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名古屋高等裁判所 平成9年(ネ)64号 判決

控訴人

森岡武司

右訴訟代理人弁護士

村田正人

石坂俊雄

福井正明

伊藤誠基

被控訴人

諏訪生産森林組合

右代表者清算人

稲葉道夫

右訴訟代理人弁護士

上山秀実

主文

一  原判決を取り消す。

二  被控訴人の平成五年五月三〇日及び同年六月五日開催の「第一号議案平成四年度事業報告書、貸借対照表、損益計算書、財産目録及び損失金処理案を承認する。第二号議案平成五年度事業計画を承認する。」旨の総会決議は存在しないことを確認する。

三  控訴人のその余の請求を棄却する。

四  訴訟費用は、第一、二審を通じこれを二分し、その一を控訴人の、その余を被控訴人の各負担とする。

事実

第一  当事者の求める裁判

一  控訴人

1  主位的控訴の趣旨

原判決を取り消す。

本件を津地方裁判所上野支部に差し戻す。

2  予備的控訴の趣旨

(一) 原判決を取り消す。

(二) 被控訴人の平成五年五月三〇日及び同年六月五日開催の「第一号議案平成四年度事業報告書、貸借対照表、損益計算書、財産目録及び損失金処理案を承認する。第二号議案平成五年度事業計画を承認する。」旨の総会決議は存在しないことを確認する。

(三) 被控訴人の平成六年五月二九日開催の第三四回通常総会における「第三号議案諏訪生産森林組合解散決議(組合財産をすべて地方自治法による認可を受ける予定の地縁団体の諏訪区に引き継ぐ旨の決議を含む。)」は無効であることを確認する。

二  被控訴人

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

第二  当事者の主張

一  原審判決手続の違法について

原判決は、判決原本に基づかないで判決を言い渡した違法がある。すなわち、原判決は平成八年一一月八日に言い渡されたにもかかわらず、裁判官から裁判所書記官への判決原本の交付は同年一二月二〇日であり、控訴人(原審原告)訴訟代理人に対する原判決正本の送達は同月二六日であることからそれは明らかである。

二  請求原因

1  被控訴人は、組合員の協同により森林の経営及びこれらに附帯する事業を行うことによって組合員の経済社会的地位の向上を図ることを目的として昭和三五年六月一七日に設立された。

控訴人は被控訴人の組合員である。控訴人の祖父森岡武一郎が被控訴人設立当時からの組合員であったが、控訴人は昭和四六年二月二八日右祖父を相続し被控訴人の組合員となった。

2  平成五年度の通常総会決議について

(一) 被控訴人は、平成五年五月三〇日開催の第三三回通常総会において、「第一号議案 平成四年度事業報告書・貸借対照表・損益計算書・財産目録及び損失金処理案を承認する。第二号議案 平成五年度事業計画を承認する。」との決議(以下、右内容の決議を「本件(一)決議」という。)をしたとして、平成五年六月一〇日ころ、その旨の総会終了届を三重県知事田川亮三に提出した。

(二) 被控訴人は、右総会終了届をしたことを認めながら、平成五年六月五日に第三三回通常総会を開催し、本件(一)決議をしたと主張する。

(三) しかし、被控訴人は、右(一)及び(二)の当該日に第三三回通常総会を開催した事実はないから、いずれにせよ本件(一)決議は存在しない。

3  平成六年度の通常総会決議について

(一) 被控訴人は、平成六年五月二九日に第三四回通常総会を開催し、被控訴人を解散する旨の決議(組合財産をすべて地方自治法よる認可を受ける予定の地縁団体である諏訪区に引き継ぐ旨の決議を含む。以下「本件(二)決議」という。)をした。

(二) しかし、本件(二)決議は、以下の事由から無効である。

(1) 被控訴人は、三重県上野市諏訪地区を組合の区域とし、組合員は二三二名であるところ、諏訪区外に転出した組合員二三名に第三四回通常総会の開催通知をしないまま平成六年五月二九日同総会を開催し、本件(二)決議をしたから、同決議は無効である。

