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千葉地方裁判所 昭和46年(行ウ)3号 判決

原告

戸村一作

外九五名

右原告ら訴訟代理人弁護士

小長井良浩

右同

藤田一伯

右同

葉山岳夫

右同

近藤勝

右同

安武幹雄

右同

大森明

右同

内野経一郎

右同

山崎泰男

右原告戸村一作、同三ノ宮武二、同菅澤昌平、

同石井稔朔訴訟代理人弁護士

竹之内明

被告

千葉県収用委員会

右代表者会長

小川彰

右指定代理人

田中澄夫

外六名

主文

一  被告が別紙物件目録(一)ないし(六)記載の各土地について昭和四五年一二月二六日付けでなした別紙千収委第二六〇号裁決書記載の土地収用裁決の取消しを求める別紙目録(二)の一ないし五及び別紙目録(三)記載の原告らの訴えをいずれも却下する。

二  被告がなした第一項の土地収用裁決のうち別紙物件目録(二)ないし(六)記載の各土地に係る裁決の取消しを求める別紙目録(一)の(1)記載の原告らの訴えをいずれも却下する。

三  被告がなした第一項の土地収用裁決のうち別紙物件目録(一)、(三)ないし(六)記載の各土地に係る裁決の取消しを求める別紙目録(一)の(2)記載の原告らの訴えをいずれも却下する。

四  被告がなした第一項の土地収用裁決のうち別紙物件目録(一)、(二)、(四)ないし(六)記載の各土地に係る裁決の取消しを求める原告伊橋利春の訴えをいずれも却下する。

五  被告がなした第一項の土地収用裁決のうち別紙物件目録(一)ないし(三)、(五)、(六)記載の各土地に係る裁決の取消しを求める原告石井稔朔及び原告鈴木敏二の訴えをいずれも却下する。

六  被告がなした第一項の土地収用裁決のうち別紙物件目録(一)ないし(四)、(六)記載の各土地に係る裁決の取消しを求める原告田下幸及び原告菅澤昌平の訴えをいずれも却下する。

七  被告がなした第一項の土地収用裁決のうち別紙物件目録(一)ないし(五)記載の各土地に係る裁決の取消しを求める別紙目録(一)の(6)記載の原告らの訴えをいずれも却下する。

八  被告がなした第一項の土地収用裁決のうち別紙物件目録(一)ないし(六)記載の各土地に係る損失の補償に関する裁決の取消しを求める別紙目録(一)の(1)ないし(6)記載の原告らの訴えをいずれも却下する。

九  被告がなした第一項の土地収用裁決のうち第二項ないし第八項において却下したものを除くその余の裁決の取消しを求める別紙目録(一)の(1)ないし(6)記載の原告らの請求をいずれも棄却する。

一〇  訴訟費用は原告らの負担とする。

事実

当事者双方の申立て及び主張並びに証拠関係は、別紙事実の第一ないし第三記載のとおりである。

理由

一本件裁決

〈証拠〉によれば、被告は、別紙千収委第二六〇号裁決書(以下「裁決書」という。)記載のとおり、本件裁決をした事実を認めることができ、右認定に反する証拠はない。

これによれば、本件裁決の主文は、裁決書記載のとおりであって、本件各土地及びその地上の立木について、起業者公団が、それぞれの土地所有者及び関係人である立木所有者らから、裁決書添付別表第3記載のとおりの共有持分に応じて、その所有する各土地及び立木の持分権を昭和四六年一月三一日に取得するとともに、同日を期限として土地所有者及び関係人らが、公団に本件各土地を明け渡すほか、立木を引き渡すものとし、これに対して、公団が、同別表第3記載のとおり、土地所有者及び関係人らに対し、土地及び立木について、共有持分に応じた損失の補償をすることを内容としている。

したがって、本件裁決の効力は、同別表第3記載の土地所有者及び関係人らに対し、その者らがそれぞれ共有持分権を有する土地及び立木についてのみ生じているものであり、同別表第3記載の土地所有者及び関係人らについても、各人が共有持分権を有する土地及び立木以外の部分について、並びに本件裁決について関係人でないとされた者らに対しては、いずれも本件裁決の効力が及んでいるものではない。

二当事者適格

1  別紙目録(三)記載の原告ら

別紙目録(三)記載の原告らについては、その者らが本件各土地及びその地上の立木について、所有権若しくは関係人となり得る権利を有することを認めるに足りる証拠はない。したがって、右の原告らは、本件裁決の取消しを求める法律上の利益を有しない。

2  別紙目録(二)の一ないし五記載の原告ら

別紙目録(二)の一ないし五記載の原告らについては、同原告らが、それぞれ同目録の一ないし五に記載された(一)、(三)ないし(六)の各土地について、「その土地に立入り、肥料、燃料用のマキ、ソダ、干草を持分に応じて採取することができる。」とする無償貸借契約確認証(いずれも成立に争いのない乙第五〇ないし第五五号証)が存在する。そこで、右権利の実体関係についてみるに、まず、その対象土地と借主の人数との関係は、(一)の土地については実測86.40平方メートルの面積に三四四名、(三)の土地については実測327.54平方メートルの面積に三五六名、(四)の土地については実測97.69平方メートルの面積に六〇名、(五)の土地については実測565.02平方メートルの面積に二一八名、(六)の土地については実測226.54平方メートルの面積に三六四名というものであって、いずれもその面積と対比して、社会通念上異常に多数の借主が存在し、およそ物の引渡しを要件とする使用貸借契約としては、実現が不可能と考えられる。次に、前記確認証の記載によれば、その借主のうちには、未成年者が多数含まれており、その中には四歳や五歳の幼児まで含まれているのであって、その作成の過程及び契約締結の経緯について多くの疑問点がある。また、前記確認証による契約締結の年月日は、いずれも昭和四一年一二月一五日とされているところ、確認証の作成年月日は、いずれも昭和四五年四月三〇日である。ところで、証人西内繁行の証言により成立を認める乙第四九号証及び同証人の証言によれば、被告は、昭和四五年四月二〇日、本件各土地について意見書を提出した者に対し、関係人・準関係人の照会を行い、その照会において、各人の権利を証明するに足りる書面を提出することを求めた事実を認めることができる。このように、前記確認証の作成日が、右照会がなされた日に近接していることに照らせば、前記確認証は、被告から関係人・準関係人の照会を受けた後に、その契約締結の日時を遡らせて、急遽作成されたものと推測することができる。以上を併せて考えると、前記確認証は実体を備えたものか疑わしく、これをもって原告ら主張の権利関係を認めるのは相当でない。

他に別紙目録(二)の一ないし五記載の原告らが、本件各土地について、所有権若しくは関係人となり得る権利を有することを認めるに足りる証拠はない。

したがって、右の原告らは、本件各土地及び同土地上の立木について、本件裁決の取消しを求める法律上の利益を有しない。

3  別紙目録(一)の(1)ないし(6)記載の原告ら

(一)  別紙目録(一)の(1)記載の原告ら

前記一に説示したとおり、別紙目録(一)の(1)記載の原告らは、(一)の土地及び同土地上の立木の各持分権について本件裁決を受けた者であり、同原告らが、(二)ないし(六)の各土地及び同土地上の立木について、所有権若しくは関係人となり得る権利を有することを認めるに足りる証拠はない。

したがって、右の原告らは、本件裁決のうち(二)ないし(六)の各土地に係る裁決の取消しを求める法律上の利益を有しない。

(二)  別紙目録(一)の(2)記載の原告ら

前記一に説示したとおり、別紙目録(一)の(2)記載の原告らは、(二)の土地及び同土地上の立木の各持分権について本件裁決を受けた者であり、同原告らが、(一)、(三)ないし(六)の各土地及び同土地上の立木について、所有権若しくは関係人となり得る権利を有することを認めるに足りる証拠はない。

したがって、右の原告らは、本件裁決のうち(一)、(三)ないし(六)の各土地に係る裁決の取消しを求める法律上の利益を有しない。

(三)  別紙目録(一)の(3)記載の原告

前記一に説示したとおり、原告伊橋利春は、(三)の土地及び同土地上の立木の各持分権について本件裁決を受けた者であり、同原告が、(一)、(二)、(四)ないし(六)の各土地及び同土地上の立木について、所有権若しくは関係人となり得る権利を有することを認めるに足りる証拠はない。

したがって、同原告は、本件裁決のうち(一)、(二)、(四)ないし(六)の各土地に係る裁決の取消しを求める法律上の利益を有しない。

(四)  別紙目録(一)の(4)記載の原告ら

前記一に説示したとおり、別紙目録(一)の(4)記載の原告石井稔朔及び原告鈴木敏二は、(四)の土地及び同土地上の立木の各持分権について本件裁決を受けた者であり、同原告らが、(一)ないし(三)、(五)、(六)の各土地及び同土地上の立木について、所有権若しくは関係人となり得る権利を有することを認めるに足りる証拠はない。

したがって、右の原告らは、本件裁決のうち(一)ないし(三)、(五)、(六)の各土地に係る裁決の取消しを求める法律上の利益を有しない。

(五)  別紙目録(一)の(5)記載の原告ら

前記一に説示したとおり、別紙目録(一)の(5)記載の原告田下幸及び原告菅澤昌平は、(五)の土地及び同土地上の立木の各持分権について本件裁決を受けた者であり、同原告らが、(一)ないし(四)、(六)の各土地及び同土地上の立木について、所有権若しくは関係人となり得る権利を有することを認めるに足りる証拠はない。

したがって、右の原告らは、本件裁決のうち(一)ないし(四)、(六)の各土地に係る裁決の取消しを求める法律上の利益を有しない。

(六)  別紙目録(一)の(6)記載の原告ら

前記一に説示したとおり、別紙目録(一)の(6)記載の原告らは、(六)の土地及び同土地上の立木の各持分権について本件裁決を受けた者であり、同原告らが、(一)ないし(五)の各土地及び同土地上の立木について、所有権若しくは関係人となり得る権利を有することを認めるに足りる証拠はない。

したがって、右の原告らは、本件裁決のうち(一)ないし(五)の各土地に係る裁決の取消しを求める法律上の利益を有しない。

4  原告らは、「行訴法九条に規定された法律上の利益とは、事実上の利益を含めた法律上の保護に値する利益をいう。」と主張するのであるが、右のような見解を採用するのは相当でない。

また、収用法は、原告らが主張するような周辺住民を騒音等の被害から保護するための規定をおいていないし、収用法は、このような保護を目的とした法律でもないから、「原告らは、本件空港により、騒音被害等の不利益を受けているから、本件裁決の違法を争うことができる地位を有する。」という原告らの主張も、これを採用することができない。

したがって、本件裁決の取消しを求めるについて法律上の利益を有する者は、土地所有者及び関係人に限定され、それ以外の第三者は、前記1ないし3に説示したとおり、右の法律上の利益を有しないものというべきである。

5 本件裁決は、前記一に説示したとおり、本件各土地の所有者及び関係人らに対し、その各土地及び立木について、共有持分に応じた損失の補償をすることをその内容としている。

ところで、収用法一三三条は、収用委員会の裁決のうち損失の補償に関する訴えは、「これを提起した者が土地所有者又は関係人であるときは起業者を被告としなければならない。」と規定している。

そうすると、本件裁決のうち、別紙目録(一)の(1)記載の原告らが(一)の土地及び同土地上の立木の各持分権について、同目録(一)の(2)記載の原告らが(二)の土地及び同土地上の立木の各持分権について、原告伊橋利春が(三)の土地及び同土地上の立木の各持分権について、原告石井稔朔及び原告鈴木敏二が(四)の土地及び同土地上の立木の各持分権について、原告田下幸及び原告菅澤昌平が(五)の土地及び同土地上の立木の各持分権について、同目録(一)の(6)記載の原告らが(六)の土地及び同土地上の立木の各持分権について、それぞれの損失の補償に関する裁決の取消しを求める訴えについて、被告は、被告としての適格を有しないものというべきである。

三本件訴訟における審判の範囲

原告らは、「事業の認定における違法の瑕疵は、収用裁決に承継されるのであるから、本件訴訟においては、本件事業認定における違法も審査の対象となる。」と主張するので、この点について考察する。

1  収用法一条は、同法の目的を掲げている。

同法一七条は、事業の認定に関する処分を行う機関として、第一項の場合においては、建設大臣がこれを行うと規定し、第二項の場合においては、都道府県知事がこれを行うと規定した上、同法二〇条は、建設大臣又は都道府県知事が、起業者の申請に係る事業について、これを認定するときの要件を規定し、同法二六条一項は、建設大臣又は都道府県知事が、遅滞なく、事業の認定をした旨を告示すべきことを規定する。

同法三九条一項は、起業者は、収用し、又は使用しようとする土地が所在する都道府県の収用委員会に収用又は使用の裁決を申請することができると規定し、同法四六条は、収用委員会は、所定の縦覧期間を経過した後、遅滞なく、審理を開始しなければならないと規定する。

収用委員会は、同法四七条の規定に従い、裁決の申請が同条一号又は二号に該当するときその他同法の規定に違反するときは、申請を却下しなければならないのであるが、右の一号は「申請に係る事業が告示された事業と異なるとき」であり、二号は「申請に係る事業計画が事業認定申請書に添付された事業計画書に記載された計画と著しく異なるとき」であるから、収用委員会としては、形式的な記載事項を審査することができるのにとどまるのであり、収用委員会は、右の規定によって申請を却下する場合でない限り、収用又は使用の裁決(すなわち権利取得裁決及び明渡裁決)をしなければならないと規定されている(同法四七条の二)。

同法四八条は、収用委員会が権利取得裁決をするについて、その要件及び裁決事項を規定し、同法四九条は、収用委員会が明渡裁決をするについて、その要件及び裁決事項を規定する。

したがって、収用法は、収用委員会に対し、先行行為に当たる事業の認定が適法なものであるか否かについての審査権限を与えていないし、その審査義務を課してもいないものというべきである。

2  収用又は使用の裁決は、当該事業の認定を前提とし、これに基づいて行われるのであるから、事業の認定に違法があったとすれば、その違法が当然に裁決に包含されることとなり、裁決の違法事由となるとする見解も成り立ち得ないではない。

しかし、抗告訴訟の訴訟物は、行政処分の違法性一般であるとされているのであって、本件の取消訴訟においては、原告らは、本件裁決の存在とそれが違法であることを抽象的に主張すれば足りるのであり、被告は、本件裁決が適法に行われたものであることを主張し、立証しなければならない。そして前記1に説示したことに照らせば、被告は、収用法四八条及び同法四九条の各規定に基づいて、本件裁決を適法に行ったことを主張し、立証すれば足りるのであって、事業認定庁が同法二〇条の規定に基づいて本件事業認定を適法に行ったことまでを主張し、立証しなければならないとするのは相当でない。

なぜならば、被告は、本件事業認定の適否について審査する権限を有しないことから、その適否についてはなんら審査することなく、その事業認定が適法なものであることを前提として、収用裁決の申請について審理を開始した上、本件裁決をしたのであるから、そのこと自体によって被告が本件事業認定の適法性について判断を遺脱したものと指摘されてしまうことになり兼ねないばかりでなく、被告は、本件事業認定の適否について審査をすべき資料を持ち合わせていないのである。

3  収用法一条は、「公共の利益の増進と私有財産との調整を図り、もって国土の適正且つ合理的な利用に寄与することを目的とする。」と規定しているのであり、被収用者の権利を保護すべきであるとの観点も考慮しなければならない。この点について、収用法は、建設大臣又は都道府県知事は、起業地が所在する市町村の長に対して事業認定申請書及びその添付書類のうち当該市町村に関係のある部分の写を送付しなければならず、市町村長は、起業地等を公告した上、二週間その書類を公衆の縦覧に供しなければならない(二四条)と規定し、事業の認定について利害関係を有する者は、右の縦覧期間内に都道府県知事に意見書を提出することができる(二五条)と規定している。また、同法は、建設大臣又は都道府県知事は、事業の認定をしたときは、その旨を告示しなければならない(二六条)と規定し、市町村長は、送付を受けた起業地を表示する図面を、事業の認定が効力を失う日等まで公衆の縦覧に供しなければならない(二六条の二)と規定している。更に、同法は、起業者は、建設省令で定めるところにより、補償その他の事項について、土地所有者及び関係人に周知させるため必要な措置を講じなければならない(二八条の二)と規定している。

したがって、右のような制度が設けられているのであるから、土地所有者及び関係人は、事業の認定について、迅速かつ確実にこれを知り得る機会を与えられているということができる。そして、事業の認定に不服がある者は、行政不服審査法による不服申立てをすることができる(収用法一三〇条)のであり、これに不服があれば、抗告訴訟を提起することができるものというべきである。

そうすると、本件訴訟においては、本件裁決に固有の違法を主張させるだけで十分であるというべきであって、本件事業認定の違法を主張させないこととしても、被収用者に不利益を課すことにはならないというべきである。

4 原告らは、本件事業認定に重大かつ明白な瑕疵があると主張しているが、すべての証拠に照らしても、本件事業認定が右の理由によって無効であるとの事実を認めるに足りる証拠はない。

5 以上のとおりであるから、原告らの前記主張は失当であり、これを採用することはできない。すなわち、本件訴訟においては、本件事業認定の適否については、これを判断しないこととする。

四本件裁決申請の受理

1  公団の申請に係る事業と本件事業認定に係る事業との相違(収用法四七条一号該当性)

(一)  収用法四七条一号は、「申請に係る事業が同法二六条一項の規定によって告示された事業と異なるとき」は、収用委員会は、裁決をもって申請を却下しなければならないと規定しているところ、原告らは、「被告が本件裁決申請を受理したことは、右の規定に違反する。」と主張する。しかし、〈証拠〉によれば、公団の申請に係る本件裁決申請書には、建設大臣が昭和四四年一二月一六日付け建設省告示第三八六五号により告示した事業の認定申請に添付されたものと同一の事業計画書が添付されたことが認められ、これに反する証拠はない。

そうすると、公団の申請に係る事業と事業認定を受けた事業とは同一であり、原告らの主張するような違法は存在しない。

(二)  原告らは、「公団の申請に係る事業が、実質的にみて第一期工事区域に係る特定公共事業に当たるものであるから、起業地全体について告示された本件事業認定に係る事業と相違する。」と主張する。

なるほど、原告らが主張するように、本件裁決申請に係る土地の範囲は、第一期工事区域に限られている。しかし、成立に争いのない甲第二九号証によれば、本件各土地が包含された本件第一期事業について、特定公共事業の認定申請がなされたのは、昭和四五年一一月四日であった事実を認めることができ、右の特定公共事業認定申請は、本件裁決申請がなされた同年三月三日より後になされたものである。

したがって、公団の申請に係る事業が右の特定公共事業に当たるものであったと見るべき根拠はないものというべきであるから、原告らの右の主張は失当である。

2  事業計画書に記載された計画との著しい差異(収用法四七条二号該当性)

本件裁決申請における事業計画と本件事業認定申請における事業計画とが同一であることは、当事者間に争いがない。原告らは、「収用法四七条二号の申請に係る事業計画とは、申請に係る事実上の事業計画であると解すべきである。本件事業認定に際しての事業計画は、起業地全体を対象として計画しているのに、本件裁決申請における事業計画は、第一期工事区域を対象とする関係上、実際は、全体の事業計画の極く一部を対象とするものに過ぎないのであるから、本件裁決申請における事業計画と起業地全体を対象とする事業計画とは著しく異なる。」と主張する。

しかし、収用法四七条二号に規定された「申請に係る事業計画」とは、事実上の事業計画をいうと解すべき根拠はない。また、公団が、本件事業認定における起業地のうち、第一期工事の遂行として本件裁決を申請したのであっても、その申請に係る事業計画は、本件事業認定に係る事業計画に従い、これと同じように起業地全体を対象としたものであると解することができ、公団が、右の事業計画とは別個に、事実上の事業計画を策定し、これについて本件裁決の申請をしたものと認めるべき根拠は存在しない。

したがって、公団が本件裁決申請書に本件事業認定に係る事業計画書と同一のものを添付したことは適法であり、「本件裁決申請に係る事業計画が右の事業計画書に記載された計画と著しく異なる。」との事実は、これを認めることができない。

3  原告らは、「公団総裁今井栄文が、昭和四六年一月一九日起業地内で記者会見を行い、『本件空港に国内線を乗り入れる。その乗入れのため二期工事で国内線ターミナルを建設する。』旨を明らかにしたことは、事業計画の著しい変更であって、収用法四七条に違反する。」と主張する。

しかし、右の記者会見は、本件裁決がなされた後に行われたものであり、また、公団が右の発言に係る国内線ターミナル建設のために工事実施計画の変更認可申請を行ったとの事実を認めるに足りる証拠もないのであるから、右の記者会見があったというだけでは、本件裁決に関する違法事由とならないものというべきである。

4  分割申請

収用法には、起業者に対して、収用裁決を分割して申請することを禁止した規定は存在しない。また、収用法三一条は、起業者が起業地の一部について収用手続を保留することができることを規定しており、手続を保留された土地とそうでない土地とでは裁決申請の時期が異なることを予定している。同法三九条二項、九〇条の四の規定によれば、起業者は、土地所有者又は関係人から収用裁決申請の請求を受けたときは、二週間以内に収用委員会に対して収用裁決の申請をしなければならず、右の規定による申請の請求を受けた土地とそうでない土地とでは、裁決申請の時期が異なることを予定している。同法一七条一項二号、三九条一項の規定によれば、起業地が二以上の都道府県の区域にわたる事業の場合には、起業者は、収用しようとする土地が所在する都道府県の収用委員会にそれぞれ収用裁決の申請をすることができることになっている。このような規定からすると、収用しようとする土地の収用裁決申請に当たって、これを一括して申請するか、又は分割して申請するかについては、起業者の裁量に委ねられているとみるべきである。そして、証人西内繁行の証言によれば、被告は、本件事業認定に係る起業地の一部である本件各土地についての本件裁決申請を受理するについて、「一般の事業認定に基づく裁決申請においても、未取得地について任意買収が行われる場合もあるから、起業地の一部について裁決申請がなされても、これを受理することができる。」と判断して、本件裁決申請を受理した事実を認めることができる。

したがって、被告が収用裁決の分割申請を受理したことは適法であった。

5 以上のとおり、公団がなした本件裁決の申請は適法なものであったのであるから、被告が収用法四七条の規定に基づいて、その申請を却下するとの裁決をしなかったことは正当であった。

五  審理開催に至る手続

1  書類の送付及び縦覧並びに第一回審理期日の指定及び通知

請求原因4(一)の事実のうち、土地所有者、関係人らの代表が、被告に対して一か月間の審理期日延期の申請をしたことは当事者間に争いがなく、この事実と〈証拠〉によれば、次の事実を認めることができ、その認定を左右するに足りる証拠はない。

(一)  被告は、昭和四五年三月三日公団から本件各土地について、収用法四〇条一項の規定による裁決申請書及び同法四七条の三第一項の規定による明渡裁決申立書を受け取り、右申請書等の形式的な要件を審査した後、これを受理した。

被告は、同月一六日、申請に係る本件各土地の所在する市の長である成田市長に対し裁決申請書、明渡裁決申立書及びその添付書類を送付するとともに、別表第3記載の土地所有者及び関係人ら(以下土地所有者及び関係人らを合わせて「土地所有者ら」という。)に対し、公団から裁決の申請及び明渡裁決の申立てがあった旨の通知をした(同法四二条一項、四七条の四第一項)。

(二)  成田市長は、同月一七日、裁決の申請及び明渡裁決の申立てがあった旨並びに収用しようとする土地の所在、地番及び地目を公告し、裁決申請書、明渡裁決申立書及びその添付書類を同月三一日までの二週間公衆の縦覧に供した(同法四二条二項、四七条の四第二項)。

(三)  別表第3記載の土地所有者らを含む七七六名は、同月三一日被告に対し意見書を提出した(同法四三条一項、四七条の四第二項)。しかし、右の提出者のうち別表第3記載の土地所有者らを除く六八七名については、公団から裁決の申請及び明渡裁決の申立てがなされた土地所有者及び関係人の名簿に記載がなく、また、本件各土地の関係人に該当することを認めるに足りる記載がなかったので、被告は、同年四月二〇日付け文書をもって右の六八七名に対し、「同月三〇日までに関係人又は準関係人としての権利を証明するに足りる書面を提出して欲しい。」と照会した。ところが、右の六八七名を含む一三四〇名の者が、同年五月六日被告に対し、「無償貸借契約確認証」と題する書面を添付して、本件各土地の関係人に該当する旨を届け出た。

(四)  被告は、同年四月一七日、裁決手続の開始を決定して、その旨を千葉県報に公告し、かつ、本件土地につき千葉地方法務局成田出張所同年五月一日受付第五九九一号ないし第五九九六号をもって収用裁決手続開始の登記を経由した(同法四五条の二)。

(五)  被告は、同年六月四日、「本件裁決申請についての審理を、同月一二日午後一時から、千葉県総合運動体育館(以下「体育館」という。)において開催する。」と決定し、その旨を千葉県報に公告するとともに、公団及び別表第3記載の土地所有者らに対し配達証明付き書留速達郵便をもって、右の審理の期日及び場所を通知した(同法四六条二項)。

なお、被告は、前記無償貸借契約確認証を添付して関係人であると届け出た一三四〇名の者については、その適格性に疑惑を持ったが、右の一三四〇名に対しても右の審理の期日及び場所を通知した。

