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仙台地方裁判所 昭和41年(ワ)801号 判決

原告

加藤国男

被告

鈴木明

ほか一名

主文

被告等は原告に対し、各自金一五三万二、三六一円およびこれに対する昭和四一年一二月三日から完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

原告その余の請求を棄却する。

訴訟費用はこれを六分し、その一を原告の、その余を被告等の各負担とする。

この判決は第一項に限り仮に執行することができる。

被告等においてそれぞれ金五〇万円を供託するときは右仮執行を免れることができる。

事実

第一、当事者の求めた裁判。

原告訴訟代理人は「被告等は各自原告に対し金二五二万二、一六一円およびこれに対する昭和四一年一二月三日から完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

訴訟費用は被告等の負担とする。」との判決ならびに仮執行の宣言を求めた。

被告等訴訟代理人は「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決ならびに予備的に仮執行免脱の宣言を求めた。

第二、請求原因

一、(事故の発生)

被告石田政男(以下「被告石田」という。)は、昭和四〇年七月一九日午前一時二〇分頃仙台市原町苦竹字三橋上五六番地附近通称仙塩国道上を、被告鈴木明(以下「被告鈴木」という。)所有の普通貨物自動車(宮ほ二八九六号)(以下「本件自動車」という。)を運転し、塩釜方面から仙台駅方面に進行中、右国道左側を同一方向に向つて歩行中の原告に本件自動車を衝突させてその場に転倒させたうえ約一五メートルひきずり、よつて原告に対し歯牙破折、頭部外傷、左脛骨、左腓骨骨折、左下腿開放性骨折、左耳顔面両手各挫傷等入院加療約七ケ月を要する傷害を与えた。

二、(被告等の責任)

(一)  被告石田には次のとおりの過失がある。

すなわち、自動車運転者たるものは左右前方を十分注視して歩行者の動静に注意し事故の発生を未然に防止すべき注意義務があるにもかかわらずこれを怠り、酒気を帯び道路の水溜り等にのみ気をうばわれて時速約四〇キロメートルの速度で漫然進行した過失により、原告を前方約九・五メートルの地点ではじめて発見し急停止の措置を講じたが間に合わず本件事故が発生したものである。

(二)  被告鈴木は本件自動車を所有し、運行の用に供していたもので、本件事故当時被告石田をして、被告鈴木の営む洋品販売業の運転手として、被告鈴木の業務に従事させていたものである。

三、(損害)

(一)  療養費

1 治療費 金四一万一、二六一円

昭和四〇年七月一九日から昭和四一年二月二一日までの間仙台市立病院外科、歯科、整形外科で受けた入院治療費の合計額。

2 栄養補給費および雑貨購入費 金二八万円

右期間における栄養補給費一五万七、五〇〇円および身の廻り雑貨品購入費一二万二、五〇〇円の合計額

3 附添費 金一七万四、四〇〇円

附添看護料一日金八〇〇円の割合による右期間二一八日分

合計 金八六万五、六六一円

(二)  トランペツトの損害 金七万七、五〇〇円

本件事故当時、原告が携帯していたもので、本件事故により破壊されたため、その代金相当額。

(三)  得べかりし利益の損失 金五〇万六、〇〇〇円

原告は本件事故当時、仙台市東一番丁コスモポリタン所属楽団のトランペツト奏者として月額金二万二、〇〇〇円の給料を受けていたところ、本件事故により右稼働不能となつた昭和四〇年八月から昭和四二年六月まで右割合による二三ケ月分。

(四)  慰謝料 金一〇〇万円

原告は本件事故当時満二一才の健康な男子で、学校修了後ひたすらトランペツトの吹奏に励み、将来吹奏者として身をたてようとしていたものであるところ、本件事故により約七ケ月入院し、退院後も頭部鈍痛による頭脳作用の衰え、左脚のむくみによる歩行困難、難聴、寒気による外傷部の疼痛等を訴え、また左外耳部および顔面左側部には傷痕が醜状を残す等の後遺症があり、さらに前二歯の破折による義歯装着によりトランペツトの吹奏が困難になるなど肉体的精神的苦痛をうけた。

