大判例

20世紀の現憲法下の判例を掲載しています

仙台高等裁判所 昭和25年(う)191号 判決

被告人

鈴木文人

主文

本件控訴を棄却する。

当審における訴訟費用は被告人の負担とする。

理由

弁護人八島喜久夫の控訴趣意について。

刑法第九十五条第一項にいわゆる脅迫とは、生命、身体等に対する不法な害惡の告知を意味し、荒唐無稽な内容のもの、又は単なる大言壯語はこれに該当しないものと解すべきことは所論のとおりであるが、脅迫を内容とする右条項の犯罪の成立には、相手方たる公務員において脅迫により特に畏怖の念を生ずることはこれを要しないものと解すべきである。原判決認定の本件の脅迫行為の内容は「お前を恨んで居る者は俺丈けじやない何人居るか判らない駐在所にダイナマイトを仕掛けて爆発させ貴男を殺すと言うて居る者もある」「俺の仲間は沢山居つてそいつ等も君をやつつけるのだと相当意気込んで居る」というのであり、荒唐無稽又は単なる大言壯語を以て目すべきものに非ずして生命、身体に対する不法なる害惡の告知とみるべきものであるから、前記条項にいわゆる脅迫に該当するものというべきである。また被告人から右の告知を受けた千葉巡査が、これにより畏怖の念を生じなかつたとするも、右犯罪の成立することは論をまたない。従つて原判決には、刑法第九十五条第一項の脅迫の解釈を誤つたとか、審理不盡理由不備の違法があるということはできない。

(弁護人八島喜久夫の控訴趣意)

一、原判決は公務執行妨害罪に於ける脅迫の解釈を誤つた違法がある。

即ち原判決は被告人は千葉武夫巡査に対して「お前を恨んで居る者は俺丈けじやない何人居るか判らない駐在所にダイナマイトを仕掛けて爆発させ貴男を殺すと云うて居る者もある」「俺の仲間は沢山居つてそいつ等も君をやつつけるのだと相当意気込んで居る」と言うたと事実を認定しているが刑法第九十五条第一項の脅迫とは害を加うべきことを告げて人を畏怖せしむることを謂うもの故単に害を通知したのみでその害が客観的に荒唐無稽又は大言壯語と目される場合及び害を通知された者が主観的に畏怖しなかつた場合には脅迫とはならないのである。

飜つて本件を考察すると被告人が前記の如き暴言を吐いた事は事実であるが之に依つて千葉武夫が畏怖したと認めらるべき証拠は何等存在せず反つて

(一)  被告人と千葉武夫は以前から知合いであつて未知未見の者ではない(原審千葉武夫証言)

(二)  被告人は竊盜被疑者として取調べられ且つ飮酒して戻つた為精神状態が昻奮しておつた(原審千葉武夫同菅原義之助の証言及び被告人の供述)

(三)  右の暴言は千葉武夫と被告人の雑談の際出たものであつて相手方を畏怖させる状態に於てではない。

(四)  例え右の様な言葉が普通人に畏怖を感じさせることがあるとしても職務上警察官吏の如き常に危難に身を処する者はかかる言動に畏怖動搖しないのが普通である。

(五)  被告人は千葉武夫に対し謝罪し千葉武夫も之を諒としている。

原審菅原義之助証言)

以上の次第で原審は脅迫の事実として単に前述の暴言を引用するのみであつて被告人及び被害者の当時おかれた環境、態度、地位、職責、前歴を綜合考察して被害者が畏怖したか何うかの点を看過した事は刑法第九十五条第一項の脅迫の意味の解釈を誤つたか又は審理不盡理由不備の違法がある故破棄せらるべきものと信ずる。

「大判例」は20世紀で日本国憲法下の裁判例のうち,公刊物に掲載されたものをまとめたインターネット判例集です。原則として公刊されたものをそのまま載せています。

憲法により判決は公開とされており,法曹および法律研究者に利用されているものです。その公共性と平等主義の観点から,送信防止措置または改変には一切応じませんのでご了承ください。

©daihanrei.com