては住民エゴの容認、助長につながるもので危険である。もし周辺住民の事実用上生活侵害が発生し、それが受忍限度を超えるものとして救済に値するときは、民事上の救済措置を以つてこれを救済すれば足りるのであり、敢えて右の危険を侵して利益救済説に組すべきではない。

四  審査請求期間

1 本件マンションの建築につき、原告としてはできる限り近隣住民、即ち審査請求人との話合いを行い、譲歩すべきところは譲歩するという対応をしてきた。その結果として、当初適法に建築確認を得た計画につき、住民側の意向並びに京都市の行政指導に基づき本件マンションの設計変更を行い建築確認の取り直しをした。つまり原告は本件マンションの建築につき建築確認を二度得ているのである。

その都度建築確認申請にそれぞれ開発不要証明書が添付してあり、その日付は前者が昭和六〇年七月二四日付であり、後者のは同年一〇月一七日付のであつた。その内、審査請求人は審査請求として前者の取消しを求め、これに対し被告は後者についても前記見解から本件裁決を行つた。

2 しかし、かかる見解はその実態を無視した極めて形式的な論理である。建築されるマンションの構造に基本的変更がないことから一部手直しにより再度交付された開発不要証明は前者の延長であり、その事の実態からして当初の開発不要証明の発行を問題とするのが妥当である。加えて、原告が開発不要証明を再度取り直すに至つた経過を見るとそれはあくまでも住民側の要望を受け入れるという原告の努力の現れであるにもかかわらず、これを逆手にとつて、原告に対し不利益に援用することは信義則に反する。従つて、本件裁決は、昭和六〇年七月二四日付で為された開発許可不要証明書に対し為されるべきものと言える。

3 審査請求人がこの行為を知つた日は昭和六〇年七月二六日である。本件土地周辺住民らで組織された、嵯峨朝日町東町自治会(以下「東町自治会」という)は本件マンションの建築に反対し、原告との間で昭和六〇年三月二三日を第一回とし、同年八月三〇日までの間六回に亘り本件マンション建築に関し地元説明会を持ち、同年七月一一日東町自治会役員が京都市建設局開発指導課を訪れた際、本件行為の対象となつた本件マンション建築計画について同課課長より「開発行為として規制すべき区画形質の変更は存しない」旨申し渡され、同年七月二六日には同市職員が前記地元説明会に出席し、開発許可は不要と認める旨の証明書の発行処分につき伝え知らされている。

4 審査請求人に於て右証明書を不服として審査請求為し得る期間は昭和六〇年七月二七日より六〇日以内の同年九月二四日までということになり、従つて同年一一月六日に為された審査請求人の審査請求は申立期間徒過により却下されるべきものである。

五  本件建築と開発行為

本件マンション建築には、都市計画法四条一二号の開発行為をともなわないから、同法二九条の許可は不必要である。

1 本件マンションの位置、構造、敷地は、被告開発審査会の裁決書別紙図面に示すとおりである。同別紙第二図面A、B、C、Dの部分は共同住宅(計一六七戸、Bの一、二階には店舗二戸)であり、Eの部分は共同住宅居住者のための駐車場建物と集会所である。C、Dの結がる部分にも住宅があり、A、B、Cの結がる部分(同別紙第一図面で斜線の書かれていない部分)は、その一、二階は吹き通しの通路、三階以上は住宅となつている。

2 開発行為とは、「主として建築物の建築の用に供する目的で行う土地の区画形質の変更」とされている(都市計画法二九条、四条一二号)ところ、「土地の区画の変更」とは具体的にどのような場合をいうのか一義的には明らかでない。ただ、分合筆のような、観念上の区画変更がこれに含まれないとすることは定説である。また、一土地上に縄張りして区画することも、土地そのものに区画を施すものでないから「土地の区画の変更」に当たらないとされている(大塩洋一郎「都市計画法の要点」五一頁)。

そもそも「土地の区画の変更」が「土地の形質の変更」とともに「開発行為」とされ知事(市長)の許可不許可の対象とされた理由は、「土地の形質の変更」と同じく、それが土地の性質を悪化させる可能性があり、溢水その他の危険を発生させる虞れがあるからと解される。だからこそ権利上、観念上の区画変更の如く、土地の現状に何ら手を加えない行為は何ら危険を発生させる虞れもないものとして規制対象外とされているのである。即ち、「土地の区画の変更」も自ら何らかの「形質の変更」を伴うものであり、従つて「土地の区画形質の変更」とは「形質のみの変更」及び「区画および形質の変更」を含む概念だともされている(前掲書同頁)。被告らは「区画形質の変更」とは「区画又は形質の変更」であり、「区画の変更」と「形質の変更」は全くの別概念という立場のようであるが、仮に「区画形質の変更」を「区画の変更又は形質の変更」と読むにしても、土地の現状に何らの侵襲も加工も施さない観念上の区画変更の如きものまで、これを「開発行為」に含ませ許可不許可の対象とするのは、不必要であるとともに不当な私権の制限と言うべきである。「土地の区画の変更」が土地に対する可視的、物理的な区画変更であるからこそ、土地の悪化防止の趣旨から敢えて私権を制約し、これを許可不許可の対象としたものと解するのが相当である。

結局、「開発行為」としての「土地の区画の変更」とは「土地の形質の変更」を伴う「区画の変更」であり、可視的、物理的な区画変更と解すべきである。具体的には、一団の土地を溝、濠などで区分し、盛土や切土によつて段差を設け、あるいは道路、側溝の類で分割するなど、土地に対し何らかの物理的な侵襲ないし加工を施し可視的な区分を設定することをいう。

3 京都市建設局開発指導課の「都市計画法に基づく開発許可申請のしおり」(以下「しおり」という)は、「区画の変更」とは「建築物の敷地としての土地の区画(道路等による土地の物理的状況の区分)を変更すること」といい、既存の宅地を道路等で分割して複数の敷地にする場合をもつて「開発行為」の一例としている。土地を物理的、可視的に区分する行為が「土地の区画の変更」に当たるという意味では正しいが、「敷地」の概念を持ち込みこれと「土地の区画の変更」とを混同したやに見受けられる点に疑問がある。「土地の区画」と「敷地」とは全く別個の概念なのである。

ところで右の「しおり」は、さらに開発行為の一例として「一団の土地に於て、二棟以上の共同住宅を建築する場合」を挙げている。この例示に対しては被告開発審査会も理解し難いと評されているが、原告もまた別の観点から甚だ理解し難い。

一団の土地の上で、その土地に対し何の物理的加工も施さず、二棟の共同住宅を建築する場合、「しおり」の右例示によれば直ちに「土地の区画の変更」に属し「開発行為」に当たることになる。しかし、土地に手を触れず何の加工もしない建築が何故「土地の区画の変更」になるのか、理解できない。仮に、二棟の共同住宅の間に公道に通じる道路を設ければ、その道路新設によつて可視的、物理的な土地区画の変動が生ずるので、「開発行為」とされることにもなるのであろう。しかし、土地に物理的加工もない場合、単に一団の土地が二敷地に区分されるからといつて直ちにそれが「土地の区画の変更」になる道理はない。「土地の区画の変更」に当たるという見解、例示は誤りと言うべきである。

例えば、土地に何の手も加えず、一棟の共同住宅建物の中央部分を除却して、二棟の共同住宅に分割した場合、「しおり」では明らかにそれは「土地区画の変更」に当り「開発行為」とされることになる。土地に何らの加工もなく、敷地が区分されたばかりに、土地について「開発行為」がなされたと解することになるが、かかる結論は到底首肯し得るものではない。「しおり」の右例示は徒らに「棟数」や「敷地」の観念を持ち込んだ結果、誤解に陥つたものと推認される。

「敷地」の区分設定やその変動と「土地の区画の変更」とを混同すべきではない。「敷地」とは「一の建築物又は用途上不可分の関係にある二以上の建築物のある一団の土地をいう」(建築基準法施行令一条)とされており、建築物との関連で観念され設定されるものである。ここが敷地であるとして土地の上に線引きされることはなく、敷地ごとに可視的な区分表示があるわけでもない。一団の土地上に独立した建築物が一棟あれば同土地がそのままその建築物の敷地とされ、独立した建築物があればこれに応じてそれぞれの敷地を観念することになる。独立した建築物の数によつて敷地の数も変えることになるが、その変更は必ずしも土地自体の可視的、物理的な区分の変更を伴うものではない。前述した建物中央部分除却の場合、建築物が一棟から二棟となり、これに応じて敷地が二となつて新たに敷地区分が生ずるものの、それは観念上の区分発生であり、土地自体に対する何らの物理的加工がない以上は、「土地の区画の変更」は生じないと言わざるを得ないのである。

「しおり」は「敷地」の変動と「土地の区画の変更」とを混同し、その例示を誤つたのではないかと疑われる。

被告開発審査会は、その援用する裁決書で、

(一) 本件共同住宅は少なくとも三棟以上と解する。

(二) 「しおり」の例示「一団の土地において、二棟以上の共同住宅を建築する場合」によれば、「区画の変更」に当たり、市長の開発許可が必要である。

(三) 従つて市長の「開発許可不要証明書」の発行は違法である。

といい、「しおり」の右例示を根拠として本件建築計画は「土地の区画の変更」であり「開発行為」に当たるものとしている。しかし、「しおり」の右例示が誤りである以上、これを根拠とした右裁決もその限りにおいて、同じく判断を誤つたものといわざるを得ない。

4 本件では、被告らから建築物が三棟であるとか、少なくとも三棟以上であるとされ、その棟数が「開発行為」との関係で問題視され取上げられているので、これに関連し、改めて「土地の区画の変更」の存否を検討する。

原告は、本件マンションはその構造、外観、用途からみて、一の共同住宅及びこれと用途上不可分の関係にある一の附属建築物(駐車場)であり、共同住宅部分は過去の行政実例に徴しても優に一棟として処理される類型に属するものと信じているが、仮に被告らの言う如く三棟以上であるとしても、一団の土地について溝、道路、段差などによる可視的、物理的な区画の変更がない限り(本件ではこのような可視的、物理的な区画の変更はない。)、「土地の区画の変更」が生ずる余地なく、棟数を数えるのは無意味に近いのではあるまいか。

建築基準法には「棟」や「棟数」の規定はなく、「一の建築物二以上の建築物」という表現で建築物の数を表しており、同法施行令一条は、「敷地」を「一の建築物又は用途上不可分の関係にある二以上の建築物のある一団の土地をいう。」と定義づけている。例えば、主建物に附属して物置等が構築される場合、それは主建物と用途上不可分の関係にあるから、建築物の数が三であつても、「敷地」としては一の敷地と観念するというのである(もしこのように解せず、各建築物に応じ各々の敷地区分を設定するとすれば、物置の敷地は忽ちにして接道義務に違背した違反建築物とされ、社会一般の実情の多くを違法化するという不合理を招く)。「敷地」とはこのように観念上の概念なのである。

本件マンションが仮に三以上の建築物であると解しても、基本的には用途上不可分の関係にある複数の建築物である以上は、その敷地は単一と観念されることになる。そして、本件土地については特段の侵襲、加工のないことは裁決書も言及していることであり、従前からの一団の土地に付いて何ら可視的、物理的変更を加えるものではない。本件では「敷地」という観念上の土地区分の変動もなく、ましてや土地現状変更もないのであり、そのような計画は「開発行為」に当たる余地もないと言わざるを得ない。

5 本件マンション建築につき土地の「形質の変更」は存しない。

第三  本件建築確認取消裁決の違法性

一  訴訟参加人ら(第二二号事件)の審査請求適格

本件マンションに隣接した場所に居住する右訴訟参加人らは、本件マンションの建築確認につき審査請求をする適格を有しない。

審査請求適格に関する見解は、前記第二の三のとおりである。

二  本件開発許可不要証明書取消裁決の影響

被告建築審査会の本件建築確認取消裁決は、本件開発許可不要証明書が被告開発審査会の裁決によつて取消されたことを唯一の理由としている。しかし、この点の判断は次のとおり誤つている。

