大判例

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千葉地方裁判所 平成9年(わ)61号 判決

主文

被告人を懲役四年六月及び罰金一〇〇万円に処する。

未決勾留日数のうち九〇日を懲役刑に算入する。

罰金を全額納めることができないときは、その未納分について五〇〇〇円を一日に換算して期間労役場に留置する。

大麻樹脂七袋(平成九年押第五四号の1から7)を没収する。

理由

(犯罪事実)

被告人は、通称ハッサンと共謀の上、みだりに、営利の目的で、大麻を輸入しようと企て、スーツケース内を二重底にして、(1)大麻樹脂二八七〇・六四グラム(平成九年押第五四号の1から4はその鑑定残量)を、黒色スーツケース内に、大麻樹脂一六五六・七三グラム(同押号の5から7はその鑑定残量)を紺色小型スーツケース内に、それぞれ、こっそり隠して、平成八年一二月三一日(現地時間)、シンガポール共和国チャンギ国際空港において、ノースウエスト航空第八便に搭乗する際、黒色スーツケースについては、航空会社従業員に対し、千葉県成田市の新東京国際空港までの受託手荷物として運送を委託して、事情を知らないノースウエスト航空会社の社員らがノースウエスト航空第八便で新東京国際空港に運送し、平成八年一二月三一日午後一時三〇分ころ、事情を知らない新東京国際空港関係作業員らが機外に搬出し、かつ、紺色小型スーツケースについては、被告人が携帯して航空機から降り立ち、大麻樹脂合計四五二七・三七グラムを日本国内に持ち込んで輸入し、(2)その上、更に新東京国際空港内東京税関成田税関支署旅具検査場を通過して関税定率法上の輸入禁制品である大麻を輸入しようとしたが、上陸審査を受けるため、午後一時三〇分ころ、紺色小型スーツケースを携帯して航空機から降り立って東京入国管理局成田空港支局第一旅客ターミナルビル上陸審査場に赴き、午後一時三〇分ころから、午後二時ころまでの間に、空港関係作業員らが、黒色スーツケースを機外に搬出して東京税関成田税関支署第一旅客ターミナルビル南棟旅具検査場内のターンテーブルまで運送したが、上陸審査の際、午後三時三〇分ころ法務省入国管理局特別審理官により上陸不許可処分を受けた上、午後四時二〇分過ぎころから東京税関成田税関支署職員が、被告人の黒色スーツケース内及び紺色小型スーツケース内を検査した際に大麻を発見したため、大麻を輸入することはできなかった。

(証拠)省略

(補足説明)

一  関税法違反について、未遂罪を認定した理由

1  保税地域を経由しないで通関手続を経て貨物を輸入しようとする場合には、輸入とは、口頭又は書面で輸入申告して輸入することになるが、この場合の輸入とは、通関線たる旅具検査場を突破して貨物を日本国内に引き取る行為を意味すると考えられる。したがって、関税法上の輸入は、通関線たる旅具検査場を突破することで既遂に達する。したがって、関税法上の輸入の着手時期は、通関線たる旅具検査場を突破する現実的危険性のある行為が開始されたときと理解するのが相当である。そうすると、航空機で外国から入国する場合には、特段の事情がない限り、日本国内に着陸した航空機から降り立った以上は、入国審査を経て、税関検査に至るのが通常であり、その時点で、日本国内に貨物が流通する現実的な可能性も飛躍的に高まる。そして、貨物を携帯して輸入する場合には、貨物を携帯して航空機を降り立った時点で、通関線たる旅具検査場を突破する現実的危険性のある行為が開始されたと認められる。また、航空機に機内預託手荷物として預けた場合には、目的空港に到着すれば貨物は自動的に空港作業員等によって取り降ろされることになり、入国する者もそのことを当然認識しているから、空港作業員等によって貨物の取り降ろし作業が開始されれば、通関線たる旅具検査場に搬入されることになり、通関線たる旅具検査場を突破する現実的危険性のある行為が開始されたと認められる。

2  関係証拠によれば、被告人は、シンガポール共和国チャンギ国際空港において、ノースウエスト航空第八便に搭乗する際、黒色スーツケースについては、航空会社従業員に対し、千葉県成田市の新東京国際空港までの受託手荷物として運送を委託して、事情を知らないノースウエスト航空会社の社員らがノースウエスト航空第八便で新東京国際空港に運送し、同日午後一時三〇分ころ、事情を知らない新東京国際空港関係作業員らが機外に搬出し、かつ、紺色小型スーツケースについては、被告人が携帯して航空機から降り立ち、上陸審査を受けるため、紺色小型スーツケースを携帯して東京入国管理局成田空港支局第一旅客ターミナルビル上陸審査場に赴き、そのころ、黒色スーツケースについては、空港関係作業員らが航空機から取り降ろした上、東京税関成田税関支署第一旅客ターミナルビル南棟旅具検査場内のターンテーブルまで運送したが、税関職員に大麻を発見されたことが認められる。

