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名古屋地方裁判所 昭和47年(ワ)84号 判決

原告

ハツネ電機工業株式会社

右代表者

嵩正明

右訴訟代理人

鶴見恒夫

外一名

被告

中日警備保障株式会社

右代表者

川崎五男

右訴訟代理人

富島照男

外二名

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一、当事者の求める裁判

(原告の請求の趣旨)

一、被告は原告に対し、金一四一〇万二一九五円およびこれに対する昭和四七年一月二九日から右完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

二、訴訟費用は被告の負担とする。

との判決並びに仮執行の宣言を求める。

(請求の趣旨に対する被告の答弁)

主文と同旨の判決を求める。

第二、当事者の主張

(原告の請求原因)

一、原告は発電ランプおよび一般弱電機製品等の製造を業とする会社で、被告は警備請負等を業とする会社である。

二、原告と被告とは昭和四五年一一月二七日、原告を注文者、被告を請負者として次の内容による警備保障契約を締結した(以下本件警備保障契約という)。

1、警備請負期間 昭和四五年一二月一日から一年間

2、警備請負料 一ケ月金一七万五〇〇〇円

3、警備対象 肩書住所地の原告会社本社および工場全域

4、損害賠償責任 被告の責に帰すべき事由により警備対象物件に生じた原告の財産上の損害につき被告は金三〇〇〇万円の限度で責任保険をかけ、右金額の範囲で原告に賠償する

三、被告は右契約に基き、昭和四六年六月二一日午後五時五〇分から翌二二日午前八時まで自社の雇傭するガードマン俵直彦を原告会社に派遣して警備に従事させていたところ、同二二日午前五時ないし五時一〇分頃肩書住所地所在の原告会社本社工場内の鉄骨スレート葺リバーハウス式平家建倉庫(内部の一部二階構造)約三七〇平方メートルから出火し、同倉庫およびその中にあつた材料部品その他在庫品、器材、備品等を全焼し、かつ右倉庫に接続する鉄骨スレート葺平家作業場(捲線工場)約一〇五平方メートルの一部を焼損した。

四、原告は被告の債務不履行による右火災の結果次のとおり合計金四六六八万四一九〇円の物的損害を受けたが、原告は東京海上保険株式会社から火災保険契約(一部保険)により金二八〇六万六三八六円の給付を受けたので、未顛補損害額は金一八六一万七八〇四円である。

1 金九三〇万二四〇〇円

但し、前記原告所有の焼失倉庫約三七〇平方メートル焼失による損害金であつて、焼失前の状態に復して建設するのに要する費用から鉄骨スクラップを控除した額である。

2 金二八万五〇〇〇円

但し、前記原告所有の一部焼損作業一〇五平方メートルの補修費用相当額である。

3 金三七〇九万六七九〇円

但し、前記焼失倉庫および焼損作業場内において原告が所有していた発電ランプ、方向指示機、ライト、整髪器具、電球およびビス類製品の焼失もしくは焼壊したものの見積額からそのスクラップ見積額を控除した額金三六四〇万一四二六円およびダイナモ関係部品の煤煙および汚水による損傷の見積額金六九万五三六四円の合計額である。

三、原告と被告間の契約関係と被告の責任原因は次のとおりである。

1 (本件警備保障契約の性質)

本件警備保障契約は単に警備という作業そのものを目的とするだけでなく、警備対象物件について警備作業を遂行して盗難、火災等の事故を防止することを目的とする請負契約である。従つて右契約は警備対象物件の安全の保証をも内容としている。その根拠は次のとおりである。

イ、本件契約書(甲第一号証)の表題には「警備請負契約書」、前文には「警備請負契約」、報酬の項には「警備請負料」と記載してある。この契約書は被告において定型化して多数の契約に用いていたものである。

ロ、本件警備保障契約の内容となつている被告が保険会社と責任保険契約を締結すべき義務に基く被告と安田火災海上保険株式会社との間の賠償責任保険特約書(甲第二号証)には、被告が行うすべての「警備請負契約」に基き負担する責任を保険の対象とするものとし、普通保険約款のほか「請負業者特約条項」、「請負業者管理責任担保特約」の規定が適用されるものとの記載がなされている。