被告は、一四四九通の通知を発信したが、次の二九通を除いて、同月一〇日までに一四一八通が配達され、同月一一日に残りの二通が配達された。右の一四四九通のうち二六通は、受信人とされた者によって受領が拒絶され、三通は、受信人とされた者が宛所に居住していなかったため、配達されなかった。

(六)  反対同盟の委員長及び顧問弁護団長は、同年六月八日被告に対し、土地所有者らの代表として、「同月八日になっても審理期日の通知が送達されていない土地所有者らが相当数いる。被告と土地所有者らとの間、若しくは土地所有者ら内部の間において十分な事前準備が必要である。同月一〇日までに代理人らの権限を証明する書面を提出することは困難である。相当数の土地所有者らが同月一二日に刑事裁判の公判期日を控えており、審理に参加できない。農繁期であるから、審理に参加することにより不利益を被る土地所有者らもいる。このような理由のため、審理の期日を一か月間延期して欲しい。」と申し入れた。

しかし、被告は、先に定めた期日を延期するに足りる理由がないものと判断し、反対同盟の委員長らに対して正式の回答をすることはしなかったが、被告の事務局員が右の委員長らに対し、「審理の期日を変更することは困難である。」と告げた。

2  原告らは、「被告が第一回審理期日の指定を一方的、抜打ち的に定め、これを通知したことは違法である。」と主張する。

しかし、被告は、収用法四六条二項の規定によって、審理の期日を指定する権限を与えられているのであり、その期日を指定するに際してあらかじめ土地所有者らとの間で協議をなすべきことを義務付けられているものでもない。

3  したがって、被告が六月四日に第一回の審理期日を同月一二日午後一時と指定したことについては、何ら違法がない。また、被告は、同月八日に反対同盟の委員長らから第一回審理期日の延期申請を受けたのに対し、これを拒否したのであるが、証人西内繁行の証言及び被告代表者但馬弘衛尋問の結果によっても、「被告は、第一回の審理期日においてすべての審理を済ませ、これを終結させるというような方針を採る意図を持っていなかった。」事実を認めることができるのであって、被告が右の延期申請を理由がないものと判断したことについても、何ら違法がなかったものというべきである。そして、前記1に認定した事実によれば、被告が本件裁決申請について審理を開催するに至るまでに執った措置についてはいずれも違法がなく、すべて正当なものであったということができる。

六審理手続

1  第一回審理

(一)  請求原因4(二)、(三)の事実のうち、土地所有者らの代理人が事前に被告に対し第一回審理について原告ら主張の釈明を要求したこと、被告が土地所有者らの代理人による発言を禁止して公団に事業計画の説明を求めたことは、いずれも当事者間に争いがなく、〈証拠〉によれば、次の事実を認めることができ、その認定を左右するに足りる証拠はない。

(1) 本件裁決申請についての第一回審理は、昭和四五年六月一二日午後一時から体育館において開催されることになっていた。被告は、同日午前一一時三〇分から受付を開始した。土地所有者らは、午後零時ころ体育館の周辺に来集し、午後一時三〇分ころから受付に応じ始めたが、土地所者者ら本人及び代理人の確認、未成年者の親権者の確認、携行品の規制等に手間取り、午後三時三〇分過ぎころ入場の手続を終了した。被告の会長は、午後三時四五分ころ審理を開始する旨を宣言し、初めにあらかじめ入場者に配付した文書に従って、審理における注意事項及びその運営方法等を説明した。

(2) 次いで、土地所有者らの代理人訴外弁護士葉山岳夫(以下「葉山弁護士」という。)は、会長に対し、「審理開催の通知が六月一二日の当日になっても未着の土地所有者らがいる。土地所有者らにとって、六月は農繁期で特に忙しい時期である。土地所有者らのうちには、刑事裁判の公判期日と重なり参加できない者もいる。第二次申請の意見書を現在準備中である。したがって、このまま審理の進行を図れば違法になる。本件裁決の申請は分割申請であり、違法である。」と述べ、その釈明を要求した。これに対し、会長は、「書面で意見陳述をしてもらいたい。通知は、全部送達されていると判断している。もし未送達の者がいる場合には別途意見を聞く機会を設ける。」と回答した。

(3) また、土地所有者らの代理人である弁護士藤田一伯から口頭で、審理期日を延期するよう申請があったが、会長は、これを認めず、審理を進行させようとしたところ、葉山弁護士から、「延期申請を認めないのは納得がいかない。」旨の発言があったので、会長は、この発言を禁止し、公団に事業計画の説明を求めた。

(4) 公団の職員は、発言台で事業計画の説明を始めたが、土地所有者らは拍手をしたり、野次ったりして、その説明を妨害した。それでも公団の職員は、事業計画の説明を完了した。

(5) そのころには会場が騒然となり、審理の運営が困難な状態に陥ったので、会長は、「次回には現地調査を実施します。」と宣告し、午後五時ころ第一回審理期日を閉会する旨を告げた。

(二)  原告らは、「被告が土地所有者らから出された審理開始の前提事項についての釈明要求及び審理期日の延期申請を無視して審理の進行を図ったことは違法であった。」と主張する。

しかし、収用法六四条には、「収用委員会の審理の手続は、会長が指揮する。会長は、土地所有者及び関係人が述べる意見等が相当でないと認めるときは、これを制限することができる。」と規定されているのであるから、これによれば、審理の指揮、進行については、会長の合理的な裁量に委ねられていると解すべきである。そして、前記(一)に認定した事実によれば、会長がその合理的な裁量を逸脱して審理の指揮、進行を図ったといわねばならないような点を認めることはできない。

2  現地調査

(一)  請求原因4(四)の事実のうち、土地所有者らの代理人が昭和四五年七月一三日被告に対し現地調査について、「被告は、いかなる立場、態度で現地調査を行うのか明らかにされたい。調査対象、調査内容について事前に通知してもらいたい。調査に当たり土地所有者らを立ち会わせて欲しい。調査は数回若しくは数十回にわたって詳細に行って欲しい。」との申入れをしたが、被告はこれに対して一切回答しなかったこと、被告は土地所有者らに対して、現地調査を同年八月二六日午後一時から行うことを通告したことは、いずれも当事者間に争いがなく、〈証拠〉によれば、次の事実を認めることができ、その認定を左右するに足りる証拠はない。

(1) 被告は、同年八月一七日土地所有者ら及び公団に対し、現地調査を前記のとおり実施する旨を通知したが、これらの者の立会いについては、職権による調査であることを理由にこれを求めなかった。

(2) 被告は、同月二六日午後一時ころ現地に赴き、(五)の土地、(三)の土地、(四)の土地、(一)の土地及び(二)の土地の順序で、右の各土地の地勢、地盤、現況及び個性的特徴、近隣の環境、各土地上の立木の状況等を調査した。

被告は、(六)の土地についても同じように調査を行う予定であったが、その土地には三〇〇名ないし四〇〇名の者が坐り込んで、調査を妨害したので、敢えてこれを排除してまで実施することはないものと判断し、調査を打ち切って、午後三時五〇分ころ現地から引き上げた。

なお、被告は、従前の本件空港関係の諸手続を遂行するについて妨害行為を受けたこと、第一回審理期日の進行を妨害されたことなどの事情から、現地調査に対する妨害行為があるかも知れないものと予想し、あらかじめ警察当局に対して一般警備を要請したので、当日は機動隊員による警備が実施された。

(3) 被告は、事前に数回にわたって準備的調査を行い、現場写真、図面等の資料を整えて置いたので、前記(2)の現地調査によって、その目的を達成することができた。

(二)  原告らは、「被告がどのような態度で現地調査を行うのか、調査対象の釈明、調査内容についての事前通知の要求に対して応じなかったこと、被告が現地調査をするに当たって土地所有者らの立会いをさせなかったこと、被告の施行した現地調査が杜撰であったことのゆえに、現地調査は違法なものであった。」と主張する。

しかし、収用法六五条一項三号は、「収用委員会は、審理若しくは調査のために必要があると認めるときは、現地について土地又は物件を調査することができる。」旨を規定しているところ、これによれば、被告は、職権をもって現地調査をすることができるものというべきであり、この現地調査について当事者への事前通知義務、立会権の保障等を定める規定は存在していない。したがって、被告が土地所有者らの立会いなくして現地調査をしたからといって、これを違法ということはできないのであり、前記(一)に認定したとおり、被告は、土地所有者らに対し、現地調査の日時を事前に通知しているのである。また、現地調査をいかなる程度に行うかは、収用委員会が裁決申請の当否を判断するために必要と認めるところによって決定されるのであるから、被告が実施した現地調査が土地所有者らの望むような詳細なものでなかったとしても、これを杜撰なものであったということはできない。更に、前記(一)に認定したとおり、被告は、過去の経緯等から現地調査当日に現地で混乱が起こることを危惧して警察に一般警備の要請をしたのであるから、この判断は合理的であり、この点にも違法があるということはできない。

3  第二回審理

(一)  請求原因4(五)(1)の事実のうち、被告が昭和四五年八月一七日に第二回及び第三回の審理開催の通知をしたことは、当事者間に争いがなく、〈証拠〉によれば、次の事実を認めることができ、その認定を左右するに足りる証拠はない。

(1) 被告は、同年八月一七日に、「第二回の審理を同年九月一日午後一時から、第三回の審理を同月二日午後一時から、いずれも体育館で開催する。」と決定するとともに、その旨を公団及び土地所有者らに通知したが、土地所有者らに対しては次のようにして通知した。すなわち、前記第一回の審理期日に代理人を選任していた土地所有者らについては、その各代理人合計四八名に通知をし、代理人を選任していなかった土地所有者ら四三三名については、各本人宛に通知をした。

(2) 第一回の審理期日に代理人を選任した土地所有者らが被告に提出した委任状には、「別紙第一目録記載の各人はそれぞれ別紙第二目録及び別紙第三目録記載の全員(ただし、本人を除く)を代理人として下記の事項を委任する。」と記載されていて、その委任事項欄には、「審理の進行、意見書の提出、口頭による意見の陳述、不服の申立、その他新東京国際空港建設事業の起業地内における土地物件収用事件に関する一切の件」と記載されていた。

(3) 別紙目録(一)の(1)ないし(6)記載の原告らのうち、原告石井英祐に対しては本人宛に通知がなされ、その余の原告らに対しては右の(2)の委任状による各代理人宛に通知がなされた。

(二)  原告らは、「被告が第二回及び第三回の審理開催の通知を前記(一)の(2)の委任状による各代理人宛になしたことは、第一に、右の委任状を提出した土地所有者らが各代理人に通知の受領を授権したことがなく、第二に、複数の代理人がいたのに、恣意的にその一名に通知したに過ぎなかったから、違法であった。したがって、第二回及び第三回の審理開催については、通知の手続を欠く違法があった。」と主張する。

しかし、収用法及び同法施行令は、土地所有者及び関係人が代理人を選任して手続を遂行することを禁止する旨の規定を定めていないから、土地所有者らは、代理人を選任して手続を遂行することができるものというべきであり、収用法四六条二項、同法施行令六条二項が代理人について規定していないことは、右のように解することの妨げとならないものというべきである。

そして、前記(一)に認定したとおり、土地所有者らが提出した委任状には、「審理の進行、その他起業地内における土地物件収用事件に関する一切の件をそれぞれ前記目録記載の全員に委任する。」旨記載されていたのであるから、右の記載事項によれば、土地所有者らから委任を受けた各代理人は、それぞれ単独で委任者を代理して、被告から審理開催の通知を受領する権限を有していたものと認めることができる。

したがって、被告が、代理人を選任していた土地所有者らについて、その代理人に第二回及び第三回の審理開催の期日及び場所を通知したことは正当であったものというべきである。

(三)  請求原因4(五)(2)の事実のうち、土地所有者らが被告に対し「土地所有者ら全員に対して公開審理の開催通知を出すこと。土地所有者ら全員の意見陳述が終わるまで審理を打ち切らないこと。土地所有者ら、傍聴者、報道関係者以外の入場を認めないこと。」の三項目を申し入れ、被告がこれに対して、「その趣旨を了解し、十分尊重する。」と回答したこと、第二回審理において、出席土地所有者らが椅子を移動したこと、会場が混乱したことは、いずれも当事者間に争いがない。この事実に、〈証拠〉によれば、次の事実を認めることができ、その認定を左右するに足りる証拠はない。

(1) 第二回審理は、昭和四五年九月一日午後一時から体育館において開催されることになっていた。土地所有者らは、体育館の周辺に来集したが、入場するに当たって、代理人らとともに被告に対し、前記の三項目を申し入れ、「被告がこれについて文書による回答をしない限り、入場を拒否する。」と申し出た。

被告は、会長名義をもって、「申入れのあった事項についてはその趣旨は了解し、これを充分尊重のうえ適正公平な手続を進める。」旨の回答書を作成し、これを土地所有者らの代表に交付して、土地所有者らの入場を促した。

(2) 土地所有者らは、午後四時過ぎころから入場を開始したが、入場が間もなく終了しようとしたころ、既に会場の最前列に着席していた土地所有者らの一部の者が起立し、これを合図に土地所有者らの全員が椅子を被告委員席の真下に移動して、各委員に対し、野次等の発言を繰り返した。

被告の事務局職員は、土地所有者らに対し、定位置に戻って静粛にするようにと、再三にわたって制しようとしたが、土地所有者らは、これに従わなかった。

(3) そのため会長は、審理の運営について別室で協議をすべく、委員らを促して席から立ち上がった。その際会長が明確な説明をしなかったため、約三〇名の土地所有者らは、審理が打ち切られたものと即断し、壇上に上がって会長及び委員らに実力を行使した。会長と委員一名は壇上から引きずり下ろされ、他の委員一名は肋骨々折を負った。事務局職員も数名の者が負傷した。

被告は、警察当局へ出動を要請した。

(4) 以上のような事態となったため、被告は、当日の審理を開催することができなかった。

(四)  原告らは、「被告が、前記認定の文書による回答をしたにもかかわらず、審理の早期打切りを図ったのは、審理過程における適正手続、公正手続に反する。」と主張する。

しかし、第二回審理は、前記(三)に認定したような経緯によって、会場が混乱するに至り、これを開催することが事実上不可能な事態に陥ったため、被告は、やむをえずこれを開催せずに終始したのであって、被告が不当に審理の早期打切りを図ったものではないから、その審理過程において適正手続、公正手続の違法があったということはできない。

4  第三回審理

(一)  請求原因4(六)の事実のうち、土地所有者らが被告に対し第三回審理の開催に当たって、「制服私服警察官を会場から退去させること。土地所有者らの資格を確認の上、有資格者だけを入場させること。演壇前のロープを取り去り、会場を平常の形にすること。会長の声が聞き取れるように椅子の配置を変えること。」の四項目を申し入れたこと、土地所有者らが入場しなかったことは、いずれも当事者間に争いがない。この事実に、〈証拠〉によれば、次の事実を認めることができ、その認定を左右するに足りる証拠はない。

(1) 第三回審理は、昭和四五年九月二日午後一時から体育館において開催されることになっていた。第二回審理の際に混乱が生じたため、被告は、あらかじめ審理会場について、土地所有者ら用の椅子を移動できないようにロープで縛り付け、土地所有者ら用の席から演壇に容易に上がれないように委員席前面に細いロープを張った上、会場への出入口及び通路等に警察官の配備を依頼した。

(2) 土地所有者らは、体育館の周辺に来集したが、入場しようとしなかった。会長は、午後一時ころ審理を開始する旨宣告したが、その直後に土地所有者らの代表は、被告に対し、前記の四項目を申し入れるとともに、「被告がこれを認めてくれない限り、全員が入場を拒否する。」と申し出た。

被告は、第二回審理の際に発生したような事態が再び起こることをおそれ、これを防止する必要があると判断して、土地所有者らの代表の要求を拒否した。

(3) 被告は、来集した土地所有者らに対し、会場外に設けた拡声器を通じて、「入場しない場合には、土地収用法六三条に規定されている口頭による意見陳述の機会を失う場合があるので、あらかじめお知らせします。」と繰り返し告知したが、土地所有者らは、入場しようとする態度を示さなかった。

(4) そのため被告は、土地所有者らが審理を遅延させることのみを目的としているものと判断し、審理を進めて、公団から必要と認める意見を聴取した。

被告は、午後五時まで土地所有者らの入場を待ったが、入場がなかったので、そのころ閉会した。

(二)  原告らは、「被告が土地所有者らの前記四項目の要求を拒否し、土地所有者らの入場のないまま審理を開催したのは違法である。」と主張する。

しかし、前記3の(三)において認定した第二回審理の状況に鑑み、被告が前記認定のような会場設営をしたことはやむをえないことであったというべきであり、また、前記認定の事実によれば、土地所有者らは自ら審理に出席する権利を放棄したものとみることができるから、被告が土地所有者らの要求を拒否し、土地所有者らの入場のないまま審理を開催したとしても、そのことになんら違法はない。

5  第四回、第五回審理

(一)  請求原因4(七)の事実のうち、土地所有者らが昭和四五年一〇月一二日被告事務局長に申入書を提出したこと、被告が同日付けで同月二二日及び二三日に審理を行う旨の通知をしたこと、土地所有者らの代理人弁護士が同月二二日書面をもって審理期日の変更を申し入れ、被告がこれを拒否したことは、いずれも当事者間に争いがない。この事実に、〈証拠〉によれば、次の事実を認めることができ、その認定を左右するに足りる証拠はない。

(1) 昭和四五年九月上旬ころ、被告の事務所と土地所有者らの代表並びに調整に乗り出した社会党の国会議員及び県議会議員らとの間において、第四回の審理期日を何時開催するかについて話合いが行われ、「同年一〇月下旬に開催する。」との合意が成立した。

被告は、右の合意に従い、同年一〇月一二日に、「第四回の審理を同月二二日午後一時から、第五回の審理を同月二三日午後一時から、いずれも体育館で開催する。」と決定するとともに、その旨を公団及び土地所有者らに通知した。被告は、右の通知を、代理人を選任した土地所有者らについては代理人四八名に対してなし、代理人を選任しなかった土地所有者ら四三三名については各本人に対してなした。その上、被告は、前記九月上旬の話合いにおいて土地所有者らから要求されたのに応じ、代理人を選任した土地所有者ら各本人に対しても、通知と同じ内容の「お知らせ」と題した郵便葉書を送付した。

(2) 被告が同月一二日に通知を発送する前に、土地所有者らの代理人弁護団、反対同盟の代表及び社会党の国会・県議会議員団は、被告の事務局職員に対し、「一〇月下旬は落花生の収穫期で、農繁期に当たり、土地所有者らの多くの者が多忙であるばかりでなく、行楽シーズンに当たって、会場へ参集するのに必要なバスを確保することが困難であるので、審理期日を同年一一月に延期して欲しい。」と申し入れるとともに、その旨を記載した原告戸村一作(土地所有者ら及び代理人代表・反対同盟委員長)及び弁護士小長井良浩(右顧問弁護団々長)の両名作成名義の申入書を提出した。

また、同月一六日には土地所有者ら代理人弁護団所属弁護士から審理期日の延期申請がなされ、同月一九日には原告戸村一作(土地所有者ら及び代理人代表・反対同盟委員長)及び北原鉱治(反対同盟事務局長)の名義をもって、「同月二三日には、千葉地方裁判所において刑事裁判の公判期日が予定されているので、土地所有者ら代理人弁護団所属弁護士、土地所有者ら及び代理人のうちの多くの者が審理に出席できない。」との理由で、審理期日の延期申請がなされた。

被告は、これらの延期申請を検討したが、一〇月下旬に審理期日を指定したのは、前記のように土地所有者ら側との事前の了解に基づいたものであったことから、期日を変更することはできないとし、同月二〇日に、前記一六日の審理期日変更申入れに関して、土地所有者ら代理人弁護士に対し、審理期日の変更はできない旨の回答をした。

(3) 第四回の審理は、同月二二日午後一時に会長の審理開始宣言に基づいて開始された。被告は、土地所有者らの意見を聴取すべく、土地所有者らに対して入場を促したが、土地所有者らは、これに応じようとしなかった。被告は、午後二時まで休憩することとし、土地所有者らは、一部の者が午後二時過ぎころから入場し始めた。

被告は、事前に調査をして、土地所有者らのうち四名の者が被告人として同月二三日の刑事裁判の公判期日に出頭すべき義務を負っていたことを確認したので、会長は、「本日は土地所有者らから意見を聴取する予定である。」と告げるとともに、「明日の成田関係の公判期日に出頭しなければならない者は、本日中に意見を陳述して欲しい。」と告げた。

ところが、入場していた土地所有者ら及びその代理人らは、「相当数の土地所有者らが耕運機で会場に向かっているので、その者らが到着するまで、審理を進行しないようにして欲しい。」と要求するだけで、意見を陳述しようとしなかった。

被告は、公団から、明渡しの時期について意見を聴取するとともに、前記無償貸借契約確認証を提出した者についての意見を聴取した。

会長から再三にわたって意見の陳述を促された後、土地所有者らの代理人らは、審理期日の延期、分割申請の違法性、新空港建設事業の公益性の不存在、収用手続の違法性等について発言をした。しかし、会長は、右代理人らの発言を意見の陳述に当たるものとみなし、これに対しては何の回答もしなかった。

そのころ耕運機でやって来た土地所有者らが会場に到着し、会場に入ってデモ行進等をしたので、会場は騒然となった。また、土地所有者らは、「耕運機でやって来た者は、帰宅するのに七時間かかるので、真夜中になってしまう。そのため明日の審理は延期して欲しい。」と要求した。これに対し、会長は、「交通手段は、耕運機以外にもある。明日は予定どおり審理を行う。明日の刑事公判期日に出頭しなければならない者は、本日中に意見を陳述して欲しい。」と告げた。

しかし、土地所有者らからは意見の陳述がなかったので、会長は、午後五時に審理を閉じた。

(4) 第五回の審理は、同月二三日午後一時から開催されることになっていた。午後一時になる直前に、土地所有者らの代理人から、「当日の刑事公判期日に出頭する者がいるから、審理を延期して欲しい。」との申入れがあったが、被告は、「該当する者は四名であり、いずれも代理人を選任しているから、審理には支障がなく、延期すべき理由は認められない。」として、右の延期申請を却下した。

会長は、「審理を開催する。」旨を宣告したが、午後二時まで意見聴取の手続を開始することを待ち、土地所有者らに対して、それまでに入場するように通告した。

しかし、土地所有者らは入場しなかったので、被告は、土地所有者らが口頭による意見陳述の権利を行使する意思を有しないものと認め、審理を進めることとした。

被告は、公団から補足意見を聴取した。公団は、土地所有者らが述べた本件事業の公益性の不存在及び収用手続の違法性等の意見について、反論を述べた上、無償貸借契約確認証を提出した者に関する法律関係について答弁をした。

被告は、当日の審理をもって審理を終了させることとし、土地所有者らは出席していなかったが、会長は、午後五時に審理を閉じた。

(二) 原告らは、第四回の審理開催の通知について、第二回及び第三回の審理開催の通知について主張したのと同じ理由による違法があったと主張する。しかし、前記六の3の(二)に説示したとおり、土地所有者らから委任を受けた各代理人は、それぞれ単独で審理開催の通知を受領する権限を授権されていたのであり、前記認定のとおり、被告は、代理人を選任した土地所有者らについては各代理人に、選任しなかった土地所有者らについては各本人にそれぞれ通知したのであるから、被告がなした通知の手続は正当なものであったというべきである。

原告らは、「被告が土地所有者らによる審理期日の延期申請を無視して審理を開催したのは違法であった。」と主張する。しかし、前記五の2に説示したとおり、審理期日を指定する権限は、被告の専権に属しているばかりでなく、第四回の審理期日を一〇月下旬に入れることについては、被告事務局員と社会党国会・県議会議員及び土地所有者らの代表との間の話合いの結果に基づくものであり、土地所有者らが延期申請の理由としていた、バスの手配が困難であるということについても、他に交通手段があったことを考えれば、正当な期日延期の理由とはならなかったものというべきである。

また、原告らは、「土地所有者らの代理人らが被告に対する釈明要求として発言したことを、被告が意見陳述に当たるものとしたのは違法であった。」と主張する。しかし、前記六の1の(二)に説示したとおり、審理の指揮、進行は、会長の合理的な裁量に委ねられているのであるから、会長が、前記認定の土地所有者らの代理人らの発言を意見の陳述とみなし、これに対して何の回答もしなかったからといって、これを違法な措置であったということはできない。

(三)  原告らは、「第五回の審理について、被告が土地所有者らの不参加を見越し、期日を変更しないで、土地所有者ら欠席のまま審理を強行したのは違法であった。」と主張する。しかし、前記認定のとおり、第五回審理期日の刑事裁判の公判期日が重複した者は、一四四九名の土地所有者らのうち、わずか四名に過ぎず、また、これらの者には代理人が選任されていて、審理を受けるのに支障がなかったのであるから、被告が土地所有者らの申入れに係る延期申請の理由がないものと判断して、第五回の審理を開催したことには、なんら違法がなかったものというべきである。

また、前記認定のとおり、第五回の審理開催の通知は、被告から土地所有者らに対して正当になされていたのであり、被告は、体育館の周辺に来集した土地所有者らに対し、審理の手続を遅らせてまで入場を促していたのであるから、被告が土地所有者ら欠席のまま審理を行ったとしても、なんら違法ではなかったものというべきである。