(五)  弁護士費用 金七万三、〇〇〇円

本件代理人弁護士豊田喜久雄に対して支払つた手数料、費用の合計額。

総計 金二五二万二、一六一円

四、(結論)

よつて原告は被告鈴木に対し自動車損害賠償保障法(「以下「自賠法」という)三条により前記トランペツトの損害金を除くその余の損害金計二四四万四、六六一円さらに被告石田に対しては民法七〇九条により、被告鈴木に対しては同法七一五条により各右トランペツトの損害金七万七、五〇〇円の合計金二五二万二、一六一円およびこれに対する昭和四一年一二月三日から各完済に至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

第三、請求原因に対する被告等の答弁

一、請求原因第一項の事実中、原告主張の本件事故が発生した事実は認めるが、原告の受傷の程度は不知。

原告は道路左側を歩行中ではなく、本件自動車の直前に飛び出したため本件事故が発生したものである。

二、請求原因第二項の事実中(一)の事実につき被告石田は否認。被告鈴木は不知。同項(二)の事実中、本件自動車が被告鈴木の所有であることは認めるが、その余の事実はすべて否認する。

被告鈴木は、被告石田を雇傭して自動車運転をなさしめていたのではなく、被告石田は衣類行商を営む訴外橋浦稔(以下「橋浦」という。)に雇われ、同人の業務のため自動車運転に従事し同人から一日金一、〇〇〇円の日当を得ていたもので、橋浦は被告鈴木から衣類等の仕入れをしていたが、独立して自らの責任ならびに計算によつて事業を行なつていたものである。さらに本件自動車は、修理のため自動車会社に引渡してあつたものを、被告石田が被告鈴木に無断で引渡しを受け、遊興のため運転中本件事故を発生せしめたもので、被告鈴木には自賠法三条、民法七一五条の責任はない。

三、請求原因第三項の事実はすべて不知。

四、請求原因第四項は争う。

第四、被告等の抗弁

一、過失相殺の抗弁

かりに被告等に責任ありとしても、歩行者が道路中央に出る場合には、左右の交通の安全を確かめるべき注意義務があるのに原告はこれを怠り、自己が運転していたモーターバイクの荷台から振り落したトランペツトを拾うべく漫然道路中央に進出したため本件事故が発生したもので、原告には過失があるから、原告の損害賠償額の算定につき斟酌されるべきである。

二、内入弁済の抗弁

被告石田は原告に対し、本件事故による損害金の一部として昭和四〇年八月金三万円、同四三年五月二七日金一〇万円、同年一〇月一四日金一〇万円合計金二三万円を支払つたほか原告は昭和四二年四月被告鈴木の加入する自賠法による保険金三〇万円を受領している。

第五、被告等の抗弁に対する原告の認否。

一、抗弁第一項の事実は否認する。

二、同第二項の事実はすべて認める。

(証拠)〔略〕

理由

一、(事故の発生)

原告主張の日時場所において、被告石田運転の本件自動車が原告に衝突し、原告が負傷した請求原因第一項の事実(ただし原告が道路左側を歩行中であつたか否かおよび原告の受傷の程度の点を除く。)は当事者間に争いがなく、〔証拠略〕によれば本件事故により原告が原告主張のとおりの傷害を負つた事実を認めることができる。

二、(被告等の責任)

