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仙台高等裁判所 昭和42年(ネ)41号 判決

控訴人

菅原権兵衛

右訴訟代理人

逸見惣作

斎藤忠昭

被控訴人

日本国有鉄道

右代表者総裁

石田礼助

右訴訟代理人

田中治彦

ほか五名

主文

原判決を取消す。

本件を仙台地方裁判所に差し戻す。

事   実≪省略≫

理由

一、控訴人の本件仮処分申請は、被控訴人が控訴人に対して公労法第一八条に基づいてなした解雇処分(以下本件解雇という)が無効であることを前提として、地位の保全と賃金の仮払いを求めるものであるところ、これに対し、被控訴人は、本件解雇は行政庁たる国鉄総裁が公労法第一八条に基づいてなした処分であるから、行政事件訴訟法第四四条により、本件仮処分申請は許されない旨主張するで、本件解雇が右行政事件訴訟法四四条にいわれる行政庁の処分その他公権力の行使に当る行為に該るか否かについて判断するに、

(一)  被控訴人国鉄は、昭和二三年一二月二〇法律二五六号をもつて国鉄法の施行に際し、従前純然たる国家の行政機関によつて運営せられて来た鉄道その他の事業を経営し、能率的な運営によりこれを発展せしめ、もつて公共の福祉を増進することを目的として設立せられた公法人(国鉄法第一、二条)であり、このような国鉄を行政機関から分離して独立の法人とした設立の沿革及び趣旨と、その事業の本質において国家権力の行使と直接関係のない、私企業によつても営まれる性質の鉄道事業の経営を本務とするものであることとに鑑みれば、国鉄は本質上公権力の行使にあづから国の行政機関たるの性格を有するものということができない。

もつとも、国鉄法には、役員の任免、事業の経営等について政府機関の監督に服し、予算会計についても政府及び国会の規整をうくべき旨の諸規定があるが、これらの諸規定は国鉄の営む鉄道事業の沿革と規模に徴し、国が経営会計の面において後見的立場から監督する必要上おかれた規定であるから、これがため国鉄が行政機関たる性格を有するものということはできない。

(二)  国鉄が本質上行政機関たる法的性格を有しないこと右のとおりであり、従つて国鉄職員も国家公務員の性格を有するものではないのであるが、国鉄とその職員との勤務関係について、国鉄法その他の実定法がこれを国家公務員と同様な特別権力関係として規律をしているとすれば、その関係においては国鉄とその職員との関係も行政機関におけるその職員との関係に準じて取扱うべきであるから、このような見地から国鉄とその職員との関係がどのように規律されているか検討すると、

(1)  まず国鉄法第三四条第一項に「役員及び職員は法令により公務に従事する者とみなす。」との規定がある。

この規定によれば国鉄職員も公務に従事する公務員と同様の取扱を受ける場合のあることが明らかであるから、右規定の趣旨ないしその適用の範囲について考えるに、元来国鉄法は公労法とともに、いわゆる二・一ゼネストに次ぐ第二次労働争議に対処する、昭和二三年七月二二日付、国家公務員法の改正に関するマツクアーサー書簡による国家公務員法の第一次改正に際し制定されたものであり、前記国鉄法第三四条第一項の規定も同書簡中の「鉄道並に塩、煙草の専売などの政府事業に関する限り、これらの職員は普通公職から除外されてよいと信ずる。しかしながらこれらの事業を管理し運営するために適当な方法により公共企業体が組織せらるべきである。しかしてその雇傭の標準、方針並に手続を適正に定め、雇傭者が責任を忠実に遂行することを怠り、ために業務運営に支障を来すことなきよう公共の利益を擁護する方法が定められなければならない。……」との趣旨に基づくものである。従つて右第三四条第一項の規定は鉄道事業の直接社会公共の利益にかかることの大なるに鑑み、国鉄職員に対し、従来のゼネストの如き全国的ストライキなどのないよう、公務員の公務に従事する場合と同一の執務態度精神をもつて執務すべきことを求めているもの、すなわち国鉄職員の鉄道事業の執務態度精神において公務員の場合と同一であるべきことを規定した趣旨のものであり国鉄とその職員との雇傭契約関係の全般について公務員の場合と同一であることを規定しているものではないことが明らかである。

前記書簡の趣旨による右第三四条第一項の規定の趣旨により国鉄職員も公務員におけると同様程度の差異はあるが労働運動の制限を受けることのあるのはもとより、刑罰法規の適用においても、刑法第七条第一項にいわゆる「法令により公務に従事する職員」として公務員の場合と同様の地位の保障を得、ないし責任追及の地位に立たされているにすぎないのである。従つて国鉄法も同法第三四条第二項において「役員及び職員には国家公務員法は適用されない。」ことを明言し、かつ同法第三五条において「国鉄職員の労働関係に関しては公労法の定めるところによる。」と規定しているのである。

