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名古屋高等裁判所 昭和62年(ネ)255号 判決

控訴人(附帯被控訴人) 国 ほか一名

代理人 吉田克己 直井勝美 ほか一名

被控訴人(附帯控訴人) 渡辺修 ほか一名

主文

1  控訴人(附帯被控訴人)国の控訴にもとづき、原判決中、控訴人(附帯被控訴人)国の敗訴部分を取消す。

被控訴人(附帯控訴人)らの控訴人(附帯被控訴人)国に対する請求を棄却する。

2  被控訴人(附帯控訴人)らの控訴人(附帯被控訴人)田端吉彦に対する附帯控訴にもとづき、原判決中、控訴人(附帯被控訴人)田端吉彦に関する部分を次のとおり変更する。

控訴人(附帯被控訴人)田端吉彦は被控訴人(附帯控訴人)らに対し、それぞれ金三六〇万一八七八円及びこれに対する昭和五八年九月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

3  控訴人(附帯被控訴人)田端吉彦の本件控訴、並びに被控訴人(附帯控訴人)らの控訴人(附帯被控訴人)国に対する附帯控訴をいずれも棄却する。

4  訴訟費用は、被控訴人(附帯控訴人)らと控訴人(附帯被控訴人)田端吉彦との間においては、控訴人(附帯被控訴人)田端吉彦に生じた費用の三分の一を被控訴人(附帯控訴人)らの負担とし、その余を各自の負担とし、被控訴人(附帯控訴人)らと控訴人(附帯被控訴人)国との間においては、全部被控訴人(附帯控訴人)らの負担とする。

5  この判決を被控訴人(附帯控訴人)ら勝訴の部分に限り、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  本件控訴について

(一)  控訴人(附帯被控訴人、以下控訴人という)ら

原判決中、控訴人ら敗訴部分を取消す。

被控訴人(附帯控訴人、以下被控訴人という)らの請求を棄却する。

訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの負担とする。

(二)  被控訴人ら

本件各控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人らの負担とする。

二  附帯控訴について

(一)  被控訴人ら

原判決を次のとおり変更する。

控訴人らは各自被控訴人らに対し、各金一〇〇〇万円及びこれらに対する昭和五八年九月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

訴訟費用は第一、二審とも控訴人らの負担とする。

仮執行宣言。

(二)  控訴人ら

本件各附帯控訴を棄却する。

附帯控訴費用は被控訴人らの負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  事故

亡渡辺卓也は、次の交通事故により死亡した。

(一)日時  昭和五六年八月一六日午後一〇時三〇分頃

(二)場所  豊田市岩滝町コンジ先道路上

(国定公園「鞍ヶ池公園」ドライブコース)

(三)加害車 普通乗用自動車(三河五七む第九二七八号)

右運転者 控訴人田端

(四)被害者右同乗者  亡卓也

(五)態様  加害車が側溝に落輪し、さらに道路外の山林側面に乗り上げた際、助手席に同乗中の被害者の頭部が電柱に強打された。

2  責任原因

(一)運転供用者責任

控訴人田端は、坂本隆一の保有する加害車に対する運行支配、運行利益を排除して自己のため運行の用に供していた。

(二)不法行為責任

控訴人田端は、無免許運転、安全運転義務違反という過失に基づく民法七〇九条の不法行為責任を負う。

(三)政府保障責任

控訴人田端は、加害車について自動車損害賠償保障法(以下、自賠法という)に基づく自動車損害賠償責任保険契約(いわゆる強制保険)を締結しておらず、控訴人国はてん補する責を負う。

3  損害

亡卓也は、右の事故により頭部を強打し、同月二〇日死亡したが、これによつて蒙つた損害額は次のとおりである。

(一)得べかりし利益の喪失 金二一三三万四七一九円

亡卓也は、当時中学二年生(満一四歳)であつたから、昭和六〇年賃金センサス第一巻第一表男子労働者学歴計一八歳の初任給にもとづき、生活費五割、ベースアツプ分として五パーセント加算として六七歳までの生涯の得べかりし利益を算定すると、

