大判例

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名古屋高等裁判所 昭和29年(ラ)58号 決定

抗告人 村田正彦(仮名)

右訴訟代理人弁護士 加藤大謳

主文

本件抗告を棄却する。

理由

抗告人は原審判を取消し相当な裁判を求めた。

抗告の理由は原審判は抗告人が昭和二十九年○月○○日○○寺住職山○円○に就いて得度し、天台宗の僧侶となつたことを認めながら一方において肩書地にて○○商を営み居つて別に寺院に住するというわけでなく病弱にて信仰に生きる為め得度し、将来も只管精神修養に資し度いと断定し抗告人が僧侶となつて社会的に活動せんとするの事実を認めず申立を却下したが、原審は抗告人の一面の事実のみを見、より重大なる事実すなわち抗告人が現在いかなる修養を為し、又僧侶としての行事をなし居るか、又僧侶として階段を経つつ衆生済度の事業を為し居ることに付き何等審理を為さずして却下したるは違法である。と謂うにあり、疏明として戸籍抄本、副申書、登記簿抄本、証明書、○○寺の将来に対する本人の役割と証する書面(以上各一通)、度牒二通、写真二葉、印鑑証明一、封筒一、葉書三葉封書一通、水道使用料領収証書六葉を提出した。

然れども名は一見個人専属の権利のように見えこれが変改はしかく厳格に解すべきでないように考えられるかも知れないけれども、その実、名は権利義務の主体をなす人の名称として社会的に重大な意義を有し、その命名、変更には一定の規準に従うを要するものにして、戸籍法にこれが規定を設けているのであり、同法第百七条第二項所定の名の変更の正当な事由の認められるためには戸籍簿に登載せられている名と異なる所謂通名その他の名が既に久しく社会的に行われて一つの既成事実をなし社会的には後者の方が前者よりもより普遍的な意義をもち前者がその社会的意義を失い寧ろこれによるよりも後者による方が社会の利益に合致するに至つていることを要するものと解すべきところ今これを本件について見るに、抗告人の提出にかかる全疏明並に一件記録によれば抗告人が昭和二十九年○月○○日○○寺住職山○円○について得度し天台宗の僧侶となり法名「豊彰」を授与せられ右○○寺の法要その他行事にも折節従事し修業をなし居ることを認めることができるけれども抗告人が原審で「私は○店を営み居り病弱の為信仰生活に入りたるも僧職が本職と云ふ訳ではない」旨を述べて居る処に依れば抗告人の○○商としての社会的活動に於ては尚従前の「名」が重要な意義を有し右法名が爾後一年に満たない今日において抗告人の戸籍簿上の名「正彦」に代つて久しく世に普ねく行われ、「正彦」の名が社会的にその意義を失い、右法名を使用する方が社会の利益に合致する程度に至つている事実は到底これを認め難く、抗告人の本件名の変更の申立は失当として却下を免れず、右と同旨に出でたる原審判は相当で一件記録によるも右審判を取消さなければならないような瑕疵も認められないので本件抗告は理由のないものとして棄却すべく民事訴訟法第四百十四条、第三百八十四条第一項によつて主文のように決定する。

(裁判長裁判官 北野孝一 裁判官 伊藤淳吉 裁判官 小沢三朗)

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