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千葉地方裁判所 昭和30年(行)5号 判決

原告 浅野浅治郎

被告 銚子市議会

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は「被告が昭和二十八年十月十四日なした原告を被告議会の議員から除名する旨の議決は之れを取消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、その請求原因として、原告は昭和二十六年四月銚子市議会議員選挙に当選し以来銚子市議会議員の地位にあつたところ、被告は同二十八年十月十四日の臨時会議において原告を除名する旨の決議をなした。

被告が原告を除名した理由としてあげているところは次の通りである。

(一)  原告が提出せる弁明文撤回通告並びに議会に対する抗議文を議場において全員一致の議決により原告に朗読せしむべき事を議決し議長より之れが再三朗読を命令せられたるにも拘わらず何等正当なる理由なくして之れが命令に従わず之れを拒否したこと

(二)  九月十二日市議会における弁明に対して原告が弁明撤回通告に開し発言の責任を他に転嫁せんとし然かも暴略手段であり横暴なる市議会であると断定している事は自ら議員の品位をきづ付け議会の尊厳を失墜せしめると共に議会を侮辱する行為であること

(三)  議会において委員の中にはブローカーか闇屋の指導者か時代遅れの教育者か精神分裂症か云々とのべ又如何に調査が不備でありデタラメの発表であるかとなし之等一連の処置は軍部の独裁断圧暗黒時代に思をいたせば良民の困苦死斗時代の底流がひそんでいる様に此の書類をみる時に打たれる感があるとか、或いは法的価値なき市議会決議書であると難じ斯くの如き状態たる警告書を見て放置すれば謀略の市会であるか圧政の市会たるか等々の言句を連ねた抗議文について質問し且つ撤回の意思を確めたるに対し之を改めざるばかりか更に強調し議会を侮辱した言辞を弄したこと

の三点が地方自治法第百二十九条第百三十二条に抵触すると謂うのである。

被告は原告を除名した理由を以上の様に上げているが、その除名処分は次の点において違法である。

一、右除名処分は全員着席のまゝ数名の賛成の声で決定し、起立又は記名無記名の投票により決定したのでない。之れは銚子市議会会議規則(以下単に会議規則と称する)第三十五条に違反した決議方法であり特に地方自治法第百三十五条第二項の特別決議の精神にもとるものである。

二、当日の議会で議長は弁明文撤回通告及び抗議文を理由なきものとして却下したにも拘らず再び之をむし返し之れを理由に除名処分をしたが、之れは会議規則第十九条に違反し違法な手続である。

三、弁明文撤回通告及び抗議文は昭和二十八年九月十七日に議長宛に提出されたものであるが、同年十月十四日の議会において之れを取上げ問題にすることは会議規則第六十条第二項に違反し違法な手続である。

四、除名理由の(一)に上げられている原告に対する朗読命令は会議規則第二十二条に違反する違法な命令であり之れを原告が拒否したことは正に正当な行為に外ならない。次にその(二)に上げられている弁明文撤回通告中の「謀略手段であり横暴な銚子市議会である」との語句及びその(三)に上げられている抗議文につき原告に対し質問し且つその撤回の意思を確めた際に原告がなした「議会を侮辱した言辞」との語句は共にそれ自体抽象的語句であつて地方自治法第百三十二条に所謂議会を侮辱した言葉としてその具体的内容が明らかにされていない。懲罰の議決はその議員のした如何なる行為が如何なる懲罰事由に該当するかどうかを具体的に示してなされなければならないにも拘らず、被告議会の前記懲罰議決は何等具体的なその事由を示していないから理由を付さない違法がある。

五、仮りに右の語句が懲罰事由としてその具体的内容を明らかにしていると解せられたにしても、その様な程度の片言隻句を促へて最重最苛の除名処分に付するのは懲罰の種類を選択するにつき議会の自由裁量の限界を遥かに逸脱した違法がある。蓋し除名処分に職員の地位を終局的に剥奪し当該議員の権利義務に重大な影響を及ぼすばかりでなく又当該議員を選出した選挙民がその議員を通じ自己の意思を表明する機会を併せ剥奪するものであるから之れをなすについては最も慎重を要するところでありこの理由は地方自治法第八十条に当該選挙民が議員の解職の請求をするにすら有権者三分の一以上の署名を要するとしていることによつても明らかである。従つて除名処分を適用するには当該議員並びに選挙民に対し蒙らしめる損失と対比しつゝ尚且つ当該議員を除名しなければ議会の秩序を保持し難い程重大なる事由がある場合に始めて可能となるものでありこのことは憲法第九十三条に保障された住民の議員選出の権利並びに憲法第九十二条に規定する地方自治の本旨に基づき制定された地方自治法の趣旨に鑑み当然のことと云うべきであるからである。