(一)  被告石田の過失について

〔証拠略〕を総合すると、

本件事故現場附近の国道は片側幅員約九・五メートルのアスフアルト舗装された直線コースの道路であつて、視野を妨げる障害物は全くなく、本件事故発生当時は雨上がりで路面は濡れており、道路表面の凹部には水溜りの部分もあつたこと、被告石田は、本件事故発生の前日である昭和四〇年七月一八日午後八時四〇分ごろ本件自動車を運転して友人宅を出てからビールを中ジヨツキで一杯と、さらに友人二人とともにビール二本を飲んだ後、本件自動車を運転して前認定のとおり時速約四〇キロメートルの速度で西から東に向い本件事故現場にさしかかつた際進路前方約一一メートルの道路上に荷物(原告が落したケース入りのトランペツト)を発見し、轢過するのを防ぐため左右の車輪間でまたぐようにハンドルをやや左に切つて右荷物上を通過した際これを破壊したこと、ところが前方に水溜りがあつたためさらにハンドルを左に切つて前同様に水溜りの上を通過していたこと、一方原告はモーターバイクを運転して東より西に向つて進行中、本件事故現場において荷台からトランペツトを落したため、モーターバイクを停車させてトランペツトを拾うべく右国道を戻り道路南側(本件自動車よりみると進行左側)道路端から約三メートル(うち辺端から約一メートルの間は高さ約五センチメートルの土砂が累積されている。)の地点を歩いていたこと、自動車運転者たるものは、たとえ深夜であつても道路上に歩行者のいることが予測されるのであるから、歩行者等の存在およびその動静に十分注意を払い、たえず前方を注視して歩行者等と衝突することのないよう注意すべき義務があるところ、被告石田は前記のとおり飲酒したため注意力が散漫となりもつぱら進路前方の水溜りにのみ注意を奪われて前方に対する注意を怠つたため、進路前方の荷物(ケース入りトランペツト)を漫然轢過し、さらに進路前方約九・五メートルの距離に近づいてはじめて原告を発見し急ブレーキの措置を講じたが間に合わず、原告に衝突して原告をいつたん本件自動車のボンネツト上にはねあげた後道路上に落下させ、さらに約一五・二メートル進んでやつと停止するに至つたものであることが認められ、以上の認定を覆すに足る証拠はない。

とすると、本件事故は被告石田の右過失によつて惹起されたものであること明らかで、被告石田は本件事故による損害を賠償する義務がある。

(二)  被告鈴木の責任。

本件自動車が被告鈴木の所有に属するものであることは当事者間に争いがない。

〔証拠略〕によると、

被告石田は昭和三七年ごろ被告鈴木および同人の義弟である訴外今野昌克(以下「今野」という。)のすすめにより洋服衣類等の行商を営む被告鈴木方に出入りするようになり、今野の右行商のための自動車運転をしていたこと、被告石田は当初軽自動車の免許だけを所持していたが昭和四〇年三月普通自動車の免許を取得し、その頃被告鈴木が普通自動車を購入したので右自動車を運転するようになつたこと、被告石田の被告鈴木方における勤務は、降雨日等行商を休む日を除いては毎日朝同人方におもむき今野やその後同じ行商人として被告鈴木方に出入りするようになつた橋浦あるいは時には稀に被告鈴木の行商の便のため自動車運転に従事し、日当としてその日運転した今野または橋浦あるいは被告鈴木から金一、〇〇〇円を受けていたこと、そして被告鈴木、今野、橋浦等の内部関係は、今野、橋浦等が行商先で売りさばく衣類等を被告鈴木から受け取り、売りさばいて被告鈴木方に戻つた後、当該衣類等の代価の五分ないし一割弱をマージンとして被告鈴木に払うという同被告に従属した関係にあつたこと本件事故発生当時ごろ被告石田は主に橋浦の行商のための運転をしていたが、それは常に決つていたものではなく、朝被告鈴木方におもむいた際にその日どの行商人について運転するかが決められるものであつたことがそれぞれ認められ、右認定に反する証人今野昌克、同鈴木幸子の各証言の一部および被告両名各本人尋問の結果は措信できないし、他に右認定を覆すに足る証拠はない。

