大判例

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仙台高等裁判所 平成5年(ラ)96号 決定

抗告人

株式会社測永

代表者代表取締役

加茂室与

代理人弁護士

小野由可理

相手方

株式会社住総

代表者代表取締役

山本弘

主文

本件抗告を棄却する。

抗告費用は、抗告人の負担とする。

理由

第一本件抗告の趣旨及び理由

別紙執行抗告状写し記載のとおりである。

第二当裁判所の判断

一一件記録によれば、次の事実が一応認められる。

(一)  相手方は、債務者山田順二に対する別紙担保権・被担保債権・請求債権目録記載の債権を担保するため、別紙物件目録記載の各物件に上記担保権等目録記載の抵当権を設定した。

(二)  ところが、山田は、別紙物件目録一ないし六記載の物件(以下「本件物件」という。)に平成二年三月一二日設定された抵当権の被担保債権の債務につき、平成五年一月六日の返済分から支払いをしなくなり、二月中旬ころから山田が経営する会社が不渡りを出すのではないかという噂が出始めた。

(三)  平成五年二月二五日、山田と抗告人の間で、山田が所有権ないし持分権を有する本件物件について、山田を賃貸人、抗告人を賃借人とする賃貸借契約が締結された。約定によれば、賃料は、一カ月五万〇〇一七円、賃貸借期間は、平成五年二月二五日から平成一〇年二月二四日までの五年間であり、特約として、(ア)賃借人は、賃貸人の承諾なくして、本件賃借権を第三者に譲渡転貸し又は建物の建築をすることができる。(イ)賃貸人は、賃借人が、駐車場として第三者に転貸をし、使用収益を得る目的をもって譲渡転貸できることを承諾する。(ウ)賃借人は、敷金として、五〇〇万円を賃貸人に本日支払う。(エ)賃借人は、五年分の賃料を本日一括して前払いすることとし、金三〇〇万一〇二〇円を支払済であることを確認する旨の定めがある。

(四)  相手方は、平成五年四月一二日別紙物件目録記載の物件につき、不動産競売申立てをなし、同月一四日競売開始決定がなされ、同月一六日付けで差押登記が経由された。

(五)  抗告人は、平成五年四月二〇日ころ業者に本件土地の駐車場新設工事を発注し、同月下旬ころから整地工事が開始され、整地のうえ、バラスを敷いて平らにし、ロープを張って一三区画に区切り、同年五月一五日工事が完成した。抗告人は、同人名で「月極有料駐車場」の看板を設置し、不動産業者に利用者募集を依頼した。

(六)  上記看板記載の抗告人の住所は、山田経営の会社の所在地と同一であり、抗告人の商業登記簿上の抗告人の本店所在地とは異なる場所である。

(七)  平成五年五月一八日、いわゆる事件屋と思われる人物が、相手方社員に対し、「山田に頼まれ、山田ら所有物件の整理を任されている。」旨申し述べている。

二抗告人は、立法の経過に鑑みると、民事執行法五五条の保全処分の対象者は、厳格に債務者に限られるべきである旨主張する。

しかし、民事執行法一八八条により、同法五五条一項を担保権実行の場合に準用するときは、債務者を債務者又は所有者に読み替えることになるが、所有者には、その占有補助者も含まれることはいうまでもないところ、所有者の関与のもとに執行妨害を目的として競売不動産を占有する者は、競売手続において独立の占有者として保護するに値せず、所有者の占有補助者と同視して、民事執行法一八八条、五五条一項の所有者に含まれるものと解するのが相当であり、そのように解しても、立法の趣旨に反するものではない。そして、上記事実関係によれば、抗告人は、所有者である山田の占有補助者と同視することができ、民事執行法一八八条、五五条一項に基づく不動産の売却のための保全処分の相手方になるものというべきである。

三次に、抗告人は、駐車場新設工事の態様や駐車場利用者が競売事件の買受人に対抗できる権利を取得しないことを理由に、抗告人の行為は、不動産の価格を著しく減少させる行為に該当しないと主張する。

しかしながら、抗告人が、今後多数の利用者に本件土地を駐車場として占有利用させる意思を有していることは明らかであるところ、多数の者が競売対象土地を占有し、あるいは、そのおそれがある場合には、占有者の権利が法的に買受人に対抗できるか否かにかかわらず、買受けを控え、あるいは、買受申出額が低下することは容易に予想されるところであるから、抗告人が本件土地を駐車場として多数の利用者に占有利用させる行為は、不動産の価格を著しく減少する行為、又は、そのおそれがある行為に該当するものといわざるを得ない。