六、しかしながら右の語句は抑々無礼の言葉に該当するものでないから除名決議は違法な決議である。この点を明らかにするには原告が弁明文撤回通告及び抗議文を提出するに至つた理由を明らかにすれば足りる。

(1)  原告は銚子市議会における唯一人の社会党左派に属する議員で昭和二十八年六月八日定例市議会において緊急質問に立ち同年三月の市衛生課の宣伝用拡声機購入に関する談合、不当価格購入等につき追及するや、保守派議員は昭和二十六年三月原告が電気器具業者として市消防署へ納入した自動車用拡声機の件につき突如質問の矢を放ち遂に右二件を合せて特別調査委員会の調査に付託することとしその調査は爾後三ケ月に亘つて続けられた。

(2)  同年九月八日定例市議会において右特別委員会の報告が行われたが、その内容は市衛生課購入の拡声機については購入手続に多少の慎重を欠いた点があるが不正はなく、却つて原告は巷説を信じ確たる証拠もなく不正行為あるかの如き言辞を弄し議会を煩わしたものであつて原告の行動は自ら議員たる体面を汚辱し且つ議会の権威を失墜したものであると云うものであり、市消防署購入の照明自動車用拡声機については原告が落札するに至つた再入札執行はその理由乏しく妥当を欠き市会議員の地位を利用したような感を抱かせ遺憾である。昭和二十六年十一月の右拡声機用コイル修理については保証期間中であるにも拘らず原告はその修理代を収受し不可であると云うのであつた。

(3)  しかし最初の件については、落札価格が市価に比し一割八分の高価であることは特別調査委員会の認めるところであり、この様な高価な落札価格が決定したのは実は競争入札をしなかつたからである。而もその部品中「コンバーター」は中古品を使用しており、トランペツトスピーカーは三十ワツトとなつているに拘らず実際には二十五ワツトを使用していた等の不正が行われていて右報告書の結論は全くあたらないのである。

又後の件については、再入札に至つたのは最初の入札の際の見積価格が事前に他の業者に漏れたので原告を始めとする右入札に見積書を提出した関係業者が陳情書を市長に提出しその結果再入札となつたのであり、次に修理費の件について保障期間中製作不備による故障は原告が無償で修理すべき義務は負つていたが、注文者の方の取扱が悪いためにこわしたものまで原告が無償修理する義務は負つていなかつたのであるが、問題の故障は消防署側の取扱が不注意による故障であつたのでその修理費を徴収したのであつてこの件については原告に何等の不当はなく右報告書は共に誤つているのである。

(4)  右の如く事実を糊塗した不当な報告であつたため当日の議会は原告との間に大激論が交わされ同月十二日の市議会で更に続行される運びとなつた。そしてその当日原告は一身上の問題であると云う理由で退席させられていたが、その退席中に市議会議長の名で原告に対し一方的な内容の警告書なるものが発せられた。原告は控室で待つていると川崎茂、渡辺寛一両議員が来り事実を偽つて「原告の主張が通つたから悪いようにはしない。原告も前回の議会で発言した荒つぽい言葉を柔げるため一言弁明したら良からう」等と巧言を弄し原告に議場で弁明することを勧告した。そこで原告は自分の主張が通つたとのことでもあつたので之れを承諾して議場で一言弁明したところその後で立つた市長の答弁中に「浅野議員も消防署用マイクのコイルを自分で破かいしたことを認めているからその良心に待つ云々」の語があり、原告ははじめて全く自己の主張が通つていないことを知り直ちに市長の言に反ばくし、且つ警告書に反ぱくするため抗議文及び弁明文撤回通告を同月十七日に議長宛提出したのである。

(5)  この様な詐欺的手段で弁明させられ、且つ原告は真に正義のためにたゝかつたにも拘らず逆に警告書と云う形で一方的に原告を悪いものときめてしまつた議会のやり口に対して反ばくしたのであるから弁明文撤回通告、抗議文等が自ら烈しい語句となつたのも当然である。正に事実に於て謀略手段であり横暴な市議会であつたのである。故に事実をありのまゝに述べた斯かる言句は何等無礼の言葉ではないのである。

