大判例

20世紀の現憲法下の判例を掲載しています

京都地方裁判所舞鶴支部 昭和33年(わ)70号 判決

被告人 小西清秀

明四一・五・一〇生 無職

主文

被告人を懲役六月に処する。

但本裁判確定の日から二年間右刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は肩書地に本籍を有する日本人であるが、昭和二十八年十二月中、有効な旅券に出国の証印を受けないで、本邦より本邦外の地域(中華人民共和国)に出国したものである。

(証拠の標目)(略)

(被告人及弁護人の主張に対する判断)

(一)  出国のときから三年の経過により公訴時効が完成しているとの主張について。

被告人が出国以来、昭和三十三年七月十三日帰国するまで引続いて中華人民共和国に居住していたことは、被告人の当公廷での供述により明である。

犯人が国外にいる場合の公訴の時効は、その国外にいる期間進行を停止するものであることは刑事訴訟法第二百五十五条の明定するところである。

左すれば本件公訴の時効は、被告人の帰国した昭和三十三年七月十三日から進行を始めたものと解すべきであり、本件公訴が同年同月三十一日に提起されたことは起訴状により明であるから、本件公訴をもつて時効完成後提起されたものということはできない。

弁護人は本件犯罪は国外に出ること自体により構成されるものであつて、国内において犯罪を構成した後出国する普通の場合とは別異に考えるべきで、本件には前記法条の適用はないと主張するけれども、その見解は当裁判所のとらないところである。

(二)  出入国管理令第六十条第二項の規定は憲法第二十二条第二項に違反し無効であるとの主張について、

出入国管理令第六十条第二項には「前項の日本人は旅券に出国の証印を受けなければ出国してはならない」と規定し、憲法第二十二条第二項には「何人も外国に移住し又は国籍を離脱する自由を侵されない」と規定している。けれども出入国管理令の右規定は出国それ自体を法律上制限するものではなく、単に出国の手続に関する措置を定めたものであり、かかる手続的措置のために事実上外国移住の目的が制限される結果を招来するような場合もあるであろうけれども右規定は同令第一条にいう本邦に入国し又は本邦から出国するすべての人の出入国の公正な管理を行う目的を達成する公共の福祉のために設けられたものであり、一面憲法第二十二条第二項の外国に移住する自由も無制限のものではなく、同法第十三条により公共の福祉のための合理的な制限に服すべきものと解すべきであるから、出入国管理令の右規定をもつて憲法第二十二条第二項に違反するものということはできない。

(三)  政府は当時中華人民共和国向けの旅券発給を事実上停止していたのであるから、有効な旅券を得、証印を受けて正式に出国することは期待可能性がなかつたとの主張について、

外務省移住局旅券課長より当裁判所に対する旅券交付状況に関する回答書及福岡地方裁判所においての証人岡崎勝男に対する尋問調書を綜合すれば、昭和二十八年当時本邦から中華人民共和国に渡航するため旅券発給の申請があつた場合に、外務大臣はその発給を停止し全面的に拒否していたものではなく、旅券法第十三条第一項の各号に該当するものと認めたときを除き、旅券を発給していたことが認められるのである。従つて当時被告人において正規の手続によつて旅券発給の申請をすれば、旅券法により許される範囲内においてその発行を受け得る可能性はあつたものであつて、申請をしてもその発行を得る見込みが全然なかつたものとはいえない。また当時被告人において外務大臣に対し旅券発給申請そのものをすることが不可能であつたと認むべき資料は何もないのである。

近時期待可能性の理論は色々の立場から論じられているけれども、いまだ帰一するところを知らない有様である。仮に期待可能性の理論を認めるとしても本件においては前記の如く期待可能性がないとは言えないのであるから右主張も排斥するの外ない。

(法令の適用)

判示所為は出入国管理令第七十一条第六十条第二項に該当するから懲役刑を選択しその刑期範囲内で被告人を懲役六月に処し尚情状により刑法第二十五条に則り二年間右刑の執行を猶予することとし刑事訴訟法第百八十一条第一項但書を適用し主文のとおり判決する。

(裁判官 藤田弥太郎)

「大判例」は20世紀で日本国憲法下の裁判例のうち,公刊物に掲載されたものをまとめたインターネット判例集です。原則として公刊されたものをそのまま載せています。

憲法により判決は公開とされており,法曹および法律研究者に利用されているものです。その公共性と平等主義の観点から,送信防止措置または改変には一切応じませんのでご了承ください。

©daihanrei.com