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仙台高等裁判所秋田支部 昭和45年(ネ)70号 判決

控訴人・原告 一戸操

控訴人補助参加人・被告 伊藤三男雄

訴訟代理人 金野繁 外二名

被控訴人・被告 成田精吉 外一名

訴訟代理人 中林裕一

主文

原判決のうち控訴人と被控訴人らに関する部分を取り消す。

被控訴人らは各自控訴人に対し、金一五二万七、八八四円およびこれに対する昭和四二年一〇月二八日以降支払ずみに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

訴訟費用のうち控訴人と被控訴人らとの間に生じた分(訴訟参加によつて生じた分を含む)は、第一、二審とも被控訴人らの負担とする。

事実

控訴人および同補助参加人訴訟代理人は、主文第一、二項と同旨および「訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人らの負担とする」との判決ならびに仮執行の宣言を求め、被控訴代理人は、本案前の答弁として、「本件控訴を却下する、訴訟費用は控訴人の負担とする」との判決を、本案の答弁として、「本件控訴を棄却する、控訴費用は控訴人の負担とする」との判決をそれぞれ求めた。

当事者双方の事実上の主張ならびに証拠の関係は、左のとおり附加訂正するほかは、原判決の事実摘示と同一であるから、ここにこれを引用する(ただし、原判決の四枚目裏一一行目に、「被告伊藤および」とある部分および同一三行目から五枚目表四行目までを除く。なお原判決二枚目表七行目に「品川町交差点」とあるのは「品川町八〇番地先交差点」の、二枚目裏四行目に「成田車」とあるのは「下山車」の、同五行目に「右侵害」とあるのは「右傷害」の、同六行目に「意合」とあるのは「競合」の、四枚目表一三行目に「以上合計金二六八万一、九五三円」とあるのは、「以上合計金二七三万一、九五三円」の、五枚目裏二、三行目に「猛スピード進行」とあるのは「猛スピードで進行」のいずれも誤記と認める)。

一  被控訴人らの本案前の答弁

本件控訴は、控訴人の補助参加人が提起したものであるが、右補助参加人は、いわゆる参加の利益を有しない。すなわち、補助参加における参加の利益は、一方当事者の敗訴によつて第三者が一定の請求を受け、もしくは訴えられる蓋然性があり、第三者を当事者とする第二の訴訟で第一の訴訟の判決理由中の判断が参考にされて第三者に不利益な判断がなされる蓋然性がある場合に認められるものであるところ、本件補助参加人は、控訴人(被参加人)から本件交通事故にもとづく損害賠償請求訴訟を提起され、原審においては、被控訴人らと共同被告であつたものであるが、原審において補助参加人が敗訴し、その判決は既に確定しているのであるから、補助参加人が控訴人からさらに第二の訴訟を提起されるおそれは全くない。そして、右確定判決の理由とするところは、補助参加人の自動車運転上の過失により本件損害が発生したというのであるから、右過失のほかに第三者の過失が加わつて事故が発生したものであるか否かは、右補助参加人の控訴人に対する賠償義務に何ら消長を来たすものではない。かりに本件事故の発生につき、第三者(被控訴人ら)の過失が加わつていたとしても、補助参加人と被控訴人らの控訴人に対する関係は、各自全損害を賠償すべき関係にあり、損害分担の関係にあるものではない。しかも、補助参加人は、控訴人に対する損害賠償義務を何ら果していないのであるから、現在においては、被控訴人らに対し求償すべき何らの権利も有していないのである。以上のとおりで、補助参加人は参加の利益を有しないから、本件補助参加は、その要件を欠くものというべく、従つて、補助参加人の提起した本件控訴は、不適法であつて、却下を免れない。