3  2によれば、紺色小型スーツケースについては、被告人が携帯して航空機から降り立ち、黒色スーツケースについては、空港関係作業員らが航空機から取り降ろした上、東京税関成田税関支署第一旅客ターミナルビル南棟旅具検査場内のターンテーブルまで運送したと認められるから、いずれの大麻樹脂についても、関税法上の輸入の着手があったことは明らかである。

4  弁護人は、関税法違反の事実については無罪であると主張するが、採用できない。

二  紺色小型スーツケース内の大麻樹脂について故意を認定した理由

1  被告人は、紺色小型スーツケース内に大麻が入っていたことは知らなかったと主張している。

2  関係証拠によれば、以下の事実が認められる。

(1) 被告人は、二つのスーツケース内をいずれも二重底にして、大麻樹脂二八七〇・六四グラムを、黒色スーツケース内に、大麻樹脂一六五六・七三グラムを紺色小型スーツケース内に、それぞれ、こっそり隠して輸入した。

(2) 被告人の供述によれば、被告人は、通称ハッサンから、大麻は、大きいスーツケースだけに隠しておいた、二つのスーツケースを渡すから小さいスーツケースは、機内に持込み、大きいスーツケースは、機内預けにする、スーツケースを二つ持っているほうがよく見える、スーツケースは二つとも、成田空港で被告人を迎えに来た男に渡すようになどと言われた。

(3) 被告人は、通称ハッサンから、二つのスーツケースを受け取った後に、スーツケースの中は見てみたが、どこに大麻が隠されているか見ただけでは分からず、大麻が隠されているのが大型のスーツケースの中だけなのかどうかは確かめていない。

3  2によれば、被告人の供述は、通称ハッサンから、大麻を運ぶことを依頼され、そのために、いずれにも大麻の隠された二つのスーツケースを、一方にしか大麻が隠されていないと言われたのに、スーツケースを二つ持っているほうがよく見える、などという極めて不自然な理由をつけられて、二つとも預かり、それを二つとも成田空港で被告人を迎えに来た男に渡すよう頼まれたにもかかわらず、大麻が隠されているのが大型のスーツケースの中だけなのかどうかは確かめていないのに、一方にしか大麻が隠されていないと言ったハッサンの言葉を信用したというものであり、その内容自体極めて不自然である。そうすると、被告人が、二重底にした二つのスーツケース内に、いずれも大麻を分散して隠して輸入しようとしたという本件の客観的な犯行態様に照らして、被告人には、紺色小型スーツケース内に大麻が入っていたことについても知っていたと認めるのが相当である。

4  仮に、紺色小型スーツケース内に大麻が入っていたことについて被告人が知らなかったとしても、本件では、被告人は、黒色スーツケース内に、大麻が入っていることを知っていたのは明白であるから、紺色小型スーツケース内に入っていた大麻の営利目的輸入についても、大麻の営利目的輸入という同一の構成要件内の事実の食い違いにすぎず、故意があると認められる。

5  以上によれば、紺色小型スーツケース内に入っていた大麻の営利目的輸入についても、故意があると認められる。

(法令の適用)

罰条

(1)  (包括して)刑法六〇条、大麻取締法二四条二項、一項

(2)  (包括して)刑法六〇条、関税法一〇九条二項、一項、関税定率法二一条一項一号

科刑上一罪の処理 刑法五四条一項前段、一〇条

(重い(1)の罪の刑で処断)

刑種の選択 懲役刑及び罰金刑を選択

未決勾留日数の算入 刑法二一条

労役場留置 刑法一八条

没収 大麻取締法二四条の五第一項本文

訴訟費用不負担 刑事訴訟法一八一条一項ただし書

(量刑の理由)

本件は、日本国内に、大麻樹脂を営利目的で輸入し、さらに税関を通過しようとして未遂に終わった事案である。

被告人が、輸入した大麻樹脂は、四五〇〇グラムを超える大量のものであり、被告人は自ら報酬を得る目的で共犯者と共謀の上、本件を行ったものである。被告人は、二重底の構造となった、スーツケースに大麻樹脂を隠して輸入したもので、手口も巧妙である。被告人は、自ら大麻樹脂を輸入するという重要な役割を分担しているもので悪質である。以上によれば、被告人の刑事責任は重大である。

しかしながら、他方、幸いにして、被告人が日本国内に持ち込んだ大麻樹脂は、全て税関で発見押収されており、結果的には、大麻樹脂の拡散が未然に防止されたこと、被告人には、日本国内における前科はないことなど、被告人について酌むべき事情もある。

以上のような諸事情を総合考慮して、本件については、被告人を相当の期間刑務所に収容してその刑事責任を償わせ、また、営利目的で本件が行われたことからすれば、相当額の罰金刑を科するのが相当と判断した。

(検察官 山口敬之 国選弁護人 伊藤安兼 各出席)

(求刑 懲役六年及び罰金一〇〇万円、大麻樹脂七袋没収)

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