大判例

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名古屋高等裁判所 昭和25年(う)693号 判決

被告人

高山甲一こと

崔甲一

主文

本件控訴を棄却する。

当審における未決勾留日数中百日を本刑に算入する。

理由

弁護人佐藤正治の論旨第一点の一について。

(イ)  昭和二十四年十一月二十二日附原審公判調書の記載によれば、所論のように、検察官は被告人及び原審被告人金義雄の共犯にかかる窃盜事実及び右金に対する窃盜事実を証拠により証明する旨を明らかにした上、各証拠書類及び証拠物を一括してその取調の請求をしている事実を認めることができる。而して右のように別個の被告人につき別箇の事実を証明するには、所論のように、夫々の事実に対する証拠を箇別的に明示して、その関係を明らかにすることが望ましいけれども、記録上明らかなように本件のごとく、証明すべき事実は二つだけで極めて簡單であるから、之を証明すべき証拠書類及び証拠物を一括してその取調の請求をしても格別その間に紛淆を生ずることはなく、冒頭陳述と相まつて容易に之を識別しうるので、かような証拠の取調請求の仕方が所論のように法令に違反しているものとはいいえなく、又右公判調書の記載によれば、所論のように取調の請求のなされた証拠書類を証拠とすることについて被告人両名の同意を得た旨記載しあるも、どの被告人がどの証拠書類についてその同意をしたのかが一見明らかに書分けていない事実を認めることはできるが、右は各被告人に対しその関係のない証拠書類について迄之を証拠とすることに同意を求めたものと解することは無理で、当然その関係のある証拠書類について右の同意を求めたものと解し得、またかく解するのを妥当と認められ、仮にそうでないとしても少くとも被告人に関係のある証拠書類について之を証拠とすることについてその同意を得られなかつた証拠書類のないことが明らかであるから、結局この点にも所論のような法令の違反があるものとは認めることができなく、かようにして取調べられた証拠書類の中安田玉春、佐藤三造の提出した各始末書及び張田秀雄の検察官に対する各供述調書が所論のように被告人に対する有罪事実の認定資料に供せられていることは記録上明らかであるが、以上説示のように原判決がその採証上の法則を誤つた点を見出し得ないので、証拠の取調請求につき訴訟手続に法令の違反があつてその違反が判決に影響を及ぼすことが明らかであるとの論旨は之を採用しない。

(ロ)  次に弁護人の論旨第一点の(二)の点について案ずるに。

一件記録によれば本件は所論のように、当初窃盜罪として起訴せられ、その事実について審理を遂げ結審の後検察官の請求により再開をして訴因に賍物運搬の事実が予備的に追加せられた事実を認めることができる。而して論旨は原判決書を見れば被告人に対する賍物運搬被告事件について審理判決する旨がその冒頭に明らかにせられておつて、單に賍物運搬被告事件についてのみ審理したように記載してあり、右訴因の追加の事実をも該箇所において明からにしなければならないのに、之を明らかにしていないのは法令違反である旨述べているが、原判決の記載によれば、所論とやゝ異なり被告人に対する賍物運搬(旧罪名窃盜)被告事件について審理判決する旨が冒頭に明らかにせられており、論旨は右括孤内の記載を過つて見落していることが認められる。尤も原判決の右記載は訴因が窃盜の事実から賍物運搬の事実に変更せられた場合における書き方であり、前者に対し後者が予備的に追加せられた場合における表示方法としては、未だ不正確の譏を免れないのであつて、正確に言えば本件は、窃盜又は賍物運搬被告事件と表示すべきであろう。しかしながら刑事訴訟法第四十四条によれば裁判には理由を附しなければならなく、刑事訴訟法第三百三十五条によれば有罪の言渡をするには罪となるべき事実、証拠の標目及び法令の適用を示さなければならないのであるが、その外判決書の冒頭において訴因の追加、変更等の事実を明らかにすべき旨を命じた規定はなく、該事実は公判調書において之を明らかにすれば足るものというべく、ただ判決書の冒頭に之を記載するにあたつては右説示のように正確に之を表示するのに越したことはないが、その追加乃至変更前の件名のみを表示するも、又はその後の件名のみを表示するも、とりたてゝ之をとがめる程のことではないので之を捉えてもつて直ちに法令違反であるということはできないものと解する。

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