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名古屋地方裁判所 平成8年(ワ)4090号 判決

原告 関口房朗

右訴訟代理人弁護士 中津晴弘

同 豊田愛祥

同 須藤英章

同 堀内節郎

同 角田雅彦

同 三浦和人

同 宮嵜良一

同 渥美裕資

被告 株式会社メイテック

右代表者監査役 水谷元彦

右訴訟代理人弁護士 堤淳一

同 林光佑

同 掘龍之

同 石田茂

同 石黒保雄

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告が平成八年七月三一日午前一〇時に開催した被告取締役会(以下「本件取締役会」という。)においてなされた別紙「決議事項」記載の決議(以下「本件決議」という。)はすべて無効であることを確認する。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二当事者の主張

一  請求原因

1  当事者

(一) 被告は、昭和四九年七月一七日に設立された株式会社であり、機械類、電気・電子機器類の設計、製作及び販売並びに電子計算機に関するソフトウエアの開発及び販売を、その主たる業務としている。

(二) 原告は、昭和五五年五月一二日、被告の代表取締役に就任し、その後、重任を続け、平成七年六月二九日にも重任された。

2  本件取締役会の招集、開催及び決議の経緯

(一) 被告定款二〇条二項は、「取締役会に関する事項については、取締役会で定める取締役会規程による。」と定めているところ、被告取締役会規程八条一項は、「取締役会の招集通知は、会日より三日前までに各取締役および各監査役に対し発するものとする。ただし、緊急の必要あるときはこれを短縮することができる。」と規定し、同条二項は、「前項の通知は、開催日時、場所および会議の目的事項を記載した書面をもってこれをおこなう。」と規定している。

(二) 右取締役会規程には格別の規定がないが、被告においては、慣行として、毎月「定例取締役会」を開催することとしており、この定例取締役会の招集は、「取締役経営企画部長」の職にある杉浦公市(以下「杉浦」という。)が担当することとされていた。

(三) 杉浦は、右慣行に従い、「事務局」名義の下、自らの氏の刻印ある印章を押捺した、平成八年七月二四日付の「平成八年七月度取締役会開催のご案内」と題する本件取締役会の招集通知(以下「本件招集通知」という。)を、被告の取締役ら全員及び監査役ら全員を名宛人として発送した。

(四) 本件招集通知の内容は、以下のとおりであった。

「下記の通り開催致しますので、ご多忙のこととは存じますがご出席をお願い致します。

日時 七月三一日(水)一〇時~一二時

場所 東京本社事務所内ボードルーム議題

(審議事項)

1 平成八年八月一日付人事異動の件〈省略〉西本取締役

2 海外出張に関する稟議関連規程改訂の件〈省略〉杉浦取締役

(報告事項)

1 平成八年六月度営業状況及び経営概況〈省略〉杉浦取締役、福田取締役

2 その他

(五) 本件招集通知にかかる本件取締役会は、招集通知記載の日時に、同通知記載の場所において、取締役全員及び監査役中、水谷元彦、鷲見正行及び加藤碩孝が出席して開催された。

(六) 本件取締役会において、西本甲介(以下「西本」という。)が、別紙「決議事項」(以下「本件決議事項」という。)一項のとおり、原告を被告代表取締役社長の職務から解任する旨の決議をなすべき議案(以下「本件議案」という。)を「緊急動議」として提出した。

(七) 西本は、本件議案の採決に当たり、原告は特別利害関係人に該当し議長適格を欠くので、本件議案の審議及び採決のため大槻三男(以下「大槻」という。)を議長として推薦すると述べ、同人を議長に選出する議を諮ったところ、取締役掘充徳(以下「掘」という。)、取締役関口啓貴(原告の長男、以下「啓貴」という。)及び原告以外の取締役ら一〇名(以下「他取締役ら」という。)が、即時これに賛意を表し、大槻が議長に就任して、爾後、議長をつとめた。

(八) 大槻は、議長として、本件議案の審議を諮ったが、同議案提出理由については、大槻その他の取締役らから何の説明もなく、議場における何の審議もなく、原告に対し弁明の機会も与えないまま、原告を審議及び採決に関する特別利害関係人として、その議決権行使を拒み、かつ、原告を本件議案の決議の成否に当たって審査されるべき「出席取締役」の数から排除した上、間髪を容れず、他取締役ら全員が賛同したため、掘及び啓貴の反対の意思表明にもかかわらず、本件議案は可決された。

