大判例

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仙台高等裁判所 昭和59年(く)24号 決定

少年 D・I(昭四四・五・二四生)

主文

本件抗告を棄却する。

理由

本件抗告の趣意は、法定代理人親権者父D・Oが差し出した「抗告の申立」と題する書面に記載されたとおりであるから、これを引用する。

所論は要するに、少年の非行の程度、家庭の事情等に照らし、原決定の処分は著しく不当である、というのである。

そこで、所論にかんがみ、関係記録を精査し、これに現われた本件非行の性質、態様、動機、少年の年齢、資質、性格行状、生育歴、家庭の事情、生活環境、交友関係、保護者の保護能力など少年の処遇に関する諸般の情状を考察すると、少年は、小学三年生のとき母と死別し、その後父の養育を受けて来たのであるが、小学生のころから現金を窃取したりして補導され、児童相談所の指導を受けており、少年が中学二年生であつた昭和五八年五月には、少年の父親自身社会福祉事務所を訪れ、少年が家の金銭を持ち出して困る旨担当者と相談したりしたが、結局少年を近くにいる叔父に預けることになつたこと、少年の通学する中学校では少年が二年生に進級して間もないころから生徒が授業を妨害し、教師に対して暴言を吐くなどの異常な言動がみられるに至り、そのような状況のもとで、少年は昭和五八年一〇月一七日他数名と共に同級生に因縁をつけ、共犯者において同人に対し暴行を加え加療一か月を要する顔面打撲症等の傷害を与え(原決定が引用する司法警察員作成の昭和五八年一一月一四日付少年事件送致書記載の非行事実)、右事件は同年一一月二四日原裁判所において少年保護事件として受理され、家庭裁判所調査官による調査(学校照会、被害者照会、少年面接、保護者面接等)が行われ、少年在宅のままで保護者、学校側の指導監督のもと、少年の更生が強く期待されていたのにもかかわらず、右保護事件が家庭裁判所に審理係属中、少年はまたしても、昭和五九年四月二八日から同年五月九日までの間、学校内(職員室、教室等)において、いずれも女性の教諭に対し、自己の不行跡につき注意を受けたことに憤慨するなどして、三回は単独でその腰部等を足蹴りにし、他の一回は他一名の少年と共同して暴言を吐き、ナイロン製の縄で腕の辺を縛つたり、手拳でその顔面を殴打するなどの暴行を加え、更に学校長から説諭されたことを逆恨みして、女性の教論に対し顔面を殴打するなどの暴行を加えて加療一週間を要する左口腔粘膜裂傷等の傷害を与えるなど甚だ度を過ぎた非行に及んでいること(原決定が引用する司法警察員作成の昭和五九年六月四日付少年事件送致書記載の非行事実)、その間叔父にシンナー遊びをしているのを見つけられ追い出される形で父のもとに帰つたこと、少年の心身鑑別の結果によれば、少年の身体の発育は通常であるが、精神的に情緒面に不安定、未成熟な点がみられ、知的能力の面でやや劣るところがあり、積極的な学習意欲を欠き、自己統制力、内省力が十分でなく、感情的に激し易く、責任感に乏しく、少年の資質、性格面の負因が顕著であること、少年の家庭は母親の愛情を欠く父子家庭であつて、父子間の精神的交流も父親の就労等の関係から十分であるとはいえず、現時点では学校側も少年在宅のままでの校内指導による少年の更生は困難であり、専門機関による矯正指導が望ましいと考えていることが認められる。そうして、右のような本件非行の性質、経緯、態様、少年の資質、性格面の負因、生活境遇等の諸般の事情にかんがみれば、少年の非行性の程度は所論のようにとうてい軽視することを許されるものではなく、少年は現在それなりに後悔し、反省の情を示しているものの、現在の状況のもとでは少年の矯正のために保護者、学校の適切かつ十分な指導監督を期待し難く、少年を在宅保護によつて更生させることは甚だ困難であるというべく、少年の年齢等を考慮すると、この際少年を相当期間教護院に収容したうえ、規律ある規則正しい生活環境のもとで情緒面の安定と成熟をはかると共に基本的な生活習慣及び基礎学力を身につけさせ、その精神的自立への自覚を深め、社会適応能力を培うことが、少年の健全な育成のために必要かつ妥当な措置であると判断される。したがつて、少年には本件以前には保護処分歴がないこと、少年の反省の情、少年の家庭は父子家庭で、少年の父が就労する日中は妹(中学二年生)と弟(小学六年生)だけになる少年の家庭の現状等にかんがみ、所論指摘の事情をできる限り考慮に入れても、少年を教護院に送致することとした原決定の処分は十分首肯しうるところであつて、同決定にもとより処分の著しい不当があるとはいえない。論旨は理由がない。

以上の次第で本件抗告は理由がないから、少年法三三条一項後段、少年審判規則五〇条によりこれを棄却することとし、主文のとおり決定をする。

(裁判長裁判官 粕谷俊治 裁判官 小林隆夫 小野貞夫)

抗告申立書〈省略〉

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