大判例

20世紀の現憲法下の判例を掲載しています

佐賀地方裁判所 昭和33年(ワ)55号 判決

原告 井手信二 外一名

被告 株式会社有明映画劇場

主文

被告会社が昭和三十三年二月七日の臨時株主総会に於てなした樋口禎一を取締役に選任する旨の決議は取消す。原告のその余の請求は棄却する。

訴訟費用は二分しその一を原告の爾余を被告の負担とする。

事実

第一申立

一、原告等の申立

被告会社が昭和三十三年二月七日の臨時株主総会において為した代表取締役橋本二平次の取締役であることを解任する旨の決議並に同総会において為した樋口禎一を取締役に選任する旨の決議は何れも不存在であることを確認する。

又は被告会社の右各決議を取消す。

及び被告会社が昭和三十三年二月七日の取締役会において為した取締役橋口徳義を代表取締役に選任する旨の決議の無効であることを確認する。

訴訟費用は被告の負担とする。

二、被告の申立

原告等の請求を棄却する。訴訟費用は原告等の負担とする。

第二主張

一、原告等の主張

(一)  被告会社は演劇、映画並に一般文化娯楽に資する各種興業を主たる目的として昭和二十五年十二月十一日設立された資本金五十万円の株式会社で、原告井手信二は百五十株の、原告本山正叔は百四十株の各株主、その他訴外高尾次作が百二十株、橋口徳義が百七十株、訴外片淵太郎次が百四十株、訴外陶弥平が百二十株、訴外樋口禎一が百六十株の被告会社の各株主である。

(二)  昭和三十三年二月六日頃の被告会社の代表取締役は訴外橋本二平次、取締役は訴外高尾次作、同橋口徳義、監査役訴外荒木行一、同陶弥平であつて訴外橋本二平次は昭和三十二年九月十五日開催された株主総会に於て取締役に選任され同日開かれた取締役会に於て代表取締役に選任されたものである。

(三)  被告会社は昭和三十三年二月七日、杵島郡有明村大字戸ケ里一八一五番地訴外樋口禎一方に於て臨時株主総会(以下本件株主総会と称す)を開催し、本件株主総会に於て訴外樋口禎一を取締役に選任する、代表取締役橋本二平次の取締役であることを解任する旨の各決議が為され、翌八日その旨登記を経た。

(四)  然しながら本件株主総会の右各決議は左の理由により存在しないものである。

1、本件株主総会の招集について取締役会の開催も又決議もなされていない。

2、本件株主総会の招集は代表取締役橋本二平次によつて為されたものではなく招集権限のない取締役訴外高尾次作、同橋口徳義、監査役訴外陶弥平の三名により為されたもので、これにより前記七名の株主中原告両名を除く五名の株主が集会したに過ぎない。

(五) 仮りに前項の各事由が本件株主総会の各決議の不存在を来すものでないとしても前記臨時株主総会の代表取締役訴外橋本二平次の取締役であることを解任する旨の決議は前項1、2、並に後に述べる(1) の事由により前記臨時株式総会の訴外樋口禎一を取締役に選任する旨の決議は前項1、2、並に後に述べる(1) (2) の事由により取消されるべきものである。

(1) 昭和三十三年二月七日に開催すべき本件株主総会の招集通知をその前日たる同年二月六日になしているので商法第二百三十二条に違反する。

(2) 本件株主総会に於て取締役に選任された訴外樋口禎一は右選任決議につき利害関係を有するのに拘らず自らこれが議決権を行使しているので、商法第二百三十九条第五項に違反する。

(六)  昭和三十三年二月七日被告会社の取締役訴外高尾次作、同橋口徳義、監査役訴外陶弥平が取締役会を招集し右橋口、高尾及本件株主総会において取締役に選任せられたりとする訴外樋口禎一が出席の上取締役橋口徳義を代表取締役に選任する旨の決議を為し被告会社は翌八日その旨登記を経た。

