大判例

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名古屋地方裁判所 昭和44年(ワ)2370号 判決

原告

塩谷茂男

被告

日産サニー中部販売株式会社

主文

一  被告は原告に対し、金六二万〇一一五円および内金五六万〇一一五円に対する昭和四四年八月二〇日から、内金六万円に対する本判決言渡の日の翌日からいずれも完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用はこれを四分し、その三を原告の、その余を被告の負担とする。

四  この判決は原告の勝訴部分に限り仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求める裁判

一  請求の趣旨

(一)  被告は原告に対し、金二五五万九一七六円およびこれに対する訴状送達の翌日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

(二)  訴訟費用は被告の負担とする。

との判決および仮執行の宣言を求める。

二  請求の趣旨に対する答弁

(一)  原告の請求を棄却する。

(二)  訴訟費用は原告の負担とする。

との判決ならびに敗訴の場合における仮執行免脱の宣言を求める。

第二請求の原因

一(事故の発生)

原告は昭和四三年六月一五日午後一一時三〇分頃、名古屋市中区新栄町四丁目五番地先路上を普通乗用自動車を運転して東進中、前方横断歩道を歩行者が通行中のため一旦停車をしたところ、たまたまその後方より訴外高橋史郎の運転する小型乗用自動車(名五の九八一九号)(以下本件自動車という。)が追突し、このため原告は頭部頸部挫傷、脳震盪症の傷害を受けた。

二(被告の責任)

(一)  被告は本件自動車を自己のために運行の用に供したものであるから自賠法三条により原告の受けた損害を賠償する責任がある。

(二)  仮りに被告に右責任が認められないとしても、本件事故は訴外高橋史郎の前方注意義務懈怠の過失により発生したものであり、同人は被告所有の本件自動車を継続的に運転して通勤および被告会社の事業に従事していたものであるから、被告は民法七一五条一項により原告の受けた損害を賠償する責任がある。

三(損害)

(一)  治療費 金六万五六一五円

原告は本件事故による受傷後直ちに笠寺病院に入院し、昭和四三年一〇月五日まで約四ケ月間治療を受け、退院後も昭和四四年六月末まで約八ケ月間通院治療を受けた。この間約一〇三万円相当の入院、治療費を要し、その内約九六万円は社会保険より支払われたが、残金六万五六一五円の支払い請求を受けている。

(二)  休業損害 金一一七万円

原告は本件事故当時有限会社愛幸建機サービスの代表取締役をしており月収一八万円相当の収入を得ていたが、本件事故による受傷のため昭和四三年六月一六日から同年一二月末日まで合計六ケ月半休職したのでその間に合計一一七万円のうべかりし利益を喪失した。

(三)  慰藉料 金一〇〇万円

原告は本件事故による受傷のため約四ケ月間入院し、さらに退院後も八ケ月間にわたり通院し、その後も通院治療を受けている。この間、前記会社の代表者として多数の従業員を抱え経営上極めて不利な状態を切り抜ける二重の苦しみを受け、さらに治療によりおよそ体力は回復したが、現在なお年令が若いのにかかわらず事故前に比して疲労度が早く能力が低下している。これらにより原告の受けた精神的肉体的苦痛は甚大であるので、慰藉料は金一〇〇万円を下らない。

(四)  弁護士費用

以上により原告は被告に対し合計損害金二二三万五六一五円を請求しうるところ、原告の再三の示談申入れを拒絶し何らの誠意を示さないので、原告は止むなく、弁護士坂井忠久にその取立を委任し、手数料として金一〇万円を支払い、謝金として右損害金の一割に当たる金二二万三五六一円を支払うことを約した。

四 よつて原告は被告に対し、前記三(一)ないし(四)の合計金二五五万九一七六円およびこれに対する本件訴状送達の日の翌日から支払済みに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

第三請求原因に対する答弁および被告の主張

一  請求原因第一項の事実は不知。同第二項(一)、(二)の事実は否認する。同第三項(一)ないし(三)の事実は不知。同第三項(四)の事実のうち原告と原告代理人間にそのような約定がなされたことは不知。

二(請求原因二(一)に対しての被告の主張)

