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千葉地方裁判所 平成3年(行ウ)31号 判決

千葉県習志野市谷津五丁目三七番一三号

原告

阿部徳雄

千葉県千葉市花見川区武石町一丁目五二〇番地

被告

千葉西税務署長 菱田次男

右指定代理人

青栁允隆

浅野良一

石津佶延

長谷川貢一

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一原告の請求

被告が原告に対して平成元年一二月一三日付けでなした、昭和六四年一月六日付けの昭和六二年分所得税に係る更正の請求に対して更正の処分をすべき理由がないとした通知処分を取り消す。

第二事案の概要

本件は、原告が、税務署長たる被告に対して、被告が平成元年一二月一三日付けでなした、原告の昭和六二年分所得税に係る更正の請求について更正の処分をすべき理由がないとした通知処分(本件通知処分)の取消を求めている事案である。

一  本件通知処分の経過は別紙(一)のとおりである(甲一、二、乙一、二)。

二  本件通知処分の根拠は別紙(二)のとおりであり、分離課税の短期譲渡所得金額を除き争いがない(甲一、二、乙一、二)。

なお、原告が行った確定申告は訴外船橋税務署長に対するものであったが、原告はその後、住所地を船橋市東船橋五丁目四番二三号から肩書の住所地に移転した(当事者間に争いがない。)ことから、被告が原告の納税地を所轄することになった。

三  争点

1  原告の昭和六二年分の確定申告書は、船橋税務署の納税担当職員であった松元弘文(松元)が、原告の意思を無視して提出したものであるかどうか。

2  原告が別紙(三)の物件目録一ないし三記載の物件(以下、同目録一記載の物件を「A物件」、同目録二記載の物件を「B物件」、同目録三記載の物件を「C物件」といい、これを併せて「本件物件」という。)を売却したことによる、同人の分離課税の短期譲渡所得金額はいくらか(A物件が原告の単独の所有物として、金一億二三五五万九一〇〇円であったか、それとも原告と原告の父阿部勇四郎の共有物として、金八五一六万九三二五円であったという争いに帰着する)。

第三争点に対する判断

一  争点1について

証拠(乙二ないし五、七ないし九、一二、証人松元弘文、原告)によれば、以下の事実が認められる。

原告は、昭和六三年三月一五日、昭和六二年中に本件物件を譲渡したことに係る譲渡所得及び昭和六二年分の事業所得の確定申告手続のために船橋税務署を訪れた。

原告は、まず、資産税部門に赴いたものの、自ら譲渡所得の計算をしたり申告手続をしたりすることができなかったため、右部署において松元の相談を受けた。その際、松元は、原告に対し、A物件が原告の単独所有物であるのか、それとも原告と原告の父阿部勇四郎(勇四郎)との共有物であるのかにつき質問するなどした結果、A物件は、原告の単独所有物であり、かつ原告が居住用兼事業用として使用しているものであると判断した。その上で、松元は、原告の申述、並びに原告が持参した、本件物件の譲渡に係る土地付建物売買契約書(乙三)、土地売買契約書(乙四)、B・C物件の取得にかかる土地付建物売買契約書(乙五)等に基づき、本物件の譲渡に係る譲渡所得計算上必要な事項を、「譲渡内容についてのお尋ね」用紙(乙八)の該当欄に代筆し、更に、右の結果算出された分離課税の短期譲渡所得の金額を原告に告知し、「六二年分の所得税の確定申告書(分離課税用)」(確定申告書・乙二)の分離課税の所得金額の短期譲渡の記載欄及び分離課税の所得・短期譲渡・一般所得分の各欄を代筆して記載した。これについて原告は松元に異議を述べなかった。

次に原告は、所得税部門に赴き、確定申告の相談を受けたが、本件物件の譲渡にかかる税額が予想していたより高額であったことに納得がいかず、再度、資産税課の松元を訪れ、試算を依頼した。松元は分離課税の短期譲渡所得の税額計算書(乙七)を検算し、誤りのないことを確認し、税額計算の仕組みを原告に説明したところ、原告は納得したので、松元が確定申告書の未記入箇所を代筆して受け付け、これをもって原告の確定申告手続は終了した。

これについて、原告は、松元には税額の試算を依頼したのみで、確定申告書を提出することまでを依頼していない旨主張するが、前記証拠によれば、原告は、松元が検算した結果間違いないとした後、税額が予想していたよりも高額であったことに対して不満を洩らしたものの、確定申告書を提出しないとする明確な意思を表示してはおらず、原告は、本件確定申告手続き後直ちに抗議等をすることもなく、その約一〇か月後である平成元年一月六日になって初めて更正請求したことが認められ(乙一二)、これらの事実からして、前記乙二、七、八の成立が認められるのであり、確定申告書が原告の意思に反して提出されたものとは認められない。

以上の次第であって、松元は、本件申告書を記入・提出するにあたり原告の納得を得ているのであり、松元が原告の意思を無視して確定申告書を提出したものとは認められず、この点に関する原告の主張は理由がない。

二  争点2について

A物件は、登記簿上、昭和六〇年六月一〇日、原告と勇四郎が売買により取得し、名義上、原告が持分四分の三、勇四郎が持分四分の一の共有物とされ、また、A物件を売却した際の契約書によれば、右両名が売主とされている(乙三、一一)。