ハ、右各契約書(甲第一、第二号証)によれば、本件警備保障契約は警備物件につき警備時間内に生じた事故から生じた原告の損害を担保ないし保障をすることもその内容としている。

ニ、本件警備保障契約の警備請負料は月金一七万五〇〇〇円であつて、単なる守衛の給料(昭和四五年一一月当時五万円未満)との間に格段の差がある。

ホ、損害賠償額および保障額の限度額が定められている。従つて本件警備保障契約は無過失的損害担保の契約である。

2、(被告の責任原因)

イ、右契約の本旨により、被告は前記限度額(金三〇〇〇万円)の範囲内で前記損害金を賠償する義務がある。

ロ、仮に本件警備保障契約が請負契約でないとしても、本件火災は本件警備対象物件につき警備時間中に発生した事故であるから、被告の責に帰すべき事由によるものである。

ハ、仮に本件火災の発生が被告の責に帰すべき事由によるものでなくても、前記俵警備員の過失に基くものである。

六、従つて原告は被告に対し債務不履行による前記未顛補損害賠償金一八六一万七八〇四円のうち金一四一〇万二一九五円およびこれに対する本件訴状送達の日の翌日である昭和四七年一月二九日から右完済に至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

(請求原因に対する被告の答弁)

一、請求原因第一項の原告の部分は認めるが、被告の部分は否認し、被告は警備委託を業とする会社である。

二、同第二項の事実中、契約が「請負」契約であることは否認するが、その事実は認める。

本件警備契約は警備等の委託契約である。

三、同第三項の事実中建物の構造並びに焼失面積は不知。その他の事実は認める。

四、同第四項の事実は不知。

五、同第五項は争う。

(被告の主張)

一、(本件警備保障契約の性質)

本件警備保障契約は、被告において原告と被告との間に取交された警備計画書、協定等に基いて委託された警備を実施し、それによつて警備対象物の規模および性質と警備人員との相対的な関係上可能な範囲内で防犯および防火の実をあげることを本旨としている委託契約(委任契約またはそれに準ずる無名契約)である。

同契約において火災および盗難のすべてから安全を保障することは不可能である。

同契約の契約書第六条第一項に、警備対象物件に事故が発生した場合といえども、被告において原告と被告との間で協定した警備実施要領に違反しなかつた場合には反対給付(報酬)の返還を要しない旨定められているのは右の趣旨を表現したものである。

なお、同契約に「保障」という用語が用いられているのは単にガードマン会社の沿革上呼び慣わされてきた名称にすぎず、法的な意味での「保証」や「危険を負担する」との趣旨ではない。

二、(被告の帰責事由の不存在)

1、本件警備保障契約の骨子は次のとおりである。

イ、被告は原告に対し、本件契約書添付の警備計画書および現地責任者との協定事項に基き、警備対象物件の保安警備を実施し、原告は被告に対しその報酬を支払う(第一条)。

ロ、右警備計画書は本件契約締結にあたり被告が警備対象物件を調査の上作成し、原告の同意をえる(第二条)。

ハ、被告は警備日誌を作成しこれを原告に提出して警備状況を報告する(第三条)。

ニ、報酬は一ケ月金一七万五〇〇〇円とする(第五条)。

ホ、警備対象物件に事故が発生した場合といえども、被告が警備計画書記載の事項ならびに協定事項に違反しなかつた場合には、被告は報酬を返還することを要しない(第六条第一項)。

ヘ、警備対象物件に生じた事故による原告の損害については、被告はその損害が被告の責に帰すべき事由により生じたものについてのみ被告の保険会社との保険契約により賠償の責に任ずる(第七条)。

2、被告は原告との間に右契約第二条所定の警備計画書を取り交し、かつ原告の管理責任者である木下実(勤労課長)の警備実施細目についての指示に従い、忠実に警備を実施していた。

右計画書の指定する警備の方法は、「毎日一八時から翌朝八時まで警備員一名を原告の定める待機室に配置し、巡回および看視を兼ねた待機室においての待機、電話連絡、記録作成により警備任務を遂行する」ことであつた。

