大判例

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名古屋高等裁判所 昭和61年(う)407号 判決

主文

原判決を破棄する。

被告人を懲役三月に処する。

この裁判確定の日から一年間右刑の執行を猶予する。

原審における訴訟費用は被告人の負担とする。

理由

本件控訴の趣意は、弁護人野呂汎名義の控訴趣意書(なお、当審第一回公判期日における弁護人の釈明参照)に記載されているとおりであるから、ここにこれを引用する。

一  本件控訴申立の適否について

検察官は、本件控訴申立は原審弁護人野呂汎によってなされているところ、右弁護人野呂汎は原審における主任弁護人ではなく、かつ、右弁護人野呂汎が本件控訴申立につき裁判長等の許可および主任弁護人の同意を得た証拠もないから、本件控訴申立は刑事訴訟法三四条、刑事訴訟規則二五条二項本文に違反し、不適法であると主張するので、まずこの点について検討するに、本件控訴の申立が原審弁護人野呂汎によって昭和六一年一一月四日なされたこと、原審第二回公判期日において弁護人森下敦夫が主任弁護人に指定され、原審第六回公判期日に右主任弁護人が出頭しなかったため、弁護人野呂汎が副主任弁護人に指定されたが、原審第八回公判期日に右副主任弁護人の指定を取消されたことが記録上明らかであるところ、弁護人野呂汎が本件控訴の申立につき裁判長等の許可及び右主任弁護人の同意を得た証跡を見出し得ないことは、検察官指摘のとおりである。

しかしながら、主任弁護人制度の趣旨は、一人の被告人に数人の弁護人がある場合に、各弁護人の弁護活動に一定の制約を加えてこれを統制し、その訴訟行為の統一を期するとともに、裁判所の弁護人らに対する通知等を主任弁護人を通じてなすこととし、もって手続の迅速、確実化を図ることにあり、右制度の趣旨にかんがみると、主任弁護人以外の弁護人が弁護活動をなすにあたって、裁判長等の許可及び主任弁護人又は副主任弁護人の同意を要するのは、各弁護人の弁護活動に一定の制約を課してもなお訴訟行為の統一を図るべき必要性と利益がある場合に限られるものというべきところ、既に審理を終え、判決が言い渡された後の段階における訴訟行為である控訴申立については、現に審理が行われている公判期日等における申立等に比すると、あえて統一を図るべき必要性が乏しく、また統一を図ることによって得られる利益もとくに見出しがたい(ちなみに、原審判決言渡後に選任された弁護人も、被告人の弁護人として、被告人の上訴権を代理行使することができることは勿論であるから、「原審における弁護人」の上訴権行使のみの統一を図ることには、格別の意義はない。)ばかりでなく、原審弁護人の控訴申立を、主任弁護人の同意にかからしめることはともかく、原審裁判長等の許可にかからしめること自体極めて不合理であるうえ、刑事訴訟規則をみても、その二五条二項但書が、公判期日において証拠調が終った後にするいわゆる最終弁論については、これを例外として、主任弁護人以外の弁護人も裁判長等の許可及び主任弁護人又は副主任弁護人の同意を要しないものとし、更に同規則二三九条が、控訴趣意書は主任弁護人以外の弁護人もこれを差し出すことができるとしていることに照らして考察すると、控訴趣意書差出の前提となるとともに、弁護活動としては実質的には原審における最終弁論の延長線上にあるものといい得る控訴申立は、同規則二五条二項本文にいわゆる「申立」には含まれず、主任弁護人以外の原審における弁護人も、裁判長等の許可及び主任弁護人又は副主任弁護人の同意を要することなく、原審における弁護人としてこれをなすことができるものと解するのが相当である。そうとすると、原審における弁護人であることが明らかな野呂汎によってなされた本件控訴申立は適法であるというべきである。

二  控訴趣意書中、被告人の住居侵入の点に関する事実誤認もしくは法令適用の誤りをいう論旨について

所論は、要するに、被告人と原判示A子との間には原判決が認定判示するような対立不和はなく、被告人は実の娘であるA子の奔放な素行を気づかい、時に叱責したことがあったにすぎず、被告人がA子方居宅内に入ったのも、父娘関係の融和を目的としてA子方を訪問した際に、その居宅にA子が居住している気配がなく、A子の身に異変があったかもしれないとの強い不審を抱き、その安否を気づかって入ったものであって、正当な理由にもとづくものであるから、被告人の所為を住居侵入罪に問擬した原判決には、判決に影響を及ぼすことが明らかな事実の誤認もしくは法令適用の誤りがある、というのである。

所論にかんがみ、記録を調査して検討するに、原判決挙示の関係各証拠によると、原判決がその(弁護人の主張に対する判断)の項において詳細に認定説示するところは、全てこれを肯認することができ、右認定の事情、とくに、被告人がA子方居宅内に侵入するに至るまでの経緯と侵入の具体的態様に加えて、前掲関係各証拠を精査しても、所論のごとく、被告人がA子方居宅内の様子に強い不審を抱き、その身の安否を気づかったことを窺わせるに足りる具体的な事情は全く見出し得ないばかりか、却って、被告人が捜査官に対しては「A子らがドアーを開けず、返事をしなかったため、一層腹が立ち、ガラスを割って部屋に入ってやれと思って入った」旨供述していることをも併せ考えると、所論指摘の住居侵入の事由の点を含めて、原判決がその(罪となるべき事実)において認定判示する住居侵入の事実は、全てこれを優に肯認することができ、右認定事実に徴すると、被告人の所為が刑法一三〇条前段に該当することも明らかであるから(右認定判断に反し所論に沿う被告人の原審公判廷における供述は、前掲関係各証拠と対比して措信しがたく、他に右認定判断を左右するに足りる証拠はない。)、原判決には、所論のような事実の誤認は勿論のこと、法令適用の誤りもない。論旨は理由がない。