(七)  然しながら本件取締役会の右決議は左の理由により無効である。

1、本件株主総会の決議が不存在であるか、もしくは取消されれば訴外樋口禎一は取締役でなかつたことになり、訴外橋本二平次は代表取締役であつたことになるが、被告会社の定款第二十七条二項によれば取締役会は社長(代表取締役)がこれを招集し、且つその議長となる旨規定してあるのに拘らず本件取締役会は代表取締役訴外橋本二平次により招集されたものではなく、又訴外橋本の出席もないので右取締役会の決議は被告会社の定款第二十七条二項に違反するものであるばかりかこれが招集通知は訴外橋本二平次に対しなされておらずその上本件取締役会には取締役でない訴外樋口禎一が出席し議決に加わつている。

2、本件取締役の招集手続には、商法第二百五十九条の二所定の一週間の期間をおいていない。

よつて原告等は被告に対し本件株主総会に於てなされた訴外樋口禎一を取締役に選任する、代表取締役訴外橋本二平次の取締役であることを解任する旨の各決議の不存在確認又は右各決議の取消及び本件取締役会に於てなされた取締役橋口徳義を代表取締役に選任する旨の決議の無効確認を求める為本訴に及ぶ。

(八)  被告の答弁に対し被告会社の定款十五条に株主総会は法令に別段の定めのある場合を除く外取締役の過半数の同意による取締役会の決議に基き社長がこれを招集する。社長差支えあるときは専務取締役又は他の取締役がその順に従い、これを招集する旨規定してあることは認めるが本件取締役会の開催につき取締役全員が同意したとの事実は否認する。

被告の昭和三十二年九月十五日開催された取締役会に於てなされた訴外橋本二平次を代表取締役に選任する旨の決議は無効であるとする抗弁は否認する。

二、被告の主張

(一)  請求原因(一)項の事実は全て認める。

(二)  請求原因(二)項の事実中昭和三十三年二月六日現在の被告会社の取締役は訴外高尾次作、同橋口徳義で監査役は訴外荒木行一、同陶弥平であること、昭和三十二年九月十五日開催された取締役会に於て訴外橋本二平次を代表取締役に選任する旨の決議のなされたことは認めるがその余の事実は否認する。

昭和三十二年九月十五日に被告会社に於ては株主総会が開催せられたこともなく訴外橋本二平次は取締役でもない。

(三)  請求原因(三)項の事実は全て認める。

(四)  請求原因(四)項の事実中(1) の事実は否認する。昭和三十三年二月五日開催された取締役会に於て同年二月七日に臨時株主総会を開催する旨決議し右二月五日その旨の招集の通知をなした。

(2) の事実中本件株主総会の招集は訴外橋本二平次によりなされたものではないこと、これが招集通知は取締役訴外高尾次作、同橋口徳義、監査役訴外陶弥平によりなされたことは認めるがその余の事実は否認する。

被告会社の定款十五条には株主総会は法令に別段の定めのある場合を除く外取締役の過半数の同意による取締役会の決議に基き社長がこれを招集する。社長差支えあるときは専務取締役又は他の取締役がその順に従いこれを招集すると規定され、訴外橋本二平次は取締役でも代表取締役でもなく従つて被告会社には代表取締役が欠けていたので右定款の規定に従い本件株主総会は前記取締役等に於て招集したものでこれが招集通知は原告等にもなしている。

(五)  請求原因(五)項(1) (2) の各事実は全て否認する。仮りに原告主張の通りの瑕疵があつたとしても訴外橋本二平次は取締役でもなければ代表取締役でもなく、唯単に形式的に代表取締役たるの外観を有するに過ぎないものであるから本件株主総会決議の瑕疵の有無に拘らず本件株主総会の決議が取消の対象となるべきではない。

(六)  請求原因(六)項の事実は全て認める。

(七)  請求原因(七)項(1) の事実中被告会社の定款第二十七条に取締役会は社長(代表取締役)がこれを招集し議長となる旨規定されていたこと、本件取締役会の招集通知を訴外橋本二平次に対しなしていないことは認めるがその余の事実は否認する。訴外樋口禎一は本件株主総会に於てなされた訴外樋口禎一の取締役選任の決議の取消判決あるまでは取締役の資格があるので同訴外人が本件取締役会に出席することは何等違法となるものでない。当時被告会社には代表取締役が欠けており取締役は訴外高尾次作、同橋口徳義二人だけであつたので右二名で本件取締役会を開催したもので、右両名が出席している以上本件取締役会の成立に瑕疵はない。