<(一四三、三〇〇×一二)+一三〇、〇〇〇円>×一・〇五×(一-〇・五)×(二五・五三五三-三・五六四三)=二一三三万四七一九円となる。

(二)葬儀費用 金一〇〇万円

(三)弁護士費用 金二〇〇万円

(四)慰藉料 金二一〇〇円

亡卓也の慰藉料金一七〇〇万円、一人息子を奪われた被控訴人らの慰藉料各金二〇〇万円を下らない。

被控訴人らは、亡卓也の両親で相続により亡卓也の右損害賠償請求権を相続分(各二分の一)に応じ承継取得した。

4  よつて被控訴人らは、控訴人らに対し、前記3(一)ないし(四)の合計額各金二二六六万七三五九円のうち自賠法に基づく責任限度額金二〇〇〇万円の範囲で各金一〇〇〇万円およびこれに対する訴状送達の日の翌日である昭和五八年九月一日から支払済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

(一)  請求原因事実1は認める。

(二)  同2の(一)及び(三)は認めるが、控訴人らの責任の存在は争う。

(三)  同3のうち、亡卓也の受傷、死亡の事実、亡同人と被控訴人らとの身分関係は認めるが、その余は争う。

三  控訴人国の主張

(一)  亡卓也は、加害車につき、運行利益、運行支配を有した共同運行供用者というべきであり、かつ、その支配は控訴人田端のそれに対し、間接的、潜在的、抽象的ではなかつたものである。即ち亡卓也は、控訴人田端が坂本隆一に加害車の貸与を強要していることを知りつつ、同控訴人と共に坂本に暴行を加え、そのあげく畏怖した坂本から控訴人田端が借り受けた同車を交替で運転練習したのみならず、控訴人田端が無免許であることを十分認識しつつ、その助手席に乗り込んだうえ、最も危険な「ハコ乗り」行為に及んだのであつて、これらのことを総合すれば、亡卓也による運行支配の程度態様は、控訴人田端とのそれとの比較においても、甲乙つけがたいものであつて、亡卓也は、控訴人田端に対しては、自賠法三条の「他人」であることを主張することは、許されないというべきである。

従つて、本件事故について、控訴人田端は、亡卓也に対し、自賠法三条による保有者の損害賠償責任を負わないものというべきであるから、右損害賠償責任の成立を前提に同法七二条に基づき控訴人国に対し、その損害の填補を求める被控訴人らの本訴請求は失当である。

(二)  自賠法七二条の趣旨は、保有者が明らかでなく損害賠償の請求ができない場合とか、加害者が無保険者で、かつ、賠償能力がない場合には、実際上被害者の救済が図られないことになるから、自動車損害賠償保障事業を所管する政府が、右被害者を救済し、右被害者の受けた損害を填補しようとするものである。従つて、右法条の趣旨からすれば、右保障請求権を行使しうる被害者は、あくまでも加害車両とは無関係な運行人あるいは他車の搭乗者など、いわば無事の第三者が被害者であつた場合を前提とするものである。本件は、右のような自賠法七二条の填補保障の目的を逸脱したものといわざるを得ないのであつて、右保障事業による保護の限界を超えるものである。

(三)  自賠法三条ないしこれを受けた同法七二条の被害者の保護範囲は、無原則的に拡大されてよいものではなく、クリーン・ハンドの原則ないし信義則による不文の限界が厳然として存在するものというべきである。亡卓也は加害車強奪の共犯者として、「ハコ乗り」という危険な方法で加害車に同乗していたものであり、かかる者が、そのことが原因となつて生じた被害の賠償を請求することは、明らかにクリーン・ハンドの原則に反するものである。

(四)  本件事故により亡卓也が死に至つた原因は、「ハコ乗り」をしていたことによるものであり、これは偏えに、亡卓也の故意または重大な過失による自招危難によるものであつて、控訴人国がその損害を填補すべき理由はない。

(五)  仮に、控訴人国に自賠法七二条一項の損害填補金支払義務が存するとしても、同条による請求権は同法条によつて新たに創設された公法上の保障請求権というべきであり、しかも、自賠法及び関係法令中に、その保障金の支払期日についてのみならず、更にそれを徒過した場合に損害金を付して支払う等の旨を定めた規定は何ら存しないから、同法条による填補金につき遅延損害金を請求することはできないというべきである。

四  控訴人田端の主張

(一)  控訴人田端が、加害車を測溝に落輪させ、無免許でしかも制限速度を越えて運転したとしても、同乗していた坂本隆一、山崎到は座席に乗つておりなんらの怪我もなかつたのであつて、亡卓也が電柱に頭部を強打したのは、同人が自分でいわゆる「ハコ乗り」をしたことに原因があり控訴人田端の運転が直接の原因ではない。