6 以上のとおり、土地所有者らは、第一回ないし第五回の審理について、いずれも被告から適法に期日及び場所の通知を受けたのに、みずからの意思で審理の場所に臨むことを拒み、審理の場所において意見を述べることを拒否したのであるから、土地所有者らは、収用法六三条の規定に定められた被告の審理において口頭で意見を述べる権利を放棄したものと認めるのが相当である。そして、各項目ごとに説示したとおり、被告が執った措置はいずれも正当なものであったのであるから、被告は、適法に審理手続を遂行したものということができる。

七本件裁決の効力

1 本件裁決の内容は、前記一に認定し説示したとおりである。そして、〈証拠〉によれば、次の事実を認めることができ、その認定を左右するに足りる証拠はない。

(一)  被告は、第五回の審理を終了した後、七回にわたって裁決会議を開催し、公団から提出された裁決申請書及び明渡裁決申立書並びにその添付書類、公団及び土地所有者らから提出された意見書、現地調査及び審理において収集した資料等を検討して、本件裁決を行った。

(二)  被告は、収用する土地の区域について、裁決申請書及びその添付書類並びに現地調査の結果に基づき、公団の申立てに係る区域が本件事業に必要なものであると認め、収用法四八条二項に規定された要件に適合すると認定した。

(三)  被告は、権利取得の時期及び明渡しの期限について、公団の補償金支払に要する期間並びに土地所有者らの本件各土地の引渡し及び物件の移転に要する期間等を考慮し、昭和四六年一月三一日と決定した。

2  分割裁決

原告らは、「被告が公団からの分割申請を受理して分割裁決をしたのは違法であった。」と主張する。

しかし、前記四の4に説示したとおり、被告が収用裁決の分割申請を受理したことは適法であったのであるから、被告がその分割申請に対して分割裁決をしたことも適法なものであったというべきである。

3  被告の審査権限

前記乙第七四号証によれば、被告は、本件裁決において、「収用委員会は、事業の認定処分については、これが不存在とか無効である場合は格別とし、事業の認定の適否についてまで判断する権限は、有しないとされている。」とし、「本件の事業の認定処分について取消訴訟が提起されているものの、この処分について、取消しがなされていないかぎり有効であり、……明白なかしも認められなかった以上、事業認定にかかる公益性については、あらためて判断を要しないものである。」と説示した事実を認めることができる。

原告らは、「被告が本件事業認定に係る公益性について判断をしなかったのは違法であった。」と主張するのであるが、被告の審査権限の及ぶ範囲は、前記三の1ないし3に説示したとおりであり、かつ、本件事業認定には重大明白な瑕疵も認められないのであるから、被告が本件裁決において前記のように判断したことにはなんら違法がなく、正当なものであったということができる。

4 以上の経緯に照らせば、被告が、前記1に認定したとおり、裁決の会議を開催して認定し、決定した本件裁決は正当なものであったと認めることができる。

八以上の次第であって、前記二に説示した原告らの訴え、すなわち「別紙目録(二)の一ないし五及び別紙目録(三)記載の原告らの本件裁決の取消しを求める訴え。別紙目録(一)の(1)記載の原告らの(二)ないし(六)の各土地に係る裁決の取消しを求める訴え。同目録(一)の(2)記載の原告らの(一)、(三)ないし(六)の各土地に係る裁決の取消しを求める訴え。原告伊橋利春の(一)、(二)、(四)ないし(六)の各土地に係る裁決の取消しを求める訴え。原告石井稔朔及び原告鈴木敏二の(一)ないし(三)、(五)、(六)の各土地に係る裁決の取消しを求める訴え。原告田下幸及び原告菅澤昌平の(一)ないし(四)、(六)の各土地に係る裁決の取消しを求める訴え。同目録(一)の(6)記載の原告らの(一)ないし(五)の各土地に係る裁決の取消しを求める訴え。同目録(一)の(1)ないし(6)記載の原告らの(一)ないし(六)の各土地に係る損失の補償に関する裁決の取消しを求める訴え。」は、いずれも不適法なものであるから、これらを却下することとし、同目録(一)の(1)ないし(6)記載の原告らの(一)ないし(六)の各土地に係るその余の裁決の取消しを求める請求は、いずれも不当なものであるから、これらを棄却することとする。

そこで、訴訟費用の負担について民事訴訟法八九条、九三条一項本文を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官加藤一隆 裁判官池本壽美子 裁判官小野洋一)

別紙事実

第一 申立て

一 原告ら

1 被告が別紙物件目録(一)ないし(六)記載の各土地(以下「(一)ないし(六)の各土地」といい、これらを合わせ「本件各土地」という。)について昭和四五年一二月二六日付けでなした別紙千収委第二六〇号裁決書記載の土地収用裁決(以下「本件裁決」という。)を取消す。

2 訴訟費用は被告の負担とする。

二 被告

1 別紙目録(一)の(1)ないし(6)記載の原告らの訴えのうちそれぞれその所有の土地及び立木につきなされた権利取得裁決及び明渡裁決を除くその余の裁決の取消しを求める部分並びに別紙目録(二)の一ないし五及び別紙目録(三)記載の原告らの訴えをいずれも却下する。

2 原告らの請求をいずれも棄却する。

3 訴訟費用は原告らの負担とする。

第二 主張

一 原告らの請求原因

1 当事者

(一) 原告らは、本件各土地のいずれかについて所有権を有する者ないしは本件各土地のいずれかへの立入り、採草、採木を行う権利を有する者である。

(二) 原告らのうち、別紙目録(一)の(1)ないし(6)記載の原告らは、その所有する土地及び立木について本件裁決を受けた者であり、また、原告らは、すべて訴外新東京国際空港公団(以下「公団」という。)が成田市三里塚・芝山地区に建設する新東京国際空港(以下「本件空港」又は「新空港」という。)によって、騒音被害、排油、排気ガスによる環境破壊等様々な生活上の不利益を被るから、原告らは、それぞれの被る不利益をもって、本件裁決の違法を争い、本件裁決の取消しを求めるについて、法律上保護に値する利益を有する。

(三) 被告は、土地収用法(以下「収用法」という。)四七条の二第一、二項の規定により、本件各土地について本件裁決をした。

2 本件裁決における収用法違反

(一) 収用法四七条違反

(1) 申請に係る事業と事業認定を受けた事業との相違(収用法四七条一号違反)

起業者公団は、被告に対し、昭和四五年三月三日に本件第一次収用裁決を申請したほか、同年一二月一五日の第六次申請に至るまで六回にわたり本件空港の用地について分割して権利取得裁決及び明渡裁決の申請をした。すなわち、本件第一次収用裁決の申請は、本件空港建設事業の起業地の一部を対象とした「新東京国際空港第一期建設事業」のために行われることが、申請当時から明らかであった。ところで、本件空港建設事業の事業認定(以下「本件事業認定」という。)は、昭和四四年一二月一六日付けをもって建設大臣によってなされたが、右事業認定は、本件空港建設事業のための起業地全体を対象とするものであった。収用法四七条一号の規定によれば、申請に係る事業が収用法二六条一項の規定によって告示された事業と異なるときには、収用裁決の申請を却下しなければならないとされている。本件において、収用法二六条一項の規定によって告示された事業とは、起業地全体を工事区域とする本件事業認定に係る事業であり、公団の申請に係る事業とは、公団が他と区別して緊急に完成する必要があるとした第一期工事区域に係る特定公共事業なのであるから、告示された事業と申請に係る事業との間の実質的相違は明白である。

したがって、公団の右申請は却下されるべきであったのに、これをしなかった本件裁決は、収用法四七条一号に違反する。

(2) 事業計画の著しい差異(収用法四七条二号違反)

公団が、本件裁決の申請をするに当たって添付した事業計画書は、本件事業認定申請書記載の事業計画書と形式的な文言においては同一であるが、本件事業認定に係る事業計画が起業地全体を対象としたものであったのに対して、公団の申請に係る事業計画は、第一期工事計画遂行のためになされたものである。収用法四七条二号の規定による申請に係る事業計画とは、申請に係る事実上の事業計画であると解すべきである。

公団の申請に係る事実上の事業計画は、第一期工事区域の一部のみを対象としているのであるから、起業地全体を対象とする事業計画と異なることが明らかであり、本件裁決及び本件裁決の申請の受理については明白かつ重大な違法がある。

また、公団の申請に係る事業計画は、現に本件事業認定申請時の事業計画と重大な差異を生じている。すなわち、本件事業認定申請書及び本件裁決申請書添付の事業計画書において、公団は、本件空港を専ら国際空港として建設することを意図していたが、公団総裁今井栄文は、昭和四六年一月一九日、起業地内で記者会見を行い、国内線乗入れ及び右乗入れのため二期工事で国内線ターミナルを建設することを明らかにした。このように事業計画の変更が予定されている状況下に、公団の申請に係る事業計画を認容することは収用法四七条二号に違反する。

(二) 分割裁決の違法

(1) 分割申請の違法

収用裁決は、起業者の工事上の都合によってなされるべきものではなく、起業地内の土地を、いかなる範囲で、いかなる補償によって収用することが公益事業を行う上で必要であるかという判断に基づいて行われなければならない。被告は、第三者機関として公益的見地からこれを判断すべき立場にあるのに、分割収用申請が許されるか否かの点について、公益的見地に基づく判断を回避したまま、一方的に公団の利益を代弁する態度でこれを受理したが、これには重大かつ明白な違法がある。

(2) 本件事業認定に対する無批判的追従

本件事業認定については明白かつ重大な違法が存したのであり、原告らを含む土地所有者、関係人らは、つとに被告に対し、意見書等をもってその違法を主張した。したがって、被告は、そのことを良く知っていたのであるから、これを職権をもって調査すべきであったのに、「当該事業の公益性の判断は、事業認定庁が別に行うものであって、収用委員会の権限外の事項である。」として、事業認定庁の判断に従うこととしたが、それは原告らの主張に対する判断を遺脱したものであり、違法である。

(3) 分割裁決の違法

収用委員会は、第三者機関として公益的見地から、申請に係る収用裁決事件につき全局面にわたって調査を行い、その後に個々の土地、物件の収用裁決に当たらない限り、当該手続における公益性を貫くことはできない。分割裁決が適法とされれば、一つの事業に関して多数の収用裁決が存することとなり、それぞれが別個独立の事件であるから、収用の有無、収用区域、補償等について不統一な裁決が出ることは当然であり、相互に矛盾する裁決の存在も考えられる。それでは、被収用者の権利が保全されず、収用委員会の公益性も保し難い。

それなのに、被告は、本件各土地について分割裁決を強行した。また、分割裁決の当然の帰結として、被告は、第一期工事の内容はもとより、本件空港建設事業の公益性について検討することを怠った。

したがって、被告のした分割裁決は違法である。

3 裁決事項における理由不備の違法

(一) 収用する土地の区域について

被告は、本件裁決の理由において、書類を検討し、現地を調査した結果、「起業者申立ての土地の区域は、本件事業に必要なものと認められ」としたのみで、いかなる事由によって「本件事業に必要なものと認められ」たのか、その具体的理由を欠いており、違法である。

(二) 損失の補償における恣意的判断

被告は、慎重に審理を尽くすべき損失補償の問題について、所有者、関係人らから一言も意見を聞かず、全く恣意的な認定を行って、本件裁決を強行した。すなわち、被告は、当事者の権利を著しく侵害する重大な違法を犯した。

4 審理手続における違法

(一) 収用法は公益事業の遂行と私有財産の擁護という二大理念を基礎としているから、収用委員会の審理も土地を収用される関係人らの権利、取り分け審理に参加し、審理において意見を陳述する権利を最大限に尊重して行われなければならない。

(二) 一方的期日指定と通知手続の瑕疵

(1) 被告は、昭和四五年六月一二日を第一回審理期日と定めた。しかし、本件裁決に当たっては、細切れ的分割収用裁決申請の違法性が審理期日決定前から被告に対して強く申し入れられ、かつ、本件各土地についての本件事業認定の違法性を主張し、その取消しを求める訴訟が既に提起されていて、公正かつ慎重な審理が要請されていた。したがって、第一回審理期日の指定に当たっては、土地所有者、関係人らの代表が、被告に対し、「審理期日の通知が同月八日に至っても送達されていない関係人がいること。審理に当たっては、土地所有者、関係人らの間で十分な事前準備が必要であるところ、これを行わないうちに審理期日を指定されたのでは、審理を混乱に陥れる結果となること。審理期日の通知が送達されていない土地所有者、関係人らの間で同月一二日までに準備を尽くすことは不可能であること。同月一〇日までに代理人であることの証明書を提出することは不可能であること。同月一二日には刑事裁判の公判期日と重なる土地所有者、関係人らが相当数いて、審理に参加できないこと。同月一二日は農繁期と重なり、土地所有者、関係人らにとって審理への参加が著しく不利益であること。」等を理由として、一か月間の審理期日の延期を申請したのに、被告は、これを無視して審理を強行した。これは、土地所有者、関係人らの権利を尊重しなかったこととなる。

(2) 収用法四六条二項の規定によれば、収用委員会は、土地所有者、関係人らに、あらかじめ審理の期日及び場所を通知しなければならない。しかし、土地所有者、関係人らのうちには、昭和四五年六月八日になっても第一回審理期日の通知が到達していない者も相当数おり、同月一〇日を期限とする代理人、法定代理人の権限、資格を証明する書類の提出が遅れる事態となり、手続に瑕疵が生じたのに、被告は、第一回審理期日を延期せず、その審理を強行した。

(三) 第一回審理における一方的審理の強行

土地所有者、関係人らの代理人は、第一回審理期日において、被告に対し、前記(二)の(1)の理由による延期申請の却下理由、同(二)の(2)の通知手続の瑕疵及び分割収用裁決申請を受理して審理を進めるに至った経緯等について、釈明を求めるとともに、前記(二)の(1)と同じ理由による期日の延期申請をした。しかし、被告は、これを無視して審理の進行を図り、右代理人による発言を禁止して、起業者公団に事業計画についての説明を求め、審理を進行させた。被告のこのような対応の仕方は、審理を公正に行い、所有者らの権利を尊重し、審理に際して疑問点をできる限り説明するという収用委員会本来の機能にもとるものである。

(四) 現地調査の杜撰と警察機動隊の出動

土地所有者、関係人らの代理人は、昭和四五年七月一三日被告に対し、「いかなる立場、態度で現地調査を行うのか明らかにすること。調査対象、調査内容について事前に通知すること。調査に当たっては土地所有者、関係人らを立ち会わせること。調査は数回若しくは数十回にわたって詳細に行うこと。」を申し入れた。しかし、被告は、この申入れを考慮することなく、同年八月一七日、「現地調査を同月二六日午後一時から行う。」と一方的に通知した上、同月二六日公団の立会いの下に、機動隊を出動させて、単なる土地見回りに過ぎない通り一遍の仮装行為をしたのであって、それは到底現地調査ということのできるものではなかった。

(五) 第二回審理における通知手続違反と公開審理の打切り

(1) 違法な通知

被告は、昭和四五年八月一七日土地所有者、関係人らに対し、「第二回、第三回の審理をそれぞれ同年九月一日、同月二日の各午後一時から行う。」と通知した。しかし、この通知は、土地所有者、関係人ら全員に対して行われたものではなく、代理人を選任した土地所有者、関係人らに対しては、代理人に対してのみ通知されたにとどまった。しかも、土地所有者、関係人らが選任した代理人は複数であったのに、被告は、恣意的に一名の代理人に通知したのみであった。収用法には、このような通知で足りるとの規定がなく、同法施行規則は、土地所有者、関係人の本人に対する通知を規定している。また、審理期日の通知の受領については、本人が右通知の受領を授権したことが明らかでない限り、本人への効力を生じないが、本件において本人は、このような授権をしなかった。したがって、第二回、第三回審理期日の開催は、通知手続を欠く違法なものである。

(2) 審理の打切り

被告は、「土地所有者、関係人らの全員に公開審理の開催通知を出すこと。全員の意見陳述が終わるまで審理を打ち切らないこと。土地所有者、関係人、傍聴者、報道関係者以外の入場を認めないこと。」の各事項についての土地所有者、関係人らの申入れに対して、「その趣旨を了解し、十分尊重する。」と回答した。ところが、審理に入って、入場した関係者らが被告の当時の代表者会長但馬弘衛(以下「会長」という。)の発言を聞き取るため椅子を被告席の近くまで移動させたところ、会長始め委員らは、突如退席しようとした。そのため、これを引き止めようとした関係者との間で会場は混乱した。被告は、審理の早期打切りを図ったのであって、このような被告の態度は、背信的なものであり、審理過程における適正手続、公正手続に反するものである。

(六) 第三回審理における欠席審理の違法

土地所有者、関係人らは、被告に対し、第三回審理の開催に当たって、「制服私服警察官を会場から退去させること。土地所有者、関係人の資格を確認の上、有資格者だけを入場させること。演壇前のロープを取り外し、会場を平常の形にすること。会長の声が聞き取れるように椅子の配置を変えること。」を要求した。しかし、被告は、この要求を拒否して、土地所有者、関係人らが入場しないまま、公団からの意見聴取を行った。

(七) 第四回審理の違法性

土地所有者、関係人らは、昭和四五年一〇月一二日被告の事務局長に対し、「第四回審理を翌月に延期して欲しい。」と申し入れ、同局長は、被告に諮って検討すると言明した。しかし、被告は、同月一二日付けで、「同月二二日、同月二三日に審理を行う。」と通知をした。しかもこの審理期日の通知には前記(五)の(1)の手続上の違法な通知と同様の違法があった。

土地所有者、関係人らの代理人弁護士らは、同月一六日付けで第四回審理期日の変更申請をなし、その理由として、「同月二三日には土地所有者、関係人らの一部の者について、三里塚空港反対闘争統一裁判が千葉地方裁判所で行われることになっている。」と強調したが、被告は、この変更申請を拒否した。また、同月二二日の審理期日には、土地所有者、関係人らの代理人弁護士から書面をもって、「バスをチャーターできなかったため、耕運機で会場に来る農民を待って、審理を開始すべきこと。同月二三日の審理期日を変更するべきこと。」の申入れがなされたが、被告は、これを拒否した。更に、被告は、同日における土地所有者、関係人らの代理人弁護士による会長に対する釈明要求について、これを意見陳述とみなしたが、それは、釈明を免れる専横的な審理指揮というべきである。

(八) 第五回審理における欠席審理の強行

前記(七)記載のとおり、昭和四五年一〇月二三日の第五回審理期日について変更の申入れがあったことから、被告は、土地所有者、関係人らの不参加を見越して、あえて期日も変更せず、欠席審理を強行した。被告のこのような措置は、憲法上の適正手続の保障の規定にもとるものである。

5 本件事業認定の違法

(一) 本件事業認定の違法の瑕疵の本件裁決への承継

事業認定における違法の瑕疵は、収用裁決に承継されるのであるから、本件訴訟においては、本件裁決自体の違法のみならず、先行処分である本件事業認定における違法も審査の対象となる。

(二) 収用法二〇条一号要件の欠缺

収用法二〇条一号は、「事業が第三条各号の一に掲げるものに関するものであること。」と規定し、同法三条一二号は、「航空法(昭和二十七年法律第二百三十一号)による飛行場又は航空保安施設で公共の用に供するもの」と規定する。

したがって、本件空港は、「航空法による飛行場」でなければならないところ、本件空港は、次に述べるとおり航空法による飛行場ではなく、収用法二〇条一号の規定する要件を欠いている。

(1) 航空法の手続を踏まない飛行場

① 本件空港の位置及び範囲決定の経過

本件空港を設置するについては、その必要性が早い時期から宣伝され、運輸大臣は、昭和三八年八月二〇日諮問第九号として、新東京国際空港の候補地及びその規模について、航空審議会に対する諮問を行った。そして、同審議会は、同年一二月一一日付けで、「諮問第九号に対する答申」(以下「本件答申」という。)を行い、新空港の候補地として、千葉県浦安沖、茨城県霞ケ浦周辺、千葉県富里村付近の三地点を挙げ、中でも千葉県富里村付近が候補地として最適であるとし、新空港の規模について、滑走路の数は少なくとも主滑走路二本、副滑走路二本、横風用滑走路一本の計五本が必要であり、主滑走路の長さは四〇〇〇メートル、敷地面積はおよそ二三〇〇ヘクタールを必要とする旨答申した。本件答申に基づいて、具体的検討が行われ、昭和四〇年一一月一八日の新東京国際空港関係閣僚懇談会において、富里地区に新空港を設置することが内定された。

しかし、この内定に対する地元千葉県側の反発は極めて強く、当時の千葉県知事友納武人(以下「友納知事」という。)は、昭和四一年二月二八日開催の県議会において、「空港問題については、政府に対しては条件の提示を求めず、地元住民に対しては説得の態度をとらず、事態の推移を慎重に静観する。」との所信を表明し、千葉県として政府の方針に非協力の態度をとることを明らかにした。

同年六月二二日には、当時の首相佐藤栄作(以下「佐藤首相」という。)と友納知事との会談が行われ、友納知事は、新空港の規模を縮小して一〇〇〇ヘクタール程度の暫定的なものとすることなどを申し入れたのに対し、佐藤首相は、これを了承し、友納知事に対し、新空港は面積を従来の半分以下とし、三里塚の御料牧場と周辺の県有地を中心に建設したいので協力してもらいたい旨要請するとともに、東京国際空港(以下「羽田空港」という。)の拡張についても可能な限り推進するとして、直ちに運輸大臣に対して検討を指示した。この会談によって、国と千葉県は、新空港を三里塚に建設することで合意した。そして、同年七月四日の新東京国際空港関係閣僚協議会において、新空港の位置を成田市三里塚町を中心とする地区とすることが了承され、同日の閣議で、「新東京国際空港は千葉県成田市三里塚町を中心とする地区に建設すること。その敷地面積は約一〇六〇ヘクタールとすること。」が決定(以下「本件閣議決定」という。)された。翌七月五日、新東京国際空港の位置を定める政令(以下「位置政令」という。)が公布、施行され、この政令の公布によって、新空港を成田市三里塚に建設することは、もはや変更の余地がないものとして公的に確定された。

② 公聴会不開催の違法

昭和四〇年六月二日に制定された新東京国際空港公団法(以下「公団法」という。)は、昭和四一年七月五日当時、新空港の位置を決定するのにどのような手続を経なければならないのかを規定していなかった(当時施行されていた公団法の規定は第二条のみである。)から、新空港の位置を決定するには、航空法に則った手続が履践されるべきであった。

航空法三八条一項の規定によれば、「運輸大臣及び新東京国際空港公団以外の者」は、飛行場を設置しようとするときは、運輸大臣の許可を受けなければならないこととなっており、公団は、昭和四一年七月五日当時まだ設立されていなかったのであるから、当時飛行場を設置しようとする者は、内閣以外にはなかったというべきである。

運輸大臣以外の機関が飛行場を設置するに当たっては、法律に特別の定めがある場合を除いて、航空法三八条一項の許可を必要とするから、内閣は、航空法三八条の規定に基づき運輸大臣に許可の申請をすべきであって、運輸大臣は、同法三九条一項の審査をしなければならず、同条二項の規定により公聴会を開催しなければならなかった。

また、運輸大臣が内閣の構成員であることから、内閣が飛行場の設置者である場合には、運輸大臣が設置者である場合と同視してよいと考えられるとしても、同法五五条の二第二項の規定によって、公聴会の開催が必要であった。

いずれにしても、公聴会の開催が手続的に必要不可欠であったのに、新空港の位置及び範囲の決定に当たっては、全く公聴会が行われなかった。この意味で、公団が申請した事業は、「航空法による飛行場」とは到底いえないものであった。

(2) 航空保安施設を含まない「飛行場」

収用法三条一二号の「航空法による飛行場」とは、いわゆる飛行場敷地のみならず、飛行場保安施設をも不可分一体のものとして含んだものでなければならない。

ところが、本件事業認定は、いわゆる飛行場敷地のみを起業地とするものであり、これは、「航空法による飛行場」に当たらない。

① 航空法上の保安施設

航空法二条四項、同法施行規則一条の規定によれば、航空保安施設は、航空保安無線施設、航空灯火及び昼間障害標識とされており、その機能及び設置される位置によって、二つに分けられる。すなわち、第一に、飛行場と機能的にも地理的にも不可分一体として存するもの(以下「飛行場保安施設」という。)があり、第二に、同法三七条で規定される航空路又はこれに準じた飛行コース(以下「航空路等」という。)を設置するために、飛行場とは直接の係わりなく地理的にも離れて設置されるもの(以下「航空路保安施設」という。)がある。

② 収用法上の航空保安施設

収用法三条一二号の要件は、「飛行場又は航空保安施設で公共の用に供するもの」となっているが、飛行場保安施設は、同号の飛行場の中に包摂されており、同号の航空保安施設は、専ら航空路保安施設に限定される。その理由は、次のとおりである。

