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京都地方裁判所園部支部 昭和34年(ワ)34号 判決

原告 松本儀一

被告 高桑宗周 外二六名

被告側補助参加人 国 藤井俊彦 外七名

主文

原告(反訴被告)の本訴請求はこれを棄却する。

反訴請求(原告)は反訴原告等に対し別紙目録(一)記載の不動産につき京都地方法務局亀岡出張所昭和二十二年十一月四日受付第九〇七号同日の売買予約に因る所有権移転請求権保全の仮登記および昭和三十年十月三十一日受付第一八九六号昭和二十二年十一月四日の売買に因る所有権移転登記の各抹消登記手続をせよ。

訴訟費用は本訴、反訴共原告(反訴被告)の負担とする。

事実

原告、反訴被告、予備的反訴被告訴訟代理人は、本訴につき「被告等は原告に対し別紙目録(一)記載の土地および建物について昭和二十五年四月二十一日京都地方法務局亀岡出張所受附第一三一五号をもつて被告等のためになされた所有権取得登記の抹消登記手続をせよ。訴訟費用は被告等の負担とする。」との判決を求め、反訴並びに予備的反訴につき「各反訴原告等の請求を棄却する。各反訴費用は各反訴原告等の各負担とする。」との判決を求めた。

被告等訴訟代理人は、主文同一項同旨並びに訴訟費用は原告の負担とする、との判決を求め、

反訴原告等訴訟代理人は反訴請求として、主文第二項同旨並びに反訴に関する訴訟費用は反訴被告の負担とする、との判決を求め、

予備的反訴原告等訴訟代理人は、右反訴請求が認容されない場合予備的に、同反訴被告(原告)に対し「同反訴被告(原告)は

(1)  同反訴原告原田与三吉に対し別紙目録目記載の建物の東から二軒目の一戸、建坪五坪、二階四坪三合五勺(同目録記載図面#2の部分)につき、

(2)  同反訴原告金倉常勝に対し別紙目録(二)記載の建物の内西から二軒目の一戸、建坪五坪、二階坪四坪三合五勺(同目録記載図面#3の部分)につき、

(3)  同反訴原告鹿島荘九郎に対し別紙目録(二)記載の建物の内西端の一戸、建坪五坪一勺、二階坪四坪三合五勺(同目録記載の図面#4の部分)につき、

(4)  同反訴原告高桑宗間に対し、別紙目録(三)記載の建物の内東の端の一戸、建坪十四坪一合九勺、二階坪八坪九合八勺(同目録記載図面#1の部分)につき、

(5)  同反訴原告浜口吉松に対し、別紙目録(三)記載の建物の内東から二軒目の一戸、建坪十四坪一合九勺、二階坪八坪九合八勺(同目録記載図面#2の部分)につき、

(6)  同反訴原告竹岡アサに対し、別紙目録(三)記載の建物の内東から三軒目の一戸、建坪十四坪一合九勺、二階坪八坪九合八勺(同目録記載図面#3の部分)につき、

(7)  同反訴原告栗山次男に対し、別紙目録(三)記載の建物の内西から二軒目の一戸、建坪十四坪一合九勺、二階坪八坪九合八勺(同目録記載図面#5の部分)につき、

(8)  同反訴原告桂丑之助に対し、別紙目録(四)記載の建物の中央の一戸、建坪十一坪二合一勺(同目録記載図面#2の部分)につき、

それぞれ昭和三十四年四月二十五日の時効取得を原因とする所有権移転登記手続をなせ。同反訴に関する訴訟費用は同反訴被告の負担とする。」との判決を求めた。

原告・反訴被告・予備的反訴被告訴訟代理人は、

本訴請求の原因並びに反訴に対する答弁として、

一、原告・反訴被告(以下単に原告と称す)は昭和二十二年十一月四日別紙目録(一)記載の不動産をその所有者訴外長沢明から代金十九万円で買受け、内金四万円は当日現金で、内金十五万円は、当時原告の父訴外松本長助が訴外土方俊三から譲受けていた、同訴外人の訴外長沢明に対する金十五万円の貸金債権をもつて差引決済するという方法で各支払い、その所有権を取得し、右昭和二十二年十一月四日京都地方法務局亀岡出張所受付第九〇七号をもつて同不動産につき売買予約に基づく所有権移転請求権保全の仮登記をなした。