(2) 被控訴人の解散決議は、税金逋脱のためにされた。すなわち、被控訴人は、所有する山林を東栄住宅株式会社(以下「訴外会社」という。)に売却しようとしたが、税金問題が浮上したため、右売却を中止したことにして、右山林をいったん設立予定の団体である諏訪区の所有名義に変更してから訴外会社に売却することを企図し、これを実行するために、被控訴人の解散決議と右山林の諏訪区への所有権移転を行ったものである。このような税金逃れのための解散決議は違法であり、公序良俗に反し無効である。

(3) 被控訴人は、所有する全財産を諏訪区に無償譲渡するために被控訴人の解散決議をした。そのため、出資をしていた組合員の権利が侵害されることになったが、解散決議に反対した控訴人の権利を侵害することは総会の決議によってもできないものであるから、右決議は無効である。

4  よって、控訴人は被控訴人に対し、被控訴人の平成五年五月三〇日及び同年六月五日開催の第三三回通常総会による本件(一)決議が存在しないこと並びに平成六年五月二九日開催の第三四回通常総会における本件(二)決議が無効であることの確認を求める。

三  本件(一)決議の不存在確認請求に対する本案前の答弁及びその認否

1  被控訴人の本案前の答弁

被控訴人は、森林組合法に準拠して設立された法人であるが、その実態は、三重県上野市諏訪地区のいわゆる区有林の管理運営のみを目的とする団体である。すなわち、被控訴人の所有する山林は、もともと諏訪地区の住民で構成された権利能力なき社団である「諏訪区」が所有していたもので、被控訴人は諏訪地区の住民を組合員として認可を受けた法人ではあるが、現実の出資者は「諏訪区」であり、被控訴人の組合員の地位は、実質的には、被控訴人の唯一の組合員である「諏訪区」の総有者の一員にすぎず、被控訴人の唯一の出資者である「諏訪区」において決定された意思は、株式会社における一人株主の意思と同様に、法的にも被控訴人の総会決議とみなすことができる。そして、「諏訪区」では、従来から慣行として総会の決議に代えて「諏訪区」の山林委員会(後に役員会と改称、「諏訪区」の七つの「小場」と呼ばれる小区域から選出される八名の代表者と区長及び副区長各一名、合計一〇名により構成)の決議及び「諏訪区」の組長会の承認が行われ、これを被控訴人の総会の決議とみなす処理がされてきたところ、「諏訪区」の区有林管理のため被控訴人を設立する際、全組合員が従前どおりに行うことを承認し、そのままこれが踏襲されてきたもので、平成五年六月五日の本件(一)決議も同様の方法で処理されたが、このような処理方法については被控訴人の組合員から異議が唱えられたことはなく、控訴も右処理方針を承認してきたのである。それにもかかわらず、今になって、本件(一)決議が不存在であると主張して訴訟を提起することは訴権の濫用であり、右訴えは不適法として却下されるべきである。

2  右1に対する控訴人の認否

争う。

四  請求原因に対する認否

1  請求原因1の事実は認める。

2  同2のうち、(一)及び(二)の事実は認め、(三)の主張は争う。

3(一)  同3のうち、(一)及び(二)(1)の事実は認め、(二)(2)及び(3)の事実は否認する。

(二)  被控訴人名義の不動産は、いずれも権利能力なき社団である「諏訪区」が従来から承継し、もしくは「諏訪区」の費用で取得したもので、「諏訪区」の総有財産であって、右財産に対して権利を有するのは諏訪地区に居住している住民だけである。したがって、被控訴人が諏訪地区外に転出した二三名の組合員に対し総会招集通知を出さなかったのは当然で決議無効の原因にはならない。

被控訴人が設立されたのは、従前の地方自治法の下では自治会(「諏訪区」)の法人化ができなかったため、これに代わる便法として森林組合法による法人化を試みたものであったところ、平成三年の地方自治法の改正により自治会の法人化が可能となったため、被控訴人を同法二六〇条の二第一項のいわゆる「地縁による団体」に改めるために本件(二)決議をしたものであって、税金逋脱のためにしたものではない。

五  抗弁(本件(一)決議につき)

1  本件(一)決議の存在

前記三1のとおり、被控訴人は、設立当初から全組合員の承認を受け、「諏訪区」の山林委員会の決議及び「諏訪区」の組長会の承認をもって被控訴人の総会決議とする扱いを長年の慣行としてきた。被控訴人は、右慣行に従い、平成五年六月五日、右山林委員会を開催して本件(一)決議をし、同年五月三〇日に総会を終了した旨の届出を三重県知事宛に同年六月一〇日行い、同決議について同月二五日「諏訪区」組長会の承認を得た。