二  控訴人および同補助参加人の主張

本件交通事故の発生については、被控訴人下山にもつぎのような過失がある。すなわち、

1  まず本件事故現場の交差点の状況についてみるに、(イ)同所は、交通量が多いのに交通整理が行なわれておらず、(ロ)道路に接して建物が密集して存在するため、左右の見通しが極めて困難であり(とくに下山車の進行してきた交差点東側の角には大きな建物がある)、(ハ)下山車が進行してきた南北に通ずる道路と伊藤車が進行してきた東西に通ずる道路の幅員は、前者が九・三米、後者が八・三米であつて、前者が後者より「明らかに広い」(道路交通法第三六条第二項)とはとうてい言えないし、(ニ)また同所には速度制限はなく、ただ富田町方面から西進して交差点に入る手前一米の地点およびその反対方向から東進して交差点に入る手前の地点にそれぞれ一時停止の道路標識があるにすぎない。

2  本件事故現場の状況は、右のとおりであつて、被控訴人下山においても、本件交差点における交通量が相当多く危いところであると認識していたのであるから、同被控訴人は、道路交通法第四二条、第七〇条により、本件交差点に進入するにさいし徐行義務を負うことは、全く疑問の余地がない。のみならず、自動車運転者は、たとえ自車の進路と交差する他の道路上に一時停止をすべきものと指定された個所がある場合であつても、当該交差点を通過する場合には、前方左右を絶えず注意し、特に本件の場合のように見通しが悪く、かつ交通量の多い交差点では、警笛を吹鳴して注意を与え、また危急に臨んでは直ちに急停車あるいは避譲するなど適切な措置を講じて事故の発生を未然に防止する義務のあることは当然である。

しかるに、被控訴人下山は、警笛を一度も鳴らさなかつたのみならず、交差点に入るにさいしても減速や徐行をせず、漫然時速二五粁で進行し、前記の義務を何ら果していないのである。

三  被控訴人らの主張

1  控訴人・同補助参加人の前記1の主張事実のうち、本件交差点附近は道路に接して建物が密集して存在すること、交差点から東西に通ずる道路上に、その主張のような一時停止の道路標識の存在することは認める。

しかし、下山車が進行していた道路(南北に通ずる)の幅員は一〇・二三米、伊藤車が進行していた道路(東西に通ずる)のそれは八・四米である。従つて、前者が道路交通法にいわゆる「明らかに広い」道路に該当するかどうかは問題であるとしても、前者は同法にいわゆる優先道路であり、しかも後者には、前記のような一時停止の標識があつて交通規制がなされているのである。本件事故現場附近は、相当交通量があるが、事故当時は、たまたま下山車には後続車も対向車もなく、また西方から本件交差点を通過して東方に向う車輌もなかつたのである。

2  控訴人・同補助参加人の前記2の主張事実は争う。

被控訴人下山は、本件事故当時本件交差点に通ずる道路を南進していたが、その一つ手前の交差点で一時停止をし、それから時速約二〇粁程度の緩い速度で進行し、本件交差点の手前でさらに減速した。そして、交差点に入る地点で、前方および西方(右方)の交通の状況を確かめ、また東方(左斜前方)約一二・三米先の地点に、道路中央線より右側を進行してくる伊藤車を認めたが、自車が伊藤車より先に既に交差点に進入の態勢にあり、かつ前記のように伊藤車の進路上には一時停止の道路標識があるので、同被控訴人としては、同車が交差点の手前で当然停止するものと確信し、徐行しながら進行したところ、伊藤車は一時停止をせず、早い速度で交差点に進入したため、下山車の左側前部運転席附近に伊藤車が衝突し、本件事故が発生したのである。本件事故発生当時の状況は、右のとおりであるから、被控訴人下山としては、伊藤車が標識に従つて一時停止をすることを信頼して運転すれば足り、同車があえて交通法規に違反し、自車に衝突するような運転をすることを予想して、これを避くべき義務はない。従つて、同被控訴人には何ら過失はない。

四  被控訴人成田の主張

前記のとおり、本件交通事故は、控訴人の補助参加人伊藤三男雄の自動車運転上の過失によつて発生したもので、被控訴人らには何ら自動車運行上の過失はなく、しかも下山車は、本件事故発生の約一月前に定期検査を受けていたもので、同車には構造上の欠陥または機能の障害はなかつた。