二、ところが、訴外長沢明が国税を滞納したため、同訴外人に対する滞納処分により同年十二月一日右別紙目録(一)記載の不動産に対し差押がなされ、昭和二十四年三月二十五日公売により同不動産を被告等(被告森ミよ、同森義和、同森千代子、同森明美、同渡辺ふみ子、同渡辺綾子、同堀林増美、同渡辺広司、同渡辺晴美、同渡辺博子、同藤野勝、同藤野文男、同藤野雪子、同渡辺はるゑ、同渡辺亨、同渡辺万千子を除く)および森義次渡辺弥一、藤野良三、渡辺浅吉が共同して買受け、昭和二十五年四月二十一日右被告等および森義次、渡辺弥一、藤野良三、渡辺浅吉は右不動産につき前同所受付第一三一五号をもつて所有権移転登記をなした。

三、ついで、原告は昭和三十年十月三十一日前同所受付第一八九六号をもつて前記売買により右不動産の所有権を取得した旨の所有権移転登記をなした。

四、従つて、原告の右不動産に対する所有権取得登記の順位は前示仮登記の日時まで遡及するから、これと抵触する前記被告等の所有権移転登記は原告に対抗しえないものとなつた。

五、右森義次は昭和三十五年九月三十日死亡し被告森ミよ、同森義和、同森千代子、同森明美が相続し、右渡辺弥一は同年八月十二日死亡し被告渡辺ふみ子、同渡辺綾子、同堀林増美、同渡辺広司、同渡辺晴美、同渡辺博子が相続し、右藤野良三は昭和三十六年三月二十一日死亡し被告藤野勝、同藤野文男、同藤野雪子が相続し、右渡辺浅吉は昭和二十七年十一月十七日死亡し被告渡辺はるゑ、同渡辺亨、同渡辺万千子が相続した。

六、よつて、原告は被告等に対し、右不動産につきなされた前記昭和二十五年四月二十一日前同所受付第一三一五号所有権移転登記の抹消手続を求めるため本訴請求におよぶ、と陳述し、

被告等の答弁並びに反訴原告等の主張一、の事実(但し、昭和二十二年十月九日差押のなされたことを除く)および同答弁・主張二(二)(1) の事実はこれを認めるが、同答弁・主張一の事実中同記載の不動産に対し昭和二十二年十月九日滞納処分による差押のなされたことは不知、同答弁・主張二(三)の事実は否認する、その他の事実は次のようにこれを争う。

同答弁・主張二(一)の事実につき、

訴外土方俊三は訴外長沢明に対して貸与していた貸金十五万円につき京都地方法務局所属公証人麓巖作成の昭和二十二年八月七日付抵当権付金銭貸借公正証書をもつて同金十五万円を弁済期日同年十一月六日として別紙目録(一)記載の不動産上に抵当権設定を約した上同不動産につき同年八月九日付で京都地方法務局亀岡出張所受付第一四四二号をもつて売買予約を原因とする所有権移転請求権保全の仮登記をなしたが、原告の父訴外松本長助は、右訴外土方俊三の要請により、同年八月八日同訴外人の訴外長沢明に対する右金十五万円の貸金債権並びに抵当権を代金十五万円で譲受け、ついで同年十一月四日原告は右訴外松本長助を代理人として訴外長沢明から右不動産を代金十九万円で買受け、代金は合意の上前記本訴請求原因事実記載の方法によつて支払い、同日右訴外土方俊三を権利者とする前記所有権移転請求権保全の仮登記を抹消し、登記費用の関係上、新たに同日付で原告を権利者とする前記所有権移転請求権保全の仮登記をなしたもので、原告と訴外長沢明間の売買契約は適法になされたものである。

同答弁・主張二(二)(2) の事実につき、

原告の前記仮登記に優先する抵当権に基づいて本件不動産が競売された場合には原告が右所有権取得をもつて抵当権者に対抗しえない結果その所有権を失うことは当然であるが、本件は同抵当権に基づくものではないから前記のように原告が本件不動産につき昭和三十年十月三十一日所有権移転の本登記をなしたことによつて、原告は右所有権取得を、右義務履行期であると共に前記仮

