大判例

20世紀の現憲法下の判例を掲載しています

仙台高等裁判所 昭和25年(う)527号 判決

被告人

佐々木勝雄

主文

本件控訴は之を棄却する。

理由

弁護人及川憲一郎の控訴趣意第一点について。

(イ)  しかし、原審において裁判所が許した訴因変更がなされる前の公訴事実とその後のそれとはいづれも、被告人が所論の期間内に伊藤春雄外二名に対して、粳精米合計五石四斗を売渡したとの基本的事実関係にもとづいているのであるから、公訴事実の同一性を害していないことは勿論である。されば原審が検察官の請求に依る訴因の変更を許容したのは正当であつて、論旨は理由がない。

その第二点について、

(ロ)  しかし所論原審における訴因の変更は公訴事実の同一性を害さない範囲で行われたものであることは前段説示の通りで、それは新なる公訴の提起ではないことはいうまでもないのであるから、その訴因変更前の公判において適法に取調べられた証拠は何等の手続を要せずして当然に変更後の訴因たる公訴事実認定の証拠となし得ることは疑がない。所論は原審における訴因変更は新なる公訴事実につき新なる公訴の提起があつたものであることを前提とするもので、もとより採用の限りではない。

(弁護人及川憲一郎の控訴趣意)

第一点 本件は曩きに物価統制令違反事件として昭和二十四年十二月九日起訴しその公訴事実として「被告人は船宿を営むものであるが、其の業務に関して何等法定の除外事由がないのに昭和二十三年十一月一日より昭和二十四年七月二十三日迄自宅に於て別紙(別紙省略)の如く伊藤春雄外二名に粳精米五石四斗を売渡し、其の代金を所定の統制額三万六千四百五十円を超える六万三千七百円を受領したものである」として審理せられたる処、昭和二十五年五月十五日の第三回公判に於て同年四月二十日附訴因変更書に基き訴因を「被告人は法定の除外事由がないのに肩書自宅に於て別紙(別紙省略)記載の各取引年月日、各品名数量を各其の取引価格を以て政府、食糧配給公団その他農林大臣の指定する者以外の者である伊藤春雄外二名に夫々売渡したのである」と変更したものなることは記録上明白である。然るに訴因の変更を許す場合は公訴事実の同一性を害しない限度に於て為すべきものなることは刑事訴訟法第三百十二条に明記する処である。公訴事実の同一なるや否やを決する標準は大凡主観的同一、客観的同一なることを要するものであるか、本件は主観的同一性存するも事実、即ち訴訟物体が同一にあらざれば、客観的同一でないものと信ずる。曩きの公訴事実は物価統制令第三条の価格違反であるが、後の公訴事実は食糧管理法第九条の譲渡違反で各その犯罪構成要件を異にする結果各行為を異にするものなれば訴因変更に関し仮令被告人に於て異議を述べざりしとするも犯罪の同一性を害する結果之を許すべからざるものなるに、原審は之が訴因変更を許したるは法令の適用に誤ありたるものと云うべく該誤が判決に影響を及ぼすこと明らかである。

第二点 公訴は検察官の指定した公訴事実と単一同一関係に立たない他の事実に効力を及ぼさないことは、当然である。従つて前起訴の物価統制令違反と後起訴の食糧管理法違反とは同一単一関係に立たないもの故、前の公訴の効力は消滅し後の公訴は新に効力を生ずるものと解するを妥当とすべく仮りに然らずとするも訴訟法上は明らかに前公訴事件と後の公訴事件では全く別事件である故に、前の公訴事実を立証するため提出した証拠は何等の手続を要せず、当然後の公訴事実を立証する証拠となるべき性質のものにあらざるものと信ずる。然りとせば本件は原判決が採用した証拠中検察事務官作成の被告人の第二回供述調書及び司法警察員作成の野田善治の供述調書を提出したるは、昭和二十五年二月三日の第一回公判であつて、前公訴事実に関するものであることは記録上明白である。然るに原審は此点を看過し後の公訴事実に対する証拠として採用し事実を認定したことは採証の法則に違背せるものと信ずる。

「大判例」は20世紀で日本国憲法下の裁判例のうち,公刊物に掲載されたものをまとめたインターネット判例集です。原則として公刊されたものをそのまま載せています。

憲法により判決は公開とされており,法曹および法律研究者に利用されているものです。その公共性と平等主義の観点から,送信防止措置または改変には一切応じませんのでご了承ください。

©daihanrei.com