要するに国鉄法第三四条第一項の規定の趣旨は、国鉄とその職員の雇傭関係においては、国鉄職員の労働運動の制限の根拠を規定したにすぎないものであり、このように労働運動の制限されるのは国鉄職員の業務の社会公共性の大なるによるものであり、国鉄のその職員に対する特別権力関係によるものではない、従つて右規定の存在をもつて国鉄職員の勤務関係を一般公務員の場合と同様な権力関係として規定しているものということはできない。

(3)  また国鉄職員の勤務関係について、国鉄法中には、職員の任免は成績その他の能力の実証に基づいて行ない、職員の給与はその職務の内容と責任に応ずることを要し、一定の事由がなければその意に反して降職、免職、休職されず、一定の事由があるときは懲戒処分に付され、職務の遂行については誠実に法令、業務上の規程に従い、全力をあげて職務の遂行に専念しなければならない(第二七条ないし第三二条)など、国家公務員の場合と同様な諸規定があるけれども、これとほぼ同趣旨の規定は一般私企業の就業規則等にもみられるところであるのみならず、国家職員には前述のように公労法が適用され、国鉄職員の組合は、賃金その他の給与、労働時間、休憩、休日及び休暇に関する事項、昇職、降職、転職、免職、休職、先任権及び懲戒の基準に関する事項、労働に関する安全、衛生及び災害補償に関する事項、その他労働条件に関する事項について、広汎な団体交渉権が与えられ、国鉄と対等の立場においてこれらの事項に関し労働協約を締結する権利が認められ(公労法第八条)、また国鉄とその職員との間に発生した紛争について、あつせん、調停、仲裁の制度が設けられ(公労法第六章)、不当労働行為については公労委による救済が認められている(公労法第三条、第二五条の五)のに対し、国家公務員にかかる団体交渉権がなく、かかる事項については専ら法律又は人事院規則の定めるところによることになつている点において、国鉄職員の勤務関係と国家公務員のそれとの間に著しい差異があるのであるから、前記のような諸規定があるからといつて、両者の勤務関係を同一にみることはできない。

もつともいわみる五現業の国家公務員については、国鉄職員と同様公労法が適用され、従つて国鉄職員と同様の団体交渉権及び労働協約締結権が認められ、発生した紛争についてはあつせん、調停、仲裁の制度が、不当労働行為については公労委による救済が認められ(公労法第二条、第三条、第八条、第二五条の五、第六章の各規定)、その関係において国家公務員法の適用が一部排除されている(公労法第四〇条)けれども、右の国家公務員には依然右適用を排除された規定を除き国家公務員法が適用されるのであるから、両者の勤務関係にはなお性質上の差異が存するものと認められるし、また国鉄職員も国家公務員と同様一切の争議行為が禁止されている(公労法第一七条、第一八条、国家公務員法第九八条)が、それは国鉄職員を国家公務員と同視したためではなく、国鉄事業が全国的な規模で運営されていることに基づく高度の公共性に由来するものであるから、両者とも争議行為を禁止されているからといつて両者の勤務関係が同一であるということはできない。

(3)  なお国鉄法第三一条には懲戒権者を総裁と規定しているが、右規定は総裁の役員任免権に関する規定(第一九条第二項、第二二条第二項、第二二条の二第二項)と同様、懲戒のような部内の規律維持に関する重要な事項は国鉄の代表者である総裁自らこれを行うべきことを定めたものにすぎないものと解すべきであるから、右規定があるからといつてこれのみにより総裁が行政庁たる性格を有するものということはできない。

二、以上検討したところを綜合すれば、国鉄職員は一面において公務員と同一の取扱をうけている面もあるが、その勤務関係の基底となつているものは、公務員に特有な特別権力関係的原理とは異る、当事者対等の非権力関係的原理が支配しているものとみるのが相当であるから、国鉄職員の勤務関係の基本は特別権力関係ではなく私企業における勤務関係と同一の関係であると解するのが相当である。

三、従つて国鉄が国鉄法によつて行う免職処分をもつて行政庁の公権力の行使たる行政処分ということはできないし、公労法第一八条による解雇も特にこれを別異に解すべき特段の規定も存しないから行政処分ではないというべきである。

なお最高裁昭和二九年九月一五日の大法廷判決は行政機関職員定員法に基づく解雇に関するものであつて本件とは事案を異にするものである。

四、しからば、本件解雇は行政事件訴訟法第四四条にいわゆる「行政庁の処分その他公権力の行使にあたる行為」に該らないものであるから本件については同条の適用はないものといわねばならない。

してみれば、本件仮処分申請を右法条に違反する不適法なものとして却下した原判決は不当であるからこれを取消し、民事訴訟法第三八六条、第三八八条に従い、主文のとおり判決する。(村上 武 小嶋弥作 伊藤和男)

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