そして〔証拠略〕によれば、本件自動車は本件事故発生の前々日である昭和四〇年七月一六日修理のため宮城マツダオート株式会社の工場に引渡されていたものであるが、修理が完了したため翌一七日修理完了後は同人方まで運行してきてくれるようとの被告鈴木からの予めの依頼に基づき、右工場の工員である佐々木美津雄が被告鈴木方に届けるべく佐々木方まで運転してきたところ、たまたま被告石田に会つたので、同人を被告鈴木方に勤めているものと考えていた佐々木は被告石田に対して本件自動車を被告鈴木に渡して貰いたい旨依頼して引渡したこと、被告石田は本件自動車を被告鈴木方への通勤等にも利用していた関係から本件自動車を運転して自宅に帰りそのまま駐車させていたこと、翌一八日は日曜日で行商が休みであつたので、同日午後七時三〇分ごろから本件自動車を運転して友人宅に遊びに出かけ、前認定のとおり同日午後八時四〇分ごろ友人宅を出て仙台市長町および仙台駅前附近の飲食店において飲酒の後本件事故を惹起せしめるに至つたことをそれぞれ認めることができ、右認定に反する被告両名本人の供述部分は措信できず、他に右認定を覆すに足る証拠はない。

右認定の事実によれば、被告鈴木と同石田との間には、直接の雇傭関係は認められないけれども、被告石田は、被告鈴木と従属的関係にある同人の義弟今野あるいは橋浦等ときには被告鈴木の行商のため、他の業務につくことなく専属的に運転業務に従事していたというのであつて、結局被告鈴木、同石田間には右業務の執行につき、使用関係があると同視すべき指揮、従属の関係の存在を認めるのが相当であり、〔証拠略〕および証人佐々木美津雄の証言ならびに被告鈴木本人尋問の結果の各一部に被告石田が被告鈴木に雇われているが如き点がみられることも両者の関係の緊密性を示すものとして右認定を強めるものである。そして右認定の被告鈴木と今野および橋浦等の関係よりみるとき、本件自動車の運行によつて被告鈴木が利益を享受していたことは明らかであつて、その利益享受に対応して被告鈴木は被告石田に対して十分監督管理をつくすべき義務があり、またその監督管理を及ぼし得る地位にあるものというべく、被告鈴木は本件自動車を自己のため運行の用に供していたものと解するのが相当である。

被告等は、被告鈴木と同石田との間には雇傭関係はなく被告石田は橋浦に雇われていたもので、かつ本件事故発生当時被告石田は橋浦の事業執行中でなかつた旨主張するけれども、被告鈴木と同石田との間に使用関係と同視すべき関係の認められることは前記認定のとおりであつて、また民法七一五条に規定する「事業の執行に付き」というのは必ずしも被用者あるいはそれと同視し得べき者(以下「被用者等」という。)がその担当する事務を適正に執行する場合だけを指すのではなく、広く被用者等の行為の形を捉えて客観的に観察したとき事業の態様、規模等からしてそれが被用者等の職務行為の範囲内に属するものと認められる場合で足りるものと解すべきである以上、被用者等が自己の私用の目的のため固有の業務を離れ又は執務上守るべき義務に違反してなした行為であつてもその結果惹起せられた損害は使用者あるいはそれと同視し得べき者の事業の執行について生じたものと解するのが相当であつて、これを本件についてみると前記認定のとおり被告石田は洋服衣類等の行商を営む被告鈴木方に行商人として出入りしている今野、橋浦あるいは時には被告鈴木の行商の便のため自動車運転業務に従事し、その業務執行のため本件自動車を使用していたのであるから、被告石田が本件事故当時本件自動車を運転したのも、その外形をとらえて客観的に判断すれば、前記業務のため本件自動車を運転するのと異るところなく、外形上同被告の職務の範囲内の行為と認めるべきもので、結局本件事故は被告鈴木の事業の執行につき生ぜしめたものというを妨げない。従つて同被告は被告石田の不法行為に基づく損害につき賠償の責任があるというべきである。

三、(損害)