被告には運行供用者責任はない。本件自動車は訴外三浦元男が昭和四二年一二月五日、被告会社から新車を購入するに際して、そのころ、下取り車として被告会社が取得したものであるが、被告会社はこれを同月一三日ころ訴外秋元肇に所有権留保付き、一五回の月賦払の約定で売渡し、各支払日を満期日とする訴外難波繁振出の約束手形を受け取つた。ところが、右秋元は、昭和四三年五月ころ被告会社の従業員である訴外大島某が同様従業員である前記高橋に対して、本件自動車の売却または買戻を依頼したので右高橋がこれを自ら買い受けた。右高橋は被告会社においてセールスマンが営業用に使用する車両を特定させ種々の便宜を提供する自己車申告制度上すでに申告済の車両を有していたため本件自動車を自己が買い受けたことを被告会社に対して隠し、訴外諸戸宏充の名義を借用して同人名義の約束手形を被告会社宛に振り出させ、これと前記難波名義の約束手形を差替えて、被告会社に対しては依然秋元が買主として主たる債務者であり、連帯保証人が難波から右諸戸に差し替えられたかのように処理した上で、毎月の支払日には分割金を右諸戸名義の口座に振り込んで支払つていたのである。被告会社は同年五月二〇日に難波名義の約束手形を高橋または大島に返した後、諸戸名義の約束手形による本件自動車の代金の入手を確実ならしめるために本件事故後である同年七月二九日本件自動車について自動車登録原簿に被告会社名義の所有権登録をした。右高橋は、本件自動車を使用して出勤したこともあつたが、ただちに上司に注意され、以後は、駐車場所に上司の目の届かぬ所に移すなどして、被告会社に対しては、自己が本件自動車を買い受けたことをひたすら隠したため、本件事故が起るまで、高橋が本件自動車を運転していることは全く知らなかつたのである。以上の如く、本件自動車は昭和四二年一二月一三日ころ、秋元に売却されていて以来本件事故後の昭和四三年七月二九日まで被告会社が運行利益も運行支配も取得したことがないのであるから、原告の自賠法三条による請求は全く失当である。

三(請求原因二(二)に対しての被告の主張)

被告に使用責任はない。被告会社は前記の如く自己車申告制度を設けて、営業用に使用する車両を特定させ、車両手当、ガソリン券を給付し、申告車について任意保険に加入していた。高橋は、本件事故当時運転していた本件自動車とは別の車両を自己車として被告会社に届出ていたが、その後本件事故まで車両の変更の申出をしたことはない。従つて、被告会社としては、高橋が本件自動車を運転していたことは事故まで全く知らなかつた。また、高橋は事故当日は、一九時一二分にタイムレコーダーを打刻して退社しており、事故までの四時間一八分は、被告会社の業務を全くしていない。事故現場付近には、高橋が当時訪問していた顧客もなかつたのであるから、本件事故は実質的にはもちろん、外形的にも被告会社の事業の執行とは全く無関係に惹起されたものであつて、被告会社が使用者責任を負担すべき理由は何らない。

第四証拠〔略〕

理由

第一事故の態様と責任の帰属

一  請求の原因第一項の事実は、〔証拠略〕により認められる。

二  被告の責任

(一)  〔証拠略〕を総合すれば、本件自動車はもと訴外三浦元男の所有であつたが昭和四二年一一月末ころ同人が被告会社より新車を購入する際に、下取り車として出しこれを被告会社が取得し、被告会社はさらに本件自動車を同年一二月一三日頃訴外秋元肇に代金四三万円で売渡したこと、右代金の内金一四万円は契約当日支払われたが、残金は一五回の月賦払いとし、各支払日を満期とする秋元の知人の訴外難波繁名義の手形が差入れられたこと、右売買は被告会社が本件自動車のいわゆる所有権留保約款を付してなされたこと、右秋元は昭和四三年三月ころになつて本件自動車の売却を訴外大島某を通じて、また直接に前記高橋に依頼したため高橋はこれを自ら買い受けたこと、そのためその後前記難波より同人名義の手形の返却を要望され、右高橋は取引先である訴外諸戸宏充から同人名義を借りることとし、同一名義の被告会社宛の手形を振り出させ、これと右難波名義の手形とを同年五月二〇日ごろ差し替えたこと、このような操作をしたのは、自動車販売会社たる被告会社においてセールスマンが営業用に使用する車両を被告会社に申告させ申告のあつたものについてはガソリン券を交付し、保険をつけるという自己車申告制度を設けていたところ、右高橋はすでに申告済の他車を有し、二台の申告は許されていなかつたこと、又本件自動車(ブルーバードスリーエス)の如きスポーツタイプの車両は申告車としては容易に許可されなかつた実情にあつたことの二点が理由となつていたこと、しかし右高橋は右の手形差替のころから本件事故に至る約一ケ月間に毎日本件自動車を利用して自動車のセールスを行ない、この間、上司である訴外浜田喬司にすくなくとも二、三度発見されたが、一度注意されたのみで、その注意後も継続して営業に使用していたこと、本件事故当日は右高橋は午後七時一二分に退社していること、被告会社は午後五時が勤務終了時であるが、サラリーマン等の顧客対策上午後五時以降にセールスマンが商談を行うことも多く、退社時間後も自動車の運転については公私の区別が判然としない場合が多いこと、本件事故の時間に右高橋がセールスのため、あるいはその帰路に本件自動車を運行していたか、あるいは純然たる私用のため運転していたかは不明であるが、本件事故の場所は右高橋の自宅への帰路途中であると認められること、以上の事実が認められ、右認定を覆すに足る証拠はない。

