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名古屋地方裁判所 平成3年(わ)1138号 判決

主文

被告人を懲役一年六月に処する。

この裁判確定の日から五年間右刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、Aと共謀の上、テレホンカードの磁性体部分の電磁的記録を不正に作出して、これをカード式電話機に挿入して通話に利用しようと企て、日本電信電話株式会社(以下「NTT」という。)の事務処理を誤らせる目的で、平成三年二月二五日から同年四月中旬ころまでの間、名古屋市昭和区〈番地略〉のTマンション○○号室S方ほか名古屋市内において、テレホンカードの通話可能度数を五四〇度に書き換える機能を有するロム等が内蔵されている機械を用いて、NTT作成にかかるテレホンカードの使用済のもの一七枚(〈押収番号略〉)につきそれぞれの券面全体を覆う磁性体の二か所ずつに、いずれも通話可能度数を五四〇度、残通話可能度数を五四〇度などとする電磁的記録を印磁して、その事務処理の用に供する電話の役務の提供を受ける権利に関する電磁的記録を不正に作出したものである。

(証拠の標目)〈省略〉

(争点に対する判断)

第一  有価証券変造罪の成否

一  訴因及び認定事実

1 本件訴因(変更後)は、被告人がAと共謀の上、判示の日時場所において、行使の目的をもってほしいままに、テレホンカードの通話度数値を五四〇度に書き換える機能を有するロム等が内蔵されている変造機械を用いて、NTT作成にかかる使用済テレホンカード一七枚に通話可能度数一〇八〇度(両側五四〇度ずつ)等の電磁的記録を印磁して改ざんし、もって有価証券を変造したというものである。

2 前掲各証拠によれば、次の事実が認められる。

Aは、右日時場所において、カード式電話機に挿入して通話に利用する目的で、いわゆるテレホンカードの磁気情報部分に電磁的方法によって記録された通話可能度数値を五四〇度に書き換える機能を有するロム等が内蔵されている変造機械を用いて、NTT作成にかかるテレホンカードの使用済のもの一七枚について、それぞれの券面全体を覆う磁性体の二か所ずつに、いずれも通話可能度数を五四〇度、残通話可能度数を五四〇度などとする電磁的記録を印磁して改ざんした。しかし、これらの使用済テレホンカードは、既に零度の位置にパンチ穴が開いており、カード式電話機に挿入しても光センサーでパンチ穴が感知されて、直ちにカード返却口から排出されてしまうので、そのままでは通話に利用することができない。そのため、Aは右改ざん後まもなく、名古屋市中区内の自宅で、各カードのパンチ穴が開いた二ないし五か所に、それぞれ縦八ミリメートル、横八ないし一六ミリメートル程度の黒色の磁気テープを貼りつけた。

こうして改ざん及びテープの貼付(以下、単に「本件改ざん」という。)を施された本件カード(〈押収番号略〉)は、券面に印刷された矢印のとおり通常方向に挿入した場合も、その反対方向に挿入した場合も、電話機の度数カウンターには五四〇度が表示されて、五四〇度ずつ合計一〇八〇度の通話が可能となっている。

被告人は、後記第二のとおり、Aの本件改ざんに情を知って加功した。

二  テレホンカードに対する有価証券変造罪の成否

刑法一六二条に規定されている有価証券とは、財産上の権利が証券に表示され、その表示された財産上の権利行使につきその証券の占有を必要とするものをいうと解される。

ところで、NTT作成にかかるいわゆるテレホンカードについては、発行時の通話可能度数及び残通話可能度数を示す度数情報並びに当該テレホンカードがNTTにより真正に発行されたものであることを示す発行情報が電磁的方法により記録されている磁気情報部分と、その券面上の記載及び外観とを一体としてみれば、電話の役務の提供を受ける財産上の権利がカード上に表示されていると認められ、かつ、これをカード式電話機に挿入することにより使用するものであるから、テレホンカードは、刑法一六二条の有価証券に該当すると解することができる。そして、有価証券の変造とは、真正に作成された有価証券に権限なく変更を加えることであるから、NTT作成にかかるテレホンカードの磁気情報部分に記録された通話可能度数を権限なく改ざんする行為はこれに該当することになる(最高裁判所平成三年四月五日第三小法廷決定、刑集四五巻四号一七一頁参照)。

