大判例

20世紀の現憲法下の判例を掲載しています

京都家庭裁判所 昭和63年(家)719号 審判

申立人 アンリ・マルタン外1名

事件本人 金森陽佑 外1名

法定代理人親権代行者 金森澄子

主文

事件本人金森陽佑を申立人アンリ・マルタンと同神谷町子の特別養子とする。

理由

1  申立人らは、主文同旨の審判を求めるところ本件記録によると、次の事実が認められる。

(1)  養父母となるべき者の要件事実等

〈1〉  申立人アンリ・マルタン(以下単に申立人マルタンという。)は、フランス国籍を有する者であるから、法例19条1項によってその本国法であるフランス法が適用されることになる。

ところで、フランス民法(1966年7月11日法律第66-500号)は第八款に養親子の親子関係を規定し、その第一章完全養子縁組の第一節に完全養子縁組の要件を定めているので同節の第343ないし349条の規定に照らして検討するのに、申立人マルタンは昭和54年3月29日に申立人神谷町子(以下単に申立人町子という。)と婚姻し、現在申立人町子とその間の長男義人及び事件本人金森陽佑(以下単に陽佑という。)と同居し円満な家庭生活を送る者で、妻である申立人町子も陽佑との養子縁組を望んでいる(以上同法343条)うえ、申立人マルタンは、本年42歳であって陽佑(当1歳)より15歳以上の年長者であり(同法344条)、昭和62年5月6日以降引き続いて陽佑を養育監護しており(同法345条)、陽佑の確認されている実母である事件本人金森陽子(以下単に陽子という。)及び陽子の実母であって陽佑の法定代理人親権代行者である金森澄子(以下単に親権代行者澄子という。)が、陽佑と申立人らとの特別養子縁組(フランス法に所謂完全養子)に対する承諾をしており(同法347条、348条)、その承諾は、社会福祉法人日本国際社会事業団(以下単にI.S・Sという。)に陽佑を委託のうえなされたものである(同法348-5条)等の該当する法条の要件が全て充足されているばかりでなく、申立人マルタンは、昭和47年に日仏学館の講師として来日し、昭和53年以降は○○大学教養学部の外人講師として勤務し、年収700万円を取得する心身健全な男性である。

〈2〉  申立人町子は日本国籍を有する者であるから、法例19条1項によって、その本国法である日本国民法が適用される。

申立人町子は、前記認定のとおり、昭和54年3月29日に申立人マルタンと婚姻した(民法817条の3第1項)25歳以上の者(同法817条の4)であって、昭和62年5月6日以降陽佑を引き取り、実子義人と分けへだてなく養育監護している(同法817条の8)心身共に健全な女性である。

(2)  陽佑は、日本国籍を有する者であるから、法例19条1項によって、その本国法である日本国民法が適用される。

陽佑は、昭和62年2月23日生まれであって6歳未満の幼児である(同法817条の5)。

(3)  実親及び親権代行者の同意

陽子及び親権代行者澄子についても、同人らが日本国籍を有し、かつ、同意を与えるべき養子となる者である陽佑が日本国籍を有するので、法例19条1項によって、その本国法である日本国民法が適用される。

そこで陽佑の実母陽子及び親権代行者澄子が本件特別養子縁組に同意していること(民法817条の6)は前示認定のとおりである。

(4)  縁組の必要性

陽子は、親権代行者澄子と金森和重との間の長女として出生したが、父母離婚の後母澄子によって育てられ、○○県立○○高校2年に在学中、アルバイト先で知り合った○○大学大学院生の松井康信と関係を重ねるうち妊娠したのであるが、松井は陽子に対し妊娠中絶手術を勧め、出産後も陽子との婚姻は勿論、陽佑の認知さえ拒否する態度を維持したので、陽子は松井の態度に愛情もさめ、陽佑の将来の幸せのために健全な夫婦に同児を養子に出したいと考えるに至り、昭和62年4月27日に親権代行者澄子と共にI.S.Sに養子縁組の協力を依頼したこと、親権代行者澄子は、約3年前から○○電鉄株式会社の○○○駅売店店員として月収約11万円を得、陽子は高校中退の後、以前アルバイトをしていた株式会社○○に正規の社員として勤務し、月収約12万円を取得しているが、陽佑をI.S.Sに引き渡した後、松井から出産費用名で150万円を受領して同人と交際を絶ち、目下他の男性と婚姻を前提とした交際をしているもので、今後陽佑を引き取る意思は全くなく、陽佑の幸せのために本件特別養子縁組の成立を望んでいるものであって、陽佑と実母陽子との関係においては、特別養子縁組の要件としての要保護性が有する(民法817条の7)。

