大判例

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千葉家庭裁判所 昭和48年(少)81361号 決定

少年 H・S(昭三〇・二・五生)

主文

少年を中等少年院に送致する。

理由

一、犯罪事実

少年は、公安委員会の普通自動車運転免許を受けないで、

(1)、昭和四八年三月二九日午前七時五〇分ころ、千葉県夷隅郡○○○町○○○×××番地付近道路において、右免許を受けなければ運転してはならない普通自動車である普通乗用自動車(千葉××○××××号)を運転し、

(2)、同年四月二二日午後一〇時一〇分ころ、同県同郡○町○○×××番地付近道路において、右免許を受けなければ運転してはならない普通自動車である普通乗用自動車(千葉×○××××号)を運転したものである。

二、適用法条

上記事実は、いずれも、道路交通法六四条、一一八条一項一号に該当する。

三、保護処分選択の事情

(1)  少年は、父H・O、母H・K子の長男として出生し、母は父の後妻で、異母兄二人および異父兄一人の同胞と父母を同じくする弟二人と妹一人の同胞を有するが、母は昭和三九年四月、父は昭和四八年二月にそれぞれ死亡し、現在は、異父兄H・Kの保護のもとに実弟妹三人と共に居住している。少年の成育した家庭は、貧困で、少年の保護どころではなく、かつ保護者にその能力もなく、中学校在学当時性格的に暗く衛生観念に乏しく不潔であると見られていた少年は、中学校卒業後、わずかの期間に転職を繰返し、さらに非行傾向を見せるに至り、昭和四五年一一月の第二種原動機付自転車(九〇CC)の無免許運転につき、昭和四六年一月一九日、当裁判所により、講習受講後審判不開始決定を受けたのを初めとし、昭和四五年七月から同年一一月に至るまでの間に主として自転車および原動機付自転車の窃盗を前後一一回にわたり累行し、これらにつき、昭和四六年五月七日および昭和四七年一〇月一九日、いずれも当裁判所により不処分決定を受け、この間の自動二輪車(三五〇CC)の無免許運転につき、当庁家庭裁判所調査官による試験観察と講習受講の後、昭和四六年七月二二日、当裁判所により、不処分決定を受けた。その間、同年九月から昭和四七年八月までは、転職も見られなかつたが、同年同月に至り、友人とのオートバイ遊びに耽つてそれまでの稼働先を退職し、同年九月一八日には七五〇CCの自動二輪車の無免許運転を犯し、これにつき、同年一二月一三日、当裁判所により検察官送致決定を受けた。昭和四七年八月から昭和四八年三月までの、長期にわたる徒遊の後、同年同月に就職した稼働先は、同年五月に些細なことから退職し、同年六月五日に就職した稼働先も、同年七月一〇日に給料を受けとつた後怠職し徒遊している内に、同年同月一三日、当裁判所により、本件各非行につき観護措置決定を受けた。

(2)  本件各非行は、昭和四八年三月二九日および同年四月二二日の各普通自動車の無免許運転であるが、三月のものが、少年が友人から購入した普通自動車によるものであり、かつ、時速約八〇キロメートルで進行していたところ脇見運転してカーブ内側に突込んだというものであり、これにより約二〇日間の入院加療を要する傷害を負つたのに、退院するや四月の非行を敢行しているのであり、これと前記非行歴を合わせ考えると、少年の非行性は、顕著であると言わざるをえない。少年の場合、以前に見られた窃盗等刑法犯への傾斜は一応見られなくなつているが、無免許運転自体が、極めて危険で反社会性に富んだものであり、しかもそれが次第に大きな車種へと移つていることを考えると、少年の犯罪的傾向は、深化の一途を辿つていると考えられる。

(3)  少年は、前記三月の無免許運転につき、昭和四八年五月二三日は葉書で、同年六月六日は特別送達で、調査のための呼出を受け、同年同月八日、当裁判所により同行状が発布されたが、いずれも当裁判所に出頭せず、同年七月一一日から前記のとおり稼働先を怠職し、同日および翌一二日と、神戸から逃げてきたトルコ嬢と称する女性とモーテルに止宿徒遊し、同月一三日、右女性と共に当裁判所にタクシーでモーテルから出頭したものであり、少年の倫理感には著しい偏倚が見られる。さらに、本件各非行は、少年の自己顕示欲と承認欲求の充足のために敢行されたものと判断できるが、自らの欲求を本件各非行のような形で実現していく少年の性格的偏倚も無視できない。少年の頻回転職や裁判所出頭についての弁解には、しばしば友人の誘いと交遊ということが出てくるが、少年の徒遊中の生活は、主として、少年の相手になつてくれる友人を次々と求めて過していたものと考えられる。この傾向は、稼働期間中にも見られ、昭和四八年一月から最近までの生活に登場してくる友人は、そのころから少年が自動車教習所に遊びに行つていたときの友人で、少年自身は自動車運転を習つている訳ではなく、専らそこに暇を持て余した友人を求めているのである。かかる刹那的徒遊を基調とした生活から考えると、少年の行動枠組の社会化は、全く達成されていないと言わざるをえない。

(4)  少年は、知能は魯鈍級にあり現実吟味の力や洞察力に乏しく、さらに性格的にも、劣等感が強く持続性がなく、反面自己顕示性が強いと判断され、これらの能力的および性格的欠陥が本件各非行の根底にあると考えられる。

(5)  少年の保護環境は、前記のとおり劣悪であり、現在は異父兄H・Kの保護のもとにあるが、本件各非行に見られるとおり、同人の保護は少年の非行傾向に対処するに充分ではなく、かつ同人は、ここまで深化した少年の非行傾向の矯正に対し、何の対策も持つていない。少年は、不遇な生い立ちと、不十分な保護のもとで、上記のとおりの非行傾向を有するに至つたものであるが、父の死亡した現在、保護環境の改善を望むこともできず、既に少年を在宅のまま保護矯正することは不可能な事態に立ち到つていると言わざるをえない。

(6)  以上の諸事情に照らせば、この際、少年に対し、少年院送致で臨み、密度の濃い専門的矯正教育により、少年の行動傾向の社会化を図ることが、少年の保護と矯正のために必要であると判断でき、その少年院としては、少年の年齢および非行傾向に照らせば、中等少年院が相当である。よつて、本件については、少年法二四条一項三号、少年審判規則三七条一項、少年院法二条三項により、主文のとおり決定する。

(裁判官 江田五月)

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