大判例

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京都家庭裁判所 昭和52年(少)2646号 決定

少年 G・I(昭三四・一二・一七生)

主文

少年を中等少年院に送致する。

押収してある覚せい剤粉末粒一包(昭和五二年押第一九九号の一、二)及び覚せい剤粉末一包 (同号の三)を没取する。

理由

(罪となるべき事実)

少年は、

1  昭和五二年四月二〇日午後一一時三〇分ころ、京都府船井郡○○町○○○○○××番地の自宅一階の自己の勉強部屋において、法定の除外事由がないのに、フエニルメチルアミノプロパンの塩酸塩を含有する覚せい剤粉末粒約〇・一グラム(昭和五二年押第一九九号の一はその一部)を所持し、

2  同年五月一五日午前二時ころ、上記自宅二階の自己の寝室において、法定の除外事由がないのに、フエニルメチルアミノプロパンの塩酸塩を含有する覚せい剤粉末約〇・〇三グラムを水に溶かして自己の左腕静脈に注射し、もつて覚せい剤を使用し、

3  同日午前二時すぎころ、同寝室において、法定の除外事由がないのに、フエニルメチルアミノプロパンの塩酸塩を含有する覚せい剤粉末約〇・一三グラム(昭和五二年押第一九九号の3はその一部)を所持し、

4  自動車運転の業務に従事していたものであるが、同年七月一一日午後八時半ころ、自動二輪車(○○××××号)を運転して、京都府船井郡○○町内の○○橋を南行し○○通り(通称○○○)との交差点を右折して時速約四〇キロメートルで進行し同町○○×番地先にさしかかつた際、前方を注視して進路の安全を確認すべき注意義務があるのにかかわらず、これを怠り自車のチェンジレバーを見ながら走行した過失により、道路上で立話をしていたA(当六六年)及びB(当五一年)に自車前部を衝突させ、Aに対し加療約一五日間を要する頭部打撲・挫創、腰部打撲等の傷害を、Bに対し加療約三日間を要する右足背部打撲の傷害を、それぞれ負わせ、

5  公安委員会の免許を受けないで、上記4記載の日時、場所において上記自動二輪車を運転し、

6  上記4記載の日時、場所において、上記二輪車を運転中、上記交通事故を起こしA及びBに上記傷害を与えたのに、直ちに右両名を救護する等法律の定める必要な措置を講じないで、かつ右事故発生の日時、場所等法律の定める事項を直ちに最寄りの警察署の警察官に報告しないで、逃走したものである。

(法令の適用)

上記1及び3の各事実について覚せい剤取締法四一条の二第一項一号、一四条一項

上記2の事実について同法四一条の二第一項三号、一九条

上記4の被害者二名に対する各業務上過失傷害の事実について刑法二一一条前段

上記5の事実について道路交通法一一八条一項一号、六四条

上記6の事実のうち、救護義務違反の点について同法一一七条、七二条一項前段、報告義務違反の点について同法一一九条一項一〇号、七二条一項後段

(中等少年院に送致する理由)

1  少年は、中学一年のころまでは別に問題行動もなく生育した。しかし、友達にいじめられることが多く、自分を強く見せかけるため、中学二年の終りころより喫煙や悪友への接近を始めた。中学での学業成績は芳しくなかつた。昭和五〇年春、中学卒業とともに○○高校に進学したが、同年四月下旬交通事故に遭つて一か月間入院し学業に遅れをとつたこともあつて勉学に関心をなくし、嫌学グループと交わり不良行為が頻発するようになつた。同年六月喫煙により学校から三日間の停学処分を受けた。同年八月二日友人とともに一四歳の少年から一〇〇円を喝取し(昭和五〇年少第三三四〇号。同年一〇月一七日不開始決定)、またこのころからオートバイに興味を持ち始め無免許運転をすることもあつたようである。同年一二月上旬及び昭和五一年一月下旬の二度にわたり友人とオートバイを窃取し(昭和五一年少第一五九八号。同年七月二九日不処分決定)、このため昭和五一年一月下旬ころ再び学校より一五日間の停学処分を受けた。このころから友人より覚せい剤の話を聞きこれに興味を抱いていたところ、同年二月○○駅で見知らぬ男二人に四、〇〇〇円を脅し取られ、その代償に覚せい剤を注射されたことが機縁となり、同年三月初旬従兄のCとともに覚せい剤を使用したのを始めとし、その後近隣の覚せい剤仲間である右Cや、D、E、F、Gらとともに一か月に少くとも二、三回は覚せい剤の使用を重ねていた。同年九月授業態度不良、喫煙、喧嘩などにより学校から一か月間の家庭謹慎を申し渡されたが、同年一〇月末これを遵守せぬため退学を勧告され、ついに自主退学せざるをえなくなつた。同年一一月母の知人先である大阪府高槻市内のパチンコ店に住込就労したが、昭和五二年一月五日仕事が辛いとの理由で同店を退職して帰宅した。同年四月調理師になることを望んで○○栄養士専門学校に入学したものの、遅刻、怠学が多く授業態度も極めて不良で学校側からひんしゆくを買つていた。