航空法は、昭和二七年七月一五日に制定公布されたが、それに伴い、収用法三条一二号は、「国が設置する航空保安施設(飛行場を含む)」から現行規定へと改正された。改正前における飛行場は、収用法上の航空保安施設に含まれていた。当然のことながら、飛行場を含む航空保安施設とは、飛行場保安施設を指す。これは、収用法上飛行場保安施設と飛行場が不可分一体の関係にあることを示している。そして、航空法附則一六項により、飛行場が直接収用法の対象とされるようになって、飛行場保安施設と飛行場との主従関係が逆転し、不自然であった「飛行場を含む飛行場保安施設」が「飛行場保安施設を含む飛行場」となった。このことからも、収用法三条一二号において、飛行場保安施設は飛行場の要件の中に含まれているといわなければならない。

公共用地の取得に関する特別措置法(以下「特措法」という。)七条一号は、本件に即して読み替えれば、収用法二〇条一号の要件である「航空法による飛行場又は航空保安施設で公共の用に供するものに関する事業」のうち、「主として航空運送の用に供する公共飛行場としての新東京国際空港に関する事業」となり、したがって、収用法二〇条一号の要件である「航空法による飛行場」の中に飛行場保安施設が含まれていなければならないことになる。そうでなければ、特措法二条三号の要件が「第一種空港又はそれに係る航空保安施設」となっていないことから、新空港に係る航空保安施設の設置のために特措法が発動できなくなるからである。

収用法三条一二号の「航空法による飛行場又は航空保安施設」について、航空保安施設(飛行場保安施設)を「航空法による飛行場」とは独立の事業認定の対象とするとすれば、空港の建設に関して二つの独立な事業認定が存在し、二つの起業地が存在することになる。この二つの事業認定の時期が異なれば、公平であるべき「損失の補償」が異なるものとなる可能性が必然的に生ずる。二つの異なる「損失の補償」の存在は、一つの公益性が実現するのに被収用者の間に受忍義務の不平等を発生させることになって、憲法一四条の「法の下の平等」に反する収用法の運用をすることになり、これは憲法の容認することではない。また、仮に二つの事業認定が同時に行われたとしても、飛行場建設に直接設置される航空保安施設もあることから、二つの起業地は重なり合う部分を含むことにもなる。このように、「航空法による飛行場」に飛行場保安施設を含めないとすれば、違法な運用を生起させ、混乱を惹起させることが必至であって、この意味でも「航空法による飛行場」には飛行場保安施設も含まれるものであることが明らかである。

飛行場として公共サービスを発揮し、公益を実現し、もって公共交通機関の一翼を担うには、飛行場保安施設が必要不可欠である。航空法による飛行場が、飛行場保安施設と一体となって始めて飛行場としての機能が確保されるというのは、飛行場及び航空保安施設の設置及び管理に関する航空法による手続の係わり合いからも明らかであって、航空法上の要請でもある。

③ 要するに、収用法上の飛行場は、航空法による飛行場のほかに、その飛行場に係る航空保安施設(飛行場保安施設)をも含むものというべきである。

ところが、本件では、飛行場と飛行場保安施設とが一体のものとして起業地に含まれておらず、いわゆる飛行場敷地のみが起業地とされているのであって、その結果、新空港の要件の一つである四〇〇〇メートル滑走路が、四〇〇〇メートル滑走路として十全に機能しなくなっている。

したがって、公団の申請した事業は、収用法二〇条一号の要件から導かれる「航空法による飛行場」に該当しない。

(三) 収用法二〇条二号要件の欠缺

(1) 収用法二〇号二号は、「起業者が当該事業を遂行する充分な意思と能力を有する者であること。」と規定している。ここにいう「能力」とは、単に法的能力のみならず、財政的、経済的、起業的能力をも意味するのであり、この能力の有無を判断するには、当該事業との関連において具体的な検討がなされるべきである。したがって、本件では、新空港建設という、利害関係が複雑に錯綜する大規模な交通システム建設事業を、果たして公団が、収用法の趣旨である、全国的規模のもとでの土地の最も効率的な使用という基本的発想に立って、行い得るかどうかが問題となる。公団の資本金が全額国から出資されているからといって、この意思と能力を根拠づけるものとはならない。

公団は、次に述べるように最適地を選択するという権限を有しないし、空港をシステムとして捉えるという発想自体を欠いている。

(2) 公団の権限の欠如

公団には、新空港を最適地に最適規模のものとして建設する権限が与えられていなかった。すなわち、公団法二条は、飛行場の位置の決定について、「東京都の周辺の地域」に「政令で定める」と規定し、昭和四一年七月四日の本件閣議決定によって、新空港を成田市三里塚地区に規模約一〇六〇ヘクタールで建設することが決定された。翌五日には位置政令が公布施行され、同月三〇日に公団が設立された。したがって、公団は、本件閣議決定、位置政令により定められた位置、規模をもって新空港を建設すべく定められて設立されたのであり、法的に新空港の位置、規模を決定する権限を有しなかった。公団は、設立当初から、公共事業遂行上不可欠である最適地、最適規模の決定能力及び権限を有していなかったのであって、起業者適格を欠いていた。

(3) 公団の能力の欠如

航空機の発着のために必要な空域を含めた空港施設によって実現されるべき空港の機能は、当該地域の地上交通と航空交通との相互変換システムとして現象する。したがって、実現されるべき空港の機能が適正かつ合理的であるためには、右の二つの交通流の変換が交通需要に応じて滑らかに行われる必要がある。すなわち、当該空港とその付属する都市(本件空港では東京都)との間を日常的に連絡する交通連絡手段の問題である。他方、空港がその機能を継続的かつ効率的に発揮するという目的達成の手段としては、航空機の安全な発着を確保するのに足りる空域を設定すること及び航空機に供給すべき燃料を必要な量だけ恒常的に確保することの二つが極めて重要である。空港を建設しようとする者は、このような空港の正しい在り方を十分に理解するとともに、これを主体的にかつ責任をもって実現し得る能力を有していなければならない。

ところが、公団は、空港を単なる滑走路及びその付属施設として認識するにとどまり、これを一個の有機的な交通システムとして理解することができないために、交通連絡手段、空域、燃料供給等の重要な問題に関して、およそ不統一かつ場当たり的な杜撰な対応しかしてこなかった。

また、公団は、空港としての諸条件を満足させるべき現実の機能を著しく欠いている。

第一に、公団は、交通連絡手段の設置に関して、何らの権限も有していない。第二に、公団は、空域設定についても、その権限と責任で行い得るものではなかった。第三に、公団は、燃料輸送の問題について、パイプラインの用地買収に失敗して、一旦埋設したパイプラインを数億円かけて掘り返すなどの不手際があった。パイプライン用地をも起業地として確保することができれば、問題の発生を最小限度にとどめられたであろうが、パイプライン用地を起業地として確保することは、公団の能力をもってしては不可能であった。第四に、公団は、騒音問題に関しても、不完全な民家防音工事を進める程度であって、航空機の運行時間を制限する権限すら有していない。

(四) 収用法二〇条三号要件の欠缺

(1) 収用法二〇条三号要件

収用法二〇条三号は、「土地の適正且つ合理的な利用に寄与するものであること。」と規定する。その趣旨は、当該起業地が当該事業にとっての最適地であることを要求しているものというべきであり、かつ、右要件の存否を判断する行政庁の処分は、羈束裁量行為である。

① 憲法二九条、同三一条との関連における三号要件

憲法二九条一項は、「財産権は、これを侵してはならない。」と規定する。この規定は、憲法一一三条の規定と相まって、私有財産は国政の上で最大限に尊重されなければならないことを明らかにしている。したがって、憲法二九条三項の「私有財産は、正当な補償の下に、これを公共のために用いることができる。」との規定は、同条一項の例外規定として厳格に解されるべきであり、憲法一三条は、その反面において、国政上で私有財産に対する侵害を最小限度にすべき義務を国家に負わせているというべきである(収用最小の原則)。

そして、憲法二九条三項の規定は、国家が私有財産を侵害する場合には必ず「公共のため」の合理的理由が存しなければならないことをも意味し、しかもそれは、憲法三一条の適正手続の趣旨から、告知、弁解、防御等の機会を与えるなど、正当な手続に基づいてなされなければならない(適正手続の原則)。

以上のような憲法の精神を土地の収用について具体化した法律が収用法にほかならない。したがって、収用最小の原則は、同法二〇条三号、四号の事業認定の各要件を厳格に解釈することによって実現されなければならない。また、適正手続の原則からすれば、収用の各段階ごとに、すべての手続規定が完全に履践される必要がある。

② 経済的側面における三号要件

土地を収用するに際して、当該土地の利用目的に照らし、あらゆる観点から見て最もふさわしい土地を収用の対象とすべきことは、国民経済上当然の要請である。すなわち、ある土地を収用する場合、収用する主体の側にも経済的に最も効率の良い最適地のみを選択する当然の義務が生ずる。収用法一条の「公共の利益となる事業」は多かれ少なかれ国民の公租公課を財源としているから、事業の主体である起業者は、財政の拠出者である国民から、その資金を最も効果的に使用して目的を達成すべきことを負託されている。すなわち、当該事業を遂行するに際しては、その過程の一切を通じて、すべてのコストを周到に計算し、最も低コストの方法を選択すべき義務がある。

一個の空港を建設する場合、それに要する費用は、空港用地の取得と、空港施設自体の建設に要する費用にとどまるものではない。空港として現実に機能するためには、燃料供給施設及び空港利用者のための交通機関の確保が必要である。また、空港が都心から遠隔地であれば、移動のために長い時間を必要とし、その間は他の活動を一切行うことができないのであるから、これも社会的費用として考える必要がある。更に、場合によっては、空港施設の周辺住民に関連して、安全対策、騒音対策に多額の費用を支出しなければならない。以上の支出は、究極的には国民の公租公課によってまかなわれているのであって、これらを含めた社会的費用の面からも最適地原則が機能する。

③ 収用法自体に即した三号要件

収用法二〇条三号は、「事業計画が土地の適正且つ合理的な利用に寄与するものであること。」と規定する。右要件は、収用対象土地に着目した上で、その土地が当該事業の遂行によって「適正かつ合理的な」利用を受けること、並びに新空港の必要性及びその備えるべき要件に着目した上で、収用対象土地を選択したことが「適正かつ合理的」であることの二つの趣旨を含むものである。理論的にも、まず、事業計画の必要性が生じ、その条件が策定され、次いで事業計画にかなう候補地を選択し、その上で、当該土地を旧来の利用状態のまま維持するか、又は事業計画に沿って改めるかの利益考量がなされるのであるから、「最適地の原則」が当該土地の利用についての利益考量に先行する。

(2) 新空港が備えるべき用地の条件

① 空港は交通システムである。

新空港が備えるべき法律上の要件は、公団法二条に定められており、その第一は「長期にわたって航空輸送需要に対応することができるものであること。」、第二は「将来における主要な国際航空路線の利用に供することができるものであること。」であって、新空港は、「新しく建設する」、「東京(首都圏)のための」、「国際線に供する」空港として、十分な処理能力を質的・量的に備えなければならない。

「新東京国際空港」としての適格性を具体的に考える際に忘れてはならないのは、「空港が旅客や貨物等の交通の流れの中に位置する一つのシステムであり、それは、地上における交通(鉄道や自動車の地上交通手段)と空の交通(航空機)との相互交換システムとして機能するものである。」という視点である。

② 交通システムとしての新空港の要件

(ア) 交通連絡手段

空港は航空機が発着するための場所であり航空機は人と物を輸送するための交通手段であるから、空港は人と物が移動する大きな流れの中で地上と航空機との間の受渡しを行うという役割を担っている。空港は航空機の利用者が最も多いと目される都市のために(少なくとも機能的には接続して)建設されるものであるから、当該都市部との間の交通連絡手段がどのように準備されているのかが重要である。本件空港への文通連絡手段は、首都圏の中心すなわち都心部から空港までどのような交通手段により、どの程度の時間で行き着けるかということになるが、その交通手段は、確実でしかも長時間を要しないものでなければならない。

(イ) 空域及び航空管制

空港を立地させるためには、その空港を離発着する航空機が、安全かつ能率的に飛行できる空間(空域)が、空港周辺に確保されなければならない。

空港周辺における航空管制方式としては、空域分離による分離管制方式と進入管制を共同化する集中管制方式がある。分離管制方式では縦九〇キロメートル、横六〇キロメートル程度の各空港独自の管制空域を要するが、集中管制方式では、半径九キロメートル程度の管制空域があればよい。このように集中管制方式は、半径九キロメートルの管制空域で足りる上、安全性、処理能力の点からも、分離管制方式より優れている。そして、新空港の位置を千葉県成田市に決定した昭和四一年当時、また、千葉県富里村を新空港予定地とした昭和三八年当時において、既に国外においてはニューヨークで、国内においても、横田、立川、厚木の各米軍飛行場と入間川の自衛隊飛行場、松山空港と岩国米軍基地、高松空港と岡山空港等において集中管制方式が行われていた。したがって、新空港の適地を選定するについても、集中管制方式を採用することを前提とすべきであった。

(ウ) 運行時間

当該空港で航空機の発着を許容する時間(運行時間)をどのように定めるかによっても、空港の処理能力は大きく左右される。新空港は国際空港である以上、運行時間は二四時間とするのが当然である。

この運行時間が制約されると、国際空港としての機能を果たし得ないことになり、その存在意義が否定されかねない。

(エ) 燃料供給施設

航空機を運行させるには燃料が必要であり、国際線では、長距離を飛行するために大量の航空燃料を補給しなければならない。そのため空港にはこうした大量の燃料の需要に十分対応できるだけの供給施設が整えられなければならない。この燃料供給施設は、常に確実に供給する能力を有することが必要であるが、これを設置するための費用が著しく高額であってはならない。それは、燃料のコストにはね返るから、世界的な水準を大きく超えるようなことになれば、航空機を乗り入れる各国の航空会社の反発を招くことになる。

この燃料供給施設は、開港と同時に完成していなければならない。

(オ) 消極的要件(騒音問題の不存在)

現在の技術では、航空機が飛行しあるいは離着陸する際に、一定の騒音を発生することを避けることはできない。しかも、その音量及び到達範囲は極めて大きく広い。そのために付近住民の被る騒音被害は甚大であり、これが日常的に繰り返されると、深刻な肉体的、精神的被害を生じさせることとなる。

静穏な環境で生活するというのは、人間の重要な基本的人権の一つであり、静かな環境を「公益性」の名のもとに侵害することは許されない。騒音被害を及ぼさないようにするための解決策は二通りしかない。

一つは、空港を人の住んでいない場所に設置し、海上空港(ないし沖合空港)にすることであり、もう一つは、内陸部に設置するとしても、本来の空港敷地の周辺部をも騒音地域として取得し、被害を受ける住民が生じないようにすることである。人口密度の高い首都圏に新空港を設置するのであれば、騒音に対する配慮は特に入念であることが必要であり、騒音に対する配慮が不十分なままの空港は、たとえ「公益」の名の下に設置されたものであっても、国民の基本的な権利を侵害するものとして存続することは許されない。

(3) 本件空港は「新東京国際空港」としての要件を満たしていないし、最適地でもない。

① 内陸空港という根本的欠陥

本件空港は、内陸空港であるために、本質的に騒音問題を抱え込み、国際空港としての必要条件である二四時間の運行確保が不可能となった。

(ア) 騒音による環境破壊

本件空港においては、運行時間の制限を行ったとしても、騒音問題からのがれることはできない。すなわち、航空機の発着を許している運行時間中に生ずる航空騒音が周辺の住民に被害を及ぼすことは、これを避けられないからである。

ところが、本件空港の建設計画においては、広範な騒音被害の生ずることが容易に推測できたのに、その具体的検討は極めて不十分であって、本件事業認定時においても予測騒音等音図すら作成されていなかった。したがって、本件事業認定に際して、建設大臣は、本件空港の開港によって生ずる航空機騒音につき予測すべき手掛かりを持たず、被害の予測及びこれに対する有効適切な対応策について、何ら具体的に検討しなかった。

大阪空港や羽田空港にも見られるように、騒音問題が空港の機能に及ぼす影響、制約が極めて深刻なものであることは容易に理解できたのであるから、建設大臣が騒音予測を看過して、安易に本件事業認定を行ったことは重大な瑕疵である。

本件空港においても、開港後現実に広範な騒音被害を惹起しており、環境庁の基準さえ無視されている。

すなわち、環境庁の告示第一五四号によると、「公害対策基本法第九条による騒音に係る環境上の基準につき、生活環境を保全し、人の健康の保護に資するうえで維持することが望ましい航空機騒音に係る基準」(環境基準)は、Ⅰの地域(専ら住居の用に供される地域)でWECPNL方式による数値(以下「W値」という。)(うるささの指数)七〇以下、Ⅱの地域(Ⅰ以外の地域であって通常の生活を保全する必要がある地域)で同七五以下とされている。ところが、昭和五三年六月一〇日から同月一六日までに行われた航空機騒音の測定結果によれば、四〇〇〇メートル滑走路の延長線に沿った四五個の地点のうち、二二地点(空港を中心として約二キロメートルから四キロメートルの幅で利根川から九十九里海岸までの広い範囲)でW値七〇を超えており、同七一ないし七五が一二地点、同七六ないし八〇が四地点、同八一以上が六地点あって、最大は同九五であった。このように、本件空港による航空機騒音が甚だしく、環境基準さえ到底満たしえない。

静かな環境は、人間の肉体的精神的な健康さを維持する上で重要不可欠なものである。「元来極めて静穏」で、「就寝時間の早い」、「農村地域」に、空港を設置したこと自体が問題であり、そのような場所に敢えて空港を建設した結果、環境基準さえ到底守れないような騒音被害を必然的に発生させている。すなわち、場所の選定自体に瑕疵があった。

(イ) 二四時間の運行確保は不可能

本件空港のような内陸空港では、国際空港としての必要条件である二四時間の運行が不可能となる。開港後の現在の運行時間は午前六時から午後一一時までの一七時間で、これは、特に夜間の騒音被害を考慮して、深夜及び早朝における航空機の発着を禁止しているものであるが、本件空港は、このように最初から国際空港として当然備えるべき資格を放棄している。また、夜間の発着を制限しても既に広い範囲にわたって騒音被害が発生しており、今後こうした被害が継続していけば、運行時間の更なる削減を求める要求が強くなることが十分に予想され、その結果、更に運行時間が短縮されていけば、もはや本件空港は「国際空港」として名ばかりの存在に陥る。

新空港は、内陸部ではなく、二四時間を運行に供し得るような場所に設置されるべきであった。

(ウ) 内陸空港の必要条件

内陸空港としての新空港を計画するとすれば、騒音問題を避け、二四時間運行を確保するために、敷地面積を極めて広く取り、これらの障害を回避することが必須である。本件空港については、このような対策が一切執られないまま、位置、範囲が決定された。そのため空港の敷地面積は僅か一〇六五ヘクタールに過ぎず、周囲の騒音緩衝地帯などは考えられていない。

また、計画されている本件空港の滑走路は僅か三本であり、四〇〇〇メートル滑走路は一本のみ(A滑走路)で、二五〇〇メートルの平行滑走路(B滑走路)と横風用の三二〇〇メートル滑走路(C滑走路)があるだけである。A滑走路南端においては、本来滑走路末端から九〇〇メートルにわたって、進入灯が配列され、更に右末端から一〇五〇メートルの位置にミドルマーカーが設置されるべきであるところ、現実には進入灯及びミドルマーカーが本件起業地内に七五〇メートル移動して敷設された。そのためA滑走路は、三二五〇メートルの長さしかない。これは、本件起業地の中に進入灯及びミドルマーカーを設置すべき用地を含めなかったことによって生じた過誤である。

② 交通連絡手段(時間的、費用的に利用者に過大な負担を強いる構造)

都心から空港に至る交通連絡手段は、時間的に確実であることが最も重要であり、所要時間は短く、料金は低廉であることが望まれる。そのためには、空港利用者のための専用の交通機関が設けられるのが最も良く、専用の鉄道ないしはこれに類似した専用軌道を持つ乗り物(例えばモノレール等)が理想的である。

本件空港の場合、都心から約七〇キロメートルも遠く離れて設置されているから、在来の交通機関を利用するのは不便であり、直通かつ高速の交通機関を設ける必要性が大きい。いわゆる成田新幹線の構想は、このような考えの下に計画されたが、肝心の用地取得さえほとんど進まないままに、挫折している。そのため、現実の鉄道輸送は、在来の国鉄線と京成線とで間に合わせている。しかし、国鉄在来線(総武線と成田線)は、所要時間が長く、混雑するし、成田駅から空港までの渋滞し易い市街地でのバス輸送という難点がある。京成線も、空港ターミナルに直結せず、終着駅から更に約一キロメートル近く移動しなければならない。したがって、いずれも本件空港の交通連絡手段として十分なものではない。

鉄道以外の交通連絡手段としては、高速道路の利用が考えられるが、一般的に渋滞や事故等の影響を受け易いから、確実性において鉄道に劣る。本件空港の場合には、首都高速道路、京葉道路、東関東自動車道路によって空港と都心とを連絡するようになっているが、その所要時間は空港方向で約六五分、都心方向で約八〇分とされており、少ない所要時間ではない。しかも、渋滞や事故によっては、更に多くの時間を要する。高速道路の混雑度が年々増大し、走行速度の低下を招くことを考えると、右の所要時間は、増大することがあっても、短縮されることはない。

最短の交通連絡手段でも、都心まで約六〇分を要するということは、場所の選択を誤ったということであり、本件空港は、都心に付属した空港とはいえない。

③ 空域の錯綜

本件空港が選定される前提としては、集中管制方式が採用されるべきであったのであるが、現実には分離管制方式が前提とされた。

しかし、分離管制方式を前提としても、成田は適地ではない。すなわち、本件空港には、近接して、羽田空港と百里基地が存在するが、その各空域は高度差によって分割されている。この高度差による空域の分割では、空中衝突事故が回避不可能であるとされている。本件空港は、羽田空港と百里基地の各空域との調整が不能であるという意味において、適地とは到底いえない。そして、集中管制方式を前提とすれば、成田にする必要性は全くなかった。

④ 燃料輸送パイプラインによらざるを得ず、かつ、そのための用地確保が空港計画に含まれていない欠陥

国際空港に発着する航空機は大量の燃料を必要とする。しかし、航空燃料を空港敷地内に大量に備蓄して置くことは不可能であるから、常に他の場所から補給し続けなくてはならない。燃料自体は海上輸送されるものであるから、港湾部から空港までの運搬が問題となる。

本件空港の計画では、千葉港ふ頭の給油施設から空港までの間約四二キロメートルにわたってパイプラインを設置し、これによって燃料を供給することとされていた。しかし、これは、膨大な費用を要する大工事であったばかりでなく、パイプラインを敷設される地域の住民がその安全性に不安感を抱いた。このパイプライン計画は昭和四六年八月に発表されたが、計画沿線住民の強い反対運動に遇い、昭和四七年六月に着工されたものの、着工後約一か月で中止せざるを得なかった。そのため成田駅から本件空港までの間を暫定パイプラインで結び、茨城県の鹿島港と千葉港の双方から貨物列車を使って輸送するという応急策が講じられ、最近に至ってようやく本来のパイプラインが完成された。

このような本件空港のパイプライン計画には二つの誤りがあった。第一は、本件空港の位置を内陸部としたことである。このため、本来的に災害要因を内包しており、地震被害のおそれのないところでなければおよそ安全を図りようのないパイプラインという技術体系に依存して、長距離のパイプラインを設置せざるを得ず、かつ、膨大な時間と費用をつぎ込むこととなった。第二に、燃料供給施設は空港に必要不可欠なものであるのに、そのための用地を空港計画の中に含めず、したがって、パイプライン設置のための用地を起業地に含めなかったことである。

⑤ コストの問題

本件空港について、昭和五一年までにいわゆる第一期工事のための公共投資として現実に支出されたものは約二三〇〇億円、これに関連する公共投資に投じられたものは約三四〇〇億円であって、これを合わせた約五七〇〇億円が既に使われた。

このほか、成田新幹線を完成させるには約四二〇〇億円を要すると見込まれ、騒音防止等のためにこれを地下に敷設することとすると、この二倍の費用を要すると見込まれる。また、空港施設そのものについても、第二期工事には約三五〇〇億円を要するとされており、航空機の騒音被害を防止するためには、W値八五以上を対象とする約一〇〇〇億円、同七〇以上で約四〇〇〇ないし五〇〇〇億円を要すると見込まれていた。更に、燃料輸送のパイプライン建設に要する費用を加えると、本件空港を機能させるためには二兆円以上の費用を要する計算となり、羽田沖拡張案に要する費用として見込まれた五〇〇〇ないし六〇〇〇億円に比較すると、コストの違いは明白である。

(4) 農業最適地の潰廃

本件空港が建設される三里塚、芝山地区を含む北総台地は、千葉県でも有数の農業地帯であり、そこで栽培、収穫される作物は、米、麦、西瓜等多種多様である。このことは、この地域が肥沃な土壌で、農業に極めて適していることを示している。この地域の出荷組合も、優良な実績を上げてきた。このような良質の農地を潰廃することは、当該農家に決定的打撃を与えるだけでなく、国土の適正利用という国民的見地からみても、大きな損失である。

三里塚、芝山地区について、農地として利用を続けるのと、国際空港を設置するのとでどちらに公益性があるかという思考方法は、無意味であり、誤りである。このような比較対照は、これから設置しようとする国際空港はそこの土地しかないという結論が出た後になされるべきであるのに、本件空港の場所を選定する過程で、三里塚、芝山地区が、優良な農業用地であることを考慮した形跡は見られない。

