大判例

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名古屋高等裁判所金沢支部 昭和27年(ラ)29号 決定

抗告人 服部常太郎

右代理人弁護士 玉田勇作

相手方 服部さと

右代理人弁護士 上野利喜雄

主文

原命令を取消す。

相手方の強制執行停止の申立を却下する。

理由

本件抗告の要旨は(一)民事訴訟法第五百四十五条、第五百四十七条、第五百四十三条、第五百六十三条によれば請求異議の訴に於て強制執行を停止すべきことを命ずるは受訴裁判所又は執行裁判所の管轄に属するのであり、本件停止命令については受訴裁判所、執行裁判所共に金沢地方裁判所であるから原裁判所の為した本件命令は不適法である。(二)本件の本訴である請求異議の訴は抗告人外三名と相手方服部さととの間の昭和二十六年(家イ)第三五号遺産分割調停事件につき昭和二十六年四月十六日金沢家庭裁判所に於て成立した調停が相手方服部さとの意思表示に要素の錯誤があつて無効であると主張しこれを請求原因とするものであるが、右請求異議の提起される前既に右と同一理由により調停の無効なることの確認を求める訴が金沢地方裁判所へ相手方服部さとより提起されており、目下控訴審として当庁に繋属中であるから本件の本訴である請求異議の訴は、民事訴訟法第二百三十一条の二重訴提起禁止の規定により却下さるべきものである。(三)本件停止命令の申立は事実上の点につき何等の疎明なきものであり、本件停止命令は民事訴訟法第五百四十七条第二項に反するから取消さるべきものであると謂うのである。

本件記録に徴するに金沢家庭裁判所に於て昭和二十六年四月十六日服部さとと服部常太郎、服部貞夫、戸村かつ、村田トミとの間の同庁昭和二十六年(家イ)第三五号遺産分割調停事件について調停成立し、右調停調書による強制執行につき服部さとが服部常太郎を被告として昭和二十七年十一月十四日金沢家庭裁判所に本件請求異議の訴を提起し、同月本件強制執行停止命令の申立を為し原裁判所は之れを許容したことが認められる。よつて抗告理由(一)の点について考えるに民事訴訟法第五百四十五条及び第五百四十七条の受訴裁判所とは本件請求異議の訴に於ては執行名義たる調停調書の作成せられた金沢家庭裁判所なりと解するを相当とするから右主張は理由がない。次に(二)の点について案ずるに、本件請求異議の訴が二重訴の提起に該当すると否とに拘らず、その訴が提起され受訴裁判所に繋属する以上受訴裁判所たる原裁判所は民事訴訟法第五百四十七条第二項の裁判を為し得るものと解すべきであるから抗告人の主張は理由がない。次に(三)の点について考えるに、記録に徴すれば相手方は本件調停は服部さとの意思表示の要素に錯誤があつたから無効である。仮に錯誤がないとしても服部さとは服部常太郎を永年養育して来た継母であり且つ老齢であつて服部常太郎は服部さとを扶養すべき義務があるに拘らず、その扶養義務を除外して、服部さとが相続により当然その所有権の三分の一を取得した本件不動産の明渡をなさしめるが如き調停は公序良俗に反する無効のものであるから該調停調書による請求に異議があると、主張するのであるが、本件調停が相手方服部さとの意思表示の要素に錯誤があつたとの点については抗告人提出の野村藤吉作成の上申書と題する書面は措信し難く、他に何等の疎明なく却つて当審に於ける被審人塚田助六、神戸良吉の供述によれば抗告人の本件調停に於ける意思表示には何等錯誤が無かつたことが認められる。而して本件調停条項第三項には、当事者双方は本件に関して爾今名義の如何を問わず財産上の請求を一切しないものとする、とあるが、右条項は法律上の扶養の義務を排除するものでないと解すべきであるから本件調停が公序良俗に反すると謂う主張は当らない。結局本件強制執行停止命令の申立は事実上の点について疎明無きに帰するから此の点の論旨は理由があり、原命令は不適法として取消すべく強制執行停止命令の申立は却下すべきものである。よつて主文のとおり決定する。

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