大判例

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仙台高等裁判所 昭和46年(ラ)56号 決定

抗告人 畠山司

主文

原決定を取消す。

抗告人を過料金一万円に処する。

手続費用は第一、二審とも抗告人の負担とする。

理由

本件抗告の趣旨および理由は別紙記載のとおりであり、これに対し当裁判所は次のとおり判断する。

本件記録によると、原裁判所は、抗告人は寶洋水産株式会社の代表取締役であるが、昭和三七年七月二六日役員全員が任期満了により退任したので、各後任者の選任手続をしなければならないのにこれを怠り、昭和四六年五月二〇日に至りこれをなしたものであるとして、抗告人を過料金一万円に処したものである。

しかし、当審において抗告人が提出した創立総会議事録、定時株主総会議事録(昭和三七年五月二五日付)、および取締役会議事録(昭和三六年七月二四日付および昭和三七年五月二五日付)の各写、並びに本件記録中の登記官作成「通知」と題する書面および登記簿抄本を総合すると、右寶洋水産株式会社は昭和三六年七月二六日設立されたものであるが、昭和三六年七月二四日開催の創立総会において、取締役畠山桂吉、同畠山司(抗告人)、同畠山則雄、同畠山貢、監査役畠山哲がそれぞれ選任されて就任し、同日開催の取締役会において取締役たる抗告人がその代表取締役に選任されて就任したこと、右各役員の任期はいずれも遅くとも右会社成立後一年をもって満了するものであったところ、昭和三七年五月二五日適法に開催された同会社定時株主総会において右役員全員が再任されて就任し、かつ同日適法に開催された取締役会において抗告人が代表取締役に再任されて就任したこと、以上の事実が認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。

してみると、右選任手続を怠ったものとして過料の制裁を科した原決定は、その余の抗告理由に対する判断をまつまでもなく失当であるから、これを取消すべきものとする。

そして、本件に関して、抗告人に登記懈怠の違反が認められることは後に説示するとおりであって、その違反と原裁判所が認定した選任手続懈怠の違反とは、その基礎となる事実関係が一連の手続の経過に関するものとして同一であり、しかもその違反の一方が成立するときは他方の違反は成立しないという密接な関係があり、いわば民事訴訟における請求の基礎の同一性ないし刑事訴訟における公訴事実の同一性に準じた関係があるものと解され、直ちに裁判することができるものと認めるので、当裁判所はさらに決定することとする。即ち、当裁判所が認定した違反事実、その証拠および法令の適用は次のとおりである。

(違反事実)

抗告人は、寶洋水産株式会社の代表取締役に在任中、昭和三七年五月二五日取締役兼代表取締役畠山司、取締役畠山桂吉、同畠山則雄、同畠山貢、監査役畠山哲が再任し、登記事項に変更を生じたにかかわらず、気仙沼市の本店所在地において法定の期間内にその登記申請をなすことを怠り、昭和四六年五月二二日に右趣旨を含む登記申請の手続をなしたものである。

(証拠)≪省略≫

(法令の適用)

抗告人の右所為は商法四九八条一項一号、一八八条二項七、八号、三項、六七条に該当するので、非訟事件手続法二〇七条に従い、その所定金額の範囲内で登記懈怠期間その他諸般の事情を考慮して抗告人を過料金一万円に処し、手続費用は第一、二審とも抗告人の負担とする。

なお、右違反事実に関する抗告人の主張について付言するに、同一の者が取締役(代表取締役、監査役についても同様。)に再任されたときは、これとていわば改選の結果に他ならず、法的には退任と新たな選任とがあったものとみるべきものであるから、取締役に変更があったものというべきであり、従って登記事項中に変更を生じたものとして商法一八八条二項七、八号、三項、六七条に則りその旨の登記をなすべく、これを怠ったときは同法四九八条一項一号により過料に処せられる筋合であり(大審院大正六年六月二二日決定大審院民事判決録二三輯九六五頁、大審院明治三四年七月八日決定大審院民事判決録七輯三七頁参照)、また、かような登記の申請をなすべき主体は本来会社自身であって、従って会社の代表機関が登記の申請を行うのは代表機関個人としてなすのではなく、本来の申請義務者たる会社のためにその代表機関としての資格においてこれをなすものと解すべきものではあるが、かような登記の申請を怠ったとき過料に処せられるべきものは、本来の申請義務者たる会社を代表して登記申請を行うべき者であって会社自身でないことは商法四九八条一項等の条文上明らかである(大審院明治四〇年八月六日決定、大審院民事判決録一三輯八四一頁参照)というべきであるから、本件寶洋水産株式会社の代表取締役たる抗告人に対して本件の過料を科するに何らの妨げもなく、さらに、たとえ抗告人において法の不知・錯誤により本件のような場合登記申請をなすべきことを知らなかったとしてもこれをもって過料の制裁を免れるものでないことも過料事犯の性質上明らかであり、その余の抗告人の主張事実はすべていわば情状として考慮されることのあることは格別、これをもって直ちに過料の制裁を免れる事由とはなし得ないものと解するのが相当であるから、抗告人の右主張はいずれも採るを得ない。

よって、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 松本晃平 裁判官 伊藤和男 小林隆夫)

〈以下省略〉

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