以上によつて明らかな通り被告議会がした本件除名の議決は違法であるからその取消を求めるため本訴に及んだ次第であると述べた。(立証省略)

被告訴訟代理人は主文同旨の判決を求め、答弁として原告が昭和二十六年四月銚子市議会議員選挙に当選し以来銚子市議会議員の地位にあつたこと、同二十八年十月十四日の臨時市議会において被告議会が原告を除名する旨の決議をしたこと、被告が原告を除名した理由は原告主張の如き三点が地方自治法第百二十九条第百三十条に抵触するとしたことは認めるが被告が原告を除名したことは左記の理由により適法である。

一、原告は本件除名処分は全員着席の侭数名の賛成の声で決定し起立もせねば記名無記名の投票もなかつたことは会議規則第三十五条に違反した決議方法だと申立て居るが、

全員異議なく満場一致賛成と云うときには起立によることも、記名無記名の投票によることも必要としない可、否不明のときに於てその議題を可とする者を起立させ起立者の多数を認定して可否の結果を宣告する。

但し議長が必要と認めたとき又は議員から発議があつたときは起立の方法を用いないで記名又は無記名投票で表決してもよろしい。

本件については議長が委員長の報告に異議がないかどうか会議に諮つた処満場異議がない(出席議員三十名)ので委員長報告通り二十四番議員(原告)を銚子市議会より除名することに決定したのである。従つて原告の此の点に関する申立は理由がない。

二、更に原告は当日の議会で議長は弁明文撤回通告及抗議文を理由なきものとして却下したにも拘らず再び之れをむしかへし、これを理由に除名処分にしたことは会議規則第十九条に違反した違法手続だと謂うがそれは違う、法律や会議規則を無視して為されたものではない。議長は九月十二日市議会が決議した警告書に対する原告の弁明文撤回通告及び抗議文が九月十七日議長宛に提出されているが理由がないものとし却下することに致しますので報告しますと述べるや三十一番議員より浅野議員より提出の抗議文が議長より却下すると云うことであるが、我々は内容について正式に聞いて居ませんので朗読をお願いしたい

二十九番議員は提出者に朗読願いたい(賛成者多し)議長は二十四番議員に朗読させることに異議ないかどうか会議に諮つた処満場異議ないので二十四番議員に朗読願いたい旨告げる

二十四番議員は僕が読む必要ないと拒む

右の様な事実であつて弁明文撤回通告及び抗議文を却下したことはないのに二十九番議員先程議長に弁明文撤回通告及び抗議文を却下すると云うことであつたが或る時期迄保留することの動議を提出賛成の声多し議長は二十九番議員に異議ないかどうか会議に諮つたところ異議ないので保留する旨を告げる

却下する報告に対し異議ありて保留となりたるもので原告の主張する事は真実でない

三、弁明文撤回通告及び抗議文は昭和二十八年九月十七日に議長宛に提出されたことは原告の主張通りでその提出された後の最初の市議会の開会は十月十四日である。当日の議会において原告の提出した弁明文撤回通告及び抗議文が審議せられたので会議規則第六十条第二項に違反しない十月十四日から二日以内に議会に懲罰処分を要求すればよろしい。何んとなれば懲罰事実の発生した日は十月十四日市議会が開会せられてからである。

四、原告に対する朗読を命じたるは会議規則第二十二条に違反すると謂うが、

九月十二日議決した警告書に異議があり反対があるとすれば口頭による陳述か文書による。

文書を以て提出した場合に於ても提出者自ら議会に於て他に促せられることなく自ら進んで自己の所信を正々堂々と被控すべきであつて代読或は代弁(自己の陳述したいことを他に代つて陳述して貫うこと)せしむ可きでない

弁明文撤回通告及び抗議文は当然原告が市議会に於て朗読すべきもの陳述すべきものであるに拘らず敢へて之を為さぬ故に議会の決議によりて朗読を命ぜられるゝに至つたものであるに拘らず議長の命に従はなかつた原告の主張は理由がない。

