大判例

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名古屋地方裁判所 昭和60年(ワ)4131号 判決

原告

甲花子

右法定代理人親権者父

甲良夫

同母

甲雪子

右訴訟代理人弁護士

小島高志

竹内平

長谷川一裕

被告

乙春男

被告

丙夏子

右両名訴訟代理人弁護士

藤井繁

主文

被告らは、原告に対し連帯して金五五万円及びこれに対する昭和六〇年四月二二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

原告のその余の請求を棄却する。

訴訟費用は、これを四分し、その一を被告らの負担とし、その余を原告の負担とする。

この判決は、第一項に限り仮に執行することができる。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告らは、原告に対し各自金二四七万円及びこれに対する昭和六〇年四月二二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

3  仮執行の宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  不法行為及び原告の受傷

訴外乙秋子(本件行為時小学六年生、以下「秋子」という。)は、昭和六〇年四月二二日、船頭場西公園において、当時小学一年生の原告が同年の友人と滑台で遊んでいるところに近付いて同滑台の下の穴に原告を連れ込み、原告が事の次第を理解できないのに乗じて、原告に棒を拾つて来るように命じて小枝を拾つてこさせ、原告が痛がつて泣くのにもかかわらず、その枝を原告の恥部に入れる暴行を加え、よつて、原告に膣炎の傷害を負わせた。

2  責任

加害者秋子は、右行為当時小学六年生で責任能力がない。

被告丙夏子(以下「被告夏子」という。)は、秋子の母親であり親権者であつて、その法定監督義務者である。

被告乙春男(以下「被告春男」という。)は、被告夏子と同居するうち秋子をもうけた実の父親であつて、秋子の出生以来、被告夏子及び秋子と同居し生計を共にして来ており、秋子を扶養し、しつけをするなど、社会的にも夫婦とその子として一体の生活を送つて来ている。

よつて、被告春男は、被告夏子と共同して秋子に関し監督義務を負ういわゆる代理監督義務者に当たる。

しかして、秋子は、以前から問題のある児童と目されており、かつて同様のいたずらをしたことがある。

右生活関係に照らし、被告春男は、秋子が幼い下級生にいたずらをするであろうことを予見しえたのであるから、平素から秋子に事の是非を教え他の子供に悪質ないたずらをすることのないようきつく言いきかせるなどして事故を未然に防止すべき指導監督義務を負うものというべきところ、被告春男はこの点に格別の配慮を払わず右義務を怠り、被告夏子の監督義務の懈怠とあいまつて本件事故が発生したものである。

したがつて、被告両名は、各自原告が受けた後記損害を賠償する法律上の責任がある。

3  損害

(一) 慰謝料金二〇〇万円

原告は、前記の傷害により、昭和六〇年七月一一日まで○○病院及び△△病院に通院治療を余儀なくされた。

原告は、同年八月五日ころまで毎日悪臭のあるおりものが続き、その治療のための通院や診察、投薬は小学一年生の原告にとつて余りに残酷なものであつた。

なお、この膣炎はカンジダ菌によるもので不妊の原因ともなるものである。

秋子の前記行為は、ときには取り返しのつかない結果をもたらすものであるし、小学六年生の女子とは思われぬほど常軌を逸した異常な行為で、いやがる原告の悲鳴を無視してなされた残忍で強引な行為であつて、性的知識や理解の不十分な幼い下級生を対象とした、それも手慣れた誠に悪質極まりないものといわなければならない。

本件暴行及び傷害の治療のため原告が受けた屈辱と苦しみは筆舌に尽くしがたく到底金銭に見積もり得ないものであるが、あえて見積もれば金二〇〇万円を下ることはない。

(二) 弁護士費用金四七万円

被告らにおいては、秋子がいたずらをした事実関係につき認めながらも、一切の陳謝を拒み、かえつて原告に恐喝を受けたなどといわれのないデマを流すので、原告はやむを得ず、原告代理人に本件訴訟追行を委任した。

日本弁護士連合会報酬基準によれば、弁護士費用は着手金、報酬各二三万五〇〇〇円となる。

4  結論

よつて、原告は、民法第七一四条に基づき被告らに対し、各自前記の損害合計金二四七万円及びこれに対する不法行為の日である昭和六〇年四月二二日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を支払うことを求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1項の事実関係は、原告主張の日時場所において、小学一年生であつた原告が同学年の友人と滑台で遊んでいたところ、小学六年生であつた秋子が、原告に対し、同滑台下の穴の中でたまたま同所付近に落ちていた小枝(太さは鉛筆の芯程度、長さは六ないし七センチメートル)を拾つていたずらに原告の下着を下げ、後方からお尻の真中あたりを突いたところ、小枝が半分位のとこれで折れたのでそのままいたずらをやめたというもので、その間原告が泣くことはなかつたというものである。右に反する原告の主張事実は否認する。

2  請求原因2項の事実中、秋子が小学六年生であつたこと、被告夏子と秋子の身分関係、右両名と被告春男との身分関係及び同人らの生活関係は認める。秋子の素行の点は否認する。

3  請求原因3項の事実中、原告が○○病院及び△△病院に通院したことは認めるが、膣炎の傷害を受けたとする点は否認する。仮に右傷害があつたとすれば、因果関係を否認する。