(二)  亡卓也が電柱に頭部を強打したのは同人の自殺行為ともいえる無謀な乗り方に原因があり、同人に重大な注意義務違反があつたことは明白である本件事故の原因は、亡卓也の自招行為によるものであつて、控訴人田端が負うべき賠償責任はない。仮に、そうでないとしても、損害額算定上亡卓也の過失は充分斟酌さるべきである。

(三)  「ハコ乗り」はハコ乗りをする者が、運転者の運転を利用することで、自動車の走行と互いに一体となつてハコ乗りの緊張感を満足させることができるのである。自動車が停止していたのでは、ハコ乗りの意味がないのであり、亡卓也が控訴人田端と共に共同運行供用者であることは明白である。そして、かかる亡卓也が自賠法三条の「他人」に該当しないとみるべきであることについては、控訴人国が主張するとおりであり、これを援用する。

五  被控訴人らの主張

(一)  本件事故現場における道路左側溝のコンクリート、路外の電柱、亡卓也の倒れていた地点等の諸状況、受傷、骨折の部位・態様等を綜合すると、亡卓也は、車両が電柱に激突する直前に、わずかに頭部が窓外に出ていて、このため頭部を電柱で強打して意識を失い、その後側溝に落輪左傾して走行する車両の窓から、頭部の重さに沿つてゆるやかに転落したとみるほかないのであつて、亡卓也がハコ乗りをしていなかつたことは明白とはいわなくてはならない。

(二)  「ガンを切られた」と思つた控訴人田端が、坂本を追尾してバイクを発進させたとき、亡卓也は電話ボツクスで電話をかけていた(従つて控訴人田端のバイク発進の理由を知るよしもない)。また、控訴人田端は坂本に暴行を加えているうち、車に乗りたくなつて、自ら坂本を排し、加害車を奪取したものである。このような状況において、亡卓也と控訴人田端の間に共謀はあり得ない。更に、車の運転が全くできなかつた亡卓也に、運行の共謀も考えられない。

(三)  仮に亡卓也が「ハコ乗り」をしていたとしても、亡卓也が自ら「ハコ乗り」を楽しむために、控訴人田端に命じて加害車を奪取させ、かつ、運行させた等という特段の事情がない限り、亡卓也に運行供用者性があるとは言えない。

仮に、亡卓也に運行供用者性が認められるとしても、殴つている最中に車に乗りたいと思い加害車を奪取し、ただ乗つてみたいという好奇心から自らハンドルを終始握つていた控訴人田端の運行供用者性と比較して、亡卓也のそれが直接的、顕在的、具体的なものとは到底言い難い。

(四)  前述したように、亡卓也は「ハコ乗り」をしていないのだから、かつ、加害車の奪取・運行に加担していないのであるから、亡卓也に過失はないはずである。同乗を拒否すればよかつたという指摘もあり得るが、亡卓也の置かれた立場(力関係)の下ではそれを要求するのは酷である。

仮に、好意同乗的な意味合いで過失が認定されるとしても、せめて一割程度と言うべきである。

仮に、亡卓也が「ハコ乗り」をしていたとしても、控訴人田端の無謀運転が本件事故の主因であり、亡卓也の過失が五割を超すことは不公平である。

(五)  控訴人国の、亡卓也の損害の填補は、政府の自賠保障事業の限界外にある旨の主張は争う。亡卓也は、控訴人田端の共犯者でもなく、ハコ乗りもしていないから、右主張はその前提を欠き失当である。また、自賠法七二条で救済される被害者は、法文上、解釈上、通行人或いは他車搭乗者に限定されてはいない。

(六)  控訴人国のクリーンハンド原則違反との主張は争う。

仮に、亡卓也に本件事故発生につき何等かの非難さるべき点があつても、それは公平の原則あるいは過失相殺の法理によつて調整をすべきである。

自賠法七二条の趣旨は、交通事故が多発する現代においてその犠牲者が、何等の保障も受けられないという事態をなくし、被害者の保護を図ることにある(自賠法一条)。明文規定が存しないのに、加害車の保有者及び運転者以外にも全く救済が与えられない者の存在を認めることは、制度の趣旨を没却するもので不当である。

(七)  控訴人国の、遅延損害金が発生しない旨の主張も争う。

被害者が全く関知することのない加害者側の事情によつて、自賠責保険へ請求する者と、保障事業へ請求する者との間に、看過することのできない不平等が発生する事は許されない。その財源が、いずれも集団としての自動車保有者の負担であることからすれば、右の不平等は一層強く不合理である。従つて、自賠法七二条の保障請求権についても、被害者が請求したときから遅滞に陥り、遅延損害金が生ずるものと解すべきである。