3、本件火災発生当夜の担当警備員俵直彦は、右計画書に従つて平常と全く変りなく警備を実施していた。

同警備員が記載していた当夜の日誌によれば、当夜の警備実施状況は次のとおりである。

六月二一日

一七時五〇分 上番・原告会社守衛より事務引継

一八時三〇分から一九時〇〇分

第一回動哨巡回実施(外部巡回)

二〇時〇〇分から二一時三〇分

第二回動哨巡回実施施設の内部に立入り施錠状況・ガラス破損の有無・火気点検を実施

検査課・本館において灰皿の不始末、プレスにて室内燈消忘れの不良個所発見

二二時三〇分から二三時〇〇分

第三回動哨巡回実施施設の外部場外を巡回

二三時〇〇分 第一回定時報告実施被告会社統制指令室へ異常ない旨報告

〇時三〇分から〇時五〇分

第四回動哨巡回実施施設の外部場外を巡回

二時〇〇分から二時一〇分

第五回動哨巡回実施施設の場外を巡回

三時三〇分から三時五〇分

第六回動哨巡回実施施設の外部場外を巡回

四時〇〇分  第二回定時報告実施警備報告書作成

四時五〇分から五時一〇分

第七回動哨巡回実施施設の外部を巡回、後場外を巡回

外燈消燈実施

五時一五分  部品倉庫の火災発見一一九番へ電話

右のとおり、同警備員は約一時間ないし一時間半の間隔で巡回を繰返し、火災発生の直前である午前五時一〇分に巡回を終え、第七回動哨巡回まで忠実に警備を実施した。

4、しかるに、第七回動哨巡回終了直後に同警備員は待機室にて「打上げ花火」のような破裂音を聞き直ちに外へ出たところ、煙によつて本件火災を発見したので、速かに各方面への連絡および消火活動に着手した。

5、警察による調査によれば、本件火災の原因は工場敷地内に隣接する従業員寮に居住していた原告の従業員の少年の一人が上司への恨みをはらすために、巡回の目をぬすんで同少年の仕事場であつた部品倉庫の道路寄の窓ガラスを破壊し、道路側から発火物を投げ込んで放火したことが判明した。

6、従つて、本件火災につき被告の過失はなく、むしろ原告従業員の放火という警備上予知および予防することが不可能な事由によつて発生したもの即ち被告の責に帰すべからざる事由によつて生じたものである。

また前記警備員の火災発見に少しの遅れもなく、その後の処置についても何らの過失もない。

三、(因果関係の不存在)

仮に前記俵警備員の処置につき何らかの非難すべき点があつたとしても、次に述べるようにそのことと本件火災による損害の発生との間には相当因果関係はない。

1、仮に俵警備員がたまたま巡回中に本件現場が「既に燃えている」のを発見するか、「放火行為を終えて逃避する少年」を発見できたとしても、本件倉庫、作業場の構造およびその内容収容物が極めて可燃性の高い、しかもいつたん燃え上がると手におえない段ボール箱、木箱、包み紙、わらござ、シンナー塗料、メタノール、プラスチック部品等であつて、その段階ではもはや火は加速度的に拡大しつつあつたから、同警備員がいかなる適切な処置をとつたとしても原告主張のような損害の発生を阻止できなかつたものである。

(被告の主張に対する原告の答弁)

一、被告の主張第一項は争う。

二、同第二項は争う。

三、同第三項は否認する。

第三、証拠関係〈略〉

理由

一原告は発電ランプおよび一般弱電機製品等の製造を業とする会社であり、被告は警備(ただし警備の性質については争がある)を業とする会社であることについては当事者間に争がない。

二〈証拠〉を総合すると、原告と被告とは昭和四五年一一月二七日左記内容による警備契約(以下本件警備契約という)を締結したことが認められ、右に反する証拠はない。

1、被告は原告に対し、警備計画書(後記第12項に記載の内容による)および現地責任者との協定事項に基き原告肩書住所地の原告本社および工場全域(以下本件警備対象物件という)の保安警備を実施することを約し、原告は被告にこれに対する報酬を支払うことを約する。