(5) 「新東京国際空港」の最適地は、次のとおり事業認定時に他に存在していた。

① 羽田空港拡張の可能性

運輸省航空局(以下「航空局」という。)は、新東京国際空港整備計画において、羽田空港の拡張が不能であるとしたが、その理由はいずれも誤りであった。

(ア) 港湾計画との調整の可能

航空局は、羽田空港を拡張する場合の検討対象として、当時の空港敷地の沖合約二〇〇〇メートルのところに、C滑走路と平行に長さ四〇〇〇メートルの滑走路を設置することを取り上げ、これについては、港湾計画との調整が不能であるとした。

しかし、昭和四七年三月の航空局による羽田空港拡張計画では、C滑走路の沖合にC滑走路と平行に長さ三二〇〇メートルのD滑走路を設置することが検討され、その建設が可能であると結論付けられている。その際には港湾計画との調整についても検討されていた。

したがって、「港湾計画との調整」の困難、「船舶の航行」に重大な支障という理由は全くの詭弁に過ぎない。

(イ) 埋立の可能

埋立の困難な理由は、水深二〇メートルの海域を対象とするためというのであるが、航空局による羽田空港拡張計画では、最大水深二〇メートルの海域の埋立が計画されながら、克服すべき技術上の課題があるとの指摘はなされなかった。

(ウ) 騒音問題解決の可能

航空局による羽田空港拡張計画では、羽田空港の沖合を埋立て、空港用地を海側に拡張することによって航空機騒音を海側に後退させることができるとしており、平行滑走路、V字滑走路のいずれでもdB(A)ホーン表示で七〇ホーン以上の騒音域がほとんど海面上となり、住宅地について七〇ホーンを超えるところはないというものであって、騒音問題について根本的解決を与えるものであった。

(エ) 処理能力

航空局による羽田空港拡張計画では、羽田空港の離陸、着陸時の滑走路について、北風時には離陸滑走路としてD滑走路を着陸滑走路としてC滑走路を使用し、南風時には離陸滑走路としてD滑走路を、着陸滑走路としてB滑走路を使用する運行形態をとると、年間二五ないし三五万回程度の離着陸処理能力があるとされ、羽田空港の沖合拡張によって、離着陸処理能力を最大限に発揮させることも十分に可能であった。

(オ) 以上のとおり、羽田空港の東京湾沖への拡張も十分に可能であった。

② 東京湾内中北部海域の適地性

昭和三九年三月四日承認された産業計画会議による「産業計画会議の提案する新東京国際空港」では、東京湾内中北部海域が空港として適地である旨を勧告しており、航空局内部にもこれと同様の意見があったが、航空局は、管制上の理由からこれらの勧告及び意見を無視した。この管制上の理由とは、分離管制方式を前提とした議論であったが、集中管制方式を採用することが可能な状況にあったのである。また、昭和四一年六月二二日の佐藤首相と友納知事との会談で、規模を当初案の半分以下の一〇六五ヘクターール程度とする基本方針の重要な変更があったのに、当初案の半分の規模での東京湾内中北部海域の埋立てを改めて検討することをしなかった。

③ 本件空港建設との比較における羽田空港拡張ないし沖合移転の合理性

本件空港に今後要する第二期工事、新幹線、騒音対策等の費用と羽田空港を現在の五倍の規模に拡張するために要する費用との比較、燃料輸送の有利性から考えても、羽田空港の拡張案の方に合理性がある。

騒音問題についても、羽田空港を拡張した場合には、七〇ホーン以上の騒音域がほとんど海面上になり、わずかに埋立地がかかるに過ぎない。これに比べ、本件空港周辺において七〇ホーン以上の騒音域を線引きすると、利根川北岸のはるか北方から九十九里浜の先まで及ぶから、羽田空港の拡張が合理的であることは明白である。

また、航空局の前記羽田空港拡張計画によると、その滑走路処理能力は年間二五ないし三五万回程度となるとされている。羽田空港の定期航空便の離発着回数がピークに達したのは昭和四六年であり、そのときの回数が年間一七万〇三七四回であった。一方、本件空港の昭和五三年六月から昭和五四年五月まで一年間の国際線の発着回数は五万五二二八回であって、両者を加えると、二二万五六〇二回である。羽田空港拡張計画によって、少なくとも年間二五万回の処理能力が生ずるのであるから、更に東京湾内中北部海域案を採用していれば、本件空港以上の処理能力を有していたであろうことは、疑問の余地がない。

(6) 成田が新空港の適地でないことは、暫定開港後の現実が立証している。

① 騒音被害の不可避性

(ア) 暫定開港後に発生した航空機騒音被害は激甚である。新聞報道によれば、騒音被害の範囲が予想以上の広範囲にわたっており、乳の出ない乳牛や卵を産まない鶏などの畜産被害も発生している。

(イ) 昭和四八年一二月二七日付け環境庁告示第一五四号によると、航空機騒音に係る基準について、本件空港については、昭和五八年一二月二七日までに住宅専用地域についてW値七〇以下、右以外の区域で通常の生活を保全する必要がある地域については、W値七五以下とすべきことが定められている。

千葉県環境部は、昭和五三年六月一〇日から同月一六日まで、同五四年二月一五日から同月二一日までそれぞれ本件空港周辺の騒音実態調査をしたが、これによると、南は九十九里浜海岸から北は利根川までの広大な範囲でW値七〇以上の航空機騒音にさらされている。内陸空港においては、飛行コースの変更を工夫しても、このような航空機騒音による被害を避けることができない。

(ウ) 航空機騒音の結果、離発着の時間帯は必然的に制約され、本件空港の運行時間については、午後一一時から午前六時まで離発着が禁止されている。しかし、内陸空港である大阪空港と同じように、本来午後九時以降の離発着は禁止されるべきである。国際空港であるゆえに、午後九時以降の離発着禁止措置を執ることができないとするならば、その原因は内陸部に本件空港の位置を定めたことにある。

② 落下物事件の頻発

本件空港の周辺、特に南側地域において、航空機から氷塊、フラップカバー、摩耗したタイヤなどが落下する事故が頻発している。内陸部にある国際空港であるため、飛行コースを変更しても、これらの事故を回避することは不可能である。

③ 鉄砲水、水涸れ等の農地に対する被害の発生

本件空港周辺の農地では、空港建設のため立木が伐採されて、水涸れ、鉄砲水が発生し易くなり、強風が吹き荒れるようになった。また、空港敷地の舗装によって、その環境に異変を生じ、営農上支障を生じている。それに、航空機から落下する黒いすす状ないし油かす状の排油が、周辺農家のビニールハウスに付着して日照に支障を及ぼしたり、直接野菜に付着したりして、農産物の品質を低下させている。

④ 交通連絡手段の欠陥

暫定開港後、東関東自動車道、首都高速湾岸線は完成し、京成電鉄のスカイライナーも運行している。しかし、都心から本件空港まで、いずれの交通機関をもってしても、一時間以内に到達することはできない。このように都心との間の移動に多大な出費と時間を要するのでは、国際空港としての資格がない。

⑤ 高額なパイプライン使用料

航空燃料パイプライン工事は、大幅に遅延した上、莫大な費用を要し、借入金利子を加えると、約一六〇〇億円にも達した。公団は、独立採算制であるため、パイプライン使用料ともいうべき給油施設使用料を値上げしなければならない状況にある。それでは、適正かつ合理的な公共サービスといえないことが明らかである。

⑥ 以上のとおり、暫定開港後の本件空港の現実は、その当初において適地判断を誤ったことをますます明らかにしている。

(五) 収用法二〇条四号要件の欠缺

(1) 収用法二〇条四号の要件

収用法二〇条四号にいう公益性とは、具体的事業計画に基づく具体的公益性を意味する。

しかし、航空利用の実態及び航空需要の実態に照らすと、本件空港の設置には具体的な事業としての公益性が存在しない。また、騒音公害を発生させ、農業最適地を潰廃するという意味においても、公益性が存在しない。

(2) 需要予測の誤り

① 旅客数予測の杜撰さ

本件事業認定申請書によると、日本人旅客数の予測は、国民総生産との相関関係から係数を求めてなされ、外国人旅客数の予測は、北大西洋線について、ICAO(国際民間航空機構)の予測による伸び率を用いてなされている。

しかし、日本人旅客数の予測については、旅客数の伸びと国民総生産との間に相関関係が認められない点で不当であり、国民総生産の伸び率のみを基礎として旅客数を予測している点でも誤っている。また、外国人旅客数の伸び率について用いられているICAOの予測は、国民総生産の伸び率を基礎として算定されたものか否かの根拠が不明であり、日本人と外国人との旅客数の予測において、統計処理上の整合性が見られない。更に、航空局が昭和三八年六月一〇日ころパンフレット「新東京国際空港」において提示した旅客数増加予測は、昭和二九年から同年三七年までの旅客数増加率を算出し、今後においても同じ率で増加するものとして、将来の予測をしたという杜撰なものであるが、この需要予測と本件事業認定申請時の需要予測が内容上ほとんど差がないところからみて、本件事業認定申請における需要予測の粗雑さは明白であり、科学的検討が一切行われていなかった。

② 発着回数予測の杜撰さ

本件事業認定申請は、超大型機の導入を理由としていたのに、「一機当たりの搭乗員数」の推定に当たっては、この事情を捨象してしまっており、不当である。運輸省は、超大型機が導入されることを、遅くとも昭和四一年には知っていたにもかかわらず、需要予測を行う上で、昭和四五年のジャンボジェット機すなわちボーイング七四七型機導入後、新機種の増加が早いペースで進むことを無視し、かつ、超大型機が、「一機当たりの搭乗員数」に大きな影響を与えることを看過した。

本件事業認定申請時における発着回数の予測は、全く事実を無視した上で構成された虚構のものにほかならない。新空港建設の必要性という論理の前提をなす需要予測は、完全に誤っていた。

(3) 羽田空港の輸送実態―羽田過密危険即新空港必要性論の欺瞞性

(2)の需要予測は、羽田空港における過密ひいては危険性を強調することによって、本件空港の必要性をいい、これが公益性の根拠をなすものであるとしている。しかし、羽田空港には過密による危険状態などはもともと存在していなかった。

① 羽田空港において、現実に過密による危険が生じていたとするならば、同空港は、航空法に違反して運営されてきたことになり、「航空の危険を生じさせる行為等の処罰に関する法律」一条により罰せられることとなる。過密による危険を防止すべく、航空局は、昭和四六年八月一九日同局長通知を発して、許容最大発着回数につき、一時間当たり三四回、連続する三時間当たり八六回(うち到着回数五七回)及び一日当たり四六〇回(うち定期便発着回数四四〇回)と定め、以後これに従って運用してきたはずである。それでも「過密ゆえの危険」が存在するのであれば、航空の安全を確保し、航空法違反の状況を解消するために、より厳しく発着回数の制限を行わなければならなかったはずであり、そうすれば、これによって「過密ゆえの危険」は速やかに排除できたし、排除されるべきであった。

② 羽田空港国際線及び国内線での乗降者客数は別表一、定期航空便の発着回数は別表二、一機当たりの平均乗降客数及び一日当たりの平均発着回数は別表三記載のとおりである。

これらの各表によると、次の点が明らかとなる。第一に、国際線の乗降者客数は、昭和四二年以降増加し続けているが、昭和四九年段階で伸び率が停滞し、それでも推定旅客数より約一〇〇万人多い乗降客を輸送している。第二に、乗降者客数のうち国際線乗客の占める割合は、昭和四一年の三割八分を最大として、その他の年は三割前後である。第三に、発着回数の比率は、国際線が国内線の約三分の一に過ぎない。第四に、羽田空港の発着回数の限界であると主張されている年間一七万五〇〇〇回を超えた年度は存在せず、かえって昭和四七年度以降は発着回数が減少している。第五に、一日当たりの平均発着回数は、昭和四九年の470.4回を最高として、昭和五〇、五一、五二の各年は、それぞれ450.0回、460.2回、461.6回であり、昭和五二年においても、前記航空局長通知の枠内にほぼ収まる発着回数で運用されていた。したがって、羽田空港は、航空法上安全かつ十分に、所定の需要に対して機能していた。しかも、羽田空港の乗降客の約七割以上は国内線の乗客であり、発着機の三分の二以上は国内線の航空機であったから、国内線の需要の調節によって、国際線の増便も可能であり、国際的な問題化も防ぐことができた。羽田空港の過密危険説は、虚構の風説に過ぎなかった。

(4) 国内輸送における航空運送の実態

羽田空港の乗降客の約七割以上は国内線の乗客であり、発着機の三分の二以上が国内線の航空機であるから、羽田空港過密論の原因をなしていたのは国内線であった。羽田「過密」即新空港建設論の実態は、国内線の需要増大即新空港建設論にほかならない。しかし、国内輸送における航空輸送の実態に鑑みれば、政府が国内線需要を調節することによって、羽田空港の国際空港としての存続は可能であったし、新空港建設の必要性も著しく減少したのである。

国内における総輸送量のうち航空輸送が占めた割合は、昭和三〇年度から昭和四六年度に至るまでいずれも0.0パーセントに過ぎなかった。輸送距離の点で国内における総輸送量のうち航空輸送が占めた割合は、昭和四三年度に1.1パーセントとなったが、昭和四六年度でも二パーセントに満たなかった。本件事業認定時である昭和四四年度の輸送人員量をみても、国鉄の六五億四一〇〇万人、私鉄の九四億九三〇〇万人、バスの一一六億七四〇〇万人に比較して、航空は一二〇〇万人に過ぎなかった。昭和五〇年度におけるエネルギー消費効率は、国鉄を一とすると、航空はその9.8倍となっていた。したがって、国内航空交通は、輸送機関の中で決して大きな役割を果たしていなかったことが明らかであり、しかも、航空は、鉄道に比較して、同一距離を輸送するのに約一〇倍のエネルギーを必要とする。

(5) 航空需要の内実

① 海外渡航者の実情

政府が行った調査によれば、海外旅行の経験者は、調査対象者の九パーセントと極めて少数であり、海外旅行に行けない理由の多くは費用や時間がないということで、海外旅行はまだ一部の人たちのものでしかない。

② 作り出された観光需要

昭和五四年度の海外渡航者数は約四〇三万人で、うち84.4パーセントに当たる約三四〇万人が観光目的であり、更に、この観光目的の海外渡航者は、毎年増え続けている。

海外渡航者が増え続けているのは、昭和四四年に導入されたバルク運賃制(四〇人以上の団体に対して一人当たりの運賃を大幅に値引くという制度)、昭和四五年のジャンボジェット機の登場、航空・観光・金融資本が一体となって昭和五三年に作り出したITC制度(包括旅行チャーター制)及びローン制度の導入等によるものであり、言わば作り出された集団海外旅行ブームによるものである。

③ 公共の福祉に敵対する需要の内実

韓国、東南アジアへの日本人旅行者は年々増え続けており、そのほとんどは観光目的で、しかも、異性との交遊などを目論む恥ずべき観光客が多い。このような観光客を運ぶために、騒音、排油等を周辺住民にまき散らしながら、連日ジェット機が本件空港から飛び立っている。

(6) 騒音公害の発生を容認した本件事業認定

航空機の騒音問題は、単なるうるささだけの問題ではなく、人体に被害を与える大きな社会問題となっている。

本件空港が昭和五三年五月二〇日に開港されて以降の騒音の実態は、当初の予想をはるかに超えるものであった。しかも、国は、大阪国際空港、羽田空港の騒音公害問題に対応する中で、内陸空港において騒音公害問題は不可避であることを認識していたのであるから、建設大臣は、騒音公害の発生を容認して本件事業認定をしたというべきであり、それは騒音下の周辺住民に対する不法行為を構成する。このような新空港建設は、犯罪性を帯びるものであって、これに公共性、公益性を認めることは許されない。

(7) 農業最適地の潰廃

本件空港が適地判断を誤って建設され、本件事業認定が誤ってなされたものであることは、前記のとおりである。

収用法二〇条四号の公益性の要件を判断するに当たっては、まず、新空港の機能を果たす空港予定地として最適地であるか否かが検討され、その上で農業最適地を潰廃して空港を建設することが公益上の必要性の要件に該当するか否かが検討されなければならない。

三里塚、芝山地区を含む北総台地は、千葉県農政の中軸をなす農業地帯であり、米や麦はもとより、極めて豊富かつ良質の疏菜類が産出されて、東京市場を中心に広汎な領域に出荷されている。北総台地は、首都圏住民のみならず、全国各地の住民の重要な食料供給源となっている。このような農業最適地に対して、「適正な補償」がなされているというのは空疎であり、北総台地の農地を「空港」という名の下に潰廃し、破壊することは、全国の住民にとっても、掛替えのない損失である。農地潰廃は、農民の生活や農業を破壊し、農村共同体そのものを破壊するに至る。

(六) 本件事業認定の重大な手続的瑕疵

(1) 事業認定と適正手続

① 航空法の規定する公聴会を欠く違法

航空法の規定する公聴会を欠く違法については、収用法二〇条一号要件の欠缺として論じたところであるが、それは、実体法上のみならず、適正手続の要請にも反したものである。

すなわち、公聴会は、一般に、「広範囲で多数の者の利害に関する行政処分を行う場合に、広く一般の意見を聞き、これを行政処分に反映させ、処分の適正を期しようとするもの」と意義付けられており、これ以外に利害関係人を保護する場は存在しない。

国民の有する権利・自由は、単に実体的においてだけでなく、手続的にも最大限に尊重されるべきであり、その実定法上の根拠は、憲法一三条、三一条であるから、個々の法律で公聴会の開催が義務付けられている場合には、当該規定は憲法の条項を受け、その趣旨を具体化したものと解さなければならない。したがって、公聴会の開催を義務付けている法律の規定に反し、これを開かなかった場合には、当該行政処分の手続過程に憲法違反の瑕疵があり、違憲無効なものとなる。

本件事業認定の認定手続においては、前記(二)記載のとおり、新空港の位置決定に関して公聴会が開かれず、閣議決定という行政府の一方的な決断のみで決定されたのであるから、その手続過程に憲法違反の重大な瑕疵がある。

② 無価値で、非科学的な本件答申に依拠した違法

本件事業認定は、本件答申を正当なものとし、これに基づいてなされたが、本件答申は、無価値なもので、非科学的なものであった。

第一に、本件答申は、羽田沖埋立ないしは東京湾内中北部の埋立による国際空港建設案について、これを初めから審議の対象外におき、羽田空港のほかにもう一つ国際空港を東京周辺に設置することを、航空科学的検討なしに絶対的な前提としていた。

第二に、本件答申は、昭和三八年九月発行航空局作成の「民間航空の現況」及びこれより以前に発行された同局作成の「新東京国際空港」と題するパンフレットの内容をそのまま引き写したものである。すなわち、本件答申は、運輸大臣が諮問を発した昭和三八年八月二〇日のはるか以前に航空局官僚の手によって作成されていた文章、計画図と同一内容のものに過ぎず、わずか四か月足らずで答申がなされた理由はそこにあった。

第三に、答申の形式をとったのは、右各パンフレットに記述されたような部内の検討結果を、航空局関係者が、空港建設について素人の集まりである航空審議会の答申として実体化させることによって、権威付けるためであった。

第四に、航空審議会は、航空機騒音公害、燃料輸送、排油、汚水問題に関する環境影響事前評価(環境アセスメント)を、何一つ行っていない。本件答申における候補地選定は、環境影響事前評価を全く無視し、地元、周辺住民の諸権利を無視したものである。

③ 専門的学識経験者の意見聴取及び公聴会開催を拒否した違法

(ア) 運輸大臣は、本件答申の内容が杜撰にして無価値、非科学的なものであり、環境問題への検討、調査を欠落したものであったのに、収用法二二条に基づく専門的学識経験者の意見を求めることをせず、同法二三条に基づく公聴会の開催を怠った。建設大臣は、昭和三四年一月二〇日付け通達で「事業認定の本質については、いまだ国民一般に十分な認識がなされているとはいい難い事情にあるので、事業の認定に当たっては、申請書の縦覧、現地調査、公聴会開催等の機会を利用して、努めてその趣旨の徹底に努力する」べきであることを明らかにしており、昭和四四年には社会党所属国会議員等が建設省事務次官を通じて公聴会開催及び学識経験者の意見聴取方を建設大臣に申し入れていたにもかかわらず、右各手続を執らないで、本件事業認定を強行した。

(イ) 収用法二二条、二三条の規定する必要性の判断は、事業認定庁の自由裁量によるものではなく、法規裁量行為というべきである。すなわち、同法二二条、二三条は、土地の収用(ないし使用)という重大な個人の権利の侵害をもたらす行政庁の行為についての手続規定であるから、その運用に当たっても、できる限り手続を慎重にして、個人の権利の侵害を最小限度のものに抑えようという規定の趣旨に沿った客観的基準に基づく運用が要請されているからである。

仮に必要性の判断が、専ら事業認定庁の裁量に委ねられているとしても、本件答申は、意見聴取や公聴会を不要とするほどの内容を有するものでなかったから、運輸大臣が意見聴取及び公聴会開催を不要であると判断したのは、明らかに裁量権の範囲を逸脱し、裁量権を濫用したことになる。

④ 公団が業務方法書の作成、認可申請を怠ったまま本件事業認定申請をなした違法を看過してなした本件事業認定の違法

公団の業務方法書は、収用法一八条二項六号の添付書類に該当するものであるが、公団は、この業務方法書の作成、認可申請を怠ったまま本件事業認定申請をした。すなわち、公団の事業認定申請行為には、法で義務付けられた必要書類の添付を欠いた違法があった。また、建設大臣は、収用法一八条に基づいて、申請行為に逸脱がないかどうかを審査する義務を有していたのに、公団の瑕疵ある申請行為を十分に審査せず、これを無条件に受け容れて、本件事業認定をしたものであり、申請時における審査手続を尽くさなかった。

(2) 本件事業認定における形式的要件の欠缺

収用法一八条は、事業認定申請書の記載事項及び添付すべき書類について規定し、同法一九条は、事業認定申請書の欠陥の補正及び補正のないときの却下について規定している。これらの規定は、被収用者の権利尊重の立場から最も厳密に遵守されなくてはならない。形式的要件に一つでも欠陥があり、これが補正されないときには、当該事業認定申請書は却下されなければならず、これを看過してなされた事業認定は違法である。

① 業務方法書の認可を証する書類が添付されていない。

公団が業務を開始する際には、業務方法書を作成し、運輸大臣の認可を受けなければならない。業務方法書の認可を受けたことを証する書類は、収用法一八条二項六号によって、事業認定申請書に添付されなければならない。しかし、公団は、昭和四六年一〇月一日に運輸大臣に対して認可申請をなし、同年一二月一日に運輸大臣の認可を得たのであるから、その業務方法書が昭和四四年九月一三日の事業認定申請書に添付されていなかったことは明白である。

② 航空保安施設に係る工事実施計画の認可を証すべき書類が添付されていない。

新空港に係る航空保安施設(航空燈火施設と航空無線施設)の工事実施計画は昭和四四年一〇月三日に認可されている。

航空保安施設は新空港事業と不可分一体の関係にあり、起業地計画の一環である。しかし、公団は、本件事業認定申請書に、航空保安施設に係る工事実施計画の認可を証すべき書類を添付しなかった。

③ 燃料供給施設につき、消防法の許可を受けたことを証する書類が添付されていない。

本件空港の燃料供給施設は、千葉港ふ頭給油施設、パイプライン施設、空港側給油施設に大別され、千葉港ふ頭タンク、送油パイプライン、空港側タンク、場内のパイプを含むハイドラントシステム等が建設されるべきこととされている。

右各施設は、いずれも起業地計画と一体をなすものであって、空港建設にとって不可欠な構成要素である。右各施設の設置については、いずれも消防法の許可を受けなければならないが、公団は、本件事業認定申請書に、右の許可を証する書面若しくは許可を受けられなかった理由書を添付しなかった。

6 以上のとおり、本件裁決は違法なものであるから、原告らは、被告に対し、その取消しを求める。

二 被告の本案前の答弁

1 行政事件訴訟法(以下「行訴法」という。)九条に規定する法律上の利益の概念は、法律上保護された利益をいうものであって、当該処分の根拠とされた行政法規が個別的、具体的に保護する利益をいうものと解するのが相当である。

収用法四七条の二第二項の規定によれば、土地収用裁決は、権利取得裁決と明渡裁決とに分かれる。同法九五条一項、一〇一条一項、一〇二条の規定によれば、土地収用裁決は、専ら土地所有者、関係人の利益に関係するものであって、それ以外の利益には無関係であり、収用法上、土地収用裁決に対して第三者の利益が保護されていると解すべき根拠法条は見当たらない。したがって、土地収用裁決の取消しを求めるにつき法律上の利益を有するのは、土地所有者、関係人に限定され、それ以外の第三者は、法律上の利益を有しないのであって、その原告適格を否定されるべきである。

被告は、昭和四五年一二月二六日付けをもって、別紙目録(一)の(1)ないし(6)記載の原告ら二四名ほか、訴外八七名の者に対して権利取得裁決及び明渡裁決をしたが、裁決を受けない者が、他人の受けた裁決の取消しを求めることは、訴えの利益を欠き不適法である。