1 被告開発審査会の本件開発許可不要証明書取消裁決は違法である。この点は、前記第二に詳述のとおり。

2 本件開発許可不要証明書は、建築基準法施行規則一条七項により建築確認申請書に添付を要求されている証明書ではないことは、前記第二の二に詳述のとおりである。

3 建築基準法施行規則一条七項の証明書は、その建築計画が開発行為に該当しないことが明らかなとき、その建築計画につき開発行為の発生を特段に考慮する必要のないとき、開発行為が生ぜずかつその旨の知事(市長)の判断がされていることが建築主事に明らかなときなどには、建築確認申請に添付しなくとも差支えなく、この証明書が添付されていないことが建築確認を違法とするものではない。

4 建築基準法施行規則一条七項の証明書の添付は、建築確認申請書の受理の要件であつて、建築確認処分の有効要件ではない。

本件建築確認申請に本件開発許可不要証明書が添付されていた以上、その証明書が建築確認処分後に取消されたとしても、そのことは建築確認処分の効力に影響を与えるものではない。

5 行政不服審査における判断基準時はつぎのとおり、原処分時と解すべきである。本件において建築確認時には、本件開発許可不要証明書が有効に存していたから、これがのちに取消されたことは、行政不服審査において本件建築確認を取消す原因とはならない。

行政事件訴訟では、違法判断の基準時は原処分時であつて、処分後の法令の改正(最高裁昭和二七年一月二五日第二小法廷判決・民集六巻一号二二頁、最高裁昭和二八年二月二四日第三小法廷判決・民集七巻二号一八七頁)、事実状態の変更(最高裁昭和三四年七月一五日第二小法廷判決・判例時報一九八号二六頁)は考慮しないものとされている。この考えは行政不服審査においても同様に妥当する。

三  裁決の理由不備

被告開発審査会の裁決により本件開発許可不要証明書が取消された。しかしこれによつて本件マンション建築が開発行為に該当することまで確認されたものではない。そうすると、これが開発行為に該当する場合でなければ、建築確認は違法とはならないものである。

ところが、被告建築審査会の裁決は、開発行為に該当するとの判断権限が同被告に存するのか、本件マンション建築が開発行為に該当するのかについて判断を示していない。この点で、裁決に理由を付さない違法がある。

四  本件建築と開発行為

本件マンション建築にともない土地の区画形質の変更は生じないことは、前記第二の五に詳述のとおりである。

(被告らの主張)

第一  請求原因第一の事実は認める。

第二  本件開発許可不要証明書取消裁決の適法性

一  被告開発審査会の審査権限

同被告の裁決二〇頁に記載のとおり

二  本件開発許可不要証明書の処分性

同被告の裁決二〇頁3に記載のとおり

三  訴訟参加人らの審査請求適格

同被告の裁決二一頁4に記載のとおり

四  審査請求期間

同被告の裁決二〇頁2に記載のとおり

五  本件建築と開発行為

同被告の裁決二三頁第二に記載のとおり

本件裁決は、「一団の土地において、二棟以上の共同住宅を建築する場合」に「区画の変更」があるとする京都市の「都市計画法に基づく開発許可申請のしおり」の例示によつても開発許可を要するとするものである。

なお、都市計画法一条及び同法の立法趣旨によると、同法の開発許可制度は、市街化区域における「バラ建ち」による無秩序な建築を抑止することを目的とするものであるから、建築建物が一棟または共同住宅以外の建物でも、その建築物または建築自体により、「区画の変更」が生じることもあると解すべきである。

第三  本件建築確認取消裁決の適法性

一  訴訟参加人ら(第二二号事件)の審査請求適格

被告建築審査会の裁決五頁第一に記載のとおり

二  本件開発許可不要証明書取消裁決の影響

同被告の裁決七頁第二に記載のとおり

申請の建築計画が都市計画法四条一二項の開発行為に該当しない旨の証明書、つまり本件開発許可不要証明書も同法施行規則六〇条の証明書であり(被告開発審査会の裁決理由一七頁3)、市街化区域内で一〇〇〇平方メートルを超える建築物につき建築確認を申請するには、その建築計画が都市計画法二九条の規定に適合していることを証する書面を申請書に添えなければならない(建築基準法施行規則一条七項)。建築主事は建築計画が都市計画法二九条の規定に適合するかについては右証明書に拘束される。したがつて、右証明書が存しないことだけで建築確認申請が不適法となる。

なお、行政不服における違法判断基準時は原処分時である。

三  裁決の理由記載

原告の主張は争う。

四  本件建築計画と開発行為

前記第二の五に記載のとおり

(訴訟参加人らの主張)

第一  請求原因第一の事実は認める。

第二  本件開発許可不要証明書取消裁決の適法性

一  被告開発審査会の審査権限

本件開発許可不要証明書の交付行為は、後記二のとおり、開発許可権者たる知事(市長)が都市計画法二九条に基づいて、開発行為に該当しない旨の判断行為(行政処分)であるから、都市計画法五〇条一項にいう「第二九条の規定に基づく処分」に該当する。従つて、本件裁決は、被告開発審査会がその審査権限の範囲に属する事項について審査したものである。

二  本件開発許可不要証明書の処分性

1 右証明書は、建築基準法施行規則一条七項、都市計画法施行規則六〇条の都市計画法二九条の規定に適合していることを証する書面である。

ある行為が土地の区画形質の変更に当たるか否かは、正に開発許可権者が都市計画法上の観点から判断すべき事項である。都市計画法二九条は、同条所定の開発行為について規定しているのであるから、開発行為に当たるか否かもその判断対象になつていると言わなければならない(仙台高裁昭和五八年八月一五日決定)。

2 本件書面の交付は、開発許可権者が、その権限に基づいてなした公的証明行為であつて、単なる事務連絡文書ではない。この証明行為は都市計画法二九条に基づく開発許可権限に含まれている。たとえば印鑑証明のように証明行為が単独的な場合と異なり、開発許可あるいは開発許可不要といつた実態的判断が先行し、証明書の交付がそれに基礎づけられている場合は、処分権限とその証明ないし証明書交付行為は一体のものであるから、特に証明、証明書交付についての規定がなくても本来の処分権限庁がなしうることは当然のことである。施行規則六〇条は知事に対する証明書交付権限の付与に意味があるのではなく、建築確認申請者に交付請求権を認めた点に意義がある。

このようにして、都市計画法施行規則六〇条に掲げる都市計画法二九条の規定に適合していることを証する書面の中に同法四条一二項に定義されている開発行為に該当しないことを証する書面も含まれるのである。

3 建築基準法施行規則一条七項は、都市計画区域内における建築物については、都市計画法二九条の規定に適合する旨を証する書面を添付しなければならない旨規定する。すなわち、右書面が添付されていない場合建築確認申請の受理要件を充足したことにならず、建築確認処分を受けられないのである。

開発行為を必要とする建築物を建築するには、必ず都市計画法二九条に基づく許可を受けなければならない。そして、右開発許可を受けるには、同法三三条が規定する開発許可基準を充足する必要がある。

ところで、本件計画が都市計画法四条一二項に定義されている開発行為に該当するかどうかの判断は、正に本件計画について開発許可基準を充足させる必要があるかどうかに直結しているのである。すなわち、本件計画が開発行為に該当しないと判断されると、原告は開発許可を受けなくてもよくなり、前記のような開発許可基準を充足するための負担増を一切免れるという法的効果を受けることになるのである。逆に、本件計画が開発行為に該当すると判断されると、原告は開発許可を受ける必要があり、前記のような開発許可基準を充足するための負担増を余儀なくされるという法的効果を受けることになるのである。

従つて、本件開発許可不要証明書の発行は、開発行為に該当しないという開発許可権者の判断を公的に証明する行為であつて、これにより、原告に対し、開発許可を受けなくてもよい、すなわち開発許可基準を充足するための負担増を一切免れさせるという法的効果を発生させるものである。このように、本件開発許可不要証明書の発行は、開発許可権者たる行政庁が、法令に基づき優越的立場において、国民(原告)に対し権利を設定し、義務を課し、その他具体的に法律上の効果を発生させる行為の性質を有しているのであつて、単なる鑑定的意思の表明ではない。従つて、本件開発不要証明の発行は、正に、行政庁の「処分」(行政不服審査法四条一項)に該当する。

三  訴訟参加人らの審査請求適格

1 訴訟参加人らは、原告が開発許可を受けることなく、本件マンションを建築することにより、次のような具体的被害を受ける。

(一) 安田孝之

住居の位置 本件マンションの東に接し、境界より三メートル

住   居 平家建貸家五戸を有し、二〇年間現在のところに住んでいる

家族構成 四名うち老人一名

〔被害の実情〕

工事中の騒音・振動砂ほこりが著しい日照については、マンションが建設されれば貸家である朝日荘を借りる人が少なくなるので、収入にも影響が生ずる

現在でも交通公害が深刻なのになお悪化する

プライバシー侵害によつて窓が開けられなくなる

上水道については今も夕方など水が出にくい

その他にも風害、電波障害等のおそれがある

(二) 尾中利輔

住居の位置 本件マンションの東に接し、境界より三メートル

住   居 二階建、二一年間現在のところに住んでいる

家族構成 四名(浪人生一名)

〔被害の実情〕

工事中の騒音、振動・砂ほこりが著しい

日照については、半日陽が当たらなくなる

二階は全面ガラスで窓が開けられなくなる

上水道については今も夕方など水が出にくい

植木に陽があたらない

浪人生の子供がいるので、騒音などによつて勉学環境が侵害される

電波障害がすでに有る

(三) 前田武彦

住居の位置 本件マンションの東に接し、境界より三メートル

住   居 二階建、八年間現在のところに住んでいる

家族構成 五名うち寝たきり老人一名

子供―小学生一名、中学生一名

〔被害の実情〕

工事中の騒音、振動、砂ほこりが著しい

午後は全く陽が当たらなくなる、湿気が出る

トイレや部屋の窓が開けられなくなる病人がいるのに静かな環境が破壊される

その他にも風害、電波障害、小学校の収容問題等が深刻になる

(四) 古町尊治

住居の位置 本件マンションの東に接し、境界より二・五メートル

住   居 二階建、八年間現在のところに住んでいる

家族構成 四名

子供―小学生一名、中学生一名

〔被害の実情〕

児童の通学に心配がでる

三条通に工事車両が並び、交通渋滞が激しい

台所とトイレの窓が一日中開けられない

上水道については今も夕方など水が出にくい

工事をしだすと騒音や振動も激しくなり逃げ場所がない

マンションの真横なので、風害や電波障害が予想される

(五) 吉川和宏

住居の位置 本件マンションの東に接し、境界より三メートル

住   居 二階建、六年間現在のところに住んでいる

家族構成 四名

子供―小学生一名、高校生一名

〔被害の実情〕

工事中の騒音、振動、砂ほこりが著しい

半日陽が当たらなくなる

児童の登校時にダンプ等の出入りがあると危険である

二階の西側の窓があけられなくなる

上水道については今も夕方など水が出にくい

植木に陽が当たらなくなる

電波障害が既にある

(六) 北村佳久

住居の位置 本件マンションの東に接し、境界より三メートル

住   居 平家建、二七年間現在のところに住んでいる

家族構成 五名

子供―乳幼児二名

〔被害の実情〕

工事中の騒音、振動、砂ほこりが著しい

半日陽が当たらなくなる

一階の窓が開けられない

上水道については今も夕方など水が出にくい

畑が出来なくなる

電波障害が既にある

(七) 井上泰介

住居の位置 本件マンションの北に接している

住   居 二階建、二〇年間現在のところに住んでいる

家族構成 四名

〔被害の実情〕

工事中の騒音、振動、砂ほこりが著しい

現在は一日中陽が当たつているが、建つた後は一時間程度と思われる

一・二階共南側全面透明ガラスなので、一日中カーテンを閉めなければならない

建設前でも、水圧は低く、湯沸器が使えない(時々消えたりする)

