大判例

20世紀の現憲法下の判例を掲載しています

名古屋高等裁判所金沢支部 平成4年(行コ)3号 判決

控訴人(原告) 株式会社 源

被控訴人(被告) 国

主文

一  本件控訴を棄却する。

二  控訴費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由

第一控訴人の求めた裁判

一  原判決中損失補償請求に関する部分を取り消す。

二  被控訴人は、控訴人に対し、三五五〇万六〇〇〇円及びこれに対する平成二年二月二〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。

四  仮執行宣言

第二事案の概要

当事者双方の事実上の主張は、次のとおり付加・訂正するほかは、原判決事実及び理由「第二事案の概要」中建物廃棄による損失補償に関する部分と同一(原判決二枚目裏五行目冒頭以下同五枚目表四行目末尾まで、同六枚目裏初行冒頭以下同七枚目表一〇行目末尾まで及び同八枚目表三行目冒頭以下同九枚目表三行目末尾まで。但し、同五枚目表二行目から三行目にかけて「九ないし一四」の次に「二九、」を加える。)であるから、これをここに引用する。

一  控訴人の主張

本件改築工事の目的である道路の高架化に伴って、のれん会館の営業継続が不能になったことを原因とする建物廃棄による損失は、土地収用そのものによる損失ではないけれども、当該事業に起因して生ずる事業損失として土地収用法六八条、七四条によって補償の対象とされるべきものである。

そして被収用者は、被収用者以外の者と異なり、右損失が不特定多数の利用者集団のもつ一般的公益すなわち反射的利益に止まらず、本件改築工事に起因するすべての損失に含まれるとして、その補償を受けるべき立場にあるのである。すなわち、控訴人のような被収用者は、土地を収用された者として土地収用法により保護された個人的利益を有し、事業損失の補償を受けることができる立場にある。なぜなら、仮に起業者が強制収用権を有しない民間人であれば、被収用者は本件のような改築工事の完成に伴ってその経営する事業が営業不能に陥るとして土地の売買を拒絶するか、又は営業不能に伴う損失の補償を受けて売買することができるが、本件の被控訴人のように強制収用権を有する起業者に対しては右売買を拒絶できないから、起業者と被収用者間の公平の見地から、その代替として営業不能による損失について補償請求ができる立場にあるというべきである。

二  控訴人の主張に対する被控訴人の認否ないし反論

争う。

事業損失であれば、即補償の対象となるものではないし、ましてや控訴人が主張する営業不能を原因とする建物廃棄による損失補償が補償の対象になるものではない。

理由

一  当裁判所も控訴人の本訴請求は理由がないものと判断するところ、その理由は次に付加する他は、原判決事実及び理由「第三争点に対する判断」中建物廃棄による損失補償に関する部分(原判決一三枚目表一〇行目冒頭以下同一七枚目裏六行目末尾まで。)記載と同一であるから、これをここに引用する。

二  控訴人は、被収用者は被収用者以外の者と異なり、本件改築工事に起因するすべての損失の補償を受けるべき立場にある、即ち、仮に起業者が強制収用権を有しない民間人であれば、被収用者は本件のような改築工事の完成に伴ってその経営する事業が営業不能に陥るとして土地の売買を拒絶するか、又は営業不能に伴う損失の補償を受けて売買することができるが、本件の被控訴人のように強制収用権を有する起業者に対しては右売買の拒絶はできないから、起業者と被収用者間の公平の見地から、その代替として営業不能による損失について補償請求ができるのであり、控訴人が本件収用によって失うのは反射的利益というべきものではないと主張する。

土地収用法における損失補償の根拠が右控訴人主張の起業者と被収用者との公平の理念に根ざすものであることは、当裁判所も認めるものである。

しかしながら、本件では控訴人の主張する本件のれん会館の廃業による損失が、右公平の見地から事業損失として補償の対象とすべきか否かが問題なのである。

先に認定した事業損失(原判示)とは、事業の施行予定、工事の施行過程又は工事完成後における施設の形態、構造、供用に起因して被収用者又は周辺住民が被る損失又は損害をいうものと解されるところ、沿道サービスを目的とする、のれん会館に食事や買物の目的で入って来る自動車が減少したのは、主として一般国道八号を西進する自動車が松島交差点の混雑を避けたり又は北陸自動車道に入る利便を考慮し、本件改築工事による高架道路を選択するようになった結果にほかならず、従ってその結果のれん会館が営業を廃止し、建物を廃棄せざるをえないようになったとしても、右は前記工事完成後における施設の形態、構造、供用に起因する損害ないしは損失と解することはできない。控訴人のこの点の主張は採用しない。

なお、控訴人は、憲法二九条一項、三項に照らせば、被収用者が起業者の事業により廃棄せざるをえなくなった建物の残存価値について補償しないで強制収用するのは、正当な補償をしたとはいえないと主張する。しかし、控訴人主張の建物廃棄による損失が損失補償の対象にならないことは前記のとおりであるから、本件が同条三項の要求する正当な補償をすべき場合でないことが明らかであり、控訴人の右主張も採用できない。

三  よって、控訴人の請求を棄却した原判決は相当であり、控訴人の本件控訴は理由がないから棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判官 笹本淳子 横田勝年 田中敦)

「大判例」は20世紀で日本国憲法下の裁判例のうち,公刊物に掲載されたものをまとめたインターネット判例集です。原則として公刊されたものをそのまま載せています。

憲法により判決は公開とされており,法曹および法律研究者に利用されているものです。その公共性と平等主義の観点から,送信防止措置または改変には一切応じませんのでご了承ください。

本サイトは報道(不特定かつ多数の者に対して客観的事実を事実として知らせること)を事業としており,掲載された全ての情報は報道等に活用することを目的としています。

©daihanrei.com