三  本件における有価証券変造罪の成否

1 検察官は、本件改ざんにかかるテレホンカードは使用済のものであるが、残通話可能度数零度という磁気情報が入力されていること、そして通話可能なカードの作成は真正カードの材質、形状及び磁気情報部分のうちの点検・照合のための暗号情報等を流用しなければ事実上不可能であることを理由に、使用済カードも無価値ではなく、変造罪が成立すると主張する。弁護人は、使用済カードはテレホンカードとしての役割を終えた消耗品であって、変造罪は成立しないと主張する。

テレホンカードに化体されている電話の役務の提供を受ける権利は、もともと可変的ではあるが、本来、使用とともに減少して消滅するもので、いったん消滅したものが復活することはない。残通話可能度数が零度になると、カード式電話機に挿入しても直ちに排出されてしまって通話は不可能であり、券面上も、打刻のミスなど極めて稀なことがない限り、必ず零度数の位置にパンチ穴が開けられるし(〈証拠略〉)、挿入状態では度数カウンターに零と表示される(〈書証番号略〉)。

したがって、使用済テレホンカードとは、もはや権利が化体されておらず、むしろ権利が消滅したことが表示されているというべき性質のものであるから、こうしたカードを改ざんして権利が存在するかのような外観を作出する行為については、たとえ既存のカードに特有の性質・情報を流用していたとしても、新たな有価証券を作出するものとして、偽造罪の成否を問うべきものと考える。

2  一般に、偽造罪が成立するためには、偽造行為によって作られた証券が有価証券としての法定の要件を備えている必要はないが、一般人をして真正に作成された有価証券と誤信させるに足りる形式、外観を備えていることは必要である。このことは変造罪であっても同様で、変造を加えられた後の証券は、右のような形式、外観を備えている必要があり、偽変造罪のいずれを問うにしても、要求される外観上の「真正らしさ」に違いはない。そして、弁護人は、本件カードはその外観上細工をしてあることが明白であるから、右の要件を欠いていると主張している。

ところで、検察官は、①電磁的方法によって権利の内容が記録されている証券につき、刑法一六二条の有価証券と認めるためには、外観上一般人によって、いかなる内容(種類)の権利が化体されているかが認識可能であれば、可読性のない磁気的記録自体にも有価証券性を認めることができる、②テレホンカードに関しては、外観等からテレホンカードとは全く考えられないカードや板等を有価証券偽変造罪の処罰から除外すれば足り、電話の役務の提供を受ける権利を化体していると認識できるカードについては、外観上真正である必要はなく、カード式電話機のシステムにおいて真正なものとして扱われて通話が可能なものであれば、偽変造罪の成立を認めることができ、これは偽変造にかかるテレホンカードの行使をカード式電話機に対する使用と捉えることとも合致する、③一般人も外観よりも、カード式電話機によって使用できるかによって真正・不真正を判断している、と主張している。

確かに、テレホンカードによる通話においては、当該カードの大きさ、材質、形状等において一定の基準を満たしていて電話機への挿入と磁気情報部分の読み取りが可能であり、かつ、当該磁気情報がカード式電話機による通話システムに合致していれば、そのほかに真正であることを強く疑わせるような外観上の異常があっても、これによって通話を行うこと自体は可能である。また、磁気情報部分を有価証券の要素として認めうること、偽変造にかかるテレホンカードをカード式電話機に挿入して使用する行為をその行使と評価しうることも、検察官主張のとおりである。