(二)  右認定事実によれば、被告会社は自己車申告制度によりセールスマンが営業用に使用する車両を一台に特定させて申告させ、その車両に種々の便宜を供与しているものと認められるのであるが、右制度の趣旨は自動車セールスマンが被告会社の営業を遂行するにあたり、自動車を使用することが必要不可欠であつて、しかも右営業用自動車として被告会社所有の車両を使用する場合よりも、各セールスマン個人の所有する車両を使用することが多く、結局マイカーであるにもかかわらず実質的にはあたかも社用車となつている割合が多いため、ガソリン券を交付し、保険料を支払うなどの便宜を供与してセールスマンの経費の肩代り、万一の事故の場合の自己負担分の軽減をはかり、セールスマンの勤労意欲の向上に寄与せんとするものであつて、右申告車両に被告会社の運行支配が及ぶことは言うまでもないが、右申告車以外の従業員所有車に会社の運行支配がまつたく及ばないと解することは相当ではない。なぜなら、右制度の趣旨そのものあるいは被告会社の財政的負担等の理由から右申告車の車種あるいは台数が社内的に制限をうけることが考えられるが、この被告会社の社内的な制限には合致しない車両(従つて申告車としての取扱いを受けない)であつても、実質的、客観的には右申告車と同様の運行に供せられる車両もあり得るのであつて、右のごとき車両はその運行の実態、事故の際の運行に供せられた目的等を総合してなお被告会社の運行支配が存するか否かを判断すべきであり、前記社内的規制に合致しないからといつて、ただちに運行支配がないものと判断することはできない。

これを本件についてみれば、前記認定の如く訴外高橋は事故前一ケ月位前に本件自動車を購入後ほぼ毎日被告会社の営業たる自動車セールスに使用しており、このような車両は原則的には非申告車であつても、被告会社はその非申告車の活動によつて利益を得、かつ、被告会社への毎日の出入によつて本件自動車への十分な管理監督を及ぼし得る地位にあつたものと判断される。

もつとも上司が一度口頭で注意した事実があるが自動車セールスマンが自己所有車以外の下取車等に乗車することも多い実状では前記高橋が非申告車に乗車していることを現認したとの理由でなされた右注意もさして厳重なものであつたとは認められず、現に右高橋はその注意後も従前と同様の運転を続けていたものであるから、右一片の注意によつて被告会社の前記地位は何等影響を受けないとみるのが相当である。さらに、本件事故時に本件自動車がどのような自的で運転されていたか明らかではないが、自動車セールスマンの運転につき前記の如き公私の別の判然としない実情を考慮すれば、自動車セールスマンの営業区域内あるいはその通勤、帰宅の途中は、純然たる私用運転であつたとの特段の主張立証がない限りは原則的には社内的な勤務時間にかかわらず被告会社のための運行として推認するのが相当であつて、右特段の事情の立証されない本件においては、この点においても被告会社の前記地位は影響を受けず、結局被告会社は本件自動車につき自賠法三条にいう運行供用者として後記損害を賠償する義務があると言うべきである。

第二損害

一  治療費 金六万〇一一五円

〔証拠略〕によれば、原告が本件事故により頭部頸部挫傷、脳震盪症の傷害を受け、昭和四三年六月一八日から同年一〇月五日まで名古屋市南区笠寺病院に入院し、その後も通院治療を約八ケ月間(実日数不明)受けたこと、その間の入院治療費等については大部分は社会保険によりまかなわれたが残金六万五六一五円については右甲第三号証の請求を受けていることが認められ右認定に反する証拠はない。

右治療費残額中、入院特別室料と認められる金五五〇〇円を控除した頭書金額を相当因果関係にある損害と認める。

二  休業損害

〔証拠略〕によれば、原告は本件事故当時従業員一〇名前後の、建設機械の販売、修理を営業内容とする有限会社の代表取締役であり、弟と他の一人が取締役をしており資本金は五〇〇万円で同族で八割出資し後の二割は従業員が出資していること、原告の住居は右会社の中にあること、が認められる。さらに原告の休業中は、いかなる名目か明らかではないが休業損害相当分が支払い済であることが認められ、原告の右会社における地位、右会社の規模、同族性等を総合すると一応原告の休業損害は右会社から填補されていると認めるのが相当である。

三  慰藉料 金五〇万円

前記認定の本件事故の発生事情、傷害の部位程度、治療状況等の諸事情を総合すると、慰藉料として金五〇万円を相当である。

四  弁護士費用 金六万円

本件事案の内容、審理の経過、認容金額に照らし、弁護士費用として金六万円を認めるのが相当である。

第三(結論)

そうすると原告は被告会社に対しないし四の合計金六二万〇一一五円および内金五六万〇一一五円に対する本件訴状送達の日の翌日であることが記録上明らかな昭和四四年八月二〇日より、弁護士費用として内金六万円に対する本判決言渡の日の翌日以降各支払済みに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求めうるので、原告の本訴請求は右の限度で理由があるのでこれを認容し、その余は失当として棄却することとし、訴訟費用の負担について民訴法第八九条、第九二条本文を、仮執行の宣言について同法第一九六条一項を適用して主文のとおり判決する。

なお、被告は仮執行免脱の宣言を求めているが、本案内容に照らし相当でないのと認めるので、仮執行免脱の宣言はしないこととした。

(裁判官 安原浩)

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