(九) その他、他取締役らは、本件決議事項二項以下のすべての決議に賛同したので、大槻は、これらの決議がすべて可決承認されたものとした。

(一〇) また、本件招集通知に記載ある前記(四)の二件の議案のうち、一号議案については、「取締役会の審議事項に該当する人事異動が存しなかった。」という、二号議案については、「取締役会の審議事項ではないことが判明した。」という、いずれもはなはだ奇異な理由をもって、審議されないまま、取締役会は終了した。

3 本件取締役会決議の違法性とその無効

(一) 定款及び取締役会規程違反について

(1) 被告は、請求原因2(一)のとおり、定款規定をもって「取締役会規程」による特則の存在を許容し、かつ、同規程により特に取締役会招集通知を書面でなすべきこと、及び同通知には「会議の目的」を記載すべきことを要求している。この規程は、任意規定たる商法二五九条ノ二の特則を定めるもので、本件取締役会にあっては、本件招集通知書に記載された会議の目的事項以外の事項を決議するべきでないことは明白である。本件決議は、この制約を無視して強行されたものであり、無効たることを免れない。

(2) また、本件取締役会においては、取締役全員の出席があったが、出席した取締役全員が通知にない議題を審議採決することに同意したとはいえないから、本件取締役会決議が違法なものであったことに変わりはない。

(二) 本件取締役会決議は、およそ会議の態をなさない、他取締役らの陰謀による、著しく不公正な一種のクーデターに他ならず、法がその効果を許容し得る範囲のものではない。

(三) 本件取締役会による原告の代表取締役解任決議につき、原告は、特別利害関係人としてその議決権行使を拒否され、かつ、出席した取締役の数に算入されなかった。しかし、原告は、被告の発行済株式の一三パーセント近くの株式を直接・間接に有する大株主であり、被告のためにその経営能力を全面的に発揮してきたし、またその目的に向かって今後も邁進する心的基礎を十分に有するものであるから、特別利害関係人には当たらない。原告を特別利害関係人として排除した措置は、専ら原告の口封じのために用いられた戦術にすぎず違法である。仮に違法と認められないとしても、特別利害関係人の議決権行使禁止の原則の濫用であり、結果において違法たるに帰する。

4 結語

よって、原告は、被告に対し、本件決議が無効であることの確認を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1(一)、(二)の事実は認める。

2(一)  同2(一)ないし(七)及び(九)の事実は認める。

(二)  同2(八)のうち、本件議案の審議が行われ、特別利害関係人として、原告が出席取締役数に算入されなかったこと、本件議案が他取締役らによって承認可決されたことは認め、その余の事実は否認する。解任決議の提案理由は、西本が本件取締役会において明確に述べたところである。

(三)  同2(一〇)のうち、本件招集通知記載の二つの議案を審議しなかったことは認め、その余の事実は否認する。必要がなければ審議しないのは当然のことである。

3(一)(1) 同3(一)(1)は争う。

取締役会開催通知に予め代表取締役解任を議題として記載し、これを各取締役に周知させておく必要はない。議題を特定して通知することを取締役会招集の要件とすることを取締役会規則で定めた場合でも、取締役会の議事運営は予め通知された議題に拘束されるものではない。

(2) 同3(一)(2)は争う。

本件取締役会には取締役全員が出席していたから、「目的事項」以外の事項につき審議することが可能であった。

(二)  同3(二)は争う。

西本は、本件取締役会において、原告の解任理由を述べている。本件取締役会の審議の過程において、原告は解任理由に反対する発言をすることもなく、他の取締役において原告の発言を妨げた事実もない。

(三)  同3(三)は争う。

代表取締役の解任を求める議案については当該代表取締役は特別利害関係人に該当し、議決権を有しない。

第三証拠〈省略〉

理由

一  請求原因1(一)、(二)、2(一)ないし(七)及び(九)の事実は、いずれも当事者間に争いがない。

二  請求原因2(八)のうち、本件議案の審議が行われ、原告が特別利害関係人として出席取締役数に算入されなかったこと、及び本件議案が他取締役らによって承認可決されたことは、当事者間に争いがない。

平成八年七月三一日開催された本件取締役会における会話内容を録音したものであることについて争いのない検乙第一号証及び成立に争いのない乙第一号証によれば、本件取締役会において、西本が、解任決議である本件議案の提案理由について、「現在の関口社長の経営方針ならびに新規事業への投資の考え方では、社業の発展どころか早晩経営の危機を迎えかねないと判断しております。代表取締役社長として不適任であると存じますので、解任の動議を提出する次第でございます。」旨述べたことが認められる。