五、右の通り被告議会のなしたる原告に対する除名処分は適法である。地方自治法第百二十九条第百三十一条第百三十二条第百三十三条第百三十七条及び会議規則に違反した議員に対し議決による懲罰を科し得ることは地方自治法第百三十四条に定むるところであり被告議会が原告に対して為したる処分は手続の上に於ても形式的にも何等違法はないばかりでなく抑々懲罰権は議場における議員の言動に秩序あらしめ且つ議会の品位と権威を維持せんが為地方自治法及び会議規則に於て規定せられた処に発し従つて同法に定めた一定の事由がある場合に限り前記目的達成のため必要な限度内に於て当該議会が自主的に行使し得るものであり一定の事犯に対し如何なる懲罰を課すべきやは地方自治法並びに会議規則にも此の点に関する規定を欠くのでこの間若干裁量の余地あるも原告の前記除名理由に上げられている所為は到底議会人と相いれざるものありてその適格を欠く以上市議会が為したる除名処分は実質的にも適法であり適正な処置にして之れに対し何等批判されるべき点はない

依つて原告の本訴請求は理由がないので棄却せられるべきであると述べた。(立証省略)

理由

原告が昭和二十六年四月銚子市議会員選挙において当選し銚子市議会議員であつたところ、被告議会が同二十八年十月十四日の臨時市議会において原告を除名する旨の決議をなし、その除名の理由が原告主張の如き事由にあつたことは当事者間に争いなく、右除名理由を通読するとその趣旨とするところが理解し難いのでその点につき考へるに、成立に争いない甲第四号証、同第八、九号証の各記載、証人根本竜治、同石井繁夫の各証言、被告議会代表者吉原隆治の訊問の結果を綜合すれば、右昭和二十八年十月十四日の臨時市議会において議長が先きに原告が同年九月十七日議長宛に提出した弁明文撤回通告及び抗議文につきその理由がないものとして却下しようと考へその措置をとるにつき議会の了解を得るため之れを報告したところ、二十九番議員から右各文書の提出者たる原告に之れを朗読願いたい旨の動議が提出され、之れが採択されて議長が原告に対しその旨要請したが、原告が之れに応ぜず拒否したので結局右会議に立会つた書記が朗読し、続いて右各文書の成立、意味、内容等につき出席議員と原告との間に論議が繰返され、遂いに二十七番議員から二十四番議員(原告)の右抗議文の内容に許されない言葉があり之れが懲罰に値するものとして懲罰の動議が提出され、その動議が成立し原告を懲罰に付することとなり議長が指名した九名の議員を以て構成された懲罰特別委員会が設けられ、尚前記の如く原告が議長の要請を拒否して前記各文書の朗読をしなかつたことも併わせて右特別委員会に附託されたところ、右特別委員会は前記の如く原告主張の様な事由を理由として原告を除名することに決定したので、右特別委員会の委員長がその旨議会に報告し、議長が右委員長報告に異議ないかどうかを会議に諮つたところ、満場異議ないので委員長報告通り原告を除名することに決定し、除名の議決が成立したことが認められ、右認定の如き経過で原告を除名する決議が成立した事情と証人根本竜治同川崎茂の各証言及び前示各甲号各証とを併わせ考察すれば、右除名理由の趣旨とするところは(一)前記十月十四日の議会に於て弁明文撤回通告及び抗議文を満場一致で原告に朗読せしめる議決をし議長がその議決に基づき朗読方を命じたが、原告がその命令に従わず之れを拒否したことが議場の秩序を乱し地方自治法第百二十九条に該当する。(二)前記「弁明文撤回通告」の文中において昭和二十八年九月十二日の定例市議会において原告がした弁明は当時議会と原告との間をとりもつた渡辺、川崎両議員から事実を欺かれてそれをするやうに勤められた結果弁明したのであるとして、それは「謀略手段であり、横暴たる銚子市議会である」と断定しているが、その「謀略手段であり、横暴たる銚子市議会である」との語が、地方自治法第百三十二条に所謂無礼の言葉に該当する、(三)前記「抗議文」の文中において昭和二十八年六月八日定例市議会において市衛生課が同年三月購入した宣伝用マイクと、市消防署が同二十六年三月購入した消防自動車用拡声機との二件に関し、不正の事実の有無を調査するため特別委員会が設けられ、右委員会はその調査をした結果として、同二十八年九月八日の定例市議会に於て右衛生課の件については不正行為はなかつたが、購入手続について慎重を欠いた点があり、又右消防署の件についてはその購入手続において再入札をした理由は薄弱であり、尚その修理費について市が不当支出した旨を発表し、その発表に基ずき市当局及び原告に対する措置を決するにつき特別委員会が設けられ、右委員会は同年九月十二日の定例市議会において市長に対しては意見書を原告に対しては警告書を出すことに決定した旨報告し、議会はその報告通り之れを決定したところ、原告は右調査特別委員会の調査の結果は不充分であつて正確でなく、又原告に宛てた警告書の内容は全く事実と相違しているとなし、右特別委員会の報告に抗議する言葉の中で「委員の中にはブローカーか闇やの指導者か時代遅れの教育者か精神分裂症か」又営利に「サトイ」商人の一人や二人はいたかいないか知らないが云々「如何に調査が不備でありデタラメの発表であるか」と述べ又右警告書に抗議する言葉の中で「法的価値なき市議会決議書」であると断じ尚「之等一連の処置は軍部の独裁断圧暗黒時代に思いを致せば」云々「良民の困苦死斗時代の底流が竊んでいる様に此の書類を見る時に打たれる感がある斯くの如き状態たる警告書を見て放置」すれば云々「謀略の市会であるか圧政の市会たるか」等々と述べてそれを攻撃しているがそれら一連の文句が議会を侮辱し地方自治法第二百三十二条に所謂無礼の言葉に該当するので右三者を併わせて共に同法第百三十四条を適用し同法第百三十五条並に銚子市議会会議規則第六十条第六十一条に則り原告を銚子市議会議員から除名すると云うにあることが認められる。