四よって、本件抗告は、その理由のすべてが失当なので棄却することとし、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官佐藤邦夫 裁判官小野貞夫 裁判官小島浩)

別紙抗告の趣旨

原決定を取り消し、抗告人に対する保全処分申立を却下するとの裁判を求める。

抗告の理由

第一 抗告人に対する本件保全処分決定は民事執行法第五五条に違反しており、不適法であるから却下されなければならない。

1 同法第五五条による保全処分の対象は債務者のみである。第五五条の政府原案は、保全処分の対象は債務者だけでなく、不動産の占有者(ただし、第二項の占有者は、その権原を買受人に対抗することができる者)をも含むものとしていたが、国会における審議において、本案中「占有者」が削られ、本案の保全処分は「債務者」のみに限られる修正がなされたのである。

2 従って、以上の立法過程から見るとき、本条の保全処分の対象は厳格に債務者に限られるべきであり、債務者でない抗告人を対象とした本件保全処分決定は本案に違反し、不適法であるから却下されなければならない。

第二 抗告人の行為は本案にいう不動産の価格を著しく減少する行為に該らないから、事実を誤認したものであり、抗告人に対する保全処分決定は却下されなければならない。

1 抗告人は平成五年二月二五日債務者山田順二との間で、次の条件で本件不動産の賃貸借契約を締結した。

(一) 賃貸借期間 平成五年二月二五日から平成一〇年二月二四日までの五年間

(二) 賃料 月額金五万〇〇一七円

(三) 特約事項

①賃借人は賃借権の譲渡、転貸、建物の建築ができる。

②賃借人が駐車場として第三者に賃貸し、使用収益を得る目的をもって譲渡転貸できる。

③賃借人は敷金として金五〇〇万円を賃貸人に本日支払う。

④賃借人は五年分の賃料を本日一括して前払いとし、金三〇〇万一〇二〇円を支払済みである。

2 上記賃貸借契約に基づき、抗告人は本件不動産を自動車の月極有料駐車場として使用することにし、同年四月二〇日頃業者に駐車場新設工事を発注し、同月下旬から工事にかかり、同年五月一五日に工事が完成した。

そこで、抗告人は不動産業者に利用者募集を依頼し、「月極有料駐車場」の看板も設置して開業準備中に保全処分の決定を受けたのである。

3 上記のとおり、抗告人は債務者山田順二に敷金五〇〇万円、五年分の賃料前払い分三〇〇万一〇二〇円を支払い、駐車場新設工事費用八七万円を業者である有限会社慶泉建設に支払っているので、合計八八七万一〇二〇円を支出しており、月極有料駐車場の開業ができないと大きな損害を蒙ることになる。

4 そして、上記駐車場新設工事は土地の掘窄等は一切しておらず、整地してバラスを敷き、ロープを張って区割りしただけであるから、不動産の価格を著しく減少するどころか、逆に価格を増加する行為と言えるのであり、しかも競売によって駐車場利用者の利用の権利は消滅し、そこに法的紛争が発生する余地はないのであるから、抗告人の行為が不動産の価格を著しく減少するものと認定した本件保全処分決定は事実を誤認したものであり、その点からも却下されなければならない。

別紙物件目録〈省略〉

別紙担保権・被担保債権・請求債権目録〈省略〉

《参考・原決定》

申立人(差押債権者)

株式会社住総

代表者代表取締役

山本弘

支配人

愛甲英臣

申立人代理人弁護士

村上敏郎

相手方

山田順二

相手方

株式会社測永

代表者代表取締役

加茂室与

申立人側訴訟代理人

村上敏郎

相手方側訴訟代理人

主文

一 相手方山田順二は、買受人が代金を納付するまでの間、別紙物件目録記載の不動産(以下「本件不動産」という。)について、現状の変更、占有の移転、占有名義の変更及び賃借権の設定をしてはならない。

二 相手方株式会社測永は、買受人が代金を納付するまでの間、本件不動産について、現状の変更、占有の移転、占有名義の変更、賃借権の設定及び賃借権の設定の仲介をしてはならない。

