大判例

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仙台高等裁判所 昭和52年(ラ)2号 決定

抗告人

見沢知行

外一名

抗告人両名代理人

細谷芳郎

外一名

相手方

栗村清子

右代理人

野村喜芳

主文

原審判を取り消す。

本件を山形家庭裁判所に差し戻す。

理由

第一抗告人らは、主文同旨の裁判を求め、その理由として次のとおり主張した。

(一)  抗告人らの母見沢よしこは、昭和二二年四月被相続人見沢清八の長男亡見沢八郎(抗告人らの父)と婚姻し、その後被相続人方において被相続人と同居し生活してきた。被相続人は当時から老令と病弱のため、家業である農業はすべて八郎が行なつていたものであり、よしこも婚姻前の職業であつた看護婦をやめ、八郎とともに農業に従事してきた。したがつて、原審判別紙(一)の遺産目録記載の財産が被相続人死亡時まで維持され得たのは、もつぱら八郎、よしこ夫婦の寄与によるものというべきである。

(二)  すなわち、八郎夫婦の農業の従事と被相続人の生活に対する援助がなければ、被相続人は自ら営農もできず他に収入を得る方法もなかつたから、その生活を支えるためには、その所有名義の農地を賃貸するかあるいは売却するなどして生活費にあてるほかなかつた筈である。ところが被相続人所有名義の(一)天童市大字清池宇札井戸二四一番田三、九一四平方メートル(原審判別紙(一)の遺産目録一)、(二)同市大字清池字権限堂四五一番畑一五八平方メートル(同六)、(三)同市大字清池字笠仏四八四番一畑一三六五平方メートル(同七)、(四)同市大字高揃字金石段北二、五二七番畑八七六平方メートル(同九)、(五)山形市大字東二、二六九番田二、二七四平方メートル(同一〇)の農地全部を他に賃貸したと仮定したとしても、その統制小作料の最高額は、昭和四〇年から昭和四四年までの平均で金二万四一九七円に過ぎず、当時の最低生活費の目安である生活扶助額の同じく平均八万一六九六円に遠く及ばない。そして右の生活費に及ばない部分を右の農地を売却して補填したと仮定したとしても、右農地の昭和四〇年から四四年における平均取引価格はせいぜい二六万六一六七円(農地法九条による政府の小作地買収価格を基準とする)に過ぎないのであるから、その代価は生活費の不足分を補うにも足りなかつた筈である。

(三)  したがつて、八郎が婚姻した昭和二二年から、被相続人が死亡した昭和四四年までの間の八郎およびよしこの生活費の援助がなければ、被相続人は、その生活費を捻出するために右の農地を含むその所有名義の財産の全てを処分せざるを得なかつたというべきであり、被相続人が死亡時に原審判別紙(一)の遺産目録記載の財産をなお所有し、しかも死亡前に相手方に特別受益分を贈与するほどに財産を所有していたことは、とりもなおさず八郎とよしこの寄与によるものというべきであり、八郎の寄与分は、右の財産の八〇パーセントを下廻ることはない。右の寄与分は、遣産分割にさきだつて相続財産から除外さるべきものにかかわらず、原審判がこれを行なわず、被相続人所有名義の財産をすべて遺産とみなし、単純に法定相続分に応じて分割したことは違法かつ不当である。

第二(一) 記載によると、原審判は、昭和四四年六月七日に死亡した被相続人見沢清八の相続人が、その三女である相手方(遺産分割申立人)と、昭和四三年八月三日死亡した長男八郎の子である抗告人両名であり、その法廷相続分は相手方二分の一、抗告人ら各四分の一であると認定し、分割の対象となる遺産の範囲と相続時および昭和五〇年五月一日現在における評価額を原審判添付別紙(一)、(二)のとおり認定したほか、相手方は、(一)昭和四三年一一月頃、定期預金一一万円、(二)昭和四四年三月頃、現金九五万円、(三)同年四月頃、東京電力株式会社額面五〇〇円株二五二六株(一七三万七二二〇円相当)、(四)同月頃、東北電力株式会社額面五〇〇円株券三四二株(二〇万六六八九円相当)合計三〇〇万三九〇九円を、被相続人の生前に生計の資本として贈与を受けたものと認め、原審判別紙(一)の相続財産の相続開始時の評価額合計一二三九万三〇〇〇円に右特別受益分を含めた一五三九万六九〇円をみなし相続財産の価額とし、本来の相続分を抗告人ら各三八四万九二二七円、相手方七六九万八四五五円としたのち、相手方の特別受益分について持戻計算をしたうえ、分割時の評価額に応じて、現実の相続分を抗告人ら各七九九万九一一二円、相手方九七五万五七七六円と定めたうえ、金銭支払による分割の方法を採用するには当事者の資力が伴わないという理由で、右の価額に応じた現物分割の方法を採用し、抗告人らが、原審判別紙(一)の遺産目録六ないし一一の物件(抗告人らの持分各二分の一)を、相手方が同目録一ないし五の物件を、それぞれ取得するものと定めたことが明らかである。