五  証拠〈省略〉

理由

一  まず本件控訴の適否について検討する。

本件控訴は、控訴人の補助参加人の提起にかかるものであるところ、被控訴人らは、本件補助参加については参加の利益がないから右補助参加はその要件を欠くものであり、従つて、補助参加人の提起にかかる本件控訴は不適法である旨主張する。よつて、審案するに、記録によれば、本件補助参加申出のなされるに至つたいきさつは、つぎのとおりであると認められる。すなわち、控訴人は、本件交通事故により損害を受けたとして、補助参加人および被控訴人らの三名を被告として、各自金一五四万一、九五三円の支払を求める本件訴訟を原審に提起したところ、原審は、被控訴人らに対する請求はこれを棄却しながら、補助参加人に対してはほぼ請求金額全部を認容する旨の判決をした。しかし、補助参加人の見解によれば、本件交通事故は、補助参加人一人の過失によつて発生したものではなく、該事故の発生については、被控訴人下山にも徐行義務違反の過失があるから、同被控訴人は民法第七〇九条により、また同被控訴人の運転にかかる自動車の運行供用者である被控訴人成田は自動車損害賠償保障法第三条によつてそれぞれ賠償責任を負うものであつて、補助参加人において控訴人に対しその賠償金を支払つた場合には、被控訴人らに対し求償をしうる立場にあり、補助参加人は、控訴人と被控訴人ら間の訴訟の結果につき利害関係を有するので、控訴人を補助するため参加の申出をするとともに本件控訴を提起した(なお控訴人と補助参加人間の判決はそのまま確定した)。以上のとおり認められる。

およそ、補助参加をなしうるためには他人間の訴訟の結果につき利害関係を有することが必要であるが、右の「訴訟の結果についての利害関係(参加の利益)を有する」とは、当該訴訟の訴訟物たる権利関係の存否が参加人の私法上または公法上の権利関係ないし地位に何らかの法律上の影響をおよぼす場合を指すものと解される。ところで、本件において、控訴人の主張するところは、補助参加人の保有しかつ運転する自動車(伊藤車)と被控訴人成田が保有し同下山の運転する自動車(下山車)とが交差点で接触衝突し、その反動で下山車が附近を通行中の控訴人に衝突し、そのため控訴人は傷害を負つて損害を蒙つたというのである。右のような事実関係のもとにおいては、もし被控訴人下山に過失が認められるならば、補助参加人と被控訴人らは、本件事故によつて控訴人が蒙つた損害を各自賠償する責に任ずべき関係にあるから、補助参加人が控訴人に対し、控訴人が本件事故によつて蒙つた損害を賠償した場合には、補助参加人は被控訴人らに対し、補助参加人と被控訴人下山との過失の割合に従つて定められるべき負担部分について求償権を取得するものといわなければならない。そして、控訴人と被控訴人ら間の本件訴訟が控訴人の勝訴に帰し被控訴人らにも賠償責任のあることが確定すれば、右求償権の行使が容易になり、反対に控訴人の敗訴に終り被控訴人らに賠償責任のないことが確定すれば、その行使が困難になり、場合によつては、補助参加人において被控訴人らに対し本来請求しうべかりし求償権を行使しえなくなるおそれがあると認められるから、本件訴訟の結果は、補助参加人が将来控訴人に損害を賠償した場合に被控訴人らに対し求償権を行使するに当つて法律上の影響をおよぼすものということができ、従つて、本件補助参加については、いわゆる参加の利益があるものというべきである。

被控訴人らは、控訴人と補助参加人間の訴訟は既に確定し、補助参加人が控訴人から第二の訴訟を提起されるおそれは全くないし、また補助参加人は控訴人に対する損害賠償義務を何ら果していないのであるから、本件補助参加については参加の利益を有しない旨主張するが、本件補助参加における参加の利益は、前記のように、補助参加人が将来控訴人に損害を賠償した場合に、被控訴人らに対して取得することあるべき求償権に関して認められるのであるから、補助参加人が控訴人から再び訴えられるおそれがなく、また補助参加人が現在控訴人に対する損害賠償義務を果していないとしても、そのような理由によつてこれを否定すべきいわれはない。