2  裁判所の裁量棄却

仮に、右決議方法が法令、定款に違反しているとしても、前記1の方法は被控訴人の実態に即した慣行にしたがったもので、控訴人も従前右方法に異議を述べることはなかったこと、形式的にみても被控訴人の定款四二条には代理人によって組合員四名までの議決権行使が可能であると定めていることからみて違反の程度は軽微であること、本件(一)決議によって控訴人の権利や利益を侵害するものではないことの事情に照らすと、本件(一)決議に関する控訴人の請求は、裁判所の裁量により棄却されるべきである(森林組合法一〇〇条二項、六四条、商法二五一条)。

六  抗弁に対する認否

争う。

第三  証拠

証拠関係は、原審記録中の書証目録及び証人等目録並びに当審記載中の書証目録の記載を引用する。

理由

一  原審判決手続について

職権をもって判断するに、原審の判決言渡期日である平成八年一一月八日の第一九回口頭弁論調書には「裁判官判決原本に基づき主文を朗読判決言渡」との記載がされているが、他方、原判決原本には、裁判所書記官が同年一二月二〇日判決原本の交付を受けた旨の付記があり、また送達報告書の記載によると、原判決正本の送達は、被控訴人(原審被告)代理人に対しては同月二四日、控訴人(原審原告)代理人に対しては同月二六日されていることが明らかである。

ところで、判決の言渡しは判決原本に基づいて行わなければならず(民事訴訟法一八九条一項)、判決は言渡後遅滞なく裁判所書記官に交付し、裁判所書記官はそれに言渡し及び交付の日を付記することを要し(同法一九二条)、また口頭弁論の方式に関する規定の遵守は調書の記載によってのみ証することができる(同法一四七条)のであるが、前記のように、原審裁判官の裁判所書記官への判決原本の交付が口頭弁論調書記載の判決言渡しの日から四二日もの長期にわたり遅延したことが認められるところ、記録上その遅延につき、これを首肯すべき合理的な理由を見出すことができない。そうすると、前記口頭弁論調書の記載にかかわらず、結局原審裁判官は、判決原本に基づかずに判決言渡しをしたと認めるのほかなく、したがって原判決はその判決手続において民事訴訟法一八九条一項に反する違法があるので、同法三八七条により、その取消しを免れない。

ただし、本件においては、原審で審理が尽くされており、当審において判断するのに支障はないと認められるから、事件を原審に差し戻すまでの必要はないもの(最判昭和五八年三月三一日、判例タイムズ四九五号七五頁参照)と認める。

二  本件(一)決議の不存在確認請求について

1  請求原因1の事実は当事者間に争いがない。

2  証拠(甲第一ないし第三号証、第四号証の一、二、第五、第六号証、第七号証の一、二、第八号証の一ないし三、乙第二ないし第六号証、第一五、第一七、第一九、第二〇、第二一号証、原審証人福森龍一の証言)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。

(一)  被控訴人は、昭和三五年六月一七日三重県上野市諏訪地区の住民を構成員とする権利能力なき社団である「諏訪区」(自治会)が所有する山林等を管理するために設立されたものであり、右設立に伴い、「諏訪区」所有の山林について所有権移転を受け、かつ登記上も被控訴人名義となった。

(二)  被控訴人の所有不動産の管理及び通常業務の意思決定は、設立時から山林委員会に委ねられてきた。山林委員会は、諏訪地区の七つの「小場」と称される区域から選出された八名の山林委員及び「諏訪区」の区長及び副区長の合計一〇名で構成されている。

(三)  被控訴人の総会は、平成四年一一月二二日に臨時総会が開催されるまで、設立以降開催されたことはなく、総会の決議事項等は山林委員会の決定と諏訪区地区の合計二三組から選出される組長二三名からなる組長会の承認により処理され、その方法が事実上定着しており、被控訴人の組合員からもその処理方法について格別の異議が唱えられたことはなかった。控訴人も右につき従前異議を唱えたことはなく、右方法により、被控訴人総会が開催されたとして作成された総会議事録に署名したこともあった。