しかしながら、偽変造罪の成否は、テレホンカードにおいても、有価証券に対する公共の信用を害するか否かの観点から決すべきである。この観点からすると、券面上の記載及び外観の意義を、検察官主張のように、電話の役務の提供を受ける権利を化体していると認識できるか否かの点に限定するのは相当でない。すなわち、たとえ当該カードが電話の役務の提供を受ける権利を化体したものと認識でき、かつ、カード式電話機で通話利用することができるものであっても、一般人が外観を全く意識せずにその真正・不真正を判断するとは考えられないから、外観上、一見明白に不正に作出されたと分かるカードであれば、これを見た者が真正なテレホンカードと誤信するおそれはなく、それが社会に出回っても、NTTの財産的利益が害されることはあっても、社会一般のテレホンカードに対する信用を害するおそれはない。その意味では、右のようなカードは、テレホンカードとは全く分からないようないわゆるホワイトカードと変わるところはなく、他方、真正な外観を有するが不正な情報をもったカード、例えば通話可能度数の磁気情報のみが改ざんされた未使用のテレホンカードとは明らかに区別されるべきものである。

また、カード式電話機に挿入して使用する行為を行使とするのは、偽変造の程度に達したテレホンカードについて、右行為がその用法に従って真正なものとして使用するものと評価できるからであり、そのことから直ちに偽変造罪の成立要件が規定されるものではなく、検察官の主張自体、通話可能性のみで成立を肯定している訳ではない。

したがって、テレホンカードについて有価証券偽変造罪の成立を肯定するためには、作出されたカードが、券面上の記載及び外観において、電話の役務の提供を受ける権利を化体していると認識できるばかりでなく、一般人をして真正に作成されたテレホンカードであると誤信させるに足りるものであることが必要であり、そのように解することが、券面上の記載及び外観と磁気情報部分とを一体としてみることによってテレホンカードを有価証券と認める前記立場の一つの実質的内容である。

3 本件改ざん前の段階で当該テレホンカードは、本来パンチ穴が開けられる箇所の零度の位置など及びその斜め下の対称部分に、全部で数個のパンチ穴が開いていた(後者は、本件改ざんよりも前に、反対方向に挿入しても通話できる位置に電磁的記録を印磁し、これを通話に利用した際に開けられたものと認められる)。Aは、そのようなカードに磁気情報部分の改ざんを加えたが、この状態では、零度の位置にパンチ穴が開いていること(その対称部分にも開いている。)、しかも挿入しても直ちに排出されることから、およそ通話その他の利用は不可能であるし、改ざんされた度数情報は度数カウンターに表示されないと考えられるから、この段階を捉えて有価証券偽変造罪の成立を認めることはできない。

そして、Aは、これらのパンチ穴が開いた二ないし五箇所に、それぞれ黒色磁気テープを貼って通話できるようにしたが、このテープは、色、大きさ、枚数からして極めて目立つものになっている。このようにして通話可能になった本件カードについて検討するに、テレホンカードの普及とともに、その外観が多様化する一方で、テレホンカードについての知識も普及してきていると考えられる。そこで、パンチ穴が残通話可能度数の目安を示すものであって、零度の位置に開いていれば通話できないということは、テレホンカードを利用できる者であれば、年齢職業を問わず、ほぼ常識として理解されてきているといっても過言ではない。前記のような黒色磁気テープが貼られている本件カードを見た者の大半は、たとえ、カード式電話機で利用できるのではないかと思うにしても、同時に、通話可能性に関して不正な細工がなされていることを容易に推測すると考えられる。この点、単にカードに絵を描いた場合や、未使用のテレホンカードの外観に手を加えず、通話可能度数の磁気情報を改ざんしただけの場合とは異なる。

こうした点からすると、本件カードは、一見して正規のテレホンカードでないことが明らかなものであるから、一般人をして真正に作成されたテレホンカードと誤信させるに足りる外観を備えているとは認められず、Aの本件改ざんは有価証券の偽変造罪に該当しないと解すべきである。

4  しかしながら、Aによる使用済テレホンカードの磁気情報部分の改ざん行為は、NTTの事務処理を誤らせる目的で、その事務処理の用に供する電話の役務の提供を受ける権利に関する電磁的記録を不正に作出したものと認められる。そして、この事実は本件訴因に包含されており、弁護人も争わないところであるから、判示のとおり、A及び被告人の行為につき、刑法一六一条の二第一項の電磁的記録不正作出罪を認定したものである。

第二  共同正犯の成否

一  弁護人は、被告人の刑責は幇助犯にとどまると主張している。本件証拠上、被告人自身が本件改ざん(以下では、電磁的記録の不正作出行為をいう。)を実行したとは認められないので、共謀共同正犯について検討する。