登記の日である、昭和二十二年十一月四日に遡つて被告等その他の第三者に対抗しうることとなるから、園部税務署長が昭和二十二年十二月一日本件不動産に対してなした滞納処分による差押は、滞納者である訴外長沢明に対する滞納処分として、同訴外人以外の第三者たる原告の所有財産を差押え、かつ公売したことになり、昭和二十五年三月二十五日なされた公売は終局的には当然無効であり、従つて、被告等・反訴原告等主張の二個の抵当権はいずれも消滅していないものというべきである。このことを国税徴収法の改正に対比してみると、新国税徴収法(昭和三四年法律第一四七号)においては、債務不履行を停止条件とする代物弁済の予約に基づく権利移転請求権保全のための仮登記等のなされた不動産を滞納処分によつて差押えた場合、租税との関係において右仮登記等には担保物件に対して与えられている保護以上のものを与えることは適当でないという立場から、租税の法定納期限前に仮登記がなされている場合には、旧法におけると同様に、同差押後に同仮登記に基づき本登記がなされることによつて同差押は効力を失うが、右法定納期限後に仮登記がなされた場合は同差押後に同仮登記に基づき本登記がなされても右差押の効かは失わないとしたものであつて、(同法第二十三条)本件のごときは恰も新法における所謂法定納期限前になされた仮登記の場合に相当するものであるから、新法によつても、後日仮登記に基づき本登記がなされることによつて、仮登記後本登記前になされた滞納処分による差押は失効せざるをえないことになる。そうすると、仮登記の前示時期如何をとわず仮登記後なされた滞納処分による差押公売によつて、仮登記により保全されている権利は消滅するものとすれば、国税徴収のためより強い立場を認めた新法より更に強い効力を旧法下の公売処分に認める結果となり、かかる結果を認めざるをえない被告等・反訴原告等の主張は不当である。

よつて、反訴原告等の反訴請求は失当である、と述べ、

予備的反訴原告等の主張に対する答弁として、

同主張一の事実並びに同二の事実中、主張の日に主張の場所で公売がなされたこと、同原告等が訴外松本長助から右不動産に主張の仮登記がなされていることを聞き訴外由良重徳から主張のような説明を受けたこと、同被告が同原告等に対し十年余の間にわたつて同不動産に関する賃料を請求していないこと、はいずれもこれを認めるが、同主張二の事実中訴外松本長助が同被告の代理人として出頭していたこと、およびその余の事実は次のように総べてこれを争う。

同被告が同原告等に対し賃料等の支払請求をなさなかつたのはその請求をしても、公売により本件不動産の所有権を取得したと考えていた同原告等が同請求に応ずる道理がなかつたためである。また同原告等主張のような事情のもとに公売がなされたものであつたとしても、金融業者である訴外松本長助が同原告等に対し無条件で右仮登記の抹消を約束するということは凡そ考えられないことであり、従つて、同原告等としては公売に先立ち訴外由良重徳に対し右仮登記の抹消手続を行なうよう要請交渉すべきであつたのに、それをなさないで、敢て公売に参加し落札取得したとして占有を始めたことは、その占有を始めるにつき同原告等に重大な過失があつたものというべきである。

よつて、同原告等が同主張の部分につき時効により各所有権を取得することはありえないから、同原告等の同請求はいずれも理由がない、と述べた。

被告等・反訴原告等・予備的反訴原告等訴訟代理人は、

本訴に対する答弁並びに反訴請求原因として、

原告主張事実中、一の事実の内、別紙目録(一)記載の不動産につき原告主張の所有権移転請求権保全の仮登記がなされていること、同二、三、五の各事実はいずれもこれを認めるが、その余の事実はこれを争う。

一、別紙目録(一)記載の不動産は訴外長沢明の所有であつたが、昭和二十二年十月九日園部税務署長は同訴外長沢明の滞納税金三十一万七千四十五円十銭徴収のため右不動産を差押え同年十二月一日同差押登記をなし、昭和二十四年三月二十五日公売し、これを原告主張の二十七名が共同して代金三十一万九千九百八十二円で買受け、その所有権を取得し、昭和二十五年四月二十一日京都地方法務局亀岡出張所受付第一三一五号をもつて所有権移転登記を受けた。

右不動産には、右差押登記に先立ち、昭和二十二年十一月四日前同所受付第九〇七号をもつて、原告のため、同日付売買予約に因る所有権移転請求権保全の仮登記がなされ、ついで、昭和三十年十月三十一日前同所受付第一八九六号をもつて右仮登記に基づき右昭和二十二年十一月四日売買に因る所有権移転登記がなされている。

二、しかしながら、原告のなした右各登記は、次に述べる理由によつて、いずれも効力のないものである。

(一)  原告は訴外長沢明との間に右不動産について、右各登記記載のごとき売買予約および売買をなした事実はないから、右各登記はいずれも登記原因を欠く無効のものである。

(二)(1) 右不動産には、原告の前記所有権移転請求権保全の仮登記に先立ち、

(イ) 昭和十八年六月二十五日前同所受付、同月二十四日抵当権設定、抵当権者・株式会社日本勧業銀行、債権額・金二万三千円、弁済期日・昭和二十年五月二十日、利息年五分三厘なる、および