しかし、諏訪区内にゴルフ場建設の話が持ち上がって、その賛否両論が起こり(控訴人は反対)、そのため、被控訴人は平成四年一一月二二日に、被控訴人所有の山林等の一部をゴルフ場にする計画を有していた訴外会社に対し同土地を売却するための案件の可否を決議するため臨時総会を開いたことがあった。

(四)  被控訴人は、平成五年五月三〇日及び同年六月五日には第三三回通常総会を開催しておらず、したがって、本件(一)決議は行っていないが、同日(六月五日)従前と同様の方法により山林委員会を開催し、同委員会で議決をした結果に基づき、右五月三〇日の第三三回通常総会において本件(一)決議がされた旨の通常総会議事録を作成し、これを添付して、同年六月一〇日に三重県知事に対し、森林組合法施行細則二五条(甲第八号証の一の「規則」とある記載は誤記と認める。)による右組合総会終了届出書を提出した。なお、右議決は、「諏訪区」組長会が同月二五日に承認した。

3 ところで、出資組合である森林組合(被控訴人はこれに該る。)は、通常総会に、事業報告書、財産目録、貸借対照表、損益計算書及び剰余金処分案又は損失処理案を提出し、承認を求めなければならず(森林組合法一〇〇条二項、五六条一項、二項)、総会の決議が不存在のときは、その旨の確認訴訟を提起することができる(同法一〇〇条二項、六四条、商法二五二条)ところ、被控訴人は、控訴人の本件(一)決議の不存在確認請求の訴えは訴権の濫用に当たるから不適法であると主張する。しかし、前記のように、被控訴人は、前記森林組合法の規定に反し、長期間にわたって総会を開催していないところ、総会決議事項を含め組合の管理運営が「諏訪区」の山林委員会に委ねられ、組合員からも、控訴人からも従前右処理方法に異議を唱えなかったことが認められるが、そのことが、森林組合法に反し通常総会を開催しなかったことを正当とするものではなく、控訴人の右請求が訴権の濫用に当たると認めるのは相当ではないから、被控訴人の前記主張は失当である。また、被控訴人は、平成五年五月三〇日及び同年六月五日、手続形式上通常総会を開催していないこと及び同総会で本件(一)決議をしていないことは認めているものの、右通常総会に代わるものとして、「諏訪区」の山林委員会の決議及びそれに対する同組長会の承認があるから本件(一)決議は不存在ではないと主張していること、計算書類の承認は翌期以後にも関係を有すること(最判昭和五六年六月七日民集三七巻五号五一七頁)を併せ考えると、確認の利益も肯定されるというべきである。また、被控訴人は、森林組合法一〇〇条二項、六四条、商法二五一条により、本件(一)決議の不存在確認請求につき、裁判所による裁量棄却を求めるが、本件(一)決議が不存在である以上、右裁量棄却を求める被控訴人の右主張は失当である。

してみると、本件(一)決議は、決議されたとする被控訴人の平成五年五月三〇日及び同年六月五日の第三三回通常総会が開催されておらず、不存在であることは明らかである。

三  本件(二)決議の無効確認請求について

1  請求原因1のほか、3(一)の事実は当事者間に争いがない。

2  総会招集通知の一部欠如の主張について

(一)  請求原因3(二)(1)の事実は当事者間に争いがない。

(二)  生産森林組合の解散については、総組合員の半数以上が出席する総会において、出席者の議決権の三分の二以上の多数で可決することとされている(森林組合法一〇〇条二項、六三条)ところ、被控訴人の組合員が二三二名であり、うち諏訪地区外に転出した者は二三名で、同転出者に対しては第三四回通常総会の開催通知をしていないことは、前記のとおり当事者間に争いがなく、第三四回通常総会議事録(甲第二四号証の一)によれば、右第三四回通常総会に出席した組合員数は委任状による出席を含めて総組合員の半数以上である一六六名で、右決議は賛成一六二名、反対四名で議決されたことが認められる。

右のとおり、総会招集通知をしなかった組合員は、すべて被控訴人の地区外に転出した者で、その数は二三名であり、右全員が総会に出席し、右決議に反対の立場を採ったとしても解散決議に必要な要件を充たしていることを考慮すると、右二三名に対する総会招集通知の欠如は、被控訴人の定款三六条には違反するが、右違反は重大とはいえず、かつ決議に影響を及ぼさないと認められるから、無効原因にはならないというべきである。