しかしながら、他方、証拠(乙三、六、九ないし一一、証人松元弘文、原告)によれば、以下の事実が認められる。

勇四郎がA土地の登記名義人とされたのは、原告が本件土地を取得するにあたり、勇四郎から金一、五五〇万円の資金援助を受けたことから、原告の他の兄弟が原告に対して勇四郎をA土地の名義人とするように要望したためであること、A物件を売却した際の契約書(乙三)上、原告の他に勇四郎が売主とされているのは、登記簿の記載にあわせたものであること、原告は、本件土地の取得及び売却について勇四郎に相談することなく独断で行っていること、原告は、本件土地売却後、その譲渡益の中から金一五五〇万円を勇四郎に返済していること、原告はA物件の売却により得た利益を勇四郎に分配していないこと、勇四郎はA土地の譲渡にかかる所得税の申告について、自らは無関係であるとして行っていないこと、原告は、昭和六三年三月一五日、船橋税務署にて税務相談に臨んだ際にも、A物件が原告と勇四郎との共有物であるとは述べていないことが認められる。

以上によれば、A物件は、これを譲渡した当時、原告の単独の所有物であったものと認められ、原告と勇四郎との共有物であったとする原告の主張は理由がない。

したがって、原告の昭和六二年分の総所得金額は金二三六万一一〇九円、分離課税の短期譲渡所得金額は金一億二三五五万九一〇〇円、納付すべき税額は金七三八五万八二〇〇円であるから、原告の昭和六二年分の確定申告額と同額であって、本件通知処分は適法である。

(裁判長裁判官 清水信雄 裁判官 野﨑薫子 裁判官 中根紀裕)

別紙(一)

本件通知処分の経緯

〈省略〉

別紙(二)

本件通知処分の根拠について

被告が本訴において主張する原告の昭和六二年分の所得税の課税標準等は次のとおりである。

一 総所得金額 二三六万一、一〇九円

右金額は、原告の本件確定申告及び本件更正の請求の金額と同額である(別表1参照)。

二 分離課税の短期譲渡所得金額 一億二、三五五万九、一〇〇円

右金額は、次の1の譲渡収入金額から2の必要経費を差し引いた金額である(別表2参照)。

1 譲渡収入金額 二億八、六〇〇万円

右金額は、原告が原告所有の別紙物件目録一ないし三記載の各物件(以下同目録一記載の各物件を「A物件」、同二記載の各物件を「B物件」、同三記載の各物件を「C物件」、といい、これを併せて「本件物件」という。)を昭和六二年一〇月二〇日に日本橋建設株式会社に譲渡した代金額である。

2 必要経費 一億三、二四四万九〇〇円

右金額は、次の(一)の取得費の金額と(二)の譲渡費用の金額の合計である。

(一) 取得費 一億二、三六六万四、三〇〇円

右金額は、次の(1)ないし(3)の合計額である。

(1) A物件の取得費 四、三六六万四、三〇〇円

(2) B物件及びC物件の取得費 八、〇〇〇万円

右金額は、本件更正の請求で原告が主張するB物件及びC物件の取得費と同額である。

(二) 譲渡費用 八七七万六、六〇〇円

右金額は、原告が本件物件を譲渡するに際して支払った仲介手数料等の合計金額である。

3 特別控除額 三、〇〇〇万円

右金額は、原告がA物件を居住の用に供していたことから適用される租税特別措置法(以下「措置法」という。)三五条一項(居住用財産の譲渡所得の特別控除)所定の額であり、原告の本件確定申告及び本件更正の請求の金額と同額である。

三 納付すべき税額 七、三八五万八、二〇〇円

右金額は、前記一及び二の各所得金額を基に、次表のとおり算定したものであり、その内訳は次の1ないし6のとおりである。

〈省略〉

1 順号〈1〉及び〈2〉の金額は、前記一及び二で述べたとおりである。

2 順号〈3〉、〈4〉、〈6〉及び〈9〉の各金額は、原告の本件確定申告及び本件更正の請求の金額と同額である。

3 順号〈5〉の金額は、本件物件の譲渡に係る課税短期譲渡所得金額である(ただし、国税通則法(以下「通則法」という。)一一八条一項の規定により千円未満切捨て後のもの。)。

4 順号〈7〉の金額は、措置法三二条(短期譲渡所得の課税の特例、昭和六三年法律第一〇九号による改正前のもの。)の規定により算出したものである。

5 順号〈8〉の金額は、順号〈6〉の金額と順号〈7〉の金額の合計額である。

6 順号〈10〉の金額は、順号〈8〉の金額から順号〈9〉の金額を差し引いた金額である(ただし、通則法一一九条一項の規定により百円未満切り捨て後のもの。)。

別表1

本件確定申告及び本件更正の請求に係る課税標準等一覧表

〈省略〉

別表2

本件通知処分に係る分離課税の短期譲渡所得の計算内訳表

〈省略〉

別紙(三)

一 船橋市東船橋五丁目一二八二番三

宅地 二五八・八五平方メートル

建物 一二四・三〇平方メートル

(A物件)

二 船橋市東船橋五丁目一二八二番八

宅地 一三五・五三平方メートル

建物 八九・一四平方メートル

船橋市東船橋五丁目一二八二番九

宅地 八二・六四平方メートル

(B物件)

三 船橋市東船橋五丁目一二八二番七

宅地 四六・二八平方メートル

(C物件)

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