ビル建設による風害も大きな不安である

(八) 松井敏泰

住居の位置 本件マンションの北に接し、境界より三メートル

住   居 二階建、五年間現在のところに住んでいる

家族構成 四名

子供―乳幼児二名

〔被害の実情〕

工事中の騒音、振動、砂ほこりが著しい

現在は一日中陽が当たつているが、建設後は殆どあたらなくなる

三条通の停滞によつて、通勤時間が長くなる

上水道については今も夕方など水が出にくい

(九) 井上 清

住居の位置 本件マンションの北に接し、境界より0メートル

住   居 二階建、七年間現在のところに住んでいる

家族構成 四名(病人がいる)

〔被害の実情〕

全く日照がなくなる。通風も殆どだめになる

洗濯物が出せない。二階は全面ガラスで窓が開けられなくなる

上水道については今も夕方など水が出にくい

病人がいるので、騒音や振動で落ち着かない。病状が悪化する

テレビの映像が悪くなる

(一〇) 青山 博

住居の位置 本件マンションの北に接し、境界より四メートル

住   居 二階建、一三年間現在のところに住んでいる

家族構成 五名(病人がいる)

子供―乳幼児二名、小学生一名

〔被害の実情〕

全面的に日照・通風が悪化するが、特に気候の良い時期に一番悩まされる

プライバシー侵害による精神的な苦痛が深刻

上水道については現在でも朝晩水が出にくくなつている

生後四ケ月の乳児がいるので、工事の騒音等に熟睡できず、親子共に生活面に大いに影響を受けている。建設後の騒音、振動も深刻である

現在、テレビ・電話の声が聞き取りにくい。建設後も大いに被害を受けると予想される

(一一) 加地 義

住居の位置 本件マンションの北に接し、境界より一・八メートル

住   居 二階建、一九年間現在のところに住んでいる

家族構成 四名

〔被害の実情〕

工事による騒音、振動、砂ほこりが著しい

現在は一日中陽が当たつているが、建設後は一日一時間位になる

南側がガラスのため一階、二階がまる見えになり、一日中カーテンを閉めなければならない

水圧が低く現在でも湯沸器が使えない

風害・電波障害も大変心配である

(一二) 豊岡 登

住居の位置 本件マンションの北に接し、境界より三メートル

住   居 二階建、一四年間現在のところに住んでいる

家族構成 二名(二名とも老人)

〔被害の実情〕

現在は一日中陽が当たり、採光・通風も大変良好であるが、建設後はこれら全て侵害される

二階は全面ガラスで窓が開けられなくなる

夕方に限らず、時間帯により現在でも水が出ない

息子の仕事上、孫(三才と〇才)の守りをしているが環境の破壊により日照、騒音等幼児の成長に悪影響を及ぼす

風害、電波障害も予想される

(一三) 中本一英

住居の位置 本件マンションの北に接し、境界より二メートル

住   居 二階建、五三年間現在のところに住んでいる

家族構成 六名うち老人二名

子供―乳幼児二名

〔被害の実情〕

日照が極度に悪くなる

窓が開けられなくなる

今も夕方など水が出にくい

電波障害も予想される

(一四) 広田夏夫

住居の位置 本件マンションの西に接し、境界より五メートル

住   居 平家建、六〇年間現在のところに住んでいる

家族構成 三名

〔被害の実情〕

午前中全く陽が当たらなくなる

窓が開けられなくなる

上水道については、今も夕方など水が出にくい

その他にも風害、電波障害が予想される

(一五) 山田達雄

住居の位置 本件マンションの西に接し、境界より三メートル

住   居 二階建、三六年間現在のところに住んでいる

家族構成 三名うち老人一名、病人二名

〔被害の実情〕

マンション建設後午前中は陽が全然当たらず、通風も悪化する

現在でさえ既に狭い三条通での交通が朝夕の交通ラッシュ時はとても危険になり、子供及び老人等は歩くことさえ不能になる

一階、二階共東側は全面ガラスになつており、一日中カーテンを閉めきらなくてはならず今後の生活が一変する

朝食、夕食時等の時間帯に水が出にくい

大正初期に建てられた純日本風家屋であり、マンション建設による振動、砂ほこり等による被害は深刻である

ラジオ、テレビの受信障害

ビル風害による建物の損壊の危険

(一六) 奥村秀雄

住居の位置 本件マンションの西に接し、境界より六メートル

住   居 二階建、三年間現在のところに住んでいる

家族構成 二名(二名共老人)、病人もいる

〔被害の実情〕

工事による騒音、振動、砂ほこりが著しい

午前中東側の日照が全面的になくなり、採光・通風も悪くなる

東面は全面ガラスで窓が開けられない

植木、野菜の栽培にも影響がでる

その他にも風害、電波障害が予想される

(一七) 細川種一

住居の位置 本件マンションの西に接し、境界より五メートル

住   居 二階建、五二年間現在のところに住んでいる

家族構成 二名うち老人一名、病人がいる

〔被害の実情〕

工事による騒音、振動、砂ほこりが著しい

午前中は日照がなくなる

二階は全面ガラスで窓が開けられなくなる

その他にも風害、電波障害が予想される

(一八) 高桑清太郎

住居の位置 本件マンションの南に接している

住   居 二階建、七五年間現在のところに住んでいる

家族構成 五名のうち老人二名

〔被害の実情〕

工事による騒音、振動、砂ほこりが著しい

三条通が狭いので、車の駐停車をはじめ大変になる

北側の窓があけられなくなる

風害が心配である

(一九) 山崎義二

(二〇) 杉村 要

(二一) 九嶋豊造

住居の位置 本件マンションに近接して、三条通に面している

〔被害の実情〕

三条通はその交通量に比して幅員が極めて狭く(高桑宅前ではわずか六メートルしかない)、そのうえ本件土地付近に京都バス、市バスの停留場や京都バスの車庫があって、バスの停車や車庫への進入出のために交通が阻害するために、平素でも交通渋滞が発生する箇所である。現在、大同建設の工事強行による工事車両の進入によつて交通混雑が激化しているが、ここに一六九戸もの大型マンションが建設されることになれば、入居者や店舗の客の車の通行によつて交通混雑が一層激化することは明白である。のみならず、本件マンションが予想される駐車車両に対応する駐車場を確保していないために、必然的に三条通の違法駐車車両が発生し、三条通の交通は収拾し難い事態に陥るであろう。その結果、交通の阻害、振動、騒音、排気ガス、営業妨害等だけでなく、直接的に自らの生命身体への危険をももたらすものであり、このようなゆゆしき生活利益の侵害が生じることは明らかである。

2 行政不服審査法は、行政事件訴訟法とは異なり、行政庁の違法な処分だけでなく「不当な処分」をも不服申立ての対象にしている(一条一項)ので、処分の不当性審査を受けるべき利害関係人の範囲は広くなつていること、「国民の権利利益の救済を図ること」だけでなく、「行政の適正な運営を確保すること」をも立法目的にしていること(一条一項)、審査請求人適格について単に「行政処分に不服がある者」と定めているだけで、「法律上の利益」まで要求していないこと、法が自ら「国民に対して広く行政庁に対する不服申立への道を開く」ために法を制定したとして、不服申立のできる国民の範囲が広いことを宣言していることから、審査請求人適格は、行政訴訟における原告適格よりも広く解すべきものである。

どの程度まで広げるかについて、本件裁決が「当該処分による生活利益の侵害が保護に値すると認められる程度にあるときは、請求人適格がある」「侵害される利益は事実上のものであつても差し支えない」としたのは、行政不服審査法の目的や規定の仕方に則したものであり、かつ、民衆争訟の弊を避けたものであつて、熟考の上の妥当な基準と言える。

3 原告は、都市計画法は近隣住民の利益を具体的・個別的にこれを保護したものではなく、本件マンション建設により日照、採光、通風、プライバシー侵害等の侵害が存す旨の主張は、何れも抽象的な被害意識の域を出ないと主張する。

しかしながら、都市計画法一条が、同法の目的として「国土の均衡ある発展」にあわせて「公共の福祉の増進」を掲げ、また同法二条が都市計画の基本理念に「健康で文化的な都市生活の確保」を掲げていることに照らすならば、健康で文化的な生活利益を侵害されるものは不服申立の利益を有するのであつて、原告の主張は失当と言わねばならない。

また、都市計画法の規定する開発許可制度の趣旨は、不良市街地を防止して、都市住民に健康で文化的な都市生活を保障し、機能的な経済活動の運営を確保することにある。

都市計画法は、このような開発許可制度の趣旨を実効あるものとするために、「開発行為をしようとする者は、あらかじめ……都道府県知事の許可をうけなければならない」(二九条)と規定し、三三条でその許可基準を定めている。

そして、同法三三条一項の開発許可基準の中には、明らかに開発区域と必然的に関連する周辺地域の環境や防災等に着目した基準が設定されている。

道路、公園、広場その他の公共空地が環境の保全上、災害の防止上、通行の安全上、事業活動の効率上、適当に配置され、かつ、開発区域内の主要道路が開発区域外の相当規模の道路に接続するように設計されていること(二号)。

排水施設は汚水及び雨水を有効に排出するとともに、その排出によつて開発区域及びその周辺の地域に溢水等による被害が生じないような構造及び能力で適当に配置されるように設計されていること(三号)。

開発区域における利便の増進と開発区域及びその周辺の地域における環境の保全とが図られるように公共施設、公益的施設及び開発区域内の建築者の用途の配分が定められていること(六号)。

開発区域及びその周辺の地域における環境を保全するため開発区域における植物の生育の確保上必要な樹木の保存、表土の保全その他の必要な措置が講ぜられるように設計が定められていること(九号)。

開発区域及びその周辺の地域における環境を保全するため、騒音、振動等による環境悪化の防止上必要な緑地帯その他の緩衝帯が配置されるように設計が定められていること(一〇号)。

都市計画法は、このような開発許可基準を設定することによつて、開発区域周辺の住民の環境保全や災害防止、通行の安全、溢水等の被害の防止、騒音、振動等の防止といつた具体的、個別的利益を保護しているのである。

従つて、都市計画法、とりわけ同法に規定された開発許可制度は、近隣住民の利益を具体的、個別的に保護したものと言えるのである。

訴訟参加人らは、いずれも本件マンションの敷地に接着した位置に居住しているか、あるいは、本件マンションに隣接しかつ、本件マンションの唯一の出入口である三条通に面した位置に居住する住民であつて、本件マンション建設によつて、前述するような甚大な被害を蒙り、その生活利益を著しく侵害されることになる。

従つて、訴訟参加人らには、本件裁決の審査請求人適格の考え方を採つた場合は勿論のこと、いわゆる「法律上保護された利益救済説」を採つたとしても審査請求人適格が認められているのである。

4 原告は、審査請求人らに対する侵害が仮にあるとしても、それは本件行為である開発不要証明書の発行により生じるものではなく、建築確認という別の処分により生じるものと言えると主張する。

しかし、既に昭和六〇年一一月二九日付で建築確認処分がなされている本件においては、審査請求人適格に関する原告の考え方に立つても、「必然的に侵害されるおそれのある者」として訴訟参加人らには審査請求人適格が認められるのである。

5 行政不服審査法上、行政不服審査の対象は、「行政庁の違法又は不当な処分その他公権力の行使に当たる行為」(一条一項、以下、単に行政処分という)であり、審査請求人適格は、「行政庁の処分に不服がある者」(四条一項)であるが、都市計画法二九条の規定に基づく処分については審査請求前置主義が採用されていることから(同法五二条)、ある行為が行政処分に該当するか否か、あるいは審査請求人適格を有するか否かの判断権限は、開発審査会にあると言わなければならない。

開発審査会は、審査請求について、「特に第三者による公正な判断が必要であること、専門的な知識を必要とすること、迅速な処理を要すること等の趣旨から」設けられたものであるが、その関発審査会がある行為の処分性を認めて審査の対象となるとして、あるいは、審査請求人適格を有するとして、その行為の「違法又は不当」性の実体的な判断をしたならば、その実体的判断の適否を抗告訴訟において争うならともかく、その処分性あるいは審査請求人適格の有無の判断の適否については、明白な違法性がない限り、争い得ないものと解さなければならない。けだし、開発審査会が自己の職責と負担において、行政処分性を肯定し、あるいは審査請求人適格を肯定し、時間と労力をかけて実体的審理を行い、実体的判断をした以上、抗告訴訟においてはその実体的判断の適否についてのみ争いうるとするのが、審査請求前置主義を採つた立法の趣旨に合致するものである。要するに、行政不服審査の窓口論に関する限り、開発審査会の窓口を肯定する判断は、一種の裁量行為として尊重されなければならず、その判断に明白な違法性がない限り、その判断は、抗告訴訟においても取消し得ないものと言わなければならない。