三 執行官は、買受人が代金を納付するまでの間、本件不動産について、相手方山田順二に対し主文第一項記載の命令が、相手方株式会社測永に対し主文第二項記載の命令が、それぞれ発せられていることを公示しなければならない。

仙台地方裁判所第四民事部

(裁判官合田悦三)

《参考・原裁判所の意見》

一 本件抗告は、次の理由により棄却されるべきものと考える。

二 抗告人代理人は、民事執行法五五条の売却のための保全処分を発令できる相手方は厳格に債務者に限られるべきであり、当裁判所が抗告人に対して発した保全処分は違法である旨主張する。

しかしながら、民事執行法一八八条によって準用される同法五五条にいう「債務者」とは、「債務者又は所有者」(担保権実行手続では「所有者」が含まれることについては、東京高裁昭和六〇年八月二三日決定・判例時報一一六六号六四頁。)、及び「債務者又は所有者」以外の第三者の内、所有者の占有補助者と同視できる者のことを意味すると解すべきであり、このような第三者に対しては売却のための保全処分を発令できるとするのが相当である。現在の執行実務においては、既に、当裁判所の上記解釈と同一の見解の下に、第三者を相手方とする保全処分を発令した事例が多数あり(その主要なものは、東京地裁民事執行実務研究会編「民事執行法上の保全処分」に内容が収録されている。)、この見解を支持する高裁の決定も次々となされている(東京高裁平成四年一〇月一六日決定・判例時報一四四三号六六頁。同高裁同年一二月二八日決定・判例タイムズ八〇四号二八二頁。同高裁平成五年二月一八日決定・判例タイムズ八一五号二二五、二二六頁。)。抗告人代理人の上記主張は独自の見解であり、当裁判所の保全処分には、抗告人代理人指摘の違法はない。

なお、本件執行抗告状には記載がないが、抗告人が上記「所有者の占有補助者と同視できる者」に該当するか否かについて付言する。執行実務においては、この点の認定は、(一)当該第三者の占有が所有者の関与によりなされたものであること(二)当該第三者が執行妨害目的を有することが要件になるとされており、当裁判所も同様の見解である。本件においては、抗告人の本件土地の占有は所有者山田順二との賃貸借契約によって開始されており(一)の要件の存在は明白である。また、この賃貸借契約の契約書の日付けが平成五年二月二五日であり、これは本件競売事件で実行されている抵当権の被担保債権に対する支払を債務者(所有者)山田順二がしなくなった同年一月より後で、右山田の経営する会社(株式会社ジューケンハウジング)が不渡りを出すとの噂が出始めた時期とほぼ同じであること、本件土地の整地工事が始まったのは本件競売開始決定に基づく差押登記のなされた後の同年四月下旬であること、山田と抗告人間の上記賃貸借契約の内容が、毎月の賃料が五万円なのに敷金は五〇〇万円であり、かつ五年分の賃料を一括前払いするというものであること、本件土地に抗告人名で設置された「月極有料駐車場」の看板に記載された抗告人の住所は、上記山田の経営する会社の所在地と同一であり、これは商業登記簿上の抗告人の本店所在地と異なる場所であること等記録から認められる諸事情を総合すれば(二)の要件も存すると言い得る。よって、抗告人は上記「所有者の占有補助者と同視できる者」に該当する。

三 抗告人代理人は、抗告人が本件土地に行った駐車場新設工事の態様と駐車場利用者が競売事件の買受人に対抗できる権利を取得しないことを理由に抗告人の行為は「不動産の価格を著しく減少させる行為」に該当しないと主張する。

しかしながら、抗告人は、本件土地を駐車場用に一三区画に区切っており、今後多数の利用者に本件土地を駐車場として占有利用させる意思であることは明らかであるところ、それまで更地であった土地に多数の占有者が出現すれば、これにより、買受人は、自らこの土地を利用するまでに、その占有者を調査確定し、これに対して明渡交渉をしたり、法的手段を講じなければならない等、多大の手間をかけなければならないことになる。これは占有者の権利が買受人に法的に対抗できないとしても同様である。このような負担の大きな物件に買受人が出現することが困難なのは顕著な事実であり、抗告人が本件土地を駐車場として多数の利用者に占有利用させる行為が、不動産の価格を著しく減少させ、又はそのおそれがある行為に該当することは明白である。抗告人代理人の前記主張は失当である。

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