大判例

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名古屋高等裁判所金沢支部 昭和25年(う)486号 判決

被告人

柳沢慧璋

主文

本件控訴を棄却する。

当審に於て生じた訴訟費用は全部これを被告人の負担とする。

理由

弁護人普森友吉の控訴趣意第一点について。

原審裁判官が、第一回公判廷に於て、検察官の起訴状朗読直後証拠調に入るに先立ち、被告人に対し、所論の事項について、所論のような質問を行つたことは、原審第一回公判調書の記載によつて、これを肯認し得るところである。弁護人は、裁判官が、証拠調に入るに先立つて、被告人に対し斯様な尋問を行うことは、違法である旨主張するので案ずるに、所論被告人の前科に関する原審裁判官の質問は、本件起訴状記載の公訴事実が常習累犯窃盗の所為であることに鑑み、公訴事実の認否に関する釈明権の行使として、一応適法の措置であると認め得ないことはないけれども、原審裁判官の、所論其の余の事項に関する質問、すなわち、被告人に対し、旅行をした理由、家族、収入、財産、学歴等について行つた質問は、明かに刑事訴訟法第三百一条其の他の規定の趣旨に違背する不当違法の措置であることを肯定せざるを得ない。然しながらまた、飜つて考えて見ると、斯の如き訴訟手続に関する法令の違背が、果して判決に影響を及ぼすものであるか、どうかと言う問題は、違法の問題とは別個に、個々の事件について、具体的事情に即し、諸般の状況に照した上でこれを決定すべきであり、一般的抽象的にこれを決定することを得ないと思われるのである。そこで此の見地より、さらに本件を観察するに、叙上の違法と認められる質問の対象となつている事項は、事の性質より直ちに判断し得る如くいずれも原審認定の事実と直接関連のない事項に限られて居り、斯る尋問を為したことにより、原審裁判官の証拠調施行の範囲等に影響することがなかつたものであることは明白であつて、其の他記録によつて認め得る諸般の状況より判断すれば、原審裁判官の前記の尋問は、これによつて原審裁判官をして、本被告事件につき、予断を生ぜしめる虞のないものであつたことを肯認するに足るのみならず、また原審認定の事実は、原審公判廷に於ける被告人の供述全部を、証拠中より除外しても、原判決挙示の其の余の証拠によつて、なお優にこれを認定し得ることが明かであるから、前記訴訟手続に関する法令の違背は本件に於ては、判決に影響を及ぼしたものでないと認めることが出来る。してみれば、原審の訴訟手続に叙上法令の違反が、判決に影響を及ぼしたことを理由とする論旨はこれを採用するを得ない。

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