大判例

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名古屋地方裁判所 平成8年(ワ)1793号 判決

原告

マーク・エス・コルターマン

被告

泉博之

主文

一  被告は、原告に対し、金四〇万円及びこれに対する平成五年五月二四日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は、これを二分し、その一を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。

四  この判決は、第一項及び第三項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

被告は、原告に対し、金八〇万円及びこれに対する平成五年五月二四日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件交通事故は、信号機により交通整理の行われている交差点において、原告運転の自転車と、被告運転の自動車とが衝突したものであり、原告は、右事故により、脳挫傷、左足関節脱臼骨折等の傷害を負い、病院に入通院するなどしたことから、右事故により被つた損害のうちの精神的損害(慰謝料)につき、自賠法三条及び民法七〇九条に基づき、損害賠償を請求した事案である。

一  争いのない事実

1  事故の発生

原告と被告との間において、次の交通事故が発生した(以下、右事故を「本件事故」という。)。

(一) 日時 平成五年五月二四日午後九時二五分

(二) 場所 名古屋市天白区福池二丁目四三二番地先交差点(以下「本件交差点」という。)

(三) 被害車両 自転車(以下「原告車」という。)

右運転者 原告

(四) 加害車両 普通乗用自動車(以下「被告車」という。)

右運転者 被告

(五) 態様 被告車が、本件交差点に進入する際、本件交差点内にすでに進入していた原告車に衝突したもの

2  原告の受傷状況

原告は、本件事故により、脳挫傷、左足関節脱臼骨折、脊髄損傷、肺挫傷、脂肪寒栓症候群、左腓骨骨折、右大腿部挫創を負い、事故直後は意識障害及び両下肢の麻痺が認められた。

3  入通院治療経過

原告は、平成五年五月二四日(本件事故発生日)より同年六月一日まで名古屋市南区内の社会保険中京病院に入院し、その後同七年一月三日ころまでアメリカ合衆国内の病院にて入院(うち約四か月間は入院)して、それぞれ治療を受けた。

二  本件の争点

原告の慰謝料の額及び原告と被告との過失割合につき争いがある。

1  傷害による慰謝料

原告は、右慰謝料の額は二〇〇万円が相当であると主張し、被告は、これを争う。

2  過失相殺

被告は、本件事故は、原告が赤信号を無視して交差点に進入し、さらに、急に交差点内で立ち止まり、引き返すという、被告にとつて予測しがたい行動に出たために引き起こされたものであるから、原告の過失は極めて大きいと主張し、原告は、被告の過失割合は四割を下回るものではないと主張する。

第三争点に対する判断

一  争点1について

原告の傷害の程度、入通院の経過等に照らせば、原告の傷害による慰謝料の額は、二〇〇万円をもつて相当と認められる。

二  争点2について

1  証拠(乙一ないし四)によれば、次の事実が認められる。

(一) 本件事故現場の状況

(1) 本件交差点は、南から北に通じる道路(以下「南北道路」という。)に対して西からの道路がほぼ直角に突き当たるT字型交差点であり、信号機により交通整理が行われていた。

(2) 南北道路は、中央分離帯により南行車線(被告が進行していた車線)と北行車線に分けられ、最高速度は時速五〇キロメートルに規制されており、南北道路の両側には、自転車の通行が許されている幅員約四メートルの歩道が設置されていた。

(3) 本件交差点の南北側及び西側の三方の各入口には、白線によつて幅約四メートルの横断歩道が表示されているほか、そのうちの南北道路の南北両入口には、それぞれ横断歩道と並んで幅員約二メートルの自転車横断帯が白線によつて表示され、各横断歩道には横断歩行者用信号機も設置されていた。

(4) 本件交差点付近の南北道路は、平坦なアスフアルト舗装された直線道路であり、本件事故当時、天候は晴れで路面は乾いており、本件交差点付近は街路灯や広告灯で明るく、見通しも良好であつた。

(二) 本件事故の態様

(1) 被告は、被告車を運転して、南行車線を南進し、本件交差点の青色の対面信号に従い、同交差点を直進通過すべく、時速約八〇キロメートルで同交差点北側の自転車横断帯にさしかかつた際、右自転車横断帯に進入していた原告車の左側面に被告車の右前部を衝突させ、原告を跳ね飛ばして傷害を負わせた。

(2) 原告は、友人と共にそれぞれ自転車を運転して南北道路東側の歩道上を北進し、本件交差点北側の自転車横断帯の入口に至り、同横断帯を東から西に渡ろうとしたが、対面する歩行者用信号が赤色であることを確認したため、友人と共に信号待ちをしていた。

ところが、原告は、未だ右信号が赤色であるにもかかわらず、原告車を運転して自転車横断帯を東から西に向かつて渡り始めたので、友人が注意したところ、原告は南北道路の中央分離帯の手前付近で停止して転回し、東方へ引き返し始め、その途中で折から本件交差点に進入してきた被告車と衝突した。

2  右によれば、被告が青信号に従つて被告車を本件交差点に進入させたことは明らかであるが、本件交差点の見通しは良好で、夜間でも照明の明るい場所であつたのであるから、右で認定した原告の行動状況から推認すると、被告は、自転車横断帯よりかなり手前の地点で、横断中の原告を視認することができたものというべきであり、そうであれば、被告は、減速するなど適宜の措置を採り、事故の発生を未然に防止すべき注意義務があるのに、これを怠り、漫然と制限速度を超える時速約八〇キロメートルの高速度で進行した過失があつたものといわなければならない。

したがつて、被告は、民法七〇九条により、本件事故によつて原告が被つた損害を賠償する責任を負う。

しかし、原告も、南北道路を横断するに当たつては、対面の歩行者用信号機の表示に従うべき注意義務があるのにこれを怠り、歩行者用信号機の赤色表示を無視して横断を開始したばかりか、いつたんは中央分離帯の手前付近まで達しながら、横断を中止して引き返すという極めて危険な行動に及んだものであるから、原告にも過失があつたものといわなければならない。

そして、双方の過失の態様に照らせば、本件事故の八割は原告の過失に起因するものと認めるのが相当である。

三  前記一のとおり、原告の慰謝料の額は二〇〇万円となり、右金額から前記の過失割合により八割を減額すると、被告が原告に対し賠償すべき慰謝料の残額は四〇万円となる。

四  結論

以上の次第で、原告の本訴請求は、四〇万円及びこれに対する本件不法行為の日である平成五年五月二四日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由がある。

(裁判官 大谷禎男)

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