2、右警備計画書等は本契約を締結するにあたり被告が警備対象物件を調査のうえ作成して原告の同意をえる。

3、被告は警備日誌を作成し、これを原告に提出して警備状況を報告する。

4、被告は警備対象物件につき事故が発生し、またはそのおそれのあるときは遅滞なく原告に通知し、原告は直ちにこれに対する措置をこうじなければならない。

5、警備料は月額金一七万五〇〇〇円とし、原告は当月末までに一月分を前払いし、翌月から次月分を毎月末までに被告に支払う。

6、被告は次の場合には警備料の返還をなすことを要しない。

イ、警備対象物件に事故が発生した場合といえども被告が右第1項の警備計画記載の事項ならびに協定事項に違反しなかつた場合。

ロ、天災地変等の不可抗力により被告が警備を実施することが不可能となつた場合。

ハ、原告における同盟罷業等により被告が警備を実施することが不可能な場合。

7、警備対象物件に生じた事故による原告の損害については、被告はその損害が被告の責に帰すべき事由により生じたものについてのみ保険会社との保険契約により賠償の責に任ずる。

8、被告が本契約に基き警備を実施中に、被告の責に帰すべき事由により第三者(原告の従業員も含む)に与えた身体ならびに財産上の損害については原告が賠償の責に任ずるものとし、被告は原告に対しその保障として保険会社との保険契約により次項に定める範囲内の金額を支払う。

9、前項の場合において被告が原告に対して支払いまたは負担する損害賠償または保障の限度額は次のとおりとする。

イ、身体上の損害については被害者一名につき金五〇〇万円。但し一事故につき金一〇〇〇万円。

ロ、財産上の損害については右第7項および第8項の場合を合わせて一事故につき金三〇〇〇万円。

10、原告若しくは原告の従業員が右第7項、第8項の損害を蒙つたときは、原告はその事実を知つた日から七日以内に書面をもつて被告に通知しなければならない。

原告が右通知を怠つたときは被告は原告に対する保障の責を免れる。

11、本契約の有効期間は昭和四五年一二月一日から一ケ年とする。

但し期間満に際し両当事者間において別段の意思表示がないときは同一条件をもつて更に一ケ年自動的に更新されるものとし、以後もまた同様とする。

12、(警備計画書の記載内容の要旨)

イ、警備範囲は本件警備対象物件の工場および事務所の内部、外周およびそれらの敷地全域の点検とする。

ロ、警備の目的は原告の管理する建造物内における火災、盗難および建造物施設の損壊その他の各種不法行為を防止し、もつて原告の業務の円滑なる運営に寄与することとする。

ハ、右目的を達成するために被告の遂行すべき任務は次のとおりする。

a、(火災の防止)

○ 火災の発見と初期消火

○ 消火器、警報器、火災報知機、消火栓、その他各種防火施設の点検ならびに異常のある場合の処置

○ ガス、電気施設、危険物貯蔵所、その他発火源となる箇所の点検と異常のある場合の処置

○ 事務室等における火気の点検

○ その他防火上必要と認められる事項

b、(盗難の予防)

○ 施設箇所の点検と異常の有無の点検

○ 構内の検索

○ 不法侵入者の発見と排除

○ 潜伏者の発見と排除

○ 夜間における原告従業員および関係者の出入の管理

○ 不審者および巡回者の取締り

○ その他盗難防止上必要と認められる事項

c、(付帯業務)

○ 夜間における電話の受理と関係者への連絡

○ 施設内における遺失物、拾得物の取扱いと関係者への引渡

○鍵の授受保管

○ 警察、消防関係との連絡

○ その他原告と協議決定された事項

ニ、被告は右任務遂行にあたり原告に対し次の義務を負う。

a、善良なる管理者の注意をもつて誠実に職務を遂行し、原告の名誉を毀損しないこと。

b、服務中もしくはその他の方法により知り得た原告の機密を他に漏洩しないこと。

ホ、被告は次の要領により警備を行う。

a、常駐警備員、巡察隊、予備隊、統制指令室の総合運用により組織的警備を行う。

b、昭和四四年一二月一日から警備を実施する。

c、原告の休日は二四時間勤務、その他の日は一八時から八時までの勤務とし、休日を除き立会引継のうえ下番する。

d、警備方法は次のとおりとする。

○ 被告は常駐警備員を毎日一八時から八時までの間一ポストにつき一名を原告の定める場所(以下待機室という)に配置し、配置された警備員は工場敷地内周を巡回し、囲柵の異常の有無を点検するとともに、工場外周を巡回し各出入口の施錠状態を綿密に点検し、巡回、休憩および仮眠以外の時間は看視を兼ねて待機室に待機し、事務所の火災および警戒予防、外部の警戒、被告の統制指令室との電話連絡および記録作成にあたること。