ところで、右のような考え方は、最高裁昭和三二年一二月二四日判決の民集一一巻一四号二三三六頁に見ることができる。

右最高裁判決の事案は、訴外A労組が、その一部組合員がストライキから脱退したのは、使用者であるX会社のA組合に対する支配介入によるものであるとして、Y県地労委に対し不当労働行為に基づく救済を申し立てた。この申立に基づき、Y県地労委は、組合の申立資格を是認したうえ、不当労働行為の成立を認め、使用者であるX会社に対し救済命令を発した。そこで、X会社が、Y県地労委を被告として、右救済命令の取消訴訟を提起したというものである。

右事案につき、資格審査と抗告訴訟との関係について、最高裁は、「仮に資格審査の方法乃至手続に瑕疵がありもしくは審査の結果に誤りがあるとしても、使用者は、組合が第二条の要件を具備しないことを不当労働行為の成立を否定する事由として主張することにより救済命令を求め得る場合のあるのは格別、単に審査の方法乃至手続に瑕疵があることもしくは審査の結果に誤りがあることのみを理由として救済命令の取消を求めることはできないものと解すべきである」と判示している。

労働組合法二条の自主性の要件は、不当労働行為について救済命令を申立てる組合の資格要件であるが、これは、窓口論に関する点では、行政不服審査の審査請求人適格と同じ性格をもつ。そして、最高裁は、労働委員会が組合の申立資格を肯定し、実体審理をして救済命令を発した以上、窓口論である資格審査の方法、手続に瑕疵があり、もしくは審査の結果に誤りがあるとしても、労働委員会の申立資格についての判断を尊重して、抗告訴訟においては、窓口論は争い得ず、実体的判断についてのみ争い得るとしたものと解されるのである。これは、行政不服審査の一種である不当労働行為救済命令申立について、申立資格を肯定し、自らの職責と負担において実体的審理をし、実体的判断をした地労委の判断を尊重するというものである。この考え方は、正に本件において行政処分性ないし審査請求人適格を肯定して実体的審理、判断を行つた開発審査会の判断を尊重するということに通じるのである。

四  審査請求期間

1 第一証明書の発行と第二証明書の発行は明らかに別個の処分である。

原告は昭和六〇年七月二四日付開発許可不要証明書(以下第一証明書という)と同一〇月一七日付開発許可不要証明書(以下第二証明書)の関係につき、別個の処分であることを争うが如き主張をしているが、明らかに失当である。

第二証明書にかかる物件は原告も認める通り、第一証明書にかかる物件に設計変更を加えたものであり、さればこそ改めて開発許可不要証明書の発行を受け、建築確認を受ける必要が生じ、現に右がなされたのである。

当初の予定建築物に設計変更が生じたため、改めて許可ないし不要証明の発行及び確認を受け直すことは実務上しばしば見受けられるところであり、その際、当初の「処分」と設計変更後の「処分」は別個の処分であることは理論上当然のことである。

2 行政不服審査法第一四条第一項の定める「処分のあつたことを知つた日」とは、処分のあつたことを現実に知つた日のことであり、抽象的な知りうべかりし日のことではない(最判昭和二七年一一月二〇日)。具体的には処分書の郵送、処分書の返却または受領拒絶、処分の法令に基づく告示等の方法による公示などが判例によるメルクマールとして示されている。

本件において、第一証明書の発行処分が参加人(審査請求人)らに公式に明らかにされたのは、昭和六〇年九月九日付建開第一〇八号文書においてのことであり、参加人らに対しそれ以前に処分に関する通知がなされたり、処分が告示されたことは一切ない。

なお、右通知は、参加人らの一部の者が、既に処分がなされたのではないかという情報を得たため、正確な事実を文書で明らかにするよう求め、あわせて仮に事実であるならば抗議する旨を処分庁に文書で示したことに対する回答として、なされたものである。

従つて参加人らは右通知によつて初めて、処分の事実を正確に知つたものである。

以上述べた通り、参加人らは、「処分があつたことを知つた日」の翌日から起算して六〇日以内に本件審査請求をしている。

五  本件建築と開発行為

本件マンション建築にともない土地の区面の変更及び形質の変更が生ずるから、都市計画法二九条の許可が必要である。

1 都市計画法四条一二項にいう「土地の区画形質の変更」とは、区画の変更又は形質の変更をいうと解される。

2 開発許可を要する「区画の変更」の解釈に当たつては、開発許可制度の趣旨及び開発許可基準の設定理由を考慮すべきである。

都市計画法では、都市地域をおおむね一〇年以内に市街化を促進する区域としての市街化区域と当面市街化抑制するための区域としての市街化調整区域に分け、段階的かつ計画的に市街化を図つてゆくこととしている。そして、これを担保するものとして創設されたのが開発許可制度である。すなわち、市街化区域及び市街化調整区域においては、主として建築物の建築の用に供する目的で行う土地の区画形質の変更(開発行為)を都道府県知事の許可に係らしめて、これにより、開発行為に対して一定の水準を保たせるとともに、市街化調整区域内にあつては一定のものを除き開発行為を行わせないこととして、これらの目的を達しようとしている。このように開発許可制度の趣旨は、不良市街地を防止して、都市住民に健康で文化的な生活を保障し、機能的な経済活動の運営を確保することにある。

都市計画法三三条一項の開発許可基準をみると、二号、三号、四号、六号、九号、一〇号、一四号には開発区域の面積とそれに必然的に関連する区域内の人口に着目したと明らかに解される基準が設定され、これらの基準は、開発区域の面積の大きさに応じて、その許可条件を高低させ、同項一号は一〇〇〇平方メートル未満の開発行為には許可を不要としている。このように、都市計画法は開発区域の面積及びそれに伴う区域内の人口に着目して開発許可基準を設定し、もつて良好な市街地を形成させようとしている。

これらの点を考慮すると、「区画の変更」とは、人口の増加を念頭においた規定と解することができる。従つて一〇〇〇平方メートル以上の敷地にマンションなどの共同住宅が建設される場合には、一戸建住宅群として分譲される場合よりもはるかに人口増が予定されるわけであるから、棟数に拘らず、「区画の変更」に該ると解すべきである。即ち、一〇〇〇平方メートル以上の敷地にマンションなどの共同住宅が建設される場合には、一棟であつても、当該大規模建築物自体によつて、物理的に土地の区画が変更されることになるから、「区画の変更」に該当するのである。

この点で、京都市の「しおり」が、「区画の変更」の例として、「一団の土地に於いて、二棟以上の共同住宅を建築する場合」を挙げているのは失当であり、「一団の土地に於いて、共同住宅を建築する場合」とすべきものである。

3 一団の土地に独立一戸建住宅群を建築する場合には、開発許可が必要であるのに、その独立一戸建住宅群を全部つないで一棟のものにしてしまえば、開発許可が不要となるというのは不合理である。共同住宅においては独立一戸建住宅群に比して、はるかに大幅な人口増が予想されるのであるから、住宅の形態が、独立一戸建住宅であれ、一棟のマンションであれ、二棟のマンションであれ、等しく開発規制を及ぼせしめないと、都市計画法の立法目的、立法趣旨が、全く意味をなさなくなつてしまうのである。

4 のみならず、形式的解釈論としても、一棟のマンションの建築が、「区画の変更」に該らないなどという解釈は、到底不可能である。

即ち、「区画」の意味については、道路、へい、敷地境、地番境、あぜ道、道、水路、等々、様々な例が挙げられて、様々な説明がなされてきたところであるが、要は、「建築物の建築の用に供する目的」で「区画」の変更がなされれば、「開発行為」に該るのであり、具体的には、「区画」の変更が建築物の建築と不即不離の関係にある場合に「開発行為」とされるのである(「都市問題の基礎知識」有斐閣三二七頁参照)。

一団の土地にマンションが現実に建設される場合には、被告らの主張の通り、マンションの建設自体によつて土地(底地)の物理的状況の区分が変更されることは、明らかである。

更に、建物の区分所有に関する法律に基づき、構造上区分された各戸が、独立して住居、店舗、事務所等の建物として使用されることが予定されている本件の如き分譲マンションにおいては、各戸毎に一戸建住宅と同様、隣接戸との通行を遮断する室内壁と区別された分厚い壁面が設けられて、「区画」の変更がなされることは、明らかである。

ましてや、本件建築物の場合には、東西の二つの壁の間に巾約五メートルの道路がつくられ、その道路は当該共同住宅の居住者のみならず、共同住宅を訪れる部外者が徒歩又は車で出入りし、さらには、消防車(但し、これについては本件建築物が開発許可を脱法したサイズの構造であるため消防車は途中までしか入れない)や救急車等の救急車両の進入路として使用されることが予定されているのであるから、「区画」の変更が行われていないなどという解釈は全く不可能である。

5 本件土地はもともと洛陽女子高校のグラウンドとして使用されており、その後荒地になつて約一メートルの凹凸のあつた土地である。原告は本件土地を整地するため、基礎工事以前に現実に盛土、削土をしており、「形質の変更」を加えている。

従つて、本件建築計画は「形質の変更」としても開発許可が必要である。

第三  本件建築確認取消裁決の適法性

一  訴訟参加人ら(第二二号事件)の審査請求適格

本件マンションに隣接した場所に居住し、前記第二の三1のとおりの被害を受ける右訴訟参加人らは、本件マンションの建築確認につき審査請求をする適格を有する。

審査請求適格に関する見解は、前記第二の三のとおりである。

二  本件開発許可不要証明書取消裁決の影響

被告建築審査会が、本件開発許可不要証明書取消裁決があつたことを理由として、本件建築確認を取消したことは正当である。

1 被告開発審査会の本件開発許可不要証明書取消裁決の適法なことは、前記第二に詳述のとおりである。

2 本件開発許可不要証明書は、建築基準法施行規則一条七項により建築確認申請書に添付を要求されている証明書であることは、前記第二の二に詳述のとおりである。

3 建築基準法施行規則一条七項の証明書添付は、建築確認申請の受理要件であり、これを欠く申請は違法である。

4 この証明書添付を欠く申請にもとづきされた建築確認は違法として取消を免れない。

5 本件開発許可不要証明書が本件建築確認後に、裁決により取消されたことは、本件建築確認を裁決により取消すべき原因となる。

本件建築確認はこれに先行する本件開発許可不要証明書を不可欠の前提としてされたものであり、開発許可不要証明書の違法性は当然に建築確認に瑕疵を生じさせる。ただ、瑕疵ある建築確認も、行政処分として公定力のある以上、建築審査会において取消されるまでは、その効力が維持されるため、建築審査会は、建築確認適合処分の取消裁決を行つたのである。

仮に本件のような場面にも、違法判断の基準時の問題における原処分時説を適用するとすれば、建築確認の前提となる開発許可段階でどのような違法事由があつても、建築確認により建築が可能となつてしまい、開発許可制度の意味が全く無に帰してしまう。

三  裁決の理由付記

被告建築審査会としては、既に被告開発審査会において開発許可不要証明書の発行処分が取消されている以上、都市計画法二九条の規定に適合していることを証する書面がないまま建築確認適合処分が行われたことになるため、あらためて「開発行為」の意味内容について判断するまでもなく、建築確認適合処分につき瑕疵あるものとして取消の裁決を行なつたのであり、被告の立場からは、「開発行為」該当性の中身についてまで、理由を附する必要はない。

四  本件建築と開発行為

本件のマンション建築にともない土地の区画形質の変更が生じることは、前記第二の五に詳述のとおりである。

(証拠)〈省略〉

理由

第一当事者間に争いがない事実

請求原因第一の事実関係は当事者間に争いがない。

第二開発許可不要証明書取消裁決について

一開発審査会の審査権限

1  都市計画法五〇条一項は、「第二九条……の規定に基づく処分……についての審査請求は、開発審査会に対してするものとする。」と規定し、他に開発審査会に同法施行規則六〇条の証明書交付処分につき審査権限を定めたと解する可能性のある規定は存しない(当事者もそのような規定を指摘していない)から、この問題はもつぱら、本件開発許可不要証明書の交付が同法「第二九条の規定に基づく処分」と解されるかにかかつている。