二  前掲各証拠によれば、次の事実が認められる。

すなわち、被告人は平成三年二月一八日ころAから、テレホンカードを改ざんし、これを利用してQ2に通話して、不正に利益を得る旨の計画を聞き、この改ざんに用いる機械の購入資金の融資を依頼された。そこで被告人は、右の不正に得た利益から短期間のうちに倍返しを受ける約束で、同年二月二五日ころ右購入資金一五〇〇万円をAに融資したが、この融資がなければAは事実上右機械を購入することができなかった。被告人は、この貸金を担保するために、右機械を知り合いのS方に保管して自己の管理下に置いていた。Aは、判示の期間中同所で何回もカードの改ざんを行ったが、改ざんをするためには、S方の鍵を持っている被告人に同行してもらわなければならず、その際、被告人は、しばしば機械の準備をしたり、そばに付き添って様子を見たりしていた。

三  このように、被告人はAによる継続的なテレホンカードの改ざん行為について、その目的を十分承知した上で、資金の提供という重要な役割を果たし、ここにAとの本件犯行についての共謀が成立した。また、被告人は改ざんの状況も把握しつつ、犯行によって自らも多額の利益を得ようとしていたものである。本件改ざんもAの右一連の改ざんの一部であり、これについて被告人はAとの共謀共同正犯の罪責を負うと認めることができる。なお、本件改ざんの一部又は全部は、平成三年四月一六日ころに修理のために右機械がS方から持ち出された後に行われたものである可能性があるが、仮にそうだとしても、被告人が共謀関係から離脱したとは認められない。

(累犯前科)

被告人は、昭和六一年一〇月七日名古屋地方裁判所で売春防止法違反の罪で懲役一年二月及び罰金三〇万円に処せられ、昭和六二年一一月一五日右懲役刑の執行を受け終わったものであって、右事実は検察事務官作成の前科調書によってこれを認める。

(法令の適用)

被告人の判示所為は、包括して刑法一六一条の二第一項、六〇条に該当するので、所定刑中懲役刑を選択し、前記前科があるので同法五六条一項、五七条を適用して再犯加重した刑期の範囲内で被告人を懲役一年六月に処し、情状により同法二五条一項を適用してこの裁判確定の日から五年間右刑の執行を猶予し、訴訟費用は刑事訴訟法一八一条一項ただし書を適用して被告人に負担させないこととする。

(量刑の理由)

本件は、被告人がAからテレホンカードを改ざんし、これを利用してダイヤルQ2に通話し、不正に利益を得る計画を打ち明けられ、右改ざんに用いる機械購入資金の融資を依頼されて、その条件として不正利益から短期間に倍返しを受ける約束のもとに、多額の利得をしようとしてこれに加担したものであり、動機において酌量の余地はない。本件は被告人が改ざん機械を購入するための資金提供をしなければ行うことができなかったものであり、被告人の果たした役割は大きいといえる。また、Aには多額の報酬を約束させたばかりでなく、本件改ざん機械及び通話料金が振り込まれる銀行預金通帳やキャッシュカードを受取り管理し、Aの実行行為を促進するような状況を作り出していたことに鑑みると、その犯情は悪質である。更に前記前科に照らすと、規範意識の乏しさがうかがえるほか、この種犯行は模倣性も強く、一般予防上も軽視できないことなど併せ考えると、被告人の刑事責任は重いといえる。

しかしながら、本件が有価証券変造罪ではなく電磁的記録不正作出罪にとどまること、被告人は主犯ではないこと、また、本件に先立ちAに融資した一五〇〇万円はもとより約束の利息の殆どが未返済で回収の目処も立っておらず、大きな経済的打撃も受けていること、深く反省悔悟し捜査にも進んで協力していること、前刑終了後五年以上経過していること、家庭の状況など諸般の事情を総合して考えると、今回に限り刑の執行を猶予する余地があるものと認め、主文の量刑とした。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官大山貞雄 裁判官神山千之 裁判官半田靖史は転補のため署名捺印できない。裁判長裁判官大山貞雄)

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