(ロ) 昭和二十年二月十日前同所受付、同月七日抵当権設定、抵当権者・笹山昭美株式会社、債権額・金二万五千円、弁済期日・昭和二十一年二月二十八日、利息・元金百円につき一ケ月金六十銭にる、

各抵当権が設定登記されていたものであり、その後前記のように、原告の所有権移転請求権保全の仮登記がなされ、ついで、訴外長沢明に対する滞納処分による差押公売がなされ、園部税務署長はその売却代金三十一万九千九百八十二円を右(イ)の抵当権者株式会社日本勧業銀行に金二万二千四百六十一円六十三銭を、右(ロ)の抵当権者笹山昭美株式会社に金三万二千三百円を各支払い、残金二十六万五千二百二十円三十七銭を訴外長沢明の前記滞納国税の一部に充当したものである。

(2) ところで、前記抵当権が右公売によつて消滅したことは旧国税徴収法(明治三〇年法律第二一号)第二条、第三条、第二十八条、不動産登記法(昭和三五年法律第一四号による改正前のもの)第百四十八条の規定の趣旨から異論のないところであるが、所有権移転又は所有権移転請求権保全の仮登記の存する不動産が、滞納処分による換価手続に付せられた場合には、同不動産が、競売法による競売、又は一般債権者による強制競売手続に付された場合と同様に、右仮登記に優先する抵当権が存在する限り、換価手続実行者の権利と仮登記により保全される権利との間の優劣に関係なく、不動産は最優先の抵当権設定時の態様によつて換価されるから、同抵当権が実行されたのと同様に、同抵当権と共に、同抵当権に対抗しえない後順位の仮登記によつて保全された実体上の権利は消滅し、爾後買受人にその権利を主張できなくなるものというべきである。ただ、滞納処分による公売においては、右仮登記に先順位の抵当権があつても、同仮登記権利者がその公売終了の時までに同仮登記に基づいて所有権移転の本登記をなすと、同権利者はその所有権取得をもつて国に対抗しうる結果国は公売処分の続行ができなくなるにすぎないものである。このように解しないと、公売処分によつて先順位の抵当権は消滅するのに対して同抵当権に後順位の仮登記権利が公売処分後もなお存続することになり、仮登記権利者は出損なくして先順位抵当権の負担を免れて利得し、先順位抵当権者はその後に仮登記をされることによつて抵当物件の担保価値・競売価格を下げられ、不当な損失を蒙るという不合理な結果にならざるをえない。

従つて、本件においては公売までに前記仮登記に基づく本登記がなされなかつたものであるから、最優先の抵当権即ち前記(イ)の抵当権設定時の態様によつて換価がなされ、同抵当権に対抗しえない前記原告の仮登記によつて保全される実体上の権利は右抵当権と共に消滅し、ただ、同仮登記が職権で抹消されない関係上登記簿上単に仮登記の形骸を留めていたにすぎないから、かかる無効の仮登記に基づいて後日本登記をなしてもその順位は同仮登記の日まで遡及するものではなく、右公売によつて所有権を取得し当時その所有権移転登記を了した被告等・反訴原告等に対し原告はその所有権取得を対抗することはできないものというべく、このことは国税徴収法の改正とは何等関係がない。

(三)  以上理由がないとしても、前記公売の当時公売場である京都府南桑田郡亀岡町役場において原告の代理人として同所に出頭していた訴外松本長助は買受人となつた被告等に対し、右被告等が買うのが一番よいと思うから自分は入札しない、仮登記のことは後日右被告等に迷惑はかけない旨申述べて、当時同被告等に対して前記原告の仮登記の抹消を約束したものであるから、原告は被告等に対して右仮登記を抹消すべき義務があり、同仮登記に基づいて本登記をなしても同取得登記をもつて被告等に対抗しえないものである。

なお、前記共同買受人である森義次、渡辺弥一、藤野良三、渡辺浅吉は、原告請求原因事実五記載の日に各死亡し、同記載の反訴原告等を含む被告等がそれぞれ相続した。

よつて、原告が被告等に対し、右不動産について被告等のなした前記昭和二十五年四月二十一日前同所受付第一三一五号所有権取得登記の抹消手続を求める本訴請求は失当であり、却つて、反訴被告(原告)は反訴原告等に対し、右不動産について反訴被告(原告)のためになされた昭和二十二年十一月四日前同所受付第九〇七号売買予約による所有権移転請求権保全の仮登記および昭和三十年十月三十一日前同所受付第一八九六号所有権移転登記を各抹消すべき義務あるものというべきであるから、反訴原告等は反訴被告(原告)に対し、反訴請求として、これら登記の抹消手続を求めるものである、と述べ、