第三証拠関係 <略>

理由

一  自賠法上の責任について

(一)  <証拠略>を綜合すると、本件事故発生に至る経緯と事故時の状況につき、以下の事実が認められる。

(1)  昭和五六年八月一六日控訴人田端(当時満一六歳)亡卓也(当時満一四歳)、山崎到(当時満一七歳)は、日中から亡卓也宅や喫茶店、或いは矢作川などで遊びを共にして過していたが、夜に入つて、鞍ヶ池公園に遊びにゆくことになり、控訴人田端と山崎がそれぞれ単車を運転(亡卓也は田端運転車両に同乗)して同公園に至り、そのドライブコース入口付近に単車を停めて屯ろしていた。ところが、控訴人田端は偶偶、運転練習のため加害車を運転して同所を通りかかつた坂本隆一(当時二〇歳)を認め、運転免許を有しないのに、普通車の運転もできることからこれを借りて運転したくなり同人に対し、「ガンを付けた」と因縁をつけて借りようと企て、後部座席に亡卓也を同乗させて単車を発進させ追跡し、ドライブコース入口でUターンしようとしていた加害車に追いついて、控訴人田端において「ちよつと降りろ」と申し向けて坂本を同車から下車させ、「何でさつき見ていた」と因縁をつけたうえ、「車を貸せ」と要求したが、同人から拒否されたことから、控訴人田端、亡卓也らで坂本に対し殴り、または足蹴りにするなどの暴行を加えた。このため、坂本は言辞を弄して、一旦運転席に戻り、そのまま加害車を発進させて逃走しようとしたが、これを察知した控訴人田端が、突嗟に同車の窓枠に取付いて窓から体を入り込み、強引に停車させ、エンジンキーを奪い取つて「逃げるのか」と淒みつつ殴打、足蹴りの暴行を加えたうえ、追いついてきた亡卓也や山崎らと坂本を運転席から引きずり降ろし、更に、「うしろに乗れ」と命じて、これを三名で加害車後部座席に押込んで乗車させたのち、山崎がその左側(運転席後部)座席に、控訴人田端が運転席に、亡卓也が助手席にそれぞれ乗車して、控訴人田端の運転で発進した。しかし、間もなく道路左側に駐車場が見えたことから、ここに同車を入れて一同一旦下車し、控訴人田端、山崎、亡卓也はここで運転練習することを相談のうえ、右の順序で一人づつ乗車して駐車場内を一周し、運転練習を行つたが、右それぞれの運転練習の間、乗車しない他の二名は地上で坂本を挟むような恰好で、その袖を捉えて待機していた。

運転練習を終つて、再び同じ座席位置で全員乗車し、控訴人田端の運転でドライブコースに戻り、上り方向に更に走行し、ドライブコース頂上の駐車場に至つてUターンしたが、その際控訴人田端に対し運転交替を求める声も出たものの、同控訴人は下の方へ行つてから替るとしてこれを聞き入れず、そのまま同車を運転してカーブの多いドライブコースを時速約六〇ないし七〇キロメートルで下り始めた。ところが間もなく、亡卓也が同車助手席の窓から上半身を車外に出し、窓枠下部に腰を掛け、両手で窓枠上方内側の取手を掴んだ姿勢の所謂「ハコ乗り」を始めた。しかし、控訴人田端はこれを知りながら、キーキーとタイヤ音を軋ませてカーブを切り、前同様の運転を継続するうち、運転を誤つて進路左側脇の側溝に車両左側前・後輪を落輪させ、なお、そのまま四〇余メートルを暴走して停止した。その間ハコ乗りしていた亡卓也は、車両の落輪地点より約一九メートル前方の道路北側側溝の、山林側の端から約八〇センチメートル路外に入つた地点にある木製電柱に、頭部を強打して車外に転落した。

(2)  転落後の亡卓也には、左顔面に長さ三センチメートルの筋層に達する裂傷と右顔面の腫張等、右膝関節部擦過傷の他は外傷は見られなかつたものの、X線撮影、CTスキヤンにより左・右側頭骨骨折、左側頭部出血がみられた。

