大判例

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前橋地方裁判所高崎支部 昭和34年(モ)72号 判決

申立人 国

訴訟代理人 堀内恒雄 外三名

被申立人 松沢隼人

主文

当裁判所が昭和三四年(ヨ)第三三号不動産仮差押事件についてなした仮差押決定は認可する。

申請費用は、被申請人の負担とする。

事実

申請人は、主文と同旨の判決を求め、被申請人は、「主文記載の仮差押決定は取消す。本件仮差押申請は却下する。訴訟費用は申請人の負担とする。」との判決を求めた。

申請人は、申請理由をつぎのようにのべた。

「(一)申請外パール食品工業株式会社は、昭和三四年五月三一日現在において、昭和三二、三三年度物品税および源泉所得税等合計金六五二、六二七円(甲第二号証参照)を滞納している。

(二)右会社は、資本金三〇〇万円をもつて昭和三二年六月一七日設立されたものであつて、被申請人は、設立に当り発起人となつていた。

(三)、(イ)しかして、被申請人は、右会社設立に際し、自己名義で富田証券株式会社から金三〇〇万円を借入れた上、右同日、これを株金払込取扱機関たる三菱銀行新宿支店に払込み、右のごとく設立登記手続を了したが、右借入金全額は、翌々日たる同月十九日には引出され、富田証券株式会社に返済されている。(ロ)これは、当初から会社成立後にその資本金とする意思なく単に会社を形式的に設立せしめんがため一時的に払込まれたいわゆる「見せ金」による株金払込であつて、実質的には払込金ではないから、その後他の発起人から五〇万円の払込があつたものの前記申請外会社には、なお、金二五〇万円の未払込株金があるわけである。したがつて、発起人たる被申請人は、右会社に対し、その払込をなす義務がある。

(四)、そこで、申請人は、昭和三四年四月一一日、右会社の前記滞納税金徴収のため、右会社が被申請人に対して有する株金払込請求権を差押え、同月一四日これを被申請人に通知した。

(五)、よつて、申請人は右会社に代位して被申請人に対し、差押債権請求の本訴を提起せんとするのであるが、被申請人は、このことあるを察知し、財産の散逸を計り、申請人の権利の実行をいちじるしく困難ならしめるおそれもあるので、まずは執行を保全するため本申請におよび次第である。」

被申請人は、つぎのように答弁した。

「申請人の主張事実中、(二)および(四)の各事実は認めるが、(一)の事実は知らない。その他の事実は否認する。要するに、未払株金は存在しないのである。

かりに、申請人主張(三)のごとく、未払込株金が存在するとしても、商法第一九二条第二項の規定する発起人の義務、換言すれば、会社の発起人に対する株金払込請求権は、資本団体たる株式会社の資本を充実せしむる必要から特に与えられた一種特別の請求権であつて、会社と発起人間の特別関係にもとづき発生し、会社を離れては独立の存在を有するものではなく、したがつて、その権利行使のごときも会社ひとりこれを取得しうべきものであつて、該権利を行使すると否とは、その性質上、権利者たる会社の意思のみにより決することをうる民法第四二三条第一項但書にいわゆる一身専属の権利と解すべく、それは他の会社債権者の代位行使を許さざるものと解すべきである。したがつて本申請は却下さるべきである。

疎明〈省略〉

理由

申請理由(ニ)の事実は当事者間に争がない。

同(三)の(イ)の事実(ただし、借受名義人は被申請人ではない)は、成立に争ない甲第三号証と前示各証人の証言によつて疎明されたといえる。しからば、右の発起人らの行為は、特段の事情のないかぎり、その行為自体からして、申請人の主張するごとく、「当初から会社成立後にその資本金とする意思なく単に会社を形式的に設立せしめんがため一時的に払込まれたいわゆる見せ金による株金払込であつて実質的には払込金ではない」と認められてもやむをえないところである。しかるに、証人片山満治の証言のみをもつてしてはいまだ右認定を覆えすには不充分であつて、そのほかに右認定を左右するに足る証拠は存在しない。しからば、右会社には二五〇万円の未払込金が存するといわねばならない。

つぎに、被申請人は、前示のごとく、商法第一九二条第二項の規定する発起人の義務、換言すれば、会社の発起人に対する株金払込請求権は、民法第四二三条第一項但書の一身専属の権利だから代位行使しえないと抗弁するが、被申請人も主張するごとく、商法第一九二条は株式会社の資本を充実せしめる必要(資本充実の原則)から規定されたものであるが、この資本充実の原則こそ本来会社債権者を保護せんがためのものであつて、これがために会社債権者は、債権者代位権によつて会社資本の充実を図ることができるのである。したがつて被申請人の右抗弁は、まつたく本末を顛倒した議論であつて到底採用しえないものである。

そして、申請理由(一)の事実は、甲第二号証によつて明らかであり、同(四)の事実は当事者間に争がない。同(五)の仮差押の必要性は甲第七号証によつて疎明ありたりといえる。

しかるときは、申請人の本件申請は、正当であるから、さきに当裁判所のなした仮差押決定は、これを認可することとし、申請費用は敗訴した被申請人に負担せしめて、主文のように判決する。

(裁判官 草野隆一)

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