大判例

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仙台高等裁判所 昭和24年(を)458号 判決

被告人

五十嵐ツマ

外七名

主文

本件控訴を棄却する。

理由

検察官の控訴趣意第一点について。

原審は被告人等に対する各司法警察員並びに検察官の供述調書につき、いずれも任意の供述によつて作成されたものでない疑があるとし、これを証拠とすることについて排除する旨の決定をなしている、よつてまず被告人等に対する司法警察員の供述調書の任意性につき検討するに、原審第二回公判調書によれば、被告人等の取調官である証人小林昇は、右の警察における取調に当つては全然不当がなく供述がいずれも任意にされた旨証言するに対し、被告人等はいずれも右証言を反駁し取調の不当を難じていることが認められる。しかして右の公判調書その他原審公判調書を仔細に検討すれば、被告人等の警察における供述即ち前記の供述調書に記載された供述については、任意にされたものでない疑のあるものであることは直ちに否定し難く、むしろ多分に右疑が存するものであることが認められるから原審が前記のように排除の決定をしたことを目して違法と認めることができない。もつとも原審第二回公判調書によれば被告人飯塚元吉に対する警察での取調に関し、同被告人と裁判官との問答中、問「何か無理でもされたか」、答「別にいわれませんでした」、問「ではそのように自分から進んで述べたのか」、答「はい、そうであります」との記載があり、同被告人については任意の供述があつたものとみられうるごとくである。しかしながら被告人等は同日同一警察署に出頭し、相互に取調の模様を知りうる状況のもとに取調を受けたものであることが記録により明らかである。このような状況のもとにおいて、取調べられる事項もほとんど差がなく、しかも作成された調書もほとんど大差がないのにかかわらず、被告人飯塚のみが任意に供述し、他の被告人が全部不任意な供述をなしたものであるとはたやすく首肯し難いところであるばかりでなく、前記の裁判官と被告人飯塚との問答については、その前に、答「私が坂下の警察の人に馬場タミノが商にくるなり木綿糸を御歳暮だといつてくれ、商の話等をして帰る時に、鉛筆で「大和田義栄」と書いて自分のところへ出し、この人は喜多方の人で養蚕に熱心だから入れてくれ、といつて行つた、といつたら、その足で西方の巡査駐在所につれて行かれ調書をとられました」、問「坂下の警察署に呼ばれて取調を受け調書を作られた時も前と同じようにいつたか」、答「そうです」、との旨の記載があり、これによつて同被告人が投票の報酬として木綿糸の供与を受けたことを自白した趣旨と認めることができないのであるから、前記の裁判官との問答記載の、「自分から進んで述べた」旨も、右の供与を受けたことを自白した趣意のものを述べたものであるとは認め難い。結局同被告人に対する司法警察員の供述調書についても原審が排除の決定をなしたことを目して違法であると認めることができないのである。次に被告人等に対する検察官の供述調書の任意性につき考察するに、既に前段説明の如く、警察における供述につき被告人等の不利益な供述の任意性を認めえない以上知識の程度も高くない被告人等が、その後幾ばくもなくしてなされた検察官の取調について多大の心理的影響を受けていることは否めないものというべく、被告人等が検察庁に対し警察以上恐怖の念を抱いていたと原審公判廷において供述したことも直ちにこれを否定できないというべきであるから、検察官が被告人等に対し直接強制を加えなくとも不任意な供述のあることが考えられるのであつて、本件において被告人等に対する検察官の各供述調書について原審が排除の決定をしたことをもつて特に違法があると認めることができない。従つて原審が刑事訴訴法第三百十九條の法意を誤り、解釈し、排除すべからざる証拠を排除した訴訟手続の違背があると認めることができない。この点論旨は理由がない。

(検察官山口一夫の控訴趣意第一点)

本件はその審理に当り訴訟手続に法令違反があつて、その違反が判決に影響を及ぼすこと明らかである。

本件第一回公判に当り検事は

1  馬場タミノの司法警察員に対する第一、二回供述調書

2  同人の検察官に対する供述調書

3  五十嵐ツマ、飯塚元吉、渡部勇平、五十嵐ハルヨ、渡部フミ、秦ヨシノ、五十嵐ミツノ、川島オチン等の各司法警察員並びに検察官に対する供述調書

の証拠調を請求したところ1、2書類については被告人の同意をえられなかつたが右3の書類については刑事訴訟法第三百二十二條により証拠調をなす旨の決定を得これを当回及び第二回公判にわたつて朗読したところ第三回公判において右記1、2、3の書類はいずれも任意の供述によつて作成されたものでない疑があるのでこれを証拠とすることについて排除する旨の決定がなされた。右決定は、けだし刑事訴訟法第三百十九條所定の事由ありとの趣意にて右証拠調を証拠能力なしと断じたものであるが同條の趣意を認定するには同條所定の事由の存在の証明或は疎明があつてはじめて認定しうるものであると解せられる。

しかして本件においては被告人飯塚元吉を除く各被告人は司法警察員の取調を受けた際「ブタ箱に入れるぞ」とおどかされた旨陳述しておるが証人小林昇(取調者)の証言によればかかる事実は全く存在しない旨の反証がなされている。被告人五十嵐ツマは警察署の取調において朝六時から夕方六時五分前まで取調を受けたと供述しているが証人小林昇の証言によれば午前十一時頃より取調を開始した旨であり被告人五十嵐ツマの供述は司法警察員の取調方法を非難するに急なあまり甚しく誇張されていることが判る。

なお被告人飯塚元吉の公判廷における陳述によれば「警察署における取調の際には無理はいわれない、自分から進んで述べた。あらかじめ供述を拒むことができる旨もいい聞かされた」旨であり、被告人渡部フミ子の判事に対する証人尋問調書によれば坂下署の取調の際「叱られたことはない」旨の供述があるからすくなくとも右両名の司法警察員に対する供述調書については任意性を疑うべき何等の理由もないのである。

その余の被告人についても前記五十嵐ツマの供述がいかに誇張してなされているかを考え証人小林昇の証言と照合する時司法警察員の取調が過酷であつて刑事訴訟法第三百十九條所定の任意性を阻却するものと認めることは早計である。

各被告人の司法警察員に対する供述については以上の通りであるが同人等の検察官に対する供述について検討するに同人等はいずれも全く外部的に強制圧迫を加えられたことはないが検察庁は警察署より恐ろしいと思つたから警察で述べたと同様のことを述べた旨、その他これに類する趣旨の供述をなしており何等外部的圧迫を加えられた趣旨の供述は存在しない。

しかして昭和二十四年四月二十三日最高裁判所は自白の任意性に関し「不当の強制圧迫を加えた客観的事実のない限り、その自白の任意性を否定することはできない」と判示している点より見て前記被告人等の検察官に対する供述調書を任意になされたものでない疑いがあるとすることは全く根拠なきことである。従つて前記裁判官の決定は刑事訴訟法第三百十九條の法意を誤つて解釈し排除すべからざる証拠を排除し検事をして刑事訴訟法第三百二十八條によつて前記証拠を提出する以外に途なき窮地に追込みたるものというべく、しかし右決定により排除された証拠は本件各被告人の犯意の認定につき重要なる証明力を有するものであるから本件審理には訴訟手続に法令違反があり、その違反が判決に影響を及ぼすこと明らかである。

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