大判例

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仙台地方裁判所 昭和63年(わ)35号 判決

主文

被告人を懲役六月に処する。

未決勾留日数中八〇日を右刑に算入する。

この裁判確定の日から三年間右刑の執行を猶予し、その猶予の期間中被告人を保護観察に付する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、仙台市国分町《番号省略》に事務所を設けて「ルビー」、「ダイヤモンド」の名称でいわゆる売春クラブを経営していた者らから、同人らにおいて売春の周旋をする目的を有していることを認識しながら、右売春クラブの客寄せのための宣伝ちらしを同市国分町界わいの飲食店街等で頒布することを請け負ったうえ、昭和六三年一月一三日午後九時二三分ころ、同市国分町《番地省略》飲食店「甲野」前の物置箱の上に「ルビー、娘さん募集中、七〇分一八〇〇〇円、○○○―○○○○」などと印刷したちらし二枚及び「ダイヤモンド、チェンヂOK、TEL下さい、七〇分一八〇〇〇円、○○○―○○○○」などと印刷したちらし三枚を公衆の目にふれるような方法で置いて頒布し、もつて、売春の周旋をする目的で、広告その他これに類似する方法により人を売春の相手方となるように誘引したものである。

(証拠の標目)《省略》

(補足説明)

検察官は、先ず、被告人は本件売春クラブにおいて経営者ないしそれに準ずる枢要な地位にあつたから、被告人自身において売春の周旋をする目的を有していた旨主張するが、関係証拠によると、被告人は、昭和六二年六月ころから本件売春クラブのちらしまきを始め、その後いわゆるデート嬢の採用面接等にも携わることがあったものの、その面接等においては、いわゆる電話番をしていた氏名不詳の人物からの指示どおりに応募者に質問し、連絡事項を伝えたにすぎず、自らの裁量でデート嬢を採用したわけではないこと、また、実際のちらしまきの作業に従事するに当たっても、同クラブの関係者であるAあるいは一面識もない電話番から指示されるままに、ちらしをまき、デート嬢からいわゆるピンはね分の集金をし、一緒にちらしまきをした者に対し、Aから預かった二人分の日当のうちその者の分を手渡すという程度の労務を提供し、これに応じて定額の日当を得ていたにすぎず、売春の周旋の成否によってその取得する利益に差異を生じていたものではないこと、更に、被告人については、同年末ころいったんちらしまきをやめて職捜しのため盛岡市に赴いたが仕事が見つからなかったため、仙台市に戻ったうえ、同六三年一月四日ころ、本件売春クラブ事務所に電話して再びちらしまきの仕事に従事するようになったという経緯もあることが認められる。そして、これらの諸事実に徴すると、被告人は、自ら直接周旋行為をする立場になかったことが明らかであるうえに、右売春クラブへの関与の程度においても、経営者ないしそれに準ずる枢要な地位にあるとみられる者とはかなりの差異があるように思われる。なお、被告人が前記事務所のある建物に出入した形跡があり、また、被告人が本件で勾留されている間売春クラブの関係者とみられる者が面会に訪れたという事実があったとしても、これらの点は右の判断を動かすには足りない。従って、被告人自身において売春の周旋をする目的を有していたものとは到底認められず、被告人は、判示のとおり、他の者が右の目的を有していることを認識しながら、その者から請け負って判示のような頒布行為をしたにすぎない。とみるのが相当である。

そこで、右のような被告人の行為が、売春防止法六条二項の「売春の周旋をする目的」で行われたものといえるかどうかについて検討するに、同項の掲げる各行為は、自ら売春の周旋をする目的を有している者以外の者によって行われる例が少なくなく、かつそれが売春の周旋を助長していることは周知のとおりであって、売春の周旋行為ひいては売春そのものを防止するためには、そのような周旋の予備段階の行為をも広く処罰する必要があること、そして、同項の立法趣旨には、同項の掲げる各行為が、周旋を助長するとともに社会の風紀を乱し、一般市民に迷惑を及ぼすものであるため、これを防止しようということも含まれていることに鑑みると、被告人のように、他の者が売春の周旋をする目的を有していることを認識しながら、その客寄せのための宣伝ちらしの頒布を請け負ったうえ、これを実行した者については、その行為は、売春の周旋をする目的で行われた場合に該当し、同項三号により処罰の対象となるものと解するのが相当である。

以上によると、被告人は、主位的訴因のとおり、売春の周旋をする目的で同号所定の誘引行為をしたものとしての罪責を免れない。(従って、被告人が右売春クラブの経営者らと共謀のうえ右の誘引行為をしたとする予備的訴因については、判断をするまでもない。)

(法令の適用)

被告人の判示所為は売春防止法六条二項三号、一項に該当するところ、所定刑中懲役刑を選択し、その所定刑期の範囲内で被告人を懲役六月に処し、刑法二一条を適用して未決勾留日数中八〇日を右刑に算入し、情状により同法二五条一項を適用してこの裁判確定の日から三年間右刑の執行を猶予し、なお同法二五条の二第一項前段を適用して被告人を右猶予の期間中保護観察に付し、訴訟費用は、刑訴法一八一条一項ただし書により被告人に負担させないこととする。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 本郷元 裁判官 村上博信 宮本孝文)

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