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千葉地方裁判所松戸支部 昭和45年(ワ)16号 判決

原告

畠中基世司

被告

稲子幸一

ほか一名

主文

一  原告の請求はいずれも棄却する。

二  訴訟費用は、原告の負担とする。

事実

第一当都者双方の申立

(原告)

「原告に対し被告らは各自金二〇六、二六〇円およびこれに対する昭和四五年一月一日から支払済まで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は被告らの負担とする。」との判決ならびに仮執行の宣言。

(被告ら)

主文同旨の判決。

第二請求の原因

一  事故の発生

原告は、次の交通事故によつて傷害を受けた。

(一)  発生時 昭和四四年七月三日午後六時三〇分ころ

(二)  発生地 松戸市五香六実一三番地先道路上

(三)  加害車 原動機付自転車(松戸市い三八〇号)

(四)  運転者 被告 稲子幸一

(五)  態様 被告稲子は加害車を運転して同市五香方面から同市松飛台方向に向け進行中右地点(同市立第四中学校裏通り付近)を歩行進出中の原告に加害車の前部を接触させた。

(六)受傷の部位程度 全治約四ケ月の治療を要する左アキレス腱不完全断裂の傷害。

二  責任原因

被告らはそれぞれ次の理由により、原告が本件事故によつて受けた損害を賠償する責任がある。

(一)  被告稲子は本件事故現場で右道路を下校中の多数の生徒が加害車と同一方向に向け歩行していたのに警音器の吹鳴および徐行義務を怠り時速約二五キロで歩行者の間をぬつて進行しようとした過失により、原告は加害車の接近に気付かなかつたため本件事故が発生したものであるから、不法行為者として民法七〇九条による責任。

(二)  右事故は稲子が被用者として自動車修理業被告及川の事業の執行につき発生したものであるから、被告及川は使用者として同法七一五条の責任。

三  損害

(一)  治療費 九五、一〇〇円

原告は右事故当日から同月一九日まで一六日間常盤平中央病院に入院しその後同年一〇月二八日まで二三回通院治療のため支出した治療費

(二)  付添看護料 二九、二七五円

右一六日間の入院中の付添看護人に支出した費用

(三)  交通費 五、七六〇円

同月二〇日から同年一〇月二八日までの同二三回前記病院に通院のため支出した交通費

(四)  慰藉料 二五〇、〇〇〇円

原告は松戸市立第四中学校一年生であつたが本件事故のため一学期末試験を全科目受験することができず、治ゆ後も過激な運動ができない状態であるから、原告に対する慰藉料は二五〇、〇〇〇円が相当である。

(五)  弁護士費用 三〇、〇〇〇円

本件訴訟のため弁護士を委任しその手数料として三〇、〇〇〇円を支払う義務を負担した。

四  よつて、原告は、右損害金の(一)ないし、(四)につき昭和四五年一月二〇日安田火災海上保険株式会社から二〇三、八七五円の自賠費保険金の支払を受けたので前記損害金から右金額を控除した金員およびこれに対する各損害発生後の昭和四五年一月一日から支払済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

第三請求原因に対する被告らの答弁と主張

一  請求原因第一項のうち(六)の点は不知その余は認める。

二  同第二項のうち右道路は松戸市立第四中学校の裏通りで下校中の多数の生徒が加害車と同一方向に向けて歩行していたこと、被告稲子が同所附近を時速約二五キロで歩行者の間をぬつて進行したことおよび被告稲子は自動車修理業を営む被告及川の被用者であることは認め、同被告が警音器を吹鳴しなかつた点は否認し、その余は争う。

三  同第三項は不知。

四  同第四項のうち、原告がその主張のとおりの損害保険金を受領したことは認める。

五  本件事故現場は、五香駅方面から元山駅方面に通ずる幅員三メートルの狭い路上で、原告は元山駅方面に向つて左側を歩行する友人と列んで中央寄りに左側通行していたところ加害車は警音器を吹鳴して原告に注意を与えた。しかし原告は加害車が後方約二・三メートルの地点に迫つているにもかかわらず前向きのまゝ右え寄つて来たため加害車が原告に衝突したもので原告は左側通行違反および後方不確認の過失があるから過失相殺を主張する。

第四被告らの主張に対する原告の答弁

被告らの主張のうち道路の幅員が三メートルであること、原告が道路の右寄りに出たことは認めその余は争う。

第五証拠関係〔略〕

理由

一  請求原因第一項の事実は受傷の部位程度の点を除き、当事者間に争いがなく、〔証拠略〕によれば、原告は本件事故により加療約四五日間を要する左アキレス腱不完全断裂の傷害を受けたことが認められる。