以上のように、本件補助参加は、参加の利益を有し、要件をそなえているのであるから、補助参加人の提起にかかる本件控訴は、適法なものというべきである。

二  そこで、控訴人の被控訴人らに対する請求の当否について検討する。

(一)  昭和四一年九月二一日午後三時ころ青森県弘前市大字品川町八〇番地先交差点において、被控訴人下山の運転する四輪貨物自動車(下山車)と補助参加人運転の小型四輪乗用自動車(伊藤車)とが衝突し、その反動により附近を通行中の控訴人に下山車が衝突し、控訴人が負傷するという事故の発生したことは、当事者間に争いがない。

成立に争いのない甲第二三号証、原審における検証の結果ならびに弁論の全趣旨によれば、本件事故現場は、ほぼ南北に走る弘前市大字大町方面から同市大字富田大通方面に通ずる歩車道の区別のない幅員約一〇・二三米(本件交差点より南方での幅員は約九・四米)の平坦なアスフアルトで舗装された道路(以下南北道路という)と、これと直角に交差しほぼ東西に走る同市大字富田町方面から同市大字山道町方面に通ずる歩車道の区別のない幅員約八・四米の平坦なアスフアルトで舗装された道路(通称品川町通り)(以下東西道路という)の交わる十字路附近で、両道路とも公安委員会の特に定めた速度制限はなく、また同所は弘前市内としては比較的車輌の交通量の多いところであるが、交通整理は行なわれていないこと、東西道路については、富田町方面から西進して交差点に入る手前約一米の道路左端の地点およびその反対方向から東進して交差点に入る手前約一米の道路左端の地点にそれぞれ「とまれ」と標示した一時停止の道路標識が設けられているが、南北道路についてはかような規制はされていないこと、本件事故現場附近は、道路に接して人家が軒を並べており、本件交差点にいずれの方向から進入する場合でも、左右の見通しがきかないこと、および本件事故発生当時は、天候はよく、現場附近の路面は乾燥していたことが認められる。

そして、前掲甲第二三号証、成立に争いのない甲第二、第二四、第二五号証、原審における被告本人伊藤三男雄、原審(第一、二回)および当審における被控訴人本人下山正二の各尋問の結果ならびに検証の結果を総合すると、本件事故発生当時の状況は、つぎのとおりであつたことが認められる。すなわち、被控訴人下山は、南北道路のほぼ中央を本件交差点に向つて南進し、交差点の手前約一五米の地点で、時速約二五粁に減速し、交差点入口でさらに速度を落し、自車の前部が交差点に約一米入つた地点で、他の道路を注視したところ、左方の東西道路上交差点から約一二・三米先の地点に、交差点に向つて進行してくる伊藤車を認めた(当時附近には他に通行中の車輌はなかつた)が、同被控訴人は、東西道路の交差点入口附近には前記の一時停止の道路標識があることを知つていたので、同車が交差点の入口附近で当然一時停止するものと予期し、そのまま進行しても衝突の危険はないものと考えて、時速約一〇粁で前進した。他方伊藤車の運転者であつた補助参加人は、東西道路の中央よりやや右寄りを本件交差点に向つて、時速約四〇粁で西進していたが、当時右道路を通行するのは初めてであつて、地理不案内であつたうえ、交差点の手前約二〇米附近に至つたとき、助手席にのせておいた買物包みが運転席の方にずれ寄つてきたので、これをもとの位置に押し戻そうとして視線をそらし、気を奪われたため、進路上に一時停止の標識のあることも、交差点のあることにも気づかず、前記速度のまま交差点に突入した。被控訴人下山は、交差点入口から約五米前進し、自車運転席が交差点のほぼ中央に達したとき、伊藤車が交差点に突入してくるのに気づき、急いでブレーキをかけたが避ける間もなく自車の左側助手席と荷台附近に伊藤車から激突されたうえ、その余勢で、下山車はブレーキをかけたまま交差点中央附近から交差点南西角附近まで押しやられ、そのさい、附近を歩行していた控訴人に突き当り、同人をその場に転倒させて、頭蓋骨骨折、頭蓋内出血、全身打撲、肋骨骨折、肋膜損傷、内臓出血の瀕死の重傷を負わせた。以上のように認められ、前掲甲第二三号証と被告本人伊藤三男雄の尋問の結果のうち右認定に反する部分は、たやすく措信できないし、他には以上の認定を動かすに足りる証拠はない。