2  同法二九条は、「市街化区域または市街化調整区域において開発行為をしようとするものは、あらかじめ、建設省令に定めるところにより、都道府県知事の許可を受けなければならない。」と規定し、この規定を読む限り、同条の規定に基づく処分としては、開発許可処分および開発不許可処分(開発許可申請却下処分)以外のものはあり得ない。

3  本件の開発許可不要証明書も同法施行規則六〇条の「その計画が法二九条の規定に適合していることを証する書面」と解される。しかしながら、同法施行規則六〇条の証明書交付請求権は、同条によつて創設されたものであつて、同条が存在しない限り、建築確認申請予定者が同法二九条を根拠として「その計画が法二九条の規定に適合していることを証する書面」の交付を請求する権利を有するものでないことは明白であるから、この証明書の交付は、同法施行規則六〇条に基づく処分であつて、同法「第二九条の規定に基づく処分」と解することはできない。もつとも、同法施行規則六〇条が建築確認申請予定者に知事に対し、建築計画が同法二九条の規定に適合していることを証する書面の交付を請求する権利を認めた一理由は、知事が同法二九条により開発許可の権限を、八一条により無許可開発行為に対する監督処分の権限を有し、これら権限行使の前提として開発行為の有無等も判断せねばならないことにあると解されるが、このことから、同法施行規則六〇条の証明書が同法二九条に基づく処分となるわけのものではない。要するに、本件開発許可不要証明書交付処分は、同法二九条、八一条の存在を一理由として定められた同法施行規則六〇条の規定に基づくものであつて、同法二九条の規定に基づく処分ではない。

4  同法五〇条、七八条は、同法に基づく処分、不作為のうち特定の事項に対する審査請求を独立、専門機関である開発審査会に委ねているが、それらの事項を個々的に検討すると、いずれも、処分の要件として広い行政裁量を認めている処分である。また、開発審査会の権限とされている同法三四条一〇号の議、同法施行令三六条一項二号ハの議も行政裁量に関する事項である。このように検討すると、同法は、行政裁量の行使が同法の運用に大きい影響を与えることを考慮し、独立機関である開発審査会をしてこのような裁量事項について判断させようとしたものと解される。ところが、同法施行規則六〇条の証明書交付の可否に当たり判断すべき事項は、開発許可の有無(許可、不許可処分は公定力を有するから、許可をすべきかどうかは含まれない)、同法二九条但書各号に該当するか否か、開発行為に該当するか否かの点にあり、これらはすべて行政裁量を含まない法該当要件の有無の判断にすぎない。このような事項は、開発審査会の判断事項としては異質のものであつて、これを特に設置された独立、専門機関である開発審査会の審査判断に委ねる必要はなく、通常の行政不服審査機関である建設大臣(知事)で足りるものと考えられる。

そして、行政庁の権限(管轄権)については明文の規定から離れて解釈すべきではない。このことも考えると、前記のとおり審査権限について明文の規定を欠いている本件において、解釈によつて開発審査会の権限に属せしめることは相当でない。

5  以上のとおり、被告開発審査会は本件開発許可不要証明書交付処分についての審査権限を有しないから、この点において同被告の裁決は違法である。

二訴訟参加人らの審査請求適格

1  行政処分に対する行政不服申立は、その処分について不服申立をする法律上の利益がある者、すなわち、その処分により自己の権利もしくは法律上保護された利益を侵害されまたは必然的に侵害されるおそれのある者に限つてすることができ、この法律上保護された利益とは、行政法規が私人など権利主体の個人的利益を保護することを目的として行政権の行使に制約を課していることにより保障されている利益であつて、それは、行政法規が他の目的、特に公益の実現を目的として行政権の行使に制約を課している結果たまたま一定の者が受けることとなる反射的利益とは区別される(最高裁昭和四九年(行ツ)第九九号同五三年三月一四日第三小法廷判決・民集三二巻二号二一一頁)。

2 都市計画法二九条の規定は、建築基準法六条一項にいう「その計画が当該建築物の敷地……に関する法律」に当たり、建築主事はこの点を実質的に判断せねばならず、都市計画法施行規則六〇条の証明書は建築主事の判断の参考資料となるに過ぎず、右証明書は同法二九条の規定に適合するかどうかを確定する効力を有するものではないことは、後記第三の一に判断のとおりである。そうすると、開発許可を要する場合かどうかに関する不服は建築確認に対する審査請求において主張をすることができるが、訴訟参加人らは本件開発許可不要証明書交付自体によつては、未だその利益を侵害され、または必然的に侵害されるおそれがあるとは言えないから、これにつき審査請求をする適格を有しないと言うべきである。

3  本件開発許可不要証明書がなければ建築確認は絶対に得られないとの考え(被告建築審査会の裁決の採る見解)、あるいは右証明書は建築計画が同法二九条の規定に適合していることを公権力をもつて確定する効力があるとの考えは当裁判所の採らないところであるが、これを前提とし、かつ証明書の瑕疵が建築確認に承継されないと仮定しても、訴訟参加人らに本件開発許可不要証明書につき審査請求適格を認めることはできない。

訴訟参加人らは、審査請求適格を有する理由として、訴訟参加人らが開発区域に隣接または近接して居住し(この点は当事者間に争いがない。)、訴訟参加人らの主張第二の三のとおり、プライバシー、日照、通風を妨げられ、騒音、振動、交通渋滞、風害、電波障害、上水道の水圧低下などの被害を受けると主張し、開発許可制度において、近隣住民の利益を個別的に保護する規定であるとして同法三三条一項二号、三号、六号、九号、一〇号を指摘する。

ところで、同法一条は、都市の健全な発展と秩序ある整備を図り、もつて国土の均衡ある発展と公共の福祉の増進に寄与することを同法の目的として規定し、二条は、健康で文化的な都市生活及び機能的な都市活動を確保すべきこと並びにこのために適正な制限の下に土地の合理的な利用が図られるべきことを都市計画の基本理念として規定している。このように、同法は公益の実現を目的としていることは明らかである。同法二九条の開発許可の基準を定めた三三条を見ても、訴訟参加人らの指摘する条号は、開発地域及び周辺の地域における環境や利便を公共の福祉の一部として保護しようとしているものと解される。もつとも、公共の福祉、環境、利便といつても、それは国民、住民を離れて存するものではないが、訴訟参加人らの指摘する条号はある程度広い区域における環境、利便を保護しているのであつて、そこに住む個個人を個別的に保護しているものとは解することができず、近隣住民の利益は同法の目的とする公共の福祉に包摂される性質のものにすぎないと解される(開発許可に対する抗告訴訟の原告適格について、神戸地昭和五二年(行ウ)二一号同五五年四月一五日判決・判例時報九八四号五五頁、静岡地昭和五三年(行ウ)七号同五六年五月八日判決・行裁集三二巻五号七九六頁、横浜地昭和五三年(行ウ)三九号同五七年一一月二九日判決・行裁集三三巻一一号二三五八頁、横浜地昭和五五年(行ウ)二号同五九年四月二五日判決・判例地方自治六号一一六頁)。

他に訴訟参加人ら主張の利益が行政不服申立適格を基礎づけると解する根拠は見出すことができない。そうすると、訴訟参加人らは本件開発許可不要証明書交付につき行政不服申立をする法律上の利益がなく、その審査請求は不適法というべきである。

4 訴訟参加人らは、最高裁昭和三一年(オ)第五八号同三二年一二月二四日第三小法廷判決・民集一一巻一四号二三三六頁を引用し、裁決が審査請求適格を認めたことを理由として、裁決の取り消しを求めることはできないと主張する。しかし、右判例は、行政不服申立に関するものではなく、処分の申立に関するものであるし、御用組合を禁止して、要件を備えた組合の成立を促進しようとする特別の国家目的を有する場合であるから、この判例をもつて本件の参考にすることはできない。

5  被告開発審査会の裁決は、審査請求適格を有しない者の請求により原処分を取消した点においても、違法である。

三被告開発審査会の裁決は、以上判示の点において違法であつて、取消を免れない。

第三建築確認取消裁決について

一開発許可不要証明書の必要性

1  建築基準法六条一項は、建築の計画が当該建築物の敷地に関する法律の規定に適合することについて建築主事の確認を受けるべきものとしている。ここでいう「敷地に関する法律」は建築基準法に限られるものではないことは、同項が「この法律の規定に適合すること」との規定をしていないことにより明らかである。そして、都市計画法二九条は、主として建築物の建築の用に供する目的で行なう土地の区画形質の変更を規制するもので、建築自体と直接の関係があり、その判断内容も許可、不許可処分の有無(許可、不許可処分は公定力を有するからその当否の判断は含まれない)、開発行為に当たるかどうか、例外的許可不要事由に当たるかどうかといつた確認的なものであるから裁量を含むものではないし、同法施行規則六〇条の証明書も存するから建築主事の判断能力を超えるともいえない。この点を考慮すると、同法二九条は建築基準法六条一項に言う「建築物の敷地に関する法律」に該当し、建築主事が建築確認に際し適合を審査すべき事項であつて、同法施行規則一条七項、都市計画法施行規則六〇条は、右の審査事項を前提としたうえ、建築主事の判断を助け、都市計画担当行政庁との連絡を密にする目的で設けられたものと解される(現行の建築基準法施行規則一条七項、都市計画法施行規則六〇条を定めた昭和四四年一一月一三日建設省令第五三号の制定理由につき、昭和四四年一二月四日建設省計宅開発第一一七号、建設省都計発第一五六号建設省計画局長、都市局長通達Ⅰ6、なお、大分地昭和五七年(行ウ)第七ないし九号同五九年九月一二日判決・判例時報一一四九号一〇二頁)。

2  都市計画区域内での建築についての確認申請には、原則として、建築計画が都市計画法二九条の規定に適合していることを証する書面を申請書に添えなければならないとされ(建築基準法施行規則一条七項)、この関係で建築確認を申請しようとするものはその計画が都市計画法二九条の規定に適合していることを証する書面の交付を知事に求めることができるとされている(同法施行規則六〇条)。しかし、この証明書は建築主事が建築計画が敷地に関する法律である同法二九条の規定に適合するかを判断する資料であつて、建築主事はその証明に絶対的に拘束されるものではない(前記大分地判決、建設省計画局長、都市局長通達)。このことは、建築基準法六条一項では、証明書の存在ではなく、法律への適合自体が確認の対象と規定されていること、同法施行規則一条七項三号は、証明書の添付を必要としない場合を、都市計画法二九条の権限を有する知事ではなく、特定行政庁が定めることができるとしており、この規定により証明書が添付されないときは建築主事が同法二九条適合性を判断することになることから明らかである。

また、一般に、証明書は、それに記載された証明事項を公権力をもつて確定する効力を有するものではないから、同法施行規則六〇条の証明書の交付も、これによつて証明内容である「法二九条の規定に適合する」か否かが、公権力をもつて確定されるものではない。このことは、たとえば住民票の写しの交付、戸籍謄本の交付、国税通則法一二三条の証明書の交付が、証明内容である住民票や戸籍の記載、未納税額や法定納期限などを公権力をもつて、確定する効力を有せず、たとえ国税通則法一二三条の証明書に記載された未納税額が実際の額より多かつたとしても、証明書が交付されたことのために、その証明書に記載された額の納付義務が生じるものではないことと同じである。さらに、都市計画法施行規則六〇条は、省令であつて、法律ではないから、開発許可を受けないで、その行為を行なえるか否かという、国民の権利義務に関する事項を、公権力をもつて確定する効力があると解することはできない。

本件建築確認取消裁決は、本件開発許可不要証明書が被告開発審査会の裁決により取り消されたことを理由とするものであるが、同法二九条適合性は建築主事が実質的に判断すべきもので、証明書はその判断を拘束するものではないから、証明書交付が取り消されたこと自体は建築確認の内容が違法となつたことを意味するものではない。