(3)  本件事故発生のドライブコースは、歩車道の区別のない平坦なアスフアルト舗装の幅員六・四メートルの道路で、その両側に幅、深さとも約三〇センチメートルの側溝が設置され、加害車の進行方向(南から東)にそつて右急カーブになつている。当時路面は乾燥し、交通は閑散で、夜間ではあるが街路燈でやや明るかつた。前記落輪地点から車両停止地点まで、前記側溝の道路側コンクリートに削れてできた新らしい擦過痕がみられると共に、前記電柱の手前一・六メートルのところから約一・三メートルに亘つて、側溝山側のコンクリートにも割れと、その上部に黒色ゴム様物質の付着が認められ、また、電柱の道路側、地上高五〇センチメートルより九〇センチメートルにかけての部分には、木が削れてできた擦過痕があり、その表面に加害車と同一色の塗料が付着していた。一方、加害車両は、助手席上部に設置されている手すりが下方に曲損しており、車体の左後部フエンダーに凹損、後部バンバー左側に曲損がみられた。

<証拠略>中、右認定に反する部分は、前掲各証拠と対比してたやすく措信できない。なお、被控訴人らは、亡卓也は事故時わずかに頭部が車外に出ていて、これが電柱に衝突して車外転落したものとみるべきで、ハコ乗りしていたものではない旨主張するが、道路左側溝端から電柱まで約八〇センチメートルの間隔があること、加害車は左側溝に落輪して走行していたこと、尤も、電柱の手前一・六メートルの地点から約一・三メートルに亘つては、加害車の左側車輪が、側溝の外側端に乗つて走行していることが窺われるが、車体はその左側後部のみが電柱の道路側の面と接触、擦過しているに過ぎないものと推認されること、頭部が窓外に出ている程度では、これが電柱に衝突しても、被控訴人ら主張のような車外転落に至るとは容易に考え難いこと、他方、本件証拠上亡卓也がハコ乗りをしていなかつたことを決定付けるに足る根本的、客観的資料もないことなどに鑑みると、被控訴人らの右主張は採用することができない。

(二)  以上認定の事実に照らすと、亡卓也と控訴人田端及び山崎は、事故当日の日中から行を共にして遊び過してきたのち、夜も遅い時間になつてから、単車を連ねて交通量も少ない鞍ヶ池公園に遊びに来たもので、一七歳の山崎を年長に年令差があり、また、もともと、ことに発端となる行動を起したのは控訴人田端であつたとしても、同控訴人が坂本に対して「車を貸せ」と求めて拒否されるや、亡卓也は控訴人田端と共に坂本に暴行を加え、一旦逃げかかつた坂本が控訴人田端に追跡捕捉されるや、直ちにこれを追つて坂本からの車両奪取に加わり、同人から加害車の運行支配を奪つたのちも、同車助手席に乗込んで走行し、駐車場においては、他の二名に伍して単身運転練習を試みると共に、他の者が運転練習中は、坂本の傍らに在つてこれを監視していたものとみられ、再び助手席に乗り込んで走行しドライブコース頂上でUターンしたのちは、カーブの多い下り坂を控訴人田端がタイヤを軋ませながらハンドルを切つて高速で疾走するのに拘らず、自らハコ乗りの挙に出たというのであつて、これらを通じて観察すれば亡卓也は控訴人田端が偶然通りかかつた坂本に因縁をつけたのを見て、同控訴人が加害車を奪い乗り廻そうとしている意図を直ちに了解し、これに加わり、控訴人田端らと相共同して、坂本からその車両(運行支配)を奪取したものであり、その奪取の目的(運行利益)は、単なる走行自体、即ち車の運転練習であり、乗り廻しであり、また、それらを通じて相共に車のスリルとスピードを楽しむことにあつたものとみることができ、その行動において、控訴人田端が幾分主導的であつたとはいい得るとしても、亡卓也の行動が、控訴人田端から強制されたやむないものであつたとか、専ら従属的なものであつたとかいうことは到底できない。従つて、亡卓也と控訴人田端とは相共に運行支配を保持し、相共に運行利益を有する共同運行供用者に当るものと解するのが相当である。のみならず、亡卓也は、ドライブコースの頂上からの帰途、控訴人田端がタイヤを軋ませながら高速でカーブを走り下りる一種の暴走行為に出るや、早速これに乗じて、極めて危険ではあるが、それだけに最高のスリル感、刹那感、将又冒険的満足感を味わい得るハコ乗りという行為に出て、加害車を乗り廻わし、そのスリルとスピードを味わうという目的の点においては、他の二人に比し格別で、かつ、亡卓也にのみ固有な特別な満足(利益)を得た訳であり、しかも、その満足の獲得は、運転者のこれを保持するに足るような運転によつて確保されるものであつて、ハコ乗りをする者からすれば、運転者によるこのような運転は、ハコ乗りによる満足(利益)に奉仕するものとしても捉え得るものであるから、さすれば、亡卓也の運行供用者としての地位は、控訴人田端に比して、少なくともより間接的、潜在的、抽象的とはいい得ないものというべきである。そして、かかる運行供用者は、他の共同運行供用者との関係において、自賠法三条にいう「他人」、或いは同法七二条一項にいう「被害者」であることを主張することが許されないものと解するのが相当である。結局、その余の点を判断するまでもなく、控訴人らは亡卓也に対し自賠法上の責任を負わないものといわねばならず、そうすると、この点に関する被控訴人らの本訴請求は失当として棄却を免れない。