そこで原告が右除名決議が違法であると主張する事由について順次判断をする。

一、成立に争いない甲第四号証の記載、証人根本竜治、同石井繁夫の各証言、被告議会代表者吉原隆治の訊問の結果を綜合すれば、被告議会の昭和二十八年十月十四日の臨時議会において、懲罰特別委員長から同委員会において原告を前認定の理由により除名処分に付する決定がなされた旨報告があり、続いて議長がその報告に異議がないかどうか会議に諮つたところ、出席議員三十名全員が満場異議がなかつたので右委員長報告通り原告を銚子市議会議員から除名することに決定し、その議決がなされたことが認められる。会議規則第三十五条は「議長議題を表決するときはその議題を可とする者を起立させ起立者の多数を認定して可否の結果を宣告するものとする。但し議長が必要と認めたとき、又は議員から発議があつたときは起立の方法を用いないで、記名又は無記名投票で表決することができる」旨定めているが、これは議題につき意見が分れて一致しない場合その表決をする際の規定であつて、全員異議なく満場一致賛成と云う場合にまで右の方法による採決をしなければならないと云う趣旨とは解せられない。蓋し斯様な場合にまで右の方法によらなければならないとする実益は存しないからである。従つて原告のこの点に関する主張は失当である。

二、前掲挙示の各証言によれば、原告は昭和二十八年九月十七日議長宛の「弁明文撤回通告」及び「抗議文」を市議会事務局に提出し、議長は普通この様な書面の提出があつた際にはその内容により議長個人の考へで処理する場合と、又議会に諮り処理する場合とがあつたが、右の各書面については議長個人としては之れを却下する考へではいたが、その内容が重大なため一応議会に諮りその了解を得て処理することとし、前記十月十四日の臨時市議会において、その冒頭日程を変更して右各書面が議長宛に提出されているが理由がないものとして却下することとする旨報告を行つたところ、右各書面の内容を知らない三十一番議員からその朗読方を、続いて更に二十九番議員からその提出者たる原告にその朗読を願いたい旨の動議が提出され、その動議が成立して議長が之れを会議に諮り満場異議なかつたので原告に朗読願いたい旨を告げたが、前記の如く原告が之れを拒んだことが認められる。成立に争いない甲第四号証によれば同日の会議録には議長が「日程を変更して去る九月十二日議決した警告書に対する弁明文撤回通告及び抗議文が九月十七日二十四番議員(原告)より議長宛提出されているが理由がないものとして却下することに致しますので御報告します」との記載があるがその趣旨は同会議録を通読し前記被告議会代表者吉原隆治の供述を併わせ考へれば結局右認定の如く解せられる。そして右認定の事実によれば、議長が右各書面の処置につき発案し、之れが議題として会議に上程され、進んで原告にその朗読を願いたい旨の動議が成立したものと解せられるので、この点に関する原告の主張も理由がない。

三、右認定の如く十月十四日の臨時議会において右各書面に対する処置が議長の発案により議題として上程され、更に原告にその朗読を願いたい旨の動議が成立したと解せられる以上、右会議において、これを取り上げ論議したことは相当であつて会議規則第六十条第二項に違反したかどはなく、この点に関する原告の主張も理由がない。