3  もつとも、建築確認の申請書には原則として同法二九条の規定に適合していることを証する書面を添えなければならない(建築基準法施行規則一条七項)との手続きが定められているところ、本件では申請書に添えられていた証明書は右裁決により取り消されている。しかし、証明書の添付は申請書という手続的な事項であつて(したがつて、同法六条八項の委任により省令により定めることが許される。)、処分の実体的要件とは解されない。そうすると、このように申請書の添付書類が欠けた手続的瑕疵自体は、その申請に基づきされた行政処分を、行政訴訟または行政不服において取り消すべき理由とはならないと解される(奈良地昭和三五年(行)第三号同四三年二月二三日判決・行裁集一九巻二号二七二頁、名古屋地昭和四一年(行ウ)第一号同四六年四月三〇日判決・訟務月報一七巻八号一三〇〇頁、当庁昭和六〇年(行ウ)第一三号同六一年九月三〇日判決、ほか手続瑕疵と処分の効力に関する裁判例参照、なお、最高裁昭和三四年(オ)第九七三号同三六年七月二一日判決・民集一五巻七号一九六六頁)。

4  右判断のとおり、被告建築審査会が、本件建築計画が法律、命令、条例の規定に適合するかどうかの判断をしないまま、本件開発許可不要証明書が被告開発審査会の裁決により取消されたことのみを理由として、本件建築確認を取り消す裁決をしたことは違法である。

二本件開発許可不要証明書取消裁決との関係

1 本件建築確認取消裁決は本件開発許可不要証明書取消裁決があつたことを理由としてされている。右証明書の存しないこと自体は、本件建築確認取消の理由とならないことは前記一に判断のとおりであるが、仮にこれと反対に、被告らや訴訟参加人らの主張する見解を前提としても、本件開発許可不要証明書取消裁決は違法であつて、取り消すべきことは前記第一に判断のとおりであつて、このことは本件建築確認取消裁決を取り消すべき原因となると解される。

2  この取消判決は勿論未確定であるが、本件建築確認取消裁決が本件開発許可不要証明書取消裁決の違法性を承継しないとしても、次の理由により本件建築確認取消裁決を違法とし、これを取消すべき原因となると解される。

第一に、本件開発許可不要証明書取消裁決は権限のない機関によりされたものであるから、公定力のある行政処分とはいえず、これは当然に無効と言うべきである。

第二に、本件開発許可不要証明書取消裁決を取り消す判決は本件建築確認取消裁決取消請求の判決と併合して判決されるものであるから、この関係では本件開発許可不要証明書取消裁決は既に取り消され効力を失つたものとして取り扱われるべきである。都市計画法施行規則六〇条の証明書は建築確認申請のために用いられることを前提としているから、訴訟経済の見地からもこのように解するのが相当である(なお、詐害行為取消判決と第三者異議の訴えとの関係についての、最高裁昭和三四年(オ)第九九号同四〇年三月二六日第二小法廷判決・民集一九巻二号五〇八頁参照)。

三本件建築と開発行為

1  〈証拠〉によれば、次の事実が認められ、この認定を覆すに足る証拠はない。

ア 本件建物の敷地は、面積七六四六・九四平方メートル、その形状は被告開発審査会の裁決書別紙に示すとおりである。その南は三条通りの公道(巾七・八一メートル)に面し、それ以外の周囲は高さ約二メートルのブロック塀に囲まれている。この土地は、古くには建物があつたが、本件建物の建築が計画されるまで数年の間は空き地となつていた。ほぼ平面であり、この間に区画はなかつた。

イ 右敷地の区域は、第二種住居専用地域、準防火地域、建蔽率一〇分の六、容積率一〇分の二〇に指定されている。

ウ 本件建築確認申請、証明書申請における計画の本件建物は、建築面積計三八五八平方メートル余、延べ面積計一五六九三平方メートル余で、鉄筋コンクリート造り共同住宅(一六七戸)店舗(二戸)、床面積地下一六一平方メートル余、一階二六九六平方メートル余、二階二三二四平方メートル余、三階二二〇四平方メートル余、四階二四三七平方メートル余、五階一八三二平方メートル余、六階一七六一平方メートル余、七階一四六〇平方メートル余、屋上九四平方メートル余と、集会所、駐車場一階六一九平方メートル余、二階五五平方メートル余である。

エ 本件建物の配置(一階部分)は、被告開発審査会の裁決書別紙図面のとおりである。同裁決書別紙第二図面のA、B、C、D棟は計一六七戸の住宅(B棟にはほかに二戸の店舗)、E棟は右住宅住民のための駐車場、集会所、ごみ置場、ポンプ場、浄化槽である。A、B、C棟を結ぶ部分(同裁決書別紙第一図面では斜線のない部分)の一、二階部分は住宅がなく、吹き通しの通路となり、三階以上は住宅となつている。C、D棟を結ぶ部分は、住宅となつている。A、C、D棟の敷地中央寄りに各棟上部階への階段が、C棟北東端にはエレベーターがある。このエレベーターはC棟だけではなく、A、B、D棟の居住者もが各専用部分への往来のため利用することを予定している。D棟北西には庭園がある。B棟東側より、A、B、C棟を結ぶ部分一階よりA、B、C、D、E棟の間の部分は各棟住居及びE棟駐車場、集会所や庭園への通路となつている。通路の巾は、D、E棟の間、A、E棟の間で各二メートル、C、E棟の間で四ないし五メートル、その他の部分で五メートルである。この通路は、居住者や訪問者のための通路であつて、道路法上の道路、建築基準法四二条一項五号の道路、または一般公衆の通行を予定する道路ではない。右認定の建物、通路、庭園以外の場所は、植込や庭となつている。

オ 一階部分で、敷地境界とA棟東端とは約三メートル、A、E、D棟北端とは約四ないし六メートル、D棟西端とは約四ないし一〇メートル、D棟南端、C棟西端とは一ないし四メートルの間隔がある。A、C、D棟は上部階になるに従つて、床面積が減り境界線から後退し、最上階の七階では、境界線との間隔は、A棟東端で約九メートル、A棟北端で約二〇メートル、D棟北端で約二五メートル、D棟西端で約九ないし一一メートル、C棟西端で七ないし九メートルとなつている。

カ 本件敷地の二分の一を超える部分に建物が存し、これらの建物は近接しているので、これらは一塊の建物の状況を示している。

2  都市計画法二九条は市街化区域で開発行為をしようとする者は、知事の許可を受けなければならないとし、同法四条一二項は、「開発行為」とは、主として建築物の建築または特定工作物の建築の用に供する目的で行なう土地の区画形質の変更をいうとしている。

「土地の区画の変更」が何を意味するかは、一義的に明確とは言えないが、不動産登記簿上の分筆、合筆のように、土地の現況において、区画変更の生じないものが含まれないことは、都市計画法の性格上明らかである。「土地の区画の変更」とは、現況(物理的状況)における土地の区画の変更でなければならないと解される。

また、建築物の建築自体は、当然には、その敷地につき区画の変更が生じるとすることは出来ない。このことは、同法四条一二項が、右のとおり定義し、「土地における建築物の建築」とか「土地の利用形態の変更」とかの定義はしていないこと、宅地審議会第六次答申のうち、許可を要する開発行為の中に「建築行為」をも含めるとの制度の提案を国会が採用しなかつた立法経緯から明らかである。

もつとも、建築物の建築によつて、土地の現状に区画の変更が生じると評価出来る場合もあり得ると解される。たとえば、土地に複数の独立住宅を建築すれば、それぞれの居住者は、それぞれの敷地部分を排他的に占有することになり、その間に塀、柵をも設けるのが通常であるから、複数の独立住宅の建築により土地の現状において区画の変更が生じると言うことができる。ところが、一の建築主が一団の土地に、母屋と蔵の二棟、または二棟の工場を建築して、それらの二棟ともを使用するときは、複数の独立住宅の建築の場合とは異なり、二つの排他的占有や、塀、柵の設置はないから、この建築によつては、土地の区画の変更は生じないと言うべきである。

中高層共同住宅の建築には、複数の独立住宅の建築とは異なつた側面があると考えられる。つまり、中高層共同住宅の場合には、その敷地の土地が、専用部分の所有者、使用者の全員によつて共同して占有、利用され、独立の排他的占有はなされないのが通常である。したがつて、一棟の中高層共同住宅の建築によつて、当然に、その敷地の土地につき、区画の変更が生じるとすることは出来ない。

3  本件建物は、一つに連なり、エレベーターを共用する共同住宅と、その住民ら共同のための駐車場、集会所、ごみ置場、ポンプ場、浄化槽の建物(E棟)であつて、一塊の建物の状況を示し、その敷地は建物の下になる部分のほかは、住民が共同で使用する通路、庭園である。これらの事実によると、本件建物の敷地の土地については、住民全体の共同占有が及び、独占的排他的な占有による区画は存しないと解される。

本件建物の敷地には、各部屋、駐車場、庭園に通じる通路がある。しかし、これは一般の通行を予定しているものではなく、区画された敷地内の本件建物の居住者、その訪問者の利用を前提とするものであるから、邸宅内の門より玄関への通路、庭園内の通路に類似し、これによつて本件建物の敷地が都市計画法上、区分されたことにはならない。

ほかに、土地の現実的な区画が存するとの主張立証はないから、本件建築計画については、「土地の区画の変更」はないと解される。

4  〈証拠〉によれば、京都市の「都市計画法に基づく開発許可申請手続きのしおり」には、「一団の土地において、二棟以上の共同住宅を建設する場合」には、開発行為があると例示し、被告開発審査会も本件建物が三棟であると判断して、このことから区画の変更があると判断している。

確かに、一団の土地に二棟以上の共同住宅を建築する場合、その二棟がお互いに離れて独立して存在し、あるいは通り抜けられる道路が存在するなどのため、それぞれの敷地が独立した状況を示す場合には、二棟の共同住宅の建築により区画の変更が生じたとするのが相当である。しかし、本件においては、そのような状況はなく、前記事実によれば土地の現況において区画の変更があるとは言えない。本件建物を何棟と評価するかは、「区画の変更」の判断には関係はない。

5  訴訟参加人らは、その主張第二の五、第三の四において、人口の増加を来す共同住宅については、一棟の建築によつても、「区画の変更」が生じると解すべきであると主張し、被告らもその解釈の余地があると主張する。そして、都市計画法三三条の開発許可の基準の中には、排水施設、給水施設、学校など人口の増加と関連のある規定も存することは訴訟参加人らの指摘するとおりである。

しかしながら、同法三三条は開発行為が存する場合の許可基準であるから、これがそのまま「開発行為」の解釈に繋がるものではない。また、同じ大きさの建物であつて、土地の利用形態も同じのとき、共同住宅に限つて、土地の現実的な区画の変更が生じるというのは理解出来ない。訴訟参加人らは共同住宅はその内部が各占有部分毎に区画されていることを挙げるが、それは建物内部の区画であつて、その敷地の土地の区画ではない。訴訟参加人ら、被告らは、本件において土地はどのような線で、幾つに区画されたと言うのであろうか。開発許可制度の立法趣旨、背後的社会事情を考慮しても、訴訟参加人ら、被告らの主張は法律の解釈の範囲を超えるものであつて、採用することは出来ない。

6  当裁判所における検証の結果その他本件全証拠によつても、本件建物の建築により土地の「形質の変更」が生じると認めることは出来ない。

四本件建築確認取消裁決は、以上判示の点において違法であつて取消を免れない。

第四結論

以上判断のとおり、被告開発審査会の本件開発許可不要証明書取消裁決、被告建築審査会の本件建築確認取消裁決は、いずれも違法であるから、これらを取り消すこととし、訴訟費用の負担につき行訴法七条、民訴法八九条、九三条一項本文、九四条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官井関正裕 裁判官田中恭介 裁判官榎戸道也)

別紙「被告建築審査会の裁決」

当審査会の判断

第一 請求人適格について

一 当事者は、請求人適格について積極的に論じていない。さらに、審査請求人らは具体的な生活利益の侵害についても何ら言及していない。そこで職権によって判断することとするが、その前に当審査会の請求人適格についての考え方を明らかにしておく。

