大判例

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仙台高等裁判所 昭和25年(う)655号 判決

被告人

桜井たい子

主文

本件控訴は之を棄却する。

当審における未決勾留日数中参拾日を本刑に算入する。

当審に於ける訴訟費用は被告人の負担とする。

理由

弁護人逸見惣作の控訴趣意第一点に付て。

刑事訴訟法第三百五条は証拠書類についての証拠調の方式を「朗読」とし、第三百六条は証拠物についての証拠調の方式を「展示」とし、而して第三百七条に右両条を承けて、書面の意義が証拠となる書面(略称証拠物たる書面)についての証拠調の方式を「朗読及び展示」としている。これは、かくの如き方式による証拠調によつて、これら各種の証拠の証拠としての属性が法廷に顯出され、よつて以てその証拠としての属性が裁判所及び訴訟関係人の認識に供せられ、即ち証拠調の証拠調たる所以を実践し得るが故に外ならない。けだし、証拠書類は、専らその報告的な記載内容が証拠に供せられるのであるから「朗読」によつて、証拠物はその存在、形状、色彩その他その物の物理的属性が証拠に供せられるものであるから「展示」によつて、而して証拠物たる書面は、存在、形状、色彩その他その物の物理的属性とともにその書面の記載内容が証拠に供せられるものであるから「展示及び朗読」によつて、各、よくその証拠としての属性を法廷に顯出し得るものであるからである、論旨は、法が証拠物たる書面の証拠調について「朗読」とともに「展示」をも要求する趣旨は、その記載内容を証拠に供するに先立つて、その書面としての存在及び成立の真正を証するがためであると主張するのであるが、その見解には賛成できない。けだし、その書面としての存在及び成立の真正を云々する必要あることは、証拠書類についてもまた然りといわなければならぬのに、証拠書類について法は「展示」を要求していない。又法が証拠物一般について「展示」を以て証拠調の方式としている趣旨を以てその物の存在及び成立の真正を証するためであると解するというが如きは無意味であるからである。書面としての存在及び成立の真正を証することとその存在及び成立の真正を証明することとは必然的な関係はないものといわなければならない。(「展示」が存在及び成立の真正を証する一助となることがあることは否定できないけれども。)飜つて所論盗難被害届は本件窃盗の被害者末永しげ子が、その被害顛末を所轄警察署長に申告した書面で、かつ、専らその報告的記載内容を証拠とするため証拠調の請求のあつたものであることは記録上明白である。従つて、その証拠としての属性を法廷に顯出する方法としては「朗読」を以て必要にして十分なるものというべく、刑事訴訟法第三百五条乃至第三百七条の意味において正に証拠書類に外ならぬものである。原審が右盗難被害届の証拠調として、「朗読」のみによつたことは当然で、原審の措置には所論のような違法はない。論旨は理由がない。

(弁護人逸見惣作の控訴趣意)

第一点 原判決は末永しげ子の盗難被害届書を証拠として引用して被告人を有罪と認定したが盗難被害届書について原審は適法の証拠調をしないでこれを証拠として断罪の資料に供したのは違法である。

証拠書類とは当該訴訟に関して作成され証拠の用に供せられる書面であるということは大審院判決及びこれを踏襲する最高裁判所判決並に通説の相一致する見解である証拠物たる書面とは訴訟手続外において作成された書面であつてその存在状態又はその意義が証拠となるものをいうのである。証拠物たる書面はその書面の存在自体が先づ重要な事実であるから公判における証拠調の手続としては必らずこれを展示し且つ朗読する必要があるが証拠書類は訴訟手続上作成された書面であるからその存在は特別の場合でなければ全く疑を生じない。重要なことは専らその記載が犯罪事項に関する報告的文書である点に存するのであるから公判における証拠調手続はこれを朗読するだけで足ると考えられて居るのである。即ち証拠物たる書面はその意味が証拠となるのに訴訟手続外において作成されたものであるから先づその存在又は成立の真正であることを立証した後でなければその意味を証拠に供することはできない訳である。従つてこれを被告人に展示しなければならないのである、だから被害者が提出した盗難被害届の如きは訴訟手続外において被害者が任意に提出した書面であつて先づその存在又は成立が立証されて初めて証拠たり得る場合があるのみであつて如何なる意味からいつてもこれを証拠物たる書面と解する外ないのである。然るに拘らず原審公判においてはこれを慢然証拠書類と解し証拠調するに当つて単に朗読しただけで被告人に対して展示して居ないことは昭和二十五年六月三十日の公判調書で明かであるから適法な証拠調をしたとはいえないのにこれを引用して被告人を有罪と断定したのは違法である。

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