同項(2) の事実は全て否認する。本件取締役会は取締役全員の同意により開催されているのであるから仮りに本件取締役会を開催するにつき商法第二百五十九条の二に定めの一週間の期間をおかなかつたとしても右決議は有効である。

(八)  抗弁として訴外橋本二平次は株主総会で取締役に選任されていないので昭和三十二年九月十五日開催された取締役会に於て訴外橋本二平次を代表取締役に選任する旨の決議は無効である。

第三立証

一、原告等の立証

甲第一、第三号証、甲第二号証の一、二を提出し証人吉武武則、同橋本二平次の各証言並に原告井手信二本人尋問の結果を援用し、乙各号証の各成立を認め乙第三号証の二を利益に援用した。

二、被告の立証

乙第一号証、乙第二、第三号証の一乃至四を提出し証人陶弥平、同片淵太郎次、同樋口禎一の各証言を援用し甲各号証は全てその成立を認める。

理由

被告会社は演劇、映画並に一般文化娯楽に資する各種興業を主たる目的として昭和二十五年十二月十一日設立された資本金五十万円の株式会社であること、原告井手信二は百五十株の、原告本山正叔は百四十株の株主でその他訴外高尾次作が百二十株、橋口徳義が百七十株、訴外片淵太郎次が百四十株、訴外陶弥平が百二十株、訴外樋口禎一が百六十株の被告会社の各株主であること、昭和三十三年二月六日頃橋口徳義、訴外高尾次作は被告会社の取締役、訴外荒木行一、同陶弥平は被告会社の監査役であること、昭和三十二年九月十五日開催された取締役会に於て訴外橋本二平次を代表取締役に選任する旨の決議がなされたこと、被告会社は昭和三十三年二月七日杵島郡有明村大字戸ケ里一八一五番地訴外樋口禎一方に於て臨時株主総会(以下本件株主総会と称する)を開催し、同臨時株主総会に於て訴外樋口禎一を取締役に選任する。代表取締役橋本二平次の取締役であることを解任する旨の決議がなされ翌八日その旨登記を経たことは当事者間に争いない。

(一)  そこで原告は本件株主総会の前記各決議の不存在確認を求めるのでその点について判断する。

先ず原告は本件株主総会の招集についてはその招集につき取締役会の開催及決議が存しないので本件株主総会の前記各決議は不存在である旨主張するのでこの点について按ずるに本件株主総会の招集について取締役会の開催並にこれが決議のなされたことについては何等の立証のないところであるが、株主総会が取締役会の決議にもとずかずして招集されたものとしても正当な招集権者によつて招集されたものである限り不存在と解することは出来ない。即ち株主総会を招集する旨の取締役会の決議は株式会社の内部的の意思決定に過ぎないもので、しかも右決議の有無は外部からは容易に知り得ないものであつて後記認定の通り取消原因の判断の対象となり得るが取締役会の決議がないことを以て株主総会の決議が不存在であると解することは出来ない。