○ 被告の本部巡察隊が警備対象地域を不定期に巡察し、警備員の指導監督、警備状況の監査および警備上の問題点の究明にあたるとともに警備を補強する。

○ 被告の統制室と現地警備員相互間は毎日警備担当時間中に随時電話連絡し異常の有無を確認し、異常を察知したときは警備本部より現地に急行する等必要な方法により事案の処理をする。

○ 火災その他緊急事態が発生した場合は次の要領により処置し被害を最少限にくいとめること。

○ 被告の警備員は現地において火災の消火、犯人の逮捕その他応急的処置をとる。

○ すみやかに原告指定の責任者に報告するとともに、その指示により警察および消防機関に連絡しその出動を要請する。

○ 被告の本部統制指令室は現場からの緊急報告に基きただちに予備隊を動員せしめ、事態の鎮圧処理にあたること。

○ その他現場の保存、重要物品の搬出等必要な処置をとること。

ヘ、被告はその規定するところに基く警備報告書を提出すること。

ト、被告の警備員の責任に基く事故について被告は身体賠償として一事故につき一〇〇〇万円、一名につき五〇〇万円、財物賠償として一事故につき三〇〇〇万円の限度で補償する。

チ、警備の実施にあたり検討すべき事項が生じた場合は原、被告相互に協議調整を図ること。

三〈証拠〉中に、「請負」、「保障」といつた用語を用いてあるので、本件警備契約が先ず民法典の規定する請負契約であるか否かを検討する。

本件警備契約は一定の報酬を支払うから有償契約である点は請負と同一性質を有するが、本件警備契約は一定の範囲の物件につき包括的かつ専属的に警備を実施し、それによつて一定期間火災や盗難等の事故の発生を防止することを終局的目的としている点、すなわち結果を発生せしめないことを目的としている点において、請負契約が所期の結果を生ぜしめるような仕事の完成を目的としていることを要する点において異るから、右用語が「請負」、「保障」を用いているのにかかわらず直ちに請負とは断定できない。

次に右契約の内容および証人福島英一郎の証言によると、契約期間中に火災や盗難等の事故が発生しなかつたとの結果は被告の警備の実施によつても生じるが、他方警備をしなくても偶発的、自然発生的にも生じるものと認められること、警備計画書により警備時間および警備に要する組織人員が限定され、警備方法についても具体的に協定されていることが認められていること、被告は警備対象物件について人的物的に不備があつてもせいぜい原告にそれを指摘すべき義務があるのにすぎず、自ら積極的にその対策を講ずる権限も義務もないものと認められること、警備対象物件に生じた事故による原告の損害について被告はその損害が被告の責に帰すべき事由により生じたものについてのみ保険会社との保険契約により賠償の責に任ずべきことおよび被告が警備計画書記載の事項および協定事項に違反しなかつた場合は事故が発生した場合でも報酬を受けうることを約していることが認められ、本件警備契約は契約書、警備計画書および協定事項に定められた方法を基準として被告に警備事務をしてもらう点で準委任と同一性質を有するが、本件警備契約が有償で事故の発生の防止を目的としている点で委任とも断定できない。

更に本件警備契約は、事故の発生を防止する警備事務である点において労務を供すること自体を目的とする雇傭とも異り、本件警備料は一ケ月金一七万五〇〇〇円であるが、これは単に一人の警備員についての費用ではなく、被告の統制室、予備員、交替要員等の人的設備一切についてのものであるから、通常の守衛の賃金と比較すべきものではないからそれをもつて本件警備契約を雇傭契約と解すべきではない。

従つて本件警備契約は民法典に規定する労務供給契約の典型である請負、委任、雇傭のいずれにも属しない無名契約である労務供給の有償契約であつて、有償契約の法理の下に解決すべきである。