以上認定の本件事故現場附近の道路の状況に徴すれば、南北道路の幅員が東西道路のそれより明らかに広いとは認められない(なお被控訴人らは、南北道路が道路交通法にいわゆる優先道路であると主張するが、右道路が公安委員会により優先道路の指定を受けていることを認めるに足りる証拠はない)。そして、本件事故現場のように、交通整理が行なわれていない交差点で、左右の見通しがきかず、しかも交差する両道路の幅員につき広狭の差が明らかでないような個所を、自動車で通過する場合は、自車の進路と交差する他方の道路に一時停車の道路標識があつても、徐行をしなければならない(道路交通法第四二条)のみならず、自車の進路と交差する道路の左右から交差点に進入してくる車輌、通行人などがありうるわけであるから、自動車運転者としては、交差点に進入するにあたつて、予め前方左右を注視して交差点に進入してくる車輌などの有無を見定め、もし交差点に進入してくる車輌などがあつてそれが自車の進路に影響をおよぼすおそれがあると認めまたは認めうべかりし場合には、その動静や進行の程度などに注意し、具体的事情に応じ、減速あるいは停止するなど機宜の措置を講じて、衝突、接触などの危険の発生を未然に防止すべき注意義務があるものというべきである。この点につき、被控訴人らは、自車の進路と交差する道路上に一時停止の道路標識がある以上、相手車輌が右標識に従つて、一時停止をすることを信頼して運転すれば足り、相手車輌があえて交通法規に違反し、自車に衝突するような運転をすることまで予想して、これを避くべき義務はない旨主張するが、一時停止の道路標識は、交通整理の行なわれていない交差点における交通量その他の事情に鑑み、交差点通行の危険を防止するため、車輌に一旦停止し交通の安全を確認してから進行するように指示するために設けられたもので、これが設けられているからといつて、必ずしも他方の道路に優先通行権が認められているとは限らないのみならず、自動車運転者において一時停止の道路標識を見落したり、軽視したりすることもありうるのであるから、自車の進路と交差する道路上に右の標識があつたからといつて、直ちに本件のような場合(本件においては、前記のとおり、被控訴人下山において交差点に進入するにさいし、相手車輌が約一二米先の地点まで接近してきていることを認めていながら、適切な回避の措置を措らなかつたのである)にまで被控訴人ら主張のような信頼の原則が適用されると解することはできない(いわゆる信頼の原則を適用するにあたり、交通整理の行なわれている交差点で、交通巡査の進めの信号、あるいは信号機による青信号に従つて交差点を通過するような場合と、本件のような場合とを同一に論ずることはできない。)

ところで、被控訴人下山は、本件交差点に進入するにさいし、時速約一〇粁に減速したものの、伊藤車が既に交差点から約一二米先の地点にまで迫つてきていることを認めながら、同車が当然交差点の手前で一時停止するものと予期し(しかし、制動装置に故障のない自動車が乾燥したアスフアルト舗装の道路を時速四〇粁で走行中、運転者が停止の用意をしてから確実に停止するまでに走行する広義の制動距離が約二二米であることは、一般に認められているところであるから、本件の場合、伊藤車が交差点の手前で一時停止するということはありえないのである)、その動静や進行の程度などに全く注意を払わずに、そのまま約五米前進し、自車運転席が交差点のほぼ中央に達したとき、はじめて伊藤車が交差点に突入してくるのに気づき、急いでブレーキをかけたが間にあわず、自車の左側に伊藤車から激突され、遂に本件事故を発生させたものであり、また前認定の本件事故発生当時の状況に照らせば、もし被控訴人下山において前記の注意義務をつくしていたならば、伊藤車との衝突はこれを避けることができた(かりに伊藤車と接触程度の事故を起すことは避けられなかつたとしても、本件の場合と衝突の場所や部位などを異にする結果、本件の場合のように、交差点の南西角附近を通行中の控訴人に衝突するという結果は避けることができた)ものと推認されるのであるから、本件事故の発生については、同被控訴人にも過失があるというべきである(もつとも、同被控訴人の過失の程度は、補助参加人のそれに比すれば、格段に小さく、その割合は、補助参加人のそれの一〇分の一程度のものであると認められる)。