そこで次に原告は本件株主総会は代表取締役橋本二平次の招集に係るものでないから同総会に於て為された各決議は不存在である旨主張するのでこの点について按ずるに本件株主総会は取締役橋口徳義、訴外高尾次作、監査役訴外陶弥平の三名名義により招集されたもので代表取締役により招集されたものでないことは当事者間争がないが、本件株主総会が右取締役等によつて招集されたのは次の事情によるものである。即ち証人橋本二平次、同陶弥平、同片渕太郎次、同樋口禎一、同吉武武則の各証言並に原告井手信二本人尋問の結果によれば、原告主張の訴外橋本二平次が取締役に選任されたと称する株主総会は昭和三十二年九月十五日には開催されておらず訴外橋本二平次は株主総会に於て取締役に選任されてもいないのに訴外本村治八及橋本二平次等が橋本二平次は取締役、代表取締役に選任せられた旨登記申請をなしその旨登記を経由せられたもので訴外橋本二平次は取締役としての資格は有しないし、従つて昭和三十二年九月十五日開催された取締役会で訴外橋本二平次を代表取締役に選任する決議がなされても元来取締役でない者を代表取締役に選任したものとして右取締役会の決議は無効のものであり又被告会社には当時他に代表取締役はなかつたことによるものであることが認められる。而して被告会社の定款第十五条には株主総会は法令に別段の定めのある場合を除く外取締役の過半数の同意による取締役会の決議に基き社長がこれを招集する。社長差支えのあるときは専務取締役又は他の取締役がその順に従いこれを招集すると規定されていることは当事者間に争いがないので被告会社においては当時代表取締役に差支えのあつた時に該当するものとして前記定款十五条の規定により前記取締役橋口徳義、同高尾次作等は株主総会を招集する権利を附与され本件株主総会は正当に招集権限を有する者によつて招集されたものというべくこれが招集手続には何等の瑕疵がない。(監査役陶弥平も本件株主総会招集の名義人になつており同人が正当な招集権者となり得ないことは前記定款の条項によつて明らかであるが取締役橋口徳義、同高尾次作が上記の如く正当なる招集権者である以上上記招集手続の違法を生ずるものでない)

よつて本件株主総会に於る訴外樋口禎一を取締役に選任する、代表取締役橋本二平次の取締役であることを解任する旨の各決議は不存在である旨の原告の主張は理由がない。

(二)  次に原告は本件株主総会に於て訴外樋口禎一を取締役に選任する、代表取締役橋本二平次の取締役を解任する旨の各決議の取消を求めているのでこの点について判断する。

前記認定の通り本件株主総会は正当な招集権利者により招集されたものであるので取締役会の決議によらず正当な招集権者により招集された株主総会の決議が有効であるか取消し得るものであるかについて考えるに、総会招集に関する取締役会の決議は会社内部に於る意思決定にすぎないからたとえそれを欠いても株主総会決議の取消原因にならないという見解もあるが商法が株主総会招集の意思決定をなすべき権限を取締役会に附与した趣旨並に代表取締役は本来総会招集手続をなす権限を有するに過ぎないことより考えればこの場合株主を会社と取引した純然たる第三者と同じように保護せんとする考方から右決議を完全有効とする見解には賛成し得ず招集手続に瑕疵ある総会の決議として取消し得るものと解するので前記認定の通り本件株主総会の招集について取締役会の決議がなされたことについては何等の立証もない本件の場合本件株主総会の招集手続には取消原因とさるべき瑕疵の存することが認められる。

次に原告は本件株主総会の招集の通知について会日より二週間の期間をおいてなされなかつたので商法第二百三十二条の規定に違反する旨主張するのでこの点につき按ずるに成立に争いのない甲第二号証の一、二、甲第三号証、証人陶弥平、同片淵太郎次、同樋口禎一の各証言並に原告井手信二本人尋問の結果によれば被告会社は負担する債務の為劇場の敷地、建物、映写機等が競売に付され右競売開始決定正本の送達を受けこれに対する異議申立期間が切迫していたので早急にその対策について協議する必要を感じ昭和三十三年二月七日に臨時株主総会を開催することになり昭和三十三年二月六日附を以て右招集通知が原告井手信二宛なされていること、その為原告井手信二は不在中の同月七日にこれが通知を受け帰宅后本件株主総会の開催揚所に赴いたが既に本件株主総会は解散していたこと、そこで原告井手信二にはこれが出席の機会は与えられなかつたこと、その他の株主には本件株主総会の開催される二、三日前にこれが招集の通知がなされていること、及び招集通知期間の短縮について総株主の同意は得ていないことが認められるので本件株主総会に於てなされた決議中訴外井手直次、本山新作からの担保物件競売については異議申立をなし物件確保の為万全の措置を講ずる旨の決議については緊急やむを得ない場合として兎も角訴外樋口禎一を取締役に選任する代表取締役橋本二平次の取締役であることを解任する旨の各決議については商法第二百三十二条第一項所定の二週間の期間をおかなかつたものとして同条に違反し瑕疵があることが認められる。