四、次ぎに原告は除名理由に上げられている(一)前示朗読命令は会議規則第二十二条に違反する命令であり之れを原告が拒否したのは正当である(二)地方自治法第百三十二条に所謂「無礼の言葉」に該当するとされている「弁明文撤回通告」の中の「謀略手段であり横暴な市議会である」との語句、及び(三)「抗議文」中の「議会を侮辱する言辞」との語句は、共にそれ自体抽象的語句であつて何ら具体的な懲罰事由を指適していないから結局理由を付さない違法があると主張するのでこの点につき考へるに、(一)会議規則第二十二条は「議長は議題とした議案を書記をして朗読せしめるものとする。但し便宜その朗読を省略することができる」と規定し、議題は書記をして朗読せしめることが原則であるが、その朗読を書記以外の者にさせる旨の動議が成立した場合に之れを禁止する理由はない。従つて前認定の如く右各書面を原告に朗読願いたい旨の動議が満場一致で成立して採択され、これに基づき議長が原告に対しその朗読を命じたのは相当であるが、その命令に応じて原告が之れを朗読しなかつたからと云つて、右の決議に従わなかつたことを理由として之れに懲罰を課することは違法であると謂わねばならない。蓋し右の決議がなされたとしても、それは原告の意思とは無関係になされたもので、そのことにより原告にその朗読をしなければならない義務が発生するとは到底考へられないからである。そしてそうである以上原告が之れを拒絶したとしても、それは多数意見の尊重を基調とする議会制度の本質に鑑み或いは妥当な態度でないとの非難を免れないかも知れないが、何等違法な所為ではなく、それによつて、議会の秩序を乱したことにはならないからである。従つて右の原告の所為を促へて地方自治法第百二十九条に該当するとなし、之れを除名理由の一とした被告議会の処分は違法である。(二)地方自治法及び会議規則には懲罰処分を付するに際し、その事由をどの程度具体的に掲げなくてはならないかを規定していない。そこで抽象的にしろ、その理由が記載されている以上懲罰決議としてはそれで充分に適法であり、更に具体的な事由を掲げなくてもそのことだけで直ちに懲罰議決を違法ならしめるものと解することはできない。而して原告主張の如き語句も理由として充分に適法であると解せられるばかりでなく、前認定の如くその除名理由は右各書面に具体的に記載された語句にあると解されるから、この点に関する原告の主張も理由がない。