2  少年は前記覚せい剤仲間とともに覚せい剤を用いることが多かつたのであるが、昭和五二年四月ころからは、仲間と一緒では自分の使用分が少ないとの理由で一人でこれを購入、使用するようになり、また覚せい剤を購入するため深夜自宅を脱け出し、帰宅するに際しタクシーを利用し、その代金を踏み倒すなどの行為に及んだこともあり、更には本件覚せい剤事犯により警察で取調べを受けたにもかかわらず、昭和五二年七月二二日にも覚せい剤を購入して使用しており、覚せい剤嗜癖はかなり強いものである。鑑別結果によると、身体のだるさなどの禁断症状も現われている。なお、覚せい剤の購入にあてるため少年は友人らから二〇万円を超える借金をしていた。

3  少年は顔見知りであつた○○高校生Hから自動二輪車を借用直後、本件業務上過失傷害を惹起し、いわゆるひき逃げをしたものであるが、それだけでなく、逃走後右Hをして右自動二輪車は本件事故発生の直前に盗難にあつていた旨を警察に申告させるなどの策を弄している。極めて悪質というほかはない。

4  少年の知能は普通知(IQ九三)であるが、計算能力が劣つている。性格は外向的で活動性が高く、他人との感情的接触も良好であるが、欲求の統制が未熟で欲求不満耐性が弱く、即行・発散的な行動傾向がある。父に対する反発、嫌悪の感情が強く、男性的自己同一視や社会的自立に遅れがみられ、家庭内における不満を不良交遊や覚せい剤などに依存して解消しようとしている。

5  少年の家庭は、父母、姉兄、祖母の六人家族で姉及び兄は順調に生育し、すでに成人となつている。父は配管工事会社に勤め、厳格な性格であるが、素面のときはおとなしい反面、飲酒すると粗暴となり少年ら家族に長時間にわたつてしつこく説教をする。このような父に対し少年は反発・嫌悪を強く感じ軽蔑している。母は勝気な性格で、昭和四四年ころから看護婦として稼働しているが、このころより父母の間に不和・軋轢が生じて離婚話が絶えることなく、少年が中学三年のころより父の飲酒癖も悪くなり、また同時に少年の問題行動も発現し始めたようである。その後も父母の間は好転することもなく、昭和五一年八月には二〇日間ほど母が別居することもあつた。このような長年にわたる父母の不和及び父の飲酒が少年の非行化の一因となつていることは明らかである。

6  少年に反省心もみられ、また父母も家庭で少年を指導監督することを望んでいるが、以上のような少年の非行歴・性格、家庭環境などを総合考慮すると、父母間の葛藤が短日月で永解することを期待できず、仮に家庭内の円満が実現されたとしても、少年の覚せい剤嗜癖が強固で常習化に近く、また規範意識も低いので、家庭ないし保護観察による指導監督によつても覚せい剤使用及びオートバイの無免許運転の再非行を防止することは相当困難と思料される。少年の健全な育成のためには、この際少年を中等少年院に収容して、規律ある環境のもとで専門的矯正教育により徹底した生活指導を加えて規範意識を培い覚せい剤嗜癖を断つとともに職業補導を加えて社会的自立を促すことが相当である。

なお、家庭環境が前示の如き状況にあるので、退院に備えて父母間の不和及び少年の父に対する感情的反発を融和させるべく環境の調整が望まれる。

よつて、少年法二四条一項三号、少年審判規則三七条一項、少年院法二条三項に従い少年を中等少年院に送致することとし、押収してある覚せい剤粉末粒一包(昭和五二年押第一九九号の一、二)及び覚せい剤粉末一包(同号の三)は判示1及び3の行為をそれぞれ組成した物で少年以外の者に属しないから少年法二四条の二第一項一号、第二項に従いこれを没取することとし、主文のとおり決定する。

(裁判官 中村謙二郎)

参考 抗告審決定(大阪高 昭五二(く)八四号 昭五二・九・一二第三刑事部決定)

主文

本件抗告を棄却する。

理由

本件各抗告の趣意は、要するに、原決定は、これまでに保護処分ないし家庭裁判所調査官の試験観察処分に付されたこともない少年に対し、直ちに中等少年院送致をなしたもので、覚せい剤の取締りが十分になされていない現状からみても、少年についてのみ厳しい態度をとることには納得できず、その処分は、著しく不当である、というのである。

よつて、少年保護事件記録及び少年調査記録を精査して検討するに、少年は、規範意識が低く、高等学校へ進学して間もなく不良交友がはじまり、中学生から金員を喝取したり、オートバイを窃取して無免許運転するなどの非行を重ねているうち昭和五一年一月ころからは覚せい剤をうつことを覚え、覚せい剤常用者と交際するようになつて遂には学校も退学し、その後栄養士専門学校に入学したものの真面目に通学する意欲を欠き一層ひんぱんに覚せい剤を用いるようになり、本件覚せい剤事件発覚後も無反省に覚せい剤の使用を続けるなどその常用傾向は強く、近時中毒症状さえ呈するに至つているもので、他方少年の家庭は父母の間に不和葛藤が生じていて特に少年の父親に対する反発の念は強く、少年を適切に監護教育するための環境には程遠い状況にある。これら家庭の環境、少年の性格、非行の深度、殊に覚せい剤についての嗜癖等を総合考慮すると、少年に対しては最早社会内処遇によりその更生を期待することは到底困難という外なく、この際少年をして規律ある生活になじませ、勤労意欲を養わせることが必要であつて、所論指摘の諸点を充分勘案しても、少年の健全な育成を図るため早期治療早期収容の道をえらんだ原決定の処分が著しく不当であるということはできない。

よつて、少年法三三条一項、少年審判規則五〇条により主文のとおり決定する。

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