予備的反訴請求原因として、

一、予備的反訴原告等は訴外長沢明からそれぞれ同請求趣旨掲記の部分を従前から賃借していたものであるが、これら不動産は他の不動産を含め登記簿上別紙目録(一)記載のように登記され、賃借部分に応じて分割登記されていなかつたため、その公売に際しては、形式上同原告等八名外十九名が各自の賃借部分に応じて買受代金を負担して支弁することにより共同で買受けて一旦同共有名義とし、後日従前の賃借部分につきそれぞれ分割登記手続をなすこととして、本訴に対する答弁および反訴請求原因において述べたように、公売により買受け、同日以降各自の賃借部分である同請求趣旨掲記の部分をそれぞれ同原告等において自己が分割所有するにいたつたものと信じて占有を始めたものである。

二、しかも、同原告等は、右公売当日公売場である前記亀岡町役場において、同被告の代理人として出頭していた訴外松本長助から右不動産に同被告主張の仮登記がなされていることを聞き、驚いて、公売担当者である園部税務署総務課長訴外由良重徳にその存否につき真偽を確めたところ、同訴外人は右仮登記は冒判で無効であるからいつでも抹消できる旨並びに右訴外松本長助は自分も入札するつもりで来たが、同原告等が買うのが一番よいと思うから自分は入札しない、仮登記のことは後日同原告等に迷惑はかけない旨を各言明し、右双方から右仮登記の抹消について保証を得たので、公売に参加し右不動産を取得したものであるから、同原告等においてそれぞれ右不動産部分の占有を始めるにつき善意にして過失ないものというべく、爾来十年以上の間所有の意思をもつて平穏かつ公然と占有してきたものであつて、その間同被告からも賃料の請求を受ける等何等の請求を受けたこともないから、同原告等はそれぞれ請求趣旨掲記の部分の所有権を昭和三十四年四月二十五日時効により取得した。

三、よつて、予備的反訴原告等は同被告に対し、右反訴原告等の請求が認められないとしても、前記各請求趣旨掲記の部分についてそれぞれ昭和三十四年四月二十五日の時効取得を原因とする所有権移転登記手続を求めるため本件請求におよぶ、と述べた。