二 建築基準法(以下「建基法」という。)第九四条第一項は、建築主事の処分についての審査請求は建築審査会に対して行うものとし、行政不服審査法(以下「行審法」という。)第一条第二項の規定により、当該審査請求については、行審法の規定が適用されるので、行審法第四条第一項に定める、処分に「不服がある者」とはどのような者をさすかが問題となつてくる。

ところで、行政事件訴訟法(以下「行訴法」という。)第九条は、当該処分の取消しを求めるにつき「法律上の利益を有する者」という表現を用いている。行審法の「不服がある者」と行訴法の「法律上の利益を有する者」との概念はどう違うのであろうか。

従来の判例学説は、行政庁の処分により自己の権利又は法律上の利益を侵害され、又は必然的に侵害されるおそれのある者に限ると解している(処分庁もこの見解に従つていることは、前記理由中の第二の二(一)イの主張から容易にうかがえる。)。しかし、近時においては、利益救済説が強調されるようになつている。この見解によれば、行訴法にいう「法律上の利益」は、訴訟によつて保護するに値する利益を意味し、実体行政法規が保護するものではない単なる事実上の利益でも、侵害の結果生ずる不利益が具体的、かつ、実質的である場合には、原告適格が認められるべきであるとする。

また、行審法第四条第一項の規定は、行訴法第九条の規定と異なり、「法律上の利益を有する者」との文言を用いず、単に「不服がある者」との文言を用いるとともに、その第一条第一項において「この法律は、行政庁の違法又は不当な処分その他公権力の行使に当たる行為に関し、国民に対して広く行政庁に対する不服申立てのみちを開くこと」を目的としていることを考慮すれば、行訴法の原告適格よりも行審法の請求人適格を広く解することの方が、行審法の目的に適合するものと考える。しかし、どの程度までの広い解釈が許されるかは困難な問題であり、今後の判例学説の課題であるが、当審査会としては、当該処分により生活利益が侵害されるおそれがあると認められるときは、請求人適格があるものと解する。したがつて、侵害される生活利益が事実上のものであつても差し支えない。けだし、快適な生活を営むことは人類の普遍的な生活利益であり、憲法第二五条もこれを保障するところであるからである。

三 審査請求人らは、それぞれの生活利益に対する具体的な侵害事実を主張せず、周辺住民の被るとされる一般的な生活上の不利益を主張するにとどまる。しかし、検証調書、甲第一号証ないし第五号証によれば、審査請求人らの住居は本件建築物と極めて近接していることから、本件建築物が建築された場合、たとえ処分庁がいうように本件建築物が建基法等の規定に適合していたところで、諸々の生活利益が侵害されるおそれがあることも、社会通念上推認し得るところである。

当審査会は、この見地から審査請求人らに請求人適格があることを認め、本件審査請求を適法と判断する。

第二 本件確認処分の効力について

一 建築基準法施行規則第一条第七項の規定によれば、一〇〇〇平方メートルを超える敷地について建築確認を受けようとする場合は、申請に係る計画が都市計画法(以下「都計法」という。)第二九条の規定に適合していることを証する書面(本件においては、乙二号証の開発許可不要証明をさす。以下「開発許可不要証明」という。)を確認申請書に添付しなければならないと定めている(申請人は、都市計画法施行規則第六〇条によりこの交付を求め得る。)。したがつて、都計法第二九条の許可を受けないで造成された土地に建築物をたてることについて建築確認を出すことは、形式的にも実質的にも建築確認の要件に反することとなり、できないこととなる(建設省計画局民間宅地指導室監修「増補・改訂開発許可制度の解説」六五頁)。ところが、本件では「開発許可不要証明」が確認申請書に添付されていたので、本件確認処分は有効といえる。(審査請求人らは、審査請求書の六(四)①で「開発許可を経ないで本件処分がなされている。」と主張しているが、処分庁の、「確認申請書に乙二号証の『開発許可不要証明』が添付されていた。」旨の弁明の後は、この点について審査請求人らは反論していない。)しかし、既に本件確認処分の有効要件である「開発許可不要証明」(京都市長が昭和六〇年一〇月一七日付けで、京都市右京区嵯峨朝日町二―三につき、大同建設株式会社(代表取締役 小森保彦)に対して行つた都計法第二九条の開発許可は不要と認める旨の都市計画法施行規則第六〇条による証明書。乙二号証)は、開発審査会での審査の結果、昭和六一年一〇月三日付けで取り消されている。このことは、当審査会、関係行政庁、本件当事者間において顕著な事実である(京都市開発審査会昭和六〇年第二号審査請求事件裁決書参照)。したがつて、当審査会もこの裁決に従わざるを得ず、この結果、本件確認処分に瑕疵が生じたことを認めざるを得ない。

二 このような瑕疵が生じた本件確認処分についても、行政処分の公定力の存否が問題として残る。当審査会としては、取り消されるまでは、瑕疵ある行政処分も公定力を有するとする判例通説の見解に従う。

第三 結び

如上の理由により、当審査会は合議のうえ、行政不服審査法第四〇条第三項の規定により、主文の如く裁決する。

「被告開発審査会の裁決」

当審査会の判断

第一 本案前の当事者の主張

一 第一証明書と第二証明書との関係について

当審査会は便宜上この問題を先に判断することとする。

第二証明書は予定建築物の設計変更後に再発行されたものであるが、設計変更により変更前の予定建築物なるものは存在しないこととなるから、第一証明書は形骸を残すばかりで、形式上も実質上も無意味なものとなつており、講学上失効といわれるものとなつている。したがつて、請求人らにたとえ請求人適格が認められるにしても(請求人適格の存否については後述する。)、請求の利益が認められないから、請求人らの第一証明書の取消請求は却下を免れない。請求人らは第一、第二の証明書の関係には論及しておらず、処分庁は第一証明書は第二証明書の発行によつて無効となるものではないというにとどまり、それ以上論及していないが、当審査会としては上記のように考える。

二 請求期間徒過の処分庁の主張について

処分庁は第一証明書との関連において、請求人らの第一証明書取消請求提起は提起期間経過後であるから、無効である旨を詳述しているが、上記一に述べた理由により、当審査会は第一証明書は失効していると考えているから、第一証明書については期間徒過の問題に論及する必要をみない。

第二証明書については、処分庁も、請求人らの、この証明書の交付を知つたのは昭和六〇年一二月五日の第一回公開口頭審理の席上であるとの主張を争つていないから、昭和六〇年一二月一二日付け審査請求補充書でなされた第二証明書の発行取消請求は有効である。

三 開発許可不要証明書発行の根拠及び発行行為の処分性について

(一) 一般に「開発許可不要証明書」とは、正確にいうと「申請に係る建築・建設計画が都計法第四条一二項に規定する開発行為に該当しないことの証明書」と「同開発行為に該当するが、当該開発行為が都計法第二九条各号に該当するため開発許可が不要であることの証明書」の両方の意味で用いられることがあるため、当審査会は、以下においては、前者の意味において「開発許可不要証明書」、後者の意味において「開発行為許可不要証明書」という言葉を用いることとする。

ところで、この「開発許可不要証明書」については発行権限についての明文規定はない。都計法第二九条は「市街化区域又は市街化調整区域内において開発行為をしようとする者は、あらかじめ、建設省令で定めるところにより、都道府県知事の許可を受けなければならない。ただし、次に掲げる開発行為についてはこの限りではない。」と定め、本文にもただし書にも「開発行為」という文言を用いている。ここにいう「開発行為」というのは、都計法第四条一二項にいう「主として建築物の建築又は特定工作物の建設の用に供する目的で行なう土地の区画形質の変更」を指すことは疑いを入れる余地がない。都計法第二九条の規定はこの意味の開発行為を行う場合を前提としている規定であり、都道府県知事に対し、この場合の開発許可権限を付与したものである。したがつて、開発行為に該当しないとの証明権限は、都計法第二九条により直接には都道府県知事に付与されていないもののように一応は考えられる。しかしながら、知事は同条ただし書に規定する場合について要求があれば、「開発行為許可不要証明書」を発行する権限と義務があることは都計法施行規則第六〇条の明文規定により明らかである。このように開発行為を本来伴う建築・建設計画につき、同条ただし書の規定に基づき「開発行為許可不要証明書」の発行権限を有する知事が、開発行為を伴わない建築・建設計画については「開発許可不要証明書」の発行権限を有しないと解することは、法律解釈としては余りに硬直に過ぎるように思われる。かくして当審査会としては、都計法第二九条は開発行為を伴わない建築・建設計画についての「開発許可不要証明書」の発行権限も知事に付与しているものと解釈する方がむしろ妥当であると考える(結果同説、荒秀、筑波大学教授、判例評論三二六号一八四ページ及び一八七ページ注1)。仮に、「開発許可不要証明書」の発行権限が都計法第二九条によつて知事に付与されていると解することは行き過ぎであるとしても、同条ただし書に規定する場合につき知事が「開発行為許可不要証明書」の発行権限を有するとする趣旨を類推し、知事にその権限を認めるべきである。この立場を採れば、都計法施行規則第六〇条及び建基法施行規則第一条七項の規定も類推適用されることになる。

仙台地方裁判所は建基法施行規則第一条七項(改正前は六項)につき「右規則の条項は、前述した建築主事の形式的、外形的な審査の必要から定められたものと解されるが、都市計画法二九条以下への適合性のみが念頭に置かれているから、同法四条一二項に定義されている開発行為の概念にそもそも該当しないと判断された本件のごとき場合は、前記規則一条六項の予定外であるのであつて、同条項の適用はないと解すべきである」と判示している(昭和五九年三月一五日判決、行裁集三五巻三号二四七ページ)。この判示の見解では知事の「開発許可不要証明書」の発行権限は都計法第二九条に基づくものではないことになる。そうすると、建基法第六条一項により建築確認申請しようとする者も、都計法施行規則第六〇条により知事に「開発許可不要証明書」の発行を請求することができないことになり、自然、建基法施行規則第一条七項に従い建築確認申請書に添付できないこととなる。都計法施行規則第六〇条、建築法施行規則第一条七項に従い、建築確認申請書に「開発許可不要証明書」が添付されている場合は、建築主事は開発許可権者たる知事又は市長の適法不適法の判断に立ち入ることはできず適法なものとして確認すべきであるが(前記仙台地裁判決。この事案は都計法第二九条ただし書の場合に関するものでなく、開発行為を伴わない建築・建設計画に関するものであり、建築確認申請書の「その他必要事項欄」に「開発行為に該当せず―開発審査課」との記載をしたうえ担当者が押印をした事案である。)。「開発許可不要証明書」が添付されていないときは、建築主事は建基法第六条三項の規定により、当該建築物の敷地が適法かどうかを審査する義務があるから、確認可否の判断をするに際し、自ら申請地の状況を調査しなければならないことになる。これは、知事に「開発許可不要証明書」の発行権限が付与されていない結果であり、やむを得ないことと片付けてしまえばそれまでであるが、このような解釈が、果たして都計法施行規則第六〇条及び建基法施行規則第一条七項が設けられた趣旨、すなわち建築確認作業を適正かつ迅速に処理せしめんとする目的に沿うものであろうか。たとえ、知事が任意に「開発許可不要証明書」を発行しても公の確認的効力を有しないから、建築主事にとつては結果は同一である。

当審査会は以上の見地から都計法第二九条の規定は直接的に又は類推的にいわゆる「開発許可不要証明書」発行権限をも知事(本件では市長)に付与したものと解すべきものと考える。

