大判例

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名古屋地方裁判所 平成5年(わ)919号 判決

被告人

法人名

株式会社縣鉄工所

本店所在地

愛知県宝飯郡御津町佐脇浜字一号地一番三

代表者氏名

縣保彦

代表者住居

愛知県豊橋市花田二番町一四番地

被告人

氏名

縣甲子二郎

年齢

大正一三年二月一九日生

本籍及び住居

愛知県豊橋市花田二番町一五番地

職業

元会社役員

検察官

松本正則

弁護人(私選)成田清(主任)、桑原亮、又平雅之

主文

被告人株式会社縣鉄工所を罰金八〇〇〇万円に、被告人縣甲子二郎を懲役二年に処する。

被告人縣に対し、この裁判確定の日から四年間刑の執行を猶予する。

理由

(犯罪事実)

被告人株式会社縣鉄工所は、愛知県宝飯郡御津町佐脇浜字一号地一番三(ただし、平成四年七月一九日までは、愛知県豊橋市関屋町一二六番地の一)に本店を置き、鉄骨建築及び金属加工業、遊技場等を営む資本金三一九〇万円の株式会社であり、被告人縣甲子二郎は、創業当時の昭和二六年ころから平成五年九月一五日まで同社代表取締役として同社の業務全般を統括していた者であるが、

第一  被告人縣は、平成三年一月中旬ころ、被告人会社の業務に関し、期末仕掛工事高を圧縮することによって、所得の一部を秘匿して法人税を免れようと考えた。そこで、確定申告書提出期限の延長処分による申告書提出期限内である同年三月二九日、愛知県豊橋市前田町一丁目九番地四所在の被告人会社の所轄税務署である豊橋税務署において、同税務署長に対し、平成二年一月一日から同年一二月三一日までの事業年度における被告人会社の実際の所得金額が二四億九〇一六万八〇三九円であったにもかかわらず、右事業年度の所得金額が二〇億五二四七万七〇六二円であるとして、これに対する法人税額が八億〇六八八万六四〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出した。その結果、被告人会社の右事業年度における正規の法人税額九億八一九六万二七〇〇円と右申告税額八億〇六八八万六四〇〇円との差額一億七五〇七万六三〇〇円の法人税を免れた。

第二  被告人縣は、平成三年七月ころ、前記同様、被告人会社の業務に関し、期末仕掛工事高を圧縮したり鋼板在庫を除外したりなどすることにより、所得の一部を秘匿して法人税を免れようと考えた。そこで、確定申告書提出期限の延長処分による申告書提出期限内である平成四年三月三一日、愛知県豊橋市大国町一一一番地に所在地を移転した前記所轄豊橋税務署において、同税務署長に対し、平成三年一月一日から同年一二月三一日までの事業年度における被告人会社の実際の所得金額が三七億七九五七万五四四八円であったにもかかわらず、右事業年度の所得金額が三一億六八五四万九九三四円であるとして、これに対する法人税額が一一億五一九九万五八〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出した。その結果、被告人会社の右事業年度における正規の法人税額一三億八一一三万〇五〇〇円と右申告税額一一億五一九九万五八〇〇円との差額二億二九一三万四七〇〇円の法人税を免れた。

(証拠)

被告人会社及び被告人縣共通

全部の事実について

一  被告人縣の

1  公判供述

2  検察官調書(検察官請求証拠番号乙7)

3  大蔵事務官に対する質問てん末書(乙1ないし6)

一  岡部宏の

1  公判供述

2  検察官調書(甲11)

一  中西吾六の検察官調書(甲13)

一  北河光子(甲20)、彦坂譲(甲21)の大蔵事務官に対する質問てん末書

一  査察官調査書(甲3、5、6)

一  商業登記簿謄本(乙11)

第一の事実について

一  告発書(甲1)

一  「証明書」と題する書面(甲9)

第二の事実について

一  被告人会社代表者縣保彦の

1  公判供述

2  検察官調書(甲12)

一  縣雅文(甲14ないし16)、沢田洋子(甲17ないし19)の大蔵事務官に対する質問てん末書

一  査察官調査書(甲2、4、7)

一  「証明書」と題する書面(甲10)

(法令の適用)

罰条 第一及び第二の各事実につき

いずれも法人税法一五九条一項、被告人会社については、いずれもさらに、法人税法一六四条一項、一五九条二項

刑種の選択 被告人縣につき、いずれも懲役刑

併合罪の処理 刑法四五条前段

被告人会社につき、刑法四八条二項

被告人縣につき、刑法四七条本文、一〇条(犯情の重い第二の罪の刑に加重)

刑の執行猶予 被告人縣につき、刑法二五条一項

(量刑の理由)