三  控訴趣意書中、器物損壊および傷害の点に関する事実誤認をいう論旨について

所論は、要するに、原判示A子方居宅は被告人が同女に買い与えたものと認識していたのであるから、被告人には他人の所有物を損壊することの認識は全くなく、また、被告人は原判示Bに積極的な暴行を加えておらず、証拠上も右Bが被告人の暴行により傷害を負ったものとは認めがたいのに、被告人の所為を器物損壊罪および傷害罪に問擬した原判決には、判決に影響を及ぼすことが明らかな事実の誤認がある、というのである。

所論にかんがみ、記録を調査して検討するに、原判決挙示の関係各証拠によると、原判示A子方居宅がA子の所有に属するとともに、被告人においても右居宅がA子の所有物であることを知悉したことが明らかであり、更に、原判示Bが原判示のとおりの被告人の暴行によってその判示するとおりの傷害を負ったことを優に肯認することができ、右認定に反し、所論に沿う被告人の原審公判廷における供述は、右関係各証拠と対比してたやすく措信しがたく、他に右認定を左右するに足りる証拠はないから、原判決には所論のような事実の誤認はない。この論旨もまた理由がない。

四  職権による判断

控訴趣意書中の量刑不当の論旨に対する判断に先立ち、職権をもって原判決を調査して検討するに、原判決は、(罪となるべき事実)として、被告人はA子「所有にかかるその玄関脇窓ガラス及び鉄格子を損壊した上、同所から同女方居宅台所内に故なく侵入し」た旨認定判示したうえ、その(法令の適用)の項において、「右の器物損壊と住居侵入とは一個の行為で二個の罪名に触れる場合であ」る旨説示し、被告人の原判示各所為を結局一罪として最も重い傷害罪の刑で処断しているところ、被告人は、原判決が正当に認定判示したとおり、先ず玄関脇窓ガラス及び鉄格子を損壊し、そのうえで右玄関脇の窓からA子方居宅内に侵入したものであって、右器物損壊の所為と住居侵入の所為とが一個の行為によってなされたものでないことが明らかであるから、右は刑法五四条一項前段所定の関係にはなく、同法四五条前段の併合罪であるものと解するのが相当であり、従って、原判決にはこの点において罪数の評価を誤った違法があるが、本件にあっては、右罪数評価の誤りは処断刑の範囲に差違をきたすことになるので、右違法は明らかに判決に影響を及ぼすものといわざるを得ない。

そうとすると、原判決には判決に影響を及ぼすことが明らかな法令適用の誤りがあるから、量刑不当の論旨に対する判断をまつまでもなく、原判決はこの点において破棄を免れない。

よって、刑事訴訟法三九七条一項、三八〇条に則り、原判決を破棄したうえ、同法四〇〇条但書により、当裁判所において更に判決する。

原判決の認定した(罪となるべき事実)に、法令を適用するに、被告人の原判示所為中、器物損壊の点は刑法二六一条、罰金等臨時措置法三条一項一号に、住居侵入の点は刑法一三〇条前段、罰金等臨時措置法三条一項一号に、傷害の点は刑法二〇四条、罰金等臨時措置法三条一項一号に、それぞれ該当するが、右の住居侵入と傷害との間には手段結果の関係があるので、刑法五四条一項後段、一〇条により一罪として重い傷害罪の刑で処断することとし、所定刑中いずれも懲役刑を選択し、以上の器物損壊罪と傷害罪とは同法四五条前段の併合罪であるから、同法四七条本文、一〇条により重い傷害罪の刑に同法四七条但書の制限内で法定の加重をした刑期の範囲内で被告人を懲役三月に処することとし、後記の情状を考慮して、同法二五条一項により、この裁判の確定した日から一年間右の刑の執行を猶予し、なお、原審における訴訟費用については、刑事訴訟法一八一条一項本文を適用して、これを被告人に負担させることとする。

(量刑の理由)

本件は、被告人がその実の娘の異性関係等を激怒して、同女方居宅内に窓ガラス等を損壊したうえ土足で乱入し、居合せた男性にまで暴行を加えて傷害を負わせたというものであって、その態様はいかにも粗暴かつ執ようであって、その犯情は芳しくないとともに、未だ被害弁償の措置すらも講じられていないこと等を考慮すると、その刑責は軽くなく、懲役刑を選択するのはやむを得ないところであるが、他面、本件は実の父娘間の財産関係をも含む根深い葛藤を背景とし、その不和対立の末に惹起されるに至ったものであって、本件に至るまでの経緯・事情をみると、必ずしも被告人のみを一方的に責めることができない点もなしとしないこと、被告人には傷害罪や風俗営業等取締法違反罪等によって多数回にわたって罰金刑に処せられた前科があるものの、未だ自由刑の言渡を受けたことがないうえ、昭和四七年以降はなんらの処罰も受けていないことや被告人の年齢等、酌むべき情状も認められるので、今回に限り、右刑の執行を相当期間猶予するのを相当と認め、主文のとおり量刑した次第である。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 吉田誠吾 裁判官 鈴木雄八郎 川原誠)

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