されば、被告は本件警備契約につき原則として契約期間中原被告間で合意された契約書、警備計画書、協定事項等に定められた範囲を所定の人的物的設備および方法により善良なる管理者の注意義務をもつて警備を継続する義務があり、その義務を尽さなかつたことにより本件警備対象物件に火災や盗難等の事故が発生しまたは既に発生した損害が拡大した場合にのみ原告に対し損害賠償の義務を負うのであつて、所定の警備を尽してもなお損害を生じたり拡大した場合については特段の事情なき限り被告はその責任を問われることはないものと解すべきものであつて、事故が発生したり損害が拡大したことのみをもつて直ちに被告がその責任を問われることはないと解すべきである。

四被告は本件警備契約に基き昭和四六年六月二一日午後五時五〇分から翌二二日午前八時まで被告会社の雇傭した警備員俵直彦(以下俵警備員という)を原告会社に派遣して本件対象物の警備に従事させていたところ、同二二日午前五時ないし五時一〇分頃肩書地所在の原告会社本社工場内の倉庫から出火し、同倉庫およびその中にあつた材料部品その他在庫品、器材、備品等、それに接続する作業場を焼損したことについては当事者間に争がない。

五〈証拠〉によれば、右火災は原告の従業員であつて本件警備対象物件から道路を隔てて東隣にある原告の工員寮に起居し右倉庫を仕事場としていた少年が上司や仕事に対する不満を晴らすため昭和四六年六月二二日早朝に寮から抜け出して右倉庫の外周に張られた有刺鉄線の破れ目越しに同倉庫の外壁の地上約一、二メートル付近に位置するガラス窓を肘で打ち割り、所携のマッチで右窓の内側にたてかけてあつたわらむしろに点火し、それが倉庫内の包装用ダンボール等に燃え移るのを確認してから帰寮したために生じたものであることが認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

六〈証拠〉によると、俵警備員は昭和四六年六月二一日午後五時五〇分頃原告会社の守衛から事務を引き継ぎ、翌朝まで従前と同様七回の動哨巡回、二回の被告会社統制室に対する定時報告等の警備業務を行い、本件警備対象物件内の待機室において警備報告書を作成中に外部における破裂音を聞き、待機室外へ出て本件火災を発見し、消防署へ通報したが、通報時には既に他からの通報があつた直後であつたことが認められ、証人新川壱男の証言中右認定に反する部分は採用できずその他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

七ところで、〈証拠〉によれば第三者により本件火災が消防署に通報されたのは同年同月二二日午前五時一五分であることが認められ、〈証拠〉のうち時間に関する部分は右乙第五号証に照し不正確なものであつて採用することはできず、その他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

この事実に〈証拠〉を併せると、俵警備員が本件火災を発見したのは同日午前五時一五分直後であることが認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

右各事実に前記認定の俵警備員は破裂音を聞いて本件火災を発見した事実および〈証拠〉を総合すると本件火災の発生した前記倉庫の筋向いに居住する堀江正治は本件火災を発見した直後に付近の丸八工機株式会社へかけつけてそのサイレンを鳴らしたことおよびその時刻は少なくとも同日午前五時一五分を過ぎていたことが認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

また、〈証拠〉を総合すると、俵警備員の第七回目の動哨巡回は同日午前四時五〇分頃から敷地内の建造物を外から点検した後引き続き待機室横の入口から外へ出て道路側からの本件警備対象物件の点検および外燈の消燈を行いながらほぼ長方形の敷地の外壁に沿つて先ず北進し、続いて右折して約119.2メートル東進し、それから更に右折して約86.5メートル南進し、更に右折して西進した後更に右折して北進し前記待機室横の入口から待機室に戻つて巡回を終えたこと、本件放火をした前記少年は本件警備対象物件の東南に道路を隔ててある前記工員寮の正門を出て本件警備対象物件の敷地に沿つて北進した後敷地に沿つて左折して約二五メートル西進し、左側にあつた前記倉庫に放火した後更に西進し途中で農道に右折して北進し、更に右折して東進し、更に右折して南進して急いで寮に戻つたことが認められ、しかもその間俵警備員と少年とは相互に目撃しなかつたことが認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