次に原告は本件株主総会に於て取締役に選任された訴外樋口禎一はこれが決議について特別の利害関係を有するのにこれが議決権を行使しているので商法第二百三十九条第五項の規定に違反する旨主張するのでこの点について考えるに前掲甲第二号証の一、二、甲第三号証、証人樋口禎一の証言によれば訴外樋口禎一は本件株主総会に於る訴外樋口禎一を取締役に選任する旨の決議について議決権を行使していることが認められるが元来商法第二百三十九条第五項所定の特別に利害関係を有するものとは特定の者を取締役に選任する件として議題にのせられた場合その者は特別の利害関係人となるが一般的に「取締役選任之件」としての議題で議事の進行に当つて事実上取締役の候補者となつている株主があつてもその場合は他の者に投票することも可能であるから同条の特別利害関係人には当らない。

そこで成立に争いのない甲第二号証の二、甲第三号証によれば本件株主総会においては訴外樋口禎一を取締役に選任する件として議題にのせられたものではなく単に取締役選任に関する件として議題にのせられ訴外樋口禎一は候補者たる株主として議決権を行使したにすぎないことが認められるので本件株主総会に於ける取締役訴外樋口禎一を取締役に選任する旨の決議につき議決権を行使した同訴外人は右決議につき特別の利害関係を有する者ということが出来ない。よつてこの点に関する原告の主張は失当である。そうだとすると前記認定の通り本件株主総会の招集は取締役会の決議なしになされたこと、本件株主総会を招集するについて会日より二週間の期間をおいてないことが認められ、右はいずれも商法第二百三十一条、第二百三十二条第一項に違反するものというべく、かゝる瑕疵の存在する本件株主総会に於てなされた訴外樋口禎一を取締役に選任する。代表取締役橋本二平次の取締役であることを解任する旨の各議決はいずれも取消事由を具有することになるわけである。ところが右橋本二平次の取締役であることを解任する旨の決議についてはこれが解任の決議をなすに至つた理由が前掲甲第三号証、並証人陶弥平、同片淵太郎次、同樋口禎一の証言によれば訴外橋本二平次は前記認定の通り株主総会に於て選任された取締役でなくこのことが橋口徳義、訴外高尾次作、同片淵太郎次、同樋口禎一等に判明したが昭和三十二年九月十五日開催された取締役会に於て同訴外人は代表取締役に選任されたとしてその旨登記も経ていた為本件株主総会に於て右解任決議を為したものであることが認められる。そうすると取締役でも又代表取締役でもない橋本二平次の取締役解任決議の取消を求める訴はこれを提起する利益がないものということができる。仮に百歩を譲り右の決議取消の訴を求める利益があるとしても元来株主総会においてその招集の手続につき前記のような瑕疵(会期前二週間の猶予期間を置かなかつたこと、招集につき取締役会の決議を経ていないこと)が存する場合若しそうした手続上の欠陥がなかつたならば決議の結果が違つたかも知れないと考えられるような事情の存する場合は兎も角、かような事情の存しないことの明瞭な場合にはその決議の取消を求める理由がないと解するのであるが本件について考えると前記認定の通り訴外橋本二平次は取締役でも又代表取締役でもないのにその旨登記も経ているのであるから本件株主総会において同訴外人の取締役であることを解任する旨の決議がなされたであろうことが考えられるので結局株主総会招集の手続に瑕疵があつてもその瑕疵は右決議の結果に影響を及ぼすものではないというべく決議の取消を求める理由がないということができる。そうだとすると本件株主総会に於て訴外樋口禎一を取締役に選任する旨の決議についてのみこれが取消を免れないのでこれが取消の請求についてのみ正当である。

(三)  次に原告は本件取締役会に於てなされた取締役橋口徳義を代表取締役に選任する旨の決議(以下本件決議と称する)の無効確認を求めているのでこの点について判断するに被告会社は昭和三十三年二月七日本件取締役会を開催したこと、本件取締役会は取締役橋口徳義、同訴外高尾次作、監査役訴外陶弥平の名に於て招集され右橋口、同高尾の外訴外樋口禎一が出席したこと、本件取締役会に於て取締役樋口徳義を代表取締役に選任する旨の決議がなされ翌八日その旨登記を経たことは当事者間に争いない。