2 原告らは、本件裁決が新空港の建設事業にとって必要であるがゆえになされたものであり、新空港が設置された場合、航空機の離発着等による騒音その他の生活環境上の被害を受けるので、本件裁決の取消しを求めるにつき法律上の利益を有する旨主張するが、右主張は、行訴法九条の法律上の利益を「法律上保護に値する利益」とする見解に立つもので、その立論の前提において誤っている。

原告らの主張する本件空港設置による環境上の被害は、本件裁決による土地収用によって直接発生するものではなく、仮に本件裁決が取り消されることによって、起業地周辺の住民が空港設置による環境上の被害を回避しうるとしても、それは、単なる反射的利益に過ぎないものであって、収用法上保護された利益には当たらない。

3 別紙目録(一)の(1)ないし(6)記載の原告らは、それぞれが所有権を有する土地及び立木を除くその余の各土地等について何らの権利を有しないし、また、別紙目録(二)の一ないし五及び別紙目録(三)記載の原告らは、本件各土地について何らの権利を有しない。

仮に同目録(二)の一ないし五記載の原告らが本件各土地について所有者との間で使用貸借契約を締結していたとしても、それは、本件事業認定の告示日である昭和四四年一二月一六日以前に締結されたものではないし、たとえ右期日以前に成立したとしても、右契約は、専ら本件各土地の収用を妨害する目的でなされた名目的なものに過ぎず、民法九四条の通謀虚偽表示によるものとして無効というべきであるから、同目録(二)の一ないし五記載の原告らは、本件裁決の関係人に当たらない。

更に、同目録(二)の一ないし五及び同目録(三)記載の原告らは、本件裁決を受けていないのであって、いずれも他人に対する裁決の取消しを求めている。

4 したがって、別紙目録(一)の(1)ないし(6)記載の原告らの訴えのうち、それぞれの所有の土地及び立木につきなされた権利取得裁決及び明渡裁決を除くその余の裁決の取消しを求める部分並びに別紙目録(二)の一ないし五及び別紙目録(三)記載の原告らの訴えは、いずれも原告適格を欠き、不適法であるから却下されるべきである。

三 本案前の答弁に対する原告らの反論

1 行訴法九条に規定された法律上の利益の概念は、事実上の利益を含めた法律上の保護に値する利益をいう。

被告による本件裁決は、空港建設事業にとって必要であるがゆえになされているものであって、本件空港建設により権利又は生活上の利益を侵害される者は、本件裁決を受けたか否かを問わず、原告適格を有する。

2 航空機騒音による被害は、耳鳴り、難聴等の身体的被害、情緒的被害、精神的被害、日常生活への著しい被害等極めて重大であり、かつ広範囲にわたる。

本件空港は内陸空港であるから、このような被害は必然的である。原告らは、いずれもこのような騒音被害を受ける住民であり、原告らの被る生活上の不利益は、騒音被害だけでなく、排油、排気ガスによる環境破壊等、空港の存在によるあらゆる被害にわたる。

原告らは、右のような著しい被害を避けるため、その範囲内において、本件裁決を受けたか否かに係わりなく、本件裁決の違法を主張し、その効力を争うことにつき、実質的利益を有するのであり、「法律上保護に値する利益」を有するものである。

したがって、原告らは、いずれも本訴請求につき原告適格を有する。

四 請求原因に対する被告の答弁

1(一) 請求原因1(一)の事実のうち、別紙目録(一)の(1)ないし(6)記載の原告らが、本件各土地のいずれかについて所有権を有する者であることを認めるが、その余の事実を否認する。

(二) 請求原因1(二)の事実のうち、別紙目録(一)の(1)ないし(6)記載の原告らが本件裁決を受けた者であることを認めるが、その余の事実を否認する。

(三) 請求原因1(三)の事実を認める。

2(一)(1) 請求原因2(一)(1)の事実のうち、本件事業認定が昭和四四年一二月一六日付けをもって建設大臣によってなされたものであり、その事業認定が本件空港の起業地全体を対象とするものであったことを認めるが、その余の主張を争う。

(2) 請求原因2(一)(2)の事実のうち、事業認定申請書及び収用裁決申請書に添付された事業計画書が文言において同一であったことを認めるが、その余の主張を争う。

起業者公団の本件裁決に係る事業は、その裁決申請書及び添付書類で明らかなように、収用法二六条一項の規定によって建設大臣が昭和四四年一二月一六日付け建設省告示第三八六五号により告示した事業と同一のものであり、原告らの主張は失当である。

また、収用法四七条二号の「申請に係る事業計画が第十八条第二項第一号の規定によって事業認定申請書に添附された事業計画書に記載された計画と著しく異なるとき。」というのは、事業認定に係る事業計画と右申請書におけるそれとが同一性を失うものないしは事業の本質的部分に係る計画、例えば構造やルート、主要な施設に相違がある場合をいうのであり、本件においては、本件事業認定の事業計画と裁決申請におけるそれとは全く同一であって、相違するところはない。原告らが主張するように、仮に申請書に添付する事業計画書が収用予定地のごく一部を対象とする事実上の事業計画についてのものであるとするならば、被告が収用法四七条二号に該当するか否かを判断することは不可能といわなければならない。また、収用法施行規則一七条一号において、右申請書に添付する事業計画書の作成に当たっては、同規則三条一号によるとし、事業認定申請書に添付する事業計画書と同様のものを作成させることとしているのは、裁決申請に係る事業計画書が、事業認定に係るそれと同様に起業地全体を対象とするものであることを意味している。したがって、公団が本件裁決申請書に本件事業認定に係る事業計画書と同一のものを添付したことも、また、被告が本件裁決において、収用法四七条二号に該当しないと判断したこともいずれも適法である。

なお、原告らは、本件裁決申請は事実上の事業計画である第一期工事区域の一部のみを対象としたものであると主張するが、第一期事業に関する特定公共事業の認定は、昭和四五年一二月二八日付け官報で告示されたものであり、本件裁決申請時には存在していなかった。

原告らは、「公団総裁今井栄文が昭和四六年一月一九日、起業地内で記者会見を行い、国内線乗入れ及び右乗入れのため二期工事で国内線ターミナルを建設することを明らかにしたことは、事業計画の変更を予定したものであって、収用法四七条に違反する。」と主張するが、公団が国内線ターミナル建設のために工事実施計画の変更認可申請を運輸大臣に行った事実はない。

仮に国内線の乗入れが一部行われたとしても、それは、国内航空旅客の乗継ぎの利便のため必要な範囲内において行われるものである限り、事業計画の著しい変更に当たらない。

(二)(1) 請求原因2(二)(1)の事実のうち、「被告が、分割収用申請が許されるか否かの点について、公益的見地に基づく判断を回避したまま、一方的に公団の利益を代弁する態度でこれを受理したが、これには重大かつ明白な違法がある」との点を否認し、その余の主張を認める。

(2) 請求原因2(二)(2)の主張を争う。

(3) 請求原因2(二)(3)の主張を争う。

収用法には、収用裁決を分割して申請することを禁止する規定がなく、また、同法三一条は、起業地の一部について手続の保留をすることを認めており、その告示があった場合において、起業者は、保留されていない土地については、事業認定の告示の日から一年以内に裁決申請をすれば足りることとされている。したがって、収用法は、保留されていない土地と保留されている土地とについて裁決申請の時期が異なることがあり得ることを当然予定している。

また、起業者は、土地所有者から裁決申請の請求があったときには、当該請求者が権利を有する土地について、二週間以内に裁決申請をしなければならない(収用法三九条二項、九〇条の四)ことからすれば、裁決申請の請求がなされた土地については、他の土地と分離して裁決申請をしなければならないことになるから、公団が収用裁決申請を分割して行ったことは違法でない。

更に、収用法が、起業地内の未取得地をも一括して申請させるべきことを予定していないことは、収用委員会の管轄が専属管轄であり、併合、移送等の規定のないことによっても明白である。起業地が、二つ以上の区域にわたる事業の場合には、起業者は、収用又は使用しようとする土地が所在する都道府県の収用委員会にそれぞれ裁決の申請を行うこととなり、裁決手続については、収用法一五条の二第三項のような規定がなく、それぞれの収用委員会で手続が進行することとなる。したがって、個別に裁決の申請を行うことも収用法が当然予定しているところであって、公団が収用裁決申請を分割して行ったことに違法はない。

原告らは、本件事業認定に関する違法の主張に対する判断遺脱を主張する。しかし、収用法は、事業認定に属する部分の事業の公益性の判断を事業認定庁に一任し、それ以後の具体的な収用、使用の決定を収用委員会に任せることとし、一つの行政処分を行うに際し、二つの行政機関に関与させ、それぞれの職分権能を分離している。もし、収用委員会が事業認定庁に優越して事業認定の適法か否かを審査し得るとすると、事業認定庁の意思が後に収用委員会の批判にさらされ、既に確定した事業認定処分の効力を左右する結果となるおそれがある。したがって、事業認定庁は、収用法二〇条について審査する際に公益性についての判断をし、収用委員会は、同法四七条の規定により申請を却下すべき場合を除き、同法四八条一項及び四九条一項に規定する事項についてのみ審理し裁決するのであって、事業の公益性については判断する権能を有しないのである。

原告らは、「分割申請が適法とされれば、不統一な裁決が出て、相互に矛盾する裁決も存在することとなり、それでは被収用者の権利が保全されないから、分割申請は違法である。」と主張する。しかし、収用委員会が裁決すべき事項は、収用法四八条一項各号及び四九条一項各号に規定された収用する土地の区域、損失の補償、権利取得の時期等であって、収用委員会が、収用裁決申請に係るそれぞれについて、収用すべき必要性、収用区域、補償等を判断するのであるから、裁決ごとに裁決の内容が異なるのは当然であり、被収用者の権利は保全される。

3 請求原因3(一)、(二)の主張を争う。

公団から収用裁決申請のあった土地の区域は、裁決申請書及びその添付書類並びに昭和四五年八月二六日実施した現地調査の段階で新空港の第一期工事も相当進捗していた状況等から、当該土地が滑走路、誘導路、着陸帯設置区域に所在し、本件事業に必要なものと認められ、かつ、収用法四八条二項に規定する要件に適合するものであった。

損失の補償については、同法四八条三項の規定により、収用委員会は、当事者の申立ての範囲を超えて裁決してはならないとされているところ、土地所有者、関係人からは損失の補償について、なんら具体的な主張がなかったのであるが、被告は、土地所有者、関係人の利益を考え、次のとおり判断した。

(一) 土地に対する損失の補償

土地所有者は、公団が提示した見積額に対し、特に補償額を申し立てなかったが、公団の提示額を不満としているものと認められたので、被告は、不動産鑑定士の鑑定評価等を勘案した結果、本件裁決に係る金額をもって妥当なものと判断した。

なお、替地による補償については、土地所有者がこれを要求しているものとは認められなかったので、これを採用せず、補償方法の原則である金銭補償を採用した。

(二) 土地に対する損失の補償以外の損失の補償

立木の補償について、所有者から特に補償額の申立てはなかったが、公団の見積額を不満としているものと認められたので、「公共用地の取得に伴う損失補償基準」に照らし、公団の見積額を検討してみたが、それはいずれも妥当なものと認められた。

4(一) 請求原因4(二)(1)(2)の事実のうち、土地所有者、関係人らの代表が、被告に対して一か月間の審理期日の延期を申請した事実を認めるが、その余の主張を争う。

被告は、昭和四五年三月三日、本件裁決に係る六筆の本件各土地に関する裁決申請書及び明渡裁決申立書を公団から受理した。被告は、右裁決申請書、明渡裁決申立書及びその添付書類が収用法四〇条及び四七条の三、同法施行規則一六条、一七条、一七条の六及び一七条の七に規定する方式に適合していると認めたので、同年三月一六日、右申請書、申立書及びその添付書類を成田市長に送付するとともに、土地所有者及び関係人らに裁決申請及び明渡裁決の申立てがあった旨を通知した(収用法四二条一項及び四七条の四第一項)。成田市長は、同年三月一七日、裁決申請及び明渡裁決の申立てがあったこと並びに収用しようとする土地の所在、地番及び地目を公告し、関係書類を同月三一日までの二週間公衆の縦覧に供した(収用法四二条二項及び四七条の四第二項)。

これに対し、右縦覧期間の三月三一日に七七六名の者から意見書が提出されたが、右意見書提出者のうち六八七名は、公団から裁決申請又は明渡裁決の申立てのあった土地所有者、関係人らの中に見当たらず、また、当該意見書には、提出者らが本件各土地の関係人に該当する旨の記載もなかった。そこで、被告は、右の六八七名に対し、同年四月二〇日付け文書千収委第一六号をもって、関係人及び準関係人としての権利について照会を行ったところ、同年五月六日、一三四〇名が本件各土地についての無償貸借契約確認証を提出し、関係人である旨を申し立てた。

被告は、同年四月一七日、裁決手続の開始を決定し、その旨を千葉県報に公告して、公団に通知するとともに、四月三〇日付けをもって、本件各土地につき裁決手続開始の登記を千葉地方法務局成田出張所に嘱託した(収用法四五条の二、同法施行令一条の九)。更に、被告は、同年六月一二日を第一回審理期日と定め、同月四日、その旨を千葉県報に公告するとともに、公団並びに土地所有者及び関係人一〇九名に対し、審理の期日及び場所を通知した(収用法四六条二項)。その際、前記無償貸借契約確認証により関係人として申立てのあった一三四〇名については、これらの者が収用法八条三項にいう関係人に該当するかどうか疑義があったが、被告は、右の一三四〇名に対しても、一応関係人として審理の期日等を通知した。

(二) 請求原因4(三)の事実のうち、土地所有者、関係人らの代理人が被告に対して原告ら主張の釈明を求めるとともに、期日の延期申請を行い、被告が、これを認めず、土地所有者、関係人らの代理人による発言を禁止して、公団に事業計画の説明を求めたことを認めるが、その余の主張を争う。

第一回審理は、昭和四五年六月一二日、千葉県総合運動場体育館において開催された。

被告は、受付業務を短時間に終了させるため、窓口を五班に分け、一班が担当する受付人員を三〇〇名とし、受付事務所要時間を一人約一〇秒として約一時間と計算し、多少の余裕をみて、受付時間を午前一一時三〇分から午後一時とした。ところが、土地所有者らは、午前一〇時ころからバス九台、普通乗用自動車約四〇台を連ねて会場に到着したが、一般駐車場において抗議集会を始め、午前一一時三〇分の受付開始時刻になっても受付に応ぜず、集会を続行した。しかも、土地所有者らは、多数の児童を連れて、定刻を過ぎた午後一時三〇分ころからようやく入場を開始したが、児童らが親権者を捜す等に手間取り、また、審理阻止のため旗竿等を携行したり、ヘルメットをかぶったりして入場し、入場の際氏名を明確に述べなかったりしたため受付事務が混乱し、審理の開始が大幅に遅延した。

被告は、審理の開始に当たり、本件審理が多数の当事者の参加により行われることなどから、特にその円滑な進行を図るべく、入場時に公団、土地所有者、関係人及び傍聴人に対して審理についての心得を記載したビラを配布するとともに、被告会長が、審理における注意事項及びその運営方法についてあらかじめ説明を行った。

ところが、原告らを含む土地所有者らは、この注意等を無視して発言をなし、分割申請が違法であること、審理開催通知が未到達であることについて釈明を要求した。

被告会長は、これに対して、「調査したところによれば、審理開催通知の未到達の事実はないが、仮にあった場合においても、別途考慮して意見を聞くので、今回は出席者について審理を行う。他の事項については、後刻文書で提出するように。」と回答した。しかし、土地所有者らがなおも強く発言を求めたので、被告会長は、その指示に従うよう注意したが、土地所有者らは、これに応じなかった。そのため、被告会長は、審理の進行を妨害する行動と認めて、その発言を禁止し、あらかじめ示した順序により、公団に対して事業計画の説明を求めた。

公団が事業計画の説明を開始したところ、土地所有者らは、そのほとんど全員が拍手、やじ等でその説明を妨害し、かつ、そのうちの数名が公団の代理人を突き飛ばし、マイクをもぎ取ろうとするなどして、混乱を引き起こした。

このため被告会長は、当日の審理を予定どおり続行することは不可能と判断し、後日現地調査をすることを告げて、審理を打ち切った。

(三) 請求原因4(四)の事実のうち、土地所有者、関係人らの代表が被告に対し現地調査について原告ら主張のような申入れをなし、被告がこの申入れに対して回答をせず、現地調査を八月二六日午後一時から行うことを通知したことを認めるが、その余の事実を否認する。

被告は、昭和四五年八月二六日現地調査を実施した。当日は、本件各土地の地勢及び地盤、現況、近隣の環境、当該土地の個性的特徴、土地上にある立木の状況等を調査し、当日に予定した調査を完了した。

なお、機動隊は、一般警備のために出動したものである。

(四)(1) 請求原因4(五)(1)の事実のうち、被告が原告ら主張の日に第二回、第三回の審理開催通知をしたことを認めるが、その余の主張を争う。

被告は、第二回、第三回の審理の開催に当たって、同年八月一七日に公団に通知するとともに、代理人を選任した土地所有者、関係人らに対しては当該代理人あてに、代理人を選任していない土地所有者、関係人らに対しては各人あてにそれぞれ通知した。

審理手続に関し、土地所有者、関係人らが代理人を選任することが許される以上、審理期日等の通知の受領代理を否定すべき理由はない。収用法四六条二項及び同法施行令六条二項が代理人について触れていないとしても、それは、通知の受領代理を否定する趣旨のものではない。

そして、代理人を選任した土地所有者、関係人らが被告に提出した委任状には、本件審理に関する一切の事項を代理人に委任する旨の記載があるので、それには通知の代理受領の授権も含まれるものと認めることができる。また、共同代理であることの記載もないから、単独代理の趣旨であると認めるのが相当である。

したがって、被告が、土地所有者、関係人らのうち複数の代理人を選任している者について、その代理人の一人にのみ審理期日の通知をしたことは、正当であった。

(2) 請求原因4(五)(2)の事実のうち、被告が原告らの主張の申入れに対して、原告ら主張の回答をなし、関係者らが椅子を移動して、会場が混乱したことを認め、その余の主張を争う。

被告は、土地所有者らの審理への正常な参加を求めたが、土地所有者らの入場は緩慢であり、入場を開始したのは午後四時過ぎであった。被告収用委員及び公団は、既に定席に着いて入場を待っていたが、入場した土地所有者らは、突然一斉にその椅子を定位置から被告委員席真下に移動させた上、委員に対して口々にやじるなどの行動に出て、定位置に戻るようにとの被告事務局職員の再三の注意にも従わなかった。そのため被告委員がこの状況に対処する措置を別室で協議するために席を立ったところ、土地所有者ら約三〇名は、壇上に飛び上がり、委員を押し倒すなどして、斉藤委員に肋骨骨折による全治一か月の傷を負わせたほか、被告会長所持の関係書類が持ち去られるという事態が生じた。そのため第二回審理は、実質的には開催不能となった。

(五) 請求原因4(六)の事実のうち、土地所有者、関係人らが被告に対して原告ら主張の要求をなし、被告が土地所有者、関係人らの入場のないまま、公団から意見を聴取したことを認めるが、その余を否認する。

被告は、第三回審理の開催に当たり、前回までの審理状況、前日の暴行事件の発生に鑑み、混乱の原因となった椅子の移動を防ぎ、出席者が理由もなく壇上の委員席に上ることのないように、その中間に細ロープを張るとともに、審理会場の各入口の扉の外の通路等において警察官が警備に当たるよう警察に要請し、更に、場外にスピーカーを設けて、会場外の者が審理状況を知ることができるように配慮した。被告は、右のような措置を執っても、これによって公正な審理を行うことができないとする理由は認められないと判断し、前日の暴行事件の事態を考慮して、原告らの要求は受け入れられないものとし、その要求を拒否した。

土地所有者らは、再三の入場の呼び掛けにも応ぜず、場外で気勢を上げ、受付場所を占拠して受付事務を麻痺させるなど、審理を妨害する行為を続けた。被告は、「入場しない場合は、収用法六三条に規定する利益を失うことがある。」旨のアナウンスを繰り返し行ったが、午後一時三〇分を過ぎても、土地所有者らにはこれに応ずる態度が見られなかった。そこで、被告は、土地所有者らが審理の遅延のみを目的として右のような言動に出ているものと認め、既に入場していた公団から必要と認める意見の聴取を行った。その後被告は、定刻の午後五時まで土地所有者らの入場を待ったが、入場がなかったので、審理を閉じた。

(六) 請求原因4(七)の事実のうち、土地所有者、関係人らが昭和四五年一〇月一二日被告事務局長に原告ら主張の申入れを行い、被告が同日付けで「同月二二、二三日に審理を行う。」旨の通知をなし、同月二二日に土地所有者、関係人らの代理人弁護士から書面による期日変更の申入れがあり、被告がこれを拒否したことを認めるが、その余の主張を争う。

第四回審理に当たっては、審理開催の時期、開催通知の方法及び入場整理券の交付等について事前協議がなされたので、被告は、審理期日を一〇月二二日と定めて、同月一二日公団及び土地所有者らに通知した。同日土地所有者らの代表から審理期日の延期の申入れがなされたが、被告は、「この期日は、既に事前打合せによる了解に基づくものであり、延期申入れの理由とされた事項は、いずれも正当な理由とならない。」として、決定どおりに行うことを通告した。同月二二日の審理期日には、入場していた土地所有者らから、「相当数の者が耕運機で会場に向かっているので、その到着を待って審理を進行させて欲しい。」旨の発言があったが、意見は出されなかった。そこで、被告は、公団から、明渡しの時期についての意見及び無償貸借契約確認証を根拠に関係人であると申し立てている者に関する意見等を聴取した。

その後被告会長が土地所有者らの発言を再三促したところ、その者らの代理人弁護士らは、審理期日の延期、現地開催等の要請、分割申請の違法性、新空港建設事業の公益性の存否、警察力の行使の当否、手続の違法性等に関して発言した。

この発言の終了近くに、耕運機による土地所有者らが到着し、児童にデモさせるなどしたため、会場は混乱したが、被告会長は、「明日の審理を予定どおり開会する。」旨を告げて、午後五時に閉会した。

(七) 請求原因4(八)の主張を争う。

昭和四五年一〇月二三日の第五回審理期日の直前に、土地所有者らの代理人から、当日千葉地方裁判所における刑事事件の公判に出席する者があるとして、期日の延期申請がなされたが、被告の調査結果によれば、該当する当事者は四名であり、いずれも代理人を選任しているので支障がなく、延期する理由は認められないとして、予定どおり開催することとした。

しかし、被告は、午後二時まで意見聴取の開始を待ってみたが、土地所有者らは、被告からの通告に応ぜず、入場しなかった。被告は、これまでの行動からみて、土地所有者らは口頭説明についての権利を行使する意思がないものと認め、公団から、前回の土地所有者らの意見に対する反論を聴取した。被告は、更に、使用貸借契約による関係人及び代替地等について、公団の意見を聴取した後、土地所有者らの入場を待った。しかし、入場しなかったので、被告は、午後五時ころ閉会した。

5(一) 請求原因5(一)の主張を争う。

(1) 行政行為の公定力と違法性の承継

一般に行政行為は、それが法律上当然に無効でない以上、行政庁の職権により又は争訟手続により取り消されない限り、仮に違法であっても有効とされ、他の訴訟においてもその違法を主張できない効力、いわゆる公定力を持つ。

違法性の承継を認めることは、先行の行政行為に存する原因を、後行の行政行為の取消訴訟において、その取消原因として主張することを許すことになり、公定力理論の本質的部分に反することとなる。

(2) 違法性承継の根拠

違法性の承継を認めるべきであるとする根拠は、国民の権利保護の要請にあるとされている。しかし、先行行為について一般の取消訴訟が可能である場合には、先行行為について不服のある者は、その先行行為を訴訟の対象として争えばよいのであるから、国民の権利、利益の救済について、特段の不合理な事情がない限り、違法性の承継を認める必要はない。

(3) 違法性承継の不合理性

① 出訴期間の制限との関係

出訴期間徒過の重要な効果は、違法が違法でなくなるということではなく、違法が存在することを主張して当該処分の効力を争えなくなるということである。違法性の承継を認めると、法が出訴期間の制限を定めて、もはやその違法を主張して当該処分の効力を否定することができないものとした趣旨と相容れない効果を認めることとなり、不合理である。

② 判断の矛盾、抵触の可能性

本件訴訟のように、事業認定と収用裁決の双方が取消訴訟の対象となっている場合には、事業認定が取り消されると、収用裁決は当然にその前提を失って、効力を失うのであるから、事業認定の違法を理由として収用裁決の取消しを求める必要性は存在しない。収用裁決の取消訴訟では、収用裁決固有の瑕疵を主張させるだけで十分である。

また、収用裁決の取消訴訟において事業認定の違法を主張することができるとした場合には、収用裁決取消訴訟の判決が先に確定し、後にこれと矛盾する事業認定取消訴訟の判決が確定した場合に、救い難い混乱が生じる。

③ 収用委員会の審査権限

収用委員会は、事業認定の適否について審理する権限を有していない。先行行為の適法性について審査権限を有していない者に対して、先行行為の違法を主張することを認めるというのは不自然であるばかりでなく、法が処分権者及び処分要件を定め、先行行為をも抗告訴訟の対象としている趣旨を没却するものである。