(一)  療養費

1  治療費

〔証拠略〕によると、原告が本件事故による負傷の治療のため、昭和四〇年七月一九日から同四一年三月二五日までの間仙台市立病院に通院し、その間の治療費として合計金四一万一、二六一円を要したことが認められる。

2  栄養補給費および雑貨購入費

〔証拠略〕によれば、原告の前記入院中、副食栄養費として金一五万七、五〇〇円、身の廻り品等諸雑費として金一二万二、五〇〇円を支出した事実が認められるところ、副食栄養費については証人加藤をせきの証言によれば右入院期間中病院から一日三回食事が出されたというのであるけれども、病人によつては病院から出される食事を嫌つて食べない場合のあること、病人の体力の維持および回復のためには右食事以外副食、栄養物の摂取が現実に必要であることは容易に推認され、さらに前記認定の原告が本件事故により蒙つた傷害の程度を考慮すると、右程度の出費(入院期間一日につき金七二二円強となる。)は必要やむを得ないものと認められる。つぎに身の廻り品等諸雑費については、前掲証拠によるとその内訳は肌着一万八、〇〇〇円、毛布一万五、〇〇〇円、敷布八、〇〇〇円、夏掛布団一万五、〇〇〇円、普通柄敷布団二万五、五〇〇円、日用品四万一、〇〇〇円というのであるが、右のうち肌着、敷布および日用品を除く他の品はいづれも原告の退院後さらに長期に亘り使用することが可能な恒久品であることを考慮すると、直ちに本件事故による損害としては認め難く、したがつて身の廻り品諸雑費の出費に基づく損害金は合計金六万七、〇〇〇円の限度で認定するのが相当である。

3  附添費

〔証拠略〕によれば、原告の母加藤をせきが、原告の前記二一八日に亘る入院期間中原告に附添い看護をなしたこと、そして前認定の本件事故により原告が被つた傷害の状況を合せ考えると、右附添が必要已むを得ないものであつたことを認め得る。本件のように看護上必要と認められる範囲内で母親が附添をなした場合は、これによつて現実に金員の支出を要した訳ではないが、なおこれを本件事故による損害とみるのが相当である。

しかして職業附添人の附添費が一日金八〇〇円を下らないことは公知の事業であるから、一日につき右金八〇〇円を損害額とする原告の主張は相当であり、原告は右割合による二一八日間分合計金一七万四、四〇〇円の損害を蒙つたものということができる。

(二)  トランペツトの破損費

この点については、本件衝突事故発生の以前において路上に落下していたものを被告石田が運転上の過失により破損せしめたものであるから他に特段の事情のない限り同被告にその損害を賠償すべき義務あるものというべく、また被告鈴木にも使用者責任を認めるのが相当であることはいづれも前記認定のとおりであつて、〔証拠略〕によれば、本件事故により当時原告が携帯していたトランペツトが使用に耐えない程度破損されたこと、右トランペツトは本件事故一、二年前に金七万七、〇〇〇円で購入したものであることが認められるところ、原告本人尋問の結果によればトランペツトの一般的耐用年数は四、五年位であるというのであるから、耐用年数を五年と考え、原告は本件事故による破損により右代金相当の損害のうち、残余耐用年数三年の割合による損害(七万七、〇〇〇円×五分の三)金四万六、二〇〇円相当の損害を蒙つたものと認められる。

(三)  得べかり利益

〔証拠略〕によれば、原告は本件事故当時、仙台市東一番丁コスモポリタン所属の保原桂一の主宰する楽団にトランペツト奏者として月額金二万二、〇〇〇円の給料で稼働していたこと、原告は本件事故により右稼働が不能となり、昭和四一年末まで右の状態が継続した事実が認められるところ、昭和四〇年八月から同四一年七月までの間においては、一カ月金二万二、〇〇〇円の割合による合計金五〇万六、〇〇〇円に相当する損害を蒙つたものということができる。