右のとおりであるから、被控訴人下山は、控訴人に対し、民法第七〇九条により控訴人の蒙つた損害を賠償する義務があり、また被控訴人成田が同下山の雇主で、下山車の保有者であることは、当事者間に争いなく、そして、成立に争いのない甲第二四号証、原審(第一回)における被控訴人本人下山正二の尋問の結果によれば、被控訴人成田は、本件事故当時商用のため、同下山をして右自動車を運転させ、その用に供していたことが認められるから、被控訴人成田は、自動車損害賠償保障法第三条により、同下山と連帯して前記損害を賠償すべき義務があるといわなければならない。なお被控訴人成田は、同条但書の免責の主張をするが、運転者である同下山に過失の認められること前記のとおりであるから、右主張は、その余の点を判断するまでもなく、採用できない。

(二)  つぎに、控訴人が本件事故により蒙つた損害について検討する。

1  財産的損害

(1)  入院治療費 六九万一、三二〇円

前掲甲第二号証、原審証人川島康司の証言によつて真正に成立したものと認められる甲第三ないし第八号証によれば、控訴人は、前記負傷のため昭和四一年九月二一日から昭和四二年七月二一日まで弘前市内の川嶋病院に入院して治療を受け、これによつて入院料、治療費など合計して右金額の費用を要したことが認められる。なお控訴人は、右の外に、寝具料、附添人食事代などとして、合計金五万円を要したと主張するところ、前記証言により真正に成立したものと認められる甲第九号証によれば、控訴人が川嶋病院に対して右金員の支払をしたことが認められるけれども、右費用は、後記(2) の附添看護料と重複する疑があるので、これを損害として計上するのは相当でない。

(2)  附添看護料相当額 七万八、一〇〇円

前掲甲第二号証、原審における原告本人尋問の結果およびこれにより真正に成立したものと認められる甲第一一号証によれば、控訴人は、前記のような重傷を負つたため、入院当初は絶対安静を必要とし、そのため昭和四一年九月二一日から同年一一月三〇日までの七一日間、妻一戸ツヨエの附添看護を受けたが、右附添看護料相当額は、一日当り金一、一〇〇円、合計金七万八、一〇〇円であることが認められる。

(3)  入院中の留守宅家事雇入給料 四万九、七〇〇円

原審における原告本人尋問の結果およびこれにより真正に成立したものと認められる甲第一二、第一三号証によれば、控訴人は、本件事故当時幼い子女をかかえていたが、妻が控訴人の附添看護のため手をとられたため、やむをえず家事、家政処理のため事故当日から昭和四一年一一月三〇日までの七一日間木村みつゑを雇傭したが、その間の給料として、一日当り金七〇〇円、合計金四万九、七〇〇円を同人に支払つたことが認められる。

(4)  入院雑費 四万二、八三三円

原審における原告本人尋問の結果およびこれにより真正に成立したものと認められる甲第一六号証によれば、控訴人は、昭和四一年九月二一日から昭和四二年三月一六日までの間に、入院雑費として右金額の支出を余儀なくされたことが認められる。