被告等補助参加人代理人は、右被告等主張のとおり陳述した。

立証〈省略〉

理由

原告の本訴請求並びに反訴原告等の反訴請求について検討する。

先ず、原告は昭和二十二年十一月四日別紙目録(一)記載の不動産を訴外長沢明から買受けたものであると主張するので按ずるに、成立に争のない甲第一号証、同第四号証の一、二、乙第一号証、丙第一号証、証人松野竹司(第一、二回)、同土方俊三(第一ないし三回)、同西尾久次、同長沢明、同松本長助(第一、二回)、同橋本等の各証言(但し、証人土方俊三(第一回)、同長沢明、同松本長助(第一、二回)、同橋本等の各証言中後記採用しない部分を除く)、証人土方俊三(第一ないし三回)、同松本長助(第二回)の各証言によつて真主に成立したと認める甲第二号証、官署作成部分につき成立に争なく、その余の部分につき証人橋本等、同西尾久次、同長沢明の証言によつて真正に成立したと認める甲第三号証を綜合すると、別紙目録(一)記載の不動産につき、その所有者訴外長沢明の署名押印のある、原告主張内容同旨の売買契約を内容とする、売渡証書が作成されている事実(甲第三号証)、尤も、同書面記載の買主名等は後日訴外西尾久次が記入したものであること、訴外土方俊三、同長沢明間に昭和二十二年八月七日付金十五万円に関する金銭貸借契約公正証書(甲第一号証)が作成されていること、右公正証書作成以前に訴外長沢明は訴外土方俊三から右金額以上の借金のあつたこと、同訴外人が右不動産につき同月九日付で所有権移転請求権保全の仮登記をなしていること、訴外松本長助は訴外土方俊三方隠居所において、同訴外人の訴外長沢明に対する前記債権の譲渡を受けることとして同訴外人に対し現金十五万円を支払つたこと、訴外土方俊三の署名押印のある同月八日付右債権譲渡証書(甲第二号証)が作成されていること、尤も、同書面は必らずしも右日付の日に作成されたものとは確認しえないが、遅くとも同年十一月四日頃までの間に作成されたものであること、訴外長沢明は昭和二十二年頃以降本件不動産の賃借人から賃料の取立をしていないこと、訴外長沢明は同一滞納税金に基づき本件不動産に対する滞納処分に前後して同人所有の亀岡町本町に在る他の家屋並びに有体動産につき滞納処分による差押を受け、後二者の差押に異議を述べているが、本件不動産に対する差押・公売については何等異議を述べていないこと、昭和三十年頃同訴外人は、同年十月三十一日付で原告が本登記をなすに使用した前記売渡証書(甲第三号証)に異議なく改印届出のある印影を改めて押捺していることを認めることができ、右事実に前掲各証拠を綜合して考察すると、訴外土方俊三は昭和二十一、二年頃から訴外長沢明に対して金員を賃与していたが、昭和二十二年八月七日頃金十五万円についてその弁済期日を同年十一月六日とし、同訴外長沢明所有の別紙目録(一)記載の不動産に抵当権を設定し、併せて同不動産につき代物弁済予約の特約をなすこととして右当事者間に同年八月七日付公正証書を作成し、同月九日付で同不動産に所有権移転請求権保全の仮登記をなしたが、右公正証書作成後、訴外松本長助は、訴外松野竹司の仲介により、右訴外土方俊三から同訴外人の右訴外長沢明に対する右貸金並びに抵当権を、その代金十五万円を現金で支払つて、譲渡を受け、ついで、同年十一月四日頃訴外松本長助はその子である原告の代理人として訴外長沢明から、右債権の担保物件である右不動産を代金十九万円で買受け、代金は同当事者合意の上、内金十五万円は訴外松本長助の訴外長沢明に対する右金十五万円の債権と差引決済するという方法によつて、内金四万円はその頃現金で、各支払い、訴外土方俊三のなした前記仮登記を抹消の上、右取得に基づき同日売買予約に因る所有権移転請求権保全の仮登記をなしたこと(同仮登記事実は当事者間に争がない)を認めることができ、叙上認定に反する、乙第三号証の記載内容と証人土方俊三(第一回)の証言部分は、同証人の第一ないし三回を通じての証言の経過内容自体と前記甲第一、二号証、証人松野竹司(第一、二回)、同松本長助(第一、二回)の各証言に照らして、証人長沢明の証言部分は、前掲各証拠と甲第五号証が原告の許に存在することおよび同証人の証言内容経過に対比して、証人松本長助(第一、二回)、同橋本等、同由良重徳の各証言部分は前掲各証拠に照らして、被告高桑宗間本人の供述部分は、同部分が右証人長沢明から聞いたことであることに対比して、いずれも遮に採用し難い。

尤も、成立に争のない乙第八、九号証、第十号証の一、二、証人石田恒次の証言によると、昭和二十二年五、六月頃訴外石田恒次は訴外有井茂次を通じて訴外土方俊三に金十五万円を貸与したものと考えていたところ、同年十二月二十二日付で債権者石田恒次、同代理人有井茂次、債務者長沢明、同代理人土方俊三間に金四十六万円に関する準消費貸借契約公正証書が作成されていたこと、および、右公正証書における金四十六万円の内金十五万円を除く金額部分は訴外土方俊三が訴外長沢明に貸与していたものと考えられないことはないことを認めることができるけれども、右残金部分が、右公正証書作成当時、訴外土方俊三が訴外長沢明に対して貸与していた全金額であつたことを確認するにたりる充分の証拠は存在しないから、これら事実をもつて、訴外松本長助が訴外土方俊三から譲受けたという同訴外人の訴外長沢明に対する前記債権が存在しなかつたものと断ずることはできず、また、前記内金四万円の支払について、受取証書が作成提出されてはいないけれども、売買代金十九万円領収済の旨を記載した前記売渡証書が作成されている事実および訴外長沢明は後日異議なく同書面に改印届出の印を押捺していることに照らすと、右領収済の旨記載部分が予め印刷記入されていたものであるにしても、特に反証のない限り、その支払がなされたものと認めるのが相当であり、なお、証人並河敬太郎の証言、証人酒見哲郎の証言によつて真正に成立したものと推認して差支えない乙第四号証は必らずしも以上認定に反するものではなく、その他叙上認定事実を覆すにたる充分の証拠は存在しない。

そして、原告が昭和二十二年十一月四日京都地方法務局亀岡出張所受付第九〇七号をもつて別紙目録(一)記載の不動産につき売買予約に因る所有権移転請求権保全の仮登記をなしたことは当事者間に争がなく、前記売買に基づいてなした右仮登記は無効ではな