(二) ところで、原審判別紙(一)の遺産目録一の天童市大字清池字札井戸二四一番田三九一四平方メートルは、被控訴人昭和七年一一月一日売買を原因として所有権移転登記を得ていた同所同字一六八二番の田ほか二筆の田に対する昭和四一年三月三一日土地改良法による換地処分の換地として同日所有権登記がなされており、同一〇の山形市大字漆山字東二、二六九番田二二七四平方メートルは、被控訴人が大正元年一二月二四日売買による所有権移転登記を得ていた同市大字山寺字一の坪八六七三番二の田ほか三筆の田に対する昭和四二年七月一日土地改良法による換地処分の換地として昭和四三年一〇月三〇日所有権登記がなされていることが、登記簿謄本の記載により明らかである。また、同じく登記簿謄本の記載によると、右遺産目録二の同市大字漆崎字北上原一三五五番の二の原野については、昭和三年五月一六日、同三ないし五の同所一三五七番一ほか二筆の原野については、昭和二年八月一六日、同七の天童市大字清池笠仏四八四番一畑一三六五平方メートルについては明治四三年一〇月四日、同九の同市大字高揃字金石段北二五二七番畑八七六平方メートルについては、昭和三七年一月二〇日、それぞれ被相続人が右各土地を買い受けたとして、その頃被相続人名義に所有権移転登記が経由されていることが明らかであり、また同目録六の同市大字清池字権現堂四五一番畑一五八平方メートル、同八の同市大字清池東側一二番宅地446.28平方メートル、同一一の同所所在家屋番号九四番木造草葺平家建居宅床面積49.58平方メートルほか付属建物二棟については、被相続人が、大正四年一二月一〇日、家督相続を原因として所有権移転登記を得ていることが明らかである。してみると、原審判別紙(一)の遺産目録記載の土地および建物は、被相続人が生前家督相続や売買によつて取得したものと認めるべきものであるけれども、反面戸籍謄本の記載や見沢よしこ、および相手方各審問の結果によると、被相続人は、死亡時七八才の高令者であつたほか、見沢よしこが亡八郎と結婚した昭和二二年四月頃から既に胃弱と称して労働に従事せず、そのために前示遺産目録記載の農地は、被相続人と同居していた八郎がよしことともに耕作し、家業としての農業を経営してきたものであることが認められる。このように、被相続人が生前二〇年以上も農業に従事することもなく、もつぱら同居の長男に農地の耕作を委ね、自らの生活費等も長男の援助によつていたとするならば、前示遺産目録記載の被相続人名義の相続財産が被相続人死亡当時まで維持されるについては長男八郎の寄与があづかつて力があつたことは明らかであるというべく、右の寄与分は、本来同人の財産と目して、分割の対象とすべき遺産の範囲から除外することが衡平の観点に合致するものというべきである。本件においても、抗告人らは、原審判の前提となつた遺産分割調停の段階で、右の寄与分相当額を遺産の範囲から除外すべきことを主張している。抗告人ら主張のように、実際に被相続人が生前長期間にわたつて無収入であつたとすれば、前示遺産目録記載の農地の賃貸による収入ではその生活を賄うに足りず、結局売却処分等を余儀なくされ、被相続人死亡時まで前示遺産目録記載の財産の多くが維持されなかつたであろうことは容易に推認でき、この点からも八郎の寄与分が存在することは一応推認できるところであるからである。しかし、本件においては、反面において、被相続人は、相手方に対する特別受益分としてさきに認定したように、死亡直前まで合計三〇〇万円を超える現金、定期預金、株券等を所有していたことも明らかなのであり、被相続人は、農業にこそ従事していないとしても何らかの継続的収入があつたと推察されるような事実もある。もし、被相続人について何らかの収入があつたとすれば、その所有名義の財産の維持は、被相続人の収入にもよることとなり、亡八郎の寄与分は自から減少することになる筈である。しかし、記録を精査しても、被控訴人が亡八郎と同居していた当時をも含めて、被控訴人の生前の収入の有無もしくはその額を調査した形跡もなく、また八郎とよしこ夫婦が被相続人と同居していた当時の収入の額等を調査して、同人らの相続財産に対する寄与の程度を明らかにしようとした形跡も全く見当らない。

(三)  してみると、原審判は、被相続人の相続財産の維持形成に寄与した相続人(本件においては抗告人らの先代八朗)の寄与分については、衡平の見地から分割すべき遺産の範囲から除外すべきことに対する配慮を怠り、被相続人死亡当時の被相続人所有名義の財産および特別受益分を単純に合算して相続財産とみなし、法定相続分に応じて分割した違法があるというべきであるから、前示のような被相続人および八郎の生前の経済生活についての調査を尽し、八郎の相続財産に対する寄与分の有無、有るとすればその割合、を確定したうえ、合理的な遺産分割案を作成するためになお審理を尽させる必要があるというべきである。よつて民事訴訟法第四一四条、第三八九条、家事審判規則第一九条第一項により主文のとおり決定する。

(石井義彦 守屋克彦 田口祐三)

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