(5)  I.S.Sの推薦

陽佑は、昭和62年5月6日、I.S.S事務所で申立人らに引き渡され、以後1か月に一度の割合で、文書により申立人らから、I.S.Sのケースワーカー川本愛子に心身の発育状況や親子の適合性について報告されており、同ケースワーカーは、相互の人間関係の円満なことの報告書を提出しており、陽佑が申立人らの特別養子になることが、同人の将来の福祉に連なる旨述べている。

2  以上認定の事実によると、本件特別養子縁組の成立は、陽佑の健全な育成と福祉の増進のため有益であることが確実であると判断されるので、本件申立を相当と思料し、これを認容することとし、民法817条の2により、主文のとおり審判する。

(家事審判官 鈴木清子)

参考

フランス民法(1976年12月末日現在)

第8章 養親子関係 De la filiation adoptive (1966年7月11日の法律第500号)

第1節 完全養子縁組 De l'e

第1款 完全養子縁組のために要求される条件 Des conditions requisespour l'

第343条 〔縁組能力:夫婦共同の場合〕(1976年12月22日の法律第1179号)《養子縁組は、別居していない夫婦の双方が、婚姻から5年〔以上〕後に請求することができる。》

第344条〔年齢差〕〈1〉 養親は、その者が養子縁組を行おうとする子より15歳以上年長でなければならない。その子が養親の配偶者の子である場合には、要求される年齢差は、10年のみである。

《〈2〉 (1976年12月22日の法律第1179号)ただし、裁判所は、正当の理由がある場合には、年齢差が前項が定めるそれを下まわるときも、養子縁組を言い渡すことができる。》

第345条〔養子の年齢〕〈1〉 養子縁組は、〔1人又は2人の〕養親の家庭に少なくとも6月来受け入れられた15歳未満の子のためにでなければ、認められない。

〈2〉 ただし、子が15歳以上であり、かつ、養子縁組を行うための法定の条件を満たしていなかつた者によつてこの年齢に達する前に単純養子縁組の対象であつた場合には、完全養子縁組は、その条件が満たされる場合に子の未成年中いつでも請求することができる。

〈3〉 養子adopteは、(1976年12月22日の法律第1179号)《13歳以上である場合には、その完全養子縁組に本人として同意しなければならない。》

第347条〔養子とされる者〕〔以下の者は、〕養子とすることができる。

1 その者のために父母又は家族会が、養子縁組に有効に同意している子

2 国の被後見子pupille de l、Etat

3 第350条に定める条件にしたがつて、遺棄されたと宣言された子

第348条の1〔同前:親の一方〕子の親子関係がその親の一方に関してのみ立証されているときは、その親が養子縁組に同意を与える。

第348条の5〔同前:2歳未満の場合〕2歳未満の子の養子縁組への同意は、養親と養子の間に6親等を含めてそれまでの血族又は姻族の関係が存在する場合を除いて、子が少年社会援助機関又は許可を受けた養子縁組事業に実際に引き渡された場合でなければ、有効ではない。

(法務省民事局編「外国身分関係法規集(III)」473~476頁から引用)

「大判例」は20世紀で日本国憲法下の裁判例のうち,公刊物に掲載されたものをまとめたインターネット判例集です。原則として公刊されたものをそのまま載せています。

憲法により判決は公開とされており,法曹および法律研究者に利用されているものです。その公共性と平等主義の観点から,送信防止措置または改変には一切応じませんのでご了承ください。

©daihanrei.com