3  解散目的の違法性、公序良俗違反の主張について

(一)  証拠(甲第四、第二四号証の各一、二、乙第二一、第二九号証、原審証人福森龍一の証言)及び弁論の全趣旨によれば、被控訴人の一部組合員から、平成六年ころ、平成三年の地方自治法二六〇条の二の改正により、いわゆる地縁団体の法人化が認められたことから、被控訴人の設立に至る前記経緯並びに「諏訪区」の山林委員会による被控訴人所有山林の管理実態に合わせるため、権利能力なき社団である「諏訪区」を地方自治法上の地縁団体として法人化し、右不動産の管理の一本化を図るために、右不動産を新設の諏訪区に所有権を戻すことが提案されたこと、被控訴人は平成六年五月二九日開催の第三四回通常総会で、被控訴人のすべての財産を地方自治法による認可を受ける予定の地縁団体である諏訪区に引き継ぐこととし、被控訴人を解散する旨の本件(二)決議をしたこと、諏訪区は平成六年七月二〇日、三重県上野市長により地方自治法二六〇条の二の地縁団体としての認可を受けたこと、被控訴人名義の不動産について、被控訴人から右地縁団体である諏訪区に所有権移転登記が経由されたこと、被控訴人は平成七年六月五日に清算結了した旨の登記を経由したことの各事実が認められる。

(二) 控訴人は、被控訴人が所有する山林を訴外会社に売却すると税金がかかるので、右税金をのがれるため、法人税法二条六号により公益法人とみなされる地縁団体諏訪区を設立してこれに右山林の所有権を移転し、被控訴人を解散したものであるから、本件(二)決議は違法ないし公序良俗に反し無効であると主張する。しかし、前記認定の被控訴人の設立の経緯、被控訴人が山林を所有するに至った経過に前記認定の事実を加えて判断するに、地縁団体諏訪区への所有権移転につき税金のことを念頭においた点は否定できないが、違法な税金逋脱があったということはできず、したがって本件(二)決議に控訴人主張の違法な点があるとはいえず、控訴人の右主張は失当である。

4  山林の無償譲渡に関する控訴人の主張について

(一)  被控訴人の第三四回通常総会において本件(二)決議がされたことは当事者間に争いがなく、証拠(甲第二四号証の一、二、原審における控訴人本人尋問の結果)及び弁論の全趣旨によれば、被控訴人から「諏訪区」への全財産の引き継ぎは無償譲渡であること、控訴人が右総会で本件(二)決議に反対したことが認められる。

(二) 前記認定の被控訴人の設立経緯、被控訴人が山林を所有する至った経過及び証拠(甲第一八号証、第一九、第二〇号証の各一、二、第二一号証、第二二号証の二、第二三号証、乙第一、第七号証)並びに弁論の全趣旨によれば、森林組合法及び被控訴人の定款には、被控訴人が一部もしくは全部の財産の無償譲渡をすることを禁ずる趣旨の定めはないこと、被控訴人の財産の殆どが「諏訪区」から無償で譲渡された財産であり、被控訴人から諏訪区への所有権移転は、無償譲渡と見ざるを得ないものの、その実質は、所有権移転登記の登記原因である「委任の終了」という面が強くあること、設立時における各組合員の出資は、各一口で金額は三〇〇円であり、控訴人の祖父森岡武一郎の出資も同様で、控訴人はその地位を承継したものであること(承継の事実は争いがない。)、右出資金は組合員個人が支出したものではなく、権利能力なき社団の「諏訪区」の財産から支出したものであることが窺われることなどの事実が認められ、右事実によれば、被控訴人の諏訪区に対し全財産を無償譲渡する旨の決議は違法とはいえず、その趣旨を含む本件(二)決議を無効と認めることはできない。

5  以上のとおりであるから、本件(二)決議の無効確認を求める控訴人の請求は理由がなく失当である。

四  よって、原判決は、判決手続の点において違法であるうえ、本件(一)決議の不存在確認請求を訴権の濫用であるとする判断についても相当ではないから、これを取り消し、控訴人の請求は主文第二項の限度で理由があるからこれを認容し、その余の請求は理由が失当であるからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法九六条、八九条、九二条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官渋川満 裁判官遠山和光 裁判官河野正実)

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