五、次ぎに前認定の如き除名理由として挙げられた語句が所謂無礼の言葉に該るか否かを考へるに、これについては単に前記の如き言葉そのものだけでなく、右の発言がなされた経緯や、その当時における議場の情勢を併せ考へなければならないと思はれるので、先づそれ等の点についてみるに、成立に争いない甲第一乃至十号証の各記載、証人根本竜治、同川崎茂、同石井繁夫の各証言、被告議会代表者吉原隆治の供述とを綜合すれば、原告は昭和二十八年六月八日の定例市議会において緊急質問に立ち、同年三月市衛生課において購入した拡声機に関し談合入札が行れた旨追及したところ、三十五番議員から原告が昭和二十六年三月市消防署へ納入した照明自動車用拡声機に関し不正があつた旨質問を受け、結局右二件について特別委員会を設けて調査することに決定し、同委員会は爾後三ケ月に亘り調査を続け、同年九月八日の定例市議会においてその調査の結果を報告したが、その内容は衛生課購入の拡声機に関しては、その購入手続に慎重を欠いた点はあるが不正はなく、却つて原告は他の委嘱により或は巷説を信じ確たる証拠もなく、市役所に不正行為があるかの如き言辞を弄し議会をわづらはしたものであつて、この原告の行動は自ら議員たるの体面を汚辱し且つ議会の権威を失墜したものであり、依つて委員会は市当局に対しては、この種事務を取扱う場合は特に意を用い苟しくも他から指弾をうけることのないよう職員の監督を厳にせられたい旨要望すると共に原告に対しては議員としての節度を保つよう議会は警告することを議決すべきであると謂うにあり、又消防署購入の拡声機に関しては、購入手続について再入札の上原告に落札したが、その再入札を執行するに至つた理由が極めて簿弱で妥当を欠き、尚前後二回の入札価格に少くない差額があることも理解しがたく、原告が市会議員の地位を利用した様な感じを抱かせ遺憾である。尚その修理代金をその保証期間中であるのに、市当局が支出し原告がこれを収受したのは不可であり、依つて委員会は市当局の執つた処置は不当支出を始めその他適当でないと云うに意見一致したと謂うにあつた。しかし原告は右の報告には違つている点が多々あるとし、之れに承服できなかつたのでこれを反ばくし、論議を繰返したが、右の報告はその報告通り会議において決定され、その趣旨に基づき市当局及び原告に対する処置を決定するため特別委員会が設けられ、同日の議会は同月十二日に続行されることになつた。そして、同月十二日市議会において原告は一身上に関する事件を議せられるとの理由で退席させられた上、右委員会は市長に対して意見書を、原告に対して警告書を出す事に決定した旨報告し、之れが議案として上程され休憩となつたところ、先般からの成行について原告の進退を案じていた川崎、渡辺両議員が険悪化した原告と議会との間をとりもち円満に事態を収拾しようとして控室に待つていた原告に対し「貴君の言分は大体通つたと思う。これ以上紛糾することは好ましくない。市会の諸君に相当の苦労をかけたからこの際一応弁明したらどうか」と勧め、こゝに原告も之れを了承して右渡辺議員が文案を練り川崎議員がこれを筆記して弁明文を作成し、原告は右弁明文を再開へき頭朗読して弁明をしたが、続いて前記議案が、前同様の理由で原告退席の上審議され、満場異議なく右委員会報告通り決定され、続いて弁明に立つた市長が「消防署のマイクについてその修理代は保障期間中であつたが、消防署では使用が悪くなかつたと云い原告の方はその使用が悪かつたと云つて水掛論となり調査はしたが、時恰も防火週間があり、修繕を急いでいた事情もあつたので、市議会議員としての原告の人格を信じその言う通り消防署の取扱いが悪いとして支払つたものである。特別委員会でボイスコイルを破壌した事を原告が認めているのでその賢明なる良識に待ち理事者として警告書により善処したいと思つている」趣旨の発言があつたこと、原告が九月十七日議長宛に前記弁明を撤回する旨の「弁明文撤回通告」、及び前記警告書に対する「抗議文」の二文書を市議会事務局に提出し、議長がこれを議会の了解を得て処置することとして報告したところ、前認定の如き経過を経て原告を除名する議決が成立するに至つたものであることを認めることができ右認定を覆すに足る証拠はない。そして本件事実関係が果して以上認定した通りだとすれば、原告が前示衛生課及び消防署の件に関し特別委員会がした調査の報告につき真にそれが不当だと思料する限りにおいては市議会において之れに反ばくし、之が真相を究明するため自己の意見を述べて論議することは必ずしも非議すべきではなく、寧ろ議員としてその職責を全うする所以であるとも考へられるが、之れについてはその事項について自己の意見を述べ、又は他の議員のこれに対する意見等を批判するについて必要な範囲に止まるべきであり、その限度を超えて不必要に痛烈な措辞を使用し、これがために他の議員等の正常な感情を反発するときは無礼な言葉として許されない言論であると解すべきであり、原告が前示委員会の調査の結果を不当だとして、之れに関し議会において自己の意見を述べこれを反ばくして論議を重ねたことは議員として正当な言動であつたが、前記の如く、渡辺、川崎両議員の勧めを了承して弁明をした以上、原告もその弁明の趣旨に従い自ら省るところがあるべきであつたにも拘らず、前記の如き市長の発言や、市当局に対する意見書と共に原告に対する警告書が出されるに及び、弁明文撤回通告及び抗議文を提出し、即ちその前者の文中において、その弁明は前記渡辺、川崎両議員から事実を偽り巧言を以て勧告された詐欺的手段によつてなされたものとして之れを撤回する旨、更に後者の文中において右警告書の内容は事実に反するとして之れに抗議する旨前認定の如き激越な言葉