本件は、被告人会社の代表取締役をしていた被告人縣が、被告人会社の二期分の法人税の一部を免れようと不実の申告をし、四億円余りの税を不正に免れたという事案である。

まず、本件犯行動機につき、被告人縣は、捜査段階では、平成二年度はバブル経済の下で工事受注高とその単価が急騰したため、鉄骨工事部門の所得が急増し、その結果、同年度の所得金額が二〇億円を遙かに上回ると知ったため、所得金額を二〇億円程度に圧縮して法人税を免れることにより内部留保を増やし、会社の財務体質の強化を図ろうと考え、平成三年度も同様に所得金額を三〇億円程度に圧縮して財務体質を強化しようと考えたことから本件に至ったと述べていた。ところが、公判廷では、会社の所得が多いと注文主である取引先の企業等から今後の取引において値引きを迫られるなどして不利益を被るため、これを回避することが目的であったと強調している。しかし、いずれにしても会社の利益を優先させるということに動機があったことには変わりがないし、被告人縣は被告人会社の創業者であり家族保有分を含めると発行株式の相当数を保有する事実上のオーナー経営者であったのであるから、ひいては被告人縣の私的利益を図る意図でもあったといえる。そうすると、本件犯行動機には酌むべき点が乏しい。

また、犯行態様についてみると、平成二年度については、未完成工事の作業の進行状況を実際より遅らせるなどして所得を過少評価するという期末仕掛工事高の圧縮により、平成三年度については、右のほか、鋼板を仕入れながら帳簿には計上しないことにより資産を少なくするという鋼板在庫の除外、完成工事を完成していないことにして所得を少なくするという完成工事収入の翌期繰延、そして、被告人会社の自社工場建築に要した材料費や加工費を資産として計上しなかったという建設仮勘定の除外によって、合計一〇億円余りの所得を秘匿したものである。そして、被告人縣は、これらのほ脱行為を選択した理由について、期末仕掛工事高の圧縮は、以前に所得の一部を除外する方法として用いたことがあるし、その基礎となる金額が多額であることから、これを圧縮しても発覚しにくいと考え、また、鋼板在庫の除外は、やはり以前に用いた方法であるし、どの工事にも使うことができる鋼板を購入しておけば不況時に工事原価を下げることが可能になる上、税務署は在庫現場を見ないかぎり除外したことが分からないと考えた旨供述するとともに、具体的なほ脱方法のみならず作業日報の改ざんなどまで社員に指示していたというのであるから、確実な利益留保を図る一方で発覚防止に努めていたことは明らかであって、巧妙かつ悪質である。

弁護人は、これらのほ脱行為では、当期に計上しない利益は翌期に計上しなければならず、当期と翌期との間での利益調整の意味しか持たないのであり、しばしば行われる社外に利益を流出させて隠匿する脱税方法に比べて悪質ではない旨主張する。

確かに、これらのほ脱行為の中には、翌期に利益を計上せざるをえないものもある。しかし、このようなほ脱行為を毎事業年度繰り返していけば、単に当期と翌期との間の利益調整にとどまらないし、新たな脱税方法をも用いて納税を免れるようになりかねない。現に本件では、平成三年度は、平成二年度とは異なり、工事の期末仕掛工事高を圧縮するばかりでなく、鋼板在庫の除外等の方法をも用いるようになり、より多額の法人税を免れている。被告人縣も、仮に本件が発覚しなかった場合、平成四年度においても同様な方法で脱税を繰り返していたと思う旨供述している(乙7)。そうすると、本件の脱税方法は悪質ではないとまではいえない。

さらに、ほ脱した法人税額は極めて多額であること、被告人縣は、本件以前にも所轄税務署から何度も指摘を受けては修正申告を繰り返していたもので、納税義務を蔑ろにする態度が窺われること、被告人会社は、愛知県下の同種業界では有数の企業であるから本件脱税行為が社会に与えた影響も軽視できないことなどからすると、被告人縣及び被告人会社の刑事責任は重い。

しかし、本件におけるほ脱率は約一六・六ないし一七・八パーセントであり、高率であるとまではいえないこと、被告人会社はすでに修正申告をし、本税、延滞税及び重加算税の合計約六億円余りを完納していること、被告人縣は、捜査段階から犯行を自認し、被告人会社代表取締役を辞任するなど反省の様子が窺われること、また、被告人縣には昭和三八年の業務上過失傷害罪による罰金前科が一回あるにとどまること、被告人縣の二男で被告人会社の代表取締役に新たに就任した縣保彦が、経理体制を改善した上、今後は納税義務を果たす旨誓約していること、被告人会社及び被告人縣がそれぞれ五〇〇万円の贖罪寄付をしていることなど、被告人会社及び被告人縣に個別あるいは共通の有利な事情も認められる。

そこで、以上の事情を総合考慮して、主文掲記の刑に処するのが相当であると判断し、被告人縣の刑の執行を猶予することにした。

(求刑 被告人会社 罰金一億円、被告人縣 懲役二年)

(裁判長裁判官 岡村稔 裁判官 和田真 裁判官 森島聡)

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