三  請求原因2(一〇)のうち、本件招集通知に記載のある二件の議案を審議しなかったことは、当事者間に争いがない。

四  請求原因3について判断する。

1  定款・取締役会規程違反について

(一)  被告において、取締役会に関する事項については、定款規定をもって、「取締役会規程」によることを定め、同規程により、取締役会招集通知は「会議の目的」を記載した書面で行うことが定められていることは、前記のとおりである。

確かに、会議の目的たる事項を予め通知することは、各取締役が事前に検討を加えた上で議論に参加できるという点では好ましいといえる。

しかし、株式会社の取締役は、株主総会の決議により株主の信任を受けて会社の日常的な業務執行に当たり、取締役会に出席の上、意思決定に必要な事項に関して臨機応変に経営的専門的な判断を下すべき責務を負っているのであるから、取締役会において、会社の業務に関する事項に関し、いつ、いかなる提案、動議がなされたとしても、各取締役は必要な討議、議決を行い得るし、またこれを行うべき義務があるといわなければならない。しかも、株主総会に出席する株主と異なり、取締役は、会議の目的たる事項によって出席するか否かを決する自由を有するわけではなく、常に、取締役会に出席する責務がある。また、取締役会は、業務を監査する権限も有するが、監督権の行使の一環として、各取締役は、その招集された取締役会において、予め提案された議案とは関係なく、有効適切に監督権を行使することが期待されている(代表取締役の代表権の剥奪は、その権限行使の一つであるということができる。)。

したがって、会議の目的事項を通知するのは、取締役会に出席する取締役に事前の準備の便宜を与えるという意義があることは否定できないが、それ以上に取締役会における決議内容を拘束する効力まで有するものではないと解するのか相当であり、また、取締役は、取締役会において、業務執行等に関する諸般の事項が議題となり得ることを当然に予想すべきである。そうだとすると、招集通知に記載されていない事項が取締役会で審議・議決されたとしても、当該決議は違法とはならないものというべきである。

もっとも、一部の取締役を排除し、これに反論の機会を与えないことを目的とし、かつ、当該取締役が取締役会に欠席することが見込まれる状況下で、殊更招集通知に議題を記載しないなどの濫用的な場合には違法の議論が生ずる余地もあるが、本件においては、本件全証拠を検討しても、かかる事情を認めるに足りる証拠資料はない。

(二)  本件取締役会において、本件決議事項が議題として招集通知に記載されていなかったことは、当事者間に争いがないが、右のとおり、取締役会における議題は招集通知に記載のある事項に限定されないので、これをもって本件決議に瑕疵があるものということもできない。

2  取締役会における決議の方法は、会議体として公正妥当なものでなければならないことはいうまでもない。

本件取締役会において、西本が原告の代表取締役解任の動議である本件議案を提案するとともに、右の議題については、原告は議長としての適格を欠くとして大槻を議長として推薦する議を諮ったところ、他取締役らが賛意を表し、大槻が議長に就任して、その職をつとめたこと、西本が右動議提案理由を述べ、本件議案に他取締役らが賛同し、掘及び啓貴二名が反対の意思を表明したこと、本件決議事項二項以下のすべての決議に対し、他取締役らが賛同し、大槻が、これらの決議につきすべて可決承認されたものとしたことは前記のとおりであり、かつ、本件取締役会に出席した取締役に対し、殊更に意見表明の機会を奪った等の不当な措置があったことを認めるに足りる証拠はない。また、前記検乙第一号証、乙第一号証によれば、右決議後に、休憩をはさんで取締役会が続行され、本件招集通知記載の報告事項についての報告が、杉浦と同じく取締役である福田完次からなされたが、その会議中、本件決議事項について、質疑を求めたり、異議を述べたりする者はいなかったことが認められる。

そうすると、原告を含めた取締役全員の、質疑を求めたり、異議を述べたりする機会が不当に奪われたものと認めることはできないから、到底、本件取締役会が会議の態をなさない不公正のものであったとはいえない。よって、本件決議に瑕疵があるということはできない。

3  代表取締役の解任に関する取締役会決議について、当該代表取締役は特別利害関係人に当たり、議決権を行使することができないと解される(最高裁昭和四四年三月二八日第二小法廷判決・民集二三巻三号六四五頁参照)。

したがって、本件取締役会による原告の代表取締役解任決議につき、原告が特別利害関係人として議決権行使を拒否され、出席した取締役の数に算入されなかったことをもって、本件決議に瑕疵あるものということもできない。

また、特別利害関係人の議決権行使禁止の原則を濫用したと認めるに足りる証拠もない。

五  よって、原告の本訴請求は理由がないから、これを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 玉田勝也 裁判官 櫻林正己 西野光子)

〈以下省略〉

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