従つて両者は相互に目撃できない位置関係にあつたこと、即ち俵警備員が最初の右折をして東進を始めてから次に二回の右折をして西進を始めるまでの間には少年が寮を出て放火をし農道へ右折するまでの状態はなかつたことが推認できる。

一方〈証拠〉によると、少年は放火をした後遠まわりをして寮に逃げ帰つてから約四分位たつてから前記丸八工機株式会社のサイレンを耳にしたことが認められ、右認定を覆すに足りる証拠はなく、右サイレンが鳴つたのは前記認定のとおり午前五時一五分を過ぎていたことが認められる。

右各事実を総合すると、俵警備員が西進を始めてから、その後の巡回を続けて待機室へ戻り警備報告書を作成中である同日午前五時一五分直後に本件火災を発見するまでの時間内に、少年が寮を抜け出して前記敷地に沿つて北進して約二五メートル西進した後に本件放火をし、倉庫内の段ボール等の可燃物に燃え移つたことを確認したうえ、前記認定のとおり遠まわりをして急いで帰寮したこと、即ち俵警備員が待機室の横の入口を出て敷地の外周を点検しながら最初の右折をした時点においては未だ少年が放火を終えて農道の方へ右折した後ではなかつたことが推認できる。

〈証拠〉によれば自転車で牛乳を配達中の鷲見さよ子が放火地点の北隣の小川文夫宅で工員寮の入口に立つている前記少年を目撃し、引き続き工員寮とその北隣の丸八工機株式会社との境付近でその少年とすれ違い、付近を一七、八軒配達した後に破裂音を聞いて本件火災に気付いたことが認められるが、右証拠中時間に関する部分は採用することができないのみならず、気付いた地点と火災発生地点との位置関係に照し気付いた時の火災の状態が前記午前五時一五分直後の段階とは断定できないので、必ずしも右認定の妨げとなるものではない。

従つて俵警備員が本件放火地点を通過する前に既に本件火災が発生していたものとは認められないのみならず、通過直前直後において放火しようとしもしくは放火し終えた少年を発見することができる状態にあつたものとは認められないから、俵警備員が巡回中に窓ガラスの点検を怠つたことも、本件火災を発見できたのにもかかわらず発見できなかつたことも認めることはできず、その他にそれを認めるに足りる証拠はない。

八前記認定したところによれば、本件放火地点は倉庫の道路側であること、放火時から発見時までが短時間であること、俵警備員は本件火災の発見時には巡回をおえて待機室において警備報告書を作成中であつたこと、前記乙第二号証の一および二によれば本件火災が発見された時には倉庫の道路側の窓から火が吹き出していたこと、検証の結果によれば待機室から右倉庫までの距離は約69.7メートルであるが、倉庫の南面と西面が見えるに過ぎないことを総合すると、俵警備員は待機室において本件放火行為および放火直後の状態を発見しうる位置関係にあつたとも、発見しうる位置にいるべき義務を欠いていたとも断定しえない。

九〈証拠〉によると、本件火災以前に放火と推測された火災およびその寸前の状態が各一回、盗難事件が二回あつたこと、本件放火地点付近の有刺鉄線の一部が破損していたことが認められるが、一方被告は原告に対し有刺鉄線が外部からの防犯対策には不十分であること、警備員の増員、防犯灯の増設等種々の防犯対策を要求していたことが認められ、前記認定のとおり本件警備契約においては被告は防犯上の物的人的設備を自ら充実すべき権限も義務もなく、原告の対策とあいまつてその完全を期することができることをも併せ考えると、被告において右有刺鉄線の不備を指摘する以上の行為をしなかつたからといつて被告の警備義務を尽さなかつたことにはならない。

一〇以上によれば、被告は前記認定による労務供給の有償契約である本件警備契約の警備義務を尽したと推認できる。この点に関する証人新川壱男の証言は採用できず、その他にそれを覆すに足りる証拠はない。

一一従つてその他の点について判断するまでもなく原告の請求は理由がないことになるからこれを失当なものとして棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(越川純吉 丸尾武良 草深重明)

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