(5)  入院期間中の逸失利益 二六万円

原審証人桑田正次郎の証言およびこれにより真正に成立したものと認められる甲第一〇号証、ならびに原審における原告本人尋問の結果を総合すれば、控訴人は、本件事故発生前は金融業者の桑田正次郎に雇われて、得意先の信用調査や集金などの義務に従事し、日給一、〇〇〇円を支給され、一か月のうち少くとも二六日は就労していたが、本件事故による負傷入院中(昭和四一年九月二二日から昭和四二年七月二一日までの一〇か月間)は就労することができず、その間の収入の合計損金二六万円の得べかりし利益を喪失したことが認められる。

(6)  その余の逸失利益 五六万円

この点に関する当裁判所の判断は、原判決が原審被告伊藤三男雄(補助参加人)に対する請求について示した判断と同一であるので、原判決九枚目裏三行目から一〇枚目裏一行目までの記載を、ここに引用する。

なお証拠上認められる右逸失利益による損害金額は一〇四万五、九三〇円(円未満切捨)であるが、控訴人は、右損害金額については、金五六万円しか請求していないので、損害賠償額の算出に当つては、右金額によるものとする。

2  精神的損害(慰藉料) 一〇〇万円

前掲甲第二号証、原審証人川島康司の証言ならびに鑑定人佐藤時治郎の鑑定の結果によれば、控訴人は、幸い一命をとりとめたものの、入院直後は極めて重篤の症状であつたもので、その後一〇か月間病床にあり、退院後も右顔面神経麻痺などの後遺症に悩まされており、また長期の入院がいと口となつて妻と離別するという不測の事態も生じたことが認められ、その他本件事故の発生については控訴人に何ら過失の認められないこと、控訴人の年令、職業、地位などの諸事情を考慮すれば、本件における慰藉料額は、金一〇〇万円が相当であると認められる。

以上のとおりで、控訴人の蒙つた損害額は、財産的損害の合計額が一六八万一、九五三円、精神的損害が金一〇〇万円であるところ、控訴人が自賠責保険による保険金一〇二万円の支払を受け、また補助参加人から金一〇万円の一部賠償を受けたことは、控訴人の自陳するところであり、また被控訴人成田が金二万円を支払つたことは、当事者間に争いがない。そして、右内入金合計一一四万円は財産的損害に充当されたことが弁論の全趣旨によつて認められるから、これを差し引くと、残損害額は、財産的損害は金五四万一、九五三円、精神的損害は金一〇〇万円となる。

(三)  右のとおりであるから、被控訴人らは各自控訴人に対し、金一五四万一、九五三円とこれに対する本件事故発生の日である昭和四一年九月二一日以降支払ずみに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を支払う義務を負うものというべきところ、控訴人は、当審においては、右のうち金一五二万七、八八四円とこれに対する昭和四二年一〇月二八日以降の遅延損害金の支払のみを求めている(控訴人が支払を求める右金一五二万七、八八四円につき、そのうち財産的損害と精神的損害との内訳についてみるに、控訴人は明示的にはこれを指示していないが、反対の意思を有することの認められない本件においては、本訴請求額金一五四万一、九五三円のうち財産的損害(金五四万一、九五三円)と精神的損害(金一〇〇万円)の占める割合に従つて算出した額、すなわち前者が金五三万七、〇〇八円、後者が金九九万〇、八七六円であると解するのが相当である)から、右の請求は、正当として、これを認容すべきである。

三  結論

以上の次第で、被控訴人らに対する本訴請求は、控訴人が当審において不服を申し立てた限度で、これを認容すべきであるから、これを棄却した原判決は、取消を免れない(なお控訴人が被控訴人下山に対して前記金員に対する昭和四二年一〇月二八日から同月二九日までの間の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める部分は、当審においてその請求を拡張したものであるが、右部分についても、これを認容すべきである)。

よつて、民事訴訟法第三八六条、第九六条、第九四条、第九三条、第八九条を適用し、なお仮執行宣言については、これを附するのが相当でないので、これを求める申立を却下することとして、主文のとおり判決する。

(裁判長 恒次重義 裁判官 松岡登 裁判官 横畠典夫)

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