二  そこで、本件事故の原因を考えるに、本件事故現場附近の道路はその幅員が三メートルで、事故発生時には下校中の多数の生徒が加害車と同一方向に向つて歩行していたこと、被告稲子は同所附近を加害車を運転して時速約二五キロで歩行者の間をぬつて進行したこと、原告は加害車の前で道路の右寄りに出たことはいずれも当事者間に争いがなく、いずれも〔証拠略〕を総合すると、本件事故現場は新京成電鉄五香駅方向から元山駅方向に向う電車線路に沿つた歩車道の区別のない砂利が敷いてある直線の道路上で、右付近の見とおしは良かつたこと、本件事故前被告稲子は勤務を終え自宅へ向うため右現場付近にさしかかつたところ、道路の両側に下校中の中学生が多数歩行していたので警音器を吹鳴しながら約二五キロの速度のまま進行していたが、前方道路左側を友人と話しをしながら連れ立つて歩いていた原告が加害車の接近に気付いてあわてて道路の右側に寄つて同被告の進路に出たのを約二・三メートル手前で発見し、急制動したが間に合わず、加害車の右ハンドルを原告の背部に接触して本件事故の発生したことを認めることができる。右認定に反する証拠はない。

ところで、かかる場合自動車の運転者は前方左右をじうぶん注視して減速徐行し警音器を鳴らして安全を確認しながら進行すべき注意義務があるのに、被告稲子はこれを怠り漫然前記同一速度のまま進行したため、本件事故を発生させたものであつて、原告の側にも過失があるかどうかはしばらく別として、この点同被告に過失があるといわなければならない。

三  そうすると、被告稲子は前記認定の事実から明らかな如く直接不法行為者であるから、民法七〇九条により原告に対し後記損害を賠償すべき義務がある。

次に、被告及川の責任について考えるに、被告稲子が自動車修理業を営む被告及川の被用者であることは当事者間に争いがない。ところで、〔証拠略〕によれば加害車の使用者は被告稲子の兄稲子達治で、被告稲子はこの車によつて退勤する途中本件事故が発生したものであることが認められるが、単に被用者が右加害車で通勤していたということをもつてその被用者の運転が客観的外形的に見ても使用者の事業の範囲に属していたものとはいえない。したがつて被告及川には本件損害賠償の責任がないものといわなければならない。

四  ところで、被告らは本件事故の発生については、原告にも過失があつたと主張するので、この点について考えるに、前記認定の如く原告は本件事故現場附近の道路の左側を友人と話しをしながら連れ立つて通行し加害車の接近にあわてて後方の安全を確認することなく漫然と道路右側に寄つて歩行したため、ついに本件事故の発生をみるに至つたものであることが認められるから、本件事故については原告にも過失があるものといわなければならない。したがつて、この事実はその賠償額を算定するにあたつて斟酌されなければならない。そして、右過失の割合は原告三割、被告稲子七割とするのが相当である。

五  そこで、原告の受けた損害について考える。

(一)  〔証拠略〕によればその主張の如く本件受傷による治療費は、九五、一〇〇円であつて原告の父が支払つたものであることが認められ、この認定に反する証拠はない。そして、右は原告の本件事故による損害と認めるのが相当である。そこで、前記の過失の割合を斟酌すると、右治療費のうち被告稲子の賠償すべき額は六六、五七〇円とするを相当と認める。

(二)  〔証拠略〕によれば昭和四四年七月六日から同月一六日までの付添看護費用として二七、二七五円を支払つたことが認められる。右は原告の本件事故による損害と認めるのが相当である。しかしその余についてこれを認める証拠はない。そこで、前記の過失の割合を斟酌すると付添看護料二七、二七五円のうち被告稲子の賠償すべき額は一九、〇九二円とするを相当とする。

(三)  〔証拠略〕によれば、原告の前記二三回の通院のため使用したタクシー代一回往復二四〇円の割で合計五、七六〇円を支払つたことが認められる。そして右は原告の本件事故による損害と認めるのが相当である。そこで、前記過失の割合を斟酌すると、被告稲子の賠償すべき額は右のうち四、〇三二円をもつて相当と認める。

(四)  〔証拠略〕によると本件受傷の結果学期末試験を受けられず、またはげしい運動は不安だから、やめているなど精神的苦痛を受けたことが認められる。これらの事実と本件事故の態様、傷害の部位程度、過失の割合その他諸般の事情を総合すると、原告の慰藉料は一〇〇、〇〇〇円をもつて相当と認める。

(五)  〔証拠略〕によれば、原告が本件損害賠償請求訴訟を弁護士木村昇に委任し、手数料(但し原告主張の契約を認める証拠はない)を同弁護士に支払う義務があることが認められる。しかして本件事故の如き不法行為による損害賠償請求訴訟をなす場合に要する弁護士費用のうち権利の伸張防禦に必要な相当額は当該不法行為によつて生じた損害と解するを相当とするところ、その額は事案の軽易、認定すべきとされた損害額その他諸般の事情を斟酌して決定すべきであつて、委任者が委任契約によつて負担する弁護士費用全額が損害額となるものではない。そこで、これを本件についてみれば一〇、〇〇〇円をもつて被告稲子に賠償させるべき弁護士費用と認めるのが相当である。

(六)  そうすると、被告稲子に賠償させるべき損害金の合計は一九九、六九四円をこえないところ、原告が本件事故について自賠責保険金二〇三、八七五円を受領したことは当事者間に争いがないから、本件事故による損害は右金員の受領によつてすべてつぐなわれたことになるので、原告は被告稲子に対し、本件事故による損害賠償請求権を有していないことになる。

六  以上の次第であるから、原告の被告らに対する本訴請求はいずれも理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担について民訴法八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 平山三喜夫)

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