を使用して自己の意見を主張する二文書を提出したのであるから、前示の如くその二文書が議会に於て朗読されその内容を知つた他の議員から追及されたことは当然であつて、殊に前記除名理由に上げられている「弁明文撤回通告」中の「謀略手段であり横暴たる銚子市議会である」との言葉や、「抗議文」中の「委員の中にはブローカーか闇屋の指導者か時代遅れの教育者か精神分裂症か云々」との一連の言葉は、右の経緯と、当時の情勢とに照らすなならば原告が主張する様に単に事実を直言したに止まるとは云い難く、前記弁明を弁護し、又警告書の内容を反ぱくし之れに対する反対意見を高唱するのあまり、徒らに感情の末に走り、却つて事実を独断妄想して前示の如き限度を超へた痛烈な措辞で他の議員や被告議会を攻撃した侮辱的言辞として、議会人たるの冷静な分別を欠きその礼を失した無礼な言葉であると謂はねばならない。ところで議員の懲罰に関し、地方自治法第百三十四条第百三十五条は議会は地方自治法及び会議規則に違反した議員に対し議決により懲罰を科することができるものとし、その懲罰の種類を四種類に限定しており、その懲罰事犯の認定せられた事犯につきいかなる種類の懲罰を科するかは、議会の裁量に属することとして議会にまかされているが、事犯の認定を誤り懲罰の議決をしたときは事実を誤認したものとして違法な議決となり、又認定された事犯に対し懲罰の種類を選択するときにも、その事犯に比し著しく客観的妥当性を欠き甚だしく判断を誤つているときは違法な議決となると解すべきであり、この意味で懲罰の種類の選択は全面的に議会の自由裁量に属する問題であると云うべきではない。そして更に地方自治法第百三十二条は、普通地方公共団体の議会においては、議員は、無礼の言葉を使用し又は他人の私生活にわたる言論をしてはならない旨規定しているが、地方議会の懲罰権は議会における言動を規整して之れを公正ならしめ、議事を円滑に運営することによつてその秩序を維持し、その権威を保持するための紀律権であるから、その対象となり得るものは議員の議会内における行為、及び之れと同一視されるべき場所でなされた行為に限定されるべきであると解すべきであるが、原告の前記除名理由に上げられた語句は、何れも「弁明文撤回通告」及び「抗議文」中に述べられた文句であり、当初議会事務局に提出されたものであつて議会内で発言された言葉でないが、前示の如く議会に発表するため作成されたものであり、結局議会において原告自身によつてではないが書記によつて朗読され、その内容等につき他の議員と原告との間で論議されているから、前示語句は之等の事実に基ずき明らかに原告の議会内における言葉に転移したと解せられ、このことは原告が右文書を作成提出する際予見していたものであり被告議会がその語句を以て同法条に所謂原告が議会において無礼の言葉を使用したとして懲罰理由に問疑したことは相当であつたと謂うべきである。そこで右の事犯について懲罰として四種の種類の中から除名を選択し、原告を除名処分に付したことが前述の観点から相当であつたか否かを考察すると、前示の如く除名理由に上げられた語句は、原告が元来市の衛生課で購入した拡声機に関し不正な事実があるとして議会で質問したことに端を発し、これが発展した結果発表されたもので右市衛生課で購入した拡声機についてはその購入手続に関し慎重を欠いたことが調査の結果判明したことは前示の如くであり、又市消防署で購入した照明自動車用拡声機についても調査の結果その購入手続に関し再入札をした理由が薄弱であつたのであり、又その修理代については如何に緊急の必要に迫られていたとは云へ、その故障の原因を究めることなくして単に原告の人格を依頼しその原因が原告の主張する通りであつたとして、その修繕代を支払つたことは市の理事者として妥当な処理とは云ひ得ないから、例へ被告議会がこの様な市の理事者に対する処置として之れに対し意見書を発して吏員を監督して市政上に遺漏なきを期するよう要望する処置をとつたとしても、尚その程度の処置のみでは不充分であつたと断ずるのを至当とすると考へられるので、被告議会がこれ等に顧みることなく原告の前示語句をとりあげて之れに対し前示の如き極刑とも云うべき地方住民の信任に基づいて公選された議員の地位を全く剥奪して了う除名処分にしたのは、いさゝか行き過ぎの感なきを得ないのである。併しながら原告の使用した語句は、前記甲第四号証の記載によれば原告は事実に基づかず単なる想像に基づき使用したとしこの点につき他の議員から追及されても要領を得ずあいまいもことした答をしており、斯かる事実から推測すれば、原告は議会において議員としての職務を自覚し、之れに基づいて責任ある言動をなしていたものとは遽かに断定できないのみならず、斯かる言動は議員としてその品位を傷つけひいては議会の権威を失墜すること多大なものがあると認められるから、被告議会のした除名処分は前記の如く行き過ぎの感ないではないが、尚前示の如くその懲罰の種類の選択を誤り、その事犯に比し著しく客観的妥当性を欠き、之れがため甚だしく判断を誤つたと認められ、ひいて右除名決議の違法を来たすまでに至つたものとは認めることができない。果してそうだとすれば被告議会のした除名決議は結局において正当であると謂わなければならないから、原告の右除名決議の取消を求める本訴請求はその理由がないものとして棄却すべきものとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条を適用し、主文の通り判決する。

(裁判官 石井麻佐雄 前田了吉 福田健次)

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