4  被告らは、親として社会の健全な家庭の親と同様のレベルにおいて秋子の指導監督に当たり、かつ、秋子もこれに服してきたもので、本件のごときことは、秋子の従来の行動からして予見し得べき行為ではなかつた。

第三  証拠〈省略〉

理由

一請求原因1項の事実中、当時小学六年生の秋子が、原告主張の日時場所で遊んでいた当時小学一年生の原告及びその友人と出会つたことは当事者間に争いがなく、〈証拠〉を総合すると次の事実を認めることができる。

1  その日秋子は自宅付近の友人方の飼犬と遊んでいたところ雨が降つてきたため本件滑台の穴(滑台を支えるコンクリートの構造物に通り抜けのできる円筒状の穴がうがたれている。)で雨宿りをしようとして滑台まできたところ、滑台上に原告が友人と二人でいることに気付いた。

2  このとき秋子は、原告らが自分をにらみつけているように見えたことと、平素同人らの兄ことに原告の友人の兄(小学六年生)から何かといじめられていたことから、この際その仕返しをしようと考え、二人に降りてくるように言つたところ、最初に原告が降りてきた。

3  そこで秋子は降りてきた原告を突ついてやろうと思い下を見るとそこに細い木の小枝が落ちていたのでこれを手にして原告と共に滑台下の穴に入つた。そしてそこに立つている原告の後ろに回り原告の下着を降ろし、腰を少しかがめた状態で後方から原告のお尻(股間)の真中あたりを突ついたところ小枝が折れてしまつた。秋子は小枝で突ついたときそれがあたつた具体的部位は分からなかつたが小枝が折れたのでこれを機にそれ以上の暴行をやめ、原告に友人を呼んでくれるように命じ、原告は下着を上げて友人を呼びにいつた。

〈証拠〉中右認定に反する部分は採用することができず、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

二次に、〈証拠〉を総合すると、原告は事件の翌日である昭和六〇年四月二三日に△×小児科で診察を受けたところ、局部に発赤とおり物が見られるということで専門医での診察を勧められ、右同日○○病院(丙田道雄医師)で診察を受け、外陰部に外傷は認められないと診断されたが、同月二五日の診察では膣入口部に発赤のあること、五月一日の診察では黄色の分泌物のあることが認められたこと、しかし、いずれも格別の治療を要しないということで特段の傷病名も付せられなかつたこと、そこで、同月四日△△病院へ転院し診察及び検査を受けたところ、同月二九日には膣炎と診断(丙田道雄医師)され、投薬等を受けた結果快方に向かい同年七月一一日で通院も終りほどなく全快するに至つたことが認められ、かつ、右の傷害は秋子の前記所為に基因するものと認める(他原因の存在を疑わしめる証拠はない。)ことができる。〈証拠〉中、右認定に反する部分は採用することができず、他に右認定を覆すに足りる的確な証拠はない。

三〈証拠〉によれば、秋子の生年月日は昭和四九年一月二八日と認められ、本件当時同人が小学六年生であつたことは当事者間に争いがないところ、右の事実と弁論の全趣旨によれば、秋子は本件当時その行為の責任を弁識するに足りる能力を有していなかつたものと認めるのが相当である。

しかして、被告夏子が秋子の実母であり親権者であること、被告春男が秋子の実父であり、被告夏子及び秋子と同居して同女の出生以来生計を共にし、秋子のしつけ、扶養にあたつていることは当事者間に争いがなく、〈証拠〉及び弁論の全趣旨によれば、被告らは事実上の夫婦として長年生活を共にしており、その間には秋子のほか昭和四七年一一月一二日生まれの冬子があり、いずれも父である被告春男の認知を得て昭和五四年一月二四日に父の氏を称する入籍を了し、同月二三日以降住民票上も同一世帯となつていること及び被告春男は右冬子とも出生以来親子として生活していることが認められる。

右事実によれば、被告夏子は親権者として、被告春男は実父であり、かつ、事実上秋子の監護養育に当たつている者であるから、条理に基づき監督義務者として、いずれも秋子の生活関係の全般にわたりこれを監督すべき義務を負うものといわなければならない。

しかるところ、本件全証拠によつても、被告らにおいてその監督義務を怠らなかつたと認めるに足りないから、被告両名は、連帯(不真正連帯)して秋子が原告に与えた損害を賠償すべき義務を負うものといわなければならない。

四そこで、損害について検討するに、前記一及び二で認定した事実によれば、秋子の所為により原告が相応の精神的損害を被つたものと認め得るところ、これに対する慰謝料の額は、本件の態様、傷害の部位程度、通院期間その他記録中にあらわれた諸般の事情を総合考慮すると、金五〇万円とするのが相当であり、また、原告が本件訴訟追行を原告代理人に委任したことは記録上明らかなところ、事案の内容及び認容額等を考慮すると弁護士費用のうち、金五万円をもつて本件と相当因果関係のある損害と認めるのが相当である。

五以上によれば、原告の本訴請求は、被告ら各自に対し右に認定した損害額合計金五五万円及びこれに対する不法行為の日である昭和六〇年四月二二日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余は失当であるからこれを棄却することとし、民事訴訟法第九二条本文、第九三条第一項本文、第八九条及び第一九六条第一項に従い、主文のように判決する。

(裁判官上野精)

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