(四)  慰謝料

〔証拠略〕を総合すると、原告は当二四才で本件事故により前認定の如き傷害を受け、昭和四〇年七月一九日から同四一年二月二一日まで仙台市立病院に入院し、右病院退院後も小笠原病院等に通院加療したり、自宅で静養し、現在右傷害は治癒したが、左耳および右前額部には傷痕があり、左足はややびつこをひく状態で駆け足しは十分出来ず、時々頭痛が襲つたり、寒いときには左足首が痛むことがあること、原告は中学生の頃よりトランペツトを吹奏し、高等学校卒業後は右吹奏を生涯の仕事と考えていたところ、本件事故による前歯二本の破折および右認定の頭痛等のため右吹奏を断念せざるを得なくなつたこと、原告には右吹奏のほか他に特技のないことをそれぞれ認めることができ、これらの事情よりみると、原告は慰謝料として金七〇万円の支払いを受けるのが相当であると認められる。

(五)  弁護士費用

原告が本件損害賠償請求訴訟を弁護士豊田喜久雄に依頼し、その費用および手数料として合計金七万三、〇〇〇円を支払つた事実は当事者間に争いがない。

ところで我が国の民事訴訟法は、本人訴訟を許容し、必ずしも弁護士を代理人として委任することを強制しているわけではなく、弁護士費用は弁護士と依頼者との間の報酬契約によつて生じた法律的後見の費用であつて、交通事故自体とは本来直接の関連を有するということはできず、この関係を肉体的後見を必要とする場合認められる附添看護費等と同視できる程の相当因果関係性を認めることはできない。

かかる費用の賠償請求が許されるか否かは、むしろ訴訟を提起するに至つた事由たとえば相手方が自己にその賠償請求を拒むべき理由がないことを十分了知していながら、または当該事案を客観的にみれば損害の発生等が明白で、賠償責任があることを知り得べき場合であるのに過失によつてこれを知らず、結局被害者をして訴訟を提起せざるを得ない状況に追い込み、又はあえてこれに応訴してその権利を争い訴訟を遅延せしめ、そのために被害者をして出費を大きくさせる等相手方の不当な応訴等それ自体が公序良俗に反するものと認められる場合に、はじめてそのために生じた損害として賠償請求が肯定されるに過ぎないというべきである。したがつて弁護士費用を本件事故に基づく損害とする原告の主張は排斥せざるを得ないし、また損害発生の原因となるべき事実の立証もないからこれを認めることはできない。

よつて以上を合計すると、原告が被告等に対して請求し得る損害額は金二〇六万二、三六一円となる。

四、被告等の抗弁に対する判断

(一)  過失相殺

被告等は原告が被告石田の運転する進路前方の道路中央に漫然進出しており、右過失が本件事故発生の一因である旨主張するが、原告は後方より衝突せしめられたものであり、本件事故は被告石田の酩酊運転等の重大な過失に起因したものであることは前記認定のとおりであつて原告に過失を認める余地はなく又被告等の主張を認めるに足る証拠もない。よつて被告等の右主張は採用することができない。

(二)  一部弁済

ところで原告は、昭和四二年四月被告鈴木の加入する自賠法による保険金三〇万円を受領しているほか、被告石田から本件事故による損害金の一部として昭和四〇年八月金三万円、同四三年五月二七日金一〇万円、同年一〇月一四日金一〇万円合計金二三万円、総計金五三万円を受領している事実は当事者間に争いがないから、これを右金額より差引くと被告等に対し請求し得べき損害金は差引き金一五三万二、三六一円となる。

五、結論

よつて以上の理由により原告の本訴請求は、被告等に対し各自金一五三万二、三六一円および右金員に対する損害発生日以後であること明らかな昭和四一年一二月三日から各完済に至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金を請求する限度で正当として認容し、その余は失当として棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条九二条、九三条、仮執行の宣言ならびにその逸脱につき同法一九六条を各適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 三浦克己 藤枝忠了 板垣範之)

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