原告は本件取締役会の招集手続は被告会社の定款第二十七条第二項に違反するばかりかこれが招集通知は訴外橋本二平次にはなされていない旨主張するのでこの点について按ずるに被告会社の定款第二十七条に取締役会は代表取締役がこれを招集し議長となる旨規定されていたこと、本件取締役会の招集通知は訴外橋本二平次にはなしていないことは当事者間に争いのないところであるが訴外橋本二平次は被告会社の取締役でも又代表取締役でもないこと、前記認定の通りであるから原告の右主張は失当である。

次に原告は本件取締役会には取締役でない訴外樋口禎一が出席して議決権に行使している旨主張するのでこの点について按ずるに成立に争いのない乙第三号証ノ二によれば訴外樋口禎一は本件取締役会に於て取締役橋口徳義を代表取締役に選任する旨の議決権を行使していることが認められるが本件株主総会に於てなされた訴外樋口禎一を取締役に選任する旨の決議は取消を免れないこと前記認定の通りである。

そこで取消判決の結果、決議は遡及して無効となるものであるか否かについて考えるに、取消判決は形成判決であるから確定すると右決議は遡及して無効となり右決議により取締役に選任された者はその地位を取得し得なかつたことになるとの見解もあるが賛成し得ない。元来株主総会の決議にはそれ自体完了的意味を有する個別的な事項の決定に関する決議、例えば取締役の会社との取引に関する責任の免除に関する決議と株主総会の決議を前提として諸般の社団的又は取引的行為が進展するような内容の決議、例えば取締役等役員の選任に関する決議があり前者については決議取消の訴を認める以上将来に向つてその効力を否定するだけではその目的を達し得ないので遡及して無効となると解するが後者についてはすでに進展した法律関係を遡及的に否定したのでは著しく会社関係に於る法的確実の要請に反し無用の混乱を惹起することになるが他方その効力を将来に向つて否定することによつてもその目的を達し得るので後者については決議取消判決の結果右決議は遡及して無効となるものではないと解する。そうだとすると結局本件株主総会に於る訴外樋口禎一を取締役に選任する旨の決議は後者の場合に該当するので訴外樋口禎一は本件取締役会開催当時取締役としての地位にあつたものと認められ原告の前記主張は失当である。

次に原告は本件取締役会の招集手続には商法第二百五十九条の二所定の一週間の期間をおいていないので違法である旨主張するが前掲甲第三号証、乙第三号証の二によれば本件取締役会の招集通知については商法第二百五十九条の二所定の一週間の期間をおいてないことが認められる反面本件取締役会には取締役橋口徳義同樋口禎一(樋口が本件取締役会開催当時取締役の地位にあつたことは前記認定のとおりである)同高尾次作全員が異議なく出席して全員一致で取締役橋口徳義を代表取締役に選任していることも認められるのでこの点に関する原告主張は失当である。

結局本件取締役会に於てなされた取締役橋口徳義を代表取締役に選任する旨の決議については何等の瑕疵も認められず右決議の無効確認を求める原告の請求は理由がない。

よつて原告の本訴請求中被告会社が昭和三十三年二月七日の臨時株主総会に於てなした樋口禎一を取締役に選任する旨の決議の取消を求める部分は理由ありとしてこれを認容し、その余の請求は失当であるのでこれを棄却し訴訟費用の負担については民事訴訟法第九十二条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 原田一隆 末光直己 西村四郎)

「大判例」は20世紀で日本国憲法下の裁判例のうち,公刊物に掲載されたものをまとめたインターネット判例集です。原則として公刊されたものをそのまま載せています。

憲法により判決は公開とされており,法曹および法律研究者に利用されているものです。その公共性と平等主義の観点から,送信防止措置または改変には一切応じませんのでご了承ください。

本サイトは報道(不特定かつ多数の者に対して客観的事実を事実として知らせること)を事業としており,掲載された全ての情報は報道等に活用することを目的としています。

©daihanrei.com