(二) 処分庁は「開発許可不要証明書」発行の処分性を否定し、行審法の対象とならないと主張する。この見解は前記仙台地裁判決及び大分地裁判決(昭和五九年九月一二日判決、判例時報一一四九号一〇二ページ)と同一の立場である。しかし「開発許可不要証明書」なるものは、申請建築・建設計画は開発行為に該当しないとの判断が前提となつているから、行政法上の確認行為であり、準法律行為的行政行為と解すべきであつて、行政処分として(田中二郎、新版行政法上巻三二六ページ)又は公権力の行使に当たる行為として行審法の対象となる。行審法は第一条で「行政庁の違法又は不当な処分その他公権力の行使に当たる行為」という文言を用い、第二条では、行為そのものには制約はあるものの、「公権力の行使に当たる事実上の行為」をも行審法の対象たる「処分」に当たるものと定めているが、この趣旨は「国民に対して広く行政庁に対する不服申立てのみちを開くこと」にあるのであるから、準法律行為的行政行為と考えられている確認行為、公証行為、通知行為等を行審法の対象から除外する方が行審法制定の趣旨に反するものと断ぜざるを得ない(注)。処分庁が知事又は市長が「開発許可不要証明書」発行権限を有していないと解しているものならば、知事又は市長の証明書発行行為は行政処分たる性質を有していないから、行審法の対象とはならないことは当然のことであるが、処分庁がこの点をどのように考えているのか明らかではない。また、仙台地裁判決も知事又は市長の上記の権限の有無についての判断はあいまいである。もつとも、仙台地裁判決は「開発行為の許可不許可の権限が都道府県知事ないし市長にあることからみれば、その前提となる当該建築計画が該許可を要するものであるか否か(都市計画法四条一二項の開発行為の定義にあてはまるか、または同法二九条ただし書の除外事由に該当しないか)の判断の権限も同じく右許可権者に属するものと解さざるを得ない」と判示しているが、「解さざるを得ない」理由には言及していない。大分地裁判決は都計法第二九条ただし書の場合に関する「開発許可不要証明書」に関するもので、仙台地裁の事案と異なるが、「少なくとも都市計画法第二九条ただし書所定の許可不要の開発行為については、当該計画が都計法第二九条ただし書に該当するかについて公定力ある判断を行うのは建築主事であると解される」と判示しているが、その正当性は疑わしい。

以上の見地から、当審査会は知事又は市長の「開発許可不要証明書」発行権限を肯定し、この証明書発行は行政処分と解し行審法の対象となると考える。したがつて、処分庁の見解は採用し得ない。

(注)都計法施行規則第六〇条の規定に基づき、同法第二九条ただし書に定める場合につき、「開発行為許可不要証明書」交付の申請があつたときは、知事又は市長は証明書を交付しなければならない。この証明も公権力による確認行為であり、準法律行為的行政行為である。この確認行為が違法又は不当な場合に行審法の対象となり得ないものであろうか。この行為についても処分性を否定すれば行審法の対象たり得ないこととなるが、この結果は明らかに不合理であるから、いわゆる「開発許可不要証明書」の場合と同様に積極に解すべきである。

四 審査請求人適格について

(一) 処分庁はこれについては昭和五三年三月一四日付けの最高裁判決を援用して否認している。この判決は不当景品類及び不当表示防止法に関するものであるが、同判決は「一般の行政処分についての不服申立の場合と同様に、当該処分について不服申立をする法律上の利益がある者、すなわち、当該処分により自己の権利若しくは法律上保護された利益を侵害され又は必然的に侵害されるおそれのある者をいう、と解すべきである」と判示している。この判示は行訴法第九条の「当該処分又は裁決の取消しを求めるにつき法律上の利益を有する者」についての従来の判例通説の見解と同旨である。しかし近時は利益救済説が強調されるようになつている(鈴木忠一、三ヶ月章監修、新・実務民事訴訟講座9、行政訴訟Ⅰ五八ページ)。この見解によれば、行訴法にいう「法律上の利益」とは訴訟によつて保護するに値する利益を意味し、実体行政法規が保護するものではない単なる事実上の利益でも、侵害の結果生ずる不利益が、具体的かつ実質的である場合には、原告適格が認められるべきであるとする。ところで、行審法第四条一項は行訴法第九条と異なり、「法律上の利益を有する者」という表現を用いず、単に「不服がある者」との文言を用いるとともに、その第一条においてこの法律の趣旨として、「この法律は、行政庁の違法又は不当な処分その他公権力の行使に当たる行為に関し、国民に対して広く行政庁に対する不服申立てのみちを開くことによつて、簡易迅速な手続による国民の権利利益の救済を図るとともに、行政の適正な運営を確保することを目的とする」と規定し、行訴法の定める「適法な処分」を「不当な処分」まで拡張し、また「国民に対して広く行政庁に対する不服申立のみちを開く」こと及び「行政の適正な運営を確保すること」を目的としていることを考慮すれば、行訴法の原告適格より請求人適格を広く解釈することが行審法の目的に適合するものと考える。しかしどの程度まで広い解釈が許されるかは、今後の学説判例の将来の課題であるが、当審査会としては、当該処分による生活利益の侵害が保護に値すると認められる程度にあるときは、請求人適格があると解する。したがつて、侵害される生活利益は事実上のものであつても差し支えない。けだし、快適な生活を営むことは人類の普遍的な生活利益であり、憲法第二五条もこれを保障するところであるからである。

(二) 請求人は総計で三一六名であるが、このうちやや具体的に被侵害生活利益に言及している者は二一名のみである。この二一名についての被侵害生活利益は当事者の主張の部分(第三の三の(二))で述べられているとおりであるが、二一名は別紙第一図に示したとおりほぼ敷地いつぱいに建てられる大規模マンションと極めて近接した場所に居住している者である。このうち、大規模マンションと近接して居住している安田孝之、尾中利輔、前田武彦、古町尊治、吉川和宏、北村佳久、井上泰介、松井敏泰、井上清、青山博、加地義、豊岡登、中本一英、広田夏夫、山田達雄、奥村秀雄、細川種一の被侵害生活利益については容易に首肯し得るところであり、また、三条通に面して居住し、各種営業を営んでいる山崎義三、杉村要、高桑清太郎、九嶋豊造の四名の住居の前面道路は七・五四メートルないし七・八一メートル程度のもので(乙第五号証)。現在でも交通状態は良好とはいえないことは顕著な事実であるから、大規模マンション建築後の交通渋滞は容易に想像し得るところである。したがつて、請求人らが主張する四名の生活利益の侵害発生も容易に肯定できる。

上記の理由に基づき、当審査会としては前記二一名の請求人らについては請求人適格を認めるが、何ら具体的に被侵害生活利益を明らかにしていないその他の請求人らについては、請求人適格の有無を判断することはできない。

(三) 処分庁は請求人らの被害又は利益の侵害は「開発許可不要証明書」の発行により生ずるのではなく、建基法第六条の建築確認処分によつて初めて可能となるものと弁明し、参加人もほぼ同様の見解を述べているが、当審査会としては既に確認処分がなされていることが、当事者間において顕著である本件においては、前記最高裁判所の「必然的に侵害されるおそれのある者」にも原告適格を認めた判決に従い、二一名につき請求人適格を認める。

第二 本案における当事者の主張

「開発行為」について

(一) 都計法第四条一二項によれば、「開発行為」とは「主として建築物の建築又は特定工作物の建設の用に供する目的で行なう土地の区画形質の変更をいう」のである。このうち「形質の変更」については理解は容易であるが、「区画の変更」となると、簡単なようであるが、具体的にいかなる場合がそれに当たるのか容易に理解できない。建設省計画局民間宅地指導室監修にかかる「増補改訂開発許可制度の解説」(昭和五八年八月二〇日改訂版)にも、①土地の利用目的、物理的形状等からみて一体と認められる土地の区域について、その主たる利用目的が建築物又は特定工作物に係るものでないと認められる土地の区画形質の変更は、開発行為でない。②単なる分合筆のみを目的としたいわゆる権利区画の変更は、ここでいう「区画形質の変更」に含まれない。③建築物の建築又は特定工作物の建設自体と不可分な一体の工事と認められる基礎打ち、土地の掘削等の行為は、建築物の建築行為又は特定工作物の建設行為とみられるので、開発行為に該当しない等、該当しないものばかり挙げているのみで、積極的にどのような場合が「区画の変更」に当たるかについては言及していない(三五、三六ページ)。

(二) 京都市は「都市計画法に基づく開発許可申請手続のしおり」(以下「しおり」という。)という手引書を作成しているが、その中で①「既存の宅地を道路等で分割して複数の敷地にする場合」と、②「一団の土地において、二棟以上の共同住宅を建築する場合」とを「区画の変更」に当たると例示している。この場合①は理解できるが、②の例示は理解できない。

処分庁は弁明の中で「しおり」中の上記②の例示の妥当なことを、建基法施行令第一条の、敷地とは「一の建築物又は用途上不可分な関係にある二以上の建築物の一団の土地をいう」との規定を出発点として説明したうえ、結論的に「以上のとおり、一団の土地における建基法上複数棟と認められる共同住宅の建築に対しては、それらの位置関係にかかわりなく土地の区画の変更が生ずると解釈し、都計法を等しく適用させているのである。本件についていえば、本件共同住宅は、建基法上一棟とされている」と述べている(本裁決書。理由第四の本案における当事者の主張二の(二)のア参照)。しかしこの弁明は極めて理解し難く、建基法施行令第一条の規定から「本件共同住宅は建基法上一棟とされている」に導く論理過程がまず理解できない。

(三) 本件共同住宅は果たして一棟と解されるであろうか。別紙第二図で検討してみる。

別紙第二図によれば、本件共同住宅はA、B、C、D、Eの五つの建築物によつて構成されている。そしてA、Bは長さ九メートル、幅五・九メートルの建築物によつて接続され(ただし三階以上)、C、Dは長さ六・八〇メートル、幅三・五二メートルの建築物により接続されている(この部分は一階から、請求人らは廊下により接続されているようにいうが誤りである)。そしてA、B、C、D、の建築物は共同住宅(ただしBの一、二階は売店)であり、Eは屋根付駐車場と集会所である。A、B、CとDの接続部分の内部は居室になつている。この接続部分を考慮に入れなければ、本件共同住宅は二棟から構成されていることとなる。

本件共同住宅は上記のような構成になつているから請求人らは三棟と主張し、処分庁は一棟と主張する。その理由はA、B、C、Dは接続されているから一棟とみるべきであり、Eは共同住宅と用途上不可分の関係にあるから棟数に数えるべきではないという点にある。この主張の当否を以下で検討する。

まず本件共同住宅が果たして処分庁がいうように一棟と考えられるであろうか。改めて別紙第二図に基づき検討すると、A棟とB棟は接続部分を入れ、長さは一一〇・七三メートル、C棟は四四・六〇メートル、D棟は六三メートルであるが、A、Bの接続部分は五・五八メートル、C、Dの接続部分はわずか三・五二メートルであり、A、BとC、Dの長さに比べ余りにも不均衡であるから、設計者が「しおり」の例示に合致するように極めて巧妙に設計したと考えられても仕方がない構造になつている。このような工夫された建築物が、果たして社会通念に照らし一棟と考えられるであろうか。答は否である。次にE棟は建基法第二条一項の建築物に当たることは疑いの余地がない。処分庁はE棟については「本件共同住宅と用途上不可分の関係にあるから建基法上本件建築計画の敷地は一敷地であると聞いている」と弁明しているが、この弁明は、建基法施行令第一条(前掲)を念頭においての弁明と思われるが、E棟は長さは四三・四五メートル幅は一六・〇六メートルの大きなものであるから、たとえ共同住宅と用途上不可分の関係にあつても、社会通念上、この規定によつてE棟を棟数より除外することは困難である。けだし、建基法施行令第一条は本来敷地についての定義であるからである。このように考えてくると、本件共同住宅は社会通念上少なくとも三棟と解すべきであり、「しおり」の例示によれば「区画の変更」に当たるものであり、市長の許可を必要とするから、本件「開発許可不要証明書」の発行は違法である。

第三 むすび

如上の記述で明らかなように、当審査会としては、本件「開発許可不要証明書」の発行は「しおり」上違法と解する。当事者はその他「形質の変更」「開発許可基準」について論じているが、今更この点の判断をする必要は認められないから、この点の判断を省略し、合議の上、行審法第四〇条一項及び三項の規定により、主文のごとく裁決する。

別紙第1図

別紙第2図

「大判例」は20世紀で日本国憲法下の裁判例のうち,公刊物に掲載されたものをまとめたインターネット判例集です。原則として公刊されたものをそのまま載せています。

憲法により判決は公開とされており,法曹および法律研究者に利用されているものです。その公共性と平等主義の観点から,送信防止措置または改変には一切応じませんのでご了承ください。

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