いから、以上の事実によると、被告等の答弁並びに反訴原告等の主張、二(一)の主張は認められない。

次に、原告主張二、三の事実はいずれも当事者間に争がなく、また、被告等の答弁並びに反訴原告等主張、二(二)(1) の事実は原告においてこれを認めて争がない。

ここに原告は、右不動産につき右仮登記に基づき前記本登記がなされると原告は仮登記の日に遡つてその所有権取得を第三者に対抗しうることとなるから、以後右滞納処分による公売は滞納者以外の第三者に属する不動産に対してなしたこととなり無効であると主張し、被告等および反訴原告等は、右滞納処分による公売によつて右不動産は最優先の抵当権設定時の態様によつて換価され同抵当権と共に同抵当権者に対抗しえない後順位の仮登記によつて保全された原告の実体上の権利は消滅し、爾後原告は買受人である被告等に対してその権利を主張できなくなると争うので、先順位の抵当権が設定され、ついで右仮登記がなされた不動産に対して滞納処分による公売がなされた場合の法律関係について按ずるに、滞納処分による公売によつて公売目的不動産につき公売差押の先順位にある抵当権が消滅することは旧国税徴収法(明治三十年法律第二一号)第二条、第三条、第二十八条、不動産登記法(昭和三五年法律第一四号による改正前のもの)第百四十八条により一般に是認されているところであり、また、滞納処分は国税徴収法に基づき収税官吏のなす行政上の手続であつて、終局的に目的物を処分して債権を実行する強制手続であるが、本質的には裁判所のなす強制執行とその性質は同一で、その執行に関し民事訴訟法に定める債務名義を必要としないことにおいて差異あるものと解して差支えない。

そこで、これを先順位の抵当権が登記手続を経て存在する不動産に対して一般債権者が強制競売の申立をなし、又は、後順位の抵当権者が同抵当権に基づいて競売申立をなした場合に対比して考えてみると、このような申立をなすことは認められるところであつて、これら手続が排除されることなく競売されると、競売の効果として目的たる不動産上に存する一切の先取特権・抵当権はたとえ差押債権者・後順位抵当権者に対して優先権を有するものも消滅する。ということは、このような担保物権はこれによつて担保される債権者をしてその目的不動産の競売金について優先的弁済を得さしめる効力を主たる目的とするものであるから、競売によつて消滅するものとすると同時に競落人の支払う競落代金について優先的に弁済をなさしめるものとし、他方、競落人をしてこのような担保物権の滌除をなすことなくして目的不動産を保有せしめ、かつ債権者の増価競売の請求権を消滅せしめることにより、競売不動産の価額を増加させ、担保債権者の利益を害しない範囲内で競売手続の進行を容易・確実ならしめ、二重に競売することも防止しようというにあるものである。尤も、右強制執行の差押に先立ち、又は後順位抵当権の設定以前に、当該不動産に留置権が存する場合或は質権が設定され又はこれに優先権を有する債権がある場合においては、留置権はその物を留置する効力を有し、不動産質権は優先的弁済の効力の外その目的物を占有し使用収益することを得る効力を内容とするものであるから、これら権利が次順位の権利の実行によつて消滅するものとするとこれら債権者の右権利を害することになるので、これら権利は後の強制競売又は後順位抵当権の実行によつて消滅することなく存続せしめることとし、競落人をして、留置権をもつて担保する債権、質権をもつて担保する債権およびその質権者に対して優先権を有する債権者、つまり質権者の先順位にある先取特権者・抵当権者の債権を弁済する責に任ぜしめることとしたものである。そして、前記のように先順位の抵当権が消滅し同時に競落人の支払う競落代金に対する優先権となるということは畢竟するにかかる物権即ち先順位抵当権の実行に外ならないからであり、そうだとすると、次順位の不動産質権も共に消滅せざるをえなくなるからで、同質権を存続せしめるためには右先順位の先取特権・抵当権をも存続させなければならないからである。換言すれば、先順位抵当権の設定された不動産が後の強制競売の申立又は後順位抵当権者の競売申立によつて競売される場合には、同不動産に先順位抵当権設定後、後の強制競売申立による差押前又は後順位抵当権設定前に不動産質権のごとき特に消滅しない権利の存在しない以上は、先順位抵当権設定当時の態様に従つて競売に付せられることになるものと解すべきであり、その結果として同先順位抵当権設定者に対抗しえない地上権その他の用役権者等はこれら権利を競落人に対して主張することができないことになるものというべきである。(民事訴訟法第六百四十九条第二ないし四項、競売法第二条第二、三項、大審院判決、大正七年五月十八日、同昭和十四年十一月二十八日、同昭和十五年九月三日等参照)

