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千葉地方裁判所 昭和62年(行ウ)7号 判決

原告 佐藤太治

被告 成田税関支署長

代理人 野崎守 中沢康裕 竹澤雅二郎 戸田俊幸 ほか四名

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告が原告に対し、昭和六一年一二月二三日、種類・名称RICE・国宝、梱数二個、数量一〇キログラム、産地カリフオルニアについてなした輸入不許可処分を取り消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告は、東京税関成田支署に対し、昭和六一年一二月二三日、既に自己がアメリカ合衆国から航空貨物として発送した別紙目録記載の物品(以下「本件米穀」という。)につき輸入申告書を提出し、輸入許可を受けるため申告をした。

ただし、右申告書には、食糧庁の許可書を添付しなかつた。

2  しかるに、被告である同支署長(当時の支署長は、宝賀寿男)は、同日、前記申告書には食糧庁の許可書がないので輸入を許可しない旨の処分(以下「本件処分」という。)をなし、同申告書を受理しなかつた。

3  しかしながら、被告の本件処分には、憲法及び法律の解釈につき誤りが存する。

(一) すなわち、食糧管理法(以下「食管法」と略称する。)一一条に定める米穀等の輸出入の規制の例外として、食管法施行令一三条が存するが、同条三号によると農林水産大臣の指定する「その他の米穀等」の輸入には、食管法一一条一項の許可を受けることを要しないものとされている。

(二) 前記の大臣が指定する「その他の米穀等」とは、農林水産省による「食管法施行に関する件」告示(以下「告示」という。)八項(一)に基づけば、試験用、標本用又は見本用に供する米穀又は麦を通じて一〇〇キログラムを超えないものとされている。

(三) 原告は、自己及び家族の将来の消費に相当するものであるかどうか試みる目的で取敢えず試食試験用又は同見本用として今回本件米穀(精製米)を輸入しようとしたものである。

従つて、原告の輸入は、食管法一一条一項に定める政府(食糧庁)の許可を受けることを要しないものである。

(四) そもそも国民は、公共の福祉に反しない限り、幸福追求の権利が奪われることがない(日本国憲法一三条)。

原告は、安価で良質の米がアメリカ合衆国において産出される旨聞き、これを自己及び家族において食べようとしている者である。

これは憲法で保障された国民の幸福追求の権利である。

原告はこのため、渡米のうえこの試食用に米を買い求め、自己宛航空貨物として日本に発送したものであつた。

もちろん、原告の輸入しようとする数量は別紙記載の如き一〇キログラムと僅かなもので、日本国における食管法の体制を崩すものではなく、従つて、原告の幸福追求の権利行使は、公共の福祉に反するものではない。

4  そこで、原告は、被告のなした本件処分は不当なものであるので、早急に本件米穀の輸入を許可することを求めて、昭和六一年一二月二五日、東京税関長に対し、異議申立を提起した。

これに対し、東京税関長は、昭和六二年一月一四日、異議申立を棄却する決定をなした。

5  右棄却決定に不服な原告は、次に大蔵大臣に対し、昭和六二年二月一〇日、審査請求を提起した。

ところが、大蔵大臣は、昭和六二年五月七日付にて、右審査請求を棄却する裁決をなした(蔵関第四四四号)。

6  右東京税関長の異議申立棄却決定及び大蔵大臣の審査請求棄却裁決の理由の要旨は、次のとおりである。

すなわち、告示八項(一)の「試験用」米穀とは、試験研究機関等が学術用又は研究開発用を目的に試験を行うためのものを指すものであり、「見本用」米穀とは、外国の輸出業者、本邦の輸入業者等が商品の注文を取るために、商業活動の一環として使用するものを指すものであると解され、本事案のように自己及び家族が試食するために輸入する米穀については、当該告示に規定される「試験用」又は「見本用」には該当しないものであり、税関における輸入申告に当たつては食管法一一条一項に基づく輸入の許可が必要であり、関税法七〇条三項の規定により食管法における輸入の許可を受けている旨の証明がなされなかつた本輸入申告について輸入を許可しないこととしたというものである。

7  しかし、告示八項(一)には、このように限定的に解釈するとは一切規定されていないし、国内では食管制度の崩壊・見直しが叫ばれ、国外からは米穀の輸入自由化を強く迫られている今日において、前記のごとく限定的に解釈せねばならない必要性・合理性は見出し難い。

また、原告の本件輸入申告行為は憲法で保障された幸福追求権の一態様であり、何人も侵害することはできないものである。

したがつて、被告のなした輸入不許可処分、これに対する東京税関長の異議申立棄却決定及び大蔵大臣の審査請求棄却裁決はいずれも憲法及び法律の解釈を誤つた不当なものである。

よつて、被告のなした本件処分の取消を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1及び2は認める。

2  同3のうち冒頭部分は争い、(一)及び(二)は認める。同(三)のうち第一文は知らず、第二文は争う。同(四)は争う。

3  同4のうち「被告のなした本件処分は不当なものであるので」との部分は争い、その余の部分は認める。

4  同5及び6は認め、7は争う。

第三証拠<略>

理由

一  関税法七〇条一項によれば、他の法令の規定により当該貨物の輸入に関し、許可、承諾その他の行政機関の処分又はこれに準ずるものを必要とする場合には、輸入申告者が当該貨物の輸入申告に際して右許可あるいは承認等を受けている旨を税関に証明しなければならないとされており、同条三項によれば、右証明がなされなかつた場合は税関は当該貨物の輸入を許可しないこととされている。そして、米穀の輸入に関しては、食管法一一条一項の規定により、原則として主務官庁の許可が必要であり、右の例外として同法施行令一三条に許可を要しない場合が規定されており、同条三号では「農林水産大臣の指定するその他の米穀」が掲げられており、これを受けた告示八(一)では「試験用、標本用又は見本用に供する米穀又は麦で通じて一〇〇キログラムを超えないもの」と定めている。

二  本件では原告が本件米穀の輸入許可を受けるための申告において、右証明がなされなかつたことは当事者間に争いがない。そこで、本件における争点は、告示八(一)にいう「試験用」「見本用」の意味が自己及び家族が個人的に試食するための場合をも包含するかである。

三  思うに、告示にいう「見本用」米穀とは、外国の輸出業者本邦の輸入業者等が商品の注文を取るために商業活動の一環として使用するものを指し、「試験用」米穀とは、試験研究機関等が学術用又は研究開発用を目的に試験を行うための米穀を指すものであつて、自己や家族等が試食するというような場合はこれに該当しないと解すべきである。けだし、主要食糧については、国民の食糧の確保と国民経済の安定をはかる目的から国家による管理がなされているものであり、食管法施行令一三条三号、及び告示八(一)は例外規定であつて、これをゆるやかに解することはできないし、個人が試食するためのものをすべて右告示の「見本用」又は「試験用」の米穀であるとし、自由に輸出入が可能ということになると右食管法上の管理が事実上、無意味となつてしまうからである。

四  原告は、自己及び家族が食べるため海外の米を買い求めることは憲法一三条にいう幸福追求権に含まれると主張する。しかし、原告の主張のとおり、右幸福追求権の中に含まれるとしても、前記食管法上の国家による管理上の制約を受けるものであり、輸入に際して政府(主管行政庁は食糧庁)の許可にかからしめる程度の制約は著しく不合理な制約であるということはできない。

五  よつて、原告の請求は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 荒井眞治 手島徹 澤野芳夫)

別紙

目  録

一 種類・名称 RICE・国宝

二 梱数 二個

三 数量 一〇キログラム

四 産地 カリフォルニア

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