(4) 事業認定、収用裁決と違法性の承継

収用法上、事業認定申請書等は、関係市町村において公告の上、二週間縦覧に供されることとなっており、この間、土地所有者、関係人らは都道府県知事に意見書を提出することができる(収用法二四条、二五条)。次いで、事業認定がなされると、事業認定庁においてその告示を行い、市町村長において直ちに起業地を表示した図面を公衆の長期縦覧に供することとなる(同法二六条、二六条の二)。更に、起業者による周知措置も行われるようになっている(同法二八条の二、同法施行規則一三条、一三条の二)。

以上のとおり、法律上、公告、告示等の諸制度が設けられているのであるから、土地所有者、関係人らは、事業認定について迅速かつ確実に知りうる機会を与えられており、これに違法がある場合には、取消訴訟を提起することが容易である。したがって、事業認定に関する救済手段としては、これで十分であり、収用裁決の取消訴訟において事業認定の違法性を争わせなければならない必要性はない。

(二) 請求原因5(二)の主張を争う。

本件事業は、公共用の飛行場である新空港の建設事業であり、公団は、航空法五五条の三第一項の規定に基づいて、本件工事実施計画を作成の上、昭和四一年一二月一三日、運輸大臣に対して右実施計画の認可を申請し、同大臣は、昭和四二年一月二三日、右実施計画を認可するとともに、右認可に当たり、同条二項において準用する同法三八条三項、三九条(一項三号及び四号に係るものを除く。)及び四〇条の規定に基づき所要の手続を行った。

収用法三条一二号の規定する「飛行場」及び「航空保安施設」の概念は、専ら航空法によって規定されるが、航空法二条四項は、「航空保安施設」とは、「電波、灯光、色彩又は形象により航空機の航行を援助するための施設で、運輸省令で定めるものをいう。」と規定しており、同法施行規則一条は、航空保安施設として、航空保安無線施設、航空灯火及び昼間障害標識を規定するのみである。このように、航空法も同法施行規則も、原告ら主張のように「航空保安施設」を「飛行場保安施設」と「航空路保安施設」の二つに区別してはいない。また「飛行場」と「航空保安施設」とは、航空法において、設置手続、設置基準、管理基準等が明確に区別され、それぞれ別個の手続規定及び基準に服するようになっており(同法三九条一項、二項、四〇条、四一条一項、三項、四四条、四五条)、設置についての運輸大臣の許可(同法三八条一項)ないし認可(同法五五条の三第一項)も各別にされることとなっている。すなわち、航空法は、右の両者を明確に区別しているのであるから、原告らが航空保安施設の一部であると主張する「飛行場保安施設」が収用法三条一二号の飛行場に含まれるものと解することは到底許されない。

もとより、空港としての機能を発揮するためには、法定の航空保安施設を設置することが必要不可欠である。しかし、航空保安施設用地を飛行場の起業地に包含させ、これを一個の事業として申請しなければ、事業認定の要件を欠くというものではなく、航空保安施設については、必要に応じて、別個に事業認定を受ければ足りる(収用法三条一二号)。

(三) 請求原因5(三)の主張を争う。

(1) 本件事業の遂行については、必要な財源措置が講じられている。また、本件事業の遂行については、運輸大臣より本件工事実施計画の認可を受けているとともに、公団は、その組織及び職員の配置についても本件事業の遂行に必要な体制を整備している。

したがって、公団は、本件事業を遂行する十分な意思と能力(法的、経済的、企業的)を有する。

(2) 鉄道建設、道路建設及び空域の設定については、これを遂行する機能を持った事業主体又は機関が別に存在するので、公団が自らこれらのすべてを行う必要性はない。公団は、従来からこれらの事業主体と連絡調整を図ることに十分努力してきている。

(四) 請求原因5(四)の主張を争う。

(1) 本件事業に係る事業計画は、当該起業地に新空港を建設しようとするものであるところ、その起業地は、航空管制上の支障がなく、気象条件、地質条件等も良好であり、かつ、都心との交通連絡手段も高速道路等の建設により一時間程度で連絡が可能なものであって、新空港の適地である。

また、起業地の選定に当たっては、家屋の密集地を避け、人口密度が低く、農地、山林等の多い比較的開発の進んでいない地域が選ばれており、かつ、事業の遂行による地域への影響をできる限り少なくするために、近隣で最大の市街地である成田市中心部は航空機の飛行経路から外されているとともに、周辺で最も人家が集中している三里塚の交差点が滑走路から約一キロメートル離れるように設計されている。

更に、右の事業計画は、下総御料牧場等の国公有地を有効に利用し、これを起業地に取り込むことによって、民有地の買収及び家屋の移転を極力少なくするよう配慮するとともに、滑走路とターミナルを効率的に結ぶ施設計画を立てることによって、必要面積を最小限に押さえる配慮をしている。

したがって、事業計画は、土地の適正かつ合理的な利用に寄与するものであり、本件事業は、収用法二〇条三号所定の要件に該当する。

(2) 最適地の原則

事業が収用法二〇条三号所定の要件に該当するためには、収用又は使用しようとする土地について、当該土地が当該事業の用に供されることによって得られるべき公共の利益と、当該土地が当該事業の用に供されることによって失われる私的ないし公共の利益とを総合的に比較衡量した結果、前者が後者に優越すると認められることを要し、かつ、これで足りるものと解するのが相当である。

原告ら主張の「最適地の原則」は、実定法上明文の根拠を欠くばかりでなく、収用法が、当該土地に即して、事業計画が「土地の適正且つ合理的な利用に寄与する」ことを要件と定めている趣旨に照らせば、当該事業によって、当該土地の適正かつ合理的な利用が増進される限り、当該土地が当該事業にとって唯一無二の最適地であるかどうかは、問うところではないと解すべきである。すなわち、右の要件を満たす限り、当該事業にとって最適地とは認められない土地について事業認定をしても、当不当の問題を生ずることは別として、前記規定に違反する違法があるということにはならない。

したがって、収用法二〇条三号が最適地の原則を要件とすることを前提とする原告らの主張は、その前提において失当である。

また、三号要件の該当性に関する建設大臣の認定及び判断は、当該事業や当該起業地の利用に関連する諸々の公益ないし私益の総合的な利益衡量を要するものであって、その性質上専門技術的な事実認定及び価値判断を伴うものであるから、合理的な範囲内において建設大臣の裁量に委ねられているものである。したがって、右の裁量権の範囲を超えるか、又はその濫用にわたらない限り、違法の問題を生ずる余地はない。

(3) 三里塚地区の適地性

① 人口の密集する東京近郊において、広大な面積を必要とする国際空港の適地を見出すことは至難であるが、三里塚地区は残された数少ない適地の一つであった。運輸大臣は、航空審議会に諮問するなどして、広く有識者の意見を徴するとともに、長期間にわたって多方面から検討を重ね、各分野の専門家による科学的な検討を経た結果、三里塚地区が数多くの候補地の中で、国際空港としての立地条件を最も良く備えたものと判断し、これを選択した。

② 空域上の条件(管制上の条件)

(ア) ある地域に空港を設置するためには、その空港に離着陸する航空機の航行の安全を確保するため、その空港周辺の上空に、管制圏、出発経路、進入経路及び待機経路のための空域を、隣接する空港のための空域及び航空路と競合することなく、設定することができる場所であることを要する。

右の条件は、空港の技術的な立地条件として最も重要な要素となるが、この点について専門的な見地から検討した結果、新空港を三里塚地区に設置しても、新空港、羽田及び百里の飛行場にそれぞれ必要な空域が確保され、これらの飛行場につき安全かつ円滑な航空管制が確保されることが明らかとなった。

現に、本件空港、羽田及び百里の各飛行場には、それぞれ必要な空域が確保され、航空管制上支障がないように措置されている。

(イ) 羽田空港の離着陸処理能力

本件空港は、羽田空港から直線距離にして約五二キロメートル離れており、互いに必要にして十分な空域を確保して設置されたものであるから、それによって羽田空港の離着陸の処理能力が低下するという事態は生じない。

(ウ) 百里空域との関係

百里飛行場からのジェット戦闘機の緊急発進については、特別の飛行ルートが設定されているので、成田空域内を飛行する航空機との接触等が発生するようなおそれはない。

また、一般に航空機相互間の無線連絡は、航空管制を受けている航空機には必要がないものであって、本件空港には、UHF及び百里との直通回線が設置されているほか、成田の北方空域(百里空域を含む)のためのレーダー席が設置されているので、百里空域との関係で、航空管制上の支障が生ずることはない。

(エ) したがって、三里塚地区は、空域条件においてなんら難点がなく、新空港を設置するについて、空域条件上適地である。

③ 交通連絡手段

都心から三里塚地区までは、道路距離にして約六六キロメートルであって、適当な交通手段さえあれば、都心と本件空港との間を一時間で結ぶことも十分に可能である。

しかも、三里塚地区への交通連絡手段としては、京成電鉄、国鉄(当時)成田線、京葉道路等の既存の鉄道及び道路を利用することができ、また、東京湾岸道路等の道路計面を一部利用することができる利点があった。また、新空港のため新たな交通手段の設置を計画することも容易であったから、三里塚地区は、交通連絡手段上の条件を満たし、新空港の適地である。

原告らは、本件空港と都心との連絡方法が不備であると主張するが、行政処分の適法性は処分時を基準として判断すべきものであるところ、本件事業認定当時においては、新空港開発の時点でその交通需要をまかなうに足りる鉄道及び道路の計画が樹立され、それらの交通機関を利用することにより都心から一時間で新空港との間を結ぶことができるとされていたのであって、当時その計画の内容及び実現性の点において合理性があった。その後、沿線住民の反対により成田新幹線の建設が遅延しているとしても、本件事業認定の効力に影響を与えるものではない。

現在、鉄道については、京成電鉄のスカイライナーが本件空港と都心との間を約六〇分で連絡しており、道路についても、東京湾岸道路はすべて供用を開始されていて、本件空港と都心とを結ぶ高速バスは、空港方向は約六〇分、都心方向は約六五分で連絡している。

④ 気象条件

定期路線の航空機は、台風等の特殊な気象条件下にある場合を除き、天候のいかんを問わず、定期的にかつ安全に運行されなければならない。特に国際空港においては、予想就航率が九九パーセント以上であることが望まれる。

空港の用地選定に際して問題となる気象条件の主なものは、風向及び風速の分布、霧、スモッグ等の発生度である。風向及び風速の分布については、三里塚地区に近い千葉県布佐、佐原、茨城県牛堀の観測資料により調査を行ったところ、航空機の横風に対する許容限度を一三ノット(6.7メートル毎秒)とした場合、一方向に滑走路で年間を通じて九四から九七パーセント、二方向の滑走路で九八から九九パーセントの利用度が確保されることが明らかになり、更に、現在の大型ジェット機の横風に対する許容限度が二三ノットから二八ノットに達することから、横風許容限度を二〇ノットとすれば、横風用の滑走路を度外視して一方向の滑走路を使用するとした場合でも、九九パーセント程度の利用度を示すことが明らかとなった。このことは、三里塚地区が空港用地として恵まれた立地条件を備えていることを示すものである。

また、霧に関しては、東京、布佐、佐原、三里塚における昭和二九年から昭和三八年まで一〇年間の統計からみて、三里塚地区は特に問題のないことが明らかとなった。

なお、スモッグについても、東京湾の工業地帯から遠く離れているので、その懸念はないものと判断された。

その他、降水量、雨日数、雪日数等の気象現象についても、三里塚地区にはなんら難点がなかった。

⑤ 地形及び地質

航空機が空港に安全に離着陸するためには、空港周辺に、山、森、高い建造物等の障害物が存在しない方が望ましいから、空港予定地の周辺は、広範囲にわたって平坦であることが必要である。

次に、空港用地の地質は、滑走路等の構造物の設置に適する強度を持ったものでなければならない。関東平野においては、地層生成が新しく、地質も軟らかな沖積層よりも、洪積層台地の方が、耐震性や地盤沈下のおそれが少ない点において、地盤条件が良いとされている。もっとも、右の条件に直ちに適合しない土地であっても、起伏のある土地を平坦にし、海を埋め立て、軟弱地盤に地盤強化の工事を施すことは可能であるが、それには、技術的に可能であることばかりでなく、建設費及び工期が合理的範囲にとどまることが必要である。

三里塚周辺の北総台地は、成田層群と呼ばれる海成の洪積層の上に、薄く関東ロームをかぶった台地であって、その地形発達史並びに成田層の構成及び性質から見て、新空港の設置に全く支障がなく、また、三里塚地区は、その平坦及び広さの点において適切な用地であり、建設工事も容易であって、工期及び建設費の上でも特に問題がなかった。

⑥ 既存の権益の保全

本件事業に係る起業地のうち、約三七パーセントは国及び千葉県の所有地であり、その他の民有地も、家屋が少なく、人口密度が低い農地、山林、原野等であったから、土地の利用方法の変更により、既存の権益を害するおそれは比較的少ないと判断された。

また、政府等は、農地の潰廃に対する対策として、新たに代替地を造成開墾し、畑地灌漑工事を行うことによって、従前の農業経営を継続することができるようにする計画を立て、更に、航空機騒音その他の公害防止のためにも、当時としては手厚い対策を立てていたのであるから、既存権益の侵害のおそれは、更に減少していた。なお、潰廃農地対策として実施された代替地の造成、畑地の灌漑工事等により、農地の生産性は上昇し、近代農業のできる基盤が整備されたのであるから、農地の総面積は減少したが、従前どおりの農業経営を継続することが可能となった。

⑦ 騒音問題の対策

政府は、新空港の位置選定及び施設計画の策定に先立ち、羽田空港及び大阪空港周辺において航空機騒音の測定を行い、それらの結果並びに新空港に離着陸する航空機の機種及びその利用頻度等を勘案して、予想騒音等音図を作成した上、政府及び公団は、これらの調査結果を参考にして、新空港における騒音防止のための発生源対策等として他空港の水準を抜く騒音防止対策を予定していた。また、建設大臣は、本件事業認定申請を審査するに際して、公団及び運輸省から右のような騒音対策に関する説明を聞き、資料の提供を受けて、慎重に審査したのであるから、右審査に際して騒音問題の審査を欠落したことはなかった。

次に、本件事業認定に瑕疵があるか否かについては、処分時に存した事情のみによって判断すべきであるところ、原告ら主張の航空機騒音に係る環境基準は、本件事業認定後に告示されたものであるばかりでなく、「環境基準は、行政上の目標としての基準」である。すなわち、それは、個別の公害対策の実施に当たって、終局的に保つべき基準として設定されたものであり、汚染ないし騒音の影響のある地域については、「とりあえずこれ以上汚染等を進行させないための行政上の措置を講じていく上での指標となるとともに、更に、環境基準の程度まで汚染度を低減させるよう具体的な施策を実施するための目標としての役割を果たす。」ものであって、当該事業者等に対して直接の規制として働くものではない。

したがって、その性格は、著しくプログラム規定的意味の強いものであって、しかも、行政内部的に作用するに過ぎないものであるから、右環境基準違背が本件事業認定の瑕疵となることはない。

なお、関係各機関は、環境基準が達成されるように努力しているのであり、昭和三〇年代以降、航空機騒音対策の重要性が認識されるにつれて、機材改良、便数調整及び運行方式改良等の音源対策、周辺対策等の進歩には目覚ましいものがあり、今後もその対策は改善される余地があるから、将来における環境基準違背をうんぬんすることは早計というべきである。

⑧ 農業最適地の潰廃

新空港の設置は、時代の国家的要請として強く要請されており、また、本件起業地は新空港の設置場所として適地というべきであるから、そのために農地が潰廃されてもやむを得ない。これを補完するものとして、適正な補償、代替地の補償、職業転換対策等の措置が講じられているので、農民の生活や農業が破壊されることはない。

⑨ 離着陸の機能

B滑走路は、国際線においても近距離用や着陸用として十分に使用可能なものであり、その使用可能率は全離着陸の八一パーセント(着陸一〇〇パーセント、離陸六二パーセント)であるから、B滑走路の長さが短か過ぎて使いものにならないということはない。また、A滑走路が閉鎖される事態が発生する確率は極めて小さいばかりでなく、たとえ、A滑走路が閉鎖される事態が生じたとしても、通常の場合(夏の特に暑い日でない場合)は、C滑走路の使用によってほとんど一〇〇パーセントに近い機能を代替させることができる。

次に、航空法上の飛行場とは、飛行場施設を意味し、航空保安施設を含まないものであることは、航空法三九条二項、四〇条、四一条一項、同条三項、四四条、四五条等の規定に照らして明らかであり、また、収用法は、飛行場と航空保安施設とを別個の事業認定の対象としている。

公団は、航空保安施設用地を任意買収により取得する方針であったので、その用地を起業地には含めず、飛行場のみを事業認定の申請の対象としたものである。また、建設大臣は、申請に係る飛行場が、空港の機能の実現のために必要不可欠の施設であることに鑑み、本件事業認定を行ったものであり、右事業認定に際しては、公団から航空保安施設の内容及びその設置予定地について説明を受け、その設置予定地については別途任意買収により取得する旨の説明を受けた上、その取得の可能性があるものと判断したものである。

そして、行政処分の適法性は、処分時を基準として判断すべきであるところ、A滑走路南側の進入灯及びミドルマーカーが起業地の中に設置されたのは、本件事業認定以後のことであるから、右の事実をもって本件事業認定の適法性を争うことはできない。

なお、進入灯及びミドルマーカーが起業地の中に設置されたのは、進入灯及びミドルマーカーの設置予定地の一部が、反対運動等によって未買収のままになっていたため、臨時に設置されたことによるものであって、将来公団が当初の設置予定地を取得したときには、当然計画どおりの位置に設置されることになっている。また、現在用地買収の進捗に応じて、正規の進入灯設置工事が進められている。

(4) 三里塚地区以外の候補地

新空港の位置を三里塚地区に決定するまでには、二〇箇所以上の候補地を調査したが、三里塚地区以外の候補地は、いずれも空港の立地条件を満たしていないか、三里塚地区には劣ると判断された。その主なものについては、次のとおりである。

① 首都圏西部の候補地

首都圏西部には、米軍の用に供されている横田、立川、厚木の三飛行場と、防衛庁管理の入間川基地とがあって、首都圏西部の空域は軍用機又は自衛隊機によりほぼ独占的に使用されており、新空港独自の空域を設定する余地がなかった。

仮にこれらの四飛行場のうち三飛行場を廃止し、残る一飛行場を新空港として使用することにしても、本件空港と同程度の能力を保有させるためには、滑走路の延長、飛行場のエリア拡張が必要となるが、これら四飛行場の周辺は人家が密集しているため、航空機騒音及び用地取得の面からも問題があった。

② 羽田空港拡張案

羽田空港拡張案は、次の理由により採用されなかった。

(ア) 東京湾に出入りする船舶の航行に支障を及ぼすとともに、当時実施中の東京港港湾計画を根本的に変更しなければならなかった。

すなわち、羽田空港を拡張し、羽田沖合に平行滑走路を増設する場合、東京湾における船舶の出入航路は、広範囲にわたって新空港の進入表面等による制限を受けることとなるため、航路移転が必要となり、更には、東京湾の既存の港湾施設を大幅に移転する必要が生じかねず、そうなれば、当時実施中の東京港港湾計画が根本的に改訂を迫られることは必至であった。

なお、東京港港湾計画は、首都圏における物資流通機能の整備、拡充等を目的として、港湾管理者において策定されたものであるから、埋立計画自体には問題がなかった。

(イ) 建設技術上の問題

羽田空港を拡張することとした場合、その埋立が予想された海域の水深は、深いところで二〇メートル以上、平均で一二メートル程度はあったから、その埋立に要する土砂は、本件空港と同規模のものとする場合で、約二億五〇〇〇万立方メートルという膨大な量が予測され、この大量の土砂をどこから採取してくるかが第一に問題であった。その上、たとえそれだけの量の土砂を採取してくることができたとしても、空港全体の造成経費(補償を含む)は、富里の約八倍掛かると推定された。

まあ、この埋立工事だけでも、長年の工期を要すると予測されたが、当時の羽田空港の緊迫した状況からして、その完成を待つことは到底できないと考えられた。

更に、羽田空港沖合の海底には、数十メートルに及ぶヘドロ層が存在していたため、埋立工事に多大の困難が伴うとともに、埋立工事の際、いかに地盤改良に工夫をこらしても、当時の技術水準では完成後の地盤沈下は免れず、しかも不等沈下を起こす可能性があると予想されたため、その維持管理に確信を持てないという問題もあった。

なお、昭和四二年の運論省の羽田空港拡張案は、埋立の規模及び範囲が異なり、埋立が可能であるとする根拠にはならない。

(ウ) 気象条件

羽田空港の周辺には臨海工業地帯が控えているため、スモッグが発生することが多く、気象条件からしても、他の候補地と比べてみて難点があった。

(エ) 処理能力の不足

最大の問題は、羽田空港の立地条件の下で空港を拡張しても、処理能力の向上の点で効率が悪いということであった。すなわち、羽田空港周辺の環境は、北側及び西側に東京都区内の人口密集地帯があり、西南側に川崎工業地帯があるため、北側及び西側については航空機騒音の問題から、西南側については航空機騒音の問題に加えて、石油コンビナートを抱えているため、航空機事故発生の際の災害防止の観点から、それぞれ羽田空港の出発、進入経路をその方向に取ることができない状況になっていた。このように羽田空港は、出発、進入経路設定の点において、立地条件上著しい制約を受けていた。

空港を拡張した場合、新滑走路を既存滑走路と独立させて使用できるようにするためには、新滑走路を既存滑走路から十分な間隔を置いた上、既存滑走路と平行して設置すると同時に、新滑走路の出発、進入経路を既存滑走路の出発、進入経路と独立させて設定する必要があった。ところが、羽田空港の場合には、右のように立地条件上、出発、進入経路の設定に大きな制約があり、特に北西側については新滑走路のために独立した出発、進入経路を設定することが困難であったため、羽田空港を拡張しても、離着陸処理能力向上の点から効率が悪かった。

以上から明らかなように、新滑走路を羽田沖に設置したとしても、出発、進入経路等の関係で、新滑走路と既存滑走路を独立して使用することはできなかったのであり、新滑走路を設置することによって得られる効用は、せいぜい離着陸の時間的間隔を若干短縮できる程度であった。そして、新滑走路一本を羽田沖に設置することにより新たに得られる離着陸処理能力の向上は、羽田空港の当時の離着陸処理能力年間一七万五〇〇〇回の約三〇パーセントと予測されたのである。したがって、羽田空港の有する本質的な制約が解消されない限り、新空港に要求される離着陸処理能力が実現されることは不可能であった。

③ 東京湾中北部の候補地

(ア) 羽田空港廃止の問題

羽田空港の進入、出発経路は、ほとんど東京湾方面に設定してあったので、もし東京湾中北部に新空港を設置した場合には、羽田空港と両立しないおそれがあった。

しかしながら、本件事業認定時までの羽田空港に対する投資は莫大な額に達していたこと、同空港の年間一七万五〇〇〇回という離着陸処理能力には捨て難いものがあったこと、同空港は都心に極めて近い場所に位置し、都心との各種の交通施設も完備して、空港としての必須の条件を備えていたことなどから、羽田空港を廃止することは非常な不利益を伴うものであった。

また、羽田空港の出発、進入経路の設定についても制約がある以上、たとえ羽田空港と空域を統合して、集中管制方式を導入するとしても、新空港の出発、進入経路の設定が容易になるものでないことを考えれば、新空港を東京湾内に設置する案は、極めて非現実的な案であって、到底採用され得るものではなかった。

(イ) 離着陸処理能力上の問題

東京湾中北部に新空港を設置したとしても、羽田空港と同じように、人口密集地帯及び米軍航空路を避けて、出発、進入経路を設定しなければならないという問題があったから、このような制約によって、新空港の離着陸処理能力は、四分の三程度に低下すると予想された。

(ウ) 気象条件

新空港の埋立候補地の周辺には、本件事業認定当時、五井・姉ヶ崎の臨海工業地帯を始めとして、広大な工業地帯が計画されていたから、将来、スモッグ等の発生が予想された。

(エ) その他進入表面等による制限のため船舶航行に及ぼす影響、建築技術上の問題についても、羽田拡張案と同様の問題があった。

④ 富里

富里は、三里塚地区とほとんど同一の立地条件を有していたので、その意味では、新空港設置の立地条件を満たしていた。しかし、用地取得の問題において、三里塚地区の場合には、国有地及び県有地を利用することにより、買収民有地を最小限にとどめることができ、既存の権益に与える影響をより少なくすることができた点において、三里塚地区の方が富里より優れていたといえる。

(5) 以上のとおり、三里塚地区は、新空港の位置として最適地であり、他の候補地は、立地条件の上においてすべて三里塚地区に劣ることが明らかであった。

(五) 請求原因5(五)の主張を争う。

(1) 昭和四四年当時、我が国の国際航空輸送需要は、経済の成長、国際交流の進展を反映して著しい増大を示しており、また、航空機材の技術革新の結果、超大型機の就航が目前に迫り、近い将来において超音速旅客機の出現が確実となっていたのであるが、羽田空港の航空機離着陸処理能力は、年間一七万五〇〇〇回が限度であって、需要予測によれば、昭和四五年ころには、この限界に達するものと予想されていた。

したがって、東京地区における長期の航空需要に対応し、かつ、将来の国際航空路線の新機種を受け入れるためには、新たに国際空港を建設することが必要不可欠であり、新空港を建設しなければ首都東京の政治的、経済的活動に重大な支障を与えるだけでなく、我が国の国際的な地位、信用にも悪影響を及ぼすことが明らかであった。

このような情勢の下に、東京都周辺において新たに国際空港を建設し、運営することを目的として公団法が制定され、本件閣議決定がなされるに至った。公団法の目的とするところに従って新空港が建設されるならば、首都東京における航空輸送は、将来長期にわたって確保されることとなり、我が国の政治、経済、文化の各方面において貢献するところが多大であって、我が国の国際的地位の向上にも寄与するものであった。したがって、起業地内の土地を収用して本件事業を施行する公益上の必要性は極めて大きかったのであって、本件事業は、収用法二〇条四号所定の要件に該当するものである。

(2)① 羽田空港の輸送の実態

羽田空港における航空機の発着回数は著しく増加し、昭和四五年度においては年間約一六万四〇〇〇回に達して、ほぼ同空港の処理能力の限界に達していた。そのため運輸省は、航空輸送の安全性を確保する観点から、各航空会社に対して減便その他諸種の規制を伴う非常措置を講ずることを余儀無くされ、昭和四六年以降は、発着回数を一日当たり四六〇回に制限していたが、それでも最大の混雑時には、航空機がほぼ二分間に一機の割合で発着していた。そして、右の発着回数等の規制により、羽田空港は、潜在需要を含めて急増する航空需要に対応し得なくなっていたので、国内線の枠を国際線に振り向ける余裕はなかった。

② 国内輸送における航空輸送の実態

航空輸送は、他の交通手段と比べて、勝るとも劣らない高い公共性を有する交通手段であり、一国の交通体系において、極めて重要な部分を占めるものである。原告らの主張は、航空輸送の重要性と公共性について目を覆い、いたずらに偏った価値判断に基づいて航空輸送の公益性を過小評価するものであって、失当である。

航空、鉄道等の各種交通手段は、それぞれの技術的特性等によって長所、短所を有している。航空輸送は、最も迅速な交通、運輸の機関として、社会的、経済的に重要な役割を果たしており、国際間の輸送においてはもとより、我が国の国内においても、長距離輸送や離島間の輸送等に不可欠の手段であって、これに対する需要は、近年次第に一般化し、増大してきたことが明らかであり、その需要は、将来にわたっても増加することこそあれ、減少することはないものと推定される。

右の事実は、次のような航空輸送の特質と、その全交通体系に占める重要性について顧慮するならば、なお一層明らかとなる。すなわち、航空輸送は、抜群の高速性によって長距離輸送の所要時間を短縮し、また、空間を飛翔するので、山岳、海等によって隔てられた地点間の輸送の所要時間も他交通機関と比較して格段に短縮するという長所を有している。この長所と、航空機の大型化による実質運賃の低下及び利用者の所得上昇に基づく運賃負担力の増大によって、国際間の旅客輸送は、全面的に航空輸送に依存するようになった。

一方、国内の旅客輸送についてみると、昭和五八年度の航空輸送量は四一〇〇万人で、国内旅客総輸送量の一パーセントに満たないもの(人キロによれば三〇六億人キロで、四パーセント弱)であり、航空輸送量の総輸送量に占める比率は極めて小さいが、このことは航空輸送の重要性を損うものではない。航空輸送の長所が発揮される輸送については、航空輸送の総旅客輸送量に占める比率が高く、例えば昭和五八年度において、東京・北海道間の航空輸送と鉄道輸送の割合をみると、航空輸送が九四パーセントとなっている。このように航空輸送に固有の技術的長所が発揮される分野においては、輸送の中核となっているのであるから、航空輸送の役割は重要なものである。

なお、航空輸送の総旅客輸送量のうちに占める比率が小さいのは、いわば当然のことである。なぜならば、旅客の旅行量は、距離の二乗に反比例する性質があり、長距離の旅行量の総量は短距離のそれと比べて著しく小さいからである。また、航空輸送の絶対量が小さいことをもって、交通の「公共性」が乏しいとする見解が無意味であるのは、国内輸送量のうちに占める輸送量が最も大きい交通手段が自家用乗用車であること一つを取り上げても理解されるところである。

③ 航空需要の内実に関する原告らの主張は、社会的にみて、観光等のレジャー旅行が、業務を目的とする旅行よりも価値が小さい、不要の旅行であるとみなす考え方に基づくものであり、それ自体偏った価値判断を含むものであって、失当である。

(六) 請求原因5(六)の主張を争う。

(1) 公聴会は、本件閣議決定前に開催されなかったが、本件閣議決定は政府の行政指針として、新空港の位置を三里塚地区を中心とする地区と定めたものに過ぎなかった。新空港の設置者が公団であることは、公団法一条及び航空法五五条の三の規定により明らかであるから、本件閣議決定ないし位置政令公布の段階で、内閣を新空港の設置者とみるべき法的根拠はなかった。

また、航空法三九条二項は、公団以外の者から飛行場等の設置許可申請がなされた際に、運輸大臣に対して公聴会の開催を義務付けた規定であるから、公団が設置する新空港の位置を定めるについて適用される規定ではない。

もっとも、航空法三九条二項の趣旨は、新空港の設置に当たっても生かされており、本件における工事実施計画の認可に当たっては、昭和四二年一月一〇日に公聴会が開催された。

(2) 航空審議会は、航空管制、気象条件、工事上の問題等の立地条件について、慎重に比較検討をした上、本件答申をしたものであるから、これが無価値、非科学的であるとの原告らの主張は失当である。また、航空審議会の答申は、建設大臣が本件事業認定をする際に参考とした資料の一つに過ぎなかった。

(3) 専門的学識経験者の意見聴取及び公聴会の開催について規定する収用法二二条及び二三条は、いずれも事業認定を行う機関に右の意見聴取及び公聴会の開催を義務付けるものではなく、その必要性の判断を専ら事業認定庁の裁量に委ねているから、事業認定庁に裁量権の逸脱か濫用がない限り違法とはならない。

本件空港の位置が決定されるまでには、航空専門家を構成員とする航空審議会、航空行政の所管庁である運輸省において十分な検討が行われ、閣議、国会あるいは航空法に基づく公聴会等においても慎重な協議討論がなされてきた。また、飛行場の具体的設計は、公団がその諮問機関である空港計画委員会の意見に基づいてこれを作成した。以上の経緯に鑑みれば、建設大臣が、本件事業の認定に当たって、本件起業地に本件空港を設置すること及び本件空港の事業計画の内容等について、改めて学識経験者の意見を聴取したり、公聴会を開催したりすることは必要がないものと判断し、これをしなかったことには、なんら裁量の逸脱がなかったし、濫用もなかったものというべきである。

(4) 公団は、本件事業認定申請書に、業務方法書の認可を受けたことを証する書類を添付しなかったが、公団は、業務方法書を作成し、その認可を得た。

しかし、公団法二四条一項が業務方法書の作成を義務付けている趣旨は、同法二〇条に基づいて公団の業務と定められた事項のうち主なものについて、業務遂行の基本方式、手段、手順等をあらかじめ決定させ、それを運輸大臣の認可に係らせることによって、公団の業務が円滑、適正に行われるようにしようというものである。したがって、業務方法書は、公団の事実行為についてのいわば内部の基準を定めた文書というべきものであるから、業務方法書の認可書は、収用法一八条二項六号の書類には該当しない。

(5) 公団は、本件事業認定申請書に、航空保安施設に係る工事実施計画の認可を証する書類を添付しなかった。

しかし、航空法上の飛行場とは、飛行場施設を意味して、航空保安施設を含まず、収用法は、飛行場と航空保安施設とを別個の事業認定の対象としているところ、公団は、飛行場のみを本件事業認定の申請の対象としたのであるから、航空保安施設の工事実施計画の認可書を本件事業認定の申請書に添付することを必要としなかった。

(6) 公団は、本件事業認定申請書に、航空給油施設につき消防法上の許可を受けたことを証する書類を添付しなかった。

しかし、公団は、本件事業認定の申請の対象を飛行場のみとしており、航空法上の飛行場とは、滑走路、着陸帯、誘導路、エプロン等航空機の離着陸に必要な地上施設を意味して、航空給油施設を含まないから、右施設についての消防法上の許可書を本件事業認定の申請書に添付することを必要としなかった。

(七)(1) 新空港設置の経緯

① 新空港の位置の決定

首都東京の周辺に新しい国際空港を設置する必要性は羽田空港の航空機の処理能力の限界が懸念されるようになり、また、航空機の超大型化、超音速時代の到来が必至と予想されるようになった昭和三〇年代後半から、政府を始め航空関係者の間で強く認識され始めた。

このため政府は、昭和三七年度予算から新空港調査費を計上し、運輸省は、新空港の候補地として、千葉県浦安沖、茨城県霞ヶ浦、千葉県富里村付近等の首都圏地域のほか、東海、近畿地方等約二〇箇所について調査、検討を重ねた。

また、新空港問題の重要性に鑑み、運輸大臣は、昭和三八年八月、航空審議会に対して「新東京国際空港の候補地及びその規模」について諮問をしたところ、同審議会は、航空管制、気象条件、工事上の問題、都心との連絡等の立地条件を検討した結果、同年一二月、千葉県富里村付近が候補地として最も適当である旨を答申するとともに、新空港の建設及び管理は、公団方式を採ることが最も適当であるとの建議を行った。

新空港の候補地については、その後も政府部内において検討が続けられたが、最終的には、「国有地である下総御料牧場及び県有地を最大限に活用すること。買収民有地をできるだけ小範囲にとどめること。気象上の条件並びに工事上の条件が整っていること。」などの観点から、昭和四一年七月四日の閣議において、新空港の位置は千葉県成田市三里塚町を中心とすること及び新空港の敷地面積は一〇六〇ヘクタール程度とすることが決定され、あわせて「位置決定に伴う地元対策」が決定された。

② 公団の設立

新空港の建設管理については、「事業資金の一部は、民間から公募債などの方法により資金調達の途が開けること。組織、人事及び経理の運営面で行政機構には求められない弾力性を持つ必要があること。独立採算性により能率的な運営を図る必要性があること。」などの観点から、公団方式を採用することとなり、昭和四〇年六月一日、公団法が成立し、同四一年七月三〇日、公団が設立された。

③ 工事実施計画の認可

運輸大臣は、昭和四一年一二月一二日、公団に対し、新空港の基本計画を指示し(公団法二一条)、滑走路及び着陸帯が備えるべき条件、空港敷地の面積、航空保安施設の種類、工事完成の予定期限及び空港の運用時間についての基本方針を明らかにした。

公団は、この基本計画に従って、着陸帯、滑走路、誘導路、エプロン、道路、駐車場その他各種施設について工事実施計画を作成の上、同月一三日、運輸大臣に対して新空港の工事実施計画の認可を申請し(航空法五五条の三第一項)、同大臣は、昭和四二年一月二三日、右申請を認可した。

なお、昭和四四年一月二五日に至って、誘導路とエプロンについて工事実施計画の変更認可がなされたが、これは、国際線貨客の処理能力の増大を図るとともに、段階的建設に適するようにターミナルの形式を変更するためのものであった。

(2) 用地買収の経過と収用手続

① 任意買収の概況

新空港用地約一〇六五ヘクタールのうち、買収を必要とする民有地約六七〇ヘクタールを取得するために、公団は、昭和四一年九月以降地元関係住民に対し、同月の臨時新東京国際空港閣僚協議会において決定された土地価格、代替地対策、騒音対策、職業転換対策等について説明するなどして、当時結成された土地所有者の各団体及び未組織の土地所有者等と買収交渉を進めた。その結果、公団は、昭和四三年四月に至り、土地所有者の大多数で組織されていた成田空港対策部落協議会、成田空港対策地権者会、多古町一鍬田空港対策委員会及び芝山町空港対策連絡会議地権者会の四団体との間で、土地価格(反当たり畑一四〇万円、山林・原野一一五万円、田一五三万円、宅地二〇〇万円)、代替地の配分、離職者の転職斡旋等についての覚書に調印するに至った。その後公団は、これらの団体に属する土地所有者についてはもちろん、団体に属さない土地所有者についても、この覚書で決定された条件と同一の条件の下に具体的買収の交渉に当たり、昭和四五年三月には、民有地の約八割の任意買収を終えた。

② 反対同盟による阻止運動

ところが、新空港の位置が内定した直後から、新空港の建設に反対する者が三里塚芝山連合空港反対同盟(以下「反対同盟」という。)を結成して、空港建設反対運動を組織的に展開するに及び、公団職員が反対同盟に属する土地所有者と買収の交渉をすることは全く不可能な情勢に立ち至った。反対同盟は、空港建設反対運動の一環として、新空港の位置決定直後の昭和四一年八月から同年一二月までの間に、公団の用地買収手続を錯雑困難にさせる目的をもって、一筆の土地ごとにこれを多数の者の共有とする登記手続を行った。これがいわゆる一坪運動共有地であり、本件各土地は、いずれもこれに該当するものである。本件各土地のうち、(一)の土地については二〇名、(二)の土地については二〇名、(三)の土地については一八名、(四)の土地については一一名、(五)の土地については一二名、(六)の土地については二五名の、それぞれ共有とする登記がなされている。

本件各土地は、いずれも狭隘であり、かつほとんどが傾斜地又は窪地であって、使用収益をする価値が乏しく、共有の登記をした者らが当該土地に立ち入り、使用収益をしている事実はない。したがって、この所有権の一部移転は、公団の用地買収手続を困難にさせる目的より出た以外のなにものでもない。

公団は、本件各土地の共有者総計一〇六名に対し、昭和四四年八月二二日それぞれ買収の申込みをしたところ、そのうち五名から買収に同意する旨の回答を得たが、その余の一〇一名は不同意であり、買収できる見込みはなかった。

③ 事業認定の申請及び告示

公団は、任意に用地の取得ができない場合に備えて、昭和四四年九月一三日建設大臣に対し、本件事業について、収用法一六条及び一八条の規定に基づき事業の認定の申請をした。

建設大臣は、右事業認定申請について、申請書が収用法一八条所定の方式を備えているか否か及び右申請に係る事業が同法二〇条所定の事業認定の要件を満たしているか否かについて審査をなし、昭和四四年一〇月三日、申請に係る事業が右要件に該当しないことが明らかである場合に当たらないとして、同法二四条の規定に基づき、成田市長、芝山町長、多古町長及び大栄町長並びに千葉県知事に対して事業認定申請書及びその添付書類の写しを送付した。そして、建設大臣は、右事業認定申請書及びその添付書類によって審査するにとどまらず、必要に応じて公団及び運輸省から事情を聴取するとともに、事業認定申請書及びその添付書類を地元において公衆の縦覧に供した際に提出された意見書(一三四五通)の内容についても十分吟味した上、本件事業が同法二〇条各号所定の要件に該当するものと認め、本件事業の認定を行って、その旨を公団に通知するとともに、昭和四四年一二月一六日付け官報をもって右事業認定の告示をした。

④ 収用手続

公団は、本件各土地について、昭和四五年二月一九日立入調査を実施し、同月二八日土地調書及び物件調書を作成して、同年三月三日被告に対し、収用裁決を申請するとともに、明渡裁決の申立てをした。被告は、同日右裁決申請及び明渡裁決の申立てを受理するとともに、収用法所定の手続を経て、五回にわたる審理及び現地調査をなしたほか、七回にわたって裁決のための会議を開き、慎重に審議をした上、昭和四五年一二月二六日本件裁決を行い、同日裁決書の正本を公団及び土地所有者らに送達した。

次いで、公団は、本件裁決による明渡裁決に基づいて、千葉県知事に対し、本件各土地について代執行の請求をなし、同知事は、昭和四六年二月二二日から同年三月六日までに代執行(第一次代執行)を実施した。

また、公団は、昭和四五年一二月二八日建設大臣から、新空港第一期建設事業(以下「本件第一期事業」という。)について特定公共事業認定を受け、これに基づいて、昭和四六年二月三日被告に対し、一五件三三筆の土地について緊急裁決の申立てをなし、被告は、同年六月一二日右のうち一四件三〇筆の土地について緊急裁決を行った。そこで、公団は、同年八月一三日千葉県知事に対し、右土地のうち一〇件二五筆の土地について代執行を請求し、同知事は、そのうち五件六筆の土地について、同年九月一六日から同月二〇日までに代執行(第二次代執行)を実施した。

公団は、このようにして、本件第一期事業の用地を取得し、空港建設の第一期工事を完了した。

(3) 開港に至る経過及び運用状況

新空港の開港までに解決すべき問題として、航空燃料の輸送及び四〇〇〇メートル滑走路南側に存する航空法違反の妨害鉄塔二基の除去が残されていた。

このうち、新空港への航空燃料輸送については、千葉港ふ頭からパイプラインで輸送する当初の計画が地元交渉の難航等により、完成までに時間を要すると判断されたので、右パイプライン完成までの間、千葉県市原港及び茨城県鹿島港から成田市所在の公団石油ターミナルまでの鉄道輸送並びに同ターミナルから新空港までの暫定パイプライン輸送による暫定輸送方式によることとした。右工事は、昭和四八年一〇月に着手されて、昭和五二年七月に完成し、かつ、関係地方公共団体との暫定輸送についての合意も、昭和五二年九月までにすべて成立した。

なお、当初計画の本格パイプラインは、昭和五八年三月完成し、同年八月から運用を開始している。

また、反対同盟が設置した航空法違反の妨害鉄塔二基について、公団は、昭和五二年五月二日千葉地方裁判所に対し、妨害鉄塔撤去の仮処分を申請し、同裁判所は、同月四日、右申請を認容して妨害鉄塔撤去の仮処分命令を発し、公団は、右仮処分の執行として、同月六日二基の妨害鉄塔を撤去した。

そこで運輸大臣は、新空港の供用開始日を昭和五三年三月三〇日とする旨を昭和五二年一一月二八日付け官報をもって告示(昭和五二年運輸省告示第六〇八号)し、運輸省は、同年一二月三日ICAO及び関係五〇か国に対し、開港を告げる航空情報(ノータム)を発した。

しかし、昭和五三年三月二六日の過激派集団による管制塔乱入事件により、同月三〇日の開港は不可能となったため、運輸大臣は、同年四月七日付け官報をもって、新空港の供用開始日を同年五月二〇日とする旨を告示(昭和五三年運輸省告示第一九五号)した。

以上のような経緯により、新空港は、同年五月二〇日開港するに至った。

なお、昭和六〇年八月現在、新空港には我が国を含む定期便として三三か国四〇社の航空会社が乗り入れており、一日平均の航空機の発着回数は約二一五回、航空旅客数は約三万五〇〇〇人、航空貨物量は約一九〇〇トンとなっており、開港以来その運営は順調に行われている。

(八) 裁決の適法性

被告は、第五回の審理終了後、七回にわたって裁決会議を開催し、現地調査によって得た資料、審理手続中に表明された意見、土地所有者ら及び公団から提出された意見書並びに裁決申請書、明渡裁決申立書及びそれらの添付書類等を慎重に検討した結果、収用法四八条及び四九条の規定に基づき、別紙記載の裁決書主文のとおり決定し、昭和四五年一二月二六日、裁決書の正本を公団及び土地所有者らに送達し、使用貸借による関係人として申立てのあった者一三四〇人及び土地所有者の代理人一一六五人に対しては、同月二七日に裁決書の写しを参考として送付した。したがって、本件裁決は適法である。

第三 証拠関係〈省略〉

別紙目録(一)

(1) 千葉県成田市大字駒井野字廣田九四一番五の土地及び同土地上の立木の共有者

石井英祐 萩原勇一 三ノ宮武二 小川剛正 鹿嶋清 河内明 三ノ宮静枝 秋葉富美枝

(2) 同所一〇〇二番一の土地及び同土地上の立木の共有者

酒井吉次 出山隆正 矢野森三 大竹操 小川安治

(3) 同所字張ケ沢一一一九番七の土地及び同土地上の立木の共有者

伊橋利春

(4) 同所一一一九番九の土地及び同土地上の立木の共有者

石井稔朔 鈴木敏二

(5) 同所一一二〇番の土地及び同土地上の立木の共有者

田下幸 菅澤昌平

(6) 同所一一四六番の土地及び同土地上の立木の共有者

平山清司 高野清 伊橋潔 石井利三 根本政雄 諏崎瀧次

別紙目録(二)

一 成田市駒井野字廣田九四一番の五の土地について無償貸借契約確認証借主欄記載の原告

(1)戸村一作 (2)石橋政次 (3)北原鉱治 (4)石井武 (5)萩原進 (6)鈴木一寿 (7)田中徳治郎 (8)藤崎衛 (9)林安五郎 (10)國井好二 (11)宮本幸江 (12)木内武 (13)小川總一郎 (14)三浦五郎 (15)萩原作治 (16)梅沢勘一 (17)堀越昭平 (18)大木敏男 (19)加瀬三好 (20)宮本嘉 (21)清宮もと (22)石井正夫 (23)塚本三郎 (24)高仲松男

二 成田市駒井野字張ケ沢一一一九番の七の土地について無償貸借契約確認証借主欄記載の原告

(1)戸村一作 (2)石毛常吉 (3)島村良助 (4)小川源 (5)小川嘉吉 (6)小川喜平 (7)加藤清 (8)伊藤しめ (9)市東東市 (10)小川清一 (11)石井正夫 (12)相川豊彦 (13)岩沢庄平 (14)前田輝明 (15)大木よね (16)石井健一

三 成田市駒井野字張ケ沢一一一九番の九の土地について無償貸借契約確認証借主欄記載の原告

(1)戸村一作 (2)熱田一 (3)石井英吉 (4)笹川英祐

四 成田市駒井野字張ケ沢一一二〇番の土地について無償貸借契約確認証借主欄記載の原告

(1)戸村一作 (2)内田寛一 (3)岩沢吉井 (4)長谷川たけ (5)秋葉清治 (6)石橋民利 (7)山室信也 (8)大木富夫 (9)尾野孝 (10)榊原剛 (11)石井安一 (12)小川了 (13)小林大之進 (14)長谷川龍一

五 成田市駒井野字張ケ沢一一四六番の土地について無償貸借契約確認証借主欄記載の原告

(1)戸村一作 (2)秋葉哲 (3)菅沢専二 (4)菅沢一利 (5)柳川茂 (6)瓜生彦重 (7)瓜生あい (8)龍崎主計 (9)高橋武治 (10)萩原清 (11)斉藤嘉康 (12)小川むつ

別紙目録(三)

島寛征 加藤俊宣 飯田謙一 小川得子 小川七郎 手島正爾 杉本明秀

別紙物件目録

(一) 成田市駒井野字廣田九四一番五

雑種地(旧原野)

一一五平方メートル(一畝〇五歩)

(実測 86.40平方メートル)

(二) 成田市駒井野字廣田一〇〇二番一

雑種地(旧原野)

一二八平方メートル(一畝〇九歩)

(実測 182.89平方メートル)

(三) 成田市駒井野字張ケ沢一一一九番七

雑種地(旧原野)

二八四平方メートル(二畝二六歩)

(実測 327.54平方メートル)

(四) 成田市駒井野字張ケ沢一一一九番九

雑種地(旧原野)

六六平方メートル(二〇歩)

(実測 97.69平方メートル)

(五) 成田市駒井野字張ケ沢一一二〇番

雑種地(旧山林)

七九平方メートル(二四歩)

(実測 565.02平方メートル)

(六) 成田市駒井野字張ケ沢一一四六番

雑種地(旧山林)

八九平方メートル(二七歩)

(実測 226.54平方メートル)

別紙別表一〜三〈省略〉

別紙裁決書 千収委第二六〇号

起業者 新東京国際空港公団

総裁 今井榮文

上記起業者代理人弁護士 濱本一夫

同 今井文雄

同 真智稔

土地所有者 別表第1記載のとおり

関係人 別表第1記載のとおり

土地所有者代理人 別表第2記載のとおり

所在

地番

地目

公簿の

地積

実測の

地積(m2)

収用する

土地の面積(m2)

公簿

現況

成田市駒井野字広田

941番の5

原野

原野

1畝05歩

86.40

86.40

1002番の1

1畝09歩

182.89

182.89

成田市駒井野字張ケ沢

1119番の7

2畝26歩

327.54

327.54

1119番の9

20歩

97.69

97.69

1120番

山林

山林

24歩

565.02

565.02

1146番

27歩

226.54

226.54

昭和四五年三月三日付け上記起業者から裁決申請および明渡裁決の申立てのあった新東京国際空港建設事業(以下「本件事業」という。)にかかる成田市駒井野字広田九四一番の五所在の土地ほか五件の土地収用事件について、当委員会は、次のように裁決する。

なお、この裁決に不服がある場合は、裁決書の正本の送達を受けた日の翌日から起算して三〇日以内に建設大臣に対して審査請求をすることができる。

ただし、損失の補償についての不服を、この裁決についての不服とすることはできない。

主文

1 収用する土地の区域

2 損失の補償

(1) 土地に対する損失の補償  別表第3記載のとおり

(2) 土地に対する損失の補償以外の損失の補償  別表第3記載のとおり

3 権利取得の時期および明渡しの期限

権利取得の時期  昭和四六年一月三一日

明渡しの期限  昭和四六年一月三一日

〈以下、省略〉

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