そして、前記のように、滞納処分による差押・公売の性質が本質的には裁判所のする強制執行と同一であること、および同公売によつて同差押の先順位にある抵当権の消滅を認める前記旧国税徴収法、不動産登記法の規定の趣旨を併せ考えると、右は先順位抵当権の設定ある物件について後に滞納処分によつて差押・公売のなされた場合に準用して差支えないものと解すべきである。尤も、旧国税徴収法、前記不動産登記法の法条によると、滞納処分においては、強制執行・競売におけるのと異り、差押前に設定された質権のごときも消滅するものと解されるので、前記消滅しない権利の中に質権のごときが加わるものと解することはできない。また、先順位抵当権設定後不動産の譲渡を受けた者が同不動産につき所有権移転請求権保全の仮登記をなした場合、同権利がその後の強制競売又は後順位抵当権者の競売申立による競売は勿論滞納処分による公売によつて特に消滅せしめないことを規定する権利であるものとは認められないものといわなければならない。

ここに前記当事者間に争のない事実によると、本件不動産には(イ)昭和十八年六月二十五日、抵当権者・株式会社日本勧業銀行の、(ロ)昭和二十年二月十日、抵当権者・笹山昭美株式会社の各抵当権が設定登記され、その後昭和二十二年十一月四日原告主張の所有権移転請求権保全の仮登記がなされ、ついで同年十二月一日園部税務署長から国税徴収法による差押登記がなされ、(同年十月九日同差押がなされたとの被告等並びに反訴原告等の主張事実はこれを認めるにたる証拠がない。)昭和二十四年二月二十五日公売によつて被告等が取得したとして、右抵当権者等はその公売代金中から優先弁済を受けたものであるから、右差押以前に滞納処分による公売によつて特に消滅しない権利が存在する等特段の事情の認められない本件においては、右公売によつて本件不動産は最先順位の抵当権即ち右(イ)の抵当権設定時の態様によつて公売されたこととなり、その結果として、右仮登記権利者である原告は右(イ)の抵当権者に対抗しえない関係上、被告等は完全に所有権を取得し、原告は被告等に対し原告の右仮登記にかかる所有権移転請求権を主張しえなくなるものというべきであり、ただ、公売処分による権利移転の登記嘱託がなされた場合においても、同仮登記は職権で抹消しえない関係上(前記不動産登記法第百四十八条等参照)他に抹消の方途をとらない限り、登記簿上その侭存在していたにすぎないものといわなければならない。

そうすると本件不動産について右公売手続が完結し被告等のために所有権移転登記手続のなされた後である昭和三十年十月三十一日、登記手続上、右仮登記に基づいて所有権移転の本登記をなしたことは前記のように当事者間に争のないところではあるけれども、右仮登記そのものが被告等との関係において既に失効している以上、原告は被告等に対し右本登記によつて右仮登記の日に遡及して所有権移転を対抗できないものというべきである。そしてこのことは、所有権移転請求権保全の仮登記が本登記によつてその対抗力が義務履行期まで即ち本件では前記売買の日まで遡及するとの見解にたつものとしても、差異を生ずるものではなく、右公売は訴外長沢明に対する滞納処分として第三者である原告所有の不動産に対して公売がなされたことにはならないものと解するのが相当であり、従つて右公売が無効となるものではなく、また、新国税徴収法第二十三条は、債務不履行を停止条件とする代物弁済予約に基づく権利移転の請求権保全のための仮登記その他これに類する担保の目的でされている仮登記が国税の法定納期限後登記された不動産に対して滞納処分による差押がなされると、同仮登記につき後日本登記がなされても、同差押に右登記に優先する効力を新たに認めようとするものであつて、右仮登記の先順位抵当権が存在する不動産の公売について定めた規定ではないから、前記解釈は、右同法条における改正には関係なく、旧同法下の公売処分に新同法における公売処分以上の効力を認めることにはならないものというべきであつて、これらの点に関する原告の主張は採用しえない。

而して、原告主張五の事実は当事者間に争がない。

以上の事実によると、別紙目録(一)記載の不動産について、被告等の昭和二十五年四月二十一日付所有権取得登記の抹消登記手続を求める原告の本訴請求は理由がないものというべく、却つて、反訴被告(原告)は反訴原告等に対し、前記反訴被告(原告)の所有権移転請求権保全の仮登記および、反訴原告等の右所有権取得登記後になした、反訴被告(原告)の同仮登記に基づく所有権移転登記の各抹消登記手続をなすべき義務あるものというべきである。

よつて、原告の本訴請求は失当として棄却し、反訴原告等の反訴請求は、爾余の争点について判断するまでもなく、正当として認容し、従つて予備的反訴原告等の同反訴請求については判断の限りでないから、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条を適用し、主文のとおり判決する。

(裁判官 菅浩作)

目録(一)ないし(四)〈省略〉

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