二  控訴人田端の不法行為上の責任について

(一)  責任原因

本件事故発生につき、控訴人田端に、運転免許を有しない運転技能で運転し、安全運転義務(道路交通法七〇条参照)に反する過失があつたことについては、前記認定事実より明らかであり、同控訴人は、本件事故によつて亡卓也及び被控訴人らに生じた損害を賠償する責がある。控訴人田端は、亡卓也の死亡は、同人のハコ乗りという自招行為によるもので、控訴人田端の運転が原因でないから、同控訴人に責任はない旨主張するが、控訴人田端の前記過失にもとづく無謀な運転が、本件事故発生の原因をなしていることは前認定の事実に照らし明らかなところであるから、同控訴人の右主張は採用できない。

(二)  損害及び過失相殺

1  逸失利益

前認定のとおり、亡卓也は本件事故当時満一四歳(中学二年)であつた。一八歳から就労可能の六七歳まで稼動するものとして、その間の逸失利益を、男子労働者の平均賃金(昭和六〇年度賃金センサス第一巻第一表、産業計、企業規模計、学歴計、一八歳、「きまつて支給する現金給与額」―月額―金一四万三三〇〇円、「年間賞与その他特別給与額」金一三万円)にもとづき、生活費を五〇パーセントとし、年五分の割合による中間利息を控除して計算すると、その額は、金二〇三一万八七八〇円になる。

計算式 {(143,300円×12月)+130,000円}×0.5×(25.535-3.564)=20,318,780円(円未満切捨)

(2) 葬儀費用

亡卓也の年令に照らし、金七〇万円を相当と認める。

(3) 慰藉料

亡卓也につき金六〇〇万円、被控訴人らにつき各金三〇〇万円、計金一二〇〇万円を相当と認める。

(4) 被控訴人らは亡卓也の両親(当事者間に争いがない)であつて、相続人として亡同人の本件事故にもとづく損害賠償請求権を、各二分の一の相続分をもつて相続した。

(5) 尤も、本件事故の結果については、前認定のところに照らし、亡卓也が「ハコ乗り」という危険な乗車方法をとつていたことが最大の原因というべきであり、その過失を斟酌すると、亡卓也及び被控訴人らの損害額中その八を過失相殺するのが相当である。そうすると、前認定の損害額の過失相殺後の額は、被控訴人らそれぞれにつき、金三三〇万一八七八円となる。

(6) 弁護士費用

本件事案の内容、訴訟の経過、認容された損害額その他諸般の事情を勘案すると、弁護士費用は被控訴人らそれぞれにつき金三〇万円を認めるのが相当である。

(三)  以上によると、控訴人田端は、被控訴人らに対し、それぞれ金三六〇万一八七八円及びこれに対する不法行為後(弁護士費用については本訴提起後)である昭和五八年九月一日から支払済みまで、民法所定年五分の割合による遅延損害金を支払う義務があるというべきである。

三  よつて、控訴人国の控訴にもとづいて、原判決中同控訴人敗訴の部分を取消し、被控訴人らの同控訴人に対する請求を棄却することとし、控訴人田端の本件控訴については、理由がないからこれを棄却することとし、被控訴人らの附帯控訴にもとづいて、前記と異る原判決中控訴人田端に関する部分を右の趣旨に変更し、訴訟費用の負担につき民訴法九六条、八九条、九二条、九三条を、仮執行宣言につき同法一九六